説明

巻線用線材のバックテンション付与装置及びそのバックテンション付与方法

【課題】比較的径の大きないわゆる太線に比較的大きなバックテンションを付与する。
【解決手段】バックテンション付与装置は、線材11を巻線機12に向けて繰出す線材繰出し機構26と、線材繰出し機構26から繰出された線材が掛け回されたガイドプーリ41と、線材にバックテンションを付与する方向にガイドプーリを付勢してガイドプーリの位置に応じたバックテンションを線材に付与する弾性部材42と、ガイドプーリの位置が所定の位置となるように線材繰出し機構26による線材の繰出しを制御する繰出し制御手段43とを備える。バックテンションが付与されて巻線機12に向かう線材を巻回可能なドラム46が設けられ、ドラム46は巻回された線材が滑って巻線機12に向かうように回転不能に設けられる。線材繰出し機構26は、線材を挟んで回転することにより線材を繰出し可能に構成された一対のローラ又は無限軌道27,28を備えることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線機において巻回される線材であって、比較的断面の径が大きな線材に所定のテンションを加える巻線用線材のバックテンション付与装置及びそのバックテンション付与方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
巻線機に連結して設けられ、その巻線機において巻回される線材に所定のテンションを付与するテンション制御装置としては、従来から電磁ブレーキを用いて線材にテンションを付与するものが提案されている。このテンション制御装置において、線材源からの線材は、線材ガイドを介して導かれ、テンション付与用のプーリに巻回された後、ガイドプーリを介して、テンションバー先端のガイドプーリに案内され、その後巻線機に繰出される。テンションバーは、支点を中心に回動可能となっており、支点に取り付けられたDCモータへのトルク指令によりテンション値が設定され、線材のテンションの一時的変動(線材の繰出し量と巻き取り量のアンバランス)はこのテンションバーの回動により吸収するように構成される。この場合、テンションバーの回動角度はポテンショメータによりフィードバックされ、電磁ブレーキによりテンション付与用のプーリの回転を停止又は許容し、そのプーリのブレーキ力により、テンションバーの角度が初期位置に戻るようになっている。
【0003】
しかし、このような従来の電磁ブレーキ式のテンション制御装置では、巻始めや巻終り時のプーリの加減速時に、線材にプーリの慣性力によって過大な慣性負荷が作用し、線材が時として断線してしまう問題がある。特に、径の小さい線材を巻回する場合に、断線が比較的多く発生する傾向にある。
【0004】
そこで、本出願人は、径の小さい線材を巻回する場合にも、断線を防止することができる繰出し式のテンション制御装置を提案した(例えば、特許文献1参照。)。この繰出し式のテンション制御装置は、従来のようにプーリの回転を電磁ブレーキにより停止させるのではなく、テンションバーの先端に設けられて線材が掛け回されたガイドプーリの位置が所定の位置となるようにテンション付与用のプーリの回転を制御して線材の繰出し量を調整制御するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−128433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、線材の繰出しを制御することにより比較的径の小さい線材を巻回する場合におけるその線材の断線等を抑制することはできるけれども、逆に、例えば、断面の直径が2mmを越えるような比較的径の大きな線材にテンションを付与することが困難になる不具合があった。
【0007】
即ち、比較的径の大きないわゆる太線を巻線機によって巻線をする場合には、例えば、10kgを越えるような比較的大きなバックテンションを付与することが要求される。一方、線材が掛け回されたテンション付与用のプーリの回転を制御しても、10kgを越えるような比較的大きな力でそのプーリに掛け回された線材を引っ張ると、そのプーリが回転しない場合であっても、そのプーリに掛け回された線材がそのプーリの外周において滑って繰り出される事態を生じ、そのプーリの回転制御により付与されるバックテンションには限界があった。このように、単一のプーリに掛回された線材にそのプーリの回転を制限することにより付与するバックテンションにはある程度の制限があり、その制限を超えるようなバックテンションを単一のプーリにより付与するのは困難である。
【0008】
この点を解消してその制限を超えるような比較的大きなバックテンションを付与するためには、テンション付与用のプーリを複数設けて、それら複数のプーリに線材を順次掛け回し、それら複数の全てのプーリにおいてバックテンションを線材にそれぞれ付与させ、それらのバックテンションを順次加算させて比較的大きなバックテンションを線材に付与することが考えられる。
【0009】
しかし、例えば、断面の直径が2mmを越えるようないわゆる太線は湾曲させること自体が困難で、バックテンションを付与するためにその太線を複数のプーリに順次掛け回すことはその作業の困難性が予想されるとともに、このバックテンション付与装置が大型化する不具合もある。
【0010】
本発明の目的は、比較的径の大きないわゆる太線に比較的大きなバックテンションを容易に付与し得る巻線用線材のバックテンション付与装置及びそのバックテンション付与方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の巻線用線材のバックテンション付与装置は、線材を巻線機に向けて繰出す線材繰出し機構と、線材繰出し機構から繰出された線材が掛け回されたガイドプーリと、線材にバックテンションを付与する方向にガイドプーリを付勢してガイドプーリの位置に応じたバックテンションを線材に付与する弾性部材と、ガイドプーリの位置が所定の位置となるように線材繰出し機構による線材の繰出しを制御する繰出し制御手段とを備える。
【0012】
その特徴ある構成は、バックテンションが付与されて巻線機に向かう線材を巻回可能なドラムが設けられ、そのドラムは巻回された線材が滑って巻線機に向かうように回転不能に設けられたところにある。
【0013】
この場合、線材繰出し機構が、線材を挟んで回転することにより線材を繰出し可能に構成された一対のローラ又は無限軌道を備えることが好ましい。
【0014】
本発明の巻線用線材のバックテンション付与方法は、線材繰出し機構により巻線機に向けて繰出された線材をバックテンションを付与する方向に付勢されたガイドプーリに掛け回し、バックテンションが付与された線材を回転不能なドラムに巻回し、巻回された線材をドラムに滑らせて巻線機に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の巻線用線材のバックテンション付与装置及びその方法では、バックテンションを付与する方向に付勢されたガイドプーリに線材を掛け回すことにより、その線材にバックテンションを付与することができる。そして、そのバックテンションが付与された線材を回転不能なドラムに巻回し、巻回されたその線材をドラムに滑らせて巻線機に供給するので、オイラーのベルト理論から、ガイドプーリの位置に応じて線材に付与されたバックテンションをその線材が巻回されたドラムにより指数関数的に増加させることができ、比較的径の大きないわゆる太線に指数関数的に増加させた比較的大きなバックテンションを付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明実施形態のバックテンション付与装置を示す正面図である。
【図2】そのバックテンション付与装置の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1及び図2に示すように、本発明のバックテンション付与装置10は、線材11を巻線機12に向けて繰出す線材繰出し機構26と、その線材繰出し機構26から繰出された線材11が掛け回されたガイドプーリ41と、線材11にバックテンションを付与する方向にガイドプーリ41を付勢してガイドプーリ41の位置に応じたバックテンションを線材11に付与する弾性部材42とを備える。巻線機12は、巻軸13と、その巻軸13を回転させる巻線用モータ14(図2)を有し、巻軸13に嵌入されたボビン16を巻線用モータ14が回転させるように構成される。そして、この巻線機12は回転するボビン16に線材11を巻取るものであり、本発明のバックテンション付与装置10はこのような巻線機12に線材11を繰出すものとして用いられる。そして、この線材11としてはその断面形状が円形であればその直径は2mmを越え、その断面が方形であれば断面の全周が7mmを越えるようないわゆる太線が用いられる。ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が水平前後方向、Y軸が水平横方向、Z軸が垂直方向に延び、Y軸方向に線材11が繰出されるものとして本発明のバックテンション付与装置10について説明する。
【0019】
本発明のバックテンション付与装置10は、設置場所に設置される基台17を備え、基台17にはこの基台17を移動容易にするためのローラ17aと、設置場所に移動不能に固定する脚部材17bが設けられる。そして、この基台17は巻線機12に対してY軸方向にずれた位置に設置される。線材11は比較的大きなリール11aに巻回されてその基台17に対してY軸方向に更にずれて配置される。基台17にはこのリール11aをZ軸方向上側から覆う平板18が設けられ、この平板18には線材11が貫通可能な貫通孔18aが形成される。この平板18の貫通孔18aの近傍には台板19が立設され、この台板19には、貫通孔18aを貫通してZ軸方向に伸びる線材11をY軸方向の両側から挟んでその巻癖をとる複数の小ローラ19aと、その複数の小ローラ19aにより巻癖がとられた線材11を巻線機12に向けて転向させる比較的大径の第1転向プーリ19bが設けられる。
【0020】
基台17には鉛直板21がY軸方向に延びて設けられ、この鉛直板21に巻線機12に向けて線材11を繰出す線材繰出し機構26が設けられる。この鉛直板21には、第1転向プーリ19bにより転向された線材11を水平にして線材繰出し機構26に向ける第2転向プーリ22と、その第2転向プーリ22とともに線材繰出し機構26をY軸方向から挟みその線材繰出し機構26により繰出された線材11が掛け回される第3転向プーリ23が設けられる。この第1ないし第3転向プーリ19b,22,23は、いわゆる太線である線材11の掛け回しを容易にするために、比較的大きな径のものが使用される。
【0021】
線材繰出し機構26は、線材11を巻線機12に向けて繰出すものであって、この実施の形態における線材繰出し機構26は、線材11をZ軸方向の両側から挟んで回転することによりその線材11を繰出し可能に構成された一対の無限軌道27,28を備える。図1における下側の無限軌道27を説明すると、鉛直板21に下起動輪27aと下誘導輪27b及び複数の下転輪27cが設けられ、これらを囲むようにゴム製の下クローラ27dが設けられる。下起動輪27aと下誘導輪27bはY軸方向に所定の間隔を空けて設けられ、この下起動輪27aと下誘導輪27bの間に複数の下転輪27cがそこに掛け回される下クローラ27dを上方に挿通される線材11に押し付けるようにY軸方向に並んで設けられる。そして、鉛直板21には下起動輪27aを回転させる駆動用モータ29が設けられる。そして、下起動輪27aの回転により下クローラ27dは、それが描く無限軌道に沿って回転するように構成される。
【0022】
下側の無限軌道27の上方の鉛直板21にはZ軸方向に昇降可能な昇降板31が設けられ、この昇降板31に上側の無限軌道28が設けられる。上側の無限軌道28は、昇降板31に設けられた一対の上誘導輪28a,28bと、複数の上転輪28cと、これらを囲むように設けられたゴム製の上クローラ28dを備える。一対の上誘導輪28a,28bはY軸方向に所定の間隔を空けて設けられ、この一対の上誘導輪28a,28bの間に複数の上転輪28cがそこに掛け回される上クローラ28dを下方に存在する線材11に押し付けるようにY軸方向に並んで設けられる。そして、鉛直板21にはこの上側の無限軌道28が形成された昇降板31を昇降させるエアシリンダ32が設けられる。このエアシリンダ32のロッド32aに昇降板31が取付けられ、エアシリンダ32がそのロッド32aを突出すると昇降板31とともに上側の無限軌道28が下降し、下側の無限軌道27とともにその間に存在する線材11をZ軸方向の両側から挟むように構成される。そして、駆動用モータ29が駆動して下クローラ27dがそれが描く無限軌道に沿って回転すると、それとともに線材11を挟む上クローラ28dもそれが描く無限軌道に沿って回転可能に構成される。一方、エアシリンダ32がそのロッド32aを没入させると上側の無限軌道28は昇降板31とともに上昇し、下側の無限軌道27との間に空間を形成し、その間に線材11を容易に挿通できるように構成される。
【0023】
下側の無限軌道27の更に下側における鉛直板21にはレール36がY軸方向に延びて設けられ、このレール36にガイドプーリ41を回転可能に支持する支持台37がY軸方向に移動可能に設けられる。ガイドプーリ41は線材繰出し機構26から繰出された線材11が掛け回されるものであり、この実施の形態では、線材繰出し機構26を構成する一対の無限軌道27,28の間を通過して第3転向プーリ23により転向された線材11が掛け回されるものとして使用される。そして、鉛直板21にはこのガイドプーリ41を巻線機12から遠ざける方向に付勢する弾性部材42が設けられる。この実施に形態における弾性部材は一対のコイルスプリング42,42から成り、その一端が支持台37に取付けられ、その他端が巻線機12から離れる方向に離間して鉛直板21に取付けられる。この一対のコイルスプリング42,42はその支持台37を巻線機12から遠ざける方向に付勢するので、その支持台37に枢支されたガイドプーリ41のY軸方向における位置に応じたバックテンションを、そのガイドプーリ41に掛け回されて巻線機12に向かう線材11に付与することになる。
【0024】
また、本発明のバックテンション付与装置は、ガイドプーリ41の位置が所定の位置となるように線材繰出し機構26による線材11の繰出しを制御する繰出し制御手段43を備える。この制御手段43はガイドプーリ41のY軸方向における位置を検出する位置センサ44と、その位置センサ44の検出出力に基づいてた線材繰出し機構26における駆動用モータ29を制御するコントローラ45とを備える。コントローラ45におけるメモリ45aにはガイドプーリ41の位置に関する情報が記憶され、コントローラ45はそのメモリ45aに記憶された情報に基づいて、ガイドプーリ41が巻線機12に近づくと線材繰出し機構26による線材11の繰出し量を増加させ、ガイドプーリ41が巻線機12から遠ざかるとその線材11の繰出し量を減少させるように線材繰出し機構26における駆動用モータ29を制御し、これによりガイドプーリ41をレール36の略中央附近の所定の位置に存在させるように構成される。
【0025】
そして、ガイドプーリ41によりバックテンションが付与されて巻線機12に向かう線材11を巻回可能なドラム46が基台17に設けられる。このドラム46は、断面円形であってその外径に線材11が巻回される円筒部46aと、その円筒部46aの両側に設けられ円筒部46aより大径のフランジ部46bを有する。このドラム46は樹脂製であって、その円筒部46aの外周における動摩擦係数は0.2〜0.4であるものが用いられる。また、ドラム46の円筒部46aの外径は300〜400mmであることが、取り扱いを容易にする点で好ましい。そして、このドラム46はフランジ部46bにより円筒部46aに巻回された線材11がその円筒部46aの端部から外れないように構成され、このドラム46は、その円筒部46aに巻回された線材11が滑って巻線機12に向かうようにその基台17に回転不能に固定される。ここで、図中における符号47は、ドラム46を基台17に回転不能に固定する固定治具47を示す。
【0026】
次に、本発明の巻線用線材のバックテンション付与方法について説明する。
【0027】
本発明の巻線用線材のバックテンション付与方法は、線材繰出し機構26により巻線機12に向けて繰出された線材11をバックテンションを付与する方向に付勢されたガイドプーリ41に掛け回し、バックテンションが付与された線材11を回転不能なドラム46に巻回し、そのドラム46に巻回された線材11をドラム46に滑らせて巻線機12に供給することを特徴とする。
【0028】
前述したバックテンション付与装置10を用いる場合で説明すると、線材源であるリール11aからの線材11は、平板18の貫通孔18aを貫通した後に複数の小ローラ19aによりその巻癖がとられ、第1及び第2転向プーリ19b,22によりその方向が順次変更されて線材繰出し機構26に達する。線材繰出し機構26ではその線材11を一対の無限軌道27,28により挟み、一対の無限軌道27,28を構成してその線材11を実際に挟むそれぞれのクローラ27d,28dが回転することによりその線材11は繰出される。線材繰出し機構26により繰出された線材11は、第3転向プーリ23によって転向された後にガイドプーリ41に掛け回される。ガイドプーリ41に掛け回された線材11には、弾性部材42によりガイドプーリ41の位置に応じたバックテンションが付与され、その後ドラム46に巻回されて巻線機12に達する。
【0029】
そして、線材繰出し機構26における線材11の繰出し速度(繰出し量)は、巻軸13に設けられたボビン16への線材11巻き取り速度(巻き取り量)とバランスするようにその繰出し量が制御され、ガイドプーリ41がレール36の略中央に維持するように調整される。ガイドプーリ41は弾性部材42により巻線機12から遠ざかる方向に付勢されているので、線材11にはガイドプーリ41の位置に応じた弾性部材42における付勢力が作用し、この付勢力に基づく所定のテンションが線材11に付与される。そして、ガイドプーリ41の位置に応じたテンションが付与された線材11は、その後回転不能なドラム46に巻回され、そのドラム46に巻回された線材11をその線材11が実際に巻き付けられた円筒部46aに滑らせながら巻線機12に供給される。
【0030】
ここで、円筒表面にベルトが巻き付けられたベルトの保持力と駆動力の関係としてオイラーのベルト理論が知られている。このオイラーのベルト理論は、摩擦係数μの円筒表面にある角度θでベルトが巻き付いている時のベルト駆動力T0と他端を引っ張ってベルトが滑り始める力T1との関係は、T1/T0=exp(μθ)で表されるというものである。この式からすると、ベルトの接触角θに対してベルトが滑り始める力T1は指数関数的に増えていくことになり、例えば、摩擦係数μが0.3である場合にベルトを一巻きするとT1/T0=6.59になり、二巻きするとT1/T0=43.4になる。従って、本発明のように、その線材11をドラム46に巻き付けた後に巻線機12に供給すると、ガイドプーリ41の位置に応じて線材11に付与されたバックテンションをその線材11が巻回されたドラム46により指数関数的に増加させることができることになる。よって、本発明では、弾性部材42によりバックテンションを付与する為のガイドプーリ41が単一であっても、ドラム46に巻回された線材11を滑らせて巻線機12に供給することにより、線材11が比較的径の大きないわゆる太線であったとしても、その線材11に比較的大きなバックテンションを付与して、巻線機12に供給することができる。
【0031】
一方、比較的大きなバックテンションが付与された線材11を巻線機12において巻回する巻線作業において、巻軸13に装着されたボビン16への線材11巻き取り速度(巻き取り量)が変化すると、線材11にかかるバックテンションが変動する。そして、バックテンション変動があると、これに従ってガイドプーリ41が移動してY軸方向における位置が変化する。これにより、テンションの変動分は、ガイドプーリ41の位置の変化によって吸収され、線材11に付与されたバックテンションの著しい変動は防止される。
【0032】
この場合、ガイドプーリ41の移動は位置センサ44により検出され、制御手段43であるコントローラ45にフィードバックされる。このようなフィードバックを受けたコントローラ45は、ガイドプーリ41の位置がレール36の略中央に戻るように、駆動用モータ29の回転速度を制御し、線材繰出し機構26における線材11の繰出し速度を、巻軸13への巻き取り速度とバランスさせる。即ち、ガイドプーリ41が巻線機12に近づくと線材繰出し機構26による線材11の繰出し量を増加させ、ガイドプーリ41が巻線機12から遠ざかるとその線材11の繰出し量を減少させるように線材繰出し機構26における駆動用モータ29を制御する。これにより、ガイドプーリ41はレール36の略中央に復帰し、線材11にかかるテンションは所定の値に戻される。
【0033】
特に、この実施の形態では、線材繰出し機構26が、線材11を挟んで回転することによりその線材11を繰出し可能に構成された一対の無限軌道27,28を備えるので、それらの各クローラ27d,28dが線材11に接触する面積は増大する。このため、一対の無限軌道27,28により挟まれた線材11が、それを挟む各クローラ27d,28dに対して滑るようなことはなく、この線材繰出し機構26は所定の量の線材11を所定の速度で確実に繰り出すことができる。
【0034】
一方、ガイドプーリ41により線材11に作用するテンションを変化させたい場合には、ガイドプーリ41を付勢する弾性部材42による付勢力を変更させる。具体的には、コイルスプリング42の他端における鉛直板21に対する固定位置をY軸方向に移動して調節するか、弾性部材であるコイルスプリング42の本数を増減するか、或いは弾性部材であるコイルスプリング42を弾性係数の異なる他の弾性部材に変更することが挙げられる。これにより、ガイドプーリ41を付勢する付勢力を変化させることができ、弾性部材であるコイルスプリング42からガイドプーリ41に及ぼされる付勢力を調整できるので、線材11に作用するテンションを所望のものとすることができる。また、ドラム46への線材11の巻回の回数を変更することや、そのドラム46自体を摩擦係数の異なるものに変更することも考えられる。すると、指数関数的に倍増させるオイラーのベルト理論に基づく数値が変化し、ガイドプーリ41の位置に応じて付与されたバックテンションの倍率を調整することにより、巻線機12に供給される線材11に作用するテンションを所望のものとすることができる。
【0035】
なお、上述した実施の形態では、線材繰出し機構26が、線材11を挟んで回転することにより線材11を繰出し可能に構成された一対の無限軌道27,28を備える場合を説明したが、線材繰出し機構26は、比較的太い線材11を滑らすことなく巻線機12に向けて繰出し得る限り、その線材11を挟んで回転することにより線材11を繰出し可能に構成された一対のローラであっても良い。
【0036】
また、上述した実施の形態では、一対のコイルスプリング42,42から成る弾性部材を説明したけれども、弾性部材としてのコイルスプリング42は一対に限らず、単一のものであっても良く、逆に3本であっても4本であっても良い。また、この弾性部材42は、線材11にバックテンションを付与する方向にガイドプーリ41を付勢してそのガイドプーリ41の位置に応じたバックテンションを線材11に付与し得る限り、コイルスプリング42に限らず、エア圧や油圧により駆動する流体圧シリンダによりガイドプーリ41を付勢するようにしても良い。
【符号の説明】
【0037】
10 巻線用線材のバックテンション付与装置
11 線材
12 巻線機
26 線材繰出し機構
27,28 無限軌道
41 ガイドプーリ
42 コイルスプリング(弾性部材)
43 繰出し制御手段
46 ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材(11)を巻線機(12)に向けて繰出す線材繰出し機構(26)と、前記線材繰出し機構(26)から繰出された前記線材(11)が掛け回されたガイドプーリ(41)と、前記線材(11)にバックテンションを付与する方向に前記ガイドプーリ(41)を付勢して前記ガイドプーリ(41)の位置に応じたバックテンションを前記線材(11)に付与する弾性部材(42)と、前記ガイドプーリ(41)の位置が所定の位置となるように前記線材繰出し機構(26)による前記線材(11)の繰出しを制御する繰出し制御手段(43)とを備えたバックテンション付与装置において、
バックテンションが付与されて前記巻線機(12)に向かう前記線材(11)を巻回可能なドラム(46)が設けられ、
前記ドラム(46)は巻回された前記線材(11)が滑って前記巻線機(12)に向かうように回転不能に設けられた
ことを特徴とする巻線用線材のバックテンション付与装置。
【請求項2】
線材繰出し機構(26)が、線材(11)を挟んで回転することにより前記線材(11)を繰出し可能に構成された一対のローラ又は無限軌道(27,28)を備える請求項1記載の巻線用線材のバックテンション付与装置。
【請求項3】
線材繰出し機構(26)により巻線機(12)に向けて繰出された線材(11)をバックテンションを付与する方向に付勢されたガイドプーリ(41)に掛け回し、バックテンションが付与された前記線材(11)を回転不能なドラム(46)に巻回し、巻回された前記線材(11)を前記ドラム(46)に滑らせて前記巻線機(12)に供給する巻線用線材のバックテンション付与方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−251836(P2011−251836A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128434(P2010−128434)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】