説明

巻貝類由来のセルラーゼ及びその製造方法

【課題】 巻貝類由来のセルラーゼの諸特性を解明し、養殖に伴なう廃棄内臓の有価資源化の実現に供し、及び巻貝類から、上記セルラーゼを用途に応じた純度で、簡易な操作で、かつ短時間で効率良く製造する方法を開発し、廃棄内臓の有価資源化の一層の促進を図ること。
【解決手段】 巻貝類に由来するアミノ酸配列からなるセルラーゼ、下記の特性を有するセルラーゼ及びその製造方法を提供すること。(a)作用:本酵素は、セルロースを分解して低分子化セルロース及びセロオリゴ糖を生成する。(b)基質特異性:本酵素は、セルロースに作用する。(c)分子量:66kDa(ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)(d)至適温度:35〜40℃(e)熱安定性:40℃以下で安定である。(f)至適pH:pH5.5〜8.0(g)N末端アミノ酸配列:14残基のシグナルペプチドを有する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、巻貝類に由来する新規なセルラーゼ及び当該セルラーゼを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】セルラーゼとは、セルロースを低分子化セルロース、セロオリゴ糖、ブドウ糖(β−D−グルコース)にまで分解する酵素の総称であり、セロオリゴ糖などの機能性オリゴ糖の生産のほか、食品、飼料、工業材料の生産、ひいてはセルロースのバイオマスエネルギー化等に有用な酵素である。このような広い用途を有するセルラーゼが工業的に利用されている主要なものは、現状では糸状菌由来のセルラーゼである。
【0003】アワビやサザエ等の褐藻を常食としている巻貝類(軟体動物腹足類の1種)の消化液等の中には、セルラーゼやアルギナーゼなどの多糖類分解酵素が含まれていることが知られている。しかしながら、原料の軟体動物が高価であることや、資源的に大量に得るのが難しいことなどの問題があって、現在のところ産業レベルでの利用は実現していない。
【0004】ところで、北海道においては、アワビやツブガイ等、巻貝類の養殖や水産加工に伴う不可食部分(貝殻、内臓)が、年間数千トンレベルで廃棄されている。近年では、その処理コストや廃棄場所の問題が水産加工業の経営を圧迫する原因となっており、環境への影響も社会問題化している。そのため、これらの廃棄物から高付加価値成分を生産することにより、廃棄物を有価資源化しようという試みが各方面でなされている。
【0005】アワビやツブガイを例にとると、廃棄される内臓(廃棄内臓)等の利用可能量は、年間数百トン程度はあると思われ、セルラーゼの製造に際して、この廃棄内臓等を出発材料とすることができれば、部分精製品としてもかなりの量のセルラーゼが得られると考えられる。例えば、10gの内臓から1mg程度のセルラーゼが得られるとすると、単純計算で廃棄内臓1千トンから百kg程度のセルラーゼが得られることが期待される。
【0006】前記したように、巻貝類などの軟体動物にセルラーゼが含まれていることは知られているが、これまでは当該酵素の精製が不十分であり、したがって酵素の諸性質については詳細な検討がなされていなかった。また、巻貝類から上記セルラーゼを効率良く製造する方法についても十分に検討されていなかったため、産業上有効利用することができなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、巻貝類由来のセルラーゼの諸特性を解明し、巻貝類の養殖や水産加工に伴なう廃棄内臓等の有価資源化の実現に供することを目的とするものである。また、本発明は、巻貝類から、上記セルラーゼを用途に応じた純度で、簡易な操作で、かつ短時間に効率良く製造する方法を開発し、廃棄内臓等の有価資源化の一層の促進を図ることを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するため、巻貝類のセルラーゼを抽出、精製して、その基本的諸性質を鋭意検討した。その結果、巻貝類のセルラーゼは、アミノ酸配列等の遺伝的情報の他、基質特異性、至適温度、熱安定性、pH依存性等の点において、従来知られている微生物(細菌、真菌、糸状菌)由来のセルラーゼとは異なる基本的性質を持つことを見出した。また、巻貝類のセルラーゼを抽出、精製する方法について検討する過程で、セルラーゼを効率良く製造するための製造方法をも見出した。本発明は、係る知見に基づくものである。
【0009】請求項1に係る本発明は、巻貝類に由来し、配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるセルラーゼを提供するものである。
【0010】請求項2に係る本発明は、巻貝類に由来し、下記の特性を有するセルラーゼである。
(a)作用:本酵素は、セルロースを分解して低分子化セルロース及びセロオリゴ糖を生成する。
(b)基質特異性:本酵素は、セルロースに作用する。
(c)分子量:66kDa(ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)
(d)至適温度:35〜40℃(e)熱安定性:40℃以下で安定である。
(f)至適pH:pH5.5〜8.0(g)N末端アミノ酸配列:配列表の配列番号2に記載の配列を有する。
【0011】請求項3に係る本発明は、巻貝類の内臓及び/又は内臓滲出液に緩衝液又は抽出液を注入することによりセルラーゼを抽出し、必要により当該抽出操作を繰り返してセルラーゼを回収することを特徴とする請求項1又は2に記載のセルラーゼの製造方法である。
【0012】請求項4に係る本発明は、請求項3に記載の方法により回収したセルラーゼを冷水に加え、得られたセルラーゼ液に吸着剤を加えて攪拌してセルラーゼを当該吸着剤に吸着させた後、緩衝液を加えてセルラーゼを吸着剤から溶出させることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルラーゼの製造方法である。
【0013】
【発明の実施の形態】以下に、本発明を詳しく説明する。本発明のセルラーゼは、巻貝類に由来する酵素である。巻貝類としては、例えばアワビ、エゾボラ、ヒメエゾボラ、エゾバイ、サザエ、タマキビ等が挙げられる。これらの内、養殖に伴なう廃棄内臓等を原料として容易に入手できる点で、アワビが好ましい。本発明のセルラーゼは、これらの巻貝類の内臓や内臓滲出液、特に消化器系の内臓組織や消化液に多く分布し、中でもアワビの肝膵臓前部やここから滲出する体液である消化液等に豊富に分布している。
【0014】請求項1に係る本発明のセルラーゼは、上記のように巻貝類に由来し、配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるものである。配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列は、N末端側の開始コドンに相当するメチオニン、14残基から成るシグナルペプチド、及び579残基から成る成熟型酵素部分の594残基からなる。配列表の配列番号1には、巻貝(アワビ)由来のアミノ酸配列のほかに、これに対応する巻貝(アワビ)のセルラーゼ遺伝子の塩基配列も併せて示す。配列表の配列番号1の塩基配列2,207bpのうち、アミノ酸への翻訳領域は、5´末端の非翻訳領域(364bp)及び3´末端側の非翻訳領域(58bp)を除いた1,785bpである。
【0015】配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列は、例えばセルラーゼが豊富に含まれる巻貝類の内臓から常法によりcDNAライブラリーを作成し、当該cDNAライブラリーからPCR法、RACE法等を用いてセルラーゼをコードするcDNA(配列表の配列番号1参照)を取得し、当該塩基配列からアミノ酸配列を翻訳し、確認することにより入手することができる。また、配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列を化学的な方法によって入手することもできる。配列表の配列番号1のアミノ酸配列、即ち、アワビ・セルラーゼの一次構造は、ヤマトシロアリ、ザリガニ、シロイヌナズナのものと、それぞれ48%、46%、31%の相同性を示すことから、本発明のセルラーゼはglycosil hydrolasefamily 9 に分類されるものである。
【0016】請求項2に係る本発明のセルラーゼも、巻貝類に由来する酵素である点では請求項1に係る本発明のセルラーゼと同様であり、更に以下に示す特性を有している。
(a)作用:本酵素は、セルロースを分解して低分子化セルロース及びセロオリゴ糖を生成する。
【0017】すなわち、請求項2に係る本発明のセルラーゼは、セルラーゼとしての活性を有する。ここで、セルラーゼとは、■非晶性セルロースをエンド型で切断するエンドβ−グルカナーゼ(EG、CMCase(カルボキシメチルセルラーゼ))としてのセルラーゼ〔cellulase ,EC.3.2.1.4〕、■セルロースの非還元末端に作用し、セロビオースを精製するエキソβ−グルカナーゼ(セロビオハイドラーゼ(CBH)、アビセラーゼ)としてのセルロース1,4−β−グルコシダーゼ〔glucan 1,4-glucosidase,EC 3.2.1.91 〕;■セロビオースを分解してブドウ糖を生成するβ−グルコシダーゼ(セロビアーゼ)〔β-glucosidase,EC 3.2.1.21 〕の総称であり、請求項2に係る本発明のセルラーゼは、これらの3つの酵素活性のうち■に相当する。なお、本酵素によりセルロースを分解して生成したセロオリゴ糖にβ−グルコシダーゼを作用させると、ブドウ糖(β−グルコース)が生成する。
【0018】(b)基質特異性:本酵素は、セルロースに作用する。
(c)分子量:66kDa(ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)
(d)至適温度:35〜40℃(e)熱安定性:40℃以下で安定である。
(f)至適pH:pH5.5〜8.0
【0019】(g)N末端アミノ酸配列:配列表の配列番号2に記載の配列を有する。
また、請求項2に係る本発明のセルラーゼは、内部領域の部分アミノ酸配列として、配列表の配列番号3〜5に記載の配列を有する。
【0020】請求項2に係る本発明のセルラーゼの製造は、一般的な手法に従えば良いが、例えば請求項3に示した如く、巻貝類の内臓及び/又は内臓滲出液からセルラーゼを含む抽出液を得た後、これをそのまま回収する方法などがある。また、回収したセルラーゼ含有液を精製する方法としては、請求項4に示した方法は、簡便で、しかも短時間に処理できるので好ましい方法である。
【0021】次に、請求項3に記載のセルラーゼの製造方法について説明する。巻貝類の内臓及び/又は内臓滲出液を原料とするセルラーゼの製造は、基本的に穏やかな条件下で実施すべきである。巻貝類からセルラーゼを含む抽出液を得る場合に、ワーリングブレンダーを用いた従来のホモジェナイズによる抽出法を行うと、得られるセルラーゼ活性が著しく低下するので好ましくない。しかし、セルラーゼの用途などを考慮して従来法を採用することもできる。本発明では、貝殻に付着した状態の巻貝類の内臓の適当な部分に切り込みを入れ、この部分から内蔵内に緩衝液又は抽出液を静かに注入して内蔵各部や内臓滲出液と接触させるか、もしくは貝殻から切除した後の巻貝類の内臓や内臓滲出液に直接緩衝液又は抽出液を加えることによって、セルラーゼを洗い出すように抽出する。この抽出操作を、必要に応じて数回(2〜5回)繰り返すと、目的とするセルラーゼを含有する抽出液を効率よく回収することができる。この方法によれば、抽出に際して脂質や色素成分などの不純物の溶出量を低減させることができ、高いセルラーゼ活性を示す抽出液が得られる。
【0022】ここで、セルラーゼの抽出に使用する緩衝液又は抽出液としては、5〜10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)、1〜5mM 炭酸水素ナトリウム(pH7.5)、10〜20mM Tris−HCl(pH7.5)等の中性〜弱アルカリ性に緩衝能を持つ緩衝液が使用可能である。いずれも、4〜10℃に冷却したものを用いることが好ましい。
【0023】このようにして得た粗セルラーゼ抽出液からセルラーゼの精製を行う場合、粗セルラーゼ抽出液を冷蒸留水で10倍に希釈し、イオン交換樹脂を加えてバッチ吸着し、これをカラムに充填してから溶出するというイオン交換クロマトグラフィーを行っても良いが、この方法はフラクションコレクターを必要とすること、試料分取のために数多くの試験管を必要とすること、クロマトグラフィーに12時間程度を要する等の時間と手間がかかるという問題点がある。そこで、請求項4に係る本発明の方法では、上記した方法によって回収したセルラーゼを含む抽出液を冷水で希釈して得た粗セルラーゼ液、通常は4〜10℃程度の冷水で7〜15倍、好ましくは8〜12倍程度に希釈した粗セルラーゼ液に、適当な吸着剤を加えて穏やかに攪拌することにより、セルラーゼを当該吸着剤に吸着させる。このとき用いる吸着剤としては、イオン交換樹脂の場合、陽イオン交換タイプのイオン交換樹脂、好ましくはCM-Toyopearl(東ソー社製)、SP-Toyopearl(東ソー社製)などがある。イオン交換樹脂を加えて5〜20分間、好ましくは8〜15分間攪拌することによって、当該樹脂にセルラーゼをバッチ吸着させることができる。イオン交換樹脂以外の吸着剤としては、例えばハイドロキシルアパタイト(和光純薬工業(株)製)などを使用することができる。
【0024】セルラーゼを当該吸着剤に吸着させた後、中性pHに調整した、イオン強度0.1〜0.15のNaCl、KCl 、Na2HPO4 などの溶離液又は緩衝液を加えて懸濁することによって、セルラーゼを吸着剤から溶出させる。この場合、セルラーゼを吸着剤から溶出する前に、デカンテーションや吸引ろ過等によって吸着剤を回収し、非吸着画分をイオン強度0.01程度の緩衝液で洗浄除去することが望ましい。なお、吸着剤からの溶出は、直線濃度勾配で行うと、より高純度のセルラーゼを得ることができる。次いで、ろ過、遠心分離などの固−液分離手段によりセルラーゼを溶出液中に回収する。この方法によれば、比較的高純度(通常30〜50%程度)のセルラーゼを1〜3時間という短時間で大量に製造することができる。例えば、中型アワビ(70〜90g)の場合、1個体から5〜10mg程度のセルラーゼを得ることができる。
【0025】
【実施例】以下、実施例により本発明を詳しく説明するが本発明はこれらによって制限されるものではない。なお、実施例を示す前に、活性の測定法など本実施例で用いた基本的分析方法について述べる。
【0026】(1)セルラーゼ活性(カルボキシメチルセルラーゼ活性)の測定及び検出方法(1−1)生成還元糖の定量によるセルラーゼ活性の測定セルラーゼ活性の測定には、基本的には以下の組成の反応混液を用いた。
10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)
0.5% カルボキシメチルセルロース(中粘度CMC、ICN製)
種々の量のセルラーゼ(測定対象試料)
【0027】反応液量は1mlとし、反応温度は30℃、反応時間は30分とした。反応停止は100℃で5分間の加熱によった。生成した還元糖(還元末端)はNelson−Somogyi法により定量した。セルラーゼ1単位(unit)は、1分間に1μmolのグルコース相当の還元糖を生成する酵素量と定義した。
【0028】(1−2)ザイモグラフィーによるセルラーゼ活性の検出セルラーゼをSDS−PAGEで分画した後、ゲルをシャーレに移し50mlの10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)と25% イソプロパノールを含む溶液により4℃で30分間、穏やかに振盪しながら洗浄した。この操作を3回繰り返した後、さらに10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)で3回洗浄することにより酵素を再生させた。
【0029】一方、直径15cmのガラスシャーレに0.1%のCMCと10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)を含む2%の寒天ゲルを作成しておき、ここに上記SDS−PAGE後の洗浄ゲルを重層した。これを37℃で3時間インキュベートすることにより、洗浄ゲル中の再生セルラーゼと寒天ゲル中のCMCとを反応させた。反応後、SDS−PAGEゲルは、0.1% クマシブリリアントブルーの50% メタノール溶液で染色し、一方の寒天ゲルは、0.1% コンゴーレッド水溶液で染色した。セルラーゼ活性はコンゴーレッド非染色部として検出した。
【0030】(2)タンパク質濃度、総タンパク質量の測定タンパク質濃度は、高濃度(mg/mlオーダー)の場合は、Biuret法で、低濃度(μg/mlオーダー)の場合は、Lowry法で定量した。総タンパク質量は、試料溶液のタンパク質濃度に試料溶液の体積を乗じることによって算出した。
【0031】(3)SDS−PAGE(ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動)
SDS−PAGEは、Porzio&Pearsonの方法に従い、0.1%SDS−10%ゲルと0.1%SDS−150mM Tris−glycine緩衝液(pH8.6)を用いて行った。
【0032】実施例1(アワビ・セルラーゼの調製)
エゾアワビ(Haliotis(Nordotis)discus hannai )を原料として、アワビ・セルラーゼの調製を以下の手順で行った。
(1)アワビ・セルラーゼの分布アワビにおけるセルラーゼの分布を調べた。すなわち、試料として、貝殻長8×6cm、体重80gの中型エゾアワビを解体し、吻+歯舌、食道、胃、肝膵臓前部、同中部、同後部をそれぞれ切除した。アワビの体内における各内蔵組織の位置は、図1の解剖図に示す通りである。
【0033】各内臓組織をそれぞれ50mlのビーカーに取り、そこに10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)を10ml加え、10mlの駒込ピペットで1分間に20回程度の吸引−吐出を行う操作を氷冷下で30分間行うことにより、可溶性成分を抽出した。抽出後、10,000×gで10分間遠心分離し、各内臓組織の酵素液とした。また、アワビ解体の際、主に肝膵臓前部から滲出した体液を消化液として回収した。各内蔵組織の酵素液及び消化液試料について総タンパク質量とセルラーゼ活性を測定した。
【0034】図2にアワビの各内蔵組織の酵素液及び消化液試料の総タンパク質量とセルラーゼ活性を示す。なお、図2中、黒色は総タンパク質量(mg)を、白色はセルラーゼ活性(全活性(units))を示し、棒グラフの上の数値は比活性(units/mg)を示す。図2から明らかなように、セルラーゼ活性は、吻+歯舌と食道では低いが、肝膵臓(特に前部)の酵素液と消化液で著しく高かった。
【0035】(2)アワビ・セルラーゼの調製■アワビ・セルラーゼ(粗酵素)の抽出前項の結果から、セルラーゼは消化液と肝膵臓前部に多く含まれていることが分かったので、アワビ・セルラーゼの調製はこれらを出発材料に用いることにした。なお、予備試験の結果、抽出の際にPotter型ホモジェナイザーやワーリングブレンダー等により組織を強くホモジェナイズすると、酵素活性が著しく低下することを認めた。そこで、抽出はできるだけ穏やかに行うように留意した。
【0036】即ち、重量約80gのアワビ10個体を解体し、筋肉を除去した後、肝膵臓を貝殻に付着したまま肝膵臓前部だけをハサミで切り取り、ビーカーに移した。また、肝膵臓を切除する際滲出した消化液もここに合わせた。このようにして肝膵臓前部及び消化液の混合物が合計約60g得られた。
【0037】次いで、肝膵臓前部と消化液の混合物に対し、4倍量(240ml)の抽出液(10mM リン酸ナトリウム(pH7.0),0.2% NaN3 ,0.1mM PMSF,1mM EDTA)を加え、ガラス棒で穏やかに攪拌しながら、氷冷下で30分間セルラーゼを抽出した。この上清のタンパク質濃度は約5mg/mlで、容量は290mlであった。その結果、約1470mgの粗酵素が得られた。また、上記全タンパク質量(mg)のほか、粗酵素のカルボキシメチルセルラーゼ活性(比活性(units/mg)及び全活性(units))、精製度(fold)及び収率(%)を、第1表に示す。
【0038】■アワビ・セルラーゼのCM−Toyopearl カラムクロマトグラフィーによる精製上記■で抽出したアワビ・セルラーゼ(粗酵素)の抽出液を、以下の手順でCM−Toyopearl カラムクロマトグラフィーにより精製した。なお、粗酵素抽出液には、抽出の際に貝殻中からの海水が若干混入しており、イオン強度がやや高く、セルラーゼのCM−Toyopearl への吸着が悪いことが分かった。そこで、粗酵素抽出液を冷蒸留水で10倍に希釈することによりイオン強度を下げた。
【0039】次いで、この粗酵素希釈液に、あらかじめ10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)で平衡化したCM−Toyopearl 650M(東ソー(株)製)をベッド体積で50ml加え、4℃で10分間穏やかに攪拌することによりセルラーゼを担体に吸着させた。静置して担体を沈澱させ、デカンテーションで上清を概ね除去した後、担体を100mlの10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)で再度懸濁して2.0cm×15cmのガラスカラムに充填した。このカラムを、10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)100mlで洗浄した後、10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)を含む0〜200mM NaClの直線濃度勾配によりタンパク質を溶出した。各フラクションの吸光度(280nm)とセルラーゼ活性(比活性(units/ml))の測定結果を図3に示す。なお、図3中、○は吸光度を示し、●は比活性を示す。
【0040】図3から明らかなように、セルラーゼは、3つのピーク画分に溶出していることが分かった。即ち、フラクション番号7〜10、13〜17、20〜24の3画分である。これらについては、以降それぞれを、CM−I画分、CM−II画分、CM−III 画分と呼ぶこととする。
【0041】一方、図3中でa〜kで示した画分については、その一部をSDS−PAGEとザイモグラフィーによるセルラーゼ活性の分析に供した。また、前記■で得られた粗酵素についても、同様にSDS−PAGE及びザイモグラフィーによるセルラーゼ活性の分析に供した。SDS−PAGEとザイモグラフィーの結果を図4に示す。なお、図4左図の左端の数字は分子量マーカー(Mk)を示す。
【0042】図4の結果によれば、セルラーゼ活性を示すタンパク質の分子サイズは、CM−I画分では66kDa、80kDa、100kDa、200kDaの各成分、CM−II画分及びCM−III 画分では66kDa、80kDa、100kDaの各成分と認められた。CM−I画分、CM−II画分及びCM−III 画分の3画分のうち、最も均一性が高く総活性量も多かったのは、CM−III 画分であり、これは66kDaの成分を主成分としていた。そこで、本実施例では、CM−III 画分に含まれる66kDaのセルラーゼを完全精製することとした。
【0043】なお、CM−III 画分の総タンパク質量は、13.4mgであった。また、上記全タンパク質量(mg)のほか、このCM−III 画分のカルボキシメチルセルラーゼ活性(比活性(units/mg)及び全活性(units))、精製度(fold)及び収率(%)を、第1表に示す。CM−I画分及びCM−II画分も十分なセルラーゼ活性を持っているので、精製品が必要でない場合は、これらの画分もアワビ・セルラーゼとして使用可能である。
【0044】■アワビ・セルラーゼのハイドロキシアパタイト・カラムクロマトグラフィーによる精製上記■において、CM−Toyopearl カラムクロマトグラフィーにより得たCM−III 画分(フラクション番号19〜24、総タンパク質量13.4mg)を、10mM リン酸カリウム(pH7.0)で平衡化したハイドロキシアパタイト(和光純薬工業(株)製、カラムクロマトグラフ高流速タイプ)カラム(1.5×20cm)に供した。ここで、緩衝液をリン酸ナトリウムからリン酸カリウムに変換した理由は、ハイドロキシアパタイト・カラムからのタンパク質の溶出に用いる高濃度のリン酸塩の溶解度が、リン酸ナトリウムよりもリン酸カリウムの方が高く、低温下の操作でも析出し難いためである。ハイドロキシアパタイトに吸着したタンパク質は、10〜300mMのリン酸カリウム(pH7.0)の直線濃度勾配により溶出した。溶出液は1フラクションあたり5ml分取した。各フラクションの吸光度(280nm)とセルラーゼ活性(比活性(units/ml))の測定結果を図5に示す。なお、図5中、○は吸光度を示し、●は比活性を示す。
【0045】図5から明らかなように、ハイドロキシアパタイト・カラムクロマトグラフィーの結果、セルラーゼの比活性は、フラクション番号44〜49付近にほぼ単一のピークとして溶出することが分かった。また、図5R>5のa〜iで示した各画分については、その一部をSDS−PAGE及びザイモグラフィーによるセルラーゼ活性の分析に供した。また、前記■で得られた粗酵素及び前記■で得られたCM−III についても、同様にSDS−PAGE及びザイモグラフィーによるセルラーゼ活性の分析に供した。SDS−PAGEとザイモグラフィーの結果を図6に示す。なお、図6左図の左端の数字は分子量マーカー(Mk)を示す。
【0046】図6の結果によれば、フラクション46〜49に相当するc〜f画分の場合には、66kDa付近にバンドが確認されたことから、分子サイズ66kDaの成分がこのセルラーゼの本体であることが確認された。このセルラーゼ画分は、以後、CM−III ・Hyd画分と呼ぶこととする。なお、CM−III ・Hyd画分の総タンパク質量は4.1mgであった。また、上記全タンパク質量(mg)のほか、このCM−III ・Hyd画分のカルボキシメチルセルラーゼ活性(比活性(units/mg)及び全活性(units))、精製度(fold)及び収率(%)を、第1表に示す。このCM−III ・Hyd画分には、25kDa程度の成分が少量混入していたので、さらに以下のSephacryl S −200 ゲルろ過により精製した。
【0047】■Sephacryl S-200 ゲルろ過による精製上記■で得られたCM−III ・Hyd画分を、限外ろ過(Amicon UK−10フィルター)により5ml程度まで濃縮した後、10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)で平衡化したSephacryl S-200 カラム(2.0×140cm、商品名:Sephacryl S-200 HR、製造元:Pharmacia Amarsham Biotech)に供し、同溶液で溶出した。溶出液は1フラクションあたり5ml分取した。
【0048】各フラクションの吸光度(280nm)とセルラーゼ活性(比活性(units/ml))の測定結果を図7に示す。なお、図7中、○は吸光度を示し、●は比活性を示す。図7から明らかなとおり、セルラーゼ活性はフラクション番号42〜48付近に主ピークとして溶出した。また、図7にa〜hで示した各画分については、その一部をSDS−PAGE及びザイモグラフィーによるセルラーゼ活性の分析に供した。さらに、前記■で得られた粗酵素、前記■で得られたCM−III 及び前記■で得られたCM−III・Hyd画分についても、同様にSDS−PAGE及びザイモグラフィーによるセルラーゼ活性の分析に供した。SDS−PAGE及びザイモグラフィーの結果を図8に示す。なお、図8左図の左端の数字は分子量マーカー(Mk)を示す。
【0049】図8のSDS−PAGEの結果から明らかな通り、これらの画分は66kDaの単一成分から構成され、ザイモグラフィーにより、この成分がセルラーゼ本体であることが確認された。この精製セルラーゼ(66kDa成分)の総タンパク質量は、1.1mgであった。また、上記全タンパク質量(mg)のほか、この精製セルラーゼ(66kDa成分)のカルボキシメチルセルラーゼ活性(比活性(units/mg)及び全活性(units))、精製度(fold)及び収率(%)を、第1表に示す。
【0050】
【表1】第1表(アワビ・セルラーゼの調製)


【0051】一方、フラクション番号62〜64付近に副ピークとしてセルラーゼ活性が認められたが、ここにはSDS−PAGEとザイモグラフィーのいずれにおいてもタンパク質の存在が認められず、何らかの人工物(artifact) と考えられた。
【0052】以上、中型エゾアワビの肝膵臓前部及び消化液を出発材料として、分子量サイズ66kDaのセルラーゼを完全精製することに成功した。この精製過程は、第1表に示す通りであり、分子量サイズ66kDaの精製セルラーゼは、粗酵素から約95倍に精製されたことが分かる。一方、活性収率は7%であるが、残りの活性の多くは、前記■のCM−Toyopearl カラムクロマトグラフィーにおいてCM−I画分、CM−II画分、CM−III画分の非回収部分に残存している。従って、この画分は部分精製セルラーゼとして利用することが可能である。
【0053】実施例2(アワビ・セルラーゼの基本性状)
実施例1で調製した分子量サイズ66kDaの精製セルラーゼの基本的な酵素特性を調べた。以下の実施例2において、市販の糸状菌セルラーゼ(Trichoderma viride起源、和光純薬工業(株)製)からCM−Toyopearl カラムクロマトグラフィーで精製した、23.5kDaセルラーゼ成分を比較対照とした。また、部分精製品ではあるが、前記実施例1の■のCM−Toyopearl カラムクロマトグラフィーにおいて得られたCM−II画分についても、同様に基本性状を調べた。
【0054】(1)セルラーゼ活性の温度依存性(至適温度)
実施例1で得た分子量サイズ66kDaの精製セルラーゼ(以下、CM−66という。)、前記実施例1の■で得られたCM−II画分のセルラーゼ(以下、CM−IIという。)及びTrichoderma viride由来の分子量サイズ23.5kDaのセルラーゼ(以下、Tri−23.5という。)のセルラーゼ活性の温度依存性を測定した。
【0055】即ち、酵素液を除く反応混液(0.95ml)を、0〜70℃の各温度(CM−66及びCM−IIは0〜50℃、Tri−23.5は20〜70℃)で、10分間プレインキュベートした後、各反応混液にいずれかのセルラーゼを0.05ml加えて反応を開始し、それぞれの温度で30分間保持した後、100℃で10分間加熱して反応を停止した。生じた還元糖はNelson−Somogyi法で定量し、セルラーゼ活性を算出した。なお、Tri−23.5の至適pHは、酸性側(pH5.0)にあるので、反応混液のpHはリン酸ナトリウムでpH5.0とした。結果を図9に示す。なお、図9の上段は比活性(units/mg)の温度依存性を、下段は相対的活性(%)の温度依存性を示し、○はCM−66の結果を、●はCM−IIの結果を、△はTri−23.5の結果を示す。
【0056】図9に示すように、40℃において、Tri−23.5の比活性が約1.5units/mgであるのに対し、CM−66は約30units/mg、CM−IIは約25units/mgであっったことから、CM−66及びCM−IIの比活性は、Tri−23.5に比べ測定した温度範囲で概ね20倍高いことが明らかとなった。また、CM−66及びCM−IIの至適温度は、35〜40℃付近にあり、Tri−23.5の至適温度である約50℃よりも10〜15℃低かった。これらの結果から、アワビ・セルラーゼがTrichoderma viride由来のセルラーゼに比べて、より低温で高活性を示すことが示された。
【0057】(2)セルラーゼ活性の熱安定性次に、CM−66、CM−II、及びTri−23.5のセルラーゼ活性の熱安定性を測定した。即ち、10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)に、各酵素を0.15mg/mlとなるように溶解し、20〜70℃の各温度で30分間インキュベートした後、氷冷した。これらの加熱処理酵素の0.05mlを、あらかじめ30℃に保温してある0.95mlの反応混液に加え、同温度で30分間反応させた。相対的活性の結果を図10に示す。なお、図10中、○はCM−66の結果を、●はCM−IIの結果を、△はTri−23.5の結果を示す。
【0058】図10によれば、CM−66及びCM−IIの活性は、加熱温度が30℃まではほとんど変化しないが、40℃以上になると急激に失活することが分かる。一方、比較対照のTri−23.5の活性は、50℃まではほとんど失活しないが、60℃では従来の報告通りほぼ完全に活性が失われた。このことから、アワビ・セルラーゼの熱安定性は、Trichoderma viride由来のセルラーゼよりも約10℃低いことが明らかとなった。
【0059】(3)セルラーゼ活性のpH依存性従来知られているセルラーゼの至適pHは、多くの場合酸性側(pH4.0〜6.0)にある。そこで、アワビ・セルラーゼのセルラーゼ活性のpH依存性をTrichoderma viride由来のセルラーゼのそれと比較すべく、CM−66、CM−II、及びTri−23.5のセルラーゼ活性のpH依存性を測定した。即ち、酢酸ナトリウム(pH2.0〜5.0)、リン酸ナトリウム(pH5.0〜9.0)又はグリシン−NaOH(pH9.0〜10.0)で反応混液のpHを変えて、温度30℃における各pHにおけるセルラーゼ活性を測定した。図11に結果を示す。なお、図11の上段は比活性(units/mg)を、下段は相対的活性(%)を示し、○はCM−66の結果を、●はCM−IIの結果を、△はTri−23.5の結果を示す。
【0060】図11に示すように、CM−66及びCM−IIは、pH6.5及びpH7.2でそれぞれ最大活性を示し、何れの場合もpH5.5〜8.0にかけて最大の70%以上の活性値を示したことから、アワビ・セルラーゼはほぼ中性から弱アルカリ性に至適pHを有することが明らかとなった。一方、比較対照に用いたTri−23.5の至適pHは、これまで報告されている通り、pH5.0付近であった。このことから、アワビ・セルラーゼの至適pHは、ほぼ中性から弱アルカリ性域にあり、Trichoderma viride由来のセルラーゼを始めとする他の糸状菌セルラーゼの至適pHが酸性側にあるのとは明らかに異なるpH特性を持つ酵素であることが分かった。ほぼ中性からアルカリ性領域で作用するセルラーゼは多くないことから、アワビ・セルラーゼはセルラーゼの使用可能なpH範囲を広げるという点で有用性が高いと考えられる。
【0061】(4)CM−I画分の部分アミノ酸配列の解読アワビ・セルラーゼのうち、完全精製した66kDaの成分(CM−66)の部分アミノ酸配列を分析し、これまでに一次構造が明らかにされているセルラーゼのアミノ酸配列との差異を若干ながら検討した。まず、CM−66についてSDS−PAGEを行った後、PVDF膜にエレクトロブロットした。そして、そのN末端のアミノ酸配列を、パーキンエルマー−ABI社製の473A型プロテインシークエンサーで分析した。その結果、CM−66のN末端14残基の配列は、配列表の配列番号2に示した通りであることが明らかとなった。
【0062】一方、CM−66の内部領域の配列を分析するために、10mMリン酸ナトリウム(pH7.0)に溶解した0.14mgのCM−66を、0.0028mg(CM−66の1/50に相当する重量)のリジルエンドペプチダーゼ(和光純薬工業(株)製)により37℃で6時間消化した。得られた消化物を、0.1%TFAで平衡化したODSカラム(Mightysil RP-18 GP、150×4.6mm)を装着した高速液体クロマトグラフ(HPLC)(EYLA LP−1000)に供し、0〜50%アセトニトリルの直線濃度勾配によりペプチド断片を分離・溶出した。逆相HPLCの結果を図12に示す。
【0063】得られたペプチド断片は、凍結乾燥後、上記プロテインシーケンサーに供した。その結果、図12に示したカラム保持時間23.20分の成分(以下、P−23.20という。)、28.8分の成分(以下、P−28.80という。)、30.21分の成分(以下、P−30.21という。)の各アミノ酸配列(配列表の配列番号3〜5参照)が、他種のセルラーゼと明らかな相同性を示すことが明らかとなった。
【0064】図13には、CM−66のN末端及びP−23.20、P−28.80、P−30.21の各配列と相同性を示すタンパク質をFASTAプログラム(DDBJを利用)により検索した結果を示す。それによれば、CM−66のN末端の配列は、Cellulomonus fimi 及びStreptomyces coelicol (いずれもセルロース分解菌)のセルラーゼの分子内部領域と約42.0%及び50.0%の相同性を示すことが分かった。また、P−23.20の配列はシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)・セルラーゼの61〜67残基部分、及びザリガニ(Cherax quadricarinatus)・セルラーゼの67〜73残基部分と、いずれも100%の相同性を示した。更に、P−28.80の配列はオオシロアリ(Hodotermopsis japonica)・セルラーゼ及びワモンゴキブリ(Periplaneta americana )・セルラーゼのN末端領域の配列と、いずれも90.0%の相同性を示した。一方、P−30.21の配列はシロイヌナズナ・セルラーゼの142〜160残基部分、及びオオシロアリ・セルラーゼの75〜93残基部分と、それぞれ68.4%、63.2%の相同性を示した。これらの結果は、CM−66が昆虫や植物のセルラーゼと比較的近い一次構造を持つ可能性を示すものである。
【0065】実施例3(アワビ・セルラーゼcDNAのクローニングと全アミノ酸配列の解析)
この例では、実施例1で完全精製した分子量サイズ66kDaのアワビ・セルラーゼ(CM−66)をコードするcDNAを、PCR法及びRACE法により取得し、そのcDNAの塩基配列及びアミノ酸配列を解析した。
【0066】(1)アワビ肝膵臓cDNAライブラリーの作成アワビ肝膵臓1gからグアニジンチオシアン酸−フェノール法により、全RNAを抽出した。このRNA約300μgからOligo-Tex dT (30) (TaKaRa社製)を用いたバッチ法により、約2μgのmRNAを得た。このmRNA約0.5μgを用いて、TaKaRa cDNA Synthesis Kit (TaKaRa社製)によりアワビ肝膵臓cDNAライブラリーを作成し、PCRのテンプレートとした。一方、残りのmRNAは、5´−及び3´−RACE反応に用いた。
【0067】(2)cDNAの取得、及び、塩基配列並びにアミノ酸配列の解析■第1回目のPCRCM−66のN末端アミノ酸配列(配列表の配列番号6参照)に基づき、PCR用の縮重フォワードプライマーACF1(配列表の配列番号7参照)を作成した。一方、リヴァースプライマー合成のために、新たに2つのリジルエンドペプチダーゼ消化断片、即ちLP4及びLP5のアミノ酸配列を決定した。LP4は配列表の配列番号1記載のアミノ酸配列の323〜344番目の22残基、LP5は配列表の配列番号1記載のアミノ酸配列の460〜473番目の14残基からなる。これらのアミノ酸配列は、オオシロアリなどの他種生物セルラーゼの分子中央部分及びC末端部分のアミノ酸配列と40〜60%程度の相同性を示す。また、これらのアミノ酸配列中には、縮重プライマーの合成に適したコドンを持つ、芳香属アミノ酸やメチオニン(Met)が含まれていた。そこで、LP4及びLP5のうち、芳香族アミノ酸及びメチオニンを含む部分アミノ酸配列(それぞれ配列番号8、9参照)に基づき、PCR用の縮重リヴァースプライマーACR1及びACR2を合成した(それぞれ配列表の配列番号10、11参照)。これらのプライマーのうち、ACF1−ACR1の組み合わせでPCRを行った。
【0068】その結果、約1,000bpのcDNA(NdEG f2)が増幅された。そこで、このcDNA(NdEG f2)をPCR−TOPO2.1システム(Invitrogen社製)でクローン化し、DNAシーケンサー(ABI 310、パーキンエルマー−ABI社製)で塩基配列を分析した。その結果、NdEG f2は1,005bpの塩基配列から成り、アワビ・セルラーゼのN末端から338アミノ酸残基の配列をコードしていることが明らかになった。アワビ・セルラーゼをコードするcDNAにおけるNdEG f2の相対位置を図14に示す。
【0069】■第2回目のPCR第1回目のPCRにより、アワビ・セルラーゼのN末端領域をコードするcDNAが得られたので、該cDNAよりC末端側のアミノ酸配列をコードするcDNAを得るために、第2回目のPCRを行った。PCRのフォワードプライマーとしては、NdEG f2の3´−末端領域の塩基配列を持つ特異的プライマーACF2(配列表の配列番号12参照)を用いた。一方、リヴァースプライマーとしては、前述したように、LP5の部分アミノ酸配列に基づき合成した縮重プライマーACR2を用いた。
【0070】これらACF2−ACR2の組み合わせによりPCRを行った結果、約480bpのcDNA(NdEG f3)が増幅された。このcDNA(NdEG f3)を第1回目のPCRと同様の条件でクローン化し、塩基配列を分析した結果、NdEG f3は447bpから成り、アワビ・セルラーゼのC末端領域149残基のアミノ酸配列をコードしていることが明らかとなった。アワビ・セルラーゼをコードするcDNAにおけるNdEG f3の相対位置を図14に示す。
【0071】■3´−RACE−PCRNdEG f2とNdEG f3の塩基配列より、アワビ・セルラーゼのN末端から465残基部分のアミノ酸配列が明らかになったが、C末端領域の配列は不明であった。そこで、C末端領域のアミノ酸配列をコードするcDNAを得るために、TaKaRa 3´-Full RACE Core Set (TaKaRa社製)により、3´−RACE−PCRを行った。その際、フォワードプライマーとしてNdEG f3の3´末端領域と同一の配列を持つ特異プライマーAC3RAC1(配列表の配列番号13参照)を用い、リヴァースプライマーとしてはキット付属の3 ´sites Adapto primer (配列表の配列番号14参照)を用いた。
【0072】このPCRにより増幅されたcDNA(NdEG f4)を第1回目のPCRと同様の条件でクローン化し、塩基配列を分析した結果、NdEG f4は、3´末端に58bpの非翻訳領域(19bpのポリ(A)尾部を含む。)を持つ577bpの塩基配列から成ることが明らかになった。アワビ・セルラーゼをコードするcDNAにおけるNdEG f4の相対位置を図1414に示す。
【0073】NdEG f4の停止コドンを除く翻訳領域516bpの塩基配列から、172残基のアミノ酸配列が演繹された。このアミノ酸配列を、上述したN末端側領域のアミノ酸配列と連結することにより、アワビ・セルラーゼのN末端からC末端までの全579残基のアミノ酸配列が明らかになった(図14参照)。なお、アミノ酸配列から計算される分子量は63,241であり、SDS−PAGEによって見積もられた分子量約66,000とやや異なるが、電気泳動の移動度より算出される分子量は、一般に誤差が大きいので、この程度の違いは誤差範囲であると推測される。
【0074】■5´−RACE−PCRNdEG f2〜NdEG f4の塩基配列から、分子量サイズ66kDaのアワビ・セルラーゼ(CM−66)の全一次構造が明らかになった。ただし、これは成熟型酵素の一次構造であり、細胞内で合成された時点では、分泌酵素の特徴であるシグナルペプチドをそのN末端に持つと考えられる。そこで、5´−RACE−PCRにより、cDNAの5´末端領域の塩基配列を解析し、シグナルペプチドの一次構造を解明することとした。なお、5´−RACEは、TaKaRa 5´-Full RACE Core Set (TaKaRa社製)を用いて行い、逆転写反応及びPCRのプライマーには、RVAC5RA、F1AC5RA、F2AC5RA、R1AC5RA及びR2AC5RA(それぞれ配列表の配列番号15、16、17、18及び19参照)を用いた。
【0075】増幅されたcDNA(NdEG f1)を第1回目のPCRと同様の条件でクローン化し、塩基配列を解析した結果、NdEG f1は、364bpの5´−非翻訳領域と、108bpの翻訳領域の計472bpから成ることが明らかとなった。アワビ・セルラーゼをコードするcDNAにおけるNdEG f1の相対位置を、図14に示す。翻訳領域のアミノ酸配列と成熟型酵素のアミノ酸配列を比較した結果、アワビ・セルラーゼのN末端には、開始コドンに続く14残基のシグナルペプチドが存在することが新たに明らかになった。
【0076】以上、PCR法とRACE法によりアワビ・セルラーゼをコードするcDNAを取得し、合計2,207bpの塩基配列を決定した。アワビ・セルラーゼをコードするcDNAの構造模式図を図14に示す。図1414から明らかなとおり、アワビ・セルラーゼをコードするcDNAのうち、翻訳領域は1,785bpであり、ここから開始コドンに相当するメチオニン(Met)、14残基からなるシグナルペプチド、成熟型酵素部分の579残基部分及び停止コドンからなるアミノ酸配列が翻訳された。塩基配列及び翻訳アミノ酸配列は、配列表の配列番号1に示す通りである。これらの塩基配列及び翻訳アミノ酸配列は、DDBJをはじめとするDNAデータベースには登録されておらず、新規配列であることが確認された。なお、アワビ・セルラーゼcDNAの塩基配列及び翻訳アミノ酸配列、即ち、アワビ・セルラーゼの一次構造は、ヤマトシロアリ、ザリガニ、シロイヌナズナのものと、それぞれ48%、46%、31%の相同性を示すことから、本酵素はglycosil hydrolase family 9 に分類されることが明らかである。
【0077】実施例4(アワビ・セルラーゼの調製)
中型アワビ(エゾアワビ(Haliotis(Nordotis)discus hannai )、体重80g)3個体の筋肉(腹足筋)をナイフで除去した後、ハサミで吻部から中腸腺前部方向に向かって切開した。それにより、滲出した消化液をビーカーに受けた。さらに、切開部に駒込ピペットを使って5mlの10mMリン酸ナトリウム(pH7.0)を吹き込み、洗浄液をビーカー中に受けた。この洗浄はさらに2回繰り返した。3個体分についてこの操作を行い、得られた粗酵素液を合わせた後、10,000×gで10分間遠心分離した。得られた上清のタンパク質濃度は、約5mg/mlで、体積は51mlであった。従って、総タンパク質量は、約255mgであった。総タンパク質量のほか、粗酵素液のカルボキシメチルセルラーゼ活性(比活性(units/mg)、全活性(units))、精製度(fold)、収率(%)の測定値を第2表に示した。
【0078】この粗酵素液に500mlの冷蒸留水を加え、さらに、ベッド体積で20mlの10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)で平衡化したCM−Toyopearl を直接加えた。5分間静かに懸濁することにより、セルラーゼをCM−Toyopearl に吸着させ、グラスフィルターろ過により、CM−Toyopearl を集めた。これを、100mlのビーカーに取り、ここに、10mlの0.2M NaCl−10mM リン酸ナトリウム(pH7.0)を加えて静かに攪拌し、セルラーゼを溶出した。次いで、グラスフィルターでろ過し、ろ液を集めた。この担体からのセルラーゼ溶出操作は、もう一回行い、これらの溶出液を合一した。この溶出液の全タンパク質量、セルラーゼ活性(比活性(units/mg)、全活性(units))、精製度(fold)、収率(%)を第2表に示した。
【0079】
【表2】第2表(セルラーゼの簡便調製法)


【0080】第2表に示すように、本発明の方法により、比活性が2.1units/mgで、精製度が粗酵素の14倍の純度20〜30%程度のアワビ・セルラーゼを、1〜3時間で68%の収率で大量に(中型アワビ(70〜90g)の場合、1個体から5〜10mg)得られることがわかった。このセルラーゼの比活性は、従来のようにワーリングブレンダー等を用いたホモジェナイズ抽出や、先に貝殻から消化器官を切除する方法で精製したものと比較して、脂質や色素成分などの混入がなく、高い精製率のものであった。なお、CM−Toyopearl からの溶出を直線濃度勾配にすれば、より高純度のセルラーゼを得ることができる。
【0081】比較例1中型アワビ(エゾアワビ、体重80g)3個体の肝膵臓をワーリングブレンダーでホモジェナイズし、遠心分離(10,000×g)により得た上清を粗酵素液とした。これを硫安分画して得た画分(40〜70%飽和画分)及びゲルろ過によって脱塩した画分(脱塩画分)の全タンパク質量、セルラーゼ活性(比活性(units/mg)、全活性(units))、精製度(fold)、及び収率(%)を第3表に示した。
【0082】
【表3】第3表(セルラーゼの従来法による調製)


【0083】
【発明の効果】請求項1に係る本発明のセルラーゼは、新規なアミノ酸配列を有し、巻貝類由来のセルラーゼに関する遺伝的情報を提供するものである。請求項2に係る本発明のセルラーゼは、比較的低温で高活性を示し、至適pHがほぼ中性から弱アルカリ性にあり、また比活性値が糸状菌のセルラーゼより高いことから、新規なセルラーゼであることが明らかである。特に、至適pHの範囲が広いことから、従来のセルラーゼよりも広範な利用が期待できる。さらに、本発明のセルラーゼは、巻貝類に由来しており、その給源を養殖及び水産加工の際に廃棄される廃棄内臓に求めることができる。そのため、従来の糸状菌由来のセルラーゼと比較して低コストで、かつ大量に生産することが可能である。
【0084】請求項1及び2に係る本発明のセルラーゼは、地球上に最も大量に存在する多糖であるセルロースの糖化利用、セロビオース、セロトリオースなどのセロオリゴ糖の生産、飼料効率を高めるための飼料添加、製紙工業における脱墨や脱色の促進、洗剤等の用途に広く利用できると共に、本発明は養殖や水産加工に伴なう廃棄内臓の有価資源化の実現に供するものである。
【0085】また、請求項3に係る本発明の方法により、不純物である脂質や色素成分などの溶出量を最低限に抑え、活性の低下が抑制された上記請求項2に係る本発明のセルラーゼを製造することができる。しかも、本発明の方法は、加熱や激しい撹拌などの操作を必要としないので操作が簡便である。また、このセルラーゼは、抽出後に硫安分画を行わなくても、従来の抽出後に硫安分画を行って得られるセルラーゼ標品と同程度か、それ以上の純度を有している。そのため、本発明は、操作工程を省略でき、短時間で所望のセルラーゼを得ることができる有効な方法である。
【0086】そして、請求項4に係る本発明の製造方法によれば、従来の製造方法と比較して、簡便な操作で高純度のセルラーゼを、短時間で得ることができる。それ故、請求項3及び4に係る本発明の製造方法は、上記優れた特質を有し、産業上の利用性も高い請求項2に係る本発明のセルラーゼの効率的な製造方法として極めて有用である。
【0087】
【配列表】
SEQUENCE LISTING<110> 北海道ティー・エル・オー株式会社<120> 巻貝類由来のセルラーゼ及びその製造方法<130> P131224K<160> 19<210> 1<211> 2207<212> DNA<213> Haliotis(Nordotis)discus hannai<400> 1gattatagtc acttgcctaa ggagacacaa cgtgcctcac agttgcttca ctgcggggca 60ggacagaagc cctagaaact ctcaggagtc aacctgccta acaccgtcat ctccacgacc 120atcttgatta acttcatctg atttttctct tgaaagctgt gcacagatcg acgtgccaca 180acacaatttt gactcagcat aatacttttt taaagtttct atttcgctgc acgctcattc 240gtgtatcata gccattggtg tatggaaatt ttggcttcaa gataaggccg gtgacaagtg 300aggcgaggtg gggacgacta cagcgtcttc agtagacgta ccgagtcagg acaaaggaga 360caat atg ctg gtg ttt gta ctg gcg gct cta gcg gct gcg gcc tcg gcg 409 Met Leu Val Phe Val Leu Ala Ala Leu Ala Ala Ala Ala Ser Ala -15 -10 -5 -1gtg gac gtc acc atc agc aac cac tgg gac ggc ggc ttc cag ggg aag 457Val Asp Val Thr Ile Ser Asn His Trp Asp Gly Gly Phe Gln Gly Lys 1 5 10 15gcc tgc atc gcg atc acc aca gaa ctt cat agc tgg aag gcg cac ttg 505Ala Cys Ile Ala Ile Thr Thr Glu Leu His Ser Trp Lys Ala His Leu 20 25 30acg ttc tct 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【図面の簡単な説明】
【図1】 アワビの解剖図である。
【図2】 アワビの各内臓組織におけるセルラーゼの分布を示す図である。
【符号の説明】
黒色は総タンパク質量を、白色はセルラーゼ活性を示し、棒グラフの上の数値は比活性を示す。
【図3】 CM-Toyopearlクロマトグラフィーの結果を示す図である。
【図4】 CM-Toyopearlクロマトグラフィーの結果得られた各画分のSDS−PAGE及びザイモグラフィーの結果を示す図である。
【図5】 CM−III 画分についてハイドロキシアパタイト・クロマトグラフィーを行った結果を示す図である。
【図6】 ハイドロキシアパタイト・クロマトグラフィーの結果得られた各画分のSDS−PAGE及びザイモグラフィーの結果を示す図である。
【図7】 CM−III ・Hyd画分についてSephacryl S-200 ゲルろ過を行った結果を示す図である。
【符号の説明】
図3,図5及び図7中、○は吸光度を示し、●はセルラーゼ活性を示す。
【図8】 Sephacryl S-200 ゲルろ過の結果得られた各画分のSDS−PAGE及びザイモグラフィーの結果を示す図である。
【図9】 セルラーゼ活性の温度依存性(至適温度)を示す図である。
【図10】 セルラーゼ活性の熱安定性を示す図である。
【図11】 セルラーゼ活性のpH依存性を示す図である。
【図12】 セルラーゼの酵素消化物の逆相HPLCの結果を示す図である。
【図13】 各種セルラーゼのアミノ酸配列の相同性を示す図である。
【図14】 アワビ・セルラーゼをコードするcDNAの構造模式図、及び、該cDNAにおけるNdEG f1〜NdEG f4の相対位置を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 巻貝類に由来し、配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるセルラーゼ。
【請求項2】 巻貝類に由来し、下記の特性を有するセルラーゼ。
(a)作用:本酵素は、セルロースを分解して低分子化セルロース及びセロオリゴ糖を生成する。
(b)基質特異性:本酵素は、セルロースに作用する。
(c)分子量:66kDa(ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)
(d)至適温度:35〜40℃(e)熱安定性:40℃以下で安定である。
(f)至適pH:pH5.5〜8.0(g)N末端アミノ酸配列:配列表の配列番号2に記載の配列を有する。
【請求項3】 巻貝類の内臓及び/又は内臓滲出液に緩衝液又は抽出液を注入することによりセルラーゼを抽出し、必要により当該抽出操作を繰り返してセルラーゼを回収することを特徴とする請求項1又は2に記載のセルラーゼの製造方法。
【請求項4】 請求項3に記載の方法により回収したセルラーゼを冷水に加え、得られたセルラーゼ液に吸着剤を加えて攪拌してセルラーゼを当該吸着剤に吸着させた後、緩衝液を加えてセルラーゼを吸着剤から溶出させることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルラーゼの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2003−235552(P2003−235552A)
【公開日】平成15年8月26日(2003.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−34852(P2002−34852)
【出願日】平成14年2月13日(2002.2.13)
【出願人】(800000024)北海道ティー・エル・オー株式会社 (20)
【Fターム(参考)】