説明

希ガス蛍光ランプ

【課題】 発光スペクトルが連続して高い強度を有する安定した発光特性を示す希ガス蛍光ランプを提供すること。
【解決手段】 内面に蛍光体12が塗布された発光管11と、発光管11の外部に配置された一対の外部電極13、14とを有する希ガス蛍光ランプ1において、
前記蛍光体12は青色発光性蛍光体と黄色発光性蛍光体とよりなり、当該希ガス蛍光ランプから出力される放射光について、短波長側の連続発光部分のスペクトルのピーク強度と、長波長側の連続発光部分のスペクトルのピーク強度との各々が、前記短波長側のピーク強度と前記長波長側のピーク強度との平均値に対して±20%の範囲内にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希ガス蛍光ランプに関し、特に、液晶ディスプレイ検査装置の光源に用いられる希ガス蛍光ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイの製造過程において、色むら等の不具合がないか検査が行われている。液晶はそれ自体では発光しないので、液晶ディスプレイに対して光を照射する光源を配置して、入射した放射の分光密度と透過した放射束の分光密度とを測定して検査する。特定の波長について、透過した放射束の分光密度と、入射した放射の分光密度との比である分光透過率を測定して、特定の色に関して問題がないかどうか評価をしている。
【0003】
この液晶ディスプレイ検査装置の光源として、従来から冷陰極蛍光ランプが用いられている。冷陰極蛍光ランプは、適量の水銀と不活性ガス(アルゴン、ネオン、混合ガスなど)が封入された放電容器の両端に、柱状の電極が取り付けられて構成される。放電容器の内表面には蛍光体が塗布されており、蛍光体の材料として、赤:Y:Eu、緑:LaPO:Ce,Tb、青:BaMgAl1017:Euを含有する三波長蛍光体が主として用いられている。
【0004】
図5は、冷陰極蛍光ランプの発光スペクトルを示すグラフである。横軸に波長(nm)、縦軸に光出力の相対強度(a.u.)をとっている。
冷陰極蛍光ランプから放射される光は、輝線状の発光スペクトルが多く、青色領域には波長450nm、緑色領域には波長490nm、550nm、590nm、赤色領域には波長610nmの輝線がある。また、紫外領域にも、波長405nmと波長436nmの水銀の発光輝線がみられる。一方で、発光強度が極めて低い領域も存在し、例えば、波長400nm付近や波長530nm付近、波長700nm付近である。このように、冷陰極蛍光ランプの放射光は、発光スペクトルが鋭く、発光の弱い領域もある。
【0005】
図6は、冷陰極蛍光ランプを光源として用いた液晶ディスプレイ検査装置の分光透過率測定結果を示すグラフである。横軸に波長(nm)、縦軸に分光透過率(%)をとっている。
液晶ディスプレイを信号発生器により、赤、緑、青のそれぞれの発光のみにし、その各々の透過光の分光スペクトルを分光輝度計により測定し、これをIr(λ)、Ig(λ)、Ib(λ)とする。また、液晶ディスプレイに光を入射する光源の発光スペクトルも同様に分光輝度計により測定し、これをIBL(λ)とする。分光透過率は、透過した放射束の分光密度と、入射した放射の分光密度との比であり、Ir(λ)、Ig(λ)、Ib(λ)をそれぞれIBL(λ)で割った値が、各色での分光透過率Tr(λ)、Tg(λ)、Tb(λ)として求められる。図6には、この分光透過率データTr(λ)、Tg(λ)、Tb(λ)を示している。このグラフから、色再現性等の不具合がないか検査される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−202515号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】テレビジョン学会誌 Vol.48,No.9,p.1110(1994)「直視型,投射型用光源とLCDの色再現」(蕪木、田川)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図6に示す分光透過率曲線をよく観察すると、波長400nm付近や波長530nm付近、波長700nm付近に顕著にノイズがのっていて、この領域においては正確な検査ができないことがわかる。このノイズが乗っている領域は、図5に示す冷陰極蛍光ランプの発光強度が弱い領域に一致する。これより、液晶ディスプレイに入射する光が弱すぎると、正確な分光透過率を測定できないことがわかる。
このため、液晶ディスプレイの分光透過率を精度よく測定するには、検査装置に用いる光源として、発光スペクトルが連続して高い強度を有する安定した発光特性を示すものが必要となる。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、発光スペクトルが連続して高い強度を有する安定した発光特性を示す希ガス蛍光ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願第1の発明は、内面に蛍光体が塗布された発光管と、発光管の外部に配置された一対の外部電極とを有する希ガス蛍光ランプにおいて、前記蛍光体は青色発光性蛍光体と黄色発光性蛍光体とよりなり、当該希ガス蛍光ランプから出力される放射光について、短波長側の連続発光部分のスペクトルのピーク強度と、長波長側の連続発光部分のスペクトルのピーク強度との各々が、前記短波長側のピーク強度と前記長波長側のピーク強度との平均値に対して±20%の範囲内にあることを特徴とする。
また、本願第2の発明は、本願第1の発明において、前記青色発光性蛍光体の重量に対して、前記黄色発光性蛍光体の重量が2.2〜5.0倍の範囲内にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本願第1の発明に係る希ガス蛍光ランプによれば、青色発光性蛍光体の励起光である短波長側の連続発光部分のスペクトルのピーク強度と、黄色発光性蛍光体の励起光である長波長側の連続発光部分のスペクトルのピーク強度との各々を、前記短波長側のピーク強度と前記長波長側のピーク強度との平均値に対して±20%の範囲内にすることにより、可視光領域である波長400〜700nmの範囲において、短波長側でも長波長側でも、一定の出力を確保することができる。
【0012】
本願第2の発明に係る希ガス蛍光ランプによれば、青色発光性蛍光体の重量に対して、黄色発光性蛍光体の重量が2.2〜5.0倍の範囲内にすることによって、短波長側の連続発光部分のスペクトルのピーク強度と、長波長側の連続発光部分のスペクトルのピーク強度との各々を、前記短波長側のピーク強度と前記長波長側のピーク強度との平均値に対して±20%の範囲内にすることができ、可視光領域において一定の出力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の希ガス蛍光ランプの断面図
【図2】青色発光性蛍光体と黄色発光性蛍光体の発光スペクトルを示すグラフ
【図3】希ガス蛍光ランプの発光スペクトルを示すグラフ
【図4】青色発光性蛍光体と黄色発光性蛍光体との重量比を変えたときのスペクトル強度を示すグラフ
【図5】冷陰極蛍光ランプの発光スペクトルを示すグラフ
【図6】液晶ディスプレイ検査の分光透過率測定結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1(a)は、本発明の希ガス蛍光ランプ1の断面図であり、(b)はA−A’線断面図である。
図1において、希ガス蛍光ランプ1は、ガラスなど透光性の誘電材料よりなる発光管11を備え、発光管11の外表面上に、発光管11を挟んで一対の帯状の外部電極13および14が発光管11の管軸方向に沿って配設されている。発光管11の内面には可視光を発光する蛍光体12が全域にわたって塗布されている。
【0015】
これらの外部電極13、14は、導電性のものであれば特に制限されるものではなく、例えば、金、銀、ニッケル、カーボン、金パラジウム、銀パラジウム、白金、アルミニウムなどを好適に用いることができ、発光管11の外表面にテープ状金属を貼付したり、導電性ペーストをスクリーン印刷して焼成したりすることにより実現でき、ガラスペーストを焼成した保護膜により被覆されている。
発光管11を構成するガラスは、例えばバリウムガラスであり、他にはコバールガラス、タングステンガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウ珪酸ガラス、アルミノケイ酸ガラスなどを用いてもよい。
発光管11の内部に封入される希ガスは、例えばキセノン、クリプトン、アルゴン、ネオンまたはそれらの混合ガスなどであり、1.3〜40kPa程度封入される。
【0016】
発光管11の内面に塗布される蛍光体12は、13〜17μmの範囲を平均値とする厚さに形成され、ピーク波長が400〜500nmの波長域にある青色発光性蛍光体としてEu付活アルミン酸塩蛍光体BAM:Euである例えばBaMgAl1017:Euと、ピーク波長が500〜650nmの波長域にある黄色発光性蛍光体としてCe付活アルミン酸塩蛍光体の中のYAG:Ceである例えばYAl12:Ceとを主成分とする。なお、青色発光性蛍光体としては、Eu付活イットリウムシリケートである例えばYSiO:Euも用いることができる。また、青色発光性蛍光体は粒度が2〜5μmのものが用いられ黄色発光性蛍光体は粒度が4〜8μmのものが用いられる。
【0017】
外部電極13、14の間に高周波電圧が印加されると、誘電材料である発光管11を介して放電空間S内にエキシマ放電が発生し、放電空間Sの内部のキセノンガスから波長172nmの真空紫外光が放射される。このエキシマ放電により発生した真空紫外光によって蛍光体12が励起される。青色発光性蛍光体から照射される400〜500nmの波長の励起光と、黄色発光性蛍光体から照射される500〜650nmの波長の励起光とが混色され、希ガス蛍光ランプからは混色された白色光が外部に照射される。
【0018】
図2は、青色発光性蛍光体の発光スペクトルと黄色発光性蛍光体の発光スペクトルとを示すグラフである。横軸に波長(nm)、縦軸に光出力の相対強度(a.u.)をとっている。
青色発光性蛍光体による励起光の発光スペクトルは、波長400〜500nmの間にピークを有する連続発光スペクトルであり、黄色発光性蛍光体による励起光の発光スペクトルは、波長500〜650nmの間にピークを有する連続発光スペクトルである。従来技術にかかる冷陰極蛍光ランプに用いられる蛍光体と異なり、本発明の希ガス蛍光ランプに用いられる青色発光性蛍光体(BAM)と黄色発光性蛍光体(YAG)はそれぞれの励起光が、ブロードな発光スペクトルを持っていることを特徴とする。
【0019】
また、青色発光性蛍光体の発光スペクトルは波長400〜500nmの範囲の光を出力することができ、黄色発光性蛍光体の発光スペクトルは波長500〜700nmの範囲の光を出力することができる。したがって、この2つの蛍光体を重ね合わせることで、可視光領域である波長400〜700nmの範囲を連続スペクトルとして光を放射できるようになる。
【0020】
続いて、発光管11の内面に蛍光体12が塗布された希ガス蛍光ランプの製造方法について簡単に説明する。
溶媒に青色発光性蛍光体と黄色発光性蛍光体とを溶いた蛍光体塗布液を、発光管11の内面に吸い上げ、塗布した後に、空気または窒素を流して塗布膜を乾燥させることによって、発光管11の内面に塗布膜が形成される。そして、例えば500〜600℃程度の温度にて焼成することにより蛍光体12が形成される。内面に蛍光体12が形成された発光管11の両端を封止して、内部空間を排気したあとにキセノンガスを所定圧封入する。
【0021】
図3は、青色発光性蛍光体と黄色発光性蛍光体との重量比を1:3.3としたときの希ガス蛍光ランプの発光スペクトルを示すグラフである。横軸に波長(nm)、縦軸に光出力の相対強度(a.u.)をとっている。
このグラフの結果を得るために用いた希ガス蛍光ランプの構成を以下に示す。
発光管:軟質硝子、直径φ9.8mm、肉厚0.4mm、全長720mm
外部電極:銀をスクリーン印刷して焼成、フリットガラスにより被覆して保護膜が形成されている。
封入ガス:キセノンガス、13kPa
蛍光体:厚さ(平均値)13μm、青色発光性蛍光体BaMgAl1017:Eu、黄色発光性蛍光体YAl12:Ce
点灯
高周波電源:周波数50kHz、電圧1700V、入力20W/m
【0022】
図3に示されるように、波長400〜500nmの間にピークを有する発光スペクトルは、青色発光性蛍光体(BAM)による励起光であり、波長500〜650nmの間にピークを有する発光スペクトルは、黄色発光性蛍光体(YAG)による励起光である。青色発光性蛍光体(BAM)と黄色発光性蛍光体(YAG)はそれぞれの励起光が、ブロードな発光スペクトルを持っているため、この2つを重ね合わせることで、可視光領域である波長400〜700nmの範囲を連続スペクトルとして光を放射できることがわかる。
【0023】
このような原理から、短波長側の連続発光部分や長波長側の連続発光部分のスペクトルは、各々の青色発光性蛍光体(BAM)や黄色発光性蛍光体(YAG)の発光強度により、スペクトルの強度が決まる。したがって、一方の蛍光体のピーク強度が弱いと、短波長側の連続発光部分または長波長側の連続発光部分のスペクトルの強度が低下してしまう。このため、青色発光性蛍光体(BAM)の励起光のピーク強度と黄色発光性蛍光体(YAG)の励起光のピーク強度とをほぼ合わせることにより、可視光領域である波長400〜700nmの範囲において、短波長側でも長波長側でも、一定の出力を確保することができる。
【0024】
図4は、青色発光性蛍光体と黄色発光性蛍光体との重量比を変えたときの、短波長側の連続発光部分や長波長側の連続発光部分のスペクトル強度を示すグラフである。横軸に波長(nm)、縦軸に光出力の相対強度(a.u.)をとっている。
図3のグラフの結果を得るために用いた希ガス蛍光ランプと同様の構成の希ガス蛍光ランプを用いて、図4のグラフの結果を得た。ただし、青色発光性蛍光体と黄色発光性蛍光体との重量比は表1に示すものとした。
【0025】
【表1】

【0026】
図4のグラフより、短波長側と長波長側のスペクトル強度比が7:3(A)のときは、長波長側の連続発光部分のスペクトルの強度が低下してしまうことがわかる。また、短波長側と長波長側のスペクトル強度比が3:7(E)のときも、短波長側の連続発光部分のスペクトルの強度が低下してしまうことがわかる。
この結果から、短波長側のスペクトル強度および長波長側のスペクトル強度は、表1における(B)(C)(D)の条件となるときが好ましいことがわかる。すなわち、短波長側のピーク強度と長波長側のピーク強度との平均値に対してそれぞれ0.8〜1.2倍の範囲内、すなわち、±20%の範囲内にあることが好ましい。
【0027】
また、上述する短波長側のスペクトル強度と長波長側のスペクトル強度とが好ましい範囲である、表1における(B)(C)(D)のような発光スペクトルを励起する青色発光性蛍光体と黄色発光性蛍光体は、青色発光性蛍光体と黄色発光性蛍光体との重量比を、青色発光性蛍光体の重量に対して、黄色発光性蛍光体の重量が2.2〜5.0倍の範囲内とすればよいことがわかった。
【符号の説明】
【0028】
1 希ガス蛍光ランプ
11 発光管
12 蛍光体
13、14 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に蛍光体が塗布された発光管と、発光管の外部に配置された一対の外部電極とを有する希ガス蛍光ランプにおいて、
前記蛍光体は青色発光性蛍光体と黄色発光性蛍光体とよりなり、当該希ガス蛍光ランプから出力される放射光について、短波長側の連続発光部分のスペクトルのピーク強度と、長波長側の連続発光部分のスペクトルのピーク強度との各々が、前記短波長側のピーク強度と前記長波長側のピーク強度との平均値に対して±20%の範囲内にあることを特徴とする希ガス蛍光ランプ。
【請求項2】
前記青色発光性蛍光体の重量に対して、前記黄色発光性蛍光体の重量が2.2〜5.0倍の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の希ガス蛍光ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−82047(P2011−82047A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234149(P2009−234149)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】