説明

希土類元素の浸出方法

【課題】希土類元素の抽出率を80%以上に設定した場合であっても、鉄の抽出率が10%以下となる希土類元素を浸出する方法を提供する。
【解決手段】希土類元素−Fe系合金を焙焼後、酸浸出処理を施すことにより希土類元素を浸出するに際し、500〜1000℃の焙焼温度まで10℃/min以下の速度で昇温し、該焙焼温度で0.5時間以上焙焼することにより、該希土類元素−Fe系合金中のFeをFe2O3主体のFe酸化物とし、ついで酸浸出処理により希土類元素を浸出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削屑のスラッジや使用済みの廃希土類磁石などの希土類元素−Fe系合金から、酸浸出法により希土類元素を有利に浸出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、希土類磁石がハイブリッド車の駆動モータや冷蔵庫のモータなどの大型で高出力かつ高速回転向け用途を始めとして、携帯電話やデジタルビデオカメラ等の小型スピーカ向けの用途等に広く用いられている。また、この希土類磁石は省エネルギー性にも優れているため、その需要はますます拡がりつつある。
【0003】
上記の希土類磁石の成分組成としては、例えば、希土類元素が約30質量%、鉄が約65質量%、ホウ素が約1質量%が一般的である。また、希土類磁石を製造する際には、全体の約30質量%が合金屑となるが、この合金屑中にも資源として稀少で高価な希土類元素が含まれている。
従って、かかる合金屑中から希土類元素を回収することは、資源の有効利用の観点からも、経済性の観点からも重要なことである。
【0004】
また、前述したように、希土類磁石の用途が広がれば広がるほど、使用済みとなって廃棄される希土類磁石の量も増えることになる。そのため、この廃棄された希土類磁石からの希土類元素の回収も重要性を増してきている。
【0005】
これらの問題に対し、特許文献1には、希土類元素−鉄含有合金を加熱して空気酸化した後、強酸を用いた酸浸出法により、希土類元素塩を生成してろ液中に溶解し、ろ別して分離する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−83433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、表1〜4に記載されているとおり、希土類元素−鉄含有合金の加熱温度が低い場合には、希土類元素の抽出率は高くなるものの、鉄の抽出率も同時に高くなってしまうため、希土類元素のみを分離することが難しかった。一方、この合金の加熱温度を高くした場合には、鉄の抽出率は減少するものの、同時に希土類元素の抽出率も減少してしまうという問題があった。その結果、上記特許文献1に示された技術では、例えば、希土類元素の目標抽出率を80%以上と高く設定しても、それに伴い鉄の抽出率も数十%以上となってしまうため、高比率での希土類元素の浸出は実質的に望み得なかった。
また、特許文献1に記載の技術は、希土類元素の抽出に浸出液として強酸を用いることが必要であり、環境に及ぼす影響が無視できない。
【0008】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、希土類元素の抽出率を80%以上に設定した場合であっても、鉄の抽出率を10%以下に抑制することができる、希土類元素の浸出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明を完成に至らしめた実験について説明する。
まず、Fe酸化物とNd酸化物の酸浸出処理による浸出挙動を確認するために、異なる濃度の塩酸と硫酸を用いた予備試験を行った。
0.1,0.5,1.0および5.0mol/dm3 の濃度の塩酸と、0.1,0.5,1.0mol/dm3の濃度の硫酸をそれぞれ用意し、Fe203,Fe304,Nd203 (それぞれ試薬)を固液比率で10mass%となるように、単味で共栓付きの三角フラスコ中に充填してサンプルとした。
【0010】
ついで、横型振盪機を用い、振盪(浸出)温度を25,50,75℃の3水準とし、また、振盪時間:4時間および振盪速度:125spmとして、上記のサンプル入りフラスコを振盪した。
振盪終了後、取出したサンプルをろ過して、希土類元素を酸化物として回収し、ICP-AES分析することにより抽出率を求めた。
【0011】
図1(a)〜(c)に、塩酸を用いたとき、Fe203,Fe304およびNd203それぞれの浸出挙動が、浸出温度によってどのように変化するかについて調べた結果を示す。
また、図2(a)〜(c)には、同様に、硫酸を用いた場合の浸出挙動について調べた結果を示す。
図1(a)〜(c)に示したように、塩酸を用いたときは、Nd203の浸出は、温度によってそれほど大きく変化しない。一方、Fe203とFe304 の浸出は、温度によって大きく変化する。
特に、Fe203は25℃では5.0 mol/dm3の塩酸でも40%しか浸出されないのであるが、75℃では5.0 mol/dm3の塩酸で90%程度の浸出を示すことが分かる。
【0012】
さらに、図2(a)〜(c)に示したように、硫酸を浸出溶媒とした場合は、浸出温度:50℃、硫酸濃度:1.0 mol/dm3のとき、90%以上浸出することが分かる。この時、Nd203とFe203やFe304との浸出量の差が最大となることが分かる。
【0013】
次に、上記の酸化焙焼結果を踏まえ、実スラッジ(合金屑)を同様の条件で、焙焼および浸出(ただし、固液比率は10,20,30mass%とし、浸出温度は25,50℃のみ)処理し、そのときの浸出状況について調査した。なお、実験に供したスラッジの成分は、Fe:49.3%、Nd:19.5%、B:0.62%、その他30.58%である。
その結果、Fe304はNd203と同様の浸出挙動を示したのに対し、Fe203は、特定の温度や濃度の場合には、Nd203とは異なる浸出挙動を示すことが判明した。
【0014】
上記の結果によれば、Nd203に較べて浸出挙動に大きな差が生じる場合のあるFe203の方が、浸出挙動にほとんど差の無いFe304よりも、Nd203との浸出分離の可能性が高いと考えられる。
【0015】
ここで、浸出段階における浸出元素の選択性を検討する場合、電位-pH図の活用は有効な手法の一つである。
図3に、Fe-H20およびNd-H20系の25℃における電位-pH図を示す。図中のハッチングで示した領域は、FeがFe203として、ネオジムはNd3+として安定して存在する領域である。従って、このpHの領域では、ネオジムはイオンとして溶解するがFeは酸化物であるため溶解しない、つまり選択浸出の可能性が大きい領域であると考えられる。
【0016】
次に、市販のNd−Fe−B系磁石を用いて、希土類元素を効果的に酸浸出することができる条件について調査した。
実験にはニッケルめっきを施したNd−Fe−B系磁石を使用した。表1に、実験に用いた希土類磁石の成分組成であるFe、Dy、Pr、BおよびNiの質量パーセントを示す。
まず、表1の組成になる希土類磁石を用いて、450℃のマッフル炉内に5分間保持し、試料を脱磁した。ついで、脱磁後の試料を、振動ボールミルを用いて粉砕し(平均粒子径:8.1μm)、管状炉を用いて酸素ガスを0.06L/minの流量で導入しながら900℃、6時間保持をして酸化焙焼した後、一部については引き続き酸浸出処理を行った。
【0017】
【表1】

【0018】
ここに、焙焼条件は、昇温速度:10℃/minであり、保持温度:900℃、保持時間:6時間、雰囲気ガス:100%酸素、ガス流量:0.06L/minとした。
【0019】
また、酸浸出処理には、耐圧硝子製オートクレーブ(テフロン(登録商標)内筒型、容積:300cm3 なお、テフロンは登録商標である)を使用した。オイルバスにオートクレーブを入れ、溶液量を100cm3とし、溶液温度が90℃に達した時点で前記した試料を約0.1 g加えて蓋をした。その後、マグネティックスターラーを用いて溶液を撹拌した。なお、この時のその他の浸出条件は、溶液が0.02 mol/dm3の塩酸溶液、温度は180℃、浸出時間は2時間である。
所定時間後にオイルバスより取出して5分間水冷した後、メンブレンフィルターを用いてろ過し、定量測定を行った。なお、各元素はICP-AES分析により定量した。
得られた結果を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
表2に示したように、鉄の抽出率は、焙焼しない場合には56%であるのに対し、焙焼を施すと1%以下となり、焙焼を施すことによってFeの浸出を抑制できることが分かる。また、Ndをはじめとする希土類元素の浸出量は、焙焼温度までの昇温速度によって大きく変動し、通常の100℃/min程度で昇温した場合は、70%程度の抽出率しか得られなかったのに対し、10℃/minと従来よりも昇温速度を低速にした場合は、いずれの希土類元素とも99%以上という優れた抽出率を達成することができることが究明された。
【0022】
次に、上記した希土類元素の抽出率に及ぼす塩酸濃度の影響について調べた結果を図4に示す。
この時の浸出条件は、浸出温度:180℃、浸出時間:2時間である。同図より、塩酸濃度が0.01 mol/dm3以上の範囲では、希土類元素の抽出率はほぼ100%であることが分かる。
【0023】
上記試料のX線回折の結果を、図5(a)〜(c)に示す。
ここに、
図5(a)は焙焼前の試料、
図5(b)は試料(a)に、900℃,6時間の焙焼を施した試料および
図5(c)は試料(b)を、0.02mol/dm3のHCl水溶液を用いて180℃、2時間浸出した後の試料の、
X線回折結果をそれぞれ示している。
同図(a)〜(c)より、焙焼酸化によって、Ndは若干のNdFeO3 を除いて大部分がNd203となっていることが分かる。また、Feも若干のNdFeO3を除いて大部分がFe203となっていることが分かる。さらに、(c)の結果から、試料の浸出処理後は、Ndがほぼ浸出されたため、Fe203に関するピークのみが確認された。
【0024】
以上の結果より、Nd元素の抽出率を高めるためには、焙焼時にNdFeO3の複合酸化物の形成を抑制して、Nd203とする一方、Feの酸化形態については、安定した結晶構造であるFe203とすることが、Feの浸出を抑え、Ndのみを浸出するために有効であることが見出された。
本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。
【0025】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.希土類元素−Fe系合金を焙焼後、酸浸出処理を施すことにより希土類元素を浸出するに際し、500〜1000℃の焙焼温度まで10℃/min以下の速度で昇温し、該焙焼温度で0.5時間以上焙焼することにより、該希土類元素−Fe系合金中のFeをFe2O3主体のFe酸化物とし、ついで酸浸出処理により希土類元素を浸出させることを特徴とする希土類元素の浸出方法。
【0026】
2.前記希土類元素−Fe系合金が廃希土類磁石であることを特徴とする前記1に記載の希土類元素の浸出方法。
【0027】
3.前記Fe酸化物中のFe2O3の割合が50質量%以上であることを特徴とする前記1または2に記載の希土類元素の浸出方法。
【0028】
4.前記酸浸出処理における、酸性溶液の濃度が0.01-2mol/dm3の範囲であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の希土類元素の浸出方法。
【0029】
5.前記酸浸出処理が、複数段の浸出処理からなることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の希土類元素の浸出方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明に従う希土類元素の浸出方法を用いることにより、希土類磁石を製造する際に発生するスラッジおよび使用済みの廃希土類磁石などから効果的に希土類元素を抽出することができる。
また、本発明によれば、強酸性溶液を用いなくても、希土類元素の浸出が可能なので、環境に及ぼす悪影響も小さい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)〜(c)は、塩酸を用いた場合の浸出挙動を浸出温度別の結果で示した図である。
【図2】(a)〜(c)は、硫酸を用いた場合の浸出挙動を浸出温度別の結果で示した図である。
【図3】Fe-H20およびNd-H20系の25℃における電位-pH図である。
【図4】希土類元素の抽出率に及ぼす塩酸濃度の影響を示す図である。
【図5】(a)は焙焼前、(b)は900℃,6 時間の焙焼後および(c)は試料(b)を0.02 mol/dm3のHCl水溶液を用いて180℃にて2時間浸出した後の各試料のX線回折の結果をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明において対象とする希土類元素−Fe系合金は、廃希土類磁石や希土類磁石の研削屑のスラッジ等である。
また、本発明において、浸出対象としている元素は、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、ガドリニウム(Gd)、イットリウム(Y)等の希土類元素である。
【0033】
本発明では、まず、希土類元素−Fe系合金を酸化するために焙焼し、その後、酸浸出処理をして、希土類元素を浸出させるものである。その後、常法に従い、酸浸出処理後の液をろ過した後、ろ液に、蓚酸等の溶液およびpH調整用の弱アルカリ性溶液を添加し、希土類元素塩として分離沈降させる。さらに、この希土類元素塩を乾燥させ、焼成して、最終的に希土類元素の酸化物として回収する。
なお、上記の酸浸出処理に際しては、撹拌処理を施しても良い。
【0034】
本発明では、希土類元素−Fe系合金を酸化焙焼して、この希土類元素−Fe系合金中のFeを、Fe203を主体とするFe酸化物とするところに特徴がある。
上記した焙焼は、保持温度までの昇温速度、保持温度での保持時間、保持温度からの降温速度、雰囲気ガス種の各条件をそれぞれ設定することで行われるが、上記した条件の内、保持温度からの降温速度に特段の限定はない。また、本発明に用いる焙焼設備は、従来公知の焙焼設備を用いることができ、例えば、管状炉等を用いることができる。
【0035】
本発明の効果を発現させるために、特に、焙焼温度までの昇温速度が重要で、この昇温速度は、10℃/min以下とする必要がある。というのは、昇温速度が10℃/minを超えると、希土類元素とFeの複合酸化物が発生しやすくなるばかりでなく、Feの酸化物の状態も浸出しやすいFe304の生成が増大するからである。また、昇温速度の下限は特に制限はないが、あまりに昇温速度を低下させると処理時間が長大となりすぎるため、1℃/min程度とすることが好ましい。なお、従来の焙焼処理を行う場合における焙焼温度までの昇温速度は、100℃/min程度であった。
【0036】
本発明において、焙焼を施す際の保持温度は、500〜1000℃の範囲とする必要がある。というのは、保持温度が500℃に満たないと、焙焼時間が長大になりすぎる。一方、保持温度が1000℃を超えると、焙焼に用いる設備の負担が大きくなるため、焙焼を施す際の保持温度は500〜900℃の範囲とする。好ましくは700〜900℃の範囲である。
【0037】
また、焙焼処理の保持時間は、0.5時間以上とする必要がある。
というのは、0.5時間に満たないと、Fe酸化物としてFe203が主体とならないためである。一方、保持時間の上限に制限はないが、あまりに保持時間を長く取りすぎると、処理工程自体の効率が低下するため、6時間程度以下とすることが好ましい。
【0038】
以上の加熱プロファイルを経ることで、以降に行う酸浸出処理では、希土類元素の抽出率を80%以上とした場合であっても、鉄の抽出率は10%以下と、極めて低い数値に抑えることができるのである。
【0039】
本発明の焙焼処理に用いる雰囲気ガスは、従来公知の焙焼処理に用いる雰囲気ガスをいずれも用いることができるが、反応時間や燃焼性の点で、酸素分圧が0.05〜1気圧までの酸素-窒素混合ガスなどを用いることが好ましい。
【0040】
本発明では、上記した焙焼処理を施すことにより、例えば、廃希土類磁石等の中のFeは、Fe酸化物としてFe203が主体となる。ここに、Fe酸化物中のFe203の割合は、Fe酸化物中の質量比率で50質量%以上とすることが、以降に行う酸浸出処理での浸出効率が上がるため好ましい。より好ましくは、80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
なお、上記の酸化物の割合は、従来公知の質量分析方法で求めることができるが、例えば、X線回折のピーク強度比を用いて、鉄の全酸化物(希土類元素と鉄との複合酸化物含む)のピーク強度の合計とFe203のピーク強度とを比較することで求めることができる。
【0041】
次に、酸浸出処理については、その濃度を0.01〜2mol/dm3とすることができる。酸濃度が0.01 mol/dm3に満たないと、酸浸出処理時に、希土類酸化物の浸出量に対する十分な量の水素イオンが供給できず、その結果浸出処理不足を招来する。一方、2mol/dm3を超えた場合には、鉄酸化物も浸出してしまうおそれが生じる。従って、濃度は0.01〜2mol/dm3とすることが好ましい。
なお、上記酸浸出処理において、酸浸出処理温度は、10〜200℃程度とすることができる。特に、120℃以上の高温では、希土類元素の抽出効率が上がるためより好ましいが、100℃以下の処理温度でも問題はない。また、その他の浸出条件に制限はなく、従来公知の酸浸出処理条件を使用することができる。
【0042】
本発明では、前述した焙焼条件で廃希土類磁石等を処理することによって、複合酸化物の発生を抑制し、廃希土類磁石等の中のFeを、安定した結晶構造であるFe203の形態とすることで、むしろ弱酸性の領域の方が、希土類元素の抽出効果を高めることができる。なお、この場合における酸濃度は0.1〜1.0mol/dm3である。
【0043】
本発明に用いる酸種としては、塩酸の他に硝酸および硫酸を挙げることができる。
また、本発明の撹拌およびろ過の各工程に用いる手段に特段の制限はないが、撹拌にはマグネティックスターラーを用いる方法が、また、ろ過にはメンブレンフィルターを用いる方法が、それぞれ好適に使用できるため好ましい。
なお、本発明では、上記の酸浸出処理を1段だけでなく2段以上で行うこともできる。この回数に特に制限はなく、希土類元素の浸出効率等を考慮した上で適宜決めることができる。
【0044】
本発明は、浸出処理に関するものであるが、その後の工程は常法にしたがって、希土類元素を回収する。
例えば、前記した酸浸出処理後のろ液に、蓚酸、重炭酸アンモニウム、炭酸ソーダ等および弱アルカリ性溶液を添加し、ろ液中の希土類元素を希土類元素塩として分離沈降させることができる。
この条件としては、従来公知の分離沈降法に用いられる条件のいずれもが使用できるが、例えば、ろ液のpH:2〜3の溶液として分離沈降させる条件等がある。
その後、撹拌およびろ過の各工程を行う。
なお、上記した撹拌およびろ過の各工程は、酸浸出処理と同様、各工程に用いる手段に特段の制限はないが、撹拌にはマグネティックスターラーを用いる方法が、また、ろ過にはメンブレンフィルターを用いる方法等がそれぞれ好適に使用できる。
【0045】
さらに、上記の分離沈降した希土類元素塩を乾燥させ、焼成して希土類元素の酸化物として回収する。
これら条件としては、従来公知の乾燥および焼成処理に用いられる条件、そのいずれも用いることができるが、例えば、市販の電気炉で、120℃,1時間の保持をし、希土類元素塩を乾燥する。ついで、800〜1000℃,3時間で、乾燥した希土類元素塩を酸化して回収するといった手順が挙げられる。
【実施例1】
【0046】
表3に示す割合になるNd-Fe-B系の廃希土類磁石を、約5gずつ各資料No.ごとに用意した。管状炉を用いて、表4に示す条件で焙焼を行った。なお、焙焼雰囲気ガスとしては、酸素を用い、その流量は、0.06L/minとした。
【0047】
ついで、酸浸出処理を行った。
上記焙焼後の試料を冷却した後に、100メッシュに紛砕し、酸浸出処理試料とした。ついで、オイルバスにオートクレーブを入れ、このオートクレーブに表4に記載の濃度の塩酸を100cm3加え、塩酸を加えた溶液温度が90℃に達した時点で、上記の試料を約1g加えて蓋をした後、マグネティックスターラーを用いて溶液を撹拌し、希土類元素を浸出させた。なお、浸出処理には耐圧硝子製オートクレーブ(テフロン内筒型、容積:300cm3)を使用した。
さらに、2時間経過後にオイルバスより取出して5分間水冷した後、メンブレンフィルターを用いてろ過した。
【0048】
ついで、各試料中の不溶化した酸化鉄をろ紙にてろ別し、残ったろ液に1.0mol/dm3の蓚酸および弱アルカリ性溶液を添加して、希土類元素を希土類元素塩として分離沈降させ、さらにろ過して分離して乾燥し、電気炉を用い、1200℃で焼成し、希土類酸化物を得た。
この希土類酸化物の質量を測定後、希土類酸化物中の希土類元素量とFe量をICP-AES分析により測定した値と、当初の廃希土類磁石の希土類元素量とFe量とから、希土類元素とFeの抽出率を算出した。
それぞれの結果を表4に併記する。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
同表より、本発明に従う焙焼条件(昇温速度、保持温度、保持時間)を満足する実施例は、いずれもが希土類元素の抽出率で80%以上を示し、かつFeの抽出率は低く抑えられて10%以下という良好な結果が得られていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、貴重で有用な希土類元素を、その製造過程で発生する合金屑並びに廃希土類磁石などから、効果的に回収することができ、もって希少資源の有効活用に大きく貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素−Fe系合金を焙焼後、酸浸出処理を施すことにより希土類元素を浸出するに際し、500〜1000℃の焙焼温度まで10℃/min以下の速度で昇温し、該焙焼温度で0.5時間以上焙焼することにより、該希土類元素−Fe系合金中のFeをFe2O3主体のFe酸化物とし、ついで酸浸出処理により希土類元素を浸出させることを特徴とする希土類元素の浸出方法。
【請求項2】
前記希土類元素−Fe系合金が廃希土類磁石であることを特徴とする請求項1に記載の希土類元素の浸出方法。
【請求項3】
前記Fe酸化物中のFe2O3の割合が50質量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の希土類元素の浸出方法。
【請求項4】
前記酸浸出処理における、酸性溶液の濃度が0.1〜2.0mol/dm3の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の希土類元素の浸出方法。
【請求項5】
前記酸浸出処理が、複数段の浸出処理からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の希土類元素の浸出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−184735(P2011−184735A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51122(P2010−51122)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成21年9月8日発行 社団法人資源・素材学会発行の平成21年度資源・素材関係学協会合同秋季大会 資源・素材2009(札幌)予稿集の第57ページ〜第58ページのコピー 2.平成21年9月8日発行 社団法人資源・素材学会発行の平成21年度資源・素材関係学協会合同秋季大会 資源・素材2009(札幌)予稿集の第131ページ〜第132ページのコピー及び、平成21年9月8日〜平成21年9月10日開催の同大会で発表の際使用したパワーポイント資料のコピー
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】