説明

希土類焼結磁石の製造方法

【課題】希土類焼結磁石のHcJを向上させつつBrの低下を抑制すること。
【解決手段】この希土類焼結磁石の製造方法は、希土類元素を含む粉末を調整する工程と(ステップS1〜ステップS3)、得られた粉末を混合する工程と(ステップS4)、混合粉末を磁場中において成形することにより、成形体を得る工程と(ステップS5)、この成形体を焼結して焼結体を得る工程と(ステップS6)、この焼結体に、重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方を付着させる工程と(ステップS7)、重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方が付着した焼結体を誘導加熱する工程と(ステップS8)、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R−Fe−B(Rは希土類元素)系の希土類焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R−Fe−B(Rは希土類元素)の組成を有する希土類焼結磁石は、優れた磁気特性を有する磁石である。このような希土類磁石の製造方法として、焼結体に重希土類化合物を含む拡散材を塗布した後、熱処理を施す方法がある。例えば、特許文献1には、Y及びScを含む希土類元素を含有する粉末を焼結磁石体の表面に存在させた状態で、焼結磁石体及び粉末を焼結磁石体の焼結温度以下の温度で真空又は不活性ガス中において1分〜100時間熱処理を施すことにより、当該粉末に含まれていた希土類元素を焼結磁石体に吸収させることを特徴とする希土類永久磁石の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−147634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
雰囲気加熱あるいは輻射加熱により重希土類元素を焼結体の粒界相に拡散させる処理(粒界拡散処理)を行うと、焼結体の外部からの伝熱により焼結体全体が昇温する。このため、粒界拡散処理に雰囲気加熱あるいは輻射加熱を用いると、焼結体の主相及び粒界相を同時に昇温させるので、主相粒子内部へ重希土類元素が固溶し、拡散することの抑制が困難であった。その結果、粒界拡散処理に雰囲気加熱あるいは輻射加熱を用いると、HcJ(保磁力)を大幅に向上させることは困難であるという問題がある。特許文献1の製造方法は、粒界拡散処理における加熱方法については検討されておらず、粒界拡散処理を用いて希土類焼結磁石を製造する場合において、HcJを向上させることについては改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、少ない重希土類の使用量で、希土類焼結磁石のHcJを向上させつつBr(残留磁束密度)の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、希土類元素を含む粉末の成形体を焼結して焼結体を得る工程と、前記焼結体に、重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方を付着させる工程と、重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方が付着した前記焼結体を誘導加熱する工程と、を含むことを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法である。
【0007】
この希土類焼結磁石の製造方法は、焼結体の表面に、重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方を拡散材として付着させ、前記拡散材中の重希土類元素を前記焼結体の粒界相へ拡散させるための熱処理に、誘導加熱(高周波加熱)を用いる。この希土類焼結磁石の製造方法は、誘導加熱を用いることで、主相との抵抗値の差により渦電流からの発熱により粒界相を選択して加熱することができる。このため、この希土類焼結磁石の製造方法は、粒界相を主相よりも優先して加熱することができるため、昇温し、液相化した粒界相を拡散材が拡散するとともに、粒界相からの伝熱によって昇温した主相の表面付近のみに拡散材中の重希土類元素が固溶する。このような作用により、この希土類焼結磁石の製造方法は、重希土類元素の主相内部への固溶が抑制できるので、その分、粒界拡散による焼結体内部への重希土類元素の進行距離を大きくすることができる。その結果、この希土類焼結磁石の製造方法は、HcJの向上に有効であると考えられる領域、すなわち、焼結体の粒界相及び主相表面付近へ重希土類元素を多く分布させることができるので、Brの低下を最小限にし、より高いHcJを持った磁石を製造が可能となる。また、この希土類焼結磁石の製造方法は、粒界相及び主相表面付近に重希土類元素を分布させるとともに主相への重希土類元素の固溶を抑制することができるので、重希土類元素を効率よく利用することができる。その結果、この希土類焼結磁石の製造方法は、重希土類元素の使用量を抑制することもできる。また、この希土類焼結磁石の製造方法は、高周波加熱によって焼結体全体の粒界相を自己発熱させるので、焼結体内部まで迅速に加熱できる。このため、処理時間の短縮につながる。
【0008】
本発明は、希土類元素を含む粉末の成形体を焼結して焼結体を得る工程と、前記焼結体に、重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方を付着させる工程と、重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方が付着した前記焼結体の粒界相が、前記焼結体の主相よりも高温になるように加熱する工程と、を含むことを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法である。
【0009】
この希土類焼結磁石の製造方法は、焼結体の表面に、重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方を拡散材として付着させる。そして、この希土類焼結磁石の製造方法は、前記拡散材中の重希土類元素を前記焼結体の粒界相へ拡散させるための熱処理において、前記焼結体の粒界相が、前記焼結体の主相よりも高温になるように加熱する、選択加熱を用いる。このような加熱方法としては、例えば、焼結体の一端から他端に電流を流す通電加熱、アーク放電を用いた放電プラズマ加熱等がある。この希土類焼結磁石の製造方法は、選択加熱を用いることで、粒界相を主相よりも高い温度にすることができるため、昇温し、液相化した粒界相を拡散材が通過するとともに、粒界相からの伝熱によって昇温した主相の表面付近のみに拡散材中の重希土類元素が固溶する。このような作用により、この希土類焼結磁石の製造方法は、重希土類元素の主相内部への固溶が抑制できるので、その分、粒界拡散による重希土類元素の進行距離を大きくすることができる。その結果、この希土類焼結磁石の製造方法は、HcJの向上に有効であると考えられる領域、すなわち、焼結体の粒界相及び主相表面付近へ重希土類元素を多く分布させることができるので、Brの低下を最小限にし、より高いHcJを持った磁石を製造が可能となる。また、この希土類焼結磁石の製造方法は、粒界相及び主相表面付近に重希土類元素を分布させるとともに主相への重希土類元素の固溶を抑制することができるので、HcJを向上させつつBrの低下を抑制させるために、重希土類元素を効率よく利用することができる。その結果、この希土類焼結磁石の製造方法は、重希土類元素の使用量を抑制することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、少ない重希土類の使用量で、希土類焼結磁石のHcJを向上させつつBrの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法のフローチャートである。
【図2】図2は、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法で用いる加熱装置の一例を示す装置構成図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法で用いる加熱装置の他の例を示す装置構成図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法において、焼結体の表面に拡散材を付着させた状態を示す拡大図である。
【図5】図5は、評価に供した希土類焼結磁石の形状及び寸法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0013】
本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法は、希土類元素を含む粉末の成形体を焼結して焼結体を得る工程と、得られた焼結体に、重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方を付着させる工程と、重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方が付着した焼結体を誘導加熱する工程と、を含む。誘導加熱は、重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方が付着した焼結体の粒界相が主相よりも高温になるように加熱する、選択加熱の手段である。本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法は、R−Fe−B(Rは希土類元素)系の希土類焼結磁石、特にNd−Fe−B系の希土類焼結磁石を製造するにあたり、粒界拡散処理を適用する場合に好適である。なお、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法は、希土類焼結磁石であれば種類を問わず適用できる。次に、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法をより詳細に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法のフローチャートである。本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法は、希土類焼結磁石の最終組成となるように2種以上の合金を組み合わせた成形体を焼結して希土類焼結磁石を製造する。なお、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法は、1種の合金のみを用いてもよい。本実施形態では、主として焼結体(希土類焼結磁石)の主相となる主相系合金と、主として粒界相(結晶粒界相)となる粒界相系合金とを組み合わせるが、3種以上の合金を組み合わせてもよい。本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法を用いて希土類焼結磁石を製造するにあたり、ステップS1で、主相系合金及び粒界相系合金が作製される。
【0015】
主相系合金及び粒界相系合金は、例えば、ストリップキャスティング法を用いて作製される。ストリップキャスティング法によれば、主相系合金及び粒界相系合金において結晶粒の成長を抑えて、磁気特性を改善できるので好ましい。主相系合金及び粒界相系合金の作製方法はこれに限定されるものではなく、例えば、鋳造(遠心鋳造等)を用いてもよい。ステップS1は、原料合金作製工程である。
【0016】
次に、ステップS2へ進み、主相系合金及び粒界相系合金は粗粉砕される。本実施形態において、粗粉砕は、水素粉砕及び機械粉砕(例えば、ディスクミル)が用いられるが、粗粉砕の手段はこれに限定されるものではない。水素粉砕を用いる場合、本実施形態においては、主相系合金及び粒界相系合金を室温付近から100℃の間で水素雰囲気中に1時間から5時間保持して水素を主相系合金及び粒界相系合金に吸蔵させ、粉砕させる。その後、主相系合金及び粒界相系合金を500℃から700℃に昇温させて1時間から10時間程度保持することにより、主相系合金及び粒界相系合金を脱水素する。粗粉砕が終了したら、ステップS3へ進み、粗粉砕された主相系合金及び粒界相系合金の粉末は微粉砕される。本実施形態において、微粉砕は不活性ガス(例えば、Nガス)を用いたジェットミルが用いられるが、これに限定されるものではない。微粉砕によって、主相系合金から主相系合金粉末が得られ、粒界相系合金からは粒界相系合金粉末が得られる。
【0017】
微粉砕後における主相系合金粉末のD(50)粒径及び粒界相系合金粉末のD(50)粒径は、0.1μm以上10μm以下とすることが好ましい。これによって、希土類焼結磁石1の磁気特性が向上する。粒界相系合金粉末のD(50)を主相系合金粉末のD(50)よりも小さくすることが好ましい。より好ましくは、第2粉末合金のD(50)を主相系合金粉末のD(50)の1/3以下にするとよい。ここで、D(50)とは、レーザ光線のフラウンフォーファー回折法により測定されたD(50)粒径(メジアン径)をいい、累積体積比率が50%になる粒径をいう。D(50)は、例えば、測定装置(MALVERN社製マスターサイザー2000)を用いて測定された値である。
【0018】
主相系合金粉末及び粒界相系合金粉末が作製されたら、ステップS4に進み、これらを所定の比率で混合させる。本実施形態では、微粉砕後に主相系合金粉末と粒界相系合金粉末とを混合したが、原料となる合金を複数用いる場合、これらの混合は合金の段階(水素粉砕前)、粗粉砕前、微粉砕前等、粉体の成形前であればいずれでもよい。また、3種類以上の合金を使用する場合は、それぞれの合金から得られた合金粉末を混合するタイミングはそれぞれ異なっていてもよい。ただし、それぞれの前記合金粉末の粒径を制御する観点からは、微粉砕後に混合することが好ましい。
【0019】
主相系合金粉末及び粒界相系合金粉末を混合させたら、ステップS5に進み、混合した粉体を所定の形状に成形して、成形体を作製する。すなわち、本実施形態では、3種類以上の合金粉末を混合した粉体を用いて成形体を作製してもよい。成形工程では、所定の成形圧力を前記粉体に加えて成形するが、この場合、主相の微粒子を配向させるため、800kA/m以上の大きさの磁場中で成形することが好ましい。成形圧力は、10MPaから500MPa程度が好ましい。
【0020】
その後、ステップS6に進み、成形体が焼結される。ステップS6が焼結工程である。焼結工程では、ステップS5で得られた成形体が、真空(減圧雰囲気)中において、所定の温度条件で所定時間焼結されることにより、焼結体が得られる。例えば、焼結温度を1000℃から1100℃の範囲とし、1時間から10時間程度焼結する。焼結時間が短いと焼結体の密度や磁気特性にバラツキが大きくなり、焼結時間が長すぎると希土類焼結磁石1の生産性が低下する。このため、前記バラツキと前記生産性とのバランスを考慮して、焼結時間が決定される。
【0021】
焼結工程が終了したら、ステップS7に進み、焼結体に拡散材を付着させる。拡散材は重希土類元素の単体又は重希土類元素を含む化合物のいずれか一方、又は両方であってもよい。重希土類化合物としては、水素化物、酸化物、フッ化物、酸フッ化物などの軽元素との化合物、1種類以上の遷移金属との金属間化合物又は合金などがある。ここでは、一例として重希土類元素の水素化物の作製方法を挙げる。
【0022】
重希土類元素の金属単体を、水素雰囲気下で200℃から500℃の熱処理を行い、引き続き、希ガス雰囲気下で500℃から750℃の高温熱処理を行うことで、拡散熱処理に好適な重希土類二水素化物を作製することができる。また、拡散材は不活性ガス下においてスタンプミル、ボールミル又は乳鉢などによって、100nmから100μmに粉砕することが好ましい。粉砕粒径が100nm未満だと、重希土類の急激な酸化によって重希土類酸化物のみとなり目的の化合物を得られないおそれ及びハンドリングが困難になるという問題がある。粉砕粒径が100μmを超えると焼結体への均一な付着をさせられなくなる。拡散材の粒径を100nmから100μmとすることにより、目的の化合物が得られ、ハンドリングも比較的容易になり、さらに、焼結体へ均一に拡散材を付着させることができるので、生産性が向上するとともに、希土類焼結磁石の性能も確保できる。
【0023】
焼結体に拡散材を付着させる方法としては、例えば、拡散材の粒子をそのまま焼結体に吹き付ける方法(蒸着、スパッタリング又はPLD法等)、拡散材を溶媒に溶解した溶液を焼結体に塗布する方法又は拡散材の粒子を溶媒に分散させたスラリーを焼結体に塗布する方法等がある。以下では拡散材を焼結体へ均一にしかも容易に付着させることができる、スラリーを焼結体に塗布する方法を例として挙げる。
【0024】
スラリーに用いる溶媒としては、拡散材を溶解させずに均一に分散させ得るものが好ましく、例えば、アルコール、アルデヒド、ケトン等が挙げられる。必要に応じて、分散剤を用いてもよい。スラリー中の拡散材の含有量は、5質量%から75質量%が好ましい。このスラリー濃度でないと、焼結体に拡散材が均一に付着しにくくなり、熱処理後に十分な角型比が得られないおそれがある。スラリーを焼結体に塗布する場合、例えば、焼結体をスラリー中に浸漬させる方法や、スラリー中に焼結体を入れ、所定のメディアとともに攪拌する方法が挙げられる。またその他、焼結体にスラリーを滴下することによって塗布を行うこともできる。
【0025】
拡散材を付着させたら、ステップS8に進み、拡散材が表面に付着した焼結体を誘導加熱により加熱し、所定の温度で所定の時間保持する熱処理を施す。この熱処理により、拡散材を焼結体の内部へ拡散させる。本実施形態において、誘導加熱はコイルに高周波加熱を用いるが、誘導加熱の手段はこれに限定されるものではない。次に、熱処理に用いる加熱装置について説明する。
【0026】
図2は、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法で用いる加熱装置の一例を示す装置構成図である。図2に示す加熱装置10は、誘導加熱により焼結体1を加熱する。焼結体1を、加熱装置10のコイル11の中の焼結体収納部材12に収納する。コイル11は交流電源13に接続されており、電圧Vを制御され、交流電流Iが流れるようになっている。交流電流Iがコイル11に流れると、コイル11内には交番磁場が発生し、焼結体1に渦電流を誘導する。この時、焼結体1内では主相と粒界相の固有抵抗値の差によって、粒界相ではより多くのジュール熱が発生し、粒界相を選択的に加熱、溶融し、粒界相のみが液相化する。主相にもジュール熱は発生するものの、粒界相での熱発生に比較すると小さく、主相の加熱は粒界相からの熱伝導が主な加熱となる。交流電流の周波数としては、300kHz以下が好ましい。300kHzを超えると、誘導される渦電流が焼結体1の内部まで浸透せず、焼結体1の表面近傍のみが加熱されるからである。交流電流の周波数を300kHz以下とすることにより、焼結体1の内部まで加熱することができるので、拡散材をより内部まで分布させることができ、得られた希土類焼結磁石の性能を確保することができる。また、電流値としては、0.1Aから50Aが好ましい。0.1A未満では、粒界相を液相化することができないからである。50Aより大きいと主相までもが溶融し、焼結体1が変形又は完全に溶融してしまうためである。電流値を0.1A以上50A以下とすることにより、焼結体1の主相の溶融を抑えつつ、粒界相を液相化できるので、粒界相へ拡散材を分布させることができ、得られた希土類焼結磁石の性能を確保することができる。交流電源の周波数の下限としては、5Hzが好ましい。5Hz未満では、粒界相を液相化するために加熱時間を長くとる必要があり、伝熱により粒界相が主相と同等の温度となって、重希土類が主相粒子内部へ固溶してしまうおそれがあるためである。交流電源の周波数を5Hz以上とすることにより、重希土類が主相粒子内部へ固溶するおそれを低減できる。
【0027】
図3は、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法で用いる加熱装置の他の例を示す装置構成図である。図3に示す加熱装置10aは、通電加熱を用いて焼結体1を加熱する方法である。焼結体1を、加熱装置10aの第1電極14Aと第2電極14Bによって挟み込む。第1電極14Aおよび第2電極14Bは、直流電源15につながり電圧Vを制御され、直流電流Iが流れる仕組みとなっている。
【0028】
図4は、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法において、焼結体の表面に拡散材を付着させた状態を示す拡大図である。本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法は、焼結体1の表面に重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方を拡散材2として付着させる。そして、上述したステップS8において、拡散材2が付着した焼結体1を誘導加熱することにより、粒界相1Rを選択的に加熱する。このようにすると、粒界相1Rの方が主相1Mよりも温度が高くなるので、粒界相1Rは昇温し液相又は液相に近い状態になるが、主相1Mは粒界相1Rの伝熱により表面付近のみが昇温して内部は比較的低温に保たれる。粒界相1Rが昇温すると、拡散材2は粒界相1Rを移動しやすくなるので、拡散材2は粒界相1Rを通過する。液相化した粒界相1Rは焼結体1の表面へと流出し、表面に付着した拡散材2と反応し、拡散材2中の重希土類元素を焼結体1の内部へと拡散させる。このように、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法は、拡散材2が表面に付着した焼結体1を誘導加熱することにより、焼結体1の粒界相1Rが、焼結体1の主相1Mよりも高温になるように加熱される、選択加熱を実現できる。その結果、本実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法は、HcJの向上に有効であると考えられる領域、すなわち、焼結体1の粒界相1R及び主相1M表面付近のみに重希土類元素を多く分布させることができるので、Brの低下が最小限に抑えられ、かつより高いHcJを持った希土類焼結磁石を製造することができる。
【実施例】
【0029】
[希土類焼結磁石の作製]
評価に供する希土類焼結磁石として、次の手順により最終組成31.0質量%Nd−1.0質量%B−bal.FeのNd−Fe−B焼結磁石を製造した。
【0030】
[焼結体の作製]
ストリップキャスト法により主相系合金及び粒界相系合金を作製し、各合金を室温にて水素を吸蔵させることで粉砕させ、Ar雰囲気中において600℃で1時間の脱水素を行う。水素粉砕粉末に粉砕助剤を0.1質量%添加し、Nガスを用いた気流粉砕を行い、平均粒径D(50)が4μmの粉末を得た。得られた微粉を主相系と粒界相系が重量比で95:5となるように、低酸素雰囲気下で混合した。次に、混合された合金粉末を、1500kA/mの磁場中で120MPaの圧力で成形を行った。得られた成形体を真空中において1000℃で4時間焼結後、Arガス加圧条件で急冷を行った。このような手順により焼結体を作製した。
【0031】
[拡散材の作製]
焼結体の表面に付着させる拡散材は、DyHを用いた。拡散材は、次のようにして作製した。Dy粉末を水素雰囲気下において350℃で1時間水素吸蔵させ、Ar雰囲気下で600℃、1時間の熱処理を行い作製した。
【0032】
[拡散材の付着]
焼結体を3質量%硝酸/エタノールの混合溶液に3分間浸漬させた後、エタノールに1分間浸漬する処理を2回行い、焼結体の表面処理を行った。続いて、表面処理後の焼結体を、超音波を印加しながら、DyH(平均粒径10μm)をエタノールに分散させたスラリー(DyHの含有率が50質量%)に浸漬した後、スラリーが付着した焼結体を窒素雰囲気下で乾燥させた。
【0033】
[熱処理]
拡散材であるDyHを付着させた焼結体に対し、Ar雰囲気下で高周波加熱(200kHz、実効電流1A、コイル径φ15mm)による熱処理を行った。加熱保持時間を3時間としたものが実施例1であり、加熱保持時間を6時間としたものが実施例2である。比較例1として、DyHを付着させた焼結体と、比較例2としてDyHを付着させない焼結体とを用意し、雰囲気加熱炉を用いてArフロー雰囲気の下で800℃熱処理(雰囲気加熱)を各々1時間、6時間行った。いずれの例についても、熱処理後にArフロー雰囲気下において530℃で1時間の熱処理を行った。
【0034】
図5は、評価に供した希土類焼結磁石の形状及び寸法を示す斜視図である。上記手順に得られた実施例1、2及び比較例1、2に係る希土類焼結磁石Tは、図5に示すような直方体形状である。希土類焼結磁石Tの寸法は、L=14mm、W=10mm、H=5.3mmである。実施例1、2及び比較例1、2に係る希土類焼結磁石Tは、BHトレーサーを用いて磁気特性が測定された。評価結果を表1に示す。表1中のΔBr及びΔHcJは、DyHを付着させていない比較例2のBr及びHcJからの差である。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果から、DyHを付着させず雰囲気加熱を施した比較例2に対して、他のいずれの結果もHcJの向上、即ちより大きなΔHcJが認められた。しかし、DyHを付着させ雰囲気加熱処理した比較例1と比較しても、同じくDyHを付着させ加熱方法として高周波加熱を用いた実施例1及び実施例2では、より大きなΔHcJをえることができた。また実施例1及び実施例2では、Brの低下(即ちΔBr)を比較例1に対してより抑制することができた。
【符号の説明】
【0037】
1 希土類焼結磁石
1R 粒界相
1M 主相
2 拡散材
10、10a 加熱装置
11 コイル
12 焼結体収納部材
13、15 電源
14A 第1電極
14B 第2電極
T 希土類焼結磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素を含む粉末の成形体を焼結して焼結体を得る工程と、
前記焼結体に、重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方を付着させる工程と、
重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方が付着した前記焼結体を誘導加熱する工程と、
を含むことを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
希土類元素を含む粉末の成形体を焼結して焼結体を得る工程と、
前記焼結体に、重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方を付着させる工程と、
重希土類元素の単体と、重希土類元素の化合物との少なくとも一方が付着した前記焼結体の粒界相が、前記焼結体の主相よりも高温になるように加熱する工程と、
を含むことを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−204823(P2012−204823A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71210(P2011−71210)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】