説明

希土類磁石の回収方法

【課題】少なくとも希土類磁石を含む製品から、再利用可能な形態で希土類磁石を効率良く回収することのできる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、電動機や発電機の様に、希土類磁石を構成要素として含む製品を、有機溶媒中で加熱処理した後、前記製品から希土類磁石を回収する。或は、少なくとも希土類磁石および銅線を含む製品を、有機溶媒中で加熱処理することによって、前記製品から希土類磁石と銅線を同時に回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機や発電機等のように、希土類磁石を構成要素として含む製品から、少なくとも希土類磁石を効率良く回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータ(電動機)は、家電製品や各種産業機器等の様々な製品に利用されており、最近では自動車についても、モータとエンジンで走行するハイブリッド自動車や、モータのみで走行する電気自動車が普及し始めており、その利用用途が益々広がる傾向にある。
【0003】
モータには、誘導モータやブラシレス直流モータ(DCモータ)等、多くの種類が知られているが、モータのエネルギー効率向上の観点からして、誘導モータでは必要となる磁界電流が不要となり、二次銅損のない永久磁石を用いた内部磁石埋込型モータ(IPMモータ)が広く使われるようになっている。
【0004】
IPMモータの断面構造を図1(概略説明図)に示す。永久磁石1は、電磁鋼板製のロータ(回転子)3に樹脂製のモールド材(図示せず)によって固定され埋め込まれている。ロータ3の外側がステータ(固定子)2であり、スロットにコイル4を巻いて電流を流すことによって、ロータ3を回転させる。IPMモータでは、永久磁石として強力な希土類磁石を用いることで、磁束密度を高くすることができ、モータの出力向上、小型化が可能になっており、利用価値の高いものとなっている。
【0005】
IPMモータに用いられる永久磁石は、サマリウム・コバルト系磁石とネオジウム・鉄・ボロン系磁石(ネオジム磁石)等の希土類磁石が中心であるが、このうち高い磁気エネルギー積[磁束密度(B)と磁界(H)との積(BH)]を持ち、機械的強度に優れるとの理由によって、ネオジム磁石が主に用いられており、希土類磁石の90%以上の使用率を占めている。
【0006】
ネオジム磁石に用いられるネオジウム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、プラセオジム(Pr)等の希土類元素は、その価格が高価であるばかりでなく、産出国も限られているので、資源の安定的な確保の観点からも、これらの元素を効率良く回収できる方法(リサイクル法)の確立が求められている。しかしながら、ネオジム磁石のリサイクルに関しては、製造工程で発生するスクラップについてはその再利用が進められているものの、使用済のモータ(電動機)や発電機等の製品からの希土類磁石のリサイクルは困難である。その大きな原因の一つは、希土類磁石が電磁鋼板等と磁力によって強く結合しており、また樹脂製のモールド材も存在するため、解体しても手作業によりロータからから磁石を取り除き、回収することが難しいことによるものと考えられる。
【0007】
こうしたことから、これまでモータ等の製品に含まれる希土類磁石は、そのほとんどが回収、再利用されていない。特に、製品を粉砕した後に、粉砕物中に磁石が含まれていると、磁石が破砕機やコンベア等の鉄製部品に付着し、鉄、銅、アルミニウム等の有価金属のリサイクルの障害となっている。
【0008】
上記のような障害を回避するという観点から、鉄、銅、アルミニウム等の有価金属を回収するための前処理として、永久磁石の脱磁が検討されている。こうした技術として、特許文献1,2等に開示されているように、永久磁石を構成要素として含む製品を加熱炉で加熱して脱磁する方法や、特許文献3,4,5に開示されているように、モータ電圧に高周波電圧を印加し、誘導電流により発熱させて脱磁する方法等が提案されている。
【0009】
しかしながら、これまで提案されている技術では、希土類磁石を空気中で加熱することになってしまい、希土類元素が酸化物を形成することになるので、磁石として再利用するためには、改めて還元処理が必要となり、磁石成分を分別回収できたとしても非常に効率が悪くなるという問題がある。しかも、脱磁の過程では樹脂成分も同時に加熱されることになり、この樹脂成分は分解してタール成分を生成することになる。処理後のサンプルにタールが付着することから、後工程の分別回収にも悪影響を与えることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−110636号公報
【特許文献2】特開2001−313210号公報
【特許文献3】特許第3835126号公報
【特許文献4】特開2006−254699号公報
【特許文献5】特開2009−291070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、少なくとも希土類磁石を含む製品から、再利用可能な形態で希土類磁石を効率良く回収できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成することのできた本発明の希土類磁石の回収方法とは、少なくとも希土類磁石を含む製品を、有機溶媒中で加熱処理した後、前記製品から希土類磁石を回収する点に要旨を有するものである。このように有機溶媒中で加熱処理を行なうことで、空気中で加熱した場合のように、希土類磁石の酸化反応や炭化反応等の化学反応の発生を抑制しつつ、希土類磁石の脱磁を行なうことが可能になる。これによって、希土類磁石の回収が容易になるばかりでなく、回収後の希土類磁石の脱酸素や脱炭素等の処理を行なうことなく、リサイクル過程に戻すことが可能となる。
【0013】
本発明方法で対象とする製品は、少なくとも希土類磁石を構成要素として含む製品であり、こうした製品としては、エアコンや圧縮機等、様々なものが挙げられるが、電動機や発電機等が好適に適用できる。
【0014】
電動機や発電機等の製品には、希土類磁石と共に樹脂成分、例えば希土類磁石をモールドするための樹脂や、電磁鋼板とのエポキシ樹脂系の接着剤、コイルに用いられる銅線のモールド樹脂等が使用されており、本発明方法を実施することによって、希土類磁石の脱磁と併せて、これらの樹脂成分の除去を同時に行なうことができ、処理品からの希土類磁石の回収作業が容易になる。
【0015】
本発明で対象とする希土類磁石としては、サマリウム・コバルト系磁石と比べてキューリー点の低いネオジム磁石が好ましい。
【0016】
有機溶媒中での加熱温度は、希土類磁石のキューリー点以上の温度、例えばネオジム磁石の場合には、310℃以上の温度で処理することによって、完全に脱磁することができて好ましいが、キューリー点に達しない温度での処理であっても、磁石の残留磁束密度が十分低下するのであれば、同様の効果が得られることになる。
【0017】
加熱のために用いられる有機溶媒としては、水素供与性の有機化合物を含有する有機溶媒であることが好ましく、こうした水素供与性の有機化合物としてはテトラリンが挙げられる。テトラリンのような水素供与性の有機化合物を含有する有機溶媒を使用することによって、フェノール樹脂や接着剤に用いられるエポキシ樹脂などの可溶化が容易となり、加熱処理後の永久磁石や銅線の回収が更に容易となる。
【0018】
本発明方法は、少なくとも希土類磁石および銅線を含む製品を、有機溶媒中で加熱処理することによって、前記製品から希土類磁石と銅線を同時に回収することを方法も含むものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来ではリサイクルが困難であったようなモータ等に用いられている希土類磁石を、有機溶媒中で加熱処理して脱磁と同時に樹脂成分の除去を行なうことによって、簡便に回収でき、希土類磁石の効率的な再利用が可能となる。併せて、モータ等に用いられている銅線のリサイクルも希土類磁石と同時に容易に行えるようになるので、その経済的効果は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】IPMモータの断面構造を示す概略説明図である。
【図2】本発明方法を実施するための手順を示すフロー図である。
【図3】ステータ部(コイルを含む)の加熱処理前・後のサンプルの状態、および処理後のテトラリンの状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
前記図1に示した様に、永久磁石1(特に、希土類磁石)はモータのロータ3に樹脂と共に埋め込まれている。またステータ2には、樹脂でモールドされた銅線が巻かれている。この様なモータから希土類磁石を回収するためには、脱磁を行なって磁力をなくすと共に、再利用のために希土類磁石単独で分別回収するためには、モールド樹脂を効果的に除去する必要がある。
【0022】
本発明者らは、上記目的を達成するために様々な角度から検討を重ねた。その結果、
少なくとも希土類磁石を含む製品を、有機溶媒中で加熱処理すれば、希土類磁石を効果的に分別回収できることを見出し、本発明を完成した。
【0023】
図2は、本発明方法を実施するための手順を示すフロー図である。本発明方法を、図面を用いて更に詳細に説明する。電動機や発電機の様に、希土類磁石を含む製品は、有機溶媒中に入れて加熱処理が行なわれる。この際の加熱温度は、希土類磁石のキューリー点以上であることが好ましい。このキューリー点は、強磁性体が磁化を消失する温度であるが、このような温度以上で加熱処理することによって、希土類磁石の脱磁が効果的に行なわれる。
【0024】
例えば、希土類磁石がネオジム磁石の場合には、キューリー点は約310℃であるので、この温度以上で加熱処理することが好ましい。例えばネオジム磁石では、ジスプロシウム(Dy)の含有量が増加するにつれてキューリー点高くなるが、その含有量に併せて処理温度が高くなるように制御するのが良い。但し、加熱処理温度がキューリー点未満であっても、磁束密度が減少する減磁効果はあり、こうした減磁効果が発揮される限り、処理後の電動機から磁石を回収する操作が容易となる。また、実質的に脱磁が不完全であっても、減磁が起こる温度域で処理した後に磁石の回収リサイクルを行なうことも可能であり、この場合には200℃程度以上の温度で処理することで効果が認められる。処理圧力は、用いる有機溶媒の沸点によって異なるが、例えばテトラリン(テトラヒドロナフタレン:沸点約207℃)を用いる場合には、20〜40気圧(atm)の圧力で処理することが好ましく、より好ましくは20〜30気圧である。
【0025】
加熱処理の際に用いる有機溶媒としては、水素供与性の溶媒、即ち加熱することで水素ラジカルを放出する性質のある溶媒であることが好ましく、例えば上記したテトラリンを含む溶媒を用いることができる。この様にテトラリン等の水素供与性の溶媒を用いることによって、モールド樹脂や接着剤に用いられる樹脂のモノマーへの分解が容易になり、有機溶媒への可溶性が促進されることになる。尚、水素供与性の溶媒としては、テトラリン以外にも、1−メチルナフタレン、デカリン等も用いることもできるが、安定性・安全性という観点からして、少なくともテトラリンを含む溶媒であることが好ましい。
【0026】
水素供与性の有機溶媒中で処理することによって、ステータにモールドされた銅線のモールド樹脂が有機溶媒に溶解し、加熱処理した後には、希土類磁石と銅線が簡単に分別回収できることになる。即ち、希土類磁石を含むロータ、銅線が巻かれたステータを同時に有機溶媒中で加熱処理することによって、処理後に希土類磁石と銅線を不純物のない状態で回収することが可能となり、リサイクルの効率が高まることになる。
【0027】
上記のようにして分別回収される希土類磁石や銅線以外の材料(例えば、電磁鋼板、アルミニウム等)については、粉砕した後、磁力選別等の分離手法を用いてリサイクルすることができる。
【0028】
このようにリサイクルプロセスを繰り返し行なうためには、有機溶媒を使い捨てすることなく、再生して用いることが好ましい(図2)。有機溶媒の再生方法としては、例えば、減圧蒸留等の方法が利用可能であり、テトラリン等の有機溶媒を再生して繰り返し使用することが可能となる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0030】
自動車用途に用いられているIPMモータ(内部磁石埋込型モータ)において、希土類磁石(ネオジム磁石)を含むロータ部と、コイルを含むステータ部の一部を夫々切り出して試験用サンプルとして用いた。このときの処理条件は下記の通りである。即ち、有機溶媒としてテトラリンを用い、オートクレーブを用いて、テトラリン中でロータ部とステータ部の加熱処理を実施した。
[処理条件]
使用有機溶媒:テトラリン
処理温度:450℃
処理時間:30分
処理圧力:35atm
【0031】
テトラリン中で処理した希土類磁石は、そのモールド樹脂が溶媒に容易に溶解し、付着物がない状態で回収でき、また処理後の希土類磁石の残留磁束密度Brは5ガウス以下であった。
【0032】
図3(図面代用写真)にステータ部(コイルを含む)の加熱溶媒処理前・後のサンプルの状態、および処理後のテトラリンの状態を示す。処理前のステータ部には、樹脂でモールドされている銅線コイルが巻かれているが[図3(a)]、処理後のサンプルでは、モールド樹脂がテトラリン溶液に溶解して、テトラリン溶液が変色し[図3(b)]、銅線部の樹脂の多くが取り除かれていた[図3(c)]。
【0033】
以上のように、希土類磁石を利用したモータをテトラリン等の有機溶媒で加熱処理することによって、希土類磁石の脱磁が行なわれ、磁石がロータに磁力で貼り付いている状態を解消できるだけでなく、磁石のモールド樹脂を溶媒により溶解、除去でき、併せて銅線のモールド樹脂も同時に除去することが可能となる。このようなプロセスを採用することによって、製品から希土類磁石等を不純物がない状態で容易に回収することができるだけでなく銅線についても処理後にモールド樹脂を取り除いた状態で回収することが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1 永久磁石(固定子)
2 ステータ
3 ロータ(回転子)
4 コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも希土類磁石を含む製品を、有機溶媒中で加熱処理した後、前記製品から希土類磁石を回収することを特徴とする希土類磁石の回収方法。
【請求項2】
希土類磁石を含む製品が、電動機または発電機である請求項1に記載の希土類磁石の回収方法。
【請求項3】
希土類磁石を含む製品は、希土類磁石と共に樹脂成分を含むものである請求項1または2に記載の希土類磁石の回収方法。
【請求項4】
前記樹脂成分は、希土類磁石および/または銅線に用いられるモールド樹脂である請求項3に記載の希土類磁石の回収方法。
【請求項5】
希土類磁石は、ネオジム磁石である請求項1〜4のいずれかに記載の希土類磁石の回収方法。
【請求項6】
有機溶媒中での加熱温度が永久磁石のキューリー点以上の温度である請求項1〜5のいずれかに記載の希土類磁石の回収方法。
【請求項7】
前記有機溶媒は、水素供与性の有機化合物を含有する有機溶媒である請求項1〜6のいずれかに記載の希土類磁石の回収方法。
【請求項8】
水素供与性の有機化合物はテトラリンである請求項7に記載の希土類磁石の回収方法。
【請求項9】
少なくとも希土類磁石および銅線を含む製品を、有機溶媒中で加熱処理した後、前記製品から希土類磁石と銅線を同時に回収することを特徴とする希土類磁石の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−64889(P2012−64889A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209954(P2010−209954)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】