説明

希土類磁石素材回収システム

【課題】コンプレッサなどに使用されているモータ部材を部品ごとに分離または分解することにより、他の素材が混入されない希土類磁石素材を容易に回収することが可能な希土類磁石素材回収システムを提案する。
【解決手段】希土類磁石3が備えられたロータ1を有するモータ部材2から希土類磁石素材3aを回収する希土類磁石素材回収システムであって、モータ部材2からロータ1を分離させるロータ分離手段4と、分離したロータ1を加熱して、希土類磁石3を脱磁させる脱磁手段5と、脱磁した希土類磁石素材3aを備えたロータ1を分解する分解手段6と、分解したロータ1から希土類磁石素材3aを分離させて回収する磁石素材分離回収手段7とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプレッサなどに用いられるモータ部材から希土類磁石素材を回収する希土類磁石素材回収システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネやエコロジーの観点から、ハイブリッド車や電気自動車などの次世代環境対応車が持て囃され、自動車業界は各社が次々と次世代環境対応車の開発および販売を行っている。その進歩は目覚ましいものがあり、特にハイブリッド車や電気自動車の心臓部とも言えるモータやバッテリーにおいては、小型化および高性能化が図られ、今後更なる進化が問われている。またそれに伴い、レアメタルやレアアースなどの原材料は、モータに使用される希土類磁石に使用され、その調達を危惧する声も聞こえてきている。
【0003】
ところで、上記レアアース(希土類元素)を含有する希土類磁石は、ハイブリッド車など次世代環境対応車のモータだけでなく、先端技術を駆使するOA機器、家電製品にも使用されている。特に家電製品では、2000年以降に製造された比較的新しい形式のエアコンや冷蔵庫のコンプレッサ、または洗濯機のモータに希土類磁石が使用されている。
【0004】
また、家電製品の使用年数が、概ね10年程度であることを踏まえると、既存の家電リサイクルルートにおいて、既に希土類磁石を使用した家電製品、特にエアコンや洗濯機が回収されていると推測される。そこで、この家電リサイクルルートから希土類磁石を使用したエアコンや洗濯機などの家電製品を回収することにより、レアメタルやレアアースなどの再生資源を回収することが可能であると考えられる。
【0005】
しかしながら、現在使用済みの家電製品を回収し、リサイクルする過程において、エアコンや冷蔵庫のコンプレッサ、または洗濯機のモータから希土類磁石を取り出して回収することは、殆ど実施されていないのが現状である。
【0006】
なお、エアコンなどに使用されるコンプレッサのリサイクルは、複数業者によって事業化され、鉄、銅、珪素鋼板などの素材に分離して再資源化が行われているものの、ネオジム磁石などの希土類磁石の回収には至っていない。
【0007】
また、コンプレッサに用いられるモータ部材を素材ごとに分離する場合に、ロータが回転体を内包したシェルと一体的に設けられたシャフトに焼嵌めにより固着されているため、当該シャフトを切断して分離する方法、または上記ロータを固定して、上記シャフトを押し込む方法、さらに上記シェルを固定し、ロータをシェルの離間方向に圧力を加えて押し上げる方法などが考えられる。
【0008】
しかし、上記シャフトを切断する方法においては、安全性や切断刃の摩耗などの問題が生じる。また、上記ロータを固定して上記シャフトを押し込む方法においては、上記シャフトが上記ロータから出ていないものが存在していたり、また上記シャフトの位置に押し込むための治具(押しピン)を合わせることが困難であるとともに、押しピンの強度が不足するなどの問題が生じる。さらに、上記シェルを固定して、上記ロータに圧力を加える方法においては、上記ロータが変形してしまい、上記ロータに内包された磁石が取り出せないという問題が生じる。
【0009】
そこで、下記特許文献1において、鉄心、銅線および希土類を用いた永久磁石からなるモータのロータコアの窒素含有量を500ppm以上とした後に、破砕して材料選別を行う方法が提案されている。
【0010】
上記従来の方法は、上記モータコアをガス軟窒化雰囲気にて焼鈍することにより、鉄心部分が脆化して、容易に破砕が可能であるとともに、破砕片の各々に複数成分が混在する割合を抑えて、鉄、銅、希土類を用いた磁石素材に分離することが可能である。また、ロータがシャフトに焼嵌めされていた場合でも、容易に破壊することができる。
【0011】
しかしながら、この従来の方法では、ガス軟窒化雰囲気にて焼鈍した後に、上記ロータコアを破砕し、鉄、銅、希土類を用いた磁石素材を分離させるため、容易に破砕できたとしても、その後素材ごとに分離して回収する際に、例えば、鉄に銅が混入、または鉄に磁石素材が混入してしまい、特に希土類磁石を含むロータコアは、他の素材が混入すると希土類磁石素材を再資源化することが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−124841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、コンプレッサなどに使用されているモータ部材を部品ごとに分離または分解することにより、他の素材が混入されない希土類磁石素材を容易に回収することが可能な希土類磁石素材回収システムを提案することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、希土類磁石が備えられたロータを有するモータ部材から希土類磁石素材を回収する希土類磁石素材回収システムであって、上記モータ部材から上記ロータを分離させるロータ分離手段と、分離した上記ロータを加熱して、上記希土類磁石を脱磁させる脱磁手段と、脱磁した希土類磁石素材を備えた上記ロータを分解する分解手段と、分解した上記ロータから上記希土類磁石素材を分離させて回収する磁石素材分離回収手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記モータ部材は、上記ロータの中心にシャフトが嵌合されているとともに、当該シャフトの一端部に回転体を内包するシェルが一体的に設けられ、かつ上記ロータの端部から軸線方向に挿入可能な上記希土類磁石が内包されてなり、上記ロータ分離手段は、上記ロータを固定する固定手段と、上記シェルに上記ロータから離間方向に圧力を加え、上記回転体を内包する上記シェルが一体的に設けられた上記シャフトから上記ロータを分離させる圧力負荷手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0016】
そして、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記ロータは、内包された上記希土類磁石が押さえ板により固定されているとともに、当該押さえ板が上記ロータの軸線方向に挿通した少なくとも3本のピンにより固定されてなり、上記分解手段は、上記押さえ板を固定している上記ピンの位置を特定する位置特定手段と、特定した上記ピンを切削除去する切削除去手段と、上記ピンが切削除去された上記押さえ板を取り外す取外し手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0017】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記磁石素材分離回収手段は、分解した上記ロータに振動を与える振動負荷手段と、振動を与えた上記ロータに衝撃を加える衝撃負荷手段とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1〜4に記載の本発明によれば、モータ部材からロータを分離するロータ分離手段と、上記ロータに備えられた希土類磁石を脱磁する脱磁手段と、脱磁された希土類磁石素材を備えた上記ロータを分解する分解手段と、分解した上記ロータから上記希土類磁石素材を分離して回収する磁石素材分離回収手段とを備えているため、上記希土類磁石が備えられた上記ロータを有する上記モータ部材を部品ごとに分離または分解するとともに、上記ロータに備えられた希土類磁石を脱磁して、脱磁された希土類磁石素材を上記ロータから容易に分離させることができる。これにより、上記希土類磁石素材に異なる素材を混入させずに回収することができるとともに、他の部品も同一素材ごとに個別回収することができ、素材ごとに再資源化して利用することができる。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、上記ロータ分離手段は、上記ロータを固定する固定手段と、回転体を内包するシェルに上記ロータから離間方向に圧力を加える圧力負荷手段とを備えているため、上記回転体を内包する上記シェルに一体的に設けられたシャフトから、上記ロータを簡便に分離させることができる。この結果、上記ロータを変形させずに分離させることができるとともに、上記ロータから上記希土類磁石素材を容易に分離させることができる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、上記分解手段は、ピンの位置を特定する位置特定手段と、当該ピンの切削除去する切削除去手段と、当該ピンが切削除去された押さえ板を取り外す取外し手段とを備えているため、上記ロータを固定治具などに設置する際に、上記ピンの位置を気にすることなく設置することができるとともに、上記押さえ板が上記ロータに少なくとも3本の上記ピンにより固定されていても、効率良く上記ピンを切削削除して、当該押さえ板を取り外すことができる。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、上記ロータから上記希土類磁石素材を分離させる際に、振動負荷手段と衝撃負荷手段とを用いるため、上記ロータに内包されている上記希土類磁石素材を確実に分離させて取り出すことができる。これにより、希土類磁石素材とその他素材(鉄、銅、アルミ等)とを個別回収して、各々を再資源化して利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の希土類磁石素材回収システムの前工程を模した工程図を示し、(a)はシェル切断工程、(b)はステータ分離工程である。
【図2】本発明の希土類磁石素材回収システムの工程を模した工程図を示し、(a)はロータ分離工程、(b)は脱磁工程、(c)は分解工程、(d)は磁石素材分離回収工程である。
【図3】本発明の希土類磁石素材回収システムに用いられるモータ部材の概略を示し、(a)は斜視図、(b)はロータの分解図である。
【図4】図2(a)のロータ分離工程であり、(a)〜(c)は、ロータ分離手段による一連の流れを模した工程図である。
【図5】図2(b)の脱磁工程であり、脱磁手段による一連の流れを模した工程図である。
【図6】図2(c)の分解工程であり、(a)〜(f)は、分解手段による一連の流れを模した工程図である。
【図7】図2(d)の磁石素材分離回収工程であり、(a)〜(b)は、磁石素材分離回収手段による一連の流れを模した工程図、(c)はロータの孔にポールが挿入される過程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図2に示すように、本発明の希土類磁石素材回収システムの一実施形態は、ロータ分離手段4によりモータ部材2からロータ1を分離するロータ分離工程と、脱磁手段5によりロータ1に内包された希土類磁石3を脱磁する脱磁工程と、分解手段6によりロータ1を分解する分解工程と、磁石素材分離回収手段7により分解されたロータ1から希土類磁石素材3aを分離および回収する磁石素材分離回収工程とによって概略構成されている。
【0024】
ここで、モータ部材2は、図3に示すように、回転体9を内包するシェル10と、この回転体9の軸線方向の中心に、一体的に設けられているシャフト8と、このシャフト8に嵌合されている筒状のロータ1とにより構成されている。このロータ1は、軸線方向の中心に、シャフト8を挿入して嵌合する孔1dが穿設されている。また、両端端部1aに押さえ板1bが設けられている。この押さえ板1bは、筒状のロータ1と同一径により形成されているとともに、同一円周上に、孔部1eが等間隔に4箇所穿設され、かつ中心部にシャフト8が挿入される孔1hが形成されている。
【0025】
また、ロータ1は、図3(b)に示すように、押さえ板1bに穿設された孔部1eと同一箇所に、貫通孔1fが4箇所穿設されている。この貫通孔1fと押さえ板1bの孔部1eが挿通され、ピン1cが挿入されている。このピン1cを挿入後に、その両端部をかしめることにより、押さえ板1bが固定されている。
【0026】
さらに、ロータ1の円周方向に隣り合う貫通孔1f間には、希土類磁石3を挿入する磁石用貫通孔1gが形成されている。この磁石用貫通孔1gは、ロータ1の軸線方向に形成されているとともに、ロータ1の端部1aのどちらからでも挿入可能に形成されている。また、挿入されている希土類磁石3は、押さえ板1bにより、ロータ1の端部1aから外方に突出しないように構成されている。なお、挿入された希土類磁石3は、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石などである。
【0027】
また、ロータ分離手段4は、図4に示すように、門型状の筐体上部の中央に、モータ部材2のロータ1を固定する固定手段11と、上記筐体上部に固定手段11を間に挟んで対向配置され、回転体9を内包したシェル10に、ロータ1の離間方向に圧力を加えて、ロータ1を引き離す圧力負荷手段12とが設けられている。また、固定手段11は、ロータ1の側面およびロータ1のシェル10側の押さえ板1bとを固定する構造になっている。そして、負荷手段12は、固定手段11を間に挟んで対向配置された、油圧シリンダ12により構成されている。この油圧シリンダ12は、各々のシリンダの稼動方向の先端部に、シェル10の上面に当接する引き抜き板12aが設けられている。
【0028】
さらに、ロータ分離手段4には、ロータ1を取り外した後の回転体9を内包したシェル10と、このシェルと一体的に設けられたシャフト8とを回収する回収コンベア22およびシェル下部回収ボックス38を備えているとともに、分離したロータ1を回収するロータ回収ボックス23を備えている。
【0029】
また、脱磁手段5は、加熱炉24と冷却室25とを備えている。加熱炉24は、設定した温度に一定時間保持することが可能な電気炉などが用いられている。また、冷却室25は、加熱したロータ1を、例えば、空気を噴射して冷却するように構成されている。さらに、加熱炉24には、加熱した際に発生した排ガスを吸引する吸引装置26と、この吸引装置26に一方側が接続され、他方側が加熱炉24に接続された排気管24aが設けられている。
【0030】
さらに、脱磁手段5には、吸引した排ガスから有害物質や不純物を取り除くバグフィルタ27が設けられているとともに、このバグフィルタ27を介して大気へ、排ガスを排出する排出管28が設けられてる。また、冷却室25には、この冷却室25内の空気を吸引装置26により吸引するための吸引管25aが設けられている。
【0031】
また、分解手段6は、図6に示すように、ロータ1の側面をVブロックにより挟持して固定する固定治具29と、押さえ板1bを固定しているピン1cの位置を特定する位置特定手段13と、位置を特定したピン1cを切削除去する切削除去手段14と、ピン1cが切削除去された押さえ板1bをロータ1から取り外す取外し手段15とが備えられている。
【0032】
そして、位置特定手段13は、レーザポインタ13が用いられているとともに、切削除去手段14は、切削ドリル14が用いられている。また、取外し手段15は、ロータ1の端部1a側を移動可能なブラシ部材15が用いられている。そして、取外し手段15には、取り外した押さえ板1bを回収する押さえ板回収ボックス34が備えられている。
【0033】
また、磁石素材分離回収手段7は、図7に示すように、ロータ1から希土類磁石素材3aを分離させる振動負荷手段16と衝撃負荷手段17が備えられている。そして、振動負荷手段16は、振動コンベア30に振動を与える構造になっている。また、振動コンベア上には、ロータ1の貫通孔1fに挿入されるポール30aが等間隔に設けられている。このポールは、図7(c)に示すように、ロータ1の貫通孔1fに挿入し易いように、ポール30aの先端が鋭角に形成されている。
【0034】
そして、衝撃負荷手段17は、振動コンベア30の上方に配置されているとともに、ロータ1に落下させる衝撃部材が用いられている。また、振動コンベア30の下方には、ロータ1から分離した希土類磁石素材3aを回収する磁石素材回収コンベア31が設けられている。さらに、振動コンベア30の下流側には、ロータ回収ボックス33が備えられている。また、磁石素材回収コンベア31の下流側には、磁石素材回収ボックス32が備えられている。
【0035】
以上の構成からなる希土類磁石素材回収システムを用いて、希土類磁石素材3aを回収するには、まず、前処理として、図1(a)のシェル切断工程に示すように、シェル切断手段18に、作業者がコンプレッサ用のモータ部材2をセットする。このモータ部材2は、全体がシェル10によって覆われているため、例えば、プラズマトーチ21により、上部、中央部、下部と3つに切断する。
【0036】
次に、切断したシェル10の上部と中央部とをシェル回収ボックス35によって回収する。そして、回収した後に、鉄系素材として再資源化される。また、残ったシェル10の下部は、図3に示すモータ部材2と、このモータ部材2のロータ1に、ステータ20が固着された状態のまま、図1(b)のステータ分離工程に送られる。
【0037】
そして、ステータ分離工程では、作業者がモータ部材2のロータ1側を下方にして、ステータ分離手段19に落下させる。これにより、モータ部材2からステータ20のみが分離される。分離したステータ20は、さらに、鉄系素材と銅とに分離して、鉄系素材は鉄回収ボックス36によって回収し、銅は銅回収ボックス37によって回収して、鉄系素材および銅として各々再資源化される。
【0038】
また、ステータ20と分離したモータ部材2は、図2(a)に示すロータ分離工程に送られる。そして、ロータ分離工程では、図4の(a)に示すように、作業者がモータ部材2をロータ分離手段4にセットする。このときに、モータ部材2のロータ1を上側にして、ロータ1の側面およびロータ1のシェル10側の押さえ板1bを固定手段11により固定するとともに、ロータ1とシェル10との間に、油圧シリンダ12の引き抜き板12aを配置する。
【0039】
そして、図4(b)に示すように、2つの油圧シリンダ12が作動することにより、各々のシリンダの先端に設けられた引き抜き板12aがシェル10を押し下げる。これにより、回転体9を内包するシェルと一体的に設けられているシャフト8から、ロータ1が引き抜かれる。このときに、油圧シリンダ12が、シェル10を押し下げる圧力は、約25〜150kgf/cmである。そして、ロータ1から分離した回転体9を内包するシェル10は、このシェル10に一体的に設けられたシャフト8と共に、回収コンベア22に落下して、この回収コンベア22の下流側に設けられたシェル下部回収ボックス38に搬送されて回収される。そして、回収されたシェル10は、鉄系素材として再資源化される。
【0040】
さらに、分離したロータ1は、固定手段11から取り外され、ロータ回収ボックス23により回収される。回収されたロータ1は、図2(b)の脱磁工程に送られる。そして、脱磁工程では、図5に示すように、ロータ1を加熱炉24に投入して、ロータ1に内包されている希土類磁石3のキュリー温度以上に昇温し一定時間保持する。このときに、希土類磁石3が、ネオジム磁石の場合には、このネオジム磁石のキュリー温度は、330〜380℃であるため、ロータ1を加熱炉24により、380℃以上の温度で加熱し15分程度保持する。これにより、ロータ1に内包されている希土類磁石3が完全に脱磁される。
【0041】
そして、15分経過後に、ロータ1を加熱炉24から取り出して、冷却室25に搬送する。この冷却室25では、ロータ1に、例えば、空気を噴射して、次工程に支障のない温度まで冷却する。この際に、焼却残渣が残っていることを考慮して、冷却室25内の空気を吸引装置26により、冷却室25に接続された吸引管25aを介して吸引し、バグフィルタ27により有害物質や不純部を取り除いた後に、排出管28を介して、大気へ排出する。
【0042】
また、ロータ1を加熱炉24により加熱する際に、ロータ1に付着している油分や樹脂が気化または炭化するため、その排ガスを吸引装置26により、加熱炉24に接続された排気管24aを介して吸引し、バグフィルタ27により有害物質や不純物を取り除いた後に、排出管28を介して、大気へ排出する。その際に、加熱炉24から吸引した高温の排ガスは、冷却室25から吸引した空気により冷却されて、バグフィルタ27に送られる。
【0043】
そして、冷却室25により冷却されたロータ1は、図2(c)の分解工程に送られる。この分解工程では、図6(a)に示すように、作業者がロータ1を分解手段6の固定治具29にセットする。このときに、ロータ1を固定治具29の対向配置されたVブロックの間にセットすることで、当該Vブロックがロータ1を挟み込み、ロータ1が固定治具29の中央に寄って固定される。
【0044】
次に、図6(b)に示すように、作業者がロータ1と押さえ板1bとを固定しているピン1cの位置をレーザポインタ13により特定するとともに、ピン1cの数量および切削深さを特定し、その情報を制御装置に設定する。この切削深さは、押さえ板1bの厚さに、1〜3mm加えた深さに設定される。
【0045】
そして、図6(c)に示すように、作業者が上記制御装置を操作することにより、この制御装置に設定された情報に基づいて、切削ドリル14が、押さえ板1bを固定しているピン1c上に移動し、設定されている深さまで切削して、ピン1cの上部を除去する。そして、ピン1cを全て切削除去した後に、図6(d)に示すように、ロータ1を固定している固定治具29を、90°回転させて急停止させる。このときの衝撃により、押さえ板1bがロータ1から外れた場合には、押さえ板1bを押さえ板回収ボックス34により回収する。
【0046】
また、固定治具29を90°回転させたときに、押さえ板1bが外れなかった場合には、図6(e)に示すように、ブラシ部材15をロータ1の端部1a側に沿って移動させて、押さえ板1bを取り外す。そして、ロータ1から取り外した押さえ板1bを押さえ板回収ボックス34により回収する。そして、回収した押さえ板1bは、真鍮、アルミニウム、鉄系素材とに分離した後に、再資源化される。
【0047】
そして、押さえ板1bを取り外したロータ1は、図6(f)に示すように、固定治具29に固定されたまま90°回転させ、もとの状態に戻して、図2(d)の磁石素材分離回収工程に送られる。この磁石素材分離回収工程では、図7(a)に示すように、ロータ1を固定している固定治具29を、180°回転させて急停止させる。このときに、ロータ1の端部1aから希土類磁石素材3aが、自重により落下した場合には、希土類磁石素材3aを磁石素材回収ボックス32により回収する。
【0048】
次に、図7(b)に示すように、ロータ1を固定した固定治具29を振動コンベヤ30上のガイド部材39の位置まで移動させる。そして、固定治具29のVブロックを解放して、ロータ1を振動コンベア上に設けられたポール30aに落下させて、ロータ1の中心の孔1dに挿入させる。この際に、図7(c)に示すように、ポール30aの先端が鋭角に形成されているため、ロータ1の孔1dに確実に挿入される。
【0049】
また、ロータ1を落下させて、ポール30aに挿入させたときの衝撃により、ロータ1に内包されている希土類磁石素材3aが、ロータ1の磁石用貫通孔1gから分離した場合には、振動コンベア30の下方に配設されている磁石素材回収コンベア31上に落下して、この磁石素材回収コンベア31の下流側に設けられた磁石素材回収ボックス32まで搬送され、この磁石素材回収ボックス32により回収される。
【0050】
そして、振動コンベア30に設けられたポール30aに落下したロータ1は、孔1dにポール30aを挿入した状態のまま、振動負荷手段16により振動が加えられて、振動コンベア30上を搬送される。その際に、ロータ1に内包されている希土類磁石素材3aが、振動によりロータ1の磁石用貫通孔1gから分離して、振動コンベア30の下方に配設されている磁石素材回収コンベア31上に落下する。そして、磁石素材回収コンベア31の下流側に備えられた磁石素材回収ボックス32まで送られて、この磁石素材回収ボックス32により回収される。
【0051】
また、ロータ1が振動コンベア30により搬送されている際に、振動コンベア30の上方に配設された衝撃負荷手段17により衝撃部材がロータ1に落下して、ロータ1に衝撃が加えられる。これにより、振動コンベア30の振動によって分離されなかった希土類磁石素材3aが強制的に分離され、磁石素材回収コンベア31上に落下して、この磁石素材回収コンベア31の下流側に備えられた磁石素材回収ボックス32により回収される。そして、回収した希土類磁石素材3aが再資源化される。
【0052】
さらに、内包されている希土類磁石素材3aが全て分離したロータ1は、振動コンベア30の下流側に備えられたロータ回収ボックス33により回収され、鉄系素材として再資源化される。
【0053】
上述の実施の形態による希土類磁石素材回収システムによれば、モータ部材2からロータ1を分離するロータ分離手段4と、ロータ1に備えられた希土類磁石3を脱磁する脱磁手段5と、脱磁された希土類磁石素材3aを備えたロータ1を分解する分解手段6と、分解したロータ1から希土類磁石素材3aを分離して回収する磁石素材分離回収手段7とを備えているため、希土類磁石3が備えられたロータ1を有するモータ部材2を部品ごとに分離または分解するとともに、ロータ1に備えられた希土類磁石3を脱磁して、脱磁された希土類磁石素材3aをロータ1から容易に分離させることができる。これにより、希土類磁石素材3aに異なる素材を混入させずに回収することができるとともに、他の部品も同一素材ごとに個別回収することができ、素材ごとに再資源化して利用することができる。
【0054】
また、ロータ分離手段4は、ロータ1を固定する固定手段11と、回転体9を内包するシェル10に、ロータ1から離間方向に圧力を加える油圧シリンダ12とを備えているため、回転体9を内包するシェル10に一体的に設けられたシャフト8から、ロータ1を簡便に分離させることができる。この結果、ロータ1を変形させずに分離させることができる。
【0055】
そして、分解手段5は、ピン1cの位置を特定するレーザポインタ13と、ピン1cを切削除去する切削ドリル14と、ピン1cが切削除去された押さえ板1bを取り外すブラシ部材15とを備えているため、ロータ1を固定治具29などに設置する際に、ピン1cの位置を気にすることなく設置することができるとともに、押さえ板1bがロータ1に少なくとも3本のピン1cにより固定されていても、効率良くピン1cを切削削除して、当該押さえ板を取り外すことができる。
【0056】
さらに、ロータ1から希土類磁石素材3aを分離させる際に、振動負荷手段16と衝撃負荷手段17とを用いるため、ロータ1に内包されている希土類磁石素材3aを確実に分離させて取り出すことができる。これにより、希土類磁石素材3aと鉄、銅、アルミ等のその他素材とを個別回収して、各々を再資源化して利用することができる。
【0057】
なお、上記実施の形態において、ロータ1に内包されている希土類磁石3が、ネオジム磁石の場合のみ説明したが、これに限定されるものでなく、例えば、サマリウムコバルト磁石を用いた場合でも対応可能である。その場合、サマリウムコバルト磁石のキュリー温度が、750〜800℃であるため、加熱炉24の加熱温度は、800℃となる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
コンプレッサなどに用いられるモータ部材に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 ロータ
1a 端部
1b 押さえ板
1c ピン
2 モータ部材
3 希土類磁石
3a 希土類磁石素材
4 ロータ分離手段
5 脱磁手段
6 分解手段
7 磁石素材分離回収手段
8 シャフト
9 回転体
10 シェル
11 固定手段
12 油圧シリンダ(圧力負荷手段)
13 レーザポインタ(位置特定手段)
14 切削ドリル(切削除去手段)
15 ブラシ部材(取外し手段)
16 振動負荷手段
17 衝撃負荷手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類磁石が備えられたロータを有するモータ部材から希土類磁石素材を回収する希土類磁石素材回収システムであって、
上記モータ部材から上記ロータを分離させるロータ分離手段と、
分離した上記ロータを加熱して、上記希土類磁石を脱磁させる脱磁手段と、
脱磁した希土類磁石素材を備えた上記ロータを分解する分解手段と、
分解した上記ロータから上記希土類磁石素材を分離させて回収する磁石素材分離回収手段とを備えていることを特徴とする希土類磁石素材回収システム。
【請求項2】
上記モータ部材は、上記ロータの中心にシャフトが嵌合されているとともに、当該シャフトの一端部に回転体を内包するシェルが一体的に設けられ、かつ上記ロータの端部から軸線方向に挿入可能な上記希土類磁石が内包されてなり、
上記ロータ分離手段は、上記ロータを固定する固定手段と、上記シェルに上記ロータから離間方向に圧力を加え、上記回転体を内包する上記シェルが一体的に設けられた上記シャフトから上記ロータを分離させる圧力負荷手段とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石素材回収システム。
【請求項3】
上記ロータは、内包された上記希土類磁石が押さえ板により固定されているとともに、当該押さえ板が上記ロータの軸線方向に挿通した少なくとも3本のピンにより固定されてなり、
上記分解手段は、上記押さえ板を固定している上記ピンの位置を特定する位置特定手段と、特定した上記ピンを切削除去する切削除去手段と、上記ピンが切削除去された上記押さえ板を取り外す取外し手段とを備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の希土類磁石素材回収システム。
【請求項4】
上記磁石素材分離回収手段は、分解した上記ロータに振動を与える振動負荷手段と、振動を与えた上記ロータに衝撃を加える衝撃負荷手段とを備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の希土類磁石素材回収システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−175826(P2012−175826A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36081(P2011−36081)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】