説明

帯電装置およびこれを備えた画像形成装置

【課題】スコロトロン帯電装置において、ワイヤをできるだけ小径にしつつ高速印刷・高画質・高寿命を実現する。
【解決手段】スコロトロン帯電装置の放電用ワイヤ27は、タングステン製の基材27aと、その表面に施された金メッキ層27bとからなる。金メッキ層27bの長手方向の単位長さあたりの電気抵抗値を、基材27aの単位長さあたりの電気抵抗値以下とする。基材27aの電気抵抗率をRw、基材27aの断面積をSw、メッキ層27bの電気抵抗率をRc、コート層27bの断面積をScとすると、[Rc/Sc≦Rw/Sw]とする。電流がコート層27bに多く流れるため、基材27aが大きな負荷で劣化して細くなることを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、スコロトロン方式のようなコロナ放電方式の帯電装置、及びこれを備えた画像形成装置に関するものである。ここに、画像形成装置には、電子写真方式(静電記録方式)の印刷機能を有する機器・装置類を広く含んでおり、例えば、プリンター、複写単機能機、ファクシミリ、複写機能や通信機能やスキャン機能等を併有する複合機などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
レーザービームプリンターや複写機等の静電写真方式の画像形成装置においては、感光体ドラムなどの像担持体上に、画像信号に基づいてトナー像を形成し、像担持体上に形成されたトナー像を用紙などの記録媒体上に転写・定着している。
【0003】
感光体ドラムなどの像担持体上にトナー像を形成する画像形成ユニットは、像担持体の表面に均一に帯電させるため帯電装置を有しており、像担持体の帯電層を画像信号に基づいてレーザービームで除去することで像担持体に帯電潜像を形成し、ついで、静電潜像にトナー(粉状現像剤)を付着させてトナー像を形成し、このトナー像を直接に又は転写ベルトを介して記録媒体(用紙)に転写している。
【0004】
そして、像担持体の表面に帯電させる装置として、コロナ放電を利用したコロトロン帯電方式やスコロトロン帯電方式が採用されている。このうちスコロトロン帯電方式は、シールド体で囲われる部位に小径のワイヤ電極や鋸歯状の鋸歯電極を配置すると共に、ワイヤ電極又は鋸歯電極と像担持体との間にメッシュ状等のグリッド電極を配置した構成になっており、ワイヤ電極又は鋸歯電極に高電圧を印加することで、空気を局所的に絶縁破壊するコロナ放電を起こして電荷を放出するもので、像担持体へ通過する電荷量がグリッド電極で制御される。コロトロン帯電装置はグリッド電極を備えていない。
【0005】
スコロトロン帯電装置はグリッド電極を有するため、像担持体への電荷付与の均一性及び制御性に優れており、このためプリンタ等の画像形成装置で広く採用されている。プロダクションプリントと呼ばれている軽印刷領域はオフセット印刷機と事務用複写機・複合機との間に位置するもので、この領域では高速かつ高画質が要求されるが、スコロトロン帯電装置はこの要求に応え得るため、プロダクションプリントの領域ではスコロトロン帯電方式が主に用いられている。放電用の電極はワイヤが主に用いられている。
【0006】
放電用ワイヤの外径とコロナ放電との関係を見ると、ワイヤ外径が小さいほど電界の変化が大きくコロナ放電を起こすための電圧が低くてよいという特性があり、従って、放電用ワイヤはできるだけ小径であることが望ましい。電圧をできるだけ低くすることは、ワイヤにかかる負荷の低減や放電生成物(例えばオゾン)の低減の点からも有益である。例えば特許文献1にはワイヤの外径を20〜60μmとすることが開示され、特許文献2には、ワイヤの外径を30〜80μmとすることが開示されている。
【0007】
ワイヤの材質については、小径でも高い強度を有するタングステンを使用するのが一般的となっている。しかし、タングステンのみでは表層の汚れや傷によって帯電ムラが生じるという課題がある。そこで、例えば特許文献3,4に開示されているように、ワイヤ表層に金や白金のメッキ層を設けることが行われている。
【0008】
特許文献3は、研磨剤なしの清掃部材がワイヤを摺動するに際してメッキ層の磨耗を防ぐため、メッキ層の厚さを0.1〜1.5μmと規定している。他方、特許文献4では、研磨剤入りの清掃部材でより清掃効果を高める一方、表層摩耗を防ぐためにメッキ層を1.5μm以上と規定しているが、金メッキは高コストなため、請求項2では3μm以下と規定している。なお、メッキ層のような表層は、オゾンやNOxなどの放電生成物による腐食防止という機能もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許4103295号公報
【特許文献2】特許4335645号公報
【特許文献3】特開2003−50496号公報
【特許文献4】特開2009−48113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
さて、画像形成装置は、高速化、高画質化、長寿命化という相反する要求に晒されている。特に、既述したプロダクションプリント領域は印刷機の代替機能を有するため、高速化、高画質、長寿命化の要求は極めて高い。高速化への帯電装置の対応策としては間断なく電荷を供給する必要があり、そのための対策としては、帯電距離を長くすることや、単位時間あたりの供給電荷量を増やすことが考えられる。この点、前者での対応は構成上限界があり、そこで、後者の供給電荷量増加という対策を採ることが必要である。
【0011】
コロナ放電方式の帯電装置において供給電荷量を増やすためには、ワイヤへの印加電流を高くする必要がある。しかし、印加電流を高くするとワイヤが劣化しやすくなる。特に、低温低湿環境では放電によるワイヤの劣化が激しく、ワイヤに凹みが生じ、帯電均一性を損なう不具合が発生する。ここで問題になるワイヤの劣化は、ワイヤの表面が削れていく場合とは相違し、ワイヤ基材の長手方向の一部に凹みが生じて徐々に外径が細くなっていく現象である。
【0012】
そして、劣化がさらに進行すると、ワイヤが破断してしまう不具合が発生する。この点についてはワイヤの外径を大きくすればよいと解されるが、上記のとおり、印加電圧等の点からワイヤはできるだけ小径であることが好ましい。結局、高速化等への対応のための印加電流アップと長寿命化とは相反することになる。
【0013】
本願発明のこのような現状に鑑み成されたものであり、高画質・高速化で長寿命化に対応した帯電装置及び画像形成装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本願発明者たちは各請求項の構成を発明した。このうち請求項1の発明は帯電装置に係るもので、この帯電装置は、像担持体に向けて開口したシールド体と、前記像担持体に帯電させるため前記シールド体の内部に配置した放電用ワイヤとを有しており、前記ワイヤは、基材とその表面に設けたコート層とより成っている構成であって、前記ワイヤにおけるコート層の長手方向の単位長さあたりの電気抵抗値が、前記ワイヤにおける基材の長手方向の単位長さ当たりの電気抵抗値より小さい値になっている。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1において、前記ワイヤと像担持体の間にグリッド電極が配置されている、すなわち、請求項2はスコロトロン帯電装置に適用している。請求項3の発明では、請求項1又は2において、前記ワイヤへの印加電流が絶対値として−700μA以上になっている。
【0016】
請求項4の発明では、請求項1〜3のうちのいずれかにおいて、前記コート層を含むワイヤの外径が80μm以下になっている。請求項5の発明では請求項1〜4のうちのいずれかにおいて、前記ワイヤの基材はタングステンから成っている。請求項6の発明では、請求項1〜5のうちのいずれかにおいて、前記ワイヤにおけるコート層は金メッキ層になっている。なお、コート層は単層でもよいし複層構造でもよい。請求項7の発明では、請求項1〜6のうちのいずれかにおいて、前記コート層の表面は鏡面処理されている。
【0017】
本願発明は、請求項8に記載したように、請求項1〜7のうちのいずれかに記載の帯電装置を備えた画像形成装置も含んでいる。
【発明の効果】
【0018】
本願発明によると、ワイヤにおけるコート層の長手単位長さあたりの電気抵抗値がワイヤ基材の単位長さ当たりの電気抵抗値以下であるため、電流はコート層へ多く流れることになり、その結果、ワイヤ基材にかかる電気的負荷を低減して劣化を防止又は著しく抑制することが可能となる。よって、高速化に対応するために印加電流値を上げても、ワイヤはできるだけ小径を保持したままで劣化を抑制することができ、その結果、高画質と高速化と高寿命とを達成できる。
【0019】
既述のように、スコロトロン帯電方式には高画質等に優れている。従って、請求項2のようにスコロトロン帯電方式に適用すると、本願発明の真価がより強く発揮される。
【0020】
請求項3のようにワイヤへの印加電流を−700μA以上にすると、プロダクションプリント領域での高速印刷にも対応できて好適であった。既述のようにワイヤはできるだけ小径であることが好ましいが、特に、請求項4のようにコート層を含む全体として80μm以下であると好適である。
【0021】
ワイヤの基材は強度や伝導率をクリアできれば特に材質は問わないが、請求項5のようにタングステンが好適である。また、コート層は白金やニッケル等も採用可能であるが、できるだけ薄くしつつ電気抵抗を低くするという点からは、請求項6のように金を採用するのが好ましい。また、コート層を施す手段としては例えばスパッタリングも採用できるが、経済性や確実性を考慮すると請求項6のようにメッキ処理するのが好ましい。なお、メッキ処理方法は電気メッキや電解メッキなどの各種の方法を採用できる。請求項7のようにコート層を鏡面仕上げしていると放電を均一化できる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】画像形成装置の概略図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】(A)は本実施形態に係るワイヤを示す図、(B)は比較例の図である。
【図4】(A)は基材の外径とコート層の厚さとの劣化との関係を示す表、(B)は(A)のグラフである。
【図5】(A)(B)とも印加電流、基材の外径及びコート層の厚さと、劣化との関係を示す表である。
【図6】ワイヤの外径と印加電圧及び電流との関係を示す図である。
【図7】評価を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
(1).画像形成装置の概要
まず、画像形成装置の概要を図1に基づいて説明する。本実施形態は例えば毎分100枚以上プリントできる高速のプロダクションプリント領域対応機に適用しており、図1のようなフルカラー対応のタンデム構成になっている(勿論、白黒対応の単純なドラム式とすることも可能である。)。
【0025】
この画像形成装置は、二次転写ベルト2にトナー像を形成する画像形成部1、用紙カセット3、用紙カセット3から取り出されて搬送途中の用紙Pに二次転写ベルト2からトナー像を転写させる二次転写部4、トナー像を用紙Pに熱定着させる定着ローラ5等を有しており、画像が形成された用紙は排紙ローラ6で排紙トレー7に放出される。
【0026】
二次転写ベルト2は駆動ローラ8と従動ローラ9及びテンションローラ10に巻き掛けられており、二次転写部4において用紙Pを二次転写ローラ11で駆動ローラ8に向けて押圧することにより、二次転写ベルト2のトナー像が用紙Pに転写される。二次転写ベルト2の下面部に、二次転写ベルト2の送り方向に向かって順に、イエロー画像形成ユニット12Y、マゼンタ画像形成ユニット12M、シアン画像形成ユニット12C、ブラック画像形成ユニット12Kが配置されている。
【0027】
各画像形成ユニット(イメージングユニット)12Y〜12Kは、二次転写ベルト2の外周面に下方から接触した感光体ドラム13を有しており、感光体ドラム13の周囲に、感光体ドラム13の外周に帯電させる帯電器14、感光体ドラム13の外周に現像剤を転移させる現像装置15、二次転写ベルト2に転写されずに残った現像剤を除去するクリーニングユニット16が配置されている。二次転写ベルト2は、押さえローラ17によって感光体ドラム13に接触した状態が保持されている。感光体ドラム13は像担持体の一例である。
【0028】
画像形成部1の下方には露光ユニット18が配置されており、外周面全体に帯電した感光体ドラム13の外周面に露光ユニット18からレーザ光等の光を照射することにより、感光体ドラム13の外周に静電潜像を形成し、この静電潜像に現像装置15から現像剤を転移させることで感光体ドラム13にトナー像が形成され、感光体ドラム13のトナー像は二次転写ベルト2に転移する。
【0029】
(2).画像形成ユニット
次に、画像形成ユニット12Y〜12Kの構成を図2,3に基づいて説明する。各現像装置15は、感光体ドラム13の長手方向に長いハウジング21を有しており、ハウジング21の内部に、現像スリーブや攪拌装置を有しているが、本願発明との直接の関係はないので詳細は省略する。
【0030】
クリーニングユニット16は、廃トナーを回収するクリーニングブレード22及び回収スクリュー23、ローラ式の潤滑剤塗布手段24、潤滑剤均し部材25を備えている。潤滑剤塗布手段24には、ばね付勢式の押圧部材31によって固形潤滑剤32が接触している。感光体ドラム13の外周面はクリーニングユニット16により、廃トナーが除去される。また、除電も行われる。
【0031】
帯電装置14はスコロトロン帯電方式であり、感光体ドラム13に向いて開口した細長いシールドケース(シールド体)26を備えている。シールドケース26の内部には、感光体ドラム13の長手方向に延びる2本の放電用ワイヤ27が配置されている。また、シールドケース26及びワイヤ27と感光体ドラム13との間には、網板状のグリッド電極28を配置している。グリッド電極28は感光体ドラム13に近接した状態で配置されている。なお、ワイヤ27は必ずしも2本である必要はなく、1本又は3本以上であってもよい。
【0032】
図3(A)に示すように、ワイヤ27は、基材27aとその外周面に一体に設けられたコート層27bとで構成されている。ワイヤ27における基材27aの電気抵抗率をRw、断面積をSw、コート層27bの電気抵抗率をRc、断面積をScとすると、ワイヤ27の長手方向における単位長さ当たりの電気抵抗値がRc/Sc≦Rw/Swとなる構成である。見方を変えると、Sw・Sc≦Rw・Rcの関係に設定している。
【0033】
(3).実施例・評価
図3(B)は、比較対象として従来のワイヤ27′を示している。この従来のワイヤ27′はタングステンより成る基材27a′に金メッキ層27b′を設けている。基材27a′の外径は60μm、金メッキ層27b′の厚さは3 μmであり、ワイヤ27′への印加電流値を−1000μA、グリッドおよびシールドへの印加電圧を−900Vとして、低温低湿環境(10℃、15%RH)の下で100時間放電させたところ、図3(B)に示す劣化現象が見られた。
【0034】
すなわち、この従来のワイヤ27′は、上記の環境下での使用により、メッキ層27b′が剥がれただけでなく、基材27a′が細くなっている。これは、使用時の汚れや清掃部材の摺動による劣化とは異なり、放電による劣化であることがわかる。また、この劣化はメッキ層27b′を鏡面処理しているにもかかわらず、特定の周期で局所的に発生しており、劣化がワイヤ基材27a′に生じる電気抵抗に起因していると考えられる。
【0035】
そこで、本願発明では、電源からの接点から流れる電流の状態を制御し、基材27aに発生する電気抵抗を少なくすれば劣化を抑制できると着想し、ワイヤ27の構成を工夫することで、ワイヤ27の長手方向における単位長さあたりの電気抵抗値を制御することとした。具体的には、基材27aの外径とコート層27bの厚さとを工夫した。この点を次に説明する。
【0036】
図4(A)の表1では、タングステンより成る基材27aの外径と金メッキ層より成るコート層27bの厚さとの関係を変えた場合に、どのように劣化するかを示している。ワイヤ27に印加される電流値Icは−800μA、グリッド電極28及びシールドケース26の印加電圧は−900Vであり、所定時間放電させた後の劣化度合いを3段階で示している。○は凹みが未発生、△は軽微な凹みが発生、×は図3(B)のように外径が細くなる状態が発生していることを示している。この表1から、単純にメッキ厚を厚くすれば良いというわけではなく、コート層27bの厚さが同じでも基材27aの外径が大きくなると劣化しやすくなることが判る。
【0037】
そこで、図4(B)のグラフに示すように、ワイヤ27の長手方向における単位長さあたりのタングステンと金との電気抵抗値の比率を縦軸にとり、横軸にメッキ層(コート層27b)の厚さを取って比較した。これは電流がワイヤ27をどのように流れるかを示している。この比率は、基材27aの長手方向における単位長さ当たり電気抵抗値を1としたときのメッキ層27bの単位長さあたりの電気抵抗値の比率であるので、縦軸の数値が1より小さいときは、メッキ層(コート層27b)に電流が多く流れることを示している。そして、メッキ層(コート層27b)に電流が多く流れる範囲、つまり本発明の請求範囲において、所定時間放電させた後の劣化は未発生であった。
【0038】
次に、印加電圧との関係を検討する。ワイヤ27の劣化は放電に起因しており、電流値が上がると劣化は促進される。図5(A)の表2で電圧と劣化との関係を表している。表2で使用したワイヤ27は、基材をタングステン製で外径が30μmであり、これに厚さ厚1.5μmの金メッキが施されている。電流値Icを変えて劣化状態を見た。グリッド電極およびシールドへの印加電圧は−900Vであり、低温低湿環境(10℃、15%RH)にて放電耐久試験を行った結果を示す。○は凹みが未発生、△は軽微な凹みが発生、×は外径が細くなる状態が発生していることを示している。
【0039】
この表2から、印加電流値が高くなるほど劣化が促進される傾向を確認できる。高速化対応により、一般にlcは−700μA以上で使用されるが、このようにlcが−700μA以上となると、従来は耐久性が低下する。
【0040】
そこで本発明の構成として、タングステン製の基材27aの外径を30μm、金メッキ層の厚さを3μmとして、表2の場合と同様の放電耐久試験を行った。その結果を図5(B)の表3に示す。この表3から、Ic=−700μA以上においてもワイヤ劣化は抑制されていることがわかる。なお、参考として、さらに高い電流値のIc=−2000μAの場合も示している。このような非常に高い電流値で劣化は見られるが、本願発明では劣化する時間は遅くなり、劣化が抑制されている事実を確認できる。
【0041】
次に、ワイヤ27の外径との関係に触れる。図6のグラフに示すように、外径が大きくなるほどコロナ放電が起きる電圧Vcが高くなり、劣化には不利な条件となる。また、表1のうち基材27aの外径が70μmでメッキ層の厚さが6μmのとき、ワイヤ27の全体の外径は82μmとなる。この条件は本願発明の範囲外であり、本願発明の範囲内とするにはメッキ層の厚さをより厚くせねばならず、するとコストが嵩む。そこで、請求項4ではワイヤの外径を80μm以下としている。
【0042】
本願発明では、基材27aの材質はタングステンが好ましい。既知の金属ではタングステンが最も強度が高いため、小径ワイヤとして一般的に用いられている。本発明としてもタングステンによる検証を主に行っている。ただし、タングステン以外のモリブデン、タンタルを用いて実施した結果、請求項1に示した範囲で同様の効果があることを確認した。特にタンタルは材質固有の電気抵抗率が高く、基材側に流れにくくなり、薄いコート層でも本発明の請求範囲とすることができる。もとより、本願発明ではこれら以外の材料を使用できる。敢えて述べるまでもないが、合金も使用できる。
【0043】
本願発明では、コート層27bは金メッキ層が好ましい。金メッキはワイヤの耐腐食性が高いことや導電率が高いことなどから一般的に用いられる。本発明としても金メッキによる検証を主に行っている。ただし、金以外で腐食に強く一般的に用いられる材質の白金、ニッケルも使用できるが、これらは材質固有の電気抵抗率が高く、金メッキよりはるかに厚くする必要がある。タングステン基材27aに対して白金やニッケルのコート層27bを施すのは難しいが、基材がタンタルであればコート層27bとして白金やニッケルを使用できる(図7の表4参照)。コート層27bは金、白金、ニッケル以外の金属も使用できる。また、処理方法はメッキには限らず、スパッタリングでも構わない。
【0044】
本実施形態では、コート層27bであるメッキ層は鏡面処理している。鏡面処理しない場合は、表面が粗いため放電によるムラが発生しやすくなる。つまり放電による劣化も局所的に発生してしまう。
【0045】
図7(表4)では、実施例および比較例について、ワイヤの構成と長手方向の単位長さあたりの電気抵抗値を示している。ワイヤの長手方向の単位長さあたりの電気抵抗値の測定については、基材27aの単体の電気抵抗値測定、及び、コート層27bがある状態での電気抵抗値測定を実施し、両者の差からのコート層27bの電気抵抗値を算出している。
【0046】
表4では4段階の評価をし、◎は凹みが末発生、○は未発生だが変色あり、△は凹み発生だが問題なく使用可能、×はワイヤ径が細くなり放電ムラが発生するとしている。この表4の結果から、請求項1の条件であれば、所定時間放電後の劣化状態が良いことが示されている。
【0047】
さて、従来技術の特開2009−48113号公報では、研磨剤入りの清掃部材を前提条件とし、請求項1で金メッキ層の厚さを1.5μm以上とし、請求項2で金メッキ層の厚さを3μm以下とし、請求項3でタングステンワイヤ基材の外径を40〜60μmとしているが、図5から理解できるように、この特開2009−48113号公報の構成は本願発明の範囲から外れていることを理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本願発明はプリンター等の画像形成装置に具体的に適用できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 画像形成部
2 二次転写ベルト
12Y〜12K 画像形成ユニット
13 感光体ドラム
14 帯電装置
15 現像ユニット
16 クリーニングユニット
26 シールドケース
27 ワイヤ
27a 基材
27b コート層
28 グリッド電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体に向けて開口したシールド体と、前記像担持体に帯電させるため前記シールド体の内部に配置した放電用ワイヤとを有しており、前記ワイヤは、基材とその表面に設けたコート層とより成っている構成であって、
前記ワイヤにおけるコート層の長手方向の単位長さあたりの電気抵抗値が、前記ワイヤにおける基材の長手方向の単位長さ当たりの電気抵抗値より小さい値である、
画像形成装置用の帯電装置。
【請求項2】
前記ワイヤと像担持体の間にグリッド電極が配置されている、
請求項1に記載した画像形成装置用の帯電装置。
【請求項3】
前記ワイヤへの印加電流が絶対値として−700μA以上である、
請求項1又は2に記載した画像形成装置用の帯電装置。
【請求項4】
前記コート層を含むワイヤの外径が80μm以下である、
請求項1〜3のうちのいずれかに記載した画像形成装置用の帯電装置。
【請求項5】
前記ワイヤの基材はタングステンから成っている、
請求項1〜4のうちのいずれかに記載した画像形成装置用の帯電装置。
【請求項6】
前記ワイヤにおけるコート層は金メッキ層である、
請求項1〜5のうちのいずれかに記載した画像形成装置用の帯電装置。
【請求項7】
前記コート層の表面は鏡面処理されている、
請求項1〜6のうちのいずれかに記載した画像形成装置用の帯電装置。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれかに記載の帯電装置を備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−220627(P2012−220627A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84559(P2011−84559)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】