説明

帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】帯電防止付与効果に優れ、好ましくは近赤外線吸収性や可視光線透過性にも優れたコーティング用水溶性樹脂組成物を提供せんとする。
【解決手段】水溶性樹脂を含有する水溶液中に金属硫化物微粒子が分散してなる構成を備えた帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物を提案する。この組成物を基材表面に塗布すれば、水分の揮発に伴い、水溶性樹脂中に金属硫化物微粒子が分散してなる帯電防止層(塗膜を含む)が基材表面に形成され、基材に帯電防止機能を付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止層(膜を含む)を形成し得るコーティング用水溶性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の窓やインテリア部材、光学部品、光ディスク、ガレージやテラス等の屋根材などに使用されるプラスチック部材や、プラスチックフィルムなどは、帯電して埃等が付着し易いため、その表面に帯電防止機能を備えたものが好ましい。また、医療機関やクリーンルームの内装面やパネル等の設置物についても、埃の付着を防ぐために帯電防止機能を備えることは重要である。
【0003】
プラスチック部材やプラスチックフィルムの表面に帯電防止機能を付与する方法としては、帯電防止フィルムを積層したり、帯電防止剤を蒸着したりする方法を挙げることができるが、コーティングによって帯電防止層(膜を含む)を形成する方法は、簡便であって、しかも層厚を自在に調整でき、さらには既存の設備に帯電防止機能を付与することができる点で優れた方法である。
【0004】
帯電防止層を形成するためのコーティング用組成物としては、例えばアンチモン酸亜鉛、アンチモンをドープした酸化スズや酸化インジウム、スズをドープした酸化インジウム或いはカーボンブラックなどの導電性微粒子をコーティング剤に分散させてなる組成物が開示されている(特許文献1−5)。
【0005】
また、特許文献6には、親水性ウレタン(メタ)アクリレート樹脂と、分子内に酸塩基のイオン対および/またはベタイン構造を有する樹脂化合物と、多官能(メタ)アクリレート樹脂とを含有する帯電防止コーティング剤組成物が開示されている。
【0006】
さらにまた、特許文献7には、カチオン性樹脂エマルジョンに、ポリピロールからなる導電性樹脂コロイドを配合したものであつて、ゼータ電位−10mV以下に調整してなる透明帯電防止剤が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−244618号公報
【特許文献2】特開平10−235807号公報
【特許文献3】特開平6−263903号公報
【特許文献4】特開2004−107529号公報
【特許文献5】特開2004−269621号公報
【特許文献6】特開2004−43790号公報
【特許文献7】特開2005−206618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ガレージの屋根材等にコーティングすることを想定すると、帯電防止層を形成して埃の付着を防ぐことは勿論有効であるが、近赤外線吸収性や可視光線透過性を付与することができればさらに好ましい。
【0009】
また、帯電防止用組成物の製造方法に関しては、所定の導電性微粒子をコーティング剤に配合するのではなく、より一層原料の選択の幅が広がり、より安価に製造することができる製造方法が望ましい。
【0010】
そこで、本発明は、帯電防止付与効果に優れており、好ましくは近赤外線吸収性や可視光線透過性にも優れたコーティング用水溶性樹脂組成物、並びにこれの新たな製造方法を提案せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水溶性樹脂を含有する水溶液中に金属硫化物微粒子が分散してなる構成を備えた帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物を提案する。
【0012】
かかる帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物を基材表面に塗布すれば、水分の揮発に伴い、水溶性樹脂中に金属硫化物微粒子が分散してなる帯電防止層(塗膜を含む)が基材表面に形成され、基材に帯電防止機能を付与することができる。
よって、本発明は、上記の水溶性樹脂中に金属硫化物微粒子が分散してなる被覆層を基材上に備えた帯電防止積層体をも同時に提案するものである。
この際、基材としては、プラスチックフィルムやシートをはじめ、自動車の窓やインテリア部材、光学部品、光ディスク、ガレージやテラス等の屋根材などに使用されるプラスチック部材、医療機関やクリーンルームの内装面やパネル等の設置物など、帯電防止を図る必要のある様々な部材を挙げることができる。
【0013】
本発明の帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物において、上記金属硫化物微粒子は、肉眼では視認できない程の微粒子、すなわち平均粒子径が1μmより小さいナノレベルの金属硫化物微粒子であるのが好ましい。
この際、平均粒子径が1μmより小さな金属硫化物微粒子の判別は、電子顕微鏡観察により判定することも可能であるが、肉眼による目視にて視認できない大きさであれば当該金属硫化物微粒子と判定してもよい。すなわち、本発明において「粒子径が1μmより小さい金属硫化物微粒子」は、肉眼による目視にて視認できない大きさの金属硫化物微粒子と言い換えることができる。
【0014】
上記金属硫化物微粒子がこのようなナノレベルの金属硫化物微粒子であれば、塗布して形成される帯電防止層(塗膜を含む)が、帯電防止機能のほかに、近赤外線吸収性及び可視光線透過性を備えるようになるため、様々な透明基材に、可視光線透過性を妨げることなく、帯電防止機能と共に近赤外線吸収性を付与することができる。具体的には、例えばガレージやテラス等の屋根材などにコーティングすれば、帯電防止機能を付与して埃の付着を防止できるばかりか、明るさを維持しつつ、近赤外線を吸収して屋根材下の温度上昇を防ぐことができる。
【0015】
本発明はまた、帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物の新たな製造方法として、金属化合物と、硫黄及び/または硫黄化合物と、水溶性樹脂を含有する水溶液とを混合し、金属化合物の金属と硫黄及び/または硫黄化合物の硫黄とを反応させて金属硫化物微粒子を合成し、水溶性樹脂を含有する水溶液中に金属硫化物微粒子が分散してなる水溶性樹脂組成物を製造することを提案するものである。
【0016】
このように、水溶性樹脂を含有する水溶液中で、金属化合物の金属と硫黄及び/または硫黄化合物の硫黄とを反応させて金属硫化物微粒子を合成することにより、肉眼では視認できない微粒子、すなわち1μmより小さいナノレベルの金属硫化物微粒子を合成することができ、同時に該微粒子を水溶液中に均一分散させることができる。
本発明の製造方法は、従来のように、所定の導電性微粒子をコーティング剤に単に配合するのではなく、当該導電性微粒子をコーティング剤中で合成するものであるから、原料の選択の幅が広がり、帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物をより安価に製造することができる。
【0017】
なお、本明細書において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意であり、「好ましくはXより大きく、Yより小さい」の意を包含するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の一例について説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本実施形態に係る帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物(以下「本コーティング用樹脂組成物」という)は、水溶性樹脂を含有する水溶液中に金属硫化物微粒子が分散してなる構成を備えた樹脂組成物である。
【0020】
(水溶性樹脂を含有する水溶液)
本コーティング用樹脂組成物に用い得る水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、水溶性ポリビニルセタール、水溶性ポリビニルホルマール、水溶性ポリエステル、ポリアクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸、水溶性ポリ(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル樹脂、ポリ(エチレン−CO−アクリル酸)、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、水溶性マレイン酸樹脂、アルジネート、メチルセルロース,エチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,蛋白質、澱粉等、或いはこれらの変性体等を挙げることができる。これらは単独で用いることも、2種以上を組み合わせて併用することもできる。これらの水溶性樹脂の中でも、ポリビニルアルコール、或いは、水溶性ポリビニルアセタール、水溶性ポリビニルホルマール等のポリビニルアルコール誘導体は、コーティング性及び耐薬品性に優れ、しかも安価であるという点で特に好ましい。
【0021】
上記の水溶性樹脂は、水或いは水とアルコールを加えて水溶液を調製することができる。この際、必要に応じて、成膜性等を向上させるために可塑剤を添加してもよい。可塑剤としては、例えばグリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0022】
(金属硫化物微粒子)
本コーティング用樹脂組成物に用い得る金属硫化物は、金属元素及び硫黄元素を含有する化合物であり、当該金属元素としては、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi、Ti、Zr、Hf等の金属元素を挙げることができる。中でも帯電防止性能および近赤外線吸収性能の点でCuが特に好ましい。
【0023】
本コーティング用樹脂組成物に用い得る金属硫化物微粒子は、肉眼による目視にて視認できない大きさ、すなわち平均粒子径が1μmより小さい微粒子、中でも、電子顕微鏡観察による平均粒子径が100nm以下の微粒子であるのが好ましい。
電子顕微鏡観察による平均粒子径とは、電子顕微鏡観察により任意に20個の微粒子を抽出し、各微粒子の最長径の20個平均値をいう。
なお、通常入手できる硫化銅(CuS)は小さくとも数μmのミクロンレベルの粒子であるが、平均粒子径が1μmより小さいナノレベルの金属硫化物微粒子が分散してなる樹脂組成物は、前記ミクロンレベルの粒子が分散してなる樹脂組成物に比べ、近赤外線吸収性及び可視光領域における光線透過率のいずれも優れていることが確認されている。
【0024】
このようなナノレベルの金属硫化物微粒子は、例えば後述するように、水溶性樹脂を含有する水溶液中で、金属と硫黄とを反応させて得ることができるが、この製造方法に限定されるものではない。
【0025】
金属硫化物微粒子の含有量は、水溶性樹脂100質量部に対して1〜99質量部、特に3〜70質量部、中でも特に5〜50質量部であるのが好ましい。
コーティング用水溶性樹脂組成物における水溶性樹脂の濃度は、塗布する基材の種類や塗布方法などによって調整する必要があるが、一応の目安としては固形分濃度で5〜50質量%程度が適当である。
【0026】
(その他の含有物)
本コーティング用樹脂組成物は、金属硫化物微粒子の効果を損なわない限度において、熱安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、蛍光増白剤、離型剤、アンチブロッキング剤(シリカ、架橋ポリスチレンビーズ等)、軟化剤、帯電防止剤等の含有物を含んでいてもよい。なお、含有物を前記列挙した物質に限定するものではない。
【0027】
(製造方法)
本コーティング用樹脂組成物は、例えば、金属化合物と、硫黄及び/または硫黄化合物(以下、まとめて「硫黄等」という)と、水溶性樹脂を含有する水溶液とを混合し、水溶性樹脂を含有する水溶液中で、金属化合物の金属と硫黄等の硫黄とを反応させて金属硫化物微粒子を合成することにより製造することができる(以下、この製造方法を「本製造方法」という)。但し、この方法に限定するものではない。
【0028】
本製造方法で使用し得る「金属化合物」としては、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi、Ti、Zr、Hf等の金属の塩、すなわちこれらの金属に、フッ素、塩素、−CN、フタロシアニル基、クロロフィリンナトリウム、ビスアセチルアセトナートが結合した化合物、或いは、R1−Y(R1は、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、複素環残基(各基は1個以上の置換基を有してもよい。)から選ばれる一価基を示す。Yは、−COO、−SO、−SO、−PO、−Oのいずれかを示す。)が結合した化合物を挙げることができる。中でも、近赤外線吸収性能の点から、銅化合物が好ましく、例えば、ステアリン酸銅、硫酸銅、フタロシアニル銅等が特に好ましい。
【0029】
本製造方法で使用し得る「硫黄」としては、市販の硫黄粉末を使用することができる。例えば、鶴見化学(株)製(JIS2級相当品)の硫黄粉末などを用いることができる。
【0030】
また、本製造方法で使用し得る「硫黄化合物」としては、硫化水素、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化セシウム、硫化カドミウム,硫酸バリウム,硫酸ストロンチウム、硫化鉛,硫化亜鉛,硫化スズ,硫化カルシウム,硫化ゲルマニウム,硫化アンチモン,硫化コバルト,硫化珪素,硫化金,硫化鉄,硫化ニッケル,硫化ニオブ,硫化ストロンチウム,硫化タンタル,硫化バナジウム,硫化水銀,硫化砒素,硫化モリブデン,硫化マンガン,硫化リン,硫化バリウム,硫化ビスマス,硫化カリウム,硫化ナトリウム,硫酸リチウム,硫酸ナトリウム,硫酸カリウム,硫酸マグネシウム,硫酸カルシウム,硫酸鉛,硫酸ニッケル,硫酸鉄,硫酸セリウム,硫酸チタン,硫酸コバルト,硫酸ジルコニウム,硫酸水銀,硫酸マンガン,硫酸アルミニウム,硫酸亜鉛,硫酸カドミウム,硫酸クロム,硫酸ベリリウムなどを挙げることができる。
【0031】
上記金属化合物と上記硫黄等との組合わせについては、両者が水溶液中で反応して金属硫化物を合成し得る組合わせであればよい。
【0032】
本製造方法では、金属硫化物微粒子の効果を損なわない限度において、熱安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、蛍光増白剤、離型剤、アンチブロッキング剤(シリカ、架橋ポリスチレンビーズ等)、軟化剤、帯電防止剤、その他の添加剤を添加することも可能である。
【0033】
配合割合は、本コーティング用水溶性樹脂組成物100質量部に対し、水溶性樹脂を98〜2質量部、金属化合物を1〜30質量部(特に好ましくは10〜30質量部)、硫黄及び/または硫黄化合物を1〜50質量部(特に好ましくは20〜50質量部)の割合で配合するのが好ましい。
【0034】
金属化合物と、硫黄等と、水溶性樹脂を含有する水溶液との混合方法(手順)は、例えば次の(1)〜(4)の方法を挙げることができるが、この方法に限定されるものではない。
【0035】
(1)水溶性樹脂と金属化合物とを含有する水溶液(A)を調製する一方、水溶性樹脂と硫黄等とを含有する水溶液(B)を調製し、水溶液(A)と水溶液(B)とを混合して金属化合物の金属と硫黄等の硫黄とを反応させて金属硫化物微粒子を合成する方法。
(2)水溶性樹脂を含有する水溶液(E)を調製し、水溶液(E)に硫黄等を添加して、水溶性樹脂と硫黄等とを含有する水溶液(B)を調製する一方、水溶液(E)に金属化合物を添加して、水溶性樹脂と金属化合物とを含有する水溶液(A)を調製し、水溶液(A)と水溶液(B)とを混合して金属化合物の金属と硫黄等の硫黄とを反応させて金属硫化物微粒子を合成する方法。
(3)水溶性樹脂と金属化合物とを含有する水溶液(A)を調製する一方、硫黄等を含有する水溶液(C)を調製し、水溶液(A)と水溶液(C)とを混合して金属化合物の金属と硫黄等の硫黄とを反応させて金属硫化物微粒子を合成する方法。
(4)金属化合物を含有する水溶液(D)を調製する一方、水溶性樹脂と硫黄等とを含有する水溶液(B)を調製し、水溶液(D)と水溶液(B)とを混合して金属化合物の金属と硫黄等の硫黄とを反応させて金属硫化物微粒子を合成する方法。
【0036】
上記の如く水溶液(A)と水溶液(B)、水溶液(A)と水溶液(C)、水溶液(D)と水溶液(B)とを混合した後、混合液を攪拌するのが好ましい。さらに、必要に応じて当該混合液を加熱してもよい。さらに、例えば超音波分散法、ホモジナイザー法、ボールミル法、ミキサー法,サンドミル法,ニーダー法等などの分散手段を該混合液に実施し、金属硫化物微粒子を水溶液中に分散させるようにしてもよい。
【0037】
(用途)
本コーティング用樹脂組成物は、任意の透明基材にコーティング(塗布)することにより、基材上に帯電防止層(膜を含む)を形成することができる。また、金属硫化物微粒子を、肉眼による目視では視認できない大きさ、すなわち平均粒子径が1μmより小さい微粒子、好ましくは電子顕微鏡観察による平均粒子径100nm以下の微粒子とすることにより、前記帯電防止層に近赤外線吸収性及び可視光線透過性を付与することができる。
【0038】
本コーティング用樹脂組成物をコーティングする基材としては、プラスチックやガラスなど任意の材料を採用することができ、その厚さも、フィルム、シート、プレートなど任意である。例えば自動車の窓やインテリア部材、光学部品、光ディスク、ガレージやテラス等の屋根材などに使用されるプラスチック部材、医療機関やクリーンルームの内装面やパネル等の設置物など、帯電防止を図る必要のある様々な部材を基材を対象とすることができる。
但し、近赤外線吸収性及び可視光線透過性を付与する用途を考えると、透明な基材であるのが好ましい。
【0039】
なお、本明細書では、その厚さが大きくなる順に「フィルム」「シート」「プレート」と称するが、これらを厳密に区別するものではない。よって、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」及び「プレート」を含むものとする。
【0040】
本コーティング用樹脂組成物のコーティング(塗布)方法としては、通常の塗布方法を採用することができる。例えばグラビアロール法、リバースロール法、トランスファーロール法、キスロール法、キャスト法、スプレー法、カーテン法、カレンダー法、ブレード法、ロッド法、ナイフ法、スクイズ法、スピン法、引上げ法、エアドクター法、含浸法、押し出し法、静電法、バーコート法など、公知の方法から適宜選択することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本コーティング用樹脂組成物の実施例について説明するが、本発明がこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
(可視光線透過率、日射透過率の測定方法)
分光光度計(島津製作所製UV3150型)を用いて波長300nm〜2100nmの領域の光線透過率(τλ)を測定した。なお、熱線遮蔽板の可視光線透過率(τv、380nm〜780nm)および日射透過率(τe、300nm〜2100nm)の値をJISR−3106に準じて求めた。
【0043】
(表面抵抗値)
エレクトロメータ(アドバンテスト社製、R8340A)とレジスティビティ・チェンバ(アドバンテスト社製、R12702A)を用いて表面抵抗値(Ω/□)を測定した。試験方法は、JIS K−6911に準拠して測定した。
【0044】
[実施例1]
蒸留水300gにポリビニルアルコール30gを溶かした水溶液(E)を調製しておき、この水溶液(E)22gに硫酸銅2gを溶かして水溶液(A1)を調製する一方、水溶液(E)22gに硫化ナトリウム3gを溶かして水溶液(B1)を調製した。
次に、水溶液(A1)を撹拌しながら水溶液(B1)を滴下し、撹拌して水溶液(A1)中の銅と水溶液(B1)中の硫黄とを反応させて、硫化銅微粒子が分散してなる水溶液(G1)を得た。水溶液(G1)中の硫化銅微粒子は、目視では視認できなかった。
【0045】
この水溶液(G1)をPETフィルム(厚さ50μm)上に、バーコーターを用いて表1記載の厚みにコートし、100℃で3分間乾燥させてコートフィルムを作製した。
そして、コートフィルムの表面抵抗値、可視光線透過率および日射透過率を測定した。
【0046】
[実施例2]
蒸留水300gにポリビニルアルコール30gを溶かした水溶液(E)を調製しておき、この水溶液(E)22gに硫酸銅3gを溶かして水溶液(A2)を調製する一方、水溶液(E)22gに硫化ナトリウム5gを溶かして水溶液(B2)を調製した。
次に、水溶液(A2)を撹拌しながら水溶液(B2)を滴下し、撹拌して水溶液(A2)中の銅と水溶液(B2)中の硫黄とを反応させて、硫化銅微粒子が分散してなる水溶液(G2)を得た。水溶液(G2)中の硫化銅微粒子は、目視では視認できなかった。
【0047】
この水溶液(G2)を、実施例1で用いたPETフィルム上に、バーコーターを用いて表1記載の厚みにコートし、100℃で3分間乾燥させてコートフィルムを作製した。
そして、コートフィルムの表面抵抗値、可視光線透過率および日射透過率を測定した。
【0048】
[実施例3]
蒸留水300gにポリビニルアルコール30gを溶かした水溶液(E)を調製しておき、この水溶液(E)22gに酢酸銅2.4gを溶かして水溶液(A3)を調製する一方、水溶液(E)22gに硫化ナトリウム4gを溶かして水溶液(B3)を調製した。
次に、水溶液(A3)を撹拌しながら水溶液(B3)を滴下し、撹拌して水溶液(A3)中の銅と水溶液(B3)中の硫黄とを反応させて、硫化銅微粒子が分散してなる水溶液(G3)を得た。水溶液(G3)中の硫化銅微粒子は、目視では視認できなかった。
【0049】
この水溶液(G3)を、実施例1で用いたPETフィルム上に、バーコーターを用いて表1記載の厚みにコートし、100℃で3分間乾燥させてコートフィルムを作製した。
そして、コートフィルムの表面抵抗値、可視光線透過率および日射透過率を測定した。
【0050】
[比較例1]
実施例1で用いたPETフィルム単体について、表面抵抗値、可視光線透過率および日射透過率を測定した。
【0051】
[比較例2]
蒸留水300gにポリビニルアルコール30gを溶かした水溶液(E)を調製し、この水溶液(E)を、実施例1で用いたPETフィルム上に、バーコーターを用いて表2記載の厚みにコートし、100℃で3分間乾燥させてコートフィルムを作製した。そして、コートフィルムの表面抵抗値、可視光線透過率および日射透過率を測定した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性樹脂を含有する水溶液中に金属硫化物微粒子が分散してなる構成を備えた帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物。
【請求項2】
金属硫化物微粒子は、平均粒子径が1μmより小さな金属硫化物微粒子であることを特徴とする請求項1記載の帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物。
【請求項3】
金属硫化物微粒子は、水溶性樹脂を含有する水溶液中で金属と硫黄とが反応して合成されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物。
【請求項4】
金属硫化物微粒子が、硫化銅であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の水溶性樹脂中に金属硫化物微粒子が分散してなる被覆層を基材上に備えた帯電防止積層体。
【請求項6】
金属化合物と、硫黄及び/または硫黄化合物と、水溶性樹脂を含有する水溶液とを混合し、金属化合物の金属と硫黄及び/または硫黄化合物の硫黄とを反応させて金属硫化物微粒子を合成し、水溶性樹脂を含有する水溶液中に金属硫化物微粒子が分散してなる水溶性樹脂組成物を製造することを特徴とする帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
金属化合物として、銅化合物を用いることを特徴とする請求項6記載の帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
水溶性樹脂組成物100質量部に対し、水溶性樹脂を98〜2質量部、金属化合物を1〜30質量部、硫黄及び/または硫黄化合物を1〜50質量部配合することを特徴とする請求項6又は7に記載の帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
水溶性樹脂と金属化合物とを含有する水溶液(A)を調製する一方、水溶性樹脂と硫黄及び/または硫黄化合物とを含有する水溶液(B)を調製し、水溶液(A)と水溶液(B)とを混合することを特徴とする請求項6乃至8の何れかに記載の帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
水溶性樹脂と金属化合物とを含有する水溶液(A)を調製する一方、硫黄及び/または硫黄化合物を含有する水溶液(C)を調製し、水溶液(A)と水溶液(C)とを混合することを特徴とする請求項6乃至8の何れかに記載の帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
金属化合物を含有する水溶液(D)を調製する一方、水溶性樹脂と硫黄及び/または硫黄化合物とを含有する水溶液(B)を調製し、水溶液(D)と水溶液(B)とを混合することを特徴とする請求項6乃至8の何れかに記載の帯電防止コーティング用水溶性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−19321(P2008−19321A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191215(P2006−191215)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】