説明

帯電防止コーティング用組成物

【課題】本発明の目的は、乾燥するだけで成膜でき、基材に対しての密着性が良好であって、透明性、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性および導電性に優れた帯電防止層を形成できる帯電防止コーティング用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリカチオンのポリチオフェンと、ポリアニオンとからなる導電性高分子(A)と、バインダー樹脂(B)と、架橋剤(C)と、ポリエステル樹脂(D)と、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)とを含む帯電防止コーティング組成物であって、前記バインダー樹脂(B)が官能基を含有し、前記架橋剤(C)が前記バインダー樹脂(B)の官能基と反応し得る官能基を有することを特徴とする帯電防止コーティング用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材への密着性、透明性、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性、導電性に優れた塗膜を形成する、帯電防止コーティング用組成物、および、それを塗布してなる帯電防止フィルムに関するものである。具体的には電子材料包装用のキャリアテープ、カバーテープ、およびトレイ、ならびにワープロ、コンピュータ、テレビなどの各種ディスプレイ、または偏光板などの光学部品の表面保護フィルム、電子部品の保護・包装用などとして有用な帯電防止フィルムが得られる帯電防止コーティング用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の半導体及び電子機器の微細化・高集積化に伴い、静電気の発生が製品に色々な影響を与えている。このような静電気を効果的に除去するために、導電性物質を利用した帯電防止コーティング用組成物を、部材へ直接塗布した帯電防止膜や、基材フィルムへ塗布した帯電防止フィルムとして使用することが提案されている。現在このような帯電防止コーティング組成物は、ディスプレイ素子の外面ガラスの帯電防止コーティング膜、半導体素子運搬用トレイ、偏光板及びバックライトユニットの保護フィルム、透明レンズのコーティング膜等の用途に使用されている。このような帯電防止機能を発現する材料として、界面活性剤、カーボンブラック、無機酸化物、金属粉、π共役系の導電性高分子等がある。
【0003】
その中でもπ共役系の導電性高分子は、ポリアセチレン、ポリ( パラフェニレン) 、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどが提案されている。しかし、これらのほとんどが塗膜形成に使用する溶媒に溶解しにくいため、容易には均一な塗膜を形成できないため塗工フィルムとして使用できなかった。そこで、これらのポリマーを化学修飾して溶解度を向上させる方法( 特許文献1) 、微粒子の分散液とする方法( 特許文献2) など、均一な塗膜を形成する工夫が種々なされている。なかでも、ポリ( 3 , 4 − ジアルコキシチオフェン) とポリ陰イオンとからなる導電性高分子は、3 , 4 − ジアルコキシチオフェンをポリ陰イオン存在下で、酸化重合することによって得られるものである(特許文献2) が、高い導電性、高い化学的安定性および成膜した際の塗膜が高い透明性を有していることから注目されている。
【0004】
しかしながら、このような導電性高分子を含むコーティング液をプラスチック基材に塗布する場合、基材に対する透明性、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性および導電性などの性能を同時に満足する塗膜を得ることは容易ではない。
【0005】
そこで特定のバインダー樹脂を使用することで、耐水性あるいは耐溶剤性に優れた塗膜を得る方法が提案されていたが(特許文献3、4)、耐水性と耐溶剤性の相反する物性を両立した塗膜は得られていない。そこで、耐水性、耐溶剤性両立のため、バインダー樹脂を種々の架橋剤で架橋する方法が試みられてきたが、架橋密度を増加すると、透明性が悪化したり、導電性が低下するなど、すべての物性を満足する塗膜は得られていなかった。
また、このような帯電防止コーティング用組成物を工業的にコーティングする場合、ロールコーティング、スプレーコーティング、及びディッピングなどの手法を用い、比較的低温・短時間の乾燥条件で使用されるため、低温・短時間で成膜し上記物性を満足する水系の帯電防止コーティング組成物が望まれている。
【特許文献1】特開平7−292081号公報
【特許文献2】特開平1−313521号公報
【特許文献3】特開2002−60736号公報
【特許文献4】特開2006−282941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、乾燥するだけで成膜でき、基材に対しての密着性が良好であって、透明性、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性および導電性に優れた帯電防止層を形成できる帯電防止コーティング用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記一般式(1)
【0008】
【化1】

( 一般式(1)中、R 1 およびR 2 は相互に独立して水素または炭素数1 〜 4 のアルキル基を表すか、あるいは結合して任意に置換されていてもよい炭素数1 〜 1 2 のアルキレン基を表す)で表される繰り返し単位を有するポリカチオンのポリチオフェンと、ポリアニオンとからなる導電性高分子(A)と、バインダー樹脂(B)と、架橋剤(C)と、ポリエステル樹脂(D)と、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)とを含む帯電防止コーティング用組成物であって、
前記バインダー樹脂(B)が官能基を含有し、
前記架橋剤(C)が前記バインダー樹脂(B)の官能基と反応し得る官能基を有することを特徴とする帯電防止コーティング用組成物に関する。
【0009】
また本発明は、導電性高分子(A)1重量部に対して、バインダー樹脂(B)と架橋剤(C)との合計が25〜90重量部、ポリエステル樹脂(D)が3〜20重量部、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)が10〜200重量部であり、
かつ、バインダー樹脂(B)の官能基と、架橋剤(C)の官能基とのモル比が1:0.7〜1:1.3であることを特徴とする上記発明の帯電防止コーティング用組成物に関する。
【0010】
また本発明は、バインダー樹脂(B)が、カルボキシル基および/または水酸基を含有することを特徴とする上記いずれかの発明の帯電防止コーティング用組成物に関する。
【0011】
また本発明は、架橋剤(C)が、カルボジイミド基、オキサゾリン基およびエポキシ基からなる群より選ばれたいずれか1種以上の官能基を含有することを特徴とする上記いずれかの発明の帯電防止コーティング用組成物に関する。
【0012】
また本発明は、バインダー樹脂(B)の1g中に官能基を6.0〜15.0mmol含み、かつバインダー樹脂(B)の重量平均分子量が10,000〜1,100,000であることを特徴とする上記いずれかの発明の帯電防止コーティング用組成物に関する。
【0013】
また本発明は、架橋剤(C)の1g中に官能基を1.5〜8.0mmol含み、かつ架橋剤(C)の重量平均分子量が5,000〜100,000であることを特徴とする上記いずれかの発明の帯電防止コーティング用組成物に関する。
【0014】
また本発明は、バインダー樹脂(B)がカルボキシル基を含有し、かつ架橋剤(C)がオキサゾリン基を含有する上記いずれかの発明の帯電防止コーティング用組成物に関する。
【0015】
また本発明は、ポリエステル樹脂(D)の1g中に0.5〜2.0mmolのカルボキシル基を含有し、かつポリエステル樹脂(D)の重量平均分子量が2,000〜20,000であることを特徴とする上記いずれかの発明の帯電防止コーティング用組成物に関する。
【0016】
また本発明は、基材の少なくとも一方の面へ、上記いずれかの発明の帯電防止コーティング用組成物を用いた帯電防止層を形成してなる帯電防止層付基材に関する。
【0017】
また本発明は、基材フィルムの少なくとも一方の面へ、上記いずれかの発明の帯電防止コーティング用組成物を用いた帯電防止層を形成してなる帯電防止フィルムに関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、低温・短時間で成膜し、基材に対する密着性が良好であって、透明性、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性および導電性に優れた帯電防止層を形成するための帯電防止コーティング用組成物を提供することができた。本発明により得られる帯電防止フィルムは、電子材料包装用のキャリアテープ、カバーテープ、およびトレイ、ならびにワープロ、コンピュータ、テレビなどの各種ディスプレイ、または偏光板などの光学部品の表面保護フィルム、電子部品の包装用などとして充分な効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明で使用される導電性高分子(A)は、下記一般式(1)で表される繰返し単位を有するポリカチオンのポリチオフェン( 以下、“ ポリ( 3 , 4 − ジ置換チオフェン) ” と称することがある) と、ポリアニオンとから構成される複合化合物である。上記式中、R 1 およびR 2 は相互に独立して水素または炭素数が1〜 4 のアルキル基を表すか、あるいは結合して任意に置換されてもよい炭素数が1 〜1 2 のアルキレン基を表す。前記アルキレン基の代表例としては、1 , 2 − アルキレン基( 例えば、1 , 2 − シクロヘキシレン、2 , 3 − ブチレンなど) があげられる。この1 , 2 − アルキレン基は、α − オレフィン類( 例えば、エテン、プロペン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセンおよびスチレン) を臭素化して得られる1 , 2 − ジブロモアルカン類から誘導される。R 1 およびR 2 が結合して形成される炭素数が1 〜 1 2 のアルキレン基は、好ましくはメチレン、1 , 2 − エチレンおよび1 , 3 − プロピレン基であり、1, 2 − エチレン基がより好ましい。
【0020】
【化2】

【0021】
導電性高分子(A)を構成するポリアニオンとしては、重合されたカルボン酸類( 例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸など) 、重合されたスルホン酸類( 例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸など) などがあげられる。これらの重合されたカルボン酸およびスルホン酸類はまた、ビニルカルボン酸およびビニルスルホン酸類と他の重合可能なモノマー類、例えばアクリレート類およびスチレンなどとの共重合体であってもよい。これらのポリアニオンのなかで、ポリスチレンスルホン酸およびその全てもしくは一部が金属塩であるものが特に好適である。なお、かかるポリアニオンの数平均分子量は、1 , 0 0 0 〜 2 , 0 0 0 , 0 0 0 が好ましく、2 , 0 0 0〜 5 0 0 , 0 0 0 がより好ましい。導電性高分子(A)の市販品としては、バイエルAG製の商品名「BaytronP」などが挙げられる。
【0022】
本発明で用いられるバインダー樹脂(B)は、水分散性あるいは水溶性の樹脂が好ましく、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニル樹脂、アミド樹脂など骨格に特に制限はなく、目的に応じた骨格を使用することが出来る。バインダー樹脂(B)は官能基を有することが重要であり、官能基としてカルボキシル基および/または水酸基が含まれることが好ましい。このようなバインダー樹脂(B)は、前記導電性高分子(A)の水分散状態を阻害することなく、凝集物がなく、透明性の高い塗膜を形成しやすい。
【0023】
バインダー樹脂(B)としては、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレートを単独重合した、またはカルボキシル基含有(メタ)アクリレートと他のモノマーとの共重合したアクリル樹脂、スチレン、エチレン、メチルビニルエーテル等のビニル系単量体と無水マレイン酸との共重合体の酸無水物を開環した樹脂等のカルボキシル基含有樹脂;ポリビニルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4―ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体と他の単量体とを共重合したアクリル樹脂等の水酸基含有樹脂;水溶性フェノール樹脂などが挙げられる。なおバインダー樹脂(B)はカルボキシル基と水酸基をともに含むこともできる。
【0024】
バインダー樹脂(B)に含まれる官能基量には、特に制限はないが、樹脂(B)の1g中に前記官能基を6.0~15.0mmol含有する事が好ましい。官能基量が6.0mmol未満であると、後述する架橋剤(C)との反応点が少なく、低温・短時間での硬化の場合、高い耐水性、耐溶剤性が得られにくい。また15.0mmolを超えると架橋密度が高くなりすぎ、塗膜が脆くなる恐れがある。
また、バインダー樹脂(B)の分子量は、特に制限はないが、重量平均分子量10,000〜1,100,000であることが好ましく、50,000〜800,000がより好ましい。 分子量が10,000未満であると、低温・短時間での硬化の場合、反応せずに残ったバインダー樹脂(B)によりタックが生じたり、耐水性、耐溶剤性が悪化する場合がある。分子量が1,100,000を超えると、塗液の粘度が高く、塗工性が低下すると共に、導電性が低下する場合がある。導電性が低下する原因は明確ではないが、導電性高分子(A)の溶解度が低下し、分子鎖が広がりにくくなるためと推測される。なお本発明での重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものである。
【0025】
本発明で用いられる架橋剤(C)は前記バインダー樹脂(B)の官能基と反応し得る官能基を有することが重要であり、好ましくはカルボジイミド基、オキサゾリン基およびエポキシ基からなる群より選ばれたいずれか1種以上の官能基が含まれ、前記バインダー樹脂(B)の官能基と反応し、帯電防止コーティング用組成物から形成した塗膜へ耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性を付与する。
【0026】
カルボジイミド基を含有する架橋剤(C)としては、例えば、特開昭6 3 − 2 6 4 1 2 8 号公報、米国特許第4 , 8 2 0 , 8 6 3 号明細書、米国特許第5 , 1 0 8 , 6 5 3 号明細書、米国特許第5, 0 4 7 , 5 8 8 号明細書、米国特許第5 , 0 8 1 , 1 7 3 号明細書などに記載されているものが使用できる。市販品としては日清紡( 株) 製のカルボジライトV − 0 2 、V−02−L2、V−04、V−06などが使用できる。
オキサゾリン基を含有する架橋剤(C)としては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン基を含むビニル系単量体を共重合したビニルあるいはアクリル樹脂等が挙げられる。市販品としては、日本触媒(株)製のエポクロスWS−300、WS−500、WS−700、エポクロスK−2010、K−2020、K−2030などが使用できる。
エポキシ基を含有する架橋剤(C)としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル系、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル系、ジグリセロールポリグリシジルエーテル系、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル系、メタキシレンジアミンテトラグリシジルエーテル及びその水添化物などが使用できる。市販品としては、ナガセケムテック(株)製のデナコールEX−611、EX−614、EX−614B、EX−512、EX−521、EX−421、EX−313、EX−810、EX−830、EX−850などが使用できる。これら架橋剤(C)は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0027】
架橋剤(C)に含まれる官能基量には、特に制限はないが、好ましくは樹脂(C)の1g中に前記官能基を1.5~8.0mmol含有する事が好ましい。官能基が1.5mmol未満であると、前記バインダー樹脂(B)との反応点が少なく、低温・短時間での硬化の場合、高い耐水性、耐溶剤性が得られにくい。また8.0mmolを超えると架橋密度が高くなりすぎ、塗膜が脆くなる恐れがある。
【0028】
また、架橋剤(C)の分子量は特に制限はないが、好ましくは、重量平均分子量5,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜100,000がより好ましい。バインダー樹脂(B)同様、分子量が5,000未満であると、反応せずに残った架橋剤(C)によりタックが生じたり、耐水性、耐溶剤性が悪化する場合があり、分子量が100,000を超えると、塗工性が低下すると共に、導電性が低下する場合がある。
【0029】
なお本発明では、架橋剤として従来技術での低分子量化合物に換えて、オリゴマー乃至ポリマータイプを用いることで、帯電防止コーティング用組成物から形成した帯電防止層の架橋がより強靭になることで、高い耐溶剤性を実現できる。
【0030】
バインダー樹脂(B)と架橋剤(C)の官能基の組み合わせとしては、バインダー樹脂(B)のカルボキシル基に対しては、架橋剤(C)はカルボジイミド基、オキサゾリン基、エポキシ基;バインダー樹脂(B)の水酸基に対しては、架橋剤(C)はカルボジイミド基;バインダー樹脂(B)のフェノール性水酸基に対しては、架橋剤(C)はカルボジイミド基、オキサゾリン基、エポキシ基を使用することが好ましい。
前記の官能基の組み合わせの中でも、塗工性が良く、低温・短時間で硬化可能であるという点から、バインダー樹脂(B)のカルボキシル基に対して、架橋剤(C)のカルボジイミド基、オキサゾリン基、エポキシ基;バインダー樹脂(B)の水酸基に対して、架橋剤(C)のカルボジイミド基が好ましい。さらに好ましくは、カルボキシル基−オキサゾリン基による架橋で、ほかの官能基の組み合わせと比べ、高い導電性が得られる。高い導電性が得られる原因は、明確ではないが、カルボキシル基とオキサゾリン基の反応により生じるアミド結合と、導電性高分子(A)との相互作用により導電性高分子鎖が広がり、良好な導電経路を形成するためではないかと推測される。
【0031】
バインダー樹脂(B)と架橋剤(C)とを用いる比率は、バインダー樹脂(B)の官能基と、架橋剤(C)の官能基とのモル比が好ましくは1:0.7〜1:1.3になるように添加する。上記範囲を外れた場合、塗膜の耐水性、耐溶剤性が低下する恐れがある。
バインダー樹脂(B)と架橋剤(C)は、その合計量が、導電性高分子(A)の1重量部に対し、25〜90重量部となるように添加する事が好ましい。25重量部未満であると帯電防止コーティング用組成物中の導電性高分子(A)量が多く、帯電防止層が導電性高分子(A)由来の青色に着色したり、基材に対する帯電防止層の密着性や耐摩耗性が低下するなど、所望とする物性が得られない場合がある。また、導電性高分子(A)は高価なため、コストが高くなるという側面もある。また、90重量部を超えると導電性高分子(A)量が少なく、帯電防止層の帯電防止効果が不十分になる恐れがある。
【0032】
本発明で用いられるポリエステル樹脂(D)は、多塩基酸とポリオールからなる水分散性あるいは水溶性のポリエステル樹脂が好ましく、基材フィルム、特にPETフィルムへの密着性を上げ、耐摩耗性を向上する。
前記多塩基酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2 、6 − ナフタレンジカルボン酸、1 、4 − シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸、5 −ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
また、前記ポリオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1 、4 − ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1 、6 − ヘキサンジオール、1 、4 −シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジメチロールプロパン、ポリ( エチレンオキシド) グリコール、ポリ( テトラメチレンオキシド) グリコール等が挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0033】
ポリエステル樹脂(D)には、樹脂(D)1g中に0.5〜2.0mmolのカルボキシル基が含まれる事が好ましい。樹脂(D)が所定量のカルボキシル基を含むことで、架橋剤(C)との架橋により、帯電防止コーティング用組成物から形成した帯電防止層が強靭になることで、高い耐溶剤性を実現できる。カルボキシル基が0.5mmol未満であると、架橋剤(C)とほとんど反応しないため、塗膜の耐水性、耐溶剤性が低下する恐れがある。また2.0mmolを超えると耐水性が悪化する恐れがある。
また、ポリエステル樹脂(D)の分子量には、特に制限はないが、重量平均分子量が2,000〜20,000であることが好ましく、2,000〜15,000であることがより好ましい。分子量が2,000未満であると、低温・短時間での硬化の場合、反応せずに残ったポリエステル樹脂(D)によりタックが生じたり、耐水性、耐溶剤性が悪化する恐れがある。分子量が20,000を超えると、バインダー樹脂(B)との相溶性が低下し、粘度が高く帯電防止コーティング用組成物の塗工性が低下する恐れがある。
ポリエステル樹脂(D)は、導電性高分子(A)の1重量部に対し、3〜20重量部添加することが好ましい。3重量部未満では、目的とする耐摩耗性向上の効果が得られにくく、20重量部を超えると、耐溶剤性が悪化する恐れがある。
【0034】
本発明では、導電性をより向上させるという目的で、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)が含有される。
分子内にアミド基を有する化合物としては、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン等のピロリドン系化合物;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド等のアミド系化合物が挙げられる。
また、分子内に水酸基を有する化合物としては、多価アルコールが好ましく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1 ,5 − ペンタンジオール、1 ,6 − ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、カテコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールプロパン等のトリオール類が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)は、導電性高分子(A)1重量部に対し、10〜200重量部添加することが好ましく、10〜130重量部がより好ましい。10重量部未満であると、導電性向上の効果が得られにくく、200重量部を超えると、塗膜が白化したり、耐水性、耐溶剤性が低下するなど塗膜の物性を低下させる恐れがある。
【0036】
本発明の帯電防止コーティング用組成物は、基材へコーティングし帯電防止層(以下塗膜とも言う)を形成することにより、帯電防止層付基材を得ることができる。
【0037】
本発明の帯電防止コーティング用組成物は、所望する膜厚に合わせて、任意の固形分濃度に調整することができる。固形分は通常1.0〜30重量%の範囲とするのが好ましい。希釈溶媒としては、例えば水、メタノール、エタノール、2 − プロパノール、1 − プロパノール、n − ブタノール等のアルコール、 アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリルなどが挙げられ、これらは単独で使用しても良いし、2種以上併用しても良い。
【0038】
帯電防止コーティング用組成物をコーティングする基材としては、例えばガラスや、プラスチックの板、シート、フィルム、不織布等の絶縁性のものが挙げられ、用途に応じて任意のものを用いることが好ましい。ここでプラスチックとしては、例えばポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル、トリアセチルセルロース、およびこれらの混合物および共重合体、さらにはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂などをあげることができる。これらの中でもフィルムが好ましく用いられ、基材フィルムとしては二軸配向したポリエステルフィルムが、寸法安定性、機械的性質、耐熱性、電気的性質などに優れた性質を有することより好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリエチレン− 2 , 6 − ナフタレートフィルムが、高ヤング率である等の機械的特性に優れ、耐熱寸法安定性がよい等の熱的特性にも優れているため好ましい。
【0039】
コーティング方法としては、例えばリップダイレクト法、コンマコーター法、スリットリバース法、ダイコーター法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、スピンコート法、バーコーター法など、従来公知の方法を採用することができる。また、必要に応じて、基材表面にコロナ放電処理、プラズマ放電処理などの物理的表面処理や、ポリエステル樹脂やアクリル樹脂などの有機物による公知の易接着層を施しても構わない。
【0040】
塗膜の乾燥および硬化の条件は、それぞれのコーティング法に適した条件が選択される。例えばロールコーティング法を用いる場合は、一般的に60〜120℃、5〜60秒で行われることが好ましい。またガラスにコーティングする場合はスピンコート法を用いることも好ましい。
【0041】
なお、塗膜の厚みは5 〜 5 0 0 n m の範囲、特に1 0 〜 3 0 0 n m の範囲であることが好ましい。該塗膜の厚さが薄すぎると十分な耐摩耗性、帯電防止機能が得られないことがあり、逆に厚すぎると、光の透過率が不足したりブロッキングを起こしたりすることがある。
【0042】
本発明の帯電防止フイルムは、表面抵抗率がE+03 〜E+11 Ω / □ と帯電防止性に優れ、基材との密着性、透明性、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性に優れる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表し、「Mn」は数平均分子量、「Mw」は重量平均分子量を表す。
【0044】
なお、実施例中における各評価は下記の方法に従った。
【0045】
(膜厚)
帯電防止フィルムをミクロトームULTRACUT−Sでフィルム表面に対し垂直に超薄切片を切り出し、この超薄切片を透過型電子顕微鏡LEM−2000で加速電圧100kvで観察・撮影し測定した。
【0046】
(表面抵抗率)
帯電防止フィルムの帯電防止層に対して測定を行い、表面抵抗率が、E+07Ω / □以上のものについては、東亜ディーケーケー(株)製の 超絶縁計SM−8220を用いて測定した。表面抵抗率がE+07Ω / □より低いものについては、三菱化学(株)製のLorester MCP−T610を用いて測定した。
【0047】
(ヘイズ・全光線透過率)
帯電防止フィルムに対して、日本電色工業(株)製ヘイズメーターNDH2000で測定した。
【0048】
(耐摩耗性)
帯電防止フィルムの帯電防止層に対して、テスター産業(株)製染色物磨耗堅牢度試験機AB−301を用い、ベンコットで、500g荷重、10往復後の塗膜の外観を目視で以下のとおり評価した。
◎:はがれ、傷が全く観察されない。
○:傷がわずかに観察される。
△:多数の傷が観察される。
× :はがれてしまい、基材表面が剥き出しになった。
【0049】
(耐水性・耐溶剤性)
帯電防止フィルムの帯電防止層に対して、テスター産業(株)製染色物磨耗堅牢度試験機AB−301を用い、水、エタノール、酢酸エチル、アセトンをそれぞれ染込ませたベンコットで、500g荷重、3往復後の塗膜の外観を目視で以下のとおり評価した。
◎:全く変化が観察されなかった。
○:塗膜がわずかに変色した。
△:塗膜の白化、あるいは一部溶解が観察された。
× :塗膜が溶解し、基材表面が剥き出しになった。
【0050】
(実施例1)
導電性高分子(A)としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)0.5重量%とポリスチレンスルホン酸(分子量Mn=150,000)0.8重量%を含んでなるポリマーの水分散体(BaytronP;バイエルAG製)を1.00重量部、バインダー樹脂(B)として2−ヒドロキシエチルメタクリレート重合体(Mw=200,000)13.3重量部、架橋剤(C)としてカルボジイミド樹脂(カルボジライトV−02−L2;日清紡績(株)製)27.7重量部、ポリエステル樹脂(D)として水溶性ポリエステル樹脂(プラスコートZ−730;互応化学工業(株)製、Mw=3,000)13.3重量部、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)としてエチレングリコール20重量部を混合し、全体固形分を2.0重量%に希釈調整した帯電防止コーティング用組成物を得た。得られたコーティング液を、PETフィルム(東洋紡エステルフィルムA4100;東洋紡績(株)製)に#7バーコーターを用いて塗布し、120℃、30秒乾燥後、得られた帯電防止フィルムを評価した。
【0051】
(実施例2〜11、及び比較例)
表1に示す組成に従い、実施例1同様に、帯電防止コーティング用組成物を調製後、塗工、乾燥工程を経て、帯電防止フィルムを得た。
【0052】
【表1】

【0053】
得られた帯電防止フィルムの評価結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2の結果より、比較例1では、架橋剤(C)が無いため、塗膜の耐摩耗性、耐水性、耐エタノール性が悪い。比較例2では、ポリエステル樹脂(D)が無いため、塗膜の耐摩耗性が悪く、比較例3では、バインダー樹脂(B)が無いため、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性が悪い結果となった。
実施例1〜11は、表面抵抗率、耐溶剤性などの諸物性をすべてバランスよく満たしている。その中でも実施例5〜11はカルボキシル基とオキサゾリン基の架橋を利用しているため、より表面抵抗率が低い良好な結果が得られた。
また実施例9〜11は、バインダー樹脂(B)の官能基量が6〜15mmol/g、重量平均分子量が10,000〜110,000の範囲にあることで導電性や耐摩耗性、耐水性の点でより良好な結果が得られた。
また実施例9は、架橋剤(C)の官能基量が1.5〜8mmol/g、重量平均分子量が5,000〜100,000の範囲にあることで耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性が良好という特徴を有している。
一方実施例10および11は、ポリエステル樹脂(D)の官能基量が0.5〜2.0mmol/g、重量平均分子量が2,000〜20,000の範囲にあることで耐エタノール性が良好という特徴を有している。
以上より本発明の帯電防止コーティング用組成物は、帯電防止フィルム等として好適に使用できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

( 一般式(1)中、R 1 およびR 2 は相互に独立して水素または炭素数1 〜 4 のアルキル基を表すか、あるいは結合して任意に置換されていてもよい炭素数1 〜 1 2 のアルキレン基を表す)で表される繰り返し単位を有するポリカチオンのポリチオフェンと、ポリアニオンとからなる導電性高分子(A)と、バインダー樹脂(B)と、架橋剤(C)と、ポリエステル樹脂(D)と、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)とを含む帯電防止コーティング用組成物であって、
前記バインダー樹脂(B)が官能基を含有し、
前記架橋剤(C)が前記バインダー樹脂(B)の官能基と反応し得る官能基を有することを特徴とする帯電防止コーティング用組成物。
【請求項2】
導電性高分子(A)1重量部に対して、バインダー樹脂(B)と架橋剤(C)との合計が25〜90重量部、ポリエステル樹脂(D)が3〜20重量部、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)が10〜200重量部であり、
かつ、バインダー樹脂(B)の官能基と、架橋剤(C)の官能基とのモル比が1:0.7〜1:1.3であることを特徴とする請求項1記載の帯電防止コーティング用組成物。
【請求項3】
バインダー樹脂(B)が、カルボキシル基および/または水酸基を含有することを特徴とする請求項1または2記載の帯電防止コーティング用組成物。
【請求項4】
架橋剤(C)が、カルボジイミド基、オキサゾリン基およびエポキシ基からなる群より選ばれたいずれか1種以上の官能基を含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の帯電防止コーティング用組成物。
【請求項5】
バインダー樹脂(B)の1g中に官能基を6.0〜15.0mmol含み、かつバインダー樹脂(B)の重量平均分子量が10,000〜1,100,000であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の帯電防止コーティング用組成物。
【請求項6】
架橋剤(C)の1g中に官能基を1.5〜8.0mmol含み、かつ架橋剤(C)の重量平均分子量が5,000〜100,000であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の帯電防止コーティング用組成物。
【請求項7】
バインダー樹脂(B)がカルボキシル基を含有し、かつ架橋剤(C)がオキサゾリン基を含有する請求項1〜6いずれか記載の帯電防止コーティング用組成物。
【請求項8】
ポリエステル樹脂(D)の1g中に0.5〜2.0mmolのカルボキシル基を含有し、かつポリエステル樹脂(D)の重量平均分子量が2,000〜20,000であることを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の帯電防止コーティング用組成物。
【請求項9】
基材の少なくとも一方の面へ、請求項1〜8いずれか記載の帯電防止コーティング用組成物を用いた帯電防止層を形成してなる帯電防止層付基材。
【請求項10】
基材フィルムの少なくとも一方の面へ、請求項1〜8いずれか記載の帯電防止コーティング用組成物を用いた帯電防止層を形成してなる帯電防止フィルム。

【公開番号】特開2010−1382(P2010−1382A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161483(P2008−161483)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】