説明

帯電防止ハードコート及び帯電防止ハードコート用塗布組成物

【課題】導電性微粒子の含有量が比較的少なくて済み、帯電防止性能や透明性に優れた帯電防止ハードコート並びに高速連続塗布に適した帯電防止ハードコート用塗布組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の帯電防止ハードコート層は、導電性微粒子及びバインダーを含む組成物で構成された帯電防止ハードコート層であって、前記バインダーは、前記帯電防止ハードコート層において前記導電性微粒子が偏在するために十分な量のヒドロキシル基を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止ハードコート及び帯電防止ハードコート用塗布組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置やプラズマディスプレイなどの表示装置において、表面の保護及び埃の付着防止のために、帯電防止効果を有するハードコート層の需要が高まっている。このような帯電防止ハードコート層の一つとして、界面活性剤などを含有するハードコート層が知られている。このような帯電防止ハードコート層は、帯電防止効果が長期にわたり持続せず、また環境の湿度によって性状が変化してしまうという問題があるため、それほど一般的とはいえない。
【0003】
帯電防止ハードコート層として最も一般的なのは、導電性微粒子とバインダーとからなる組成物を塗布し硬化したものである。例えば、特許文献1や2には、導電性微粒子を分散させた層をシート又はフィルム表面に設けることで、表面抵抗を低下させる方法が開示されている。これらの方法では、導電性微粒子として、錫をドープした酸化インジウム微粒子やアンチモンをドープした酸化錫が帯電防止塗膜内に50質量%以上添加されており、この方法によって得られるシート又はフィルム表面の抵抗値は10〜10Ω/□を示す。
【0004】
また、特許文献3では、導電性微粒子を含有しない相を、最小径200nm以上の導電性微粒子を含有する相に分散させることにより、ITO導電性微粒子を24質量%含有した塗膜にて、10〜10Ω/□程度の表面抵抗を示す樹脂板が得られることが記載されている。
【0005】
他方、特許文献4では、透明基材フィルム上に、導電性微粒子を含有する透明樹脂溶液を塗布した後に、1分間以上放置し、導電性微粒子を基材フィルム側に偏在させることにより、導電性微粒子を5質量%含有した塗膜で、1010Ω/□程度の表面抵抗を示す帯電防止ハードコートフィルムが得られることが記載されている。
【特許文献1】特開平7−310033号公報
【特許文献2】特開平11−203492号公報
【特許文献3】特開2003−238822号公報
【特許文献4】特開2004−034399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの従来知られている帯電防止性シート又はフィルムにおいては、20質量%以下の低添加量の導電性微粒子によって、1010Ω/□未満の良好な表面抵抗値を発見するには至っていない。
【0007】
上記の特許文献1,2で開示されている方法では、表面の帯電防止性塗膜内に50重量%以上の高価な導電性微粒子を使用している。これは1010Ω/□未満の導電性を発現させる上では有効な手法であるが、帯電防止シート又はフィルムの製造コストを増大させ、また塗膜の透明性及び強度の悪化を招く傾向がある。
【0008】
また、上記の特許文献3に関しては、最小径200nm以上を有し、導電性微粒子を含有しない相を、導電性微粒子を含有する相に分散させることにより、得られた樹脂板の表面抵抗が10〜10Ω/□になるが、導電性微粒子の添加量が20質量%を超えており、加えて、最小径200nm以上を有し、導電性微粒子を含有しない有機樹脂粒子や無機粒子を添加する必要があることから、その製造の困難性が増大し、また得られた導電膜の透明性も悪いなどの欠点がある。
【0009】
また、特許文献4では、導電膜中に、導電性微粒子の含有量が5質量%と少ないものではあるが、1010Ω/□の表面抵抗を実現するために、導電性微粒子を含有する透明樹脂溶液を塗布したのち、1分間以上放置する必要があり、連続塗布に採用し難いという問題がある。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、導電性微粒子の含有量が比較的少なくて済み、帯電防止性能や透明性に優れた帯電防止ハードコート並びに高速連続塗布に適した帯電防止ハードコート用塗布組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、帯電防止ハードコート層内の導電性微粒子、分子内のヒドロキシル基数に着目し、これらを適切に制御することにより、帯電防止ハードコート層において導電性微粒子を状態で偏在させることができることを見出し本発明をするに至った。
【0012】
本発明の帯電防止ハードコート層は、導電性微粒子と、ヒドロキシル基を含むバインダーと、を含有する帯電防止ハードコート層であって、前記バインダーは、前記導電性微粒子が偏在するために十分な数のヒドロキシル基を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の帯電防止ハードコート層においては、前記バインダーは、ヒドロキシル基及び(メタ)アクリレート基を含有し、前記十分な数は、前記(メタ)アクリレート基のモル数(重合していない基のモル数と重合後の繰り返し単位のモル数との和)に対する前記ヒドロキシル基のモル数が約30%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の帯電防止ハードコート層においては、前記導電性微粒子の質量は、前記バインダーの質量に対して約20%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の帯電防止ハードコート層においては、前記導電性微粒子が無機酸化物微粒子であることが好ましい。
【0016】
本発明の帯電防止ハードコート用塗布組成物は、導電性微粒子と、バインダーとを含む帯電防止ハードコート層用塗布組成物であって、前記バインダーは、ヒドロキシル基及び(メタ)アクリレート基を含有し、前記十分な数は、前記(メタ)アクリレート基のモル数(重合していない基のモル数と重合後の繰り返し単位のモル数との和)に対する前記ヒドロキシル基のモル数が約30%以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明の帯電防止ハードコート用塗布組成物においては、前記導電性微粒子の質量は、前記バインダーの質量に対して約20%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の帯電防止ハードコート用塗布組成物においては、前記導電性微粒子が無機酸化物微粒子であることが好ましい。
【0019】
本発明の光学部材は、透明基板と、前記透明基板上に形成された請求項1から請求項4のいずれかに記載の帯電防止ハードコート層と、を具備することを特徴とする。
【0020】
本発明の光学部材は、上記帯電防止ハードコート用塗布組成物を用いて透明基板上に帯電防止ハードコート層を形成してなることを特徴とする。
【0021】
本発明の光学部材においては、全光線透過率が約85%以上であり、ヘーズが約1%以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の光学部材においては、前記帯電防止ハードコート層上又は前記透明基板と前記帯電防止ハードコート層との間に反射防止機能を有する単一又は複数の層を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、導電性微粒子及びバインダーを含む組成物で構成された帯電防止ハードコート層であって、前記バインダーは、前記帯電防止ハードコート層において前記導電性微粒子が偏在するために十分な量のヒドロキシル基を有するので、高価な導電性微粒子を少量添加でも、表面抵抗が10Ω/□に達する、強度と透明性の優れた帯電防止ハードコートを提供することができる。また、本発明によれば、導電性微粒子と、バインダーとを含む帯電防止ハードコート層用塗布組成物であって、前記バインダーは、ヒドロキシル基及び(メタ)アクリレート基を含有し、前記十分な量は、前記(メタ)アクリレート基のモル数(重合していない基のモル数と重合後の繰り返し単位のモル数との和)に対する前記ヒドロキシル基のモル数が約30%以下の量であるので、高速連続塗布に適した帯電防止ハードコート用塗布組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の帯電防止ハードコート層は、導電性微粒子及びバインダーを含む組成物で構成される。また、バインダーは、帯電防止ハードコート層において導電性微粒子が偏在するために十分な数のヒドロキシル基を有する。帯電防止ハードコート層としての帯電防止効果を発揮するためには、帯電防止ハードコート層において導電性微粒子が偏在していることが望ましい。導電性微粒子を偏在させるためには、未反応のヒドロキシル基が残っていることが必要である。このヒドロキシル基数を適切に制御することにより、導電性微粒子を偏在させることができる。例えば、導電性微粒子が無機酸化物である場合、微粒子表面は親水性になっているので、バインダーにおけるヒドロキシル基数を制御することにより、帯電防止ハードコート層における導電性微粒子の分布状態を制御することができると考えられる。本発明はこの見地に基づいている。ここで、導電性微粒子がハードコート層中に偏在しているとは、ハードコート層中において、導電性微粒子がハードコート層の厚み方向に濃度分布を有しており、かつ、透明基板側の導電性微粒子の濃度が高くなっていることを特徴とする形態をいう。また、導電性微粒子が偏在するために十分な数とは、後述する図1に示すような前記偏在形態を実現できるために必要な数をいう。
【0025】
帯電防止ハードコート層において導電性微粒子が偏在することを実現するために必要なバインダーにおけるヒドロキシル基数は、バインダーのマトリクス樹脂の種類、pH、バインダーへの導電性微粒子の分散方法などにより異なる。例えば、バインダーにおけるヒドロキシル基数は、好ましくは、ヒドロキシル基及び多官能(メタ)アクリレート基を含有し、前記十分な量は、(メタ)アクリレート基のモル数(重合していない基のモル数と重合後の繰り返し単位のモル数との和)に対するヒドロキシル基のモル数が約30%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは23%以下である。
【0026】
導電性微粒子としては、亜鉛、スズ、インジウム、アンチモン、チタン、ガリウム、アルミニウム、ジルコニウム、モリブデン、セリウム、タンタル、イットリウムから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物あるいは複合酸化物の無機酸化物微粒子;銅、銀、ニッケル、低融点合金(ハンダなど)の金属微粒子;金属を被覆したポリマー微粒子;各種のカーボンブラック、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマー粒子;金属繊維、炭素繊維など公知のものが用いられる。この中でも特にITO(スズ含有酸化インジウム)粒子、ATO(スズ含有酸化アンチモン)粒子が、高い透明性と導電性を発現させることができるので好ましい。
【0027】
導電性微粒子の透明性、導電性、分散安定性の点から、上記導電性微粒子の平均粒径は10以上、帯電防止ハードコートの透明性の観点から200nm以下であることが好ましく、より好ましくは10〜100nmであり、最も好ましくは10〜50nmである。平均粒径は、例えばマイクロトラック UPA粒度分析計(日機装株式会社製)によって測定することができる。
【0028】
本発明の多官能(メタ)アクリレートとしては、エチレンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられ、特に好ましくは、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独、または、混合物で使用することができる。
【0029】
また、多官能アクリレート以外に、(メタ)アクリレート系、ウレタン系、ウレタン(メタ)アクリレート系、シリコーン系、シリコーン(メタ)アクリレート系、エポキシ系、エポキシ(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系、メラミン系、フェノール系、尿素系の各樹脂を単独または複数含んでいてもよい。
【0030】
本発明の帯電防止ハードコート用塗布組成物は、用いるバインダーの硬化方法に応じて、光ラジカル発生剤、熱ラジカル発生剤、酸、アルカリ、光酸発生剤、熱酸発生剤、酸無水物、有機スズ化合物、加水分解性ケイ素化合物、チオール、水などの、硬化を促進する添加剤を含んでいてもよい。
【0031】
上記の光ラジカル発生剤としては、例えばフェニルケトン系化合物、ベンゾフェノン系化合物等の通常の光ラジカル発生剤を用いることができ、具体的には、「イルガキュア184」(日本チバガイギー(株)製)、「イルガキュア907」(日本チバガイギー(株)製)等の市販品を用いることができる。本発明において、光ラジカル発生剤は、導電性樹脂組成物中に、樹脂全体の質量を基準として、0.01〜20質量%、好ましくは0.01〜10質量%使用することが好ましい。
【0032】
バインダーと導電性微粒子の比率((導電性微粒子の質量)/(バインダーの質量))は、表面抵抗率の観点からは大きいほど好ましいが、透過率、コストの面からは、少ない方が好ましい。本発明では、バインダーに含まれる(メタ)アクリレート基のモル数に対するヒドロキシル基のモル数を規定することにより、導電性微粒子比率20質量%以下で、十分な表面抵抗率を得ることができる。(導電性微粒子の質量)/(バインダーの質量)の値の下限は、表面抵抗率の観点から、2質量%以上であることが好ましい。
【0033】
帯電防止ハードコート層の硬度をさらに高めるために、帯電防止ハードコート用塗布組成物はさらに微粒子を含有していてもよい。微粒子としては無機微粒子や有機微粒子が挙げられる。無機微粒子の例には、二酸化ケイ素微粒子、二酸化チタン微粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム微粒子、酸化錫微粒子、炭酸カルシウム微粒子、硫酸バリウム微粒子、タルク、カオリンおよび硫酸カルシウム微粒子が含まれる。有機微粒子の例には、メタクリル酸−メチルアクリレートコポリマー、シリコーン樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル酸−スチレンコポリマー、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドおよびポリフッ化エチレンが含まれる。
【0034】
これらの微粒子の平均粒子径は、0.01〜2μmであることが好ましく、0.02〜0.5μmであることがさらに好ましい。また、有機微粒子、無機微粒子は各々複数種を混合して用いても構わず、有機微粒子と無機微粒子を混合して用いて構わない。上記微粒子の添加量は、(微粒子の質量)/(バインダーの質量)の値で0.001〜10、好ましくは0.005〜5、より好ましくは0.01〜1、さらに好ましくは0.05〜0.5である。
【0035】
塗布組成物の粘度など塗布性能を調節するために溶媒を用いてもよい。溶媒としては水、任意の有機溶媒、公知の反応性希釈剤が好適である。もちろん溶媒は単一でも複数の混合でもよい。溶媒としては、具体的には、水、炭素数1〜6個の一価アルコール、炭素数1〜6個の二価アルコール、グリセリンなどのアルコール類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジ(n−プロピル)エーテル、ジイソプロピルエーテル、ジグライム、1,4−ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチル(n−ブチル)ケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、n−ブチロニトリル、イソブチロニトリルなどのニトリル類;ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどが好適に用いられる。
【0036】
本発明の帯電防止ハードコート用塗布組成物の経時安定性や加工性などの点からは、上記溶媒の使用量は、固形分成分100部に対して、20〜500部が好ましく、より好ましくは40〜300部、最も好ましくは60〜200部である。
【0037】
帯電防止ハードコート用塗布組成物には、さらに、着色剤(顔料、染料)、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤や改質用樹脂を添加してもよい。
【0038】
本発明の帯電防止ハードコート用塗布組成物の調製方法は特に限定されないが、例えば、まず導電性微粒子以外の成分を樹脂溶液として調製しておき、続いて導電性微粒子スラリーを高速攪拌しながら、上記調製した樹脂液を添加することで、本発明の帯電防止ハードコート用塗布組成物を調整することができる。
【0039】
次に、帯電防止ハードコート層の製造方法について説明する。
本発明の帯電防止ハードコート層は、上記塗布組成物を基材に塗布し硬化させることで得られる。基材としては任意の形状をもつ金属、ガラス、セラミック、プラスチックなどどのようなものでも用いることができ、表面硬度と帯電防止機能を付与することができる。この中でも特に表面硬度と帯電防止機能が強く求められるものはディスプレイなどの表示材料に用いられる透明基板である。透明基板としては透明なガラス板や透明樹脂基板が挙げられ、さらに透明樹脂基板が好ましい。透明樹脂基板としては(メタ)アクリル樹脂板、(メタ)アクリル樹脂シート、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体樹脂板、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体樹脂シート、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースアセテート系フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ノルボネン系フィルム、ポリアリレート系フィルムおよびポリスルフォン系フィルムなどが挙げられる。
【0040】
塗布の方法は、浸漬、スピンコーター、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、グラビアロールコーター、スライドコーター、カーテンコーター、スプレイコーター、ダイコーターなどの公知の塗布法を用いて実施することができる。これらのうち、透明樹脂基板がフィルム状の場合、高速連続塗布が可能なナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、グラビアロールコーター、スライドコーター、カーテンコーター、スプレイコーター、ダイコーターなどの方法が好ましく用いられる。
【0041】
塗布を行った後、必要に応じて加熱、紫外線照射、電子線照射を行うことにより、溶媒除去並びにバインダーの硬化を行う。加熱を行う場合、その温度と時間は溶媒の種類や量、バインダーの種類によって調整する。溶媒除去のための乾燥温度は、120℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以下、最も好ましくは80℃以下である。紫外線や電子線照射を行う場合、その光量はバインダーの種類によって調整する。紫外線により硬化させる場合、光源としてキセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプなどを有する紫外線照射装置が使用され、必要に応じて光量、光源の配置などが調整される。高圧水銀灯を使用する場合、80〜160W/cmの出力を有するランプ1灯に対して搬送速度2〜60m/分で硬化させるのが好ましい。加熱、紫外線照射、電子線照射は複数を併用してもよく、それらの順序は任意である。
【0042】
以上の処理によって基材上に帯電防止ハードコート層を形成することができる。本発明の帯電防止ハードコート層の厚さは、強度の観点から1以上、膜の内部応力を小さくし、クラックや剥離を抑制するという観点から15μm以下の範囲が好ましく、2〜10μmの範囲がより好ましく、3〜8μmの範囲が最も好ましい。
【0043】
なお、本発明に係る帯電防止ハードコート層において導電性微粒子が偏在していることは、ハードコート層断面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察などにより確認することができる。導電性微粒子が偏在していれば、SEM写真において導電性微粒子が基板方向に濃度分布を有する様子が観察できる。
【0044】
本発明の帯電防止ハードコート層は帯電防止効果に優れており、表面抵抗の値を1016Ω/□未満とすることができる。表面抵抗の値を制御するには、使用する導電性微粒子の種類や量を調節する。通常、表面抵抗の値が1016Ω/□未満であれば帯電防止効果があるといわれており、1014Ω/□未満であればより好ましい。10Ω/□未満であれば帯電防止効果に加えて電磁波シールド効果も併せ持つので有用である。
【0045】
本発明の帯電防止ハードコート層は硬度にも優れている。例えばポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚さ5μmの帯電防止ハードコート層を形成した場合、JISK5400に規定される鉛筆硬度は2H以上とすることが可能である。
【0046】
さらに、本発明の帯電防止ハードコート層は、導電性微粒子の分散性が良好なために透明性にも優れており(全光線透過率が約85%以上)、ヘーズ値が1%以下の値を提供できる。したがって、本発明の帯電防止ハードコート層は、光学部材に好適である。
【0047】
本発明の帯電防止ハードコート層上に、さらに別の機能を有する層、例えば反射防止機能を有する単一又は複数の層を積層することも可能である。このような層の例として例えばフッ素系材料、シリカ系材料、シリコーン系材料、酸化チタン系の材料などからなる防汚層や反射防止膜などが挙げられる。
【0048】
本発明の帯電防止ハードコート層は、上述のようなディスプレイなどの表示材料にのみならず、メガネレンズ、ゴーグル、コンタクトレンズなどの視力矯正用部材、車の窓やインパネメーター、ナビゲーションシステムなどの自動車部品、窓ガラスなどの住宅・建築部材、ビニルハウスの光透過性フィルムやシートなどの農芸製品、太陽電池、光電池などの電池部材、タッチパネル、光ファイバー、光ディスクなどの電子情報機器部品、照明グローブ、蛍光灯、鏡、時計などの家庭用品、ショーケース、額、半導体リソグラフィー、コピー機器などの業務用部材、パチンコ台ガラス、ゲーム機など、表面硬度と帯電防止機能が求められる様々な分野における部材として応用することが可能である。
【0049】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
以下の実施例及び比較例においては、ヒドロキシル基のモル数/(メタ)アクリレート基のモル数の比は、プロトンNMRスペクトルにより計算した。帯電防止ハードコート層の表面抵抗は、東亜電波工業株式会社製SM−10E型超絶縁計を用いて測定した。膜厚の測定は、大塚電子株式会社製FE−3000分光光度計を用いた。ヘーズは、日本電色工業株式会社製NDH2000型濁度計を用いて、JISK7361−1に規定される方法にて測定した。鉛筆硬度は、JIS−K5400記載に基づき、2Hの硬度の鉛筆を用い、1kg荷重下で行った。また、SEM観察は次のようにして行った。すなわち、試料をエポキシ樹脂に包埋した後に、研磨により断面を剖出させ、この状態で試料台に設置し、オスミウムを1.5nmコーティングし、検鏡用試料とした。この検鏡用試料について、HITACHI S−4700(日立製作所社製)を用いて加速電圧4.0kVにて解析を行った。
【0050】
(実施例1)
スズ含有酸化インジウム(ITO)微粒子のエタノール分散液(商品名ELCOM V−2506、触媒化成工業株式会社製、固形分濃度20.5重量%)2.5gに、多官能アクリレート系バインダー(商品名NKエステルA−DPH、新中村化学工業株式会社、固形分100%、ヒドロキシル基のモル数/(メタ)アクリレート基のモル数=22.4%)2.6g、エタノール0.63g、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.125gを、磁気攪拌子で高速攪拌しながら順次加え、本発明の帯電防止ハードコート用塗布組成物を得た。該帯電防止ハードコート用塗布組成物中における、ITO微粒子の重量/A−DPHの重量比は19.7%であった。
【0051】
片面に易接着処理がなされた厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名コスモシャインA4100、東洋紡績株式会社製)上に、上記帯電防止ハードコート用塗布組成物をバーコーター(米国R.D.Specialties,Inc.製の#7ロッドを装着)を用いて塗布し、20秒以内、乾燥オーブンに入れ、120℃にて10秒間乾燥し、続いて紫外線硬化装置(UVC−2519型、高圧水銀灯を装着、ウシオ電機株式会社製)を用いて出力160W、コンベア速度2m/分、光源距離100mmにて紫外線照射することによって帯電防止ハードコート層を形成した。
【0052】
得られたハードコート層をSEMで観察したところ、導電性微粒子が偏在していることが確認された。得られたハードコート層の膜厚は5μm、表面抵抗は2×10Ω/□、ヘーズは0.49%、全光線透過率は88.91%、鉛筆強度は2Hであった。
【0053】
(実施例2)
実施例1中、スズ含有酸化インジウム(ITO)微粒子のエタノール分散液の使用量を1.25gに変更した以外は実施例1と同じ操作を行った。得られた帯電防止ハードコート用塗布組成物中における、ITO微粒子の重量/A−DPHの重量比は9.86%であった。得られたハードコート層をSEMで観察したところ、図1に示すように、導電性微粒子(ITO粒子)が偏在していることが確認された。なお、図1において、白い部分がITO粒子である。図1から分かるように、ITO粒子が適度に凝集して偏在している。また、得られたハードコート層の膜厚は5μm、表面抵抗は2×10Ω/□、ヘーズは0.49%、全光線透過率は89.91%、鉛筆強度は2Hであった。
【0054】
(実施例3)
実施例1中、多官能アクリレート系バインダーとしてジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート(シグマアルドリッチジャパン製、ヒドロキシル基のモル数/(メタ)アクリレート基のモル数=25%)で置き換えた以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたハードコート層をSEMで観察したところ、導電性微粒子が偏在していることが確認された。得られたハードコート層の膜厚は5μm、表面抵抗は3×10Ω/□、ヘーズは0.49%、全光線透過率は89.10%、鉛筆強度は2Hであった。
【0055】
(比較例1)
実施例2中、多官能アクリレート系バインダーとして共栄社化学株式会社製の商品名ライトアクリレート DPE−6A(固形分100%、ヒドロキシル基のモル数/(メタ)アクリレート基のモル数=32%)で置き換えた以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたハードコート層をSEMで観察したところ、図2に示すように、導電性微粒子(ITO粒子)が偏在していないことが確認された。なお、図2において、白い部分がITO粒子である。図2から分かるように、ITO粒子がハードコート層内にほぼ均一に分散しており偏在していない。また、得られたハードコート層の膜厚は5μm、表面抵抗は∞Ω/□、ヘーズは0.39%、全光線透過率は89.10%、鉛筆強度は2Hであった。
【0056】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態における材料、数値などは例示であり、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例2のハードコート層を示すSEM写真を示す図である。
【図2】比較例1のハードコート層を示すSEM写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子と、ヒドロキシル基を含むバインダーと、を含有する帯電防止ハードコート層であって、前記バインダーは、前記導電性微粒子が偏在するために十分な数のヒドロキシル基を有することを特徴とする帯電防止ハードコート層。
【請求項2】
前記バインダーは、ヒドロキシル基及び(メタ)アクリレート基を含有し、前記十分な数は、前記(メタ)アクリレート基のモル数に対する前記ヒドロキシル基のモル数が約30%以下であることを特徴とする請求項1記載の帯電防止ハードコート層。
【請求項3】
前記導電性微粒子の質量は、前記バインダーの質量に対して約20%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の帯電防止ハードコート層。
【請求項4】
前記導電性微粒子が無機酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の帯電防止ハードコート層。
【請求項5】
導電性微粒子と、バインダーとを含む帯電防止ハードコート層用塗布組成物であって、前記バインダーは、ヒドロキシル基及び(メタ)アクリレート基を含有し、前記十分な数は、前記(メタ)アクリレート基のモル数に対する前記ヒドロキシル基のモル数が約30%以下であることを特徴とする帯電防止ハードコート用塗布組成物。
【請求項6】
前記導電性微粒子の質量は、前記バインダーの質量に対して約20%以下であることを特徴とする請求項5記載の帯電防止ハードコート用塗布組成物。
【請求項7】
前記導電性微粒子が無機酸化物微粒子であることを特徴とする請求項5又は請求項6記載の帯電防止ハードコート用塗布組成物。
【請求項8】
透明基板と、前記透明基板上に形成された請求項1から請求項4のいずれかに記載の帯電防止ハードコート層と、を具備することを特徴とする光学部材。
【請求項9】
請求項5から請求項7のいずれかに記載の帯電防止ハードコート用塗布組成物を用いて透明基板上に帯電防止ハードコート層を形成してなることを特徴とする光学部材。
【請求項10】
全光線透過率が約85%以上であり、ヘーズが約1%以下であることを特徴とする請求項8又は請求項9記載の光学部材。
【請求項11】
前記帯電防止ハードコート層上又は前記透明基板と前記帯電防止ハードコート層との間に反射防止機能を有する単一又は複数の層を有することを特徴とする請求項8から請求項10のいずれかに記載の光学部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−23107(P2007−23107A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204857(P2005−204857)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】