説明

帯電防止剤及び樹脂組成物

【課題】
本発明は、優れた帯電防止性能及びその持続性(耐久性)を有するとともに、極めて簡便、容易にその帯電防止性を熱可塑性樹脂に付与することができる新規なエステル化反応物からなる帯電防止剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
(a)多価カルボン酸成分、(b)多価アルコール成分及び(c)分子量調節剤としての1価アルコール成分及び/又は1価カルボン酸成分から得られるエステル化反応物からなり、(b)多価アルコール成分が数平均分子量200〜2000のポリエチレングリコールを含むものであることを特徴とする帯電防止剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のエステル化反応物からなる帯電防止剤及び帯電防止性を有する熱可塑性樹脂組成物に関する。詳しくは、熱可塑性樹脂の表面に塗布、又は熱可塑性樹脂に配合することにより、優れた帯電防止性及びその持続性を発揮する、特定のエステル化反応物からなる帯電防止剤及び帯電防止性を有する熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂及びABS樹脂等はそれぞれ優れた特性を有しているため、自動車、家電製品部品、電子部品、基盤部品、繊維、フィルム、シート等の成形材料として広く用いられている。しかし、これら成形用熱可塑性樹脂のほとんどは疎水性であるため、帯電防止性の要求される分野での使用は制限されることもある。例えば、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル繊維では、衣類として着用中にパチパチという放電音や不快感をもたらすことや、汚れやすいこと、又は製糸時や加工時に種々のトラブルを発生しやすいという問題がある。又、ABS樹脂が用いられているOA、電子部品においては、複写機、プリンターの紙送り不調等、静電気による電撃、ほこりの付着等の問題がある。一方、ポリエステルフィルム等の高分子フィルムは磁気テープ、一般電子材料、カード等に使用されているが、製造過程において、フィルムの巻き取り時に静電気によるフィルム同士の付着、ほこりの付着等が起こり問題となる。このような問題を解決するために、疎水性の樹脂等に親水性を付与して、制電性を発現させようとする数多くの提案がこれまでになされ、その方法としては帯電防止剤を熱可塑性樹脂の表面に塗布することや、熱可塑性樹脂に配合することが挙げられる。
【0003】
このような方法としては、例えば、イオン性帯電防止剤あるいはイオン性帯電防止剤と各種エマルジョンのブレンド物を樹脂あるいは紙表面に塗布することが知られている。(例えば特許文献1参照) しかしながら、その効果は、いまだ十分とはいえないばかりか、経時的あるいは、水などとの接触により、その効果が消滅する場合もある。又、界面活性剤型の帯電防止剤を種々の樹脂に塗布する方法も一般的に行われているが、この方法でも同様に、短期的な帯電防止性には優れるものの、長期的には帯電防止性を維持できず、水などとの接触により、その効果が消滅するといった問題がある。
【0004】
一方で、帯電防止剤を練り込んだ樹脂組成物にもその速効性や効果の持続性に常に問題点が含まれており、これらの解決のため種々の界面活性剤による配合系帯電防止剤が開発されてきた。その中でも多く利用される配合に多価アルコールエステル、アルキルジエタノールアミン、高級アルコールからなる系が含まれる。(例えば特許文献2参照) しかしながら、この配合帯電防止剤は経時的に組成変化が起こり時間経過を経たものについて帯電防止性発現について性能的な劣化が起こるという問題があり、その結果、安定的な性能を示さないという問題点を有していた。又これらの経時的劣化を起こさないようにするため、系内から多価アルコールエステルを除くという方法もあるが、この場合帯電防止速効性の低下と充分な帯電防止性が得られない結果となる。逆に多価アルコールエステルのみでは速効性が出るものの、帯電防止持続性に問題が残った。
【0005】
【特許文献1】特開平8−104787
【特許文献2】特公平4−43104
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の種々の問題を解決すべく、熱可塑性樹脂に良好で耐久性(持続性)のある帯電防止能を付与することができる帯電防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下に記載の要旨を骨子とするものである。
(1) (a)多価カルボン酸成分、(b)多価アルコール成分及び(c)分子量調節剤としての1価アルコール成分及び/又は1価カルボン酸成分から得られるエステル化反応物からなり、(b)多価アルコール成分が数平均分子量200〜2000のポリエチレングリコールを含むものであることを特徴とする帯電防止剤。
(2) (a)多価カルボン酸成分が、炭素数8〜12の芳香族多価カルボン酸又は炭素数4〜8の脂肪族多価カルボン酸であることを特徴とする(1)に記載の帯電防止剤。
(3) エステル化反応物の数平均分子量が、500〜10000の範囲にあることを特徴とする(1)に記載の帯電防止剤。
(4) エステル化反応物中のエステルモノマー成分の割合が、30wt%以下であることを特徴とする(1)に記載の帯電防止剤。
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の帯電防止剤を樹脂表面に塗布したことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(6) (1)〜(4)のいずれかに記載の帯電防止剤を配合したことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の帯電防止剤を熱可塑性樹脂の表面に塗布、あるいは熱可塑性樹脂に配合することで、良好な帯電防止能と耐久性を熱可塑性樹脂に付与することができる。又、水分を表面に保持する効果が向上することから、防曇等の機能をも付与することができるのは言うまでもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず本発明の帯電防止剤について説明する。本発明の帯電防止剤は、(a)多価カルボン酸成分、(b)多価アルコール成分及び(c)分子量調節剤としての1価アルコール成分及び/又は1価カルボン酸成分のエステル化反応及びエステル交換反応によって得られるエステル化反応物である。
【0010】
本発明における(a)多価カルボン酸成分としては、炭素数8〜12の芳香族多価カルボン酸又は炭素数4〜8の脂肪族多価カルボン酸が好適に用いられる。炭素数8〜12の芳香族多価カルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸等が挙げられ、炭素数4〜8の脂肪族多価カルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸等が挙げられる。また、例えば無水フタル酸や無水コハク酸のような無水物を用いてもよい。さらに、多価カルボン酸成分として、例えばジメチルテレフタレートのようなエステル化物を用いることにより、エステル交換反応により脱離するアルコール成分を後述する1価アルコール成分として利用してもよい。これらのうち、好ましい多価カルボン酸成分は、無水フタル酸、テレフタル酸、コハク酸である。なお、これらの多価カルボン酸成分は、単独で用いても、これらを2種以上併用しても構わない。
【0011】
本発明における(b)多価アルコール成分としては、数平均分子量200〜2000のポリエチレングリコールを含むものであることを必須とする。数平均分子量200〜2000のポリエチレングリコールとしては、具体的には、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール1000、ポリエチレングリコール2000等の各平均分子量の混合物が市販されており、その他、単独成分として、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール等のポリエチレングリコール及びそれらのオリゴマーが挙げられる。ポリエチレングリコールの数平均分子量が200未満だと、本発明の帯電防止剤としての効果がほとんどなくなり、一方、数平均分子量が2000を超えると帯電防止剤としての効果はあるが、エステル化反応が遅くなったり、ポリエチレングリコール自体及びエステル化反応物の融点が高く取り扱いが困難になったりする可能性がある。ポリエチレングリコールの好ましい数平均分子量の範囲は300〜1500であり、さらに好ましくは400〜1000である。又、例えば、数平均分子量400のポリエチレングリコールと、数平均分子量1000のポリエチレングリコールを混合して用いても構わない。
【0012】
数平均分子量200〜2000のポリエチレングリコール以外に用いられる多価アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のジオール或いはグリセリン、トリメチロールプロパン等のトリオール等が挙げられる。さらにその他、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン/オキシプロピレン共重合グリコール或いはポリテトラメチレンエーテルグリコール等の長鎖ポリエーテルポリオール等を用いても構わない。又、これら多価アルコール成分は、2種以上を混合して用いても構わない。多価アルコール成分中の数平均分子量200〜2000のポリエチレングリコールの好ましい割合は30mol%以上、さらに好ましくは40mol%以上、最も好ましくは50mol%以上であり、多価アルコール成分の全量を数平均分子量200〜2000のポリエチレングリコールとしても構わない。
【0013】
本発明における(c)分子量調節剤としての1価アルコール成分としては、炭素数1〜12の脂肪族1価アルコールが好適に用いられる。炭素数1〜18の脂肪族1価アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール等が挙げられるほか、エチレングリコールモノメチルエーテルのようなエーテル結合を持った1価アルコールを用いても構わないし、エチレングリコールモノアリルエーテルのような二重結合を持ったものや、イソプロピルアルコールのような側鎖を持ったものでも構わない。又、これらを2種以上併用しても構わない。好ましい炭素数1〜18の脂肪族1価アルコールとしては、2−エチルヘキサノール及びイソノニルアルコールである。さらに、前述のように多価カルボン酸成分として、例えばジメチルテレフタレートのようなエステル化物を用いることにより、エステル交換反応により脱離するアルコール成分を1価アルコール成分として利用してもよい。一方、(c)分子量調節剤としての1価カルボン酸成分としては、炭素数2〜18の脂肪族カルボン酸を用いることができる。炭素数2〜18の脂肪族カルボン酸としては、酢酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチル酸、ステアリン酸、ヤシ油脂肪酸等が挙げられる。これらを2種以上併用しても構わない。又、これらの1価アルコール成分と1価カルボン酸成分を併用しても構わない。
【0014】
後述の反応方法によって得られる本発明のエステル化反応物は、カルボン酸成分とアルコール成分からなるエステルを構成単位としたエステルオリゴマー成分を主成分とし、その他エステルモノマー成分や未反応成分を含む混合物であり、その数平均分子量は、500〜10000の範囲内、好ましくは、700〜7000の範囲内、さらに好ましくは1000〜5000の範囲内のものが、帯電防止性、耐久性及び樹脂との相溶性の観点から望ましい。数平均分子量が500未満の場合、結果的にエステルモノマー成分が多い分子量分布となり、帯電防止性が低下する可能性がある。一方、数平均分子量が10000を超える場合、粘度が著しく悪化して取り扱いが困難になる可能性がある。ここでのエステル化反応物の数平均分子量は、原料の仕込み組成より計算できる。
【0015】
本発明におけるエステル化反応物中のエステルモノマー成分とは、帯電防止剤として効果が期待できない成分であり、分子中にポリエチレングリコール残基を含まないエステル成分及び未反応成分を意味する。この分子中にポリエチレングリコール残基を含まないエステル成分は、多価カルボン酸成分及び/又は1価カルボン酸成分と、ポリエチレングリコール以外の多価アルコール成分及び/又は1価アルコール成分からなるエステル成分をいう。具体的には、用いる(a)多価カルボン酸成分、(b)多価アルコール成分及び(c)1価アルコール成分及び/又は1価カルボン酸成分の種類にもよるが、例えば、(a)多価カルボン酸成分として無水フタル酸、(c)1価アルコール成分としてイソノニルアルコールを用いた場合は、ジイソノニルフタレートとなり、これが大量に存在する場合には帯電防止性を悪化させる原因となる。そのため、エステルモノマー成分の好ましい含有量は30wt%以下であり、さらに好ましくは25wt%以下、最も好ましくは20wt%以下である。一方、エステルモノマー成分の含有量を0wt%とすることは、実用上困難であり、エステルモノマー成分が一部含まれることにより、得られたエステル化反応物の粘度が低下して取扱いが容易になるといった効果もあるため、上記含有量の範囲であれば、エステルモノマー成分が含まれていることが望ましい場合もある。
【0016】
エステル化反応物を製造する際の、数平均分子量200〜2000の範囲にあるポリエチレングリコールと多価カルボン酸成分との使用割合は、分子量調節剤として、1価アルコール成分を使うか、1価カルボン酸成分を使うかによって大幅に異なり、又、他の多価アルコール成分を併用する場合には、その量によっても異なるが、通常、1当量の多価アルコール成分に対し、0.1〜4当量の多価カルボン酸成分を用いることが好ましい。又、分子量調節剤の量は、通常、1当量の多価アルコール成分に対し、1価アルコールの場合は、0.1〜6当量を用い、1価カルボン酸の場合には、0.1〜4当量を用いることが好ましい。
【0017】
本発明において、エステル化反応物は、公知の方法に従って、前述のカルボン酸成分(多価カルボン酸や1価カルボン酸等)とアルコール成分(多価アルコールや1価アルコール等)を原料としたエステル化反応及びエステル交換反応により得られるほか、前述の多価カルボン酸のメチルエステル等のアルキルエステルとアルコール成分とのエステル交換反応等により得ることができる。それ以外にも、例えば、ジオクチルフタレートと数平均分子量200〜2000ポリエチレングリコールとをエステル交換反応させ、副生する2−エチルヘキサノールを留去するような方法でも構わない。
【0018】
エステル化反応及びエステル交換反応では、一般に、酸触媒が使用される。酸触媒として使用されるルイス酸としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等のオルトチタン酸エステル;ジエチル錫オキシド、ジブチル錫オキシド等の錫系化合物;酸化亜鉛などの金属化合物が挙げられる。又、ルイス酸の他には、パラトルエンスルホン酸などのブレンステッド酸を使用しても構わない。これらの触媒の使用量は、原料のカルボン酸とアルコール成分の合計に対し、通常0.01〜1.0重量%、好ましくは0.01〜0.2重量%、さらに好ましくは0.01〜0.03重量%である。一方、触媒を用いずに反応しても構わない。
【0019】
反応温度は、通常150〜250℃、好ましくは180〜230℃である。例えば、180℃で反応を開始し、反応の進行に伴って230℃まで徐々に昇温するような条件であれば、反応を制御し易い。又、反応圧力は、常圧でも構わないが、副生する水を系外に除去し、反応を速やかに完結させるために反応の進行に伴って、徐々に減圧するとよい。ただし、反応時の減圧度が不足するとエステル化反応の完結度が低くなり、酸価の高いエステル化反応物が生成する。一方、反応時に過度に減圧にすると、アルコール成分が系外に留去され収率を損なうばかりか、高分子量のエステル化反応物が形成され、得られたエステル化反応物の粘度が著しく上昇して取り扱いが困難となる。従って、適切な到達反応圧力は、反応温度によっても異なるが、例えば、反応温度が200℃の場合、通常1〜30kPa、好ましくは3〜20kPaである。勿論、目標とするエステル化反応物の粘度や水酸基価、原料の種類、使用量によっては、上記の圧力範囲以外の条件で反応を行っても構わない。又、減圧する代わりに、トルエン、キシレン等の有機溶媒を少量併用して副生する水を系外に共沸させて除去しても構わないし、窒素のような不活性ガスをキャリアーとして用いても構わない。さらに、エステル化反応物の物性調整のため、未反応のアルコール成分を窒素のような不活性ガス、あるいは水蒸気をキャリアーとして留去しても構わない。
【0020】
反応の終点は、通常、使用したカルボン酸成分の未反応カルボキシル基の量で決定する。帯電防止用途においては、未反応のカルボキシル基の量(すなわち酸価)は、出来るだけ低い方が好ましい場合が多く、通常、10mgKOH/g以下、好ましくは5mgKOH/g以下、さらに好ましくは3mgKOH/g以下であるが、用途によっては、未反応のカルボキシル基がその範囲を超えて多くても構わない。
【0021】
尚、反応開始時には、生成するエステル化反応物の着色を防ぐために反応容器の空間部を窒素置換し、さらに、反応液中の溶存酸素も除去することが好ましい。又、反応終了の後に、適当な条件下に、未反応のアルコール成分を系外に留去させて、エステル化反応物の物性や性能を調節しても構わない。
【0022】
反応後、生成したエステル化反応物中には、金属触媒由来の金属成分、例えばテトライソプロピルチタネート由来のチタン等が残存する場合があるが、エステル化反応物の用途において、これらが悪影響を及ぼす可能性がある場合には除去することも好ましい。金属成分の除去方法としては、活性炭での吸着や、少量の水を添加して金属酸化物又は水酸化物とし、余剰の水を減圧留去後、濾過分離で金属成分を除去する方法の他、エステル化反応物を水溶液として放置することにより金属成分を金属酸化物又は水酸化物として析出させてこれを濾過分離、あるいは遠心沈降分離により除去する方法が挙げられる。
【0023】
次に、本発明の帯電防止剤、並びに樹脂組成物について説明する。前述の帯電防止剤は塗布用途で用いて熱可塑性樹脂表面に被膜を形成させる際、通常、所定の割合で溶媒に溶解させた溶液として使用される。溶媒としては、例えば、水、エタノール等のアルコール類、ケトン類、トルエン等の有機溶剤類、あるいはそれらの混合溶媒が用いられるが、エステル化反応物の組成によっては、水への溶解性を持たない場合、あるいは有機溶剤への溶解性を持たない場合もあるので、その組成、用途に応じた溶媒を選択することが大切である。又、本発明の効果を損ねない範囲で、界面活性剤、相溶化剤、定着剤、防曇剤、酸化防止剤、分散剤、安定剤、消泡剤、滑剤、架橋剤等、その他の助剤を同時に用いても構わない。
【0024】
被膜の形成方法としては、例えば、樹脂シート、樹脂フィルム等の製造工程中に塗布・乾燥工程を加えたり、又、製品としての樹脂シート、樹脂フィルム表面に塗布した後に乾燥する方法が挙げられるほか、ガラス製品、反射鏡、あるいは金属板等へ直接スプレー噴霧することが挙げられる。一般的な塗布方法としては、刷毛ぬり、噴霧、ロールコーター、グラビアロールコーター、ナイフコーター、ローターダンプニング法、浸漬法などの公知の方法が使用できる。その他、適当な濃度の溶液をガーゼ等の布に染み込ませ、それを支持体に塗りこむような方法をとっても良い。
【0025】
本発明においては、用途にもよるが、樹脂製品の場合、表面に0.01〜0.50g/m2程度の割合で前記の帯電防止剤の被膜を形成させることができる。帯電防止剤の割合が0.01g/m2未満の場合は帯電防止性が劣り、0.50g/m2を超える場合は、表面にべたつきが生じる場合がある。好ましい帯電防止剤の割合は、樹脂製品の場合で、0.01〜0.30g/m2、さらに好ましくは0.02〜0.10g/m2である。用途によってはこれらの範囲を超えて被膜を形成させても構わない。
【0026】
本発明の帯電防止剤を熱可塑性樹脂に配合する場合、その方法としては、押し出し機を用いて溶融混練した後、常法に従って、各種成形部品、繊維、フィルム、シート等製造する方法、本発明の帯電防止剤を公知の溶剤に溶解させて熱可塑性樹脂とブレンドし、混練りする際に蒸発等の操作で除して使用してもよい。又、本発明における(a)多価カルボン酸成分としてフマル酸やマレイン酸、(c)分子量調節剤としての1価アルコール成分としてエチレングリコールモノアリルエーテル等の二重結合を有するカルボン酸やアルコールを用いた場合、その二重結合を使って各種ポリマーと共重合させることも可能である。
【0027】
本発明の帯電防止剤は、他の帯電防止剤と併用しても良い。かかる他の帯電防止剤としては特に制限はないが、好ましいものとしては、ポリオキシエチレンもしくはポリオキシプロピレン骨格を有するノニオン系化合物、4 級窒素構造を有するカチオン系化合物、その他、スルホン酸基、カルボン酸基やリン酸基などのアニオン系官能基を有するアニオン系化合物などが挙げられる。目的や用途に応じ、更に紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、難燃剤、耐候剤、充填材、滑剤、抗菌剤、加飾剤、着色剤、可塑剤、親水性付与剤等の添加剤を含有してもよい。
【0028】
本発明における帯電防止剤は様々な形態を取り得る。本発明のエステル化反応物は液状又は固体状であるため、公知の加工方法により、例えば、フレーク形状、ペレット形状、樹脂に練り込んだマスターペレットとして加工しても良い。
【0029】
本発明で対象となる樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、ゴム強化樹脂、オレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、塩化ビニル系樹脂などが挙げられる。又、これらの樹脂のポリマーアロイであってもよい。その他、例えば、織物、不織物等の繊維製品であってもよい。
【0030】
上記のポリエステル系樹脂としては、例えば、ジカルボン酸又はその誘導体(低級アルキルエステル、酸ハライド、酸無水物など)とグリコール又は二価フェノールとを縮合させて得られる熱可塑性ポリエステルが挙げられる。
【0031】
上記のジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スべリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸類;テレフタル酸、イソフタル酸、p,p’−ジカルボキシジフェニルスルホン、p−カルボキシフェノキシ酢酸、p−カルボキシフェノキシプロピオン酸、p−カルボキシフェノキシ酪酸、p−カルボキシフェノキシ吉草酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸、2,7−ナフタリンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸類又はこれらのカルボン酸の混合物が挙げられる。
【0032】
上記のグリコールの具体例としては、炭素数2〜12のアルキレングリコール又はオキシアルキレングリコール、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,12−ドデカメチレングリコール等の脂肪族グリコール類の他、p−キシリレングリコール等の芳香族グリコール類;1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール類が挙げられる。一方、二価フェノールとしては、ピロカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン又はこれらの化合物のアルキル置換誘導体が挙げられる。
【0033】
ポリエステル系樹脂の他の例としては、ポリ乳酸やラクトンの開環重合により得られるポリエステルも挙げられる。例えば、ポリピバロラクトン、ポリ(ε−カプロラクトン)等である。又、ポリエステルのさらに他の例としては、溶融状態で液晶を形成するポリマー(Thermotropic Liquid Crystal Polymer : TLCP)としてのポリエステルがある。これらの区分に入るポリエステルとしては、イーストマンコダック社の「X7G」、ダートコ社の「Xyday(ザイダー)」、住友化学社の「エコノール」、セラニーズ社の「ベクトラ」等が代表的な商品である。
【0034】
これらのポリエステル系樹脂の中では、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレート、ポリ-1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート又は液晶性ポリエステル等が好適である。
【0035】
前記のスチレン系樹脂としては、スチレン系単量体の単独重合体、スチレン系単量体の部分架橋重合体、スチレン系単量体の共重合体、スチレン系単量体に共重合可能な単量体を共重合して得た共重合体およびそれらの混合物が挙げられる。
【0036】
上記のスチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン等が挙げられ、又、スチレン系単量体と共重合可能な単量体としては、アクリル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)等が挙げられる。
【0037】
前記のゴム強化樹脂としては、ゴム状重合体(イ)の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、酸無水物系単量体およびマレイミド系化合物の群から選ばれた少なくとも1種の単量体成分(ロ)を重合して得られるグラフト共重合体が挙げられる。又、このグラフト共重合体と単量体成分(ロ)の(共)重合体のブレンド物であってもよい。
【0038】
上記のゴム状重合体(イ)としては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、エチレン−プロピレン−(非共役ジエン)共重合体、エチレン−ブテン−1−(非共役ジエン)共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、アクリルゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、SEBS等の水素添加ジエン系(ブロック、ランダム、ホモ)重合体、ポリウレタンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0039】
上記の単量体成分(ロ)としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、酸無水物系単量体およびマレイミド系化合物の群から選ばれた少なくとも1種の単量体が挙げられる。
【0040】
上記の芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、メチル−α−メチルスチレン、臭素化スチレンなどが挙げられる。シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルが挙げられ、酸無水物系単量体としては、無水マレイン酸が挙げられ、マレイミド系単量体としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドキシフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドが挙げられる。
【0041】
上記のグラフト共重合体の製造における各成分の割合は、通常、(イ)成分:20〜70重量%(ロ)成分:80〜30重量%〔ただし、(イ)+(ロ)=100重量%〕である。
尚、グラフト共重合体中には、単量体成分(ロ)がゴム状重合体(イ)にグラフトしていない未グラフト成分〔単量体成分(ロ)の(共)重合体〕が含まれる。又、ゴム強化樹脂としては、上記のグラフト共重合体の他に、これに単量体成分(ロ)を(共)重合して得られる(共)重合体をブレンドしたものでもよい。従って、ゴム強化樹脂中の最終的な(イ)成分と(ロ)成分の割合は、(イ)成分:5〜60重量%、好ましくは8〜60重量%、(ロ)成分:95〜40重量%、好ましくは92〜60重量%〔ただし、(イ)+(ロ)=100重量%〕である。
【0042】
ゴム強化樹脂におけるグラフト率は、通常30〜200重量%、好ましくは40〜150重量%である。グラフト率は、ゴム強化樹脂1g中のゴム成分をx、ゴム強化樹脂中のメチルエチルケトン不溶分をyとすると、下記の計算式「数1」により求められる。
【0043】
「数1」
グラフト率(%)=[(y−x)/x] x 100
【0044】
又、ゴム強化樹脂のマトリックス樹脂の極限粘度〔η〕(メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、通常0.1〜1.0dl/g、好ましくは0.3〜0.8dl/gである。
【0045】
グラフト共重合体やこれと共に使用する(共)重合体は、公知の乳化重合、溶液重合、懸濁重合などにより製造できるが、乳化重合により製造した場合、通常、凝固剤により凝固し得られた粉末を水洗後、乾燥することによって精製される。
【0046】
尚、グラフト重合時のラジカル開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシド、過硫酸カリウム、AIBN、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシラウレイト、t−ブチルパーオキシモノカーボネート等が挙げられる。
【0047】
代表的なゴム強化樹脂としては、ABS樹脂、AES樹脂などが挙げられる。又、単量体成分(ロ)を単独で重合した場合の代表的な樹脂としては、AS樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−N−フェニルマレイミド共重合体、スチレン−N−フェニルマレイミド−アクリロニトリル共重合体などが挙げられる。
【0048】
ABS樹脂又はAES樹脂の場合、ゴム量は、通常20〜65重量%、好ましくは25〜55重量%、グラフト率は、通常50〜130重量%、好ましくは60〜120重量%、マトリックス樹脂極限粘度〔η〕は、通常0.1〜1.0dl/gである。
【0049】
AS樹脂の場合、アクリロニトリルの共重合量は、通常15〜45重量%、好ましくは20〜35重量%、極限粘度〔η〕は、通常0.3〜0.8dl/g、好ましくは0.4〜0.7dl/gである。
【0050】
前記のオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、プロピレン−エチレンブロック又はランダム共重合体、エチレンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0051】
前記のポリカーボネート樹脂としては、種々のジヒドロキシアリール化合物とホスゲンとの反応によって得られるもの(ホスゲン法)、ジヒドロキシアリール化合物とジフェニルカーボネートとのエステル交換反応によって得られるもの(エステル交換法)が挙げられる。代表的なポリカーボネートとしては、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンとホスゲンとの反応により得られる芳香族ポリカーボネートである。
【0052】
ポリカーボネート樹脂の原料となるジヒドロキシアリール化合物としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホン、ヒドロキノン、レゾルシン等が挙げられる。
【0053】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量(Mv)として、通常13,000〜50,000、好ましくは16,000〜40,000、さらに好ましくは19,000〜30,000である。
尚、本発明における粘度平均分子量(Mv)は、溶媒として塩化メチレンを使用し、ウベローデ粘度計によって25℃の温度で測定した溶液粘度より求めた極限粘度[η]から、次式「数2」により算出した値である。
【0054】
「数2」
[η]=1.23 x 10-4 x (Mv)0.83
【0055】
前記のアクリル樹脂としては、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル、ブチル、2−エチルヘキシル等のアルキルエステルから成る重合体をベースとするアクリル系樹脂などが挙げられ、具体的には、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチル及び/又はアクリル酸ブチルから成る共重合体、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチル及び/又はアクリル酸ブチルとスチレン等のビニル系モノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0056】
前記のポリアリレート樹脂は、芳香族ジカルボン酸又はその機能誘導体と、二価フェノール又はその機能誘導体とから得られる樹脂である。この場合、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸又はイソフタル酸が好適であり、テレフタル酸/イソフタル酸のモル比は通常9/1〜1/9、好ましくは7/3〜3/7である。又、二価フェノールとしては2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4−ジヒドロキシジフェニル、ベンゾキノン等が挙げられる。ポリアリレート樹脂の分子量は、通常7,000〜100,000である。
【0057】
前記の塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合樹脂の他、塩化ビニルを主成分とする共重合樹脂および重合樹脂ブレンドを包含する。塩化ビニルを主成分とする共重合樹脂としては、塩化ビニルと、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸エステル等との共重合体が挙げられる。塩化ビニル樹脂は公知の何れの製造法で得られたものでもよい。
【0058】
上記塩化ビニル系樹脂に通常用いられる可塑剤として、フタル酸エステル系可塑剤(ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジデシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジラウリルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジベンジルフタレート等)、フタル酸系以外のカルボン酸のエステル系可塑剤又はポリエステル系可塑剤(ジ−n−ブチルアジペート、ジ−n−オクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ジイソブチルアゼレート、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ポリプロピレンセバケート、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、ジ−2−エチルヘキシルフマレート、トリブチルシトレート、ジブチルマレート、ジオクチルマレート、メチルアセチルリシノレート、ポリプロピレンセバケート等)が挙げられる。これらの可塑剤の添加量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対し、通常0〜100重量部である。
【0059】
本発明において、樹脂製品としては、例えば、延伸又は未延伸のフィルム又はシートが挙げられる。これらは、各樹脂に応じた公知の方法で得られる。例えば、樹脂シートは、Tダイ法、インフレーション法又はカレンダー成形法によって製造することが出来る。又、本発明で使用されるシートの層構成は、単層シートは勿論のこと、上記の樹脂から1種以上が選択される2層以上の多層シート、各層の組成が上記の樹脂から1種以上が選択されコンパウンドされた組成をもつ多層シートでも可能である。フィルム又はシートは包装材および蓋材として使用される。
【0060】
又、本発明において、樹脂製品は、直接加熱方式又は間接加熱方式の何れの方式で成形されたものであってもよい。例えば、本発明の帯電防止性樹脂シートは、これを直接加熱方式又は間接加熱方式によって加熱した後、目的の容器形状に成形して使用することができる。直接加熱方式はシートを直接熱板に置き加熱するのに対し、間接加熱方式はヒーターで予め所定の温度に設定された加熱炉に所定の時間シートを挿入し、ヒーター等にシートを接触させずにシートを間接的に加熱する方法である。これら直接加熱および間接加熱により加熱されたシートは、容器形状の金型に接触させ、真空成形法、圧空成形法、プラグアシスト成形法等により、目的の容器形状に成形する。極めて透明性の良いポリエステル系樹脂シートでは、その透明性を活かすために、間接加熱方式により加熱成形して容器に成形される。透明性の指標としては、一般にヘーズ値が採用される。例えば、通常、透明と言われる未延伸シート(厚さ0.25mm)のヘーズ値とは、ポリエチレンテレフタレートの場合0.5〜5%、ポリエチレンノ場合2〜20%、ポリ塩化ビニルの場合1〜20%である。
【0061】
ところで、例えば、ポリエステル樹脂シートの表面の水滴接触角は通常60〜70度であるが、本発明においては、そのシートに帯電防止剤を塗布し、かつ、その帯電防止性を長期に保持するため、帯電防止剤を塗布する前のポリエステル樹脂シートの表面を処理することにより、水滴接触角を通常45〜55度、好ましくは46〜53度の範囲に調整するのが好ましい。水滴接触角が55度よりも大きい場合は、帯電防止剤塗布直後の数時間以内での初期帯電防止性は良好であるが、目的としている長時間にわたる帯電防止性が保持できないこともある。又、水滴接触角が45度よりも小さい場合は、シート同士がブロッキングし易くなり、シートがロール状に巻かれた場合、シートの巻き戻しが困難となり、シートそのものとしての使用に支障を来すことがある。シート表面の水滴接触角を上記の範囲とするための処理方法としては、コロナ放電処理や高周波処理によりシート表面を適度に荒らす様な処理が有効である。もちろん、表面未処理の樹脂シートを使用しても構わない。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの例に限定されるものではない。 尚、以下の諸例における評価方法は次の通りであるが、本発明のエステル化反応物を混練等により熱可塑性樹脂に配合することにより、塗布法に比べ帯電防止能の持続性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができることはいうまでもない。
【0063】
(1)帯電防止性:
樹脂シートに各種帯電防止剤の1w%溶液(イソプロパノール85w%水溶液)を12μのバーコーダーで塗布し、風乾後、表面固有抵抗値を測定して指標とした。表面固有抵抗値の測定方法は以下のとおりである。
測定機器:横河ヒューレット・パッカード株式会社製 4329A HIGH RESISTANCE METER
16008A RESISTIVITY CELL
測定環境:20℃/60%RH
測定電圧:500V
【0064】
(2)耐久性:
上記(1)の帯電防止性の評価で使用した試料シートをビーカーに入れた水に10分間浸漬し、風乾後に再び(1)の試験を繰り返し行い、以下に示す基準で評価した。
○:耐久性に優れる。
△:耐久性に劣る。
×:耐久性がほとんどない。
−:初期より帯電防止性が低く、耐久性もない。
【0065】
(3)防曇性:
60℃程度の温水の入ったビーカーの上部に上記(1)の試料シートを10秒間かざし、水蒸気が試料シート表面に凝結する状況を目視観察し、以下に示す基準で評価した。
○:ほとんど水滴がない。
△:僅かに水滴が発生している。
×:全体的に水滴が発生している。
【0066】
[帯電防止剤の合成]
以下に示す方法で、帯電防止剤の合成を行った。(実施例1、2及び比較例1)
「実施例1」
【0067】
攪拌機、還流冷却機、温度計、圧力計、加熱装置などを装備した、容積が2リットルのガラス製反応器に、無水フタル酸312g、数平均分子量400のポリエチレングリコール421g、イソノニルアルコール380gを仕込み、反応器の空間部を窒素ガス置換した後、反応器内用物の加熱を開始した。反応器内温が200℃に達した時点で、触媒としてテトライソプロピルチタネート0.5gを反応器内に添加し、反応を開始した。その後、1時間かけて内温を215℃に昇温し、反応終了時までこの温度を保持した。一方、反応器内の圧力は、内温が200℃の時点から内温が215℃に達するまでは、100.0kPaに維持した。その後、3時間かけて徐々に減圧して、13.3kPaとし、さらに4時間かけて徐々に減圧して、4.0kPaとし、エステル化反応が終了するまでこの圧力を保持した。反応の進行に伴い、反応混合物は均一な溶液になることが、目視観察された。反応進行中に、反応混合物の一部を反応器から抜き出して、抜き出した試料につき、酸価を測定してエステル化反応の進行状況確認の指標とした。エステル化反応の終了は、酸価が3.0程度となり、かつ、反応混合物が均一な溶液となった時点とした。エステル化反応終了後、1時間かけて1.3kPaまで減圧し、未反応のイソノニルアルコールの留去を行った後に加熱を停止して100℃付近まで冷却し、反応生成物を抜き出した。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−1」とした。このものの、数平均分子量は1000、エステルモノマー成分量は25wt%以下存在した。尚、エステルモノマーの成分量は、GPC法で測定した。カラムには、東ソー製「TSK-GEL G1000 HXL」、「TSK-GEL G2000HXL」、「TSK-GEL G3000 HXL」(何れも、直径7.8mm,長さ300mm)を3本直列に接続して使用した。溶離液:THF(流速1.0ml/min)、カラム温度:40℃、検出器:RIの条件で測定した。
「実施例2」
【0068】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸を300g、数平均分子量400のポリエチレングリコールを541g、イソノニルアルコールを244gとした以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−2」とした。このものの、数平均分子量は1500、エステルモノマー成分量:は20wt%以下存在した。
「実施例3」
【0069】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸を169g、数平均分子量400のポリエチレングリコールに替えて数平均分子量1000のポリエチレングリコールを747g、イソノニルアルコールを135gとした以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−3」とした。このものの、数平均分子量は2700、エステルモノマー成分量は20wt%以下存在した。
「実施例4」
【0070】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸に替えてテレフタル酸を168g、数平均分子量400のポリエチレングリコールに替えて数平均分子量1000のポリエチレングリコールを810g、イソノニルアルコールを73gとした以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−4」とした。このものの、数平均分子量は4900、エステルモノマー成分量は20wt%以下存在した。
「実施例5」
【0071】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸に替えてコハク酸を265g、数平均分子量400のポリエチレングリコールを599g、イソノニルアルコールを270gとした以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−5」とした。このものの、数平均分子量は1300、エステルモノマー成分量は20wt%以下存在した。
「実施例6」
【0072】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸に替えてコハク酸を140g、数平均分子量400のポリエチレングリコールに替えて数平均分子量1000のポリエチレングリコールを740g、イソノニルアルコールを142gとした以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−6」とした。このものの、数平均分子量は2500、エステルモノマー成分量は20wt%以下存在した。
「実施例7」
【0073】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸に替えてテレフタル酸を334g、数平均分子量400のポリエチレングリコールを670g、イソノニルアルコールに替えてエチレングリコールモノアリルエーテルを86gとした以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−7」とした。このものの、数平均分子量は3000、エステルモノマー成分量は20wt%以下存在した。
「実施例8」
【0074】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸に替えてテレフタル酸を184g、数平均分子量400のポリエチレングリコールに替えて数平均分子量1000のポリエチレングリコールを791g、イソノニルアルコールに替えてエチレングリコールモノアリルエーテルを81gとした以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−8」とした。このものの、数平均分子量は3200、エステルモノマー成分量は20wt%以下存在した。
「実施例9」
【0075】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸に替えてテレフタル酸ジメチルを447g、数平均分子量400を658g、さらにイソノニルアルコールを用いなかった以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−9」とした。このものの、数平均分子量は1500、エステルモノマー成分量は20wt%以下存在した。
「比較例1」
【0076】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸を454g、数平均分子量400のポリエチレングリコールに替えてトリエチレングリコールを307g、イソノニルアルコールを368gとした以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−10」とした。このものの数平均分子量は1000、エステルモノマー成分量は30wt%以下存在した。
「比較例2」
【0077】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸を399g、数平均分子量400のポリエチレングリコールに替えてテトラエチレングリコールを261g、イソノニルアルコールを485gとした以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−11」とした。このものの数平均分子量は700、エステルモノマー成分量は30wt%以上存在した。
「比較例3」
【0078】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸を221g、数平均分子量400のポリエチレングリコールを806g、さらにイソノニルアルコールを用いなかった以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−12」とした。このものの数平均分子量は2000であった。
「比較例4」
【0079】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸を356g、数平均分子量400のポリエチレングリコールに替えて数平均分子量200のポリエチレングリコールを687g、さらにイソノニルアルコールを用いなかった以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−13」とした。このものの数平均分子量は1000であった。
「比較例5」
【0080】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸を238g、数平均分子量400のポリエチレングリコールに替えて数平均分子量300のポリエチレングリコールを791g、さらにイソノニルアルコールを用いなかった以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−14」とした。このものの数平均分子量は1000であった。
「比較例6」
【0081】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸に替えてコハク酸を196g、数平均分子量400のポリエチレングリコールを864g、さらにイソノニルアルコールを用いなかった以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステル化反応物を「エステル化反応物−15」とした。このものの数平均分子量は2000であった。
【0082】
[帯電防止剤溶液の作成]
上記で合成した「エステル化反応物−1〜15」の水/イソプロパノール=15/85(重量部)の1wt%溶液を調製してそれぞれ「帯電防止剤溶液−1〜15」として、以降の帯電防止性の評価に用いた。
「比較例7」
【0083】
エステルモノマーとして、和光純薬株式会社製ジイソノニルフタレート(以下、DINP)を同様に水/イソプロパノール=15/85(重量部)の1wt%溶液になるように調整し、「帯電防止剤溶液−16」として評価に用いた。
【0084】
[評価用樹脂シートの作製]
以下に示す方法で、各種評価用樹脂シートを調整し、前述の評価方法で帯電防止性等の評価を行った。評価結果を「表1」に示した。(実施例10〜18及び比較例8〜15)
【0085】
ポリエチレンテレフタレートよりなる未延伸の無定形シート(以下、「A−PET」という)に各帯電防止剤溶液を12μmのバーコーターで塗布後、乾燥することで評価用の樹脂シートを作成した。又、帯電防止剤溶液を塗布しないものをブランクとした。(比較例8)。なお、A−PETは市販のシート(表面コートなし、コロナ処理済)を使用した。
【0086】
【表1】

【0087】
「表1」より、主に以下のことが明らかである。
(1)実施例10〜18と比較例8〜10、15の比較結果
本発明の(b)多価アルコール成分として数平均分子量200〜2000のポリエチレングリコールを用いた帯電防止剤溶液−1〜9を使用した実施例10〜18の場合、帯電防止剤を用いなかった比較例8、数平均分子量200〜2000のポリエチレングリコールを用いなかった比較例9、10、及びエステルモノマーであるDINPを用いた比較例15の場合に比べ、帯電防止性が優れている。
(2)実施例10〜18と比較例11〜14の比較結果
本発明の(b)多価アルコール成分及び(c)分子量調節剤としての1価アルコール成分及び/又は1価カルボン酸成分を用いた実施例10〜18の場合、(c)分子量調節剤としての1価アルコール成分及び/又は1価カルボン酸成分を用いなかった比較例11〜14の場合と比べ、帯電防止性能の耐久性が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、特定のエステル化反応物からなる帯電防止剤を熱可塑性樹脂の表面に塗布、又は熱可塑性樹脂に配合することにより、優れた帯電防止性及びその持続性を付与することができる。特に、本発明のエステル化反応物を混練等により熱可塑性樹脂に配合することにより、塗布に比べ帯電防止能の持続性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)多価カルボン酸成分、(b)多価アルコール成分及び(c)分子量調節剤としての1価アルコール成分及び/又は1価カルボン酸成分から得られるエステル化反応物からなり、(b)多価アルコール成分が数平均分子量200〜2000のポリエチレングリコールを含むものであることを特徴とする帯電防止剤。
【請求項2】
(a)多価カルボン酸成分が、炭素数8〜12の芳香族多価カルボン酸又は炭素数4〜8の脂肪族多価カルボン酸であることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止剤。
【請求項3】
エステル化反応物の数平均分子量が、500〜10000の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止剤。
【請求項4】
エステル化反応物中のエステルモノマー成分の割合が、30wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の帯電防止剤を樹脂表面に塗布したことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の帯電防止剤を配合したことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。


【公開番号】特開2008−81632(P2008−81632A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264211(P2006−264211)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】