説明

常圧カチオン可染性ポリエステル繊維

【課題】常圧下でのカチオン染色が可能で、且つ高吸水・速乾性を有する常圧カチオン可染性ポリエステルマルチ繊維を提供する。
【解決手段】主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートより構成されるポリエステルであり、スルホイソフタル酸金属塩と特定の式で表される化合物とを特定配合条件で含有する共重合ポリエステルからなり、突起係数が0.3〜0.7で、繊維断面コアー部2から外側へ突出したフィン部1が3〜6個存在する常圧カチオン可染性ポリエステルマルチ繊維とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常圧下でカチオン染料に可染性である常圧カチオン可染ポリエステルよりなる、高度に異型化された繊維断面を有する、常圧カチオン可染性ポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルはその優れた特性を生かし衣料用布帛素材として広く使用されている。衣生活の多様化、高級化、個性化と共に、天然繊維が持つ好ましい性能、例えば吸水性能をポリエステル繊維に付与する試みが続けられている。さらに、ランニングシャツあるいはゴルフシャツなどのスポーツ衣料用途においては、汗をかいても快適な状態が維持されるように、吸水性能に加え、速乾性も備えた布帛が使用されるようになり、ポリエステル繊維でも吸水・速乾性能の実現が望まれている。ポリエステル繊維に吸水・速乾性能を付与する方法として、繊維断面を異型化することにより、高吸水・速乾性素材を得る方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この繊維を使用することにより吸水速乾性はある程度向上するものの、突起部が作る空間を経由して水や汗が毛管現象により吸水吸汗する作用では十分な吸水性とは言えず更なる向上が望まれていた。
【0004】
又ポリエチレンテレフタレートを代表とするポリエステル繊維は、その化学的特性から分散染料、アゾイック染料でしか染色できないため、鮮明且つ深みのある色相が得られにくいという欠点があった。かかる欠点を解消する方法として、ポリエステルにスルホイソフタル酸の金属塩を2〜3モル%共重合する方法が提案されている(例えば特許文献2,3参照)。
【0005】
しかしながら、かかる方法によって得られるポリエステル繊維は、高温・高圧下でしか染色することができず、天然繊維やウレタン繊維などと交編、交織した後に染色すると、天然繊維、ウレタン繊維が脆化するという問題があった。これを常圧、100℃付近の温度で十分に染色しようとすれば、スルホイソフタル酸の金属塩を多量に共重合されることが必要となるが、この場合、スルホネート基による増粘効果から、ポリエステルの重合度を高くすることができず、溶融紡糸にて得られるポリエステル繊維の強度が著しく低下し、さらに紡糸操業性が著しく悪化するという問題があった。
【0006】
一方、このような問題を解決するため、イオン結合性分子間力の小さいカチオン可染モノマーを共重合する技術が開示されている(例えば特許文献4,5参照)。イオン結合性分子間力の小さいカチオン可染モノマーとしては、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホネートなどが例示されているが、これらのカチオン可染モノマー共重合ポリエステルは熱安定性が悪く、常圧カチオン可染化させるため、共重合量を増加させようとしても、重合反応途中で熱分解が進行し、高分子量化させることが困難であった。さらに溶融紡糸する際の熱履歴による分解が大きく、結果として得られる糸の強度が弱くなるという欠点を有していた。また、使用する5−スルホイソフタル酸テトラブトキシホスホネートは非常に高価であり、結果として得られるカチオン可染性ポリエステルのコストが大幅に増大するという問題があった。
【0007】
かかる問題を解決する方法として、スルホイソフタル酸の金属塩に加え、分子量が2000以上のポリエチレングリコールを共重合する方法、アジピン酸、セバシン酸などの直鎖炭化水素のジカルボン酸を共重合する方法、あるいはジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールのようなグリコール成分を共重合する方法が提案されている。(例えば特許文献6,7参照)
【0008】
一方、耐光性の低下が少なく、且つ常圧可染性を出す方法としてアジピン酸、セバシン酸のような直鎖炭化水素のジカルボン酸、あるいはジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールのようなグリコール成分、また、平均分子量が400〜1000のポリアルキレングリコールをスルホイソフタル酸の金属塩と共重合する方法が提案されている(例えば特許文献8参照)。
【0009】
しかしながら、これらいずれの方法でも得られたポリエステルを溶融紡糸して得られる常圧カチオン可染性ポリエステル繊維の強度が低くなり、強いては得られる布帛の引き裂き強度が低下する、更には染色堅牢度が低いなどの問題があった。
【0010】
また、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したポリエステルを鞘部に、95モル%以上がエチレンテレフタレートの繰返し単位からなるポリエステルを芯部に配した複合繊維が提案されている(例えば特許文献9参照)。しかしながら、鞘部を構成する共重合ポリエステル中のスルホイソフタル酸成分の共重合量には、前述と同様の理由で限界があり、十分な染着性を得ることが困難であること、並びに複合繊維とすることで紡糸工程での加工コストが増加、または繊維断面形状などに制約が生じるなどの課題があった。
【0011】
【特許文献1】特開2003−166119号公報
【特許文献2】特公昭34−10497号公報
【特許文献3】特開昭62−89725号公報
【特許文献4】特開平1−162822号公報
【特許文献5】特開2006−176628号公報
【特許文献6】特開2002−284863号公報
【特許文献7】特開2006−200064号公報
【特許文献8】特開2002−284863号公報
【特許文献9】特開平7−126920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の課題を解決するものであり、常圧下でのカチオン染色が可能で、且つ高吸水・速乾性を有する常圧カチオン可染性ポリエステル繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題に鑑み本発明者らは鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明によれば、
主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートより構成されるポリエステルであり、下記要件を満足する常圧カチオン可染性ポリエステル繊維、
a)該ポリエステルを構成する酸成分中に、スルホイソフタル酸の金属塩(A)、および下記化学式1で表される化合物(B)を、下記数式1及び2を同時に満足する状態で含有する共重合ポリエステルであること。
【化1】

[上記式中、Rは水素または炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩、または4級アンモニウム塩を表す。]
3.0≦A+B≦5.0 (数式1)
0.2≦B/(A+B)≦0.7 (数式2)
[ここで、Aはスルホイソフタル酸の金属塩の共重合量(モル%)、Bは上記化学式1で表される化合物の共重合量(モル%)を表す。]
b)該共重合ポリエステル中のジエチレングリコール含有量が2.5重量%以下であり、且つ固有粘度が0.55〜1.0の範囲にあること。
c)単糸に直交する断面において、下記式で定義する突起係数が0.3〜0.7で、繊維断面コアー部から外側へ突出したフィン部が3〜6個存在すること。
突起係数=(a1−b1)/a1
a1:繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ
b1:繊維断面内面壁の内接円の半径
が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定構造の突起フィン部を有し、且つ特定化合物を特定条件で含む時、吸水速乾性と常圧カチオン染色性が両立するポリエステル繊維とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に使用されるポリエステルとは、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコール成分とを重縮合反応せしめて得られるエチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであり、共重合成分としてスルホイソフタル酸の金属塩(A)、及び下記化学式1で表される化合物(B)を、下記数式1及び2を同時に満足する状態で含有する共重合ポリエステルであり、該ポリエステル中のジエチレングリコール含有量が2.5重量%以下であり、且つ得られる共重合ポリエステルの固有粘度が0.55〜1.0の範囲であるポリエステルである。
突起係数=(a1−b1)/a1
a1:繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ
b1:繊維断面内面壁の内接円の半径
【化2】

[上記式中、Rは水素または炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩、または4級アンモニウム塩を表す。]
3.0≦A+B≦5.0 (数式1)
0.2≦B/(A+B)≦0.7 (数式2)
[ここで、Aはスルホイソフタル酸の金属塩の共重合量(モル%)、Bは上記化学式1で表される化合物の共重合量(モル%)を表す。]
【0016】
(成分Aについての説明)
本発明で使用されるスルホン酸塩基含有芳香族ジカルボン酸成分としては、5−スルホイソフタル酸の金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩)、5−スルホイソフタル酸の4級ホスホニウム塩、または5−スルホイソフタル酸の4級アンモニウム塩が例示される。また、これらのエステル形成性誘導体も好ましく例示される。これらの群の中では、熱安定性、コストなどの面から、5−スルホイソフタル酸の金属塩が好ましく例示され、特に、5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩およびそのジメチルエステルである5−スルホイソフタル酸ジメチルのナトリウム塩が特に好ましく例示される。
【0017】
(成分Bについての説明)
また、上記化学式1で表される化合物(B)としては、5−スルホイソフタル酸あるいはその低級アルキルアエステルの4級ホスホニウム塩または4級アンモニウム塩である。4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩としては、アルキル基、ベンジル基、フェニル基が置換された4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩が好ましく、特に4級ホスホニウム塩であることが好ましい。また、4つある置換基は同一であっても異なっていても良い。上記化学式1で表される化合物の具体例としては、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸エチルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、あるいはこれらイソフタル酸誘導体のジメチルエステル、ジエチルエステルが好ましく例示される。
【0018】
(数式1の説明)
本発明において、ポリエステルに共重合させる成分Aと成分Bの合計は酸成分を基準として、A+Bが3.0〜5.0モル%の範囲である必要がある。3.0モル%より少ないと、常圧下でのカチオン染色では十分な染着を得ることができない。一方、5.0モル%より多くなると、得られるポリエステル糸の強度が低下するため実用に適さない。さらに染料を過剰に消費するため、コスト面でも不利である。
【0019】
(数式2の説明)
また、成分Aと成分Bの成分比は、B/(A+B)が0.2〜0.7の範囲にある必要がある。0.2以下、つまり成分Aの割合が多い状態では、スルホイソフタル酸金属塩による増粘効果により、得られるポリエステルの重合度を上げることが困難になる。一方、0.7以上、つまり成分Bの割合が多い状態では、反応が遅くなり、さらに成分Bの比率が多くなると分解が進むため重合度を上げることができない。さらに、成分Bの比率多くなると熱安定性が悪化し、溶融紡糸段階で再溶融した際の熱分解による分子量の低下が大きくなるため、得られるポリエステル糸の強度が低下するため、好ましくない。
【0020】
(DEG量の説明)
本発明における常圧カチオン可染性ポリエステルに含有されるジエチレングリコールは、2.5重量%以下であることが好ましい。
一般にカチオン可染性ポリエステルを製造する際には、ポリエステルの製造工程において副生するジエチレングリコール(DEG)量を抑制するために、DEG抑制剤として少々のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、水酸化テトラアルキルホスホニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルアミンなどの少なくとも1種類を、使用するカチオン可染性モノマー(本発明の場合は化合物(A)及び(B))に対して、1〜20モル%程度を添加することが好ましい。
【0021】
(固有粘度の説明)
本発明で使用されるポリエステルの固有粘度(溶媒:オルトクロロフェノール、測定温度:35℃)は0.55〜1.0の範囲であることが好ましい。固有粘度が0.55以下である場合、得られるポリエステル繊維の強度が不足し、一方、1.0以上とする場合、溶融粘度が高くなりすぎて溶融成型が困難になるため好ましくなく、また、溶融重合法に引続いて固相重合法により重合ポリエステルの重縮合工程での生産コストが大幅に増大するため好ましくない。常圧カチオン可染性ポリエステルの固有粘度としては、0.60〜0.90の範囲が更に好ましい。
【0022】
(ポリエステルの製造方法)
本発明における共重合ポリエステルの製造は特に限定されず、通常知られているポリエステルの製造方法が用いられる。すなわち、テレフタル酸とエチレングリコールの直接重縮合反応させる、あるいはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸のエステル形成性誘導体とエチレングリコールとをエステル交換反応させて低重合体を製造する。次いでこの反応性生物を重縮合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることにより製造される。スルホイソフタル酸を含有する芳香族ジカルボン酸および/またはそのエステル誘導体を共重合する方法についても通常知られている製造方法を用いる事ができる。
【0023】
(その他添加剤)
また、本発明における共重合ポリエステルは、必要に応じて少量の添加剤、例えば酸化防止剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤または艶消し剤などを含んでいても良い。特に酸化防止剤、艶消し剤などは特に好ましく添加される。
【0024】
(製糸方法)
本発明におけるポリエステルの製糸方法は、特に制限は無く、従来公知の方法が採用される。すなわち、乾燥した共重合ポリエステルを270℃〜300℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の引取り速度は400〜5000m/分で紡糸することが好ましい。紡糸速度がこの範囲にあると、得られる繊維の強度も十分なものであると共に、安定して巻取りを行うこともできる。さらに、上述の方法で得られた未延伸糸もしくは部分延伸糸を、延伸工程にて1.2倍〜6.0倍程度の範囲で延伸することが好ましい。この延伸は未延伸ポリエステル繊維を一旦巻き取ってから行ってもよく、一旦巻き取ることなく連続的に行ってもよい。また、紡糸時に使用する口金の形状についても特に制限は無い。
【0025】
次に、本発明のポリエステルマルチ繊維の単繊維断面形状は、先に定義した突起係数が0.3〜0.7、より好ましくは0.4〜0.6である、繊維断面コアー部から外側へ突出したフィン部(図1の1)が3〜6個、好ましくは4〜6個存在する形状を呈している必要がある。
【0026】
該突起係数が0.3未満のフィン部は、延伸仮撚加工後の繊維断面に充分な毛細管空隙を形成する機能がなく、吸水・速乾性能を発現することができない。さらにこのような短小フィン部は、布帛に吸水処理剤を施す場合のアンカー効果が小さくなるため、該処理剤の洗濯耐久性を低下させる傾向にある。また、布帛の風合もフラットなペーパーライクなものとなる。一方、突起係数が0.7を越えるフィン部は、延伸仮撚加工時、該フィン部に加工張力が集中しやすいため、繊維断面の部分的破壊が発生して十分な毛細管形成がなされなくなり、吸水性能が不十分となる。また、延伸仮撚工程での糸切れ(加工断糸)や毛羽も頻発する。
【0027】
なお、突起係数が0.3〜0.7のフィン部であっても、単繊維断面に該フィン部の数が3個以上であることが必要で、フィン部の数が1〜2個では、内側に閉じた繊維断面部分が最大1個しか形成されなくなるので、十分な毛細管現象が発現せず、吸水性能が不十分となる。また、布帛の風合もフラットなペーパーライクなものとなる。一方、6個を越える場合には、延伸仮撚加工時、フィン部への加工張力集中が発生し、繊維断面の部分的破壊が起こり、十分な毛細管形成がなされなくなり、吸水性能が不十分となる。また、延伸仮撚工程での糸切れ(加工断糸)や毛羽が頻発する。
【0028】
上記の条件を満たす時、共重合成分による親水性付与効果、カチオン可染性効果及び突起フィン構造効果とがあいまって吸水性、速乾性、常圧カチオン可染性で、かつ工程安定性の良いポリエステル繊維とすることができるものと推定している。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の分析項目などは、下記記載の方法により測定した。
【0030】
(ア)固有粘度:
ポリエステル組成物を100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。なお、チップの固有粘度をηC、紡糸後の未延伸糸の固有粘度をηFとする。
【0031】
(イ)ジエチレングリコール(DEG)含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエステル組成物チップを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィー(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
【0032】
(ウ)繊維の引張強度・伸度:
JIS L1070記載の方法に準拠して測定を行った。
【0033】
(エ)カチオン可染性:
CATHILON BLUE CD−FRLH)0.2g/L、CD−FBLH0.2g/L(いずれも保土ヶ谷化学)、硫酸ナトリウム3g/L、酢酸0.3g/Lの染色液中にて100℃で1時間、浴比1:50で染色し、次式により染着率を求めた。
染着率=(OD0−OD1)/OD0
OD0:染色前の染液の576nmの吸光度
OD1:染色後の染液の576nmの吸光度
本発明では、染着率98%以上のものを可染性良好と判断した。
【0034】
(オ)突起係数:
ポリエステルマルチ繊維の断面顕微鏡写真を撮影し、単繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ(a1)および繊維断面内面壁の内接円の半径(b1)を測定し、下記式で突起係数を計算した。
突起係数=(a1−b1)/a1
【0035】
(カ)吸水速乾性(ウイッキング値):
吸水・速乾性能の指標として、JIS L1907繊維製品の吸水試験法、5.1.1項吸水速度(滴下法)に準じて、落下水滴が、ポリエステル仮撚加工糸からなる試験布表面から表面反射をしなくなるまでの秒数(ウィッキング値)を採用した。なお、L10は、JIS L0844−A−2法により10回洗濯を行った後のウイッキング値(秒)を表す。
【0036】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル4.1重量部とエチレングリコール60重量部の混合物に、酢酸マンガン0.03重量部、酢酸ナトリウム三水和物0.12重量部を添加し、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながらエステル交換反応を行った。その後、正リン酸0.03重量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。
【0037】
その後、反応生成物に三酸化アンチモン0.05重量部と5−スルホイソフタル酸テトラブトキシホスホネート2.8重量部と水酸化テトラエチルアンモニウム0.3重量部とトリエチルアミン0.003重量部を添加して重合容器に移し、285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行い、重合槽の攪拌機電力が所定電力に到達、もしくは所定時間を経過した段階で反応を終了させ、常法に従いチップ化した。
【0038】
このようにして得られたポリエステルチップを140℃、5時間乾燥後、スクリュウ押出機にて溶融しポリマー導管を通して、スピンブロックに装填された図2に示すスリット幅が0.10mmおよび該円形吐出孔中心点から先端部までの長さ(図2のa2)が0.88mmのフィン部形成用吐出孔を4個有し、コアー部形成用円形吐出孔の半径(図2のb2)が0.15mmの吐出孔群を24群穿設した紡糸口金を組み込んだスピンパックに導入し、紡糸口金より吐出量40g/minで吐出した。引き続き、紡糸口金吐出面から下方10cmの位置が上端となるように設置された長さ60cmのクロスフロータイプの紡糸筒から25℃の冷却風を、5Nm3/minの割合で、ポリマー流に吹き付つけて、冷却・固化し、紡糸油剤を付与し、3000m/minの速度で捲き取り、各々表1に示す結晶化度、沸水収縮率、フィン部個数および突起係数を有するポリエチレンテレフタレートマルチ繊維を得た。
【0039】
このポリエチレンテレフタレートマルチ繊維をスクラッグ社製のSDS−8型延伸仮撚機(3軸フリクションディスク仮撚ユニット、216錘)に掛けて、延伸倍率1.65、ヒーター温度175℃、撚数3300回/m、延伸仮撚速度600m/minで延伸仮撚加工を実施し、繊度84dtexのポリエチレンテレフタレート延伸仮撚加工糸を得た。結果を表1に示す。
【0040】
[実施例2〜4、比較例1〜8]
実施例1において、5−スルホイソフタル酸ナトリウム及び5−スルホイソフタル酸テトラブトキシホスホネートの添加量を表1となるように変更した事以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例9]
実施例4において、重縮合反応での攪拌電力が低い段階で反応終了させること以外は実施例4と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0042】
[比較例10]
実施例4において、酢酸ナトリウム三水和物、水酸化テトラエチルアンモニウム、トリエチルアミンを添加しないこと以外は実施例4と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例5〜6、比較例11〜12]
実施例1において、フィン部形成用吐出孔をおのおの表1に示す個数有する紡糸口金を使用する以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例7〜8、比較例13]
実施例1において、半径0.15mm(図2のb2)のコアー部形成用円形吐出孔1個およびスリット幅が0.10mmでおのおの表2に示す該円形吐出孔中心点から先端部までの長さ(図2のa2)のフィン部形成用吐出孔が4個ある吐出孔群を24群穿設した紡糸口金を使用し、おのおの表2に示すスピンブロック温度および冷却風風量の条件とする以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のポリエステルマルチ繊維によれば、適切な繊維断面形状が保持され、かつ適切な繊維間空隙を持った延伸仮撚加工糸が得られるので、その延伸仮撚加工糸を使った布帛は優れた吸水・速乾性能を持つ。さらにその布帛は自然なドライ感に富んだ風合を持つ。また、湿潤時の堅牢性に優れ、且つ天然繊維との複合が容易な高吸水性ポリエステル繊維が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のポリエステルマルチ繊維断面の一実施態様を示した模式図。
【図2】本発明で使用する紡糸口金吐出孔の一実施態様を示した模式図。
【符号の説明】
【0049】
1 :繊維断面フィン部
2 :繊維断面コアー部
3 :コアー部形成用円形吐出孔
4 :フィン部形成用吐出孔のスリット状開口部
5 :フィン部形成用吐出孔の小円状開口部
a1 :繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ
b1 :繊維断面内面壁の内接円半径
a2 :コアー部形成用吐出孔中心点からフィン部形成用吐出孔先端部までの長さ
b2 :コアー部形成用吐出孔の半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートより構成されるポリエステルからなるポリエステル繊維であり、下記要件を満足することを特徴とする常圧カチオン可染性ポリエステル繊維。
a)該ポリエステルを構成する酸成分中に、スルホイソフタル酸の金属塩(A)、および下記化学式1で表される化合物(B)を、下記数式1及び2を同時に満足する状態で含有する共重合ポリエステルであること。
【化1】

[上記式中、Rは水素または炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩、または4級アンモニウム塩を表す。]
3.0≦A+B≦5.0 (数式1)
0.2≦B/(A+B)≦0.7 (数式2)
[ここで、Aはスルホイソフタル酸の金属塩の共重合量(モル%)、Bは上記化学式1で表される化合物の共重合量(モル%)を表す。]
b)該共重合ポリエステル中のジエチレングリコール含有量が2.5重量%以下であり、且つ固有粘度が0.55〜1.0の範囲にあること。
c)単糸に直交する断面において、下記式で定義する突起係数が0.3〜0.7で、繊維断面コアー部から外側へ突出したフィン部が3〜6個存在すること。
突起係数=(a1−b1)/a1
a1:繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ
b1:繊維断面内面壁の内接円の半径
【請求項2】
スルホイソフタル酸の金属塩が、5−ナトリウムスルホイソフタル酸である、請求項1記載の常圧カチオン可染性ポリエステル繊維。
【請求項3】
上記化合物(B)が、5−スルホイソフタル酸テトラブトキシホスホネートである、請求項1〜2いずれかに記載の常圧カチオン可染性ポリエステル繊維。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−70866(P2010−70866A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236489(P2008−236489)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】