説明

常圧プラズマを用いた溶融アルミニウムめっきステンレス鋼板の製造方法

本発明は、ステンレス鋼板に常圧プラズマ処理をし、ステンレス鋼板を溶融アルミニウムめっきすることで、ステンレス鋼板とアルミニウムの間の濡れ性と密着性を改善した溶融アルミニウムめっきステンレス鋼板の製造方法に関する。本発明の一実施形態による常圧プラズマ処理を用いた溶融アルミニウムめっきステンレス鋼板の製造方法は、ステンレス鋼板を予め設定した温度に加熱し、加熱されたステンレス鋼板に常圧プラズマ処理し、常圧プラズマ処理を受けたステンレス鋼板を溶融アルミニウムめっき浴に通して溶融アルミニウムめっきステンレス鋼板にすることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融アルミニウムめっきステンレス鋼板の製造方法に関し、より詳細には、ステンレス鋼板を常圧プラズマ処理した後に、ステンレス鋼板を溶融アルミニウムめっきすることによりステンレス鋼板とアルミニウムの間の濡れ性と密着性を向上させる溶融アルミニウムめっきステンレス鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマは、イオン化されたガスである。電気的に中性な原子のみからなる高温ガスと異なり、互いに反対の電荷をもった粒子、すなわち、電子と原子核がプラズマ中で互いに混合されて存在している。プラズマは、全体として中性である。しかしながら、部分的にカチオンと電子の間の電荷分離により電場が生成し、電荷の流れにより磁場の流れが起きている。
【0003】
プラズマは、プラズマが発生される時の温度により低温プラズマと高温プラズマに分けられる。また、プラズマは、プラズマが発生される時の圧力により、低圧プラズマ(数mTorrから数Torr)と常圧プラズマ(760Torr以下)に分けられる。このうち、常圧プラズマは、大気圧で発生されるので、低圧プラズマを発生させる時の高価な真空システムの必要がない。この理由から、常圧プラズマは、工業用途に広く使用されている。
【0004】
ステンレス鋼は、それ自身優れた耐食性を備えている。しかしながら、アルミニウムめっきステンレス鋼とすると、耐食性が格段に向上する。アルミニウムめっきステンレス鋼は、自動車の排気システムや建設資材として優れた材料であると評価されてきた。最近では、アルミニウムめっきステンレス鋼が、燃料電池の電極や分離板に使用が延びている。
【0005】
さらに、ステンレス鋼は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金でめっきすると、優れた耐熱性、耐食性をもつようになる。そこで、めっきステンレス鋼は、耐熱性または耐食性用途に広く使用されてきた。耐熱性の場合では、アルミニウムあるいはアルミニウム合金でめっきしたステンレス鋼は、燃焼設備、加熱装置、あるいは自動車の排気パイプなどの部品に広く使用されている。
【0006】
ステンレス鋼をアルミニウムめっきする方法として、溶融めっきする方法は、最も経済的な方法の一つである。しかしながら、一般に、ステンレス鋼の表面と溶融アルミニウムの間の濡れ性が悪いために、ステンレス鋼を溶融めっき法でアルミニウムめっきするのは非常に難しい。ステンレス鋼表面に密な酸化クロム層が形成されてステンレス鋼と溶融アルミニウムの間の濡れ性を低下させていることが一般に知られている。
【0007】
この問題を解決するために、従来種々の方法や工程が用いられている。例えば、キルバンプロセス、ボストンプロセス、あるいはジャスパープロセスなどが知られたプロセスであり、特許文献1では、ステンレス鋼を溶融アルミニウムめっきする前にステンレス鋼の温度を調節して、溶融アルミニウムめっき前の雰囲気ガスの露点と成分を厳しくコントロールした工程を使用するステンレス鋼の溶融アルミニウムめっき方法を開示している。
【0008】
しかしながら、上記した方法では、雰囲気ガスの露点を非常に厳しくコントロールする必要があり、工程条件を満足させるのが極めて難しい。つまり、雰囲気ガスに入る酸素量を最小限に維持するために、高度な酸素除去技術を用いなければならず、外部からの酸素が雰囲気ガス中に入るのを阻止する技術および装置が使用される必要がある。この方法および装置を通常方法によって実施するに困難であるので、この方法および装置を通常の溶融アルミニウムめっきラインに適用するのが難しくなる。
【0009】
さらに、特許文献2は、アルミニウムめっき浴中でステンレス鋼を溶融アルミニウムめっきする方法を開示している。この方法によると、ステンレス鋼は、窒素と水素の分圧をコントロールしてアルミニウムめっきされている。窒素と水素の分圧が厳しくコントロールされる必要があるので、工程条件を満足させるに難しい。
【0010】
この他、ステンレス鋼をアルミニウムめっきする前に、ステンレス鋼を良好な濡れ性をもつニッケルあるいは鉄でめっきする方法が使用されることがある。しかしながら、この方法は、先ずステンレス鋼を中間めっき層でめっきするための追加の装置が必要となる。追加の装置を使用することは、この方法を一般的な溶融めっきラインに適用するに難しくし、製造コストの上昇にもなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】日本特開平07−337022号公報(1995年9月5日公開)
【特許文献2】韓国公開特許2005−0104667号(2005年11月3日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一つの目的は、常圧プラズマを用いてステンレス鋼表面を前処理し、次いで、このステンレス鋼を溶融アルミニウムめっきすることによりステンレス鋼とアルミニウムの間の濡れ性と密着性を改善する、常圧プラズマを用いた溶融アルミニウムめっきステンレス鋼の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によると、常圧プラズマを用いた溶融アルミニウムめっきステンレス鋼板を製造する方法が提供される。この方法は、ステンレス鋼板を予め設定した温度に加熱し、加熱されたステンレス鋼板表面に常圧プラズマ処理をし、常圧プラズマ処理を受けたステンレス鋼板を溶融アルミニウムめっき浴に通して、ステンレス鋼板を溶融アルミニウムめっきする、の工程を含んでいる。
【0014】
この方法は、さらにステンレス鋼を加熱する前に、ステンレス鋼板表面に常圧プラズマ処理してもよい。
【0015】
常圧プラズマ処理は、互いに予め定めた間隔で面した一対の電極に直流または交流電源を印加して常圧プラズマを発生させ、常圧プラズマが発生している一対の電極間にステンレス鋼板を通すことにより行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
上記したように、本発明によると、既存のメッキラインに常圧プラズマ処理装置を追加するだけでステンレス鋼がアルミニウムめっきされ、優れた濡れ性と密着性をもつアルミニウムめっきステンレス鋼が簡単な方法で製造される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が実施できる連続溶融アルミニウムめっき工程を示す図である。
【図2】本発明による溶融アルミニウムめっきステンレス鋼の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明による常圧プラズマを行う前と後におけるステンレス鋼上のアルミニウムの形状を示す例示図である。
【図4】ステンレス鋼の写真で、本発明の実施形態による常圧プラズマ処理を行う前と後における溶融アルミニウムの濡れ性についての試験を行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付した図面を参考にして本発明の実施形態の例を詳細に記載する。実施形態の操作を詳細に記載するに、必ずしも必要ない関連した周知の機能または構成についての詳細な記載は、本発明の必須な点を不明確にしないと考えられるときは、詳細な説明を省いている。
【0019】
図1は、本発明が実施できる連続溶融アルミニウムめっき工程を示す図である。図1に示すように、ステンレス鋼10は、電気クリーニング装置20で電気クリーニング処理を受けてステンレス鋼10表面にある異物が除去される。このようにして、ステンレス鋼10表面上の異物が電気クリーニング処理で除去され、この後に続く工程でのめっき性能が改善できる。電気クリーニング装置20を通ったステンレス鋼10は、予熱および還元装置30に送られる。
【0020】
予熱および還元装置30は、ステンレス鋼10を溶融アルミニウムめっきする前にステンレス鋼10を適切な温度に加熱する。このとき、雰囲気ガスとして還元性のガスを用いるのが好ましく、さらに、露点を出来るだけ低くコントロールする。しかしながら、予熱および還元工程は、ステンレス鋼10の種類、厚さ、幅、移送速度により異なって実施される。それ故、このような変動要因を考慮して、最適な条件を確保するのが好ましい。予熱および還元装置30により適切な温度に加熱されたステンレス鋼10は、アルミニウムめっき浴50に投入される。
【0021】
ここで、本発明の実施形態によれば、プラズマ処理装置40、41は、予熱および還元装置30の入口側と出口側それぞれに設けられる。入口側プラズマ処理装置40は、表面に電極クリーニング処理を受けたステンレス鋼10の表面に実施する第1プラズマ処理である。出口側プラズマ処理装置41は、ステンレス鋼10がアルミニウムめっき浴50に入る前にステンレス鋼10に実施する第2プラズマ処理である。この時、第1および第2のプラズマ70は、工程で利点のある常圧プラズマであるのが好ましい。プラズマは、大気圧で処理されるので、この常圧プラズマは、簡単に処理できる。さらに、常圧プラズマは、高圧プラズマに比べて必要装置や設備面で有利である。
【0022】
常圧プラズマは、次のようにして実施される。互いに一定の距離をおいて向き合う一対の電極を設ける。これらの電極に電流を流し、電極間に直流または交流常圧プラズマ70を発生させる。常圧プラズマ70が発生している2つの電極間にステンレス鋼10を通す。このようにして、常圧プラズマによるイオンが、ステンレス鋼10表面に衝突し、ステンレス鋼10表面が改質される。
【0023】
ここで、本発明の別の実施形態によれば、入口側プラズマ処理装置40を選択的に省略することができる。この場合、常圧プラズマは、ステンレス鋼10がアルミニウムめっき浴50に入る前の一回のみ行われる。常圧プラズマ処理は、常圧プラズマ処理を行った結果により一回または二回行う。
【0024】
本発明の実施形態による常圧プラズマ70を発生させるために、交流または直流電源が使用される。一般に、2〜20kVの範囲の電圧が用いられる。直流電源として、パルス電源が使用できる。この場合、一般に、1〜10kHz範囲の周波数が用いられる。二つの電極間に発生した常圧プラズマ70の内をステンレス鋼10が通り抜け、これにより常圧プラズマ処理が行われる。常圧プラズマ70が発生するとき、常圧プラズマ70と同時にX線が発生する。それ故、安全のためにプラズマが発生する部分の周囲に遮蔽装置を設けるのが好ましい。遮蔽装置は、人がX線を直接視ることを防止する。
【0025】
常圧プラズマ処理は、ステンレス鋼10が溶融アルミニウムめっき浴50に入る前に行われる。次いで、ステンレス鋼10は、溶融アルミニウムめっき浴50に入れられる。すなわち、常圧プラズマ処理を受けた後で、ステンレス鋼10がめっき浴50に通されてステンレス鋼10がアルミニウムめっきされる。ステンレス鋼10がアルミニウムめっきされた後、ステンレス鋼10は、めっき浴50から垂直方向に出る。この時、エアーナイフ60により空気を適切に噴射して、めっき量を調節する。
【0026】
図2は、本発明の実施形態による溶融アルミニウムめっきステンレス鋼の製造方法を示すフローチャートである。
図2を参照すると、電気クリーニング工程でステンレス鋼10の表面から異物を除く(S200)。異物が除かれたステンレス鋼10表面に、第1プラズマ処理を行う(S202)。次いで、ステンレス鋼10への第1プラズマ処理が終了した後、ステンレス鋼10をアルミニウムめっきするために、予熱および還元装置30がステンレス鋼10を適切な温度に加熱する(S204)。
【0027】
ステンレス鋼10を溶融アルミニウムめっき浴50に浸漬する前に、加熱されたステンレス鋼10の表面に第2プラズマ処理を行う(S206)。第2プラズマ処理が終了した時、ステンレス鋼10を溶融アルミニウムめっき浴50に通してステンレス鋼10をアルミニウムめっきする(S208)。
【0028】
本発明の実施形態によると、第1プラズマ処理と第2プラズマ処理は、好ましくは常圧プラズマ70で行われる。この目的に、互いに所定の間隔を置いて面する一対の電極に対し直流または交流電源を印加して常圧プラズマ70を発生させる。常圧プラズマ70が発生している二つの電極の間に、ステンレス鋼20を通す。このとき、常圧プラズマによるイオンがステンレス鋼10の表面に衝突してステンレス鋼10の表面を改質することができる。
【0029】
さらに、本発明の実施形態によると、第1プラズマ処理は、選択的に省略することができる。つまり、ステンレス鋼10は、溶融アルミニウムめっき浴50でアルミニウムめっきされる前の一回だけ常圧プラズマを受けることにしてよい。
【0030】
さらに、アルミニウムめっきが完了し、アルミニウムめっき浴50から出たステンレス鋼10の表面にエアーナイフ60から空気を噴射して、これによりめっき量を調節するようにする(S210)。
【0031】
図3は、本発明の実施形態による常圧プラズマを行う前と後におけるステンレス鋼上のアルミニウムの形状を示す例示図である。図4は、ステンレス鋼の写真で、本発明の実施形態による常圧プラズマ処理を行う前と後における溶融アルミニウムの濡れ性についての試験を行った結果である。
【0032】
先ず、図3を参照すると、本発明の実施形態による常圧プラズマ処理を行う前と後のステンレス鋼表面の溶融アルミニウム80の形状を示している。常圧プラズマ処理を行う前では、溶融アルミニウム80は、溶融アルミニウム80とステンレス鋼10の間の密着性が悪いために球状になっている。しかしながら、本発明の実施の形態による常圧プラズマ処理を行った後では、溶融アルミニウム80とステンレス鋼10の間の密着性が良く、溶融アルミニウム80が広い範囲に拡がっている。これは、本発明の実施形態による試験結果からもわかる。
【0033】
本発明の実施形態による図4において、電極を、ステンレス鋼10の表面と裏面に、それぞれステンレス鋼10から4mmだけ離れて置いている。電極に、300Hzの周波数を有する1kVのパルス電源を印加して常圧プラズマが発生させた。この試験を行う前と後でのステンレス鋼10の表面写真を図4(a)に示す。図4(a)に示すように、常圧プラズマを受けた部分が粗くなって、表面改質がなされている。さらに、この表面に酸化が起きている。
また、図4(b)と4(c)は、上記した試験条件下での常圧プラズマ処理を行う前と後で、溶融アルミニウムを滴下して密着性および濡れ性を試験した結果である。図4(b)は、常圧プラズマ処理を行う前で、ステンレス鋼と溶融アルミニウムの間の密着性および濡れ性が悪い。図4(c)では、常圧プラズマ処理を行った後で、ステンレス鋼と溶融アルミニウムの間の密着性および濡れ性が良好である。
【0034】
本発明は、実施形態を例示して記載したが、本発明は、当業者であれば、特許請求の範囲に記載した本発明の精神と技術範囲から逸脱することなく修正および改変可能であることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼板を予め設定した温度に加熱し、加熱された前記ステンレス鋼板に常圧プラズマ処理をし、常圧プラズマ処理を受けた前記ステンレス鋼板を溶融アルミニウムめっき浴に通してステンレス鋼板に溶融アルミニウムめっきする、の工程を含んでなることを特徴とする常圧プラズマを用いた溶融アルミニウムめっきステンレス鋼板の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記ステンレス鋼板を加熱する前に、前記ステンレス鋼板の表面を常圧プラズマ処理することを特徴とする請求項1に記載の常圧プラズマを用いた溶融アルミニウムめっきステンレス鋼板の製造方法。
【請求項3】
常圧プラズマ処理は、互いに予め設定した間隔で離れて面する一対の電極に直流または交流電源を印加して常圧プラズマを発生させ、常圧プラズマが発生している一対の前記電極間に前記ステンレス鋼板を通すことにより行うことを特徴とする請求項1または2に記載の常圧プラズマを用いた溶融アルミニウムめっきステンレス鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−514925(P2010−514925A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543927(P2009−543927)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006720
【国際公開番号】WO2008/078914
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(502258417)ポスコ (73)
【Fターム(参考)】