説明

常温流通可能なゲル状食品

【課題】レトルト殺菌等の過酷な加熱殺菌を行っても、ペプチド等のタンパク質成分が凝集・分離することなく、内容成分が均質に保持でき、かつ、製造時良好な作業性となる常温流通可能なゲル状食品を提供する。
【解決手段】常温流通可能なゲル状食品中、タンパク分解物、微結晶セルロース及び/又は微小繊維状セルロースを含む組成物、及びゲルを形成させるためのゲル化剤を含有する。また、それぞれの添加量として、タンパク分解物が1〜30重量%、微結晶セルロース及び/又は微小繊維状セルロースを含む組成物が0.05〜5重量%、ゲルを形成させるためのゲル化剤が0.05〜4重量%である。好ましくは、タンパク分解物の平均分子量が10000以下である。更に好ましくはゼラチン由来のコラーゲンペプチドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク分解物を含有する常温流通可能なゲル状食品に関する。より詳細には、レトルト殺菌等の過酷な加熱殺菌を行っても、タンパク分解物が凝集したりすることなく、内容成分が均質に保持できる常温流通可能なゲル状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
更には、タンパク分解物の含量が高くなり、高タンパク含量となっても、製造時、ミックスの粘度上昇に起因する作業性の低下(ミックスの粘度が高すぎて、攪拌や均質化が困難になること)がなく、良好な作業性となる。また、製造後のゲル状食品は、チルド流通のミルクプリンのような、柔らかく、口溶けも良好で、なめらかな食感となり、更には、咀嚼・嚥下困難者用食品としても適した、常温流通可能なゲル状食品、特には高タンパク含量および乳化剤との併用により高油脂含量とすることができるゲル状食品に関する。
【0003】
従来、プリン等のゲル状食品は乳原料由来のタンパク質成分を含むが、レトルト殺菌等の過酷な加熱殺菌を行うと、内容成分の凝集や沈殿が起こり、ゲルの外観が損なわれることがある。このいわゆる「荒れ」の現象は、乳原料由来のタンパク質が凝集すること等によって内容成分の均質性が損なわれること及びその均質性が損なわれた状態を意味するが、「荒れた」食品は、通常、外見上、内容成分が凝集・混濁・懸濁したようなざらざらした質感を呈している。また、舌触りも悪く、さらに凝集成分の沈降等によって味が不均一となり、その結果、商品価値が著しく損なうという問題がある。
【0004】
このような問題より、乳原料、即ち、タンパク質を含むゲル状食品は、チルドで流通されるのが一般的である。また、一部では、レトルト殺菌でもゲルの外観が損なわれないゲル状食品も検討がなされ、ミックス(原料溶液)の粘度を上げる方法なども知られているが、得られたゲル状食品が糊っぽい食感となり、プリンやムースのような、柔らかく、なめらかな食感とならないという問題点があった。
【0005】
一方で、近年高齢者の増加に伴い、食物を噛み砕き飲み込むという一連の動作に障害をもつ、いわゆる咀嚼・嚥下障害者が増加しており、経口摂食が可能で、食べる楽しみが得られ、かつ、摂食機能を向上させることが出来る嚥下障害者用の食品の開発が行われている。このような咀嚼・嚥下障害者の多くは、多量に食品を摂取することが困難な場合が多いので、少量の摂取でも栄養成分を多く摂取するように、栄養価が高くなるような食品の開発が急務となっている。更には、特に咀嚼・嚥下障害者が家庭で介護されているような場合は、チルド食品では賞味期限が短い場合が多く、買い置きができないといった問題点があるため、長期保存が可能で、必要な時にすぐに摂取できるようにベッドのそばなどに置いておけるような常温での長期保存が可能な食品が要望されている。
【0006】
ここで、咀嚼・嚥下障害者用食品に含まれる栄養成分の中でタンパク質も例外ではなく、少量の摂取でも高含量のタンパク質が摂取できるような食品の要望がある。しかし、前記の通り、レトルト殺菌等の過酷な条件ではタンパク質成分の凝集・沈殿が起こりやすくなるといった問題点があった。更には、一般的に常温流通可能とするためにゲル状食品をレトルト殺菌すると、食感が固くなる傾向があるため、この点からも、乳原料を含むレトルトプリンは、咀嚼・嚥下障害者用の食品には不向きであり、まして、少量の摂取でも必要なタンパク質含量が摂取できるよう、高タンパクのレトルトプリンを製造するために、乳原料由来のタンパク質を使用することは困難であった。
【0007】
また、乳清タンパク質を使用したゲル状食品を製造方法としては、乳清タンパク質自体の加熱凝固性を利用してゲル化したゲル状食品が知られている。例えば、牛乳又は乳製品に乳清タンパク質濃縮物を添加し、加熱することによって得られるゲル状食品の製造法がある(特許文献1)。このような乳清タンパク質の熱凝固性を利用して製造したゲル状食品は食感がかたくなる傾向があり、チルド流通のミルクプリンのような、口溶けのよい、なめらかな食感とは異なる。更には、乳清タンパク質とゼラチンの複合体を酸性領域にてゲル化させることを特徴とする酸性ゲル食品の製造法(特許文献2)があるが、製造方法に制約が多く、特殊な条件下でゼラチンと乳清タンパク質を反応させなければならず、得られるゲルは条件により大きく物性が異なるという課題がある。特に、タンパク質が5重量%を超えると強固なゲルとなってしまい、ゲル状食品に含まれるタンパク質の含量を高くすればするほど、なめらかな食感を得ることができない。
【0008】
また、卵成分及び又は乳清タンパク質が配合され、かつハイドロコロイドでゲル化させてなるゲル状食品であって、さらに有機酸モノグリセリド及びHLBが10以上のポリグリセリン脂肪酸エステルが配合されてなることを特徴とするゲル状食品(特許文献3)がある。しかし、このゲル状食品では、高タンパク質含量(例えば5重量%程度含有)とすると、レトルト殺菌後はざらざらした食感となり、なめらかな食感のゲル状食品とはならない。また、乳化剤の種類と使用方法が規定されており、有機酸モノグリセリドを含む第一成分とHLBが10以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含む第二成分を調製し、その後それらを混合して調製しなければならず、製造工程が複雑で、効率的ではない。添加する乳化剤の種類、有無に関わらず、また、製造工程も従来のレトルトプリン等の製造ラインをそのまま使用可能で製造できるゲル状食品が望まれていた。
【0009】
このような状況を鑑み、レトルト殺菌等の過酷な加熱殺菌を行っても、タンパク質成分が荒れたり、凝集したりすることなく、内容成分が均質に保持でき、かつ、チルド流通のミルクプリンのような柔らかく、口どけも良好で、なめらかな食感となり、更には咀嚼・嚥下困難者用食品としても適した食感を有する常温流通可能なゲル状食品を調製する方法として、熱変性した微粒子の乳清タンパク質、微結晶セルロース及び又は微結晶セルロースを含む組成物およびゲル化剤からなるゲル状食品およびその製造法がある(特許文献4)。この方法は、得られるゲル状食品の食感および製造の容易さの面で非常に優れているが、タンパク質含量が10%程度を超えるとミックスの粘度が高くなって作業性(特に均質化工程)が低下したり、食感がかたくなる等の問題があった。
【0010】
更に、高タンパクのゲル状食品については、タンパク質成分としてコラーゲンペプチドや大豆ペプチド等のタンパク加水分解物を、ゲル状食品中に1〜10%含有する方法が知られている(特許文献5)。これらのタンパク加水分解物は食品の外観や味を損なうことがなく、高齢者や嚥下障害者向けの高栄養食品として使用することができる。しかし、特許文献5は、無菌充填包装システムによる無菌的に行う充填・包装、即ち、ミックスを超高温短時間(UHT)殺菌し、予め滅菌された容器に無菌的に充填・包装する、いわゆる「アセプティック充填」を行う場合に限られ、プリンのようなカップ充填タイプのゲル状食品を殺菌する場合に一般的に用いられるレトルト加熱等の過酷な殺菌条件では、タンパク質成分が凝集、分離して、食感および外観を大きく損なう等の問題があった。
【0011】
【特許文献1】特許第2836867号
【特許文献2】特開平6−276953号公報
【特許文献3】特開2002−262787号公報
【特許文献4】特開2004−344042号公報
【特許文献5】特開2001−144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたものであり、タンパク質成分を高含有量とする常温流通可能なゲル状食品を提供することを目的とする。より詳細には、レトルト殺菌等の過酷な加熱殺菌を行っても、タンパク質成分が凝集したりすることなく、内容成分が均質に保持できるゲル状食品を提供することを目的とする。
【0013】
更には、ゲル状食品中、タンパク質成分を高い含量含んでも、更には、製造時、ミックスの粘度上昇に起因する作業性の低下(ミックスの粘度が高すぎて、攪拌や均質化が困難になること)がなく、良好な作業性であり、また、製造後のゲル状食品はチルド流通のミルクプリンのような、柔らかく、口溶けも良好で、なめらかな食感となり、更には、咀嚼・嚥下困難者用食品としても適した常温流通可能なゲル状食品、特には、高タンパクおよび乳化剤との併用により高油脂含量のゲル状食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていたところ、a)タンパク分解物、b)微結晶セルロース及び/又は微小繊維状セルロースを含む組成物、及びc)ゲルを形成させるためのゲル化剤、を使用することにより、レトルト殺菌等の過酷な加熱殺菌によりゲルの食感や外観が損なわれたり、タンパク分解物由来のタンパク質成分が凝集、沈殿を起こったりすることなく、内容成分が均質に保持され、かつ、柔らかく、口溶けも良好で、なめらかな食感となる、常温流通可能な高タンパクのゲル状食品となることが判った。
【0015】
更に、本発明のゲル状食品は、タンパク質含量を高くしても、チルド流通のミルクプリンのような柔らかく、口溶けの良好ななめらかな食感を有し、かつ長期間常温で保存可能であるので、咀嚼・嚥下困難者用食品として適していることがわかった。
【0016】
すなわち、本発明は、下記に掲げる常温流通可能なゲル状食品である:
項1.下記a)〜c)を含有することを特徴とする常温流通可能なゲル状食品。
a)タンパク分解物
b)微結晶セルロース及び/又は微小繊維状セルロースを含む組成物
c)ゲルを形成させるためのゲル化剤。
項2.a)〜c)のゲル状食品に対する添加量が下記量である、項1に記載の常温流通可能なゲル状食品。
a)タンパク分解物が1〜30重量%、
b)微結晶セルロース及び/又は微小繊維状セルロースを含む組成物が0.05〜5重量%、
c)ゲルを形成させるためのゲル化剤が0.05〜4重量%。
項3.タンパク分解物の平均分子量が10000以下である、項1又は2に記載の常温流通可能なゲル状食品。
項4.タンパク分解物が、ゼラチン由来のコラーゲンペプチドである、項1乃至3のいずれかに記載の常温流通可能なゲル状食品。
項5.ゲルを形成させるためのゲル化剤が、寒天、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチン、サイリュームシードガム、タマリンドシードガム、グルコマンナン、タラガム、及びグァーガムから選ばれる1種又は2種以上のゲルを形成させる組み合わせで使用する、項1乃至4のいずれかに記載の常温流通可能なゲル状食品。
項6.更に、油脂を含有する項1乃至5のいずれかに記載の常温流通可能なゲル状食品。
項7.咀嚼・嚥下困難者用食品である、項1乃至6のいずれかに記載の常温流通可能なゲル状食品。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、タンパク質成分を高含有率で含む常温流通可能なゲル状食品が製造できるようになった。また、レトルト殺菌等の過酷な加熱殺菌によりゲルの食感や外観が損なわれたり、タンパク分解物由来のタンパク質成分が凝集、沈殿を起こったりすることなく、内容成分が均質に保持され、かつ、柔らかく、口溶けも良好で、なめらかな食感となる、常温流通可能な高タンパクのゲル状食品ができる。更には、タンパク質含量を高くしても、製造時、ミックスの粘度上昇に起因する作業性の低下(ミックスの粘度が高すぎて、攪拌や均質化が困難になること)がなく、良好な作業性であり、製造後のゲル状食品は、チルド流通のミルクプリンのような柔らかく、口溶けの良好ななめらかな食感を有し、かつ長期間常温で保存可能であるので、咀嚼・嚥下困難者用食品として適するゲル状食品が提供できる。更には、乳化剤との併用で、食感を損なわず、油脂含量を高めることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明でいう常温流通可能なゲル状食品は、下記a)〜c)を含有することを特徴とする;
a)タンパク分解物、
b)微結晶セルロース及び/又は微小繊維状セルロースを含む組成物
c)ゲルを形成させるためのゲル化剤。
【0019】
本発明のゲル状食品は、タンパク質成分及び他に原料として含まれる成分をゲル化剤で固化してなるものであるが、好適には半固形状物、より好ましくは更にきめ細かでつるりとした滑らかな舌触り・食感が要求されるものである。ゲル状食品として、例えば、プリン、プリンシェイク、プリンドリンクゼリー、ドリンクゼリー、ムース、ババロア、ミルクプリン、杏仁豆腐、嚥下困難者用食品等が挙げられるが、特に、高タンパクおよび乳化剤との併用で高油脂含量のゲル状食品に向いた製品にも適用可能である。
【0020】
本発明のゲル状食品は、常温流通可能な形態に製造される。例えば、缶、ビン、紙パック、ペットボトル、ラミネートパック、チアパック等に充填、密封され、密封状態で流通、販売されるもので、気軽に摂取する事ができることが特徴である。常温流通可能な食品とするために、100〜150℃、10〜60分間程度の加熱を行うレトルト殺菌や、UHT殺菌、HTST殺菌の殺菌方法を採るが、好ましいのはレトルト殺菌である。本発明では、レトルト殺菌のような過酷な殺菌を行っても、ゲルの食感や外観が損なわれることなく、またタンパク質が凝集や沈殿を起こすこともなく内容成分が均質に保持されたゲル状食品となるものである。
【0021】
本発明で使用するタンパク分解物とは、乳タンパク質、鶏卵タンパク質、大豆タンパク質、およびゼラチン等のタンパク質の加水分解物のことである。タンパク分解物は加水分解の程度によって種々の平均分子量のものがあるが、吸収性や製造の作業性(ミックスの粘度上昇に寄与しない)を考慮すると平均分子量が10000以下、更には5000以下であることが好ましい。更にアミノ酸バランスやゲル化剤との相性等を考慮すると、ゼラチン由来のコラーゲンペプチドが好ましい。ゼラチンの起原は特に限定されないが、例えば、魚皮、魚燐、豚皮、牛皮、牛骨、および鶏皮等が挙げられる。かかるタンパク分解物は商業的に入手可能であり、例えば「ニッピペプタイドPS−1」(ニッピ株式会社)や「コラーゲンペプチドCPB−5」(ゼライス株式会社)等が挙げられる。ただし、このような比較的低分子のペプチドは苦味を伴うものもあり、またアミノ酸配列によっても苦味を伴うものがあり、風味を損なう可能性がある。風味を改善したペプチドとしては乳タンパク質由来の「ペプトプロ」(ディーエスエムフードスペシャルティーズ製)を例示することができる。
【0022】
ゲル状食品中のタンパク分解物の添加量は、ゲル状食品に対し1〜30重量%、好ましくは、3〜25重量%、より好ましくは、5〜20重量%を例示することができる。タンパク質成分としては、上記タンパク分解物に加え、部分的に熱変性した微粒子状のタンパク質等を使用することができる。部分的に熱変性した微粒子状のタンパク質は商業的に入手可能であり、例えば「シンプレス100」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を挙げることができる。
【0023】
なお、一般に、高タンパクのゲル状食品は、特にレトルト殺菌等過酷な加熱処理を行うと、熱変性による凝集・沈殿等が起こる。しかし、本発明の常温流通可能なゲル状食品は、次に述べる微結晶セルロース及び又は微結晶セルロースを含む組成物およびゲル化剤の添加による分散安定作用により、凝集・沈殿が起こらず、ゲル状食品の食感や外観が損なわれることがない。
【0024】
次に、本発明の常温流通可能なゲル状食品は、微結晶セルロース及び/又は微小繊維状セルロースを含む組成物を含有することを特徴とする。微結晶セルロース及び/又は微小繊維状セルロースを含む組成物を添加することで、完全にタンパク質の凝集・沈殿を防止することができる。
【0025】
本発明で言う微結晶セルロースを含む組成物は、平均粒子径が40μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは、10μm以下の結晶セルロースである。微結晶セルロースを含む組成物として、微結晶セルロースを100重量%含有するものを使用しても良いが、バインダーとして、キサンタンガム、カラヤガム、カラギナン、グァーガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の増粘多糖類等を添加して、機械的なシェアをかけて磨砕して、必要に応じて乾燥することによって製剤化したものを使用するのが好ましい。微結晶セルロースを、組成物に対して、5〜100重量%となるように配合し、製剤化する場合は、残りにバインダーを使用して製剤化を行う。本発明で使用する結晶セルロースを含む組成物(微結晶セルロース製剤)は、商業的に入手することが出来、例えば、セオラスSC−900、アビセルRCN−81、セオラスSC−700(以上、旭化成工業株式会社製)等を挙げることが出来る。
【0026】
本発明で言う微小繊維状セルロースを含む組成物は、断面が1〜数百nm×1〜数百nmで長さは不定の微小繊維状のセルロースである。微小繊維状セルロースを100重量%含有するものを使用しても良いが、バインダーとして、キサンタンガム、カラヤガム、カラギナン、グァーガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の増粘多糖類等を添加して、機械的なシェアをかけて磨砕して、必要に応じて乾燥することによって製剤化したものを使用するのが好ましい。微小繊維状セルロースを、組成物に対して、5〜100重量%となるように配合し、製剤化する場合は、残りにバインダーを使用して製剤化を行う。本発明で使用する微小繊維状セルロースを含む組成物(微小繊維状セルロース製剤)は、酢酸菌から産出されるもの(発酵セルロース)や、パルプを特殊な方法により繊維状に調製した微小繊維状セルロースからなり、特に起原、製法にこだわる必要はない。
【0027】
ゲル状食品に対する微結晶セルロース及び/又は微小繊維状セルロースを含む組成物の添加量は、タンパク質の凝集防止効果を示し、ゲル状食品の風味に影響を与えない限度で添加すれば良く、0.05〜5重量%、より好ましくは、0.1〜2重量%、更に好ましくは0.15〜1.5重量%を掲げることができる。
【0028】
更に、本発明の常温流通可能なゲル状食品は、ゲルを形成させるためのゲル化剤を添加する。ゲルを形成させるためのゲル化剤としては、通常食品に使用されるものであって、1種または2種以上を組み合わせて用いることにより、食品を液状から固形状態にするいわゆるゲル化作用を有したり、ゲル自身の食感を改良したりするものであればよい。例えば、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、寒天、カラギナン、キサンタンガム、ファーセレラン、アルギン酸、アルギン酸塩、ペクチン、ゼラチン、ローカストビーンガム、グァーガム、アラビアガム、カラヤガム、プルラン、タラガム、グルコマンナン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、ファーセレラン、マクロホモプシスガム、ラムザンガム、ガティガム、澱粉等から選択される1種又は2種以上を挙げることができる。
【0029】
中でも、好ましくは、寒天、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチン、サイリュームシードガム、タマリンドシードガム、グルコマンナン、タラガム、及びグァーガムから選ばれる1種又は2種以上である。当該成分を配合したゲル化剤製剤は商業的に入手することが出来、例えば、ゲルアップ[商標]PI、ゲルアップ[商標]PI−970、ゲルアップ[商標]PI−C、およびゲルアップ[商標]PI−H(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)等を挙げることができる。
【0030】
なお、本発明ではタンパク分解物だけでなく、乳化剤との併用で油脂含量の高いゲル状食品を調製することも可能である。乳化剤は特に限定されないが、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、レシチン等を挙げることができ、油脂含量にもよるが添加量として、例えば0.05〜1%を挙げることができる。また、使用する油脂も特に限定されるものではないが、大豆油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、なたね油、オリーブ油、パーム油、やし油等を、好ましくはパーム油およびやし油を挙げることができ、添加量として、例えば1〜25%を挙げることができる。
【0031】
また、コーンスターチ、タピオカ澱粉等の澱粉、カルボキシメチルセルロースなどを添加してもよい。これらゲル化剤や澱粉等を、ゲルの物性に影響を与えない程度の粘度を付与する量の添加を行うことで、タンパク質の安定化効果に補助的に作用する。更に、ゲル化剤のゲル化機構に補助的に作用させる目的で、乳酸カルシウム、塩化カリウム等の塩類を添加してもよい。
【0032】
また、ゲル状食品に対するゲル化剤の添加量は、使用されるゲル化剤の種類、製品の種類等に応じて種々選択されるものであり一義的に定めることができないが、製品の一例としてプリンの場合を挙げるとすると、プリンの最終食品に対して、0.05〜4重量部%、好ましくは0.1〜2重量%、より好ましくは0.2〜1.5重量%の範囲が例示される。
【0033】
なお、本発明の常温流通可能なゲル状食品は、咀嚼・嚥下困難者用食品に非常に適した物性を有する。咀嚼・嚥下障害者に適した食品として、1)食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)に優れること、2)口腔及び咽頭への付着性が少ないこと、及び3)保水性が高いことなどが要求されるが、本発明の常温流通可能なゲル状食品は、このようなテクスチャー条件を満たす食品となる。具体的には、栄養補給プリン及びゼリー、タンパク質調整食品、ムース状食品、水分補給ゼリー、ミキサー加工食品、うらごし野菜、キザミ食、高栄養流動食品等のゲル状の食品に適用することが出来る。
【0034】
なお、本発明の効果を損なわないことを限度として、本発明の常温流通可能なゲル状食品には、通常のゲル状食品に使用する食品・食品添加物、例えば、乳原料、糖質、甘味料、有機酸やその塩、香料、色素、酸化防止剤、日持ち向上剤、保存料等を添加しても良い。
【0035】
乳原料としては、牛乳、生クリーム、全脂粉乳、脱脂粉乳、全脂加糖練乳、脱脂練乳、ヨーグルト(発酵乳)、粉末発酵乳、豆乳等などが挙げられる。これら乳原料は、前記のタンパク質含量となるように調整して、本発明の効果を損なわない量を限度に添加することが出来る。
【0036】
糖質、甘味料としては、例えば、砂糖、果糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖等)、トレハロース、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトール等)、砂糖結合水飴(カップリングシュガー)、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、ステビア末等の甘味成分が挙げられる。メイラード反応を伴う褐変を防止する目的で、還元能をもたない砂糖、およびソルビトール、ラクチトール、トレハロース等の糖アルコールを単独使用あるいは併用するのが好ましい。
【0037】
有機酸やその塩として、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム等の有機酸や有機酸のナトリウム塩が好適に用いられる。
【0038】
また、必要に応じて、紅茶,コーヒー等のエキス成分、ココア,抹茶等の粉末成分、イチゴ,オレンジ等の果汁等を含んでいても、また人為的に乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等のカルシウム類を添加して、カルシウム量を強化させたものであってもよい。更には、乳化剤、酸化防止剤、保存料、ビタミン類、鉄、マグネシウム、リン、カリウム等のカルシウム以外のミネラル類などを添加してもよい。
【0039】
本発明の常温流通可能なゲル状食品の製造方法であるが、タンパク分解物、微結晶セルロース及び/又は微小繊維状セルロースを含む組成物、ゲル化剤及びその他の原料を水、好ましくは蒸留水に加えて加熱攪拌溶解し、均質化し、容器充填後、100〜150℃、10〜60分間程度の加熱を行うレトルト殺菌や、UHT殺菌、HTST殺菌の殺菌を行って製造することができる。また、添加する乳化剤や油脂の種類、有無に関わらず、また、製造工程も従来のレトルトプリン等の製造ラインをそのまま使用可能で製造できるようになった。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の内容を以下の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは、「重量部」を意味するものとする。文中「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0041】
実施例1〜2、比較例1〜2:レトルトプリンの調製
表1の配合処方に基づき、レトルトプリンを調製した(実施例1−2および比較例1−2)。水および油脂成分としての精製ヤシ油に、攪拌機で攪拌しながら、タンパク質成分としてのタンパク分解物(コラーゲン分解物「ニッピペプタイドPS−1」)単独(実施例1)、タンパク分解物と熱変性した微粒子の乳清タンパク質(「シンプレス100」)の併用(実施例2)、糖質成分として砂糖およびトレハロース、乳化剤(「ホモゲン※DM*」)、および微結晶セルロースとゲル化剤を含む組成物(「サンサポート※G−4*」)の粉体混合物を添加し、80℃10分間加熱攪拌溶解した。その後、香料(「プリンフレーバーNO.72724*」)、色素(「カロチンベースNO.9400−S*」)を添加し、蒸発水を全量補正した後、均質機に通した(9800kPa=100kg/cm)。これを容器に充填し、121℃ 20分間レトルト殺菌し、レトルトプリンを調製した(タンパク質含量13.1%)。
【0042】
【表1】

【0043】
参照1:サンサポート※G−4*:微結晶セルロース47%、ローカストビーンガム15%、ペクチン8%、寒天5.2%、ジェランガム0.8%からなる配合製剤。
【0044】
比較例として、熱変性した微粒子の乳清タンパク質のみを用いて実施例1と同じタンパク含量に調整したレトルトプリン(比較例1、タンパク質含量13.1%)、通常の乳清タンパク質(「ミルプロ※L−1*」)のみを用いて実施例1と同じタンパク含量に調整したレトルトプリン(比較例2、タンパク質含量13.1%)を、それぞれ実施例1と同様の方法で調製した。
【0045】
実施例1〜2のレトルトプリンは、製造時、ミックスの粘度上昇に起因する作業性の低下(ミックスの粘度が高すぎて、攪拌や均質化が困難になること)はなかった。得られたレトルトプリンは、凝集・沈殿が見られず、離水もなく、チルド流通のミルクプリンのような、プリン特有の柔らかい、なめらかでつるんとした食感であり、レトルト加熱による食感の劣化は認められなかった。また、プリンの表面は非常に滑らかで、褐変もほとんどみられず、レトルト加熱による外観の劣化は認められなかった。更には、タンパクによる風味の劣化もなく、非常に嗜好性の高いものであった。2ヶ月間常温(25℃)で保存した後も、プリンの食感や外観は調製直後とほとんど変わらなかった。実施例1−2のプリンは、咀嚼しても口腔内で食塊がばらばらにならず、まとまりがあり(食塊形成性に優れる)、口腔及び咽頭への付着性が少なく、離水もなく、更には常温流通が可能であり、咀嚼・嚥下困難者用食品に適したゲル状食品となった。
【0046】
一方、比較例1のレトルトプリンは、ミックスの粘度が高くて作業性が悪く、均質化が十分にできないため若干ざらつきのある食感となった。また、外観上もわずかな凝集が認められた。比較例2のレトルトプリンは、食感が固くなり過ぎて、所望の柔らかく、なめらかな食感とならなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により、レトルト殺菌等の過酷な加熱殺菌を行っても、タンパク分解物が凝集したりすることなく、内容成分が均質に保持できる常温流通可能なゲル状食品を提供できる。更には、製造時、ミックスの粘度上昇に起因する作業性の低下(ミックスの粘度が高すぎて、攪拌や均質化が困難になること)がなく、良好な作業性となる。また、タンパク分解物の含量が高くなり、高タンパク含量となっても、チルド流通のミルクプリンのような、柔らかく、口溶けも良好で、なめらかな食感となり、更には、咀嚼・嚥下困難者用食品としても適した、常温流通可能なゲル状食品、特には高タンパク含量および乳化剤との併用により高油脂含量とすることができるゲル状食品を製造できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記a)〜c)を含有することを特徴とする常温流通可能なゲル状食品。
a)タンパク分解物
b)微結晶セルロース及び/又は微小繊維状セルロースを含む組成物
c)ゲルを形成させるためのゲル化剤。
【請求項2】
a)〜c)のゲル状食品に対する添加量が下記量である、請求項1に記載の常温流通可能なゲル状食品。
a)タンパク分解物が1〜30重量%、
b)微結晶セルロース及び/又は微小繊維状セルロースを含む組成物が0.05〜5重量%、
c)ゲルを形成させるためのゲル化剤が0.05〜4重量%。
【請求項3】
タンパク分解物の平均分子量が10000以下である、請求項1又は2に記載の常温流通可能なゲル状食品。
【請求項4】
タンパク分解物が、ゼラチン由来のコラーゲンペプチドである、請求項1乃至3のいずれかに記載の常温流通可能なゲル状食品。
【請求項5】
ゲルを形成させるためのゲル化剤が、寒天、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチン、サイリュームシードガム、タマリンドシードガム、グルコマンナン、タラガム、及びグァーガムから選ばれる1種又は2種以上のゲルを形成させる組み合わせで使用する、請求項1乃至4のいずれかに記載の常温流通可能なゲル状食品。
【請求項6】
更に、油脂を含有する請求項1乃至5のいずれかに記載の常温流通可能なゲル状食品。
【請求項7】
咀嚼・嚥下困難者用食品である、請求項1乃至6のいずれかに記載の常温流通可能なゲル状食品。


【公開番号】特開2006−212006(P2006−212006A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31158(P2005−31158)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】