説明

平ベルト及びその製造方法

【課題】平ベルトにおいて、プーリのプーリ面と密着の程度を低下させて「ジージー」という、はがれ音(異音)が発生するのを回避させたり、摩擦係数を高くして低負荷伝動を実現させたりすることを可能とする。
【解決手段】平ベルト1は、上側ゴム層2、芯体層3及び下側ゴム層4が順に積層されてなる。芯体層3は、接着ゴム3a中において芯体コード3bが螺旋状に巻かれてなる。ベルト伝動面となるベルト上面2aおよびベルト下面4aは、微小な凹凸を持つ粗ゴム面とされる。このような粗ゴム面は、成形面(スリーブ面)がショットブラストにより処理された加硫成形用金型11又は加硫成形用ゴムスリーブ18を使用し、加硫成形後の後加工を行わないことにより形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平ベルト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般の工業用ベルトとして幅広く使用されている伝動ベルトの1つである平ベルトは、その使用される分野が多岐にわたっている。そのため、そのような平ベルトの性能としては、伝動能力のほかに、静粛性が要求される場合がある。
【0003】
一方、ベルト伝動面の摩擦係数が高いベルトとすることで、低張力での伝動が可能となり、それが効率のアップやベルト寿命のアップに繋がることから、ベルト伝動面の摩擦係数をより高くしたいという要求がある。
【0004】
また、従来、短繊維が混合されたゴムをべースゴムとする平ベルトの場合は、比較的高負荷で滑りのある状態で使用される場合の異音対策として、ベルト伝動面を研削して短繊維がゴム表面から出るようにしている。
【0005】
このような平ベルトの製造は、金型上にベルト材料をプライアップして未加硫のベルト成形体を形成し、その外側にゴムスリーブを適用して、加圧加熱により加硫成形し、帯状のベルト成形体を得るのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
具体的には、図4に示すように、円筒状の金型11’の表面上に、下側ゴム層となる未加硫ゴムシート12,12が必要枚数だけ巻き付けられ、その上に芯体層の接着ゴムとなる未加硫ゴムシート13が巻き付けられる。それから、その上に、芯体コード14が螺旋状に一定ピッチでもって幅方向に巻き付けられ、さらにその上に、接着ゴムとなる未加硫ゴムシート15,上側ゴム層となる未加硫ゴムシート16,16を順に巻き付け、未加硫ベルト成形体が製造される。
【0007】
その後、その未加硫ベルト成形体の外側に、周知のように、ゴムスリーブを適用し、その状態で未加硫ベルト成形体を一定条件下で加熱加圧することで加硫成形することで、ベルト成形体が得られる。
【0008】
その後、図5(a)に示すように、加硫後のベルト成形体21を大径の主軸ローラ22と小径の従軸ローラ23に巻き付け、主軸ローラ22側で砥石ローラ24を適用し、ベルト表面を研削して所定幅に切断し、短繊維25がゴム表面から出る平ベルト26とする。この平ベルト26は、短繊維25がゴム表面から出ており、ベルト伝動面26aの摩擦係数は低いものになっていた。
【特許文献1】特開平5−50443号公報(段落0022,0023及び図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、平ベルトを用いた伝動装置の場合には、平ベルトのフラット面がプーリのフラット面に完全に密着して伝動が成立することになる。そのため、平ベルトがプーリから離脱する際に、前述した伝動のための密着の程度が高いと、「ジージー」という、はがれ音(異音)が発生する。
【0010】
また、前述したように、従来の平ベルトは、所定の材料を加硫成形用金型上にプライアップして加硫成形して製造するので、短繊維を混合したゴム材料でベルトを製造する場合には、加硫成形後にベルト伝動面を研削して短繊維を表面に露出させ、ベルト伝動面を低摩擦係数とすることで、比較的高負荷でベルトとのプーリとの間に滑りのある状態で使用される場合における異音対策を図っている。ところで、比較的低負荷で効率が特に要求される場合には、ベルト張力を低くすることが必要である。このとき、従来の、ベルト伝動面が低摩擦係数である平ベルトでは伝動能力が劣るため、ベルト伝動面が高摩擦係数である平ベルトとすることが求められる。
【0011】
発明者は、これらの課題を解決するためには、ベルト加硫成形に用いる加硫成形用金型または加硫成形用ゴムスリーブの成形面のうち前記ベルト伝動面に対応する部分を、ベルト伝動面が必要とされる性状に対応する性状に予め形成しておき、そのような加硫成形用金型または加硫成形用ゴムスリーブを用いてベルト伝動面を加硫成形すれば、ベルト伝動面を使用目的に応じた性状とすることができることに着想し、ベルト伝動面を所望の性状とすることで、プーリのプーリ面と密着の程度を低下させて「ジージー」という、はがれ音(異音)が発生するのを回避させたり、摩擦係数を高くして低負荷伝動を実現させたりすることを簡単に実現できる本発明をなすに至ったものである。
【0012】
この発明は、平ベルトにおいて、プーリのプーリ面と密着の程度を低下させて「ジージー」という、はがれ音(異音)が発生するのを回避させたり、摩擦係数を高くして低負荷伝動を実現させたりすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、プーリのプーリ面にベルト伝動面が接触するように巻き付けられ、動力を伝達する平ベルトの製造方法であって、前記平ベルトの加硫成形に用いる加硫成形用金型または加硫成形用ゴムスリーブの成形面のうち前記ベルト伝動面に対応する部分を、前記ベルト伝動面が必要とされる性状に対応する性状に予め形成しておくことを特徴とする。つまり、請求項1の発明は、ベルト成形に用いる加硫成形用金型または加硫成形用ゴムスリーブの成形面のうち前記ベルト伝動面に対応する部分を、ベルト伝動面が必要とされる性状に対応する性状に予め形成しておき、そのような加硫成形用金型または加硫成形用ゴムスリーブを用いて成形することで、前記加硫成形用金型あるいは加硫成形用ゴムスリーブの成形面の性状がベルト伝動面に転写されることを利用したものである。
【0014】
このようにすれば、ベルト伝動面を、加硫成形に用いられる加硫成形用金型あるいは加硫成形用ゴムスリーブの成形面の性状が転写された状態のままの粗ゴム面とすることができるので、ベルト伝動面における微小な凹凸の大きさや量を調整することで、プーリのプーリ面と密着の程度を低下させたり、ベルト伝動面の摩擦係数を高くしたりすることができる。
【0015】
請求項2に記載のように、前記加硫成形用金型または加硫成形用ゴムスリーブの成形面は、ショットブラストによる処理により微小な凹凸を有するように形成されている構成とすることができる。
【0016】
このようにすれば、ベルト伝動面となる粗ゴム面は、加硫成形用金型又は加硫成形用ゴムスリーブの成形面の性状が転写され、ショットブラストによる微小な凹凸を持つ粗ゴム面となる。よって、ベルト伝動面とプーリ面と密着の程度を低下させて「ジージー」という、はがれ音(異音)が発生するのを回避できる平ベルトを簡単に製造することが可能となる。
【0017】
また、請求項3に記載のように、前記平ベルトの、前記ベルト伝動面を形成するゴム部は、短繊維がベルト幅方向に配列されたものであるようにしてもよい。
【0018】
このようにすれば、短繊維が混合されたゴム材料から、ベルト伝動面を形成するゴム部を成形する場合であっても、ベルト伝動面となる面を後加工(研削あるいは切削)により短繊維が露出したベルト伝動面とするのではなく、そのような研削前の面をそのままベルト伝動面としているので、ベルト伝動面が高摩擦係数となり、低負荷伝動を実現できる平ベルトを簡単に製造することができる。つまり、ベルト伝動面でゴム分の占有面積を大きくすることで、プーリとベルトとの間の摩擦係数を高くしているのである。
【0019】
請求項4の発明は、請求項2記載の平ベルトの製造方法によって製造された平ベルトであって、ベルト伝動面が、ショットブラストにより処理された成形面に対応する、微小凹凸を有する粗ゴム面とされていることを特徴とする。
【0020】
このようにすれば、ベルト伝動面は、加硫成形用金型又は加硫成形用ゴムスリーブの成形面の性状が転写され、ショットブラストによる微小な凹凸を持つ粗ゴム面であるので、プーリのプーリ面と密着の程度を低下させて「ジージー」という、はがれ音(異音)が発生するのを回避させることが可能となる。
【0021】
請求項5の発明は、請求項3記載の平ベルトの製造方法によって製造された平ベルトであって、ベルト伝動面が、(研削、切削などの後加工をすることなく)加硫後の状態のままの性状の粗ゴム面とされていることを特徴とする。
【0022】
このようにすれば、ベルト伝動面を形成するゴム部が短繊維が混合されたゴム材料から成形される場合であっても、ベルト伝動面となる面を後加工(研削あるいは切削)により短繊維が露出したベルト伝動面とするのではなく、そのような研削前の面をそのままベルト伝動面としているので、ベルト伝動面が高摩擦係数となり、低負荷伝動を実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように構成したから、本発明は、(平ベルトの)ベルト伝動面を、加硫成形に用いられる加硫成形用金型あるいは加硫成形用ゴムスリーブの成形面の性状が転写された状態のままの粗ゴム面とすることができるので、ベルト伝動面における微小な凹凸の大きさや量を調整することで、プーリのプーリ面と密着の程度を低下させて「ジージー」という、はがれ音(異音)が発生するのを回避させたり、ベルト伝動面の摩擦係数を高くして低負荷伝動を実現させたりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
【0025】
図1は本発明の一実施の形態に係る平ベルトの断面図、図2及び図3はそれぞれ同平ベルトの製造方法の説明図である。
【0026】
図1に示すように、平ベルト1は、上側ゴム層2、芯体層3及び下側ゴム層4が順に積層されてなる。芯体層3は、接着ゴム3a中において芯体コード3bが螺旋状に巻かれてなる。
【0027】
そして、ベルト伝動面となるベルト上面2aおよびベルト下面4aは、微小な凹凸を持つ表面とされている。
【0028】
このような平ベルトの製造は、一般に、金型上にベルト材料をプライアップして、これらを加圧加熱することにより加硫成形し、帯状のベルト成形体を得る。具体的には、図2及び図3に示すように、円筒状の金型11の表面上に、下側ゴム層4となる未加硫ゴムシート12が必要枚数だけ巻き付けられ、その上に芯体層3の接着ゴム3aとなる未加硫ゴムシート13が巻き付けられる。ここで、この金型11の表面11aは、後述する方法で、微小な凹凸を有する粗ゴム面とされている。
【0029】
それから、その上に、芯体コード14が螺旋状に一定ピッチでもって巻き付けられる。そして、その上に、接着ゴム3aとなる別の未加硫ゴムシート15,上側ゴム層2となる未加硫ゴムシート16を順に巻き付け、未加硫ベルト成形体17が製造される。
【0030】
その後、その未加硫ベルト成形体17の外側に加硫成形用ゴムスリーブ18を適用し、その状態で未加硫ベルト成形体17を一定条件下で加熱加圧することで加硫成形することで、ベルト成形体が得られる。このゴムスリーブ18のスリーブ面18aも、後述する方法で、微小な凹凸を有する粗ゴム面とされている。
【0031】
このベルト成形体は、加硫成形の際に、一方の面(内周面)に金型11の表面11aの性状が転写され、また、その反対の面(外周面)にゴムスリーブ18の成形面であるスリーブ面18aの性状が転写されることになる。
【0032】
そして、加硫後のベルト成形体が所定幅に切断され、平ベルト1とされる。この場合、加硫後のベルト成形体を大径の主軸ローラと小径の従軸ローラに巻き付け、主軸ローラ側で砥石ローラを適用し、ベルト表面を研削する後加工(図5参照)は行われない。
【0033】
このように、平ベルト1の下面4a及び上面2aには、それぞれ、金型11の表面11a及びゴムスリーブ18のスリーブ面18aがそれぞれ転写されるので、平ベルト1のベルト伝動面であるベルト上面2aおよびベルト下面4aを微小な凹凸を持つ粗ゴム面にすることができる。
【0034】
金型11の表面11aやゴムスリーブ18のスリーブ面18aを微小な凹凸を持つ粗ゴム面とするためには、例えば、金型11の成形面となる表面11aをショットブラスト加工することにより微小な凹凸を持つ成形面(表面粗さ6.3s以上)を形成することができるし、また、ゴムスリーブ18の場合には、それを作製する金型をショットブラスト加工することで、ショットブラスト面を成形面として有するゴムスリーブを製造することができる。このような金型11やゴムスリーブ18を用いることで、ベルト成形体の表面(ベルト伝動面)に簡単にショットブラスト面を転写することができるようになる。
【0035】
本発明は、前述した実施の形態のほか、次のように構成することも可能である。
(i) 必ずしもベルト上面2aおよびベルト下面4aの両方を微小な凹凸を有する面(ショットブラスト面)とする場合に限定されるものではなく、いずれか一方の面しかベルト伝動面にならないのであれば、その面のみを微小な凹凸を有する面(ショットブラスト面)とすればよい。
(ii) 上側ゴム層及び下側ゴム層が、短繊維が混合されたゴムにて製造されている平ベルトの場合には、加硫成形後に、ベルト成形体の表面を研削、切削などの後加工をすることなく、そのまま使用することで、ベルト伝動面は加硫成形用金型又はゴムスリーブの成形面の性状がそのまま転写された微小な凹凸を有し表面に短繊維が出ていない面となることから、ベルト伝動面を高摩擦係数とすることが可能になる。この場合、短繊維が露出している割合(短繊維露率)は、ベルト伝動面の総表面積の1%以下である。
【0036】
このようにすれば、ベルト張力を低くしても、ベルト伝動面が高摩擦係数の粗ゴム面であるので、比較的低負荷で効率よくベルト伝動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施の形態に係る平ベルトの断面図である。
【図2】同平ベルトの製造方法の説明図である。
【図3】同平ベルトの製造方法の説明図である。
【図4】従来の平ベルトの製造方法の説明図である。
【図5】(a)従来の平ベルトの製造工程(研削工程)の説明図、(b)は研削後のベルト成形体の説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1 平ベルト
2a ベルト上面
4a ベルト下面
11 加硫成形用金型
11a 表面(成形面)
18 加硫成形用ゴムスリーブ
18a スリーブ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プーリのプーリ面にベルト伝動面が接触するように巻き付けられ、動力を伝達する平ベルトの製造方法であって、
前記平ベルトの加硫成形に用いる加硫成形用金型または加硫成形用ゴムスリーブの成形面のうち前記ベルト伝動面に対応する部分を、前記ベルト伝動面が必要とされる性状に対応する性状に予め形成しておくことを特徴とする平ベルトの製造方法。
【請求項2】
前記加硫成形用金型または加硫成形用ゴムスリーブの成形面は、ショットブラストによる処理により微小な凹凸を有するように形成されていることを特徴とする請求項1記載の平ベルトの製造方法。
【請求項3】
前記平ベルトの、前記ベルト伝動面を形成するゴム部は、短繊維がベルト幅方向に配列されたものであることを特徴とする請求項1記載の平ベルトの製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の平ベルトの製造方法によって製造された平ベルトであって、
ベルト伝動面が、ショットブラストにより処理された成形面に対応する、微小凹凸を有する粗ゴム面とされていることを特徴とする平ベルト。
【請求項5】
請求項3記載の平ベルトの製造方法によって製造された平ベルトであって、
ベルト伝動面が、加硫後の状態のままの性状の粗ゴム面とされていることを特徴とする請求項1記載の平ベルト。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プーリのプーリ面にベルト伝動面が接触するように巻き付けられ、動力を伝達する平ベルトの製造方法であって、
前記平ベルトの加硫成形に用いる加硫成形用金型または加硫成形用ゴムスリーブの成形面のうち前記ベルト伝動面に対応する部分を、前記ベルト伝動面が必要とされる性状に対応する性状に予め形成し、
前記ベルト伝動面が、加硫後の状態のままの性状の粗ゴム面とされる平ベルトを製造することを特徴とする平ベルトの製造方法。
【請求項2】
前記加硫成形用金型または加硫成形用ゴムスリーブの成形面は、ショットブラストによる処理により微小な凹凸を有するように形成されていることを特徴とする請求項1記載の平ベルトの製造方法。
【請求項3】
前記平ベルトの、前記ベルト伝動面を形成するゴム部は、短繊維がベルト幅方向に配列されたものであることを特徴とする請求項1記載の平ベルトの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の平ベルトの製造方法によって製造された平ベルトであって、
前記ベルト伝動面が、加硫後の状態のままの性状の粗ゴム面とされていることを特徴とする平ベルト。
【請求項5】
前記ベルト伝動面が、ショットブラストにより処理された成形面に対応する、微小凹凸を有する粗ゴム面とされていることを特徴とする請求項4記載の平ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−212850(P2006−212850A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−26116(P2005−26116)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】