説明

平坦に織られた織布構造

【課題】滑り抵抗及び引裂き強さが高く、布地の構造伸びが小さく、たたんだ時にできるだけ場所を取らないエアバッグ用織布を提供する。
【解決手段】エアバッグ地に用いる平坦に織った織布であって、縦糸(基糸)21と通常横糸23からなり、ウェーブのないメッシュないし十字織りである。レノ糸22は縦糸21と通常横糸23より細く、滑り抵抗を有するようにレノ糸22により縦糸21と通常横糸23は互いに上下に接して保持、結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用織地に用いられる織布地に関し、特にそのような織布地を用いて作られた水用(船舶)、陸用(車両)、空中用(航空機)及び宇宙用の乗物内で乗客を拘束するシステムのためのエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エアバッグシステム特にエアバッグそのものの需要はずっと増加し続けている。車両の中で利用できる空間は小さくなりつつあるので、エアバッグにはたたんだ時にできるだけ場所を取らないことが要求される。同時に、エアバッグ用織地に要求される技術的性能は次第に増加しており、その中にはエアバッグ用織地のいわゆる櫛引き強さ(Kammausziehkraft)といわれる滑り抵抗、及び引裂き強度(裂け耐性)の増加がある。
【0003】
エアバッグの基礎となる、コーティング前の目の粗い織地も同様に高い滑り抵抗と布地の低い構造的伸長性が要求される。
【0004】
ドイツ特許DE19731797C2(TRW)では、全体又は一部が高温ガスの作用で表面炭化処理(karbonisieren、炭素化)した織地又は編布で作られた、特別の特徴を持つ車両乗員保護用エアバッグを開示している。
【0005】
さらに、いわゆる窓システムといわれる、(前部)添乗者のため(車両)側面部に用いられる、滑り抵抗性を持つフィルタ状織地のための要求もある。
【特許文献1】DE19731797C2
【特許文献2】DE10307489B3
【特許文献3】EP0893311A3
【特許文献4】EP0477521B1
【特許文献5】DE10115890A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記要求を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、レノ織(物)の特徴を持つ、エアバッグ用織地に用いられる織布地によって達成される。このような織物の1つはドイツ特許DE10307489B3(ドルニエ(Dornier))に記載された織機で織ることができる。そのレノ織法により、このような織布地によって、実質的により高い滑り抵抗(櫛引き強さ:Kammausziehkraft)を持つ、例えば235dtexを用いた特に薄い織地を製造することができ、できるだけ少ないスペースが要求されるエアバッグシステムへの適用が大きく改善されている。同時に、可及的に小さな糸密度の(目の粗い)生地により、そして他面においてレノ織(物)自体により、裂け耐性(Weiterreisskraft)が十分改善されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る織布地の1つの展開形態において、レノ織りと平織り(の組合せ)のうち、前者の後者に対する比率が1より小さいことである。この、最も密な織り(結び目:Bindungen)が可能な平織りと最も強度のある織りが可能なレノ織りとの組み合わせは、高い滑り抵抗性と裂け耐性に対して理想的であると同時に、実現可能な空気透過性をも達成する。
【0009】
本発明の他の有利な展開形態において、織布地の2重又は多重横糸(部分)の単一横糸(部分)に対する割合が1より小さいように構成される。これにより、さらに滑り抵抗性即ち櫛引き強さがさらに改善されるとともに、織地の安定性も増加する。
【0010】
レノ織り(部分)と平織り(部分)の比が1対7である布地が特に有利であることが判明した。
【0011】
本発明に係る他の有利な展開形態において、滑り抵抗を有するように、基糸(Steherfaeden, ground threads)及び横糸よりも小さいデニール(細い糸)のレノ織り糸により互いに上下に接して(uebereinander)滑り抵抗をもって(shiebefest)保持(結合)された基糸及び通常の横糸を含む、ウェーブ(Ondulation)のないメッシュ織り(Gewebegitter)によって特徴付けられる織布地が得られる。このことは、本発明に基づき構造伸びが少ないとともに、滑り抵抗性を高めるように構成された、糸密度(目数)を減らして製造されたいわゆるコーティング基礎(ベース)地の場合において、特に有利である。例えば235dtexの糸で織ったコーティングした通常の平織り布地は、ウェーブ構造のため5〜10%程度の構造伸びがある。事故時にエアバッグの内圧が増加することにより発生する構造伸びは、まずエアバッグに施されたコーティングを破り、そのため内部のガスが予定外により早く流出する。本発明に係る布地は、実際上基糸又は横糸により生ずる織物格子(織目:Gewebegitter)の素材の伸びしかしないハイブリッド(混成ないし複合)レノ織りとも表現しうる。織目は滑り抵抗を有するようにレノ糸により互いに上下に接して保持(結合)される。
【0012】
本発明に係る布地のさらなる他の有利な展開形態は、炭化処理可能な追加の横糸、特に通常の横糸よりも大きな太さ(デニール)を持つビスコース糸により特徴付けられる。炭化処理可能な表面を持つこの密に織られたハイブリッド織地は、例えばEP0893311A3(ドルニエ(Dornier))に開示されているように、耐熱(高温)エアバッグ用織地が良好に生産される。
【0013】
本発明によれば、横糸の密度(目数)を高めないし最大化するため、基糸のレノ縦糸に対する太さの比を変更することも可能である。これにより、非ウェーブ(ないし縮れ:onduliertのない)の横糸によって決定される布地表面が相応する利点をもって得られる。最後に、本発明のさらなる有利な展開形態において、平織りとレノ織りの部分が横糸方向に交互になった平面構成が形成される。これにより、EP0477521B1(PHP)に記載されたような、自動車の(前座席)同乗者のエアバッグ(窓システム)側面部に適したフィルタ織り布地が滑り抵抗とともに得られる利点がある。
【0014】
有利なことに、本発明に係る布地は、レノ織り用の糸が相対的に細い、特に110dtexであるのに対し、基糸と平織り糸とが同じ太さ、特に235dtexであることである。これによって、全ての要求を満足する、バランスの良い省スペースの布地を達成できる。本発明に係る、1220dtexの太さの炭化処理可能な横糸に特徴付けられる布地は、この構造が炭化処理に特に適する表面が得られると同時に、織地の対称的な支持的基礎構造が得られるという点において、特に有利である。
【0015】
本発明に係る布地のさらに特別有利な展開形態は、(例えば炭化処理可能な糸を用いて)付加的に熱保護(耐熱性)のためにさらに改良された横糸を加えることによって特徴付けられる。
【0016】
本発明に係る布地のさらに特別有利な展開形態は、面単位重量(坪量)が180g/mより小さく、縦糸/横糸の糸密度(目数)が220/220/dm以下、最大引張強さが2500N/5cm以上、滑り抵抗が200N以上であることによって特徴付けられる。
【0017】
本発明に係る布地の最後の有利な展開形態は、織り格子(織目)が対称的であることにより特徴付けられる。これによりコーティング(皮膜形成)及び/又は積層処理の際の支持機能を改善する。
【0018】
最後に、本発明に係る課題は、上述の本発明に係る織地の有利な形態のいずれかに係る織布地によって製造される、水用、陸用、空中用及び宇宙用の乗物(船舶、車両、航空機及び宇宙船内)で乗客を拘束するシステムのためのエアバッグによって達成される。
【0019】
本発明をより良く理解するため、図面を参照していくつかの実施例で説明する。
【実施例】
【0020】
図1を参照し、基糸(Steherfaeden)1、レノ糸(Dreherfaeden)2及び横糸3を組み込んだ単純な裂け耐性(ripstop)レノ織布を示す。本発明に係る1実施例としてここで示された布地は、次のような糸配列になっている。即ち、縦糸巻棒I(図示せず)からの基糸1、縦糸巻棒II(図示せず)からのレノ糸、リード間隔(Rietluecke、read gap)5、縦糸巻棒II(図示せず)からの平織りとしての7本の縦糸(部分4)等である。横糸の配列は直線的(リニア)に1/1である。ここで実施例として示す実施形態では、基糸及び平織り糸は同じ太さ、例えば235dtexである。それに対し、縦糸巻棒II(同じ巻取り)で巻上げられたここに示すレノ縦糸はより細い例えば110dtexの太さである。横糸3と部分(領域)4の平織りの縦糸は235dtexの太さである。図1から明らかなように、レノ糸2は交互に(またいで)高い杼口(Hochfach:杼の通るたて糸とたて糸との間にできる空間)を通るが、基糸1は専ら低い杼口(Tieffach)を通っている。これにより、どのようにレノ織りと平織り比率が1より小さいか、ここでは正確に1/7であるが、明確に示されている。本発明に係るこの実施例の構に基づき、滑り抵抗(櫛引き強さ)が改良される。縦糸方向において、横糸(複数)が、各8本目の縦糸1(基糸)ごと(の1本の縦糸)にレノ糸2によって互いに追加的に結びつけられている。横糸方向(図の平面を横断する方向)に関し、レノ糸2が平織り縦糸(複数)(部分4)の滑りを防止し、互いに結びついたレノ糸2によって横糸方向の裂け耐性(引裂き強さ)を改善する。
【0021】
図2を参照すると、ここには強化された裂け耐性レノ織布の非常に簡略化した模式図を示す。この場合、薄いエアバッグ用織地の櫛引き強さ及び裂け耐性の仕様特性をさらに改良するため、裂け耐性(Ripstop)強化が図のように提案される。ここでも明白なように、図の両端の基糸1がレノ糸2により保持、結合(fixiert)されている。図1の実施例とは異なり、この場合の布地は平織り地(部分)14の中に繰り返しパターン状に織り込まれた二重横糸13に特徴がある。糸の配列及び太さは、図1の布地に明示されたものに対応する。横糸の配列は6回の1/1、そして1回の2/1横糸(二重横糸)である。この構造は、二重横糸によって縦糸方向の裂け耐性をさらに改善する。櫛引き強さは図1の実施例と同様である。
【0022】
図3は、糸密度(目数)を減らし、滑り抵抗があり構造伸びが少ないコーティング基礎地として構成されたハイブリッド(複合)レノ織布を示す。この場合の織目は、対称的なセミレノ織目(Halbdreherbindung)である。通常の薄いコーティングしていない織布のため耐熱性が不十分である場合は、例えばシリコーンでコーティングする必要がある。コーティングされた従来(通常)の例えば235dtexの平織り布は、捲縮していない時は5〜10%の恒久的構造伸びがある。事故時にエアバッグの内圧が増加することにより発生する構造伸びは、まずエアバッグに施されたコーティングを破り、そのため内部のガスが予定外(意図外)に早く流出する。図3に示すような複合レノ織布の伸びは、事実上基糸と横糸に由来する織目の材料の伸びのみである。図3から明らかなように、レノ糸22により保持、結合された基糸(複数)21が、横糸(複数)23とともに織り込まれている。
【0023】
図4は、図3に示す布地のA−B断面図である。基糸(複数)21と横糸(複数)23は織目を形成し、ウェーブ(ないし縮れ)せずに滑り抵抗性を持つようにレノ糸22によって互いに上下に接して(Uebereinander)保持、結合されている。この場合の織布の構造は次のようになる。即ち、基糸21は例えば235dtexの太さで縦糸巻棒I(図示せず)から供給され、レノ糸22は例えば110dtexで縦糸巻棒II(図示せず)から供給される。横糸23は235dtexの太さの糸が用いられる。図3に示す布地は、基糸21のレノ糸22に対するデニール比(太さの比)によって縦糸と横糸の各糸密度に影響を与えることができるが、常に織布の対称性を保持するよう注意するべきである。レノ糸22が細いほどより密な布地目ができる。この点に関するさらなるパラメータは、縦糸にかける張力であり、2つの巻棒(縦糸巻棒I及び縦糸巻棒II)により織り工程の際に(各張力の)設定を異なって(可変に:unterschiedlich)調節することができる。この場合、基糸とレノ糸とを同じ太さで最小限の張力で織ると、(図示しないが)縦方向にウェーブ(ないし縮れ:Ondulation, Einarbeitung)を形成し、横方向にはまっすぐな即ち非ウェーブ(非縮れ)又は実際上非ウェーブの古典的レノ織りができる。
【0024】
図5は、例えば炭化処理(Karbonisierung)に適した、刺繍横糸(ドイツ特許出願DE10115890A1、BST Safety Textiles)を含む複合レノ織布の断面図である。本発明によれば、炭化処理のための表面を持つ密な複合織布を、耐熱性のエアバッグ用織布の製造のため、例えばEP0893311A3(TRW)に記載された発明を変換することを目的として、実施することができる。本発明に係る織布地は、基糸のレノ糸に対するデニール比(太さ比)を変更して横糸の密度(目)を増大又は最大化することができる。これにより、非ウェーブ(非縮れ)横糸により規定される織布表面が得られる。図5の断面図に示す構造は、織布の支持基礎構造の対称性を確保しながらいかに特に炭化処理に適した表面を達成するかを明確にすることが目的である。実施例として図5に示す織布は以下のように構成される。
縦糸:
第1.縦糸: 基糸31、235dtex、縦糸巻棒Iから22本/cm
第2.縦糸: レノ縦糸32、78dtex、縦糸巻棒IIから22本/cm
横糸:
第1.横糸: 横糸33、235dtex、22本/cm
第2.横糸: 横糸33Z、1220dtex、例えばビスコース、11本/cm
(例えば刺繍横糸)
横糸配列:2本の235dtex、1本の1220dtex(刺繍横糸)
【0025】
図5に示すように、織布の基礎構造は、例えばポリアミドの235dtexの糸(たて×よこ)22本×22本から構成される、レノ縦糸32はこの場合は横糸の密度(目)を大きくするためにできるだけ小さいデニールのものを選択する。ビスコース横糸33Z(セルロース)は炭化処理に適している。追加的に織込む横糸33Zは、刺繍横糸の繰り返しパターン(模様)の枠内で一部のみならず全表面にも耐熱性を付与でき、織布の高温負荷に対する抵抗性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る単純な裂け耐性レノ織りとしての布地の一実施例の模式的構成図である。
【図2】本発明に係る強化された裂け耐性レノ織りとしての布地の他の実施例の模式的構成図である。
【図3】本発明に係るハイブリッド(複合)レノ織布の模式的構成図である。
【図4】図3の織布のA−B断面の模式的構成図である。
【図5】刺繍横糸を持つ、炭化処理可能な複合レノ織布の模式的断面構成図である。
【符号の説明】
【0027】
1 基糸(基層糸)(Steherfaeden)
2 レノ糸(Dreherfaeden, leno threads)
3 横糸
4 (平織りの)部分(領域)
5 リード間隔(杼口)
13 二重横糸
14 平織り(地)部分(Leinenwandbindung)
21 基糸
22 レノ糸
23 横糸
31 基糸
32 レノ縦糸
33 横糸
33Z 横糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグ用織布として用いられる織布地であって、
レノ織りと、基縦糸(21)と通常横糸(23)を含んで構成されたウェーブ(Ondulation)のない織目(Gewebegitter)とを特徴とし、該レノ織りは該基縦糸(21)と該横糸(23)よりも小さいデニールのレノ糸(22)によって、基縦糸(21)と該通常横糸(23)が滑り抵抗を有するように互いに上下に接して保持・結合されるように織られている、織布地。
【請求項2】
前記通常横糸(33)よりも大きいデニールの、特にビスコース糸である炭化可能な横糸(33Z)を追加して含むことを特徴とする、請求項1に記載の織布地。
【請求項3】
前記追加の横糸(33Z)は、実質的に(wesentlich)前記通常横糸(33)よりも大きいデニールであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の織布地。
【請求項4】
横糸方向に、平織り(Leinwandbindung)部分とレノ織り部分とが交互に構成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の織布地。
【請求項5】
基糸と平織り糸は同じデニール、特に235dtexであり、レノ糸は相対的にそれより小さいデニール、特に110dtexであることを特徴とする、請求項4に記載の織布地。
【請求項6】
横糸は1220dtexのデニールを持つ炭化可能な横糸であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の織布地。
【請求項7】
付加的に耐熱性を有する横糸(33Z)が追加的に挿入されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の織布地。
【請求項8】
面単位重量(坪量)が180g/mより小さく、縦糸/横糸の糸密度(目)が220/220/dm以下、最大引張強度が2500N/5cm以上、滑り抵抗(櫛引き強さ、Kammausziehkraft)が200N以上であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の織布地。
【請求項9】
レノ織りの平織りに対する比率が1より小さいレノ織りと平織りであることを特徴とする、請求項3〜8のいずれか一に記載の織布地。
【請求項10】
レノ織りと平織りとの比率が1対7であることを特徴とする、請求項9に記載の織布地。
【請求項11】
二重又は多重横糸(13)と単一横糸(3)との比率が1より小さいことを特徴とする、請求項3〜10のいずれか一に記載の織布地。
【請求項12】
織目が対称的な織目であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一に記載の織布地。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一に記載の織布地を用いた、水用(船舶)、陸用(車両)、空中用(航空機)及び宇宙用の乗物内で乗客を拘束するシステムのためのエアバッグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−540237(P2008−540237A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511611(P2008−511611)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【国際出願番号】PCT/EP2006/004616
【国際公開番号】WO2006/122752
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(505351153)アイティジィ オートモーティブ セーフティー テキスタイルズ ゲゼルシャフトミットベシュレンクテルハフトゥング (11)
【Fターム(参考)】