説明

平板アンテナおよび電子機器

【課題】携帯端末や電化製品あるいは壁等に容易に内蔵でき、低コストで、かつ汎用性に優れ、さらに携帯端末や電化製品筐体内の接地導体部分をアンテナの一部分として利用することなく、単体で高い放射効率を実現する平板アンテナおよびそれを備えた電子機器を提供する。
【解決手段】導体板に切り込みを入れて、スロットを形成し、スロットの長手方向の中心軸線を境界にして放射素子、グランド面を形成し、スロットを形成する対向する二つの導体縁で給電する構造の平面アンテナであって、導体板が不可避的不純物を含む純AlもしくはAl合金からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板アンテナおよびそれを実装した電子機器に関するものであり、特に、電子機器に実装した場合に、所望のアンテナ特性を安定して発揮するとともに、電子機器を薄く、軽量、低コスト化できる平板アンテナおよびそれを実装した電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、基地局用や衛星放送用などの大型アンテナを除き、携帯電話やモバイルコンピュータなど(以下、“携帯端末”と称す)をはじめとする専用の各種アンテナの小型化が進んでいる。特に、小型化が求められている携帯端末用のアンテナは、その端末自身の小型化に伴い、設置用スペースの問題、さらにアンテナ体積の制約に反した性能の要求などの問題を抱えている。また、最近盛んに検討されている家庭内における無線ネットワーク構想においても、室内壁面へのアンテナの導入やパソコンや電化製品(以下、“電化製品”と称す)などへのアンテナの導入に伴い、そのアンテナ自身の大きさにも同様な問題が起こっている。
【0003】
上記問題は、携帯端末や電化製品において、その筐体もしくは本体ケース(以下、“筐体”と略す)内に専用のアンテナを内蔵する場合、新たに専用のスペースを確保しなければならないことが主な要因となる。さらに製品の小型化や軽量化が伴う場合、当然のことながらアンテナ自身の小体積化や軽量化も必要となり、これにより要求されるアンテナの性能を満たすことが困難になる。すなわち、アンテナを筐体に内蔵し、かつ性能を確保するためには、筐体内にそれなりの設置スペースの確保が必要になり、その結果、これまで使用してきた各仕様の変更などで、製品の製造コストの増加や開発期間の長期化などが発生することになる。そのため、その問題を回避するため、その殆どが本体の筐体外部に別筐体などを使用し、別途ケーブルなどを使用して取り付ける外付けアンテナが使用されている。しかしこの方法では、その携帯端末や電化製品を移動した際、外付けアンテナを一度取り外さなければならない場合が多い。さらに再設置や再調整などの手間も発生し、場合によってはケーブル等の引き回しや予期せぬトラブルでのアンテナ故障、さらにこれら携帯端末や電化製品の設置位置の自由度が制限されるなどの使用者には常に煩わしさが付きまとうことになる。
【0004】
これら問題の解決を目的とし、携帯端末もしくは電化製品の筐体内の間隙等に実装し得る薄型の内蔵アンテナが提案されている(例えば、特許文献1,2)。これらのアンテナは、それぞれが薄型であり、かつ製造も容易なものとなっている。しかしながら、これらのアンテナで高い放射利得を得るためには、広いグランド部が必要な構造であり、結果的に構造が大きくなりやすい。そのため高い放射利得を確保し、さらに構造を小さくするために、機器筐体内の高周波回路部の接地部(グランド)または接地導体(グランド)とアンテナのグランド部とを直接金属製のねじや溶接等で接続するなどして高周波的に接続し、この導体部分にもアンテナ上の電流分布を存在させ、最終的にこれら機器筐体内のグランドをアンテナのグランド部の一部分として利用しなければならない。すなわち従来のアンテナは、アンテナ設置位置もしくはスペース部分において、アンテナのグランド部と筐体内のグランドとを金属製のねじや溶接等で直接に接続することが必要となり、結果的に製品の小型化や軽量化への要求には不向きで、かつ汎用性に乏しいものとなってしまう。
【0005】
そこで、上記課題を解決するために、薄く、所望のアンテナ特性を安定して発揮するだけでなく、電子機器に実装する場合に作業が簡単な平板アンテナが提案されている(例えば、特許文献3,4)。これらは、導体板上に切り込みを入れて、スロットを形成し、そのスロットの長手方向の中心軸線を境界にして第一の放射導体と第二の放射導体を形成し、スロットを形成する対向した二つの導体縁で給電するようにした構造である。
【0006】
さらに最近では、平板アンテナは異なる周波数帯に適用可能な、いわゆる“マルチバンド”あるいは“ワイドバンド”対応に発展している(例えば、特許文献5)。
【特許文献1】特開平5−22018号公報
【特許文献2】特開平8−256009号公報
【特許文献3】特開2003−283232号公報
【特許文献4】特開2004−153861号公報
【特許文献5】特開2004−48119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の平板アンテナの問題は、アンテナの導体板にCuもしくはCu合金(例えば、りん青銅)を適用していることにより、主として下記3点が挙げられる。1点目は、Cuは密度が約8900kg/mと重く、これを実装する電子機器の軽量化の妨げとなっている点である。2点目は、Cuは耐食性が低いため、同軸ケーブルのはんだ接合部を除いた部分を接着剤付きPIなど絶縁性の樹脂で覆う必要がある点である。3点目は、Cuは質量当たりの価格が高い点である。
【0008】
そこで本発明の目的は、携帯端末や電化製品あるいは壁等に容易に内蔵でき、低コストで、かつ汎用性に優れ、さらに携帯端末や電化製品筐体内の接地導体部分をアンテナの一部分として利用することなく、単体で高い放射効率を実現する平板アンテナおよびそれを備えた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の平板アンテナは、不可避的不純物を含む純AlまたはAl合金の導体板からなることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の電子機器は、上記平板アンテナを実装したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、アンテナ性能を確保しつつ、小スペースで携帯端末や電化製品あるいは壁等に実装できるだけでなく、軽量かつ低コスト化が実現できる平面アンテナおよびそれを備えた電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、平板アンテナの導体板について不可避的不純物を含む純AlもしくはAl合金を適用する。純AlもしくはAl合金の密度は約2700kg/mでCu系の約3割と非常に軽量である。その結果、平板アンテナの大幅な軽量化が実現できる。上記のAl合金は常温の導電率をりん青銅レベルの20IACS%以上のものとし、特に高周波帯で使用する場合、50IACS%以上が好ましい。さらに、AlはCuと比較して質量当たりの価格が安いので、CuからAlに同一の体積で置換すると大幅なコスト低減が図れる。
【0013】
純AlもしくはAl合金板には不可避的不純物を含む純SnもしくはSn合金はんだめっきを施す。そのことで同軸ケーブルとのはんだ接合信頼性が向上する。さらに、純AlもしくはAl合金板と不可避的不純物を含む純SnもしくはSn合金の間には、Niめっきを施すことが好ましい。さらに、接合強度面から純AlもしくはAl合金板とNiめっきの間には、Znめっきを施すことがより好ましい。従って、本発明ではめっきが2層もしくは3層の多層構造となる。上記めっきは導体板全体もしくは部分(例えば、同軸ケーブルとの接合部のみ)に施しても構わない。
【0014】
導体板の最表面には、同軸ケーブルとの接続信頼性面と環境面から、純SnもしくはSn−Ag−Cu系やSn−Cu−Ni系などの一般的なPbフリーはんだを施すのが好ましい。素線径が30μm以下の極細同軸ケーブルを接合する場合、Cu食われ抑制の面から、Sn−Cu−Ni系はんだが好ましい。
【0015】
一方、純AlもしくはAl合金板に直接めっきする場合、Sn−Zn系もしくはSn−Zn−Bi系Pbフリーはんだを選択する。
【0016】
導体板は、従来技術では同軸ケーブル接続部を除き絶縁性材料に覆われた構造であった。本発明では、導電板に純AlもしくはAl合金を採用したことにより耐酸化性など耐食性が向上したため、絶縁体で表面全体を覆う必要はない。
【0017】
図1は本発明の平板アンテナの構造を示す図である。平板アンテナは、導体板1に切り込みを入れて、スロット4を形成し、スロット4の長手方向の中心軸線を境界にして放射素子2とグランド面3が形成される。
【0018】
図2は本発明の平板アンテナに同軸ケーブルを接続した構造を示す図である。同軸ケーブル5の信号線とグランド線はそれぞれ平板アンテナの放射素子2、グランド面3にはんだ接合部6において接続される。このように、スロット4を形成する対向する二つの導体縁で給電する構成であり、信号線のはんだ接合部6から放射素子部2の先端に向けて第一の放射導体が形成され、信号線のはんだ接合部6からグランド面の経路で第二の放射導体を形成される。
【0019】
尚、構造上弱いスロット部については、絶縁性のテープなどで補強した方が良い。テープでの具体的な補強方法としては、スロット部の片面、もしくは両面に部分的にテープを貼付すればよい。その際、アンテナ側面、または天面などを抱き込む形で貼付することにより、作業効率、および補強性を高めることができる。その結果、高価な接着剤付きPIなどの絶縁体材料、および順にそれを抜くプレス成型、ラミネートそして接着剤の硬化工程を省くことができる。図3は、平板アンテナの放射素子をテープで補強した応用例の図である。図3では、放射素子2の先端側とグランド面と連結されている放射素子2の基端側にそれぞれ絶縁性テープを貼り付けて補強したものである。絶縁性テープは放射素子2とグランド面3にまたがって貼り付けられる。
【0020】
以上、Al板に下からZn/Ni/純SnもしくはSn合金はんだめっきの3層めっきを施し、かつスロット部についてテープで補強しても、アンテナ部のコストは純CuもしくはCu系合金のものに比べて大幅に低減できる。
【0021】
本発明の効果の検証のため、平面アンテナを試作し、同一寸法のりん青銅品と特性比較を実施した。共振周波数を2.4GHzになるようにした。導電板にはJISで規定された純Al系合金1060(Alが99.60mass%以上)を用いた。導電率が60%IACS以上と高いものである。板の厚みは0.2mmとし、外径Φ0.8mmの極細同軸ケーブルをPbフリーはんだ(Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)により接続した。その他導体板の寸法は特許文献3のものと同一にした。導電板の成型はプレスによる打ち抜きとした。めっきは下からZn/Ni/純Snの3層とした。最表面の純Snめっきは厚み0.5μmとした。
【0022】
アンテナには、(1)平均アンテナ利得が高いこと、(2)電波が放射される方向に偏りなく均一であることが求められる。本発明はそれら特性について、従来の平板アンテナと同等レベルを示すことを確認した。
【0023】
さらに、本発明をノートパソコンのLCDパネルに実装し、アンテナ特性を評価した。その結果、従来品と特性面で差がないことを確認した。
【0024】
本発明は、導電板を折り曲げた構造であっても構わない。また、厚み数十μmのAlを用い、PIやPETなどの絶縁体をラミネートしたフレキシブル基板(FPC)構造であっても構わない。それらについて、Al板の表面には上記めっきを施すことが必要である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の平板アンテナを示す図である。
【図2】本発明の平板アンテナに同軸ケーブルを接続した例を示す図である。
【図3】本発明の平板アンテナの応用例(放射素子をテープで補強)を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 導体板
2 放射素子
3 グランド面
4 スロット
5 同軸ケーブル
6 はんだ接合部
7 補強テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不可避的不純物を含む純AlまたはAl合金の導体板からなることを特徴とする平板アンテナ。
【請求項2】
導体板に切り込みを入れて、スロットを形成し、スロットの長手方向の中心軸線を境界にして第一の放射導体と第二の放射導体を形成し、スロットを形成する対向する二つの導体縁で給電する構成であることを特徴とする請求項1記載の平板アンテナ。
【請求項3】
前記Al合金は常温の導電率が20%IACS以上であることを特徴とする請求項1記載の平板アンテナ。
【請求項4】
前記純AlまたはAl合金の導体板に、不可避的不純物を含む純SnまたはSn合金はんだめっきを施したことを特徴とする請求項1記載の平板アンテナ。
【請求項5】
前記純AlまたはAl合金の導体板と前記純SnまたはSn合金はんだめっきの間に、Niめっきを施したことを特徴とする請求項4記載の平板アンテナ。
【請求項6】
前記純AlまたはAl合金の導体板と前記Niめっきの間に、Znめっきを施したことを特徴とする請求項5記載の平板アンテナ。
【請求項7】
前記純AlまたはAl合金の導体板へのめっきは、一部もしくは全体に施したことを特徴とする請求項4〜6いずれかに記載の平板アンテナ。
【請求項8】
前記導体板に樹脂フィルムを貼り付けたことを特徴とする請求項1記載の平板アンテナ。
【請求項9】
請求項1〜8いずれかに記載の平板アンテナを実装したことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−10832(P2009−10832A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171806(P2007−171806)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】