説明

平版印刷版原版、その製造方法及び平版印刷版の作製方法

【課題】 耐刷性、現像性及びスクラッチ耐性(耐傷性)に優れ、かつ画像欠陥の少ない平版印刷版原版、その製造方法及び平版印刷版の作製方法を提供する。
【解決手段】 基材上にブロック化イソシアネート化合物を含有する画像形成層を有する平版印刷版原版において、該画像形成層が平均短軸長/平均長軸長の比が0.1〜0.3の針状フィラーを含有することを特徴とする平版印刷版原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版原版、その製造方法及び平版印刷版の作製方法に関し、更に詳しくは、耐刷性、耐傷性、現像性が向上し、かつ画像欠陥の少ない平版印刷版原版、その製造方法及び平版印刷版の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、平版印刷版の作製工程では、コンピューター等の普及に伴い、フィルム原稿を介さず、画像データに基づいて平版印刷版原版に直接露光する、いわゆるコンピューターツープレート技術(CTP)が普及しつつある。これによりフィルム作製が不要となり、コストの削減、ワークフローの簡略化が可能となった。当初、CTP用の平版印刷版原版の技術としては、銀塩拡散系材料、光重合系材料等が主流であったが、これらの材料は、画像形成の為にアルカリ現像処理を必要とするものであった。CTPの普及と同期して印刷環境においてもオフィス化が進み、また環境適性の面からもアルカリ現像液を必要としない、更には全く現像処理工程を必要としない平版印刷版原版の開発が望まれるようになってきた。
【0003】
上記要望に対して、現像処理を必要としない平版印刷版原版の技術は既にに開示されて(例えば、特許文献1、2参照。)いる。これら技術は、親水性支持体上に、熱溶融性物質の粒子(熱溶融性粒子ともいう)を含有し、水で現像可能な画像形成層を有する平版印刷版原版を、レーザー光源で画像露光し、現像処理を施すことなく印刷機の版胴に取り付け、インク、湿し水を用いて印刷機上で現像処理をすることにより、特別に自動現像機等を必要としないため、作業者にとっては現像処理の煩雑さを感じさせない印刷技術である。しかしながら、これら平版印刷版原版は、実用上の露光範囲で画像形成を行う為には、熱溶融性粒子の溶融特性を良好に、すなわちより溶融しやすくする必要がある。熱溶融性粒子の溶融特性を高めた場合、外圧や引っ掻き(スクラッチ傷)などによっても、用いた熱溶融性粒子の融着が生じ、その結果、圧力の加わった部分が印刷時の汚れとなってしまう、いわゆるカブリの問題が生じ、その結果現像性の低下を招くため、早急な解決が求められている。
【0004】
一方、画像特性およびカブリの両立の技術として、圧縮可能な多孔質層を有する平版印刷版原版が開示されて(例えば、特許文献3参照。)る。この技術によれば、多孔質層の圧力緩和及び圧力による画像層の破壊を防ぐことが可能となる。しかし、一旦圧力を受けた部分は凹状となり、画像部においては着肉不良を生じることがあり、印刷適性の面で好ましくない。また、ウレタンフォームなど特殊な素材技術を用いるため、製造コストが高いという欠点も有している。
【0005】
また、支持体と画像形成層の間にpHが5以上の水溶液で除去可能なバリア層を有する平版印刷版原版が開示されて(例えば、特許文献4参照。)いる。これによれば、カブリ部分の熱溶融物質はバリア層ごと除去されるが、画像部においても徐々にバリア層の溶解が生じ、その結果、耐刷性が劣化してしまうという問題点があり、耐刷性と耐傷性(カブリ耐性)が両立できる技術の開発が切望されている。
【特許文献1】特開平9−131850号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平9−127683号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献3】特許第3034476号明細書 (特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平10−329442号公報 (特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みなされたものであり、その目的は、耐刷性、現像性及びスクラッチ耐性(耐傷性)に優れ、かつ画像欠陥の少ない平版印刷版原版、その製造方法及び平版印刷版の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0008】
(1)基材上にブロック化イソシアネート化合物を含有する画像形成層を有する平版印刷版原版において、該画像形成層が平均短軸長/平均長軸長の比が0.1〜0.3の針状フィラーを含有することを特徴とする平版印刷版原版。
【0009】
(2)前記画像形成層がブロック化イソシアネート化合物を30質量%〜100質量%含有することを特徴とする前記(1)に記載の平版印刷版原版。
【0010】
(3)画像形成層に含有される針状フィラーが、基材に対し並行に配向していることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の平版印刷版原版。
【0011】
(4)前記(3)に記載の平版印刷版原版の製造方法であって、前記画像形成層の乾燥膜厚が、前記針状フィラーの平均長軸長より小さくなるように塗布することを特徴とする平版印刷版原版の製造方法。
【0012】
(5)前記(3)に記載の平版印刷版原版の製造方法であって、前記針状フィラーが磁性体であり、画像形成層を塗設した後、湿潤状態で磁場を印加することを特徴とする平版印刷版原版の製造方法。
【0013】
(6)基材上にブロック化イソシアネート化合物を含有する画像形成層を有する平版印刷版原版において、該画像形成層がその膜厚より大きな平均粒径を有する球状マット剤粒子を含有することを特徴とする平版印刷版原版。
【0014】
(7)前記(1)、(2)、(3)及び(6)のいずれか1項に記載の平版印刷版原版を、レーザー光源またはサーマルヘッドで描画した後、印刷機の版胴上で、描画後の原版の描画されていない部分を、印刷用インク及び湿し水を用いて除去することにより現像を行うことを特徴とする平版印刷版の作製方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、耐刷性、現像性及びスクラッチ耐性(耐傷性)に優れ、かつ画像欠陥の少ない平版印刷版原版、その製造方法及び平版印刷版の作製方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を更に詳しく説明する。本発明者は、耐刷力と耐傷性との両立という課題を解決する為に、従来開示されている種々の技術とは異なる視点から鋭意検討を行った結果、1つとしてブロック化イソシアネート化合物を含有する画像形成層に、平均短軸長/平均長軸長の比が0.1〜0.3の範囲にある針状フィラーを含有すること、2つとして熱溶融性粒子を含有する画像形成層に、画像形成層の膜厚より大きい平均粒径を有する球状のマット剤を含有することにより上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0017】
〔針状フィラー〕
本発明において、ブロック化イソシアネート化合物を含有する画像形成層は平均短軸長/平均長軸長の比が0.1〜0.3の針状フィラーを含有することが特徴である。
【0018】
本発明に係る針状フィラーは、有機または無機の化合物であり、一般に水に不溶性の有機または無機化合物の微粒子であり、例えば、米国特許第1,939,213号、同第2,701,245号、同第2,322,037号、同第3,262,782号、同第3,539,344号、同第3,767,448号等の各明細書に記載の有機化合物、米国特許第1,260,772号、同第2,192,241号、同第3,257,206号、同第3,370,951号、同第3,523,022号、同第3,769,020号等の各明細書に記載の無機化合物など当業界で良く知られたものを、特に制限無く用いることができる。具体的な有機化合物としては、例えば、水分散性ビニル重合体の例としてポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−α−メチルスチレン共重合体、ポリスチレン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリビニルアセテート、ポリエチレンカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンなど、結晶性セルロース粒子、例えば、メチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなど、澱粉誘導体の例として、カルボキシ澱粉、カルボキシニトロフェニル澱粉、尿素−ホルムアルデヒド−澱粉反応物など、公知の硬化剤で硬化したゼラチンおよびコアセルベート硬化して微少カプセル中空粒体とした硬化ゼラチンなどを用いることができる。また、無機化合物としては、例えば、二酸化珪素、二酸化チタン、二酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、公知の方法で減感した塩化銀、同じく臭化銀、ガラス、珪藻土などを好ましく用いることができる。
【0019】
また、強磁性材料を有する物質も利用でき、例えば、α−Fe23、γ−Fe23、Fe34、γ−Fe23(Co)、Fe34(Co)、Fe−Co−Ni、CoCO3、MnCO3、FeF3、CrF3、CrO2等を挙げることができる。
【0020】
上記の有機または無機化合物は、必要に応じて異なる種類の物質を混合して用いることができる。尚、本発明に係る針状フィラーの平均短軸長あるいは平均長軸長とは、電子顕微鏡を用い100個針状フィラーの短軸長及び長軸長を測定し、その平均値を平均短軸長あるいは平均長軸長という。
【0021】
本発明においては、平均短軸長/平均長軸長の比が0.1〜0.3であり、更に平均短軸長が画像形成層に利用される熱溶融性粒子の平均粒径の1/2以下、平均長軸長が熱溶融性粒子の平均粒径以上であることが特徴であり、この条件とすることにより、耐刷力を劣化させることなく耐傷性を向上させることができ好ましい。この条件を外れると、耐傷性は向上するが耐刷力が劣化する、あるいは耐傷性が改善されないなど、実用的な平版印刷版原版が得られない。
【0022】
(ブロック化イソシアネート化合物)
本発明に係る画像形成層はブロック化イソシアネート化合物を含み、加熱された部分はブロック化イソシアネート化合物のブロック剤が解離し、イソシアネート基が生成されポリオールの未反応水酸基や支持体と反応し、インキ着肉性である画像部となる。
【0023】
画像形成層中のブロックイソシアネート化合物の含有量は30質量%以上であることが好ましく、更に70〜100質量%が好ましく、特に80〜100質量%が好ましい。
【0024】
本発明に係る画像形成層は、ブロック化イソシアネート化合物を含有する水系画像形成層用塗布液を塗布して形成されたものである。
【0025】
ブロック化イソシアネート化合物が塗布液中に含有される状態としては、分散物として含有される状態が好ましい。即ち水系画像形成層用塗布液は、ブロック化イソシアネート化合物の水分散物である態様が好ましい。
【0026】
本発明のブロック化イソシアネート化合物は、イソシアネート化合物とポリオールとイソシアネート基のブロック化剤との反応化合物である。
【0027】
(イソシアネート化合物)
上記イソシアネート化合物は、イソシアネート基を有する化合物であり、具体的には、芳香族ポリイソシアネート[ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ポリフェニルポリメチレンポリイソシアネート(粗製MDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)等];脂肪族ポリイソシアネート[1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンジイソシアネート(LDI)等];脂環式ポリイソシアネート[イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート等];芳香脂肪族ポリイソシアネート[キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)等];これらの変性物(ビューレット基、イソシアヌレート基、カルボジイミド基、オキサゾリジン基含有変性物など);及びこれらのポリイソシアネートと分子量50〜5,000の活性水素含有化合物から成る末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーが挙げられる。
【0028】
又、特開平10−72520号に記載のポリイソシアネート化合物も、好ましく用いることができる。
【0029】
上記の中では、特にトリレンジイソシアネートが、反応性が速く好ましい。
【0030】
(ブロック化剤)
ブロック化剤は、イソシアネート基に付加反応し、ウレタン結合、ウレア結合を生ずる基を有する化合物であり、例えばメタノール、エタノール等のアルコール系ブロック剤;フェノール、クレゾール等のフェノール系ブロック剤;ホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、メチルエチルケトキシム、メチル−i−ブチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム等のオキシム系ブロック剤;アセトアニリド、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタム等の酸アミド系ブロック剤;マロン酸ジメチル、アセト酢酸メチル等の活性メチレン系ブロック剤;ブチルメルカプタン等のメルカプタン系ブロック剤;琥珀酸イミド、マレイン酸イミド等のイミド系ブロック剤;イミダゾール、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール系ブロック剤;尿素、チオ尿素などの尿素系ブロック剤;N−フェニルカルバミン酸フェニル等のカルバミン酸系ブロック剤;ジフェニルアミン、アニリン等のアミン系ブロック剤;エチレンイミン、ポリエチレンイミン等のイミン系ブロック剤などが挙げられる。これらの中では、特にオキシム系ブロック剤を用いることが好ましい。
【0031】
ブロック化剤の付加量としては、ブロック化剤中の活性水素基と後述のポリオールの活性水素基とを合わせてイソシアネート化合物のイソシアネート基に対して1.0〜1.1当量となるように含有させることが好ましい。1.0当量未満では未反応のイソシアネート基が残存し、又、1.1当量を超えるとブロック剤等が過剰となり好ましくない。
【0032】
ブロック化剤の解離温度としては、80〜200℃であることが好ましく、80〜160℃であることがより好ましく、80〜130℃が更に好ましい。
【0033】
(ポリオール)
本発明に係るブロック化イソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物のポリオール付加物である。
【0034】
ポリオールを付加させることにより、ブロック化イソシアネート化合物の保存安定性を向上させることができる。又、加熱して画像を形成した際の画像強度が向上し、耐刷性が向上する。
【0035】
ポリオールとしては、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールメタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、キシリレングリコール、ソルビトール、蔗糖などの多価アルコール;これらの多価アルコールあるいはポリアミンにエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドを、あるいは両者を付加重合して得られるポリエーテルポリオール類;ポリテトラメチレンエーテルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、ポリカプロラクトンポリオール類、更に、上記多価アルコールと例えばアジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、アゼライン酸などの多塩基酸とを反応させて得られるポリエステルポリオール類;ポリブタジエンポリオール類、アクリルポリオール類、ヒマシ油、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールにビニルモノマーをグラフトして得られるポリマーポリオール類、エポキシ変性ポリオール類などが挙げられる。
【0036】
これらの中では、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールメタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、キシリレングリコール、ソルビトール等、分子量50〜5000のポリオールを好ましく使用することができ、特に分子量50〜500程度の低分子量ポリオールをより好ましく使用できる。
【0037】
ポリオールの付加量としては、前述のようにポリオールとブロック化剤とを合わせた活性水素の量が、イソシアネート化合物のイソシアネート基に対して1.0〜1.1当量が好ましいが、ポリオール中の水酸基がイソシアネート化合物のイソシアネート基に対して0.1〜0.9当量となるような範囲が好ましく、特に0.2〜0.7当量の範囲においてブロック化イソシアネート化合物の保存安定性が向上する。
【0038】
(ブロック化方法)
イソシアネート化合物のブロック化方法としては、例えば、イソシアネート化合物を無水の条件下、不活性ガス雰囲気下で40〜120℃程度に加温し、攪拌しながらブロック化剤を所定量滴下して混合し、攪拌を続けながら数時間かけて反応させるという方法が挙げられる。この際、何らかの溶媒を用いることもできる。又、公知の触媒、例えば有機金属化合物、第3級アミン、金属塩等を用いることもできる。
【0039】
有機金属触媒としては、例えばスタナスオクトエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート等の錫系触媒、2−エチルヘキサン酸鉛などの鉛系触媒などが、第3級アミンとしては、例えばトリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチレンジアミン、N,N′−ジメチルピペラジン、ジアザビシクロ(2,2,2)−オクタン等が、金属塩触媒としては、例えばナフテン酸コバルト、ナフテン酸カルシウム、ナフテン酸鉛酸化リチウム等が挙げられる。
【0040】
これらの触媒の使用量は、ポリイソシアネート組成物100質量部に対し、通常、0.001〜2質量部、好ましくは0.01〜1質量部である。
【0041】
本発明のブロック化イソシアネート化合物は、ポリオールとの化合物でもあるため、ブロック化剤及びポリオールをイソシアネート化合物と反応させるが、先にイソシアネート化合物とポリオールとを反応させた後に、残ったイソシアネート基とブロック化剤とを反応させてもよく、又、先にイソシアネート化合物とブロック化剤とを反応させた後に、残ったイソシアネート基とポリオールとを反応させてもよい。
【0042】
ブロック化イソシアネート化合物の好ましい平均分子量としては、質量平均分子量で500〜2000であることが好ましく、600〜1000であることがより好ましい。この範囲で反応性と保存安定性とのバランスが良好となる。
【0043】
(ブロック化イソシアネート化合物水分散物の製造)
上述のようにして得られたブロック化イソシアネート化合物は、例えば界面活性剤と水とを加えて、ホモジナイザ等を用いて強力に混合攪拌することで水分散物とすることができる。
【0044】
界面活性剤としては、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、琥珀酸ジアルキルエステルスルホン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル等のノニオン系界面活性剤;ラウリルベタイン、ステアリルベタインの塩などのアルキルベタイン型の塩;ラウリル−β−アラニン、ラウリルジ(アミノエチル)グリシン、オクチルジ(アミノエチル)グリシン等のアミノ酸型の両界面活性剤などを挙げることができる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中ではノニオン界面活性剤が好ましい。
【0045】
ブロック化イソシアネート化合物の水分散物の固形分としては、10〜80質量%であることが好ましい。界面活性剤の添加量としては、水分散物の固形分中の0.01〜20質量%であることが好ましい。イソシアネート化合物のブロック化反応等に有機溶媒を用いた場合には、水分散物としてから有機溶媒を除去することもできる。
【0046】
〔球状のマット剤粒子〕
本発明では、画像形成層にその膜厚より大きい平均粒径を有する球状のマット剤粒子を含有させることが特徴である。画像形成層に球状マット剤粒子を添加することにより、平版印刷版原版の表面の摩擦性が軽減され、耐傷性が向上する。球状のマット剤粒子としては、特に制限はなく、有機物及び無機物のいずれでもよい。例えば、無機物としては、スイス特許第330,158号等に記載のシリカ、仏国特許第1,296,995号等に記載のガラス粉、英国特許第1,173,181号等に記載のアルカリ土類金属又はカドミウム、亜鉛等の炭酸塩、等をマット剤として用いることができる。有機物としては、米国特許第2,322,037号等に記載の澱粉、ベルギー特許第625,451号や英国特許第981,198号等に記載された澱粉誘導体、特公昭44−3643号等に記載のポリビニルアルコール、スイス特許第330,158号等に記載のポリスチレン或いはポリメタアクリレート、米国特許第3,079,257号等に記載のポリアクリロニトリル、米国特許第3,022,169号等に記載されたポリカーボネート、あるいはワックス等の有機マット剤を用いることができる。
【0047】
球状のマット剤粒子が、融点が150℃〜180℃で、かつ硬度2以下のワックス粒子が好ましい、より好ましくは、硬度が0.8〜2.0である。これにより耐傷性の向上と共に耐刷性の劣化、および画像部のスヌケの欠陥が防止できる。本発明で用いることのできるワックス粒子としては、特に制限はないが、例えば、炭素数16以上の流動パラフィン、マイクロクリスタリン、ワックス、天然パラフィン、合成パラフィン、ポリオレフィンワックスおよびこれらの部分酸化物、あるいはフッ化物、塩化物、牛脂や魚油などの動物油、椰子油、大豆油、菜種油、米ぬかワックスなどの植物油から分離精製したC16以上の高級脂肪族アルコールや高級脂肪酸、高級脂肪酸のアマイド、ビスアマイド、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛・ステアリン酸バリウム複合体、ステアリン酸亜鉛・ステアリン酸カルシウム複合体、1価アルコールの高級脂肪酸エステル、多価アルコールの高級脂肪酸(部分)エステル、モンタンワックスタイプの非常に長鎖のエステルまたはその部分加水分解物等が挙げられる。
【0048】
以下、本発明の平版印刷版原版に係る上述した以外の構成因子、その製造方法及び平版印刷版の作製方法について詳細に説明する。
【0049】
〔画像形成層〕
本発明の画像形成層は、ブロック化イソシアネートを主成分とし、融点が70℃〜180℃である熱溶融性物質もしくは熱可塑性樹脂を含むことができる。これらは、熱溶融性物質もしくは熱可塑性樹脂の水分散体から与えられることもできる。
【0050】
熱溶融性物質としては、上記の特性を有している範囲で公知のものが利用でき、ワックス類では、例えば、カルナバワックス、蜜ろう、鯨ろう、木ろう、ホホバ油、ラノリン、オゾケライト、パラフィンワックス、モンタンワックス類、キャンデリラワックス、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ライスワックスなどの天然ワックス、ポリエチレンワックス、FTワックス、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体、高級脂肪酸等が、アクリル系樹脂では、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、スチレンなどの一種もしくは2種以上を共重合したものが、合成ゴム類では、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル−ブタジエン共重合体、メタアクリル酸エステル−ブタジエン共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体等が挙げられる。またその他に、アイオノマー樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂等が利用できる。
【0051】
本発明において、熱溶融性物質は、140℃における溶融粘度が20cps以下であることが好ましい。これより高いと、露光時に溶融した熱溶融性粒子が親水性支持体に十分に浸透せず、目的の耐刷性が得られない。また、針入度はできるだけ低いことが好ましく、1以下であることが好ましい。針入度が1より高いと、圧力に対する強度が不足し、十分な耐刷性が得られなかったり、爪などで平版の表面をこすってしまった部分が汚れてしまうことがある。これら物性を満たす熱溶融性物質としては、カルナバワックス、キャンデリラワックス、FTワックスなどを挙げることができる。
【0052】
本発明の画像形成層には、現像性確保、保存時の粒子の融着防止を目的として水溶性樹脂を含有することができる。利用可能な水溶性樹脂としては、公知のものが利用でき、水溶性(コ)ポリマー(例えば、合成ホモポリマーもしくは合成コポリマー、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリビニルメチルエーテル)、又は天然結合剤(例えば、ゼラチン、二糖類、オリゴ糖類)、多糖類(例えば、デキストラン、プルラン、セルロース、アラビアゴム、アルギニン酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド)などを用いることができる。
【0053】
本発明における水溶性樹脂の含有量は、印刷機上現像性を早めるため、また印刷機の汚染を防止するために、画像形成層の皮膜形成を確保できる範囲で少ない方が好ましく、画像形成層の構成成分の40質量%以下であることが好ましい。
【0054】
本発明の画像形成層は、ディッピング塗布、エアードクター塗布、カーテン塗布、ホッパー塗布等公知の方法で塗布することができる。画像形成層の膜厚は0.3μm〜1.5μmであることが好ましく、更に好ましくは0.5μm〜0.7μmであることが好ましい。この範囲を外れると耐刷性の劣化が著しくなり、好ましくない。
【0055】
本発明においては、針状フィラーを基材に平行に配向させることが好ましく、前述の膜厚の範囲内で針状フィラーの平均長軸長より小さくするように膜厚を設定する、もしくは膜厚より大きい平均長軸長をを有する針状フィラーを選択することが好ましい。本発明において、針状フィラーを基材に対し平行に配向させる他の方法としては、針状フィラーとして強磁性を有するフィラーを用いて、磁石を使って配向させる方法が挙げられる。具体的には、画像形成層の塗布後、塗膜が湿潤状態において10cm以上の間隔で配置された磁石の側で基材を通過させることにより達成することができる。
【0056】
〔基材〕
本発明で用いることのできる基材としては、良好な印刷適性を得る為には、画像形成層の積層面側が高親水性であることが好ましい。
【0057】
本発明に利用できる高親水性の表面を有する基材としては、電気化学的または機械的に研磨され、陽極酸化されたアルミニウム板が挙げられる。更に具体的には、表面を砂目立て、陽極酸化処理、封孔処理を施したアルミニウム板が挙げられる。アルミニウム板を砂目立て処理する方法としては、例えば、機械的方法、電解によりエッチングする方法が挙げられる。機械的方法としては、例えば、ボール研磨法、ブラシ研磨法、液体ホーニングによる研磨法、バフ研磨法が挙げられる。アルミニウム材の組成等に応じて上述の各種方法を単独もしくは組合せて用いることができる。好ましいのは、電解エッチングによる方法である。電解エッチングは、燐酸、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸を単独ないし2種以上混合した浴で行われる。砂目立て処理を行った後、必要に応じて、アルカリ或いは酸の水溶液によってデスマット処理を行い、中和して水洗する。
【0058】
陽極酸化処理は、電解液として硫酸、クロム酸、シュウ酸、燐酸、マロン酸等を1種又は2種以上含む溶液を用い、アルミニウム板を陽極として電解して行われる。形成された陽極酸化被覆量は、1〜50mg/dm2が適当であり、好ましくは10〜40mg/dm2である。
【0059】
封孔処理は、沸騰水処理、水蒸気処理、ケイ酸ソーダ処理、重クロム酸塩水溶液処理等が具体例として挙げられる。この他に、アルミニウム板支持体に対して、水溶性高分子化合物や、フッ化ジルコン酸等の金属塩の水溶液による下引き処理を施すこともできる。
【0060】
本発明に利用できる高親水性の表面を有する基材の別の形態としては、公知の柔軟性支持体上に、親水性樹脂または自己増膜可能なコロイダルシリカなど高親水性の粒子よりなる相を、必要に応じて架橋することで親水性層を形成したものが挙げられる。上記の親水性層に利用できる親水性樹脂としては、従来公知の物を特に制限無く使用することができ、水酸基、カルボキシル基、(2又は3級)アミンを有する基、アミノ基、アミド基、カルバモイル基、スルホン酸基、スルホンアミド基、ホスホン酸基、メルカプト基、アルキルエーテル基のような親水性基を有する化合物が挙げられる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、膠、カゼイン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチル澱粉、サクローズオクタアセテート、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリアミド、ポリアクリルアミド、無水マレイン酸共重合体、ポリウレタン、ポリエステル等が挙げられる。これらの化合物を単独又は2種以上混合したものを主成分として用いることができる。親水性結着剤を架橋する為の架橋剤としてはホルムアルデヒド、グリオキサル、ポリイソシアナート、加水分解テトラ−アルキルオルトシリケートなどが利用できる。また、無機微粒子としては、例えば、シリカ(コロイダルシリカ)、水ガラス、アルミナあるいはアルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、ポリ水酸化アルミニウム、カチオン性アルミニウム酸化物又はその水和物、疑ベーマイト等)、表面処理カチオン性コロイダルシリカ、ジルコン、水酸化ジルコン、弗化ジルコン、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化すず、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ニオブ、酸化セリウム等が挙げられる。これらのうち、特に平均粒径2〜50nmのコロイダルシリカが、自己造膜性を有し好ましい。具体的なコロイダルシリカとしては、例えば、カタロイドSシリーズ(触媒化学社製)、ファンカタロイドF−120、USBB−120等(触媒化学社製)、ルドックスシリーズ(DuPont社製)、スノーテックスシリーズ(日産化学工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0061】
親水性表面を有する無機微粒子と親水性結着剤との比率は、50:50〜90:10質量%であることが好ましい。この範囲を外れると、親水性が低下し、良好な印刷適性が得られない。また、親水性層の膜厚は1.0〜5.0μmであることが、塗膜強度の確保及び適性な保水性が得られる点で好ましい。
【0062】
前述の柔軟性支持体としては、公知のプラスチックフィルム、例えば、飽和ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、酢酸セルロースフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、また紙支持体も利用できる。これら柔軟性支持体には親水性層の接着を向上させるための下引き層が設けられていても良い。
【0063】
〔光熱変換剤〕
本発明の画像形成層もしくは前述の親水性層はレーザー露光により画像形成を行なう場合に、光を熱に変換する物質(光熱変換剤)を含有していても良い。光熱変換剤は、効率良く光を吸収し熱に変換する材料が好ましく、使用する光源によって異なるが、例えば、近赤外光を放出する半導体レーザーを光源として使用する場合、近赤外に吸収帯を有する近赤外光吸収剤が好ましく、例えば、利用可能な光熱変換剤としてはカーボンブラック、チタンブラックなどの金属酸化物、シアニン系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素等の有機化合物、フタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系の有機金属錯体などが好適に用いられる。具体的には、特開昭63−139191号、同64−33547号、特開平1−160683号、同1−280750号、同1−293342号、同2−2074号、同3−26593号、同3−30991号、同3−34891号、同3−36093号、同3−36094号、同3−36095号、同3−42281号、同3−97589号、同3−103476号等に記載の化合物が挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
〔平版印刷版の作製方法〕
本発明の平版印刷版原版の露光は、サーマルヘッド、あるいは光熱変換剤を含有している場合には、レーザー光源を用いて行なうことができる。レーザー光源としては、発光波長が300〜1500nmの範囲にあるものが利用でき、例えば、Arイオン、Krイオン、He−Ne、He−Cd、ルビー、ガラス、チタンサファイヤ、色素、窒素、金属蒸気、エキシマ、半導体、YAGなど、各種レーザーが利用できる。
【0065】
露光された平版印刷版原版は、淡水(アルカリでない)を用いてスポンジで擦るか、自動現像機で現像処理することにより平版印刷版を作製することができる。また、他の方法としては、露光した後、現像処理を施すことなく印刷機の版胴に取り付け、湿し水および印刷インキ供給下で版胴を数回転した後、印刷を行なうことで、従来と変わらぬ印刷物が得られる。
【0066】
(印刷)
画像露光された印刷版材料は、湿し水及び印刷インクを用いる一般的な平版印刷に供することができる。
【0067】
印刷方法としては、特に湿し水としてイソプロノールを含有しない(含有しないとは水に対して0.5質量%以下の含有率である)湿し水を使用する場合が好ましい態様である。
【0068】
即ち、本発明の印刷版材料を赤外線レーザーにより画像露光をし、印刷機上で湿し水または湿し水と印刷インキにより現像を行い、印刷することが好ましい態様である。
【0069】
画像形成後の印刷版材料をそのまま印刷機の版胴に取り付けるか、あるいは印刷版材料を印刷機の版胴に取り付けた後に画像形成を行い、版胴を回転させながら水供給ローラー及びまたはインク供給ローラーを印刷版材料に接触させることで画像形成層の非画像部を除去することが可能である。
【0070】
上記の非画像部の除去、いわゆる機上現像方法を下記に示す。
【0071】
印刷機上での画像形成層の非画像部(未露光部)の除去は、版胴を回転させながら水付けローラーやインクローラーを接触させて行うことができるが、下記に挙げる例のような、もしくは、それ以外の種々のシークエンスによって行うことができる。
【0072】
また、その際には、印刷時に必要な湿し水水量に対して、水量を増加させたり、減少させたりといった水量調整を行ってもよく、水量調整を多段階に分けて、もしくは、無段階に変化させて行ってもよい。
【0073】
(1)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、インクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0074】
(2)印刷開始のシークエンスとして、インクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0075】
(3)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーとインクローラーとを実質的に同時に接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0076】
本発明に係る画像形成層は、特定のブロック化イソシアネート化合物の水分散物を塗布乾燥して得られた層であるため、比較的高温環境下に保存した場合でも、印刷機上での機上現像が可能であり、良好な画像形成を行なうことが可能となる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0078】
実施例1
〈ブロック化イソシアネート化合物水分散物の調製〉
以下のようにブロック化イソシアネート化合物水分散物1及び2を調製した。
【0079】
[ブロック化イソシアネート化合物水分散物1]
トリレンジイソシアネート63部と2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート91部とをトルエン250部に溶解した。次いで、このイソシアネート化合物溶液を60℃に保ち、攪拌しながらメチルエチルケトキシム63部を60分かけて滴下し、60℃に保ち攪拌しながら150分間反応させた。
【0080】
次いで、この反応液に1,3−ブタンジオール33部を添加・混合し、同様に60℃に保ちながら攪拌下に300分間反応させて、ブロック化イソシアネート化合物のトルエン溶液を得た。
【0081】
このトルエン溶液に、分散剤としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル25部を加え、攪拌しながら更に純水412.5部を少量ずつ加えた後、この混合液をホモジナイザを用いて強攪拌して水相中に油相を分散させた。次いで、減圧によりトルエンを除去して、固形分40%のブロック化イソシアネート化合物水分散物1を得た。
【0082】
[ブロック化イソシアネート化合物水分散物2]
トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物をメチルエチルケトキシムでブロックした有機溶媒系のブロック化イソシアネート(固形分55%、溶媒:酢酸エチルとメチル−i−ブチルケトンの混合溶媒)364部をトルエン136部に溶解した。次いで、この溶液に分散剤としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル20部を加え、攪拌しながら更に純水330部を少量ずつ加えた後、この混合液をホモジナイザを用いて強攪拌して水相中に油相を分散させた。次いで、減圧により有機溶媒を除去して、固形分40%のブロック化イソシアネート化合物水分散物2を得た。
【0083】
(平版印刷版原版の作製)
〔下引き層の塗設〕
厚さ200μmのアルミニウム支持体に、下記組成よりなる下引き層塗布液を乾燥膜厚4.0μmとなるように塗布し、70℃で3分間の熱処理を行なった。
【0084】
《下引き層塗布液》
バイロン200(線状ポリエステル樹脂:東洋紡製) 9.0質量部
コロネートL(イソシアネート硬化剤:日本ポリウレタン製)
1.2質量部
メチルエチルケトン 89.8質量部
〔中間層1の塗設〕
上記作製した下引き層上に、下記組成よりなる中間層塗布液1をワイヤーバー#10を用いて、乾燥膜厚として3.5μmとなるよう塗布し、60℃3分の乾燥を行ない、中間層1を塗設した。
【0085】
〈中間層塗布液1〉
スノーテックスS(コロイダルシリカ 固形分30%:日産化学工業製)
18.54質量部
スノーテックスPSM(コロイダルシリカ 固形分20%:日産化学工業製)
41.73質量部
カルボキシメチルセルロースナトリウムの3%水溶液 13.33質量部
AMT08(アルミノシリケート粒子 平均粒径0.8μm:水澤化学工業製)
の40%水分散体 12.00質量部
ヒタゾルGF66B(グラファイト分散液 固形分10%:日立粉末冶金製)
8.73質量部
FZ2161(シリコン系界面活性剤:日本ユニカー製)の15%水分散体
0.13質量部
純水 5.54質量部
〔画像形成層の塗設〕
上記作製した中間層上に、表1に示す組成の画像形成層塗布液1〜10を、各々ワイヤーバー#4を用いて、乾燥膜厚として表2となるよう塗布した後、55℃で3分間乾燥して、平版印刷版原版試料1〜10を作製した。なお、塗布終了後、湿潤状態で10cm間隔に置いた表面磁束密度5000ガウスの永久磁石で上を、10cm/秒の速さで通過させた後、55℃3分の乾燥を行なった。また、各試料について、塗設された画像形成層をテープを用いて剥離し、その近傍との厚みの差より、画像形成層の厚みを測定した。また、各針状フィラーの平均短軸長、平均長軸長は、透過型電子顕微鏡を用いて、各100個について測定し、その平均値を求め表1に示す。
【0086】
使用した針状フィラーとマット剤は以下に示す通り。
【0087】
TTO−D−1:針状酸化チタン(平均長軸長0.3μm、平均短軸長0.07μm):石原テクノ産業株式会社製
FP−03:結晶セルロース(平均長軸長3.0μm、平均短軸長0.06μm):旭化成株式会社製
MX300:ポリメタクリル酸メチルの球状架橋粒子 平均粒径3.0μm:綜研化学株式会社
【0088】
【表1】

【0089】
(平版印刷版原版試料の特性評価)
上記作製した平版印刷版原版試料1〜10について、半導体レーザー光源(発光波長:830nm、スポット寸法:10μm、解像度は走査方向、副走査方向ともに2000dpi)を用い、画像面におけるエネルギー量が250mJ/cm2、175線相当で2%網点画像、50%スクウェアードット画像およびベタ画像を露光した。なお、本発明でいうdpiとは、2.54cm(1インチ)当たりのドット数を表す。
【0090】
露光済み試料の非画線部領域に、新東科学社製のHEIDON−18型引っ掻き試験機を用いて、曲率半径が0.1mmのサファイヤ針で0〜200gの連続荷重でスクラッチを施した。露光した原版は、現像処理を施すことなく、ハイデルGTO印刷機の版胴に取り付け、エッチング液としてSEU−3(コニカミノルタエムジー株式会社製)の45倍希釈水溶液、インキとしてハイエコー紅(東洋インキ製造社製)を用い、印刷紙としてアート紙を用いて印刷して、以下の評価を行った。
【0091】
〈1:刷り出し枚数の評価〉
印刷を開始してから、紙の濃度を0とした非画線部領域の相対濃度(マクベス社製の濃度計RD904を用いて測定)が、0.02未満になるまでに要する印刷枚数を計測し、現像性の尺度とした。
【0092】
〈2:スクラッチ耐性の評価〉
上記付与したスクラッチ部において、汚れが生じる荷重を測定し、150g以上であれば○、150g未満であれば×と評価した。
【0093】
〈3:耐刷枚数の評価〉
印刷において、2%網点画像が劣化し始める枚数を耐刷枚数として評価した。
【0094】
〈4:ベタ画像部のヌケ故障数の評価〉
印刷物上のベタ画像部2cm×2cmにおけるヌケ故障部の数を計測した。ヌケ故障数が100個以上である場合、目視で着肉性の劣化が確認できるので×とし、100個未満の場合を○とした。
【0095】
以上の評価により得られた結果を、表2に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
表2より明らかなように、本発明に係る画像形成層に針状フィラーを含有させた試料は、耐刷力を劣化させずにスクラッチ耐性が付与でき、その結果、刷版工程における取り扱い性の良好な平版印刷版材料を提供できた。また、加えて、別の効果として、印刷機上で現像処理する際の現像性が改良され、印刷損紙の低減を達成することができた。また、本発明に係る画像形成層に膜厚より大きい平均粒径を持つ球状粒子を含有させた試料は、比較例に対してより耐刷力を劣化させずにスクラッチ耐性が付与でき、更に球状粒子が熱溶融性を持つことによりベタ部分のスヌケが発生せず、良好な印刷物が得られることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にブロック化イソシアネート化合物を含有する画像形成層を有する平版印刷版原版において、該画像形成層が平均短軸長/平均長軸長の比が0.1〜0.3の針状フィラーを含有することを特徴とする平版印刷版原版。
【請求項2】
前記画像形成層がブロック化イソシアネート化合物を30質量%〜100質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
画像形成層に含有される針状フィラーが、基材に対し並行に配向していることを特徴とする請求項1または2に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
請求項3に記載の平版印刷版原版の製造方法であって、前記画像形成層の乾燥膜厚が、前記針状フィラーの平均長軸長より小さくなるように塗布することを特徴とする平版印刷版原版の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の平版印刷版原版の製造方法であって、前記針状フィラーが磁性体であり、画像形成層を塗設した後、湿潤状態で磁場を印加することを特徴とする平版印刷版原版の製造方法。
【請求項6】
基材上にブロック化イソシアネート化合物を含有する画像形成層を有する平版印刷版原版において、該画像形成層がその膜厚より大きな平均粒径を有する球状マット剤粒子を含有することを特徴とする平版印刷版原版。
【請求項7】
請求項1、2、3及び6のいずれか1項に記載の平版印刷版原版を、レーザー光源またはサーマルヘッドで描画した後、印刷機の版胴上で、描画後の原版の描画されていない部分を、印刷用インク及び湿し水を用いて除去することにより現像を行うことを特徴とする平版印刷版の作製方法。

【公開番号】特開2007−62256(P2007−62256A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253236(P2005−253236)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】