説明

平角電線及びその製造方法

【課題】使い勝手が良好であり、高周波特性を向上させ、製造時間の短縮化及び製造コストの低減を図ることができる平角電線及びその製造方法を提供する。
【解決手段】平角電線Wは、外周に酸化皮膜1が形成された複数の導体2を撚り合わせて平角状に伸線加工して形成された平角撚り導体部3と、平角撚り導体部3の周囲に押出被覆形成された絶縁層4とを有する。平角撚り導体部3が複数の導体2を撚り合わせて平角状に伸線加工して形成されているので、どの方向にも曲げ変形しやすく、使い勝手が良好である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平角電線及びその製造方法に関し、特に、交流モータや高周波電気機器のコイル等に用いられる高周波用の平角電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交流モータや高周波電気機器のコイル等に用いられる高周波用の電線は、従来から種々のものが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、外周に絶縁用のエナメル皮膜が形成された断面方形の平角導体を平積みに積層して構成されている平角電線が提案されている(以下、この技術を従来例1という)。
【0004】
また、特許文献2には、複数本のエナメル線からなる撚り線を、外側より円形に圧縮してエナメル線を相互に密着させたものの外周上に、自己融着層を設けてなる電線が提案されている(以下、この技術を従来例2という)。
【特許文献1】特開平11−111067号公報
【特許文献2】特開平6−119825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来例1では、図2に示すように、平角導体10を平積みに積層しているので、幅方向(矢印方向)への曲げ変形が困難であり、使い勝手が悪いという課題があった。
【0006】
従来例2では、図3(B)に示すように、撚り線11からなる導体の表面を方形の絶縁皮膜12で被覆した場合、導体の有効表面積率が60%程度と低く、高周波損失が高くなるという課題があった。
【0007】
また、従来例1及び従来例2では、いずれもエナメル皮膜が形成された導体を用いているので、エナメルを焼き付けるための工程及び設備が必要であり、製造時間及び製造コストがかかるという課題があった。
【0008】
また通電される電流の周波数が高くなると表皮効果により交流抵抗が増加して損失が高くなる現象(以下単に、高周波損失と称する)が見られるが、従来は絶縁皮膜として最低でも厚さが3μm程度はあるエナメル皮膜を使用しているので、その分、導体面積を減少させざるを得ず、高周波損失を低減するのが困難であるという課題もあった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、エナメルを焼き付けたり、エナメル皮膜同士を接着するための材料、工程及び設備が不要となり、それぞれの導体に極薄い絶縁皮膜を持つ電線を短時間かつ低コストで製造することができ、高周波損失を低減できる平角電線及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の平角電線は、外周に酸化皮膜が形成された断面丸形状の導体を複数撚り合わせて平角状に伸線加工して形成された平角撚り導体部と、前記平角撚り導体部の周囲に押出被覆形成された絶縁層とを有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の平角電線の製造方法は、
(1)断面丸形状の導体の外周に酸化皮膜を形成する工程と、
(2)複数の前記導体を撚り合わせながら整列させる工程と、
(3)前記整列された導体を平角状に伸線加工して、平角撚り導体部を形成する工程と、
(4)前記平角撚り導体部の周囲に絶縁層を押出被覆形成する工程と、
を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、平角撚り導体部が複数の導体を撚り合わせて平角状に伸線加工して形成されているので、どの方向にも曲げ変形しやすく、使い勝手が良好である。
【0013】
またそれぞれの導体にエナメル皮膜の代わりに導体の一部を酸化させて酸化皮膜を形成することで、エナメル皮膜を形成する必要がないので、エナメルを焼き付けたり、エナメル皮膜同士を接着するための材料、工程及び設備が不要となり、製造時間の短縮化及び製造コストの低減を図ることができる。
【0014】
また酸化皮膜は、自然に形成される酸化膜ではなく、意図的に形成され、厚みがあり、剥げにくい酸化膜であるので、伸線加工等を行ってもつぶれにくく、導体同士の絶縁性を確保できる。
【0015】
また、平角撚り導体部の外周に極薄い酸化皮膜を形成した場合、同一面積をもつ従来の電線に比べ、導体の有効表面積率が高くなり、高周波損失が低減され、高周波特性が向上する。
【0016】
さらに、平角形状をしているので、コイル等の占積率が良好になる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、上記効果を奏する平角導体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1(A)は本発明の実施形態例に係る平角電線を示す断面図、(B)〜(D)は本発明の実施形態例に係る平角電線の製造方法を説明するための断面図である。
【0019】
図1(A)に示すように、本発明の実施形態例に係る平角電線Wは、外周に酸化皮膜1が形成された複数の導体2を撚り合わせて平角状に伸線加工して形成された平角撚り導体部3と、平角撚り導体部3の周囲に押出被覆形成された絶縁層4とを有する。
【0020】
導体2は、例えば、銅,銅合金,アルミニウム,アルミニウム合金又はそれら金属の組み合わせ等で作られており、酸化皮膜1を形成する段階までは断面丸形状であり、上記伸線加工される際につぶれて断面非円形に変形する。
【0021】
酸化皮膜1は、単に自然に形成される酸化膜を意図するものではなく、それぞれの導体2の絶縁皮膜として該導体2の表面を酸化させて得たものである。例えば酸化皮膜1は、酸化雰囲気中の炉内で導体2に熱風を吹き掛けたり、アルミニウムであればアルマイト処理やアルマット処理(「メタルコア配線板におけるコア金属と絶縁樹脂の密着性向上」電子材料 Vol.44 No.10(工業調査会2005)参照)を行なうなどにより、導体2の外周にたとえば0.5〜2.5μmの所定の厚さに形成されたものである。
【0022】
絶縁層4は、例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリカーボネート(PC)、ポリサルホン(PSU)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等で作られており、例えば30μm程度の厚さを有する。
【0023】
次に、本発明の実施形態例に係る平角電線Wの製造方法について説明する。
【0024】
まず、例えば銅からなる半径約0.2mmの断面丸形状の導体2を酸化雰囲気中の炉内に入れ、導体2の外周に厚さ0.5〜2.5μmの酸化銅からなる酸化皮膜1を形成する(図1(B)参照)。
【0025】
次いで、上記酸化皮膜1が形成された複数本の導体2を撚り合わせながら整列させる撚り加工を行なう(図1(C)参照)。
【0026】
次いで、内部の酸化皮膜1が壊れない程度に、上記撚り合わせられた複数の導体2を全体の断面形状が略平角形状になるように伸線加工して、高さ1mm、幅1mmの平角撚り導体部3を形成する(図1(C)参照)。
【0027】
なお上記撚り加工や伸線加工により、平角撚り導体部3の外周に露出された酸化皮膜1はある程度剥離したり破損する可能性があるが、該平角撚り導体部3の外周には次の工程で絶縁層4を形成することで平角電線W外部との絶縁性は確保され、また導体2同士の絶縁性は、平角撚り導体部3内部に残っている酸化皮膜1により確保されるので平角電線Wの実用上全く問題ない。
【0028】
次いで、押出機により、平角撚り導体部3の周囲を絶縁樹脂で押し出し被覆して、厚さ30μmの絶縁層4を形成する。これによって、本発明の実施形態例に係る平角電線Wが完成する(図1(A)参照)。
【0029】
本発明の実施形態例に係る平角電線Wによれば、平角撚り導体部3が複数の断面丸形状の導体2を撚り合わせて平角状に伸線加工して形成されているので、図2の平角電線に比べてどの方向にも曲げ変形しやすく、使い勝手が良好である。
【0030】
また、導体2の外周に酸化皮膜1が形成されていることで、導体2の周囲にエナメル皮膜を形成する必要がないので、エナメルワニス塗布や炉内でのエナメル焼付など、エナメルを焼き付け形成したり、さらにエナメル皮膜に絶縁層との接着を良好にする接着層を形成するなどエナメル皮膜同士を接着するための材料、工程及び設備が不要となり、製造時間の短縮化及び製造コストの低減を図ることができる。
【0031】
酸化皮膜1は、自然に形成される酸化膜ではなく、意図的に形成され、例えば0.5〜2.5ミクロンの厚さがあることで剥げにくい酸化膜であるので、伸線加工等を行っても導体同士の絶縁性をある程度、確保できる。
【0032】
また、図3(A)に示すように、平角撚り導体部3の外周に極薄い酸化皮膜1を形成した場合、導体の有効表面積率が約80%と、同一面積をもつ従来の電線(図3(B)参照)に比べ20%程度高くなり、その分高周波損失が低減され、高周波特性が向上する。
【0033】
本実施形態では銅からなる導体2を炉内に入れて酸化皮膜1を形成したが、酸化皮膜1を形成する方法はこれに限定されるものではない。例えば導体2の材質としてアルミニウムを選定する場合は、酸化アルミニウムからなる酸化皮膜1を形成するためにアルマイト処理やアルマット処理(「メタルコア配線板におけるコア金属と絶縁樹脂の密着性向上」電子材料 Vol.44 No.10(工業調査会2005)参照)を用いることも可能であり、とくに導体2をアルミニウムで構成し、アルマット処理により酸化アルミニウムからなる酸化皮膜1を形成した場合には、アルマット処理がアルミニウム材の表面粗化処理であるために絶縁層4のアンカー効果も得ることができるので好ましい。
【0034】
さらに、本実施形態例に係る平角電線Wは断面平角形状をしているので、コイル等における電線の占積率を高くすることができるので好ましい。
【0035】
本発明の実施形態例に係る平角電線Wの製造方法によれば、上記効果を奏する平角導体を提供することができる。
【0036】
本発明は、上記実施の形態に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内において、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、例えば交流モータや高周波電気機器のコイル等の高周波用の電線に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(A)は本発明の実施形態例に係る平角電線を示す断面図、(B)〜(D)は本発明の実施形態例に係る平角電線の製造方法を説明するための断面図である。
【図2】従来例1の電線を示す断面図である。
【図3】複数の導体の周囲に絶縁皮膜を被覆した場合における導体の有効表面積率を比較するための説明図であり、(A)は本発明の電線の場合、(B)は従来例2の電線の場合を示す。
【符号の説明】
【0039】
W:平角電線
1:酸化皮膜
2:導体
3:平角撚り導体部
4:絶縁層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に酸化皮膜が形成された断面丸形状の導体を複数撚り合わせて平角状に伸線加工して形成された平角撚り導体部と、
前記平角撚り導体部の周囲に押出被覆形成された絶縁層と
を有することを特徴とする平角電線。
【請求項2】
(1)断面丸形状の導体の外周に酸化皮膜を形成する工程と、
(2)複数の前記導体を撚り合わせながら整列させる工程と、
(3)前記整列された導体を平角状に伸線加工して、平角撚り導体部を形成する工程と、
(4)前記平角撚り導体部の周囲に絶縁層を押出被覆形成する工程と、
を有することを特徴とする平角電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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