説明

平面型放電管

【課題】 高電圧の印可に起因した還元および酸化反応による透明電極膜の劣化を防ぐことが可能な平面型放電管を提供する。
【解決手段】 ガラス基板52aの外面に形成された透明電極55の上面の全面に亘って、透明なシリコン樹脂からなるコーティング膜102を形成することにより、空気および湿気から透明電極55の外面を遮断できるので、高電圧を印可することによって起こる還元および酸化反応を防止することが可能となる。また、このコーティング膜102をシリコン樹脂としているので、水分を弾く効果が大きく熱に強い材質であり、高電圧を印可しても有害物質を発生しない。また、このコーティング膜102は透明であるため、発光面Sから照射される光を透明電極55と当該コーティング膜102を介して外部へ照射することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向配置された一対の誘電体平板に、放電ガスが封入された放電空間が設けられている平面型放電管に関し、詳しくは、前記誘電体平板の外面に形成された透明電極を保護するために、当該放電電極の外面にコーティング膜を施した平面型放電管等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平面蛍光ランプ等の平面型放電管としては、図3に示すような構成が知られている。図3(a)は本実施形態の平面型放電管51の外観斜視図、(b)は正面図、(c)は図3(b)におけるX−X断面図である。平面型放電管51は一対のガラス基板52a、52bを備えており、両ガラス基板52a、52bは所定の放電距離dだけ離間するように配置されている。両ガラス基板52a、52bは、それぞれの互いに対向する外周縁間においてガラス接着剤(ガラスフリット低融点ガラス)53により貼り合わされた状態で焼成することにより互いに接合されている。両ガラス基板52a、52bの互いに対向する内面とガラス接着剤53とにより、密閉された放電空間54が形成されている。この放電空間54内にはキセノン等の不活性ガス(放電ガス)が封入されている。なお、この不活性ガスは、平面型放電管51の一部において、放電空間54と導通するようにして取付られたチップ管(図示せず)を通して、内部に存在する空気を真空ポンプによって排出した後、ボンベ等から放電空間54内へ供給される。
【0003】
両ガラス基板52a、52bのうち一方のガラス基板52aの表面(図3における上面)は発光面S(光を出す面)とされており、該発光面Sにはその前面にわたって膜状の透明電極55が形成されている。この透明電極55は、例えば、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO:Indium tin oxide)、又は酸化亜鉛をスパッタリング、蒸着、CVD(chemical vapor deposition:化学気相蒸着法)、又は塗布することにより形成されている。発光面Sとされない他方のガラス基板52bの外面(図3における下面)には、その全面にわたって不透明電極56が形成されている。この不透明電極56は、例えば銀、アルミニウム等の金属蒸着膜により形成されている。また、放電空間54内において、ガラス基板52bの内面には、蛍光体膜57が形成されている。
【0004】
透明電極55および不透明電極56の外面にはそれぞれ導電性接着剤(例えば銀ペースト)58a、58bを介してリード線59a、59bの他端はそれぞれ交流電源(図示略)に接続されている。そして、両リード線59a、59b及び両導電性接着剤58a、58bを介して、透明電極55と不透明電極56との間に所定の交流電圧を印加すると、両ガラス基板52a、52bには放電(誘電体バリア放電)が発生し、励起したキセノン原子から紫外線が発生する。この紫外線が蛍光体膜57に受け取られることにより可視光が得られる。
【0005】
また、平面型放電管51において、不透明電極56を透明電極にすると共に、放電空間54内におけるガラス基板52aの内面に蛍光体膜57を形成するようにしたものもあり、この例は特開2003−31182公報(特許文献1)に開示されている。
【0006】
なお、前記ガラス基板52a、52bは、ガラスに限定されることなく他の誘電体平板であればよい。例えば、誘電性の鉱物である石英、マイカや大理石等、あるいは、誘電性の合成樹脂であるポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、または塩化ビニル樹脂等により形成してもよい。
【0007】
さて、透明電極55を形成する透明で且つ電気を通す材料として、ガラス基板表面には、古くは金属酸化物である酸化スズの薄膜を形成していた。この酸化スズの問題点として、比抵抗(体積固有抵抗)が大きい等、多くの欠点があった。その後、この比抵抗が下がる材料として酸化インジウムが開発され、さらにこの酸化インジウムに酸化スズを混合したITO膜が優れた特性を持つことが分かり、最近では、このITO膜が透明電極55として採用されている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−31182号の図2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上述のITO膜は、次のような欠点があった。即ち、このような従来の平面型放電管においては、通常、両電極間には、500〜2000Vの高電圧を印可することになるが、このような高電圧をITO膜に印可すると、ITO膜の外面において還元および酸化反応が起きる。特に、高温多湿の空気雰囲気中において、これが顕著になり、ITO膜の劣化が激しくなるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明では、高電圧の印可に起因した還元反応による透明電極膜の劣化を防ぐことが可能な平面型放電管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明のうちで請求項1に記載の平面型放電管は、
前面誘電体平板及び背面誘電体平板を対向配置させ、放電ガスを封入した放電空間を両誘電体平板間に設けると共に、前記放電空間に放電させるための一対の放電電極を前記両誘電体平板に設けた平面型放電管において、
前記前面誘電体平板及び背面誘電体平板の少なくとも一方の外面に設けられた放電電極は透明電極であって、
前記透明電極の外面に設けられたコーティング膜を備えた、
ことを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の平面型放電管は、
前面誘電体平板及び背面誘電体平板を対向配置させ、放電ガスを封入した放電空間を両誘電体平板間に設けると共に、前記放電空間に放電させるための一対の放電電極を前記両誘電体平板に設けた平面型放電管において、
前記前面誘電体平板及び背面誘電体平板の少なくとも一方の内面に設けられた放電電極は透明電極であって、
前記透明電極の外部電極とされる部分の外面に設けられたコーティング膜を備えた、
ことを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の平面型放電管は、請求項1または請求項2に記載の平面型放電管に加えて、
前記透明電極は、酸化インジウムスズ(ITO:Indium tin oxide)から形成される、
ことを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の平面型放電管は、請求項1または請求項3に記載の平面型放電管に加えて、
前記コーティング膜は、透明材料からなる、
ことを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の平面型放電管は、請求項1〜4のいずれかに記載の平面型放電管に加えて、
前記コーティング膜は、シリコン樹脂から形成される、
ことを特徴とする。
【0016】
また、請求項6に記載の平面型放電管は、請求項1〜4のいずれかに記載の平面型放電管に加えて、
前記コーティング膜は、フッ素樹脂から形成される、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の平面型放電管によれば、
前記前面誘電体平板及び背面誘電体平板の少なくとも一方の外面に設けられた透明電極の外面には、これを保護するコーティング膜を備えることにより、空気および湿気から透明電極外面を遮断できるので、高電圧を印可することによって起こる還元および酸化反応を防止することが可能となる。
【0018】
また、請求項2に記載の平面型放電管によれば、
前記前面誘電体平板及び背面誘電体平板の少なくとも一方の内面に設けられた透明電極の外部電極とされる部分の外面には、これを保護するコーティング膜を備えることにより、空気および湿気から透明電極外面を遮断できるので、高電圧を印可することによって起こる還元および酸化反応を防止することが可能となる。
【0019】
また、請求項3に記載の平面型放電管によれば、請求項1または請求項2に記載の平面型放電管の効果に加えて、
前記透明電極は、酸化インジウムスズ(ITO:Indium tin oxide)から形成されるとしたことにより、他の種類の透明電極である酸化スズ等が形成された場合と比較して、前記請求項1または請求項2の効果がより顕著に発揮される。
【0020】
また、請求項4に記載の平面型放電管によれば、請求項1または請求項3に記載の平面型放電管の効果に加えて、
前記コーティング膜は、透明材料からなるので、透明電極が形成された面を発光面として利用する場合において、該透明電極を介して照射される光を透過して外部へ照射することが可能となる。
【0021】
また、請求項5に記載の平面型放電管によれば、請求項1〜4のいずれかに記載の平面型放電管の効果に加えて、
前記コーティング膜は、シリコン樹脂から形成されることにより、請求項1または請求項2の効果が顕著に発揮できる。即ち、シリコン樹脂は、本発明の効果を最大限に発揮する材料のひとつであって、水分を弾く効果が大きく熱に強い材質であり、高電圧を印可しても有害物質を発生しないため、該コーティング膜として最適である。
【0022】
また、請求項6に記載の平面型放電管によれば、請求項1〜4のいずれかに記載の平面型放電管の効果に加えて、
前記コーティング膜は、フッ素樹脂から形成されることにより、請求項1または請求項2の効果が顕著に発揮できる。即ち、フッ素樹脂は、本発明の効果を最大限に発揮する材料のひとつであって、腐食性物質に侵され難く、また、高電圧を印可しても有害物質を発生しないため、該コーティング膜として最適である。
【0023】
以上の発明の平面型放電管によれば、高電圧の印可に起因した還元反応による透明電極膜の劣化を防ぐことが可能な平面型放電管を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した実施形態について図1を用いて説明する。なお、本実施形態において、従来の平面型放電管(図3)と同様の構成要素には同じ符号を付している。
【0025】
(第1の実施形態)
図1(a)は本実施形態の平面型放電管101の正面図、図1(b)は図1(a)におけるY−Y断面図である。本実施形態において、主要な構成要素に関しては、従来の平面型放電管(図2)とほぼ同様であるので、それに関する説明を省略し、本実施形態の特徴である構成要素の異なる部分について説明する。
【0026】
図1(a)、(b)に示すように、本実施形態の平面型放電管101において、ガラス基板52aの外面に形成された透明電極55の上面の全面に亘って、透明なシリコン樹脂からなるコーティング膜102を形成している。このコーティング膜102によって、空気および湿気から透明電極55の外面を遮断できるので、高電圧を印可することによって起こる還元反応を防止することが可能となる。本実施形態では、このコーティング膜102をシリコン樹脂としているので、水分を弾く効果が大きく熱に強い材質であり、高電圧を印可しても有害物質を発生しない。また、このコーティング膜102は透明であるため、発光面Sから照射される光を透明電極55と当該コーティング膜102を介して外部へ照射することが可能である。
【0027】
(第2の実施形態)
図2(a)は本実施形態の平面型放電管201の正面図、図2(b)は図2(a)におけるY−Y断面図である。本実施形態では、第1の実施形態とは異なり、透明電極55をガラス基板52aの内面(放電空間側)に設けられ、さらに透明電極55上には、誘電体薄膜202が積層されている。一方、放電空間54外部に形成され、この透明電極55と一体にして形成される外部電極部55′上(下面)には、シリコン樹脂からなるコーティング膜204が形成されている。この外部電極部55′は、本発明に記載の「透明電極の外部電極とされる部分」に相当する。このコーティング膜102によって、空気および湿気から透明電極55の外面を遮断できるので、高電圧を印可することによって起こる還元反応を防止することが可能となる。本実施形態では、このコーティング膜102をシリコン樹脂としているので、水分を弾く効果が大きく熱に強い材質であり、高電圧を印可しても有害物質を発生しない。
【0028】
(その他の応用例等)
なお、本発明は、上記実施形態に限定するものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で様々な応用が可能である。以下に列挙して説明する。
・ 第1および第2の実施形態において、両放電電極の片面を透明電極とし、もう一方の面を不透明電極として形成しているが、これに限定されることはなく、両面発光とするために、両誘電体平板の外面に透明電極を配置してもよい。
【0029】
・ 本実施形態においては、コーティング膜の材質として、シリコン樹脂を使用したが、これに限定され必要はなく、フッ素樹脂であってもよい。この場合、透明電極が腐食性物質に侵され難く、また、高電圧を印可しても有害物質を発生しないため、コーティング膜として最適である。
【0030】
・ 本実施形態においては、透明電極をITO膜から形成しているが、これに限定する必要はなく、酸化スズ、酸化亜鉛等の他の物質でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の平面型放電管の第1の実施形態であって、(a)は正面図、(b)は(a)のY−Y断面図である。
【図2】本発明の平面型放電管の第2の実施形態であって、(a)は正面図、(b)は(a)のY−Y断面図である。
【図3】従来の平面型放電管の実施形態であって、(a)は外観斜視図、(b)は正面図、(c)は(b)のX−X断面図である。
【符号の説明】
【0032】
101、201・・・平面型放電管、102,204・・・コーティング膜、55′・・・外部電極部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面誘電体平板及び背面誘電体平板を対向配置させ、放電ガスを封入した放電空間を両誘電体平板間に設けると共に、前記放電空間に放電させるための一対の放電電極を前記両誘電体平板に設けた平面型放電管において、
前記前面誘電体平板及び背面誘電体平板の少なくとも一方の外面に設けられた放電電極は透明電極であって、
前記透明電極の外面に設けられたコーティング膜を備えた、
ことを特徴とする平面型放電管。
【請求項2】
前面誘電体平板及び背面誘電体平板を対向配置させ、放電ガスを封入した放電空間を両誘電体平板間に設けると共に、前記放電空間に放電させるための一対の放電電極を前記両誘電体平板に設けた平面型放電管において、
前記前面誘電体平板及び背面誘電体平板の少なくとも一方の内面に設けられた放電電極は透明電極であって、
前記透明電極の外部電極とされる部分の外面に設けられたコーティング膜を備えた、
ことを特徴とする平面型放電管。
【請求項3】
前記透明電極は、酸化インジウムスズ(ITO:Indium tin oxide)から形成される、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の平面型放電管。
【請求項4】
前記コーティング膜は、透明材料からなる、
ことを特徴とする請求項1または請求項3に記載の平面型放電管。
【請求項5】
前記コーティング膜は、シリコン樹脂から形成される、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の平面型放電管。
【請求項6】
前記コーティング膜は、フッ素樹脂から形成される、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の平面型放電管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−244790(P2006−244790A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56734(P2005−56734)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000144544)レシップ株式会社 (179)
【出願人】(000114927)ヤマト電子株式会社 (10)
【Fターム(参考)】