説明

平面状コネクター

【課題】最近の平面状コネクターの形状変化にも対応し得る、平面度、そり変形、耐熱性等の性能の全てに優れた平面状コネクターを提供する。
【解決手段】(A)p−ヒドロキシ安息香酸残基が55モル%以下であり、融点が330℃以上の液晶性ポリマー、(B)板状の無機充填剤及び(C)重量平均繊維長が250〜600μmの繊維状充填剤からなり、(B)成分が組成物全体に対し25〜35重量%、(C)成分が組成物全体に対し10〜25重量%、且つ(B)成分と(C)成分の合計が組成物全体に対し40〜50重量%である複合樹脂組成物から形成され、
外枠の内部に格子構造を有し、更に格子構造の内部に開口部を有する、
格子部のピッチ間隔が1.5mm以下、
外枠部と格子部の厚みの比率が0.8以下
の構造に特徴がある平面状コネクター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CPUソケット等の外枠内部に格子構造を有する平面状コネクターに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリマーは、熱可塑性樹脂の中でも寸法精度、制振性、流動性に優れ、成形時のバリ発生が極めて少ない材料として知られている。従来、このような特徴を活かし、液晶性ポリマーが各種電子部品の材料として多く採用されてきた。
【0003】
特に、近年のエレクトロニクス機器の高性能化に伴う、コネクターの高耐熱化(実装技術による生産性向上)、高密度化(多芯化)、小型化という時代の要請もあり、上記液晶性ポリマーの特徴を活かし、ガラス繊維で強化された液晶性ポリマー組成物がコネクターとして採用されている(非特許文献1、特許文献1)。CPUソケットに代表される外枠内部に格子構造を有する平面状コネクターにおいては、上記高耐熱化、高密度化、小型化の傾向が顕著であり、ガラス繊維で強化された液晶性ポリマー組成物が多く採用されている。
【0004】
しかし、ある程度流動性の良いガラス繊維強化液晶性ポリマー組成物であっても、近年要求されている格子部のピッチ間隔が2mm以下、端子を保持する格子部の樹脂部分の幅が0.5mm以下という非常に薄肉の平面状コネクターとして使用するには性能が不十分であった。即ち、このような格子部の非常に幅が薄肉の平面状コネクターにおいては、格子部へ樹脂を充填しようとすると、流動性が十分でないために充填圧が高くなり、結果として得られる平面状コネクターのそり変形量が多くなるという問題がある。
【0005】
この問題を解決するには、ガラス繊維の添加量を少なくした流動性の良好な液晶性ポリマー組成物の使用が考えられるが、このような組成物では強度不足となり、実装時のリフローにより変形するという問題が生じる。
【0006】
このように、未だ性能バランスの優れた液晶性ポリマー製平面状コネクターは得られていないのが現状である。
【0007】
そこで、本発明者らは、特許文献2にて、配合する繊維状充填剤の重量平均長さと配合量が一定の関係にある特定の複合樹脂組成物から構成される平面状コネクターを提案した。
【非特許文献1】「全調査 エンジニアリングプラスチックス’92−’93」、182〜194頁、1992年発行
【特許文献1】特開平9−204951号公報
【特許文献2】特開2005−276758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2によれば、薄肉の平面状コネクターについても、成形性、平面度、そり変形、耐熱性等の性能において優れたものが得られる。しかしながら、最近の平面状コネクターにおける集積率の増加等に伴う形状変化、特にコネクターピン数の増加、格子部の幅の更なる薄肉化等の要因により、上記特許文献2では対処しきれない場合があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記問題点に鑑み、最近の平面状コネクターの形状変化にも対応し得る、性能バランスの優れた液晶性ポリマー製平面状コネクターを提供すべく鋭意探索、検討を行ったところ、(A)液晶性ポリマーに、(B)板状の無機充填剤及び(C)特定の繊維状充填剤を特定比率で併用配合した複合樹脂組成物を用いることにより、成形性良く、平面度、そり変形、耐熱性等の性能の全てに優れた平面状コネクターが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、(A)p−ヒドロキシ安息香酸残基が55モル%以下であり、融点が330℃以上の液晶性ポリマー、(B)板状の無機充填剤及び(C)重量平均繊維長が250〜600μmの繊維状充填剤からなり、(B)成分が組成物全体に対し25〜35重量%、(C)成分が組成物全体に対し10〜25重量%、且つ(B)成分と(C)成分の合計が組成物全体に対し40〜50重量%である複合樹脂組成物から形成され、
外枠の内部に格子構造を有し、更に格子構造の内部に開口部を有する、
格子部のピッチ間隔が1.5mm以下、
外枠部と格子部の厚みの比率が0.8以下
の構造に特徴がある平面状コネクターである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で使用する液晶性ポリマー(A) とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0012】
前記のような液晶性ポリマー(A) としては特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましく、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。これらは60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1重量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、さらに好ましくは2.0〜10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが使用される。
【0013】
一般的に芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミドの構成としては、
(1)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミドなどが挙げられる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0014】
また、適用できる前記液晶性ポリマー(A) を構成する具体的化合物の好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(1)および下記一般式(2)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および下記一般式(3)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【0015】
【化2】

【0016】
(但し、X :アルキレン(C1〜C4)、アルキリデン、-O- 、-SO-、-SO- 、-S-、-CO-より選ばれる基、Y :-(CH)-(n =1〜4)、-O(CH)O-(n =1〜4)より選ばれる基)
これら液晶性ポリマーの中で、本発明が適用される液晶性ポリマー(A) としては、末端ヒドロキシカルボン酸としてのp−ヒドロキシ安息香酸残基の液晶性ポリマー全構成単位成分に対する割合が55モル%以下である液晶性ポリマーである。
【0017】
p−ヒドロキシ安息香酸残基が、55モル%を超えるとポリマーの結晶化状態等の違いによる冷却される際の固化速度等の理由から流動性が悪くなり、良好な平面状コネクターを成形することができない。また、液晶性ポリマーの融点は、330℃以上である必要がある。平面状コネクターを回路基板に装着し、電子回路を形成するために、固定及び回路形成機能を持つ半田付けを行うが、その半田付けは、赤外線リフロー炉を通すことにより実現される。赤外線リフローを通しても形状等の変化がないためには、液晶性ポリマーの融点を330℃以上にする必要がある。
【0018】
また、液晶性ポリマーとしては、ISO75-1,2に準拠して測定した荷重たわみ温度が250℃以上のものが好ましい。
【0019】
特に好ましい(A)液晶性ポリマーは、必須の構成成分として下記一般式(I),(II),(III),(IV)で表される構成単位を含み、全構成単位に対して(I)の構成単位が40〜75モル%、(II)の構成単位が8.5 〜30モル%、(III) の構成単位が8.5 〜30モル%、(IV)の構成単位が0.1 〜8モル%である液晶性ポリエステル樹脂である。
【0020】
【化3】

【0021】
(ここで、Ar1 は2,6 −ナフタレン、Ar2 は1,2 −フェニレン、1,3 −フェニレン及び1,4 −フェニレンから選ばれる1種若しくは2種以上、Ar3 は1,3 −フェニレン、1,4 −フェニレン、あるいはパラ位でつながるフェニレン数2以上の化合物の残基の少なくとも1種、Ar4 は1,4 −フェニレンである。)
以下、かかる液晶性ポリエステルを形成するために必要な原料化合物について順を追って詳しく説明する。上記(I)〜(IV)の構成単位を具現化するには通常のエステル形成能を有する種々の化合物が使用される。
【0022】
構成単位(I)は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から導入される。
【0023】
構成単位(II)は、ジカルボン酸単位であり、Ar2 としては1,2 −フェニレン、1,3 −フェニレン、1,4 −フェニレンから選択されるが、好ましくは耐熱性の点でテレフタル酸から導入されるものである。
【0024】
構成単位(III)は、ジオール単位であり、原料化合物としては、ハイドロキノン、ジヒドロキシビフェニル等が用いられるが、ジヒドロキシビフェニル、特に4,4'−ジヒドロキシビフェニルが耐熱性の点で好ましい。
【0025】
また、構成単位(IV)は、4−ヒドロキシ安息香酸から導入される。
【0026】
本発明では、上記構成単位(I)〜(IV)を含み、全構成単位に対して(I)の構成単位が40〜75モル%(好ましくは40〜60モル%、より好ましくは45〜60モル%)、(II)の構成単位が8.5 〜30モル%(好ましくは17.5〜30モル%)、(III) の構成単位が8.5 〜30モル%(好ましくは17.5〜30モル%)、(IV)の構成単位が0.1 〜8モル%(好ましくは1〜6モル%)の範囲にあることが必要である。
【0027】
特に、(IV)の構成単位が3〜6モル%であると格子部の強度が強く、平面度の良好な(そり変形の小さい)コネクターが得られるので好ましい。
【0028】
本発明の全芳香族ポリエステルは、直接重合法やエステル交換法を用いて重合され、重合に際しては、溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等が用いられる。
【0029】
本発明では、重合に際し、重合モノマーに対するアシル化剤や、酸塩化物誘導体として末端を活性化したモノマーを使用できる。アシル化剤としては、無水酢酸等の酸無水物等が挙げられる。
【0030】
これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものはジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、二酸化チタン、アルコキシチタンけい酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類、BF3 の如きルイス酸塩等が挙げられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全重量に基いて約 0.001乃至1重量%、特に約0.003 乃至 0.2重量%が好ましい。
【0031】
また、溶液重合又はスラリー重合を行う場合、溶媒としては流動パラフィン、高耐熱性合成油、不活性鉱物油等が用いられる。
【0032】
反応条件としては、反応温度200 〜380 ℃、最終到達圧力0.1 〜760 Torr(即ち、13〜101,080 Pa)である。特に溶融反応では、反応温度260 〜380 ℃、好ましくは300 〜360 ℃、最終到達圧力1〜100 Torr(即ち、133 〜13,300 Pa )、好ましくは1〜50 Torr(即ち、133 〜6,670 Pa)である。
【0033】
反応は、全原料モノマー、アシル化剤及び触媒を同一反応容器に仕込んで反応を開始させる(一段方式)こともできるし、原料モノマー(I)、(III) 及び(IV)のヒドロキシル基をアシル化剤によりアシル化させた後、(II)のカルボキシル基と反応させる(二段方式)こともできる。
【0034】
溶融重合は、反応系内が所定温度に達した後、減圧を開始して所定の減圧度にして行う。撹拌機のトルクが所定値に達した後、不活性ガスを導入し、減圧状態から常圧を経て、所定の加圧状態にして反応系からポリマーを排出する。
【0035】
上記重合方法により製造されたポリマーは更に常圧又は減圧、不活性ガス中で加熱する固相重合により分子量の増加を図ることができる。固相重合反応の好ましい条件は、反応温度230 〜350 ℃、好ましくは260 〜330 ℃、最終到達圧力10〜760 Torr(即ち、1,330 〜101,080 Pa)である。
【0036】
本発明に使用する複合樹脂組成物は、上記(A)液晶性ポリマー、(B)板状の無機充填剤及び(C)重量平均繊維長が250〜600μmの繊維状充填剤からなるものである。
【0037】
本発明に使用する(B)板状充填剤としては、タルク、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられるが、タルク、マイカより選ばれる1種以上であることが好ましい。また、(B)板状充填剤の平均粒径については特に限定されないが、薄肉部の流動性を考慮すると小さい方が望ましいが、そり変形を小さくするためには一定の大きさを維持している必要がある。具体的には、1〜100μm、望ましくは5〜50μmが好ましい。
【0038】
本発明に使用する(C)繊維状充填剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維、ウィスカー、無機系繊維、鉱石系繊維等が挙げられるが、ガラス繊維が好ましい。
【0039】
(C)繊維状充填剤は、重量平均繊維長が250〜600μmであることが必要である。重量平均繊維長が600μmを超えると、流動性が悪化し成形不可能か、たとえ成形できても優れた平面度のコネクターとはならない。重量平均繊維長が250μm未満の場合は、補強効果が小さく、端子を保持する格子部の強度(メッシュ強度)が低下し好ましくない。
【0040】
また、(B) 繊維状充填剤の繊維径は特に制限されないが、一般的に5〜15μm程度のものが使用される。
【0041】
また、本発明に使用する複合樹脂組成物は、(B)成分が組成物全体に対し25〜35重量%、(C)成分が組成物全体に対し10〜25重量%、且つ(B)成分と(C)成分の合計が組成物全体に対し40〜50重量%であることが必要である。
【0042】
本発明の複合樹脂組成物を成形することにより、各種平面状コネクターを得ることができるが、従来、工業的に実用性のあるものが提供されていなかった、格子部のピッチ間隔が1.5mm以下、端子を保持する格子部の樹脂部分の幅が0.5mm以下、製品全体の高さが5.0mm以下という非常に薄肉の平面状コネクターに特に有効である。
【0043】
このような平面状コネクターをより詳細に説明するならば、実施例で成形した図1に示すようなコネクターであり、厚みが5.0mm以下の外枠部と厚みが4.0mm以下の格子部からなり、格子部に40mm×40mm×1mm程度の製品中に数百のピン孔数を有するものである。図1に示すように、本発明で言う平面状コネクターは、格子部の中に適当な大きさの開口部を有している。したがって、格子部のピッチ間隔が1.5mm以下、端子を保持する樹脂部分の幅が0.5mm以下、外枠部と格子部の厚みの比率が0.8以下という、射出成形が非常に困難な形状となっている。
【0044】
本発明の複合樹脂組成物を用いることにより、図1に示すように、格子部のピッチ間隔が1.5mm以下(1.2mm)、外枠部と格子部の厚みの比率が0.8以下(0.5)、端子を保持する格子部の樹脂部分の幅が0.5mm以下(0.18mm)という、外枠部と格子部の厚み差があり、格子部の樹脂部分の幅が非常に薄肉の平面状コネクターを成形性良く成形することが可能であり、その平面度も優れている。
【0045】
この平面度を数値的に規定するならば、ピーク温度230〜280℃で表面実装のためのIRリフロー工程を経る前の平面度が0.15mm以下であり、なおかつリフロー前後の平面度の差が0.05mm以下であるものは、実用上優れた平面度を有するものと言える。
【0046】
このような優れた平面度を有するコネクターを得る成形方法としては、特に制限はないが、経済的な射出成形方法が好ましく用いられる。射出成形でこのような優れた平面度を有するコネクターを得るためには、前記の液晶性ポリマー組成物を用いることが重要であるが、残留内部応力のない成形条件を選ぶことが好ましい。充填圧を低くし、得られるコネクターの残留内部応力を低下させるために、成形機のシリンダー温度は、液晶性ポリマーの融点T℃以上の温度が好ましく、またシリンダー温度が高すぎると樹脂の分解等に伴うシリンダーノズルからの鼻タレ等の問題が発生するため、シリンダー温度はT℃〜(T+30)℃、好ましくはT℃〜(T+15)℃である。また、金型温度は70〜100℃が好ましい。金型温度が低いと充填樹脂組成物が流動不良を起こし好ましくなく、金型温度が高すぎると、バリ発生等の問題が生じ好ましくない。射出速度については、150mm/sec以上で成形することが好ましい。射出速度が低いと、未充填成形品しか得られない場合や、たとえ完全に充填した成形品が得られたとしても充填圧が高く残留内部応力の大きい成形品となり、平面度の悪いコネクターしか得られない場合がある。
【0047】
なお、複合樹脂組成物に対し、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤および難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した組成物も本発明で言う複合樹脂組成物の範囲に含まれる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例中の物性の測定および試験は次の方法で行った。
(1) 見掛け溶融粘度
L=20mm、d=1mmのキャピラリー式レオメータ((株)東洋精機製キャピログラフ1B型)を使用し、温度360℃、剪断速度1000/sでISO11443に準拠して、見掛け溶融粘度を測定した。液晶性ポリマー1及び液晶性ポリマー2を使用した場合は380℃、液晶性ポリマー3を使用した場合は350℃、液晶性ポリマー4を使用した場合は360℃で測定した。
(2) コネクター平面度の測定
樹脂組成物ペレットから、下記成形条件で、図1に示すような、全体の大きさ43.88mm×43.88mm×3mmt、中央部に13.88mm×13.88mmの孔開きを有し、格子部ピッチ間隔1.0mmの平面状コネクター(ピン孔数1248ピン)を射出成形した。
【0049】
尚、ゲートは、図2に示す特殊なゲート(オーバーフロー)を使用した。
【0050】
得られたコネクターを水平な机の上に静置し、コネクターの高さをミツトヨ製クイックビジョン404PRO CNC画像測定機により測定した。その際、コネクター端面より、0.5mmの位置を10mm間隔で測定し、最大高さと最小高さの差を平面度とした(図3参照)。
【0051】
更に、下記条件のIRリフローを行い、上述の方法で平面度を測定し、リフロー前後の平面度の差を求めた。
[IRリフロー条件]
測定機;日本パルス技術研究所製大型卓上リフローハンダ付け装置RF-300(遠赤外線ヒーター使用)
試料送り速度;140mm/sec
リフロー炉通過時間;5min
温度条件 プレヒートゾーン;150℃、リフローゾーン;225℃、ピーク温度;287℃
[成形条件]
成形機;ソディック TR100EH
シリンダー温度;
350℃−350℃−350℃−350℃−350℃(比較例5〜8)
370℃−370℃−370℃−370℃−360℃(実施例1〜5、比較例1〜4)
380℃−380℃−380℃−380℃−370℃(実施例6)
360℃−360℃−360℃−360℃−350℃(実施例7)
金型温度;80℃
射出速度;300mm/sec
保圧力;50MPa
充填時間;0.09〜0.11sec
保圧時間;1sec
冷却時間;10sec
スクリュー回転数;120rpm
スクリュー背圧;1MPa
(3) 液晶性ポリマーの融点
示差熱分析装置(TA Instruments Q-1000)を使用し、重合を完了したポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で400℃の温度で3分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した。
(4) 最小充填圧
図1の平面状コネクターを射出成形する際に良好な成形品を得られる最小の射出充填圧を最小充填圧とした。
(5) メッシュ強度
図1の平面状コネクターを用い、図4に示す地点(黒塗り部)の強度を測定し、メッシュ強度とした。
試験機;オリエンテック製テンシロンRTA-250
スパン距離;6mm
試験速度;1mm/min
(6) 荷重たわみ温度
下記成形条件で、液晶性ポリマーのみと、板状充填剤及び繊維状充填剤を含む液晶性ポリマー組成物をそれぞれ射出成形し、ISO75-1,2に準拠して測定した。
[成形条件]
成形機;住友 SE100DU
シリンダー温度;
350℃−350℃−350℃−350℃−350℃(比較例5〜8)
370℃−370℃−370℃−370℃−360℃(実施例1〜5、比較例1〜4)
380℃−380℃−380℃−380℃−370℃(実施例6)
360℃−360℃−360℃−360℃−350℃(実施例7)
金型温度;90℃
射出速度;2m/min
保圧力;50MPa
保圧時間;7sec
冷却時間;10sec
スクリュー回転数;120rpm
スクリュー背圧;1MPa
(7) 重量平均繊維長
樹脂組成物ペレット5gを600℃で2時間加熱し灰化した。灰化残渣を5%ポリエチレングリコール水溶液に十分分散させた後、スポイトでシャーレに移し、顕微鏡でガラス繊維を観察した。同時に画像測定器((株)ニレコ製LUZEXFS)を用いてガラス繊維の重量平均繊維長を測定した。尚、50μm以下のガラス繊維は除外して測定した。
実施例1〜7および比較例1〜8
下記条件にて、板状充填剤及び繊維状充填剤を含む液晶性ポリマー組成物の上記試験片を作製し、評価したところ、表1に示す結果を得た。尚、比較例8は、射出成形により良好な試験片を得ることができなかった。
[製造条件]
(使用成分)
(A)液晶性ポリマー
・液晶性ポリマー1
撹拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、以下の原料モノマー、金属触媒、アシル化剤を投入した。
・(I)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1218g(48モル%)(HNA)
・(II)テレフタル酸560g(25モル%)(TA)
・(III) 4,4'−ジヒドロキシビフェニル628g(25モル%)(BP)
・(IV)4−ヒドロキシ安息香酸37g(2モル%)(HBA)
・酢酸カリウム触媒(触媒量)
・無水酢酸(HNA、BP、HBAの総モル量に対して1.04倍モル)
次いで、窒素気流下、140℃で1時間撹拌後、撹拌を続けながら360℃まで5.5時間かけて昇温した。次に、30分かけて5Torr(即ち667Pa)まで減圧にし、酢酸等の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して加圧状態とし、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレット化した。得られたペレットを窒素気流下、300℃で8時間熱処理したものを液晶性ポリマー1とした。液晶性ポリマー1の融点は352℃、荷重たわみ温度は300℃であった。
・液晶性ポリマー2
撹拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、以下の原料モノマー、金属触媒、アシル化剤を投入した。
・(I)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸76g(2.5モル%)(HNA)
・(II)テレフタル酸645g(23.9モル%)(TA)
・(III) 4,4'−ジヒドロキシビフェニル562g(18.6モル%)(BP)
・(IV)4−ヒドロキシ安息香酸1121g(50モル%)(HBA)
・(V)4−アセトアミドフェノール123g(5モル%)(APAP)
・酢酸カリウム触媒(触媒量)
・無水酢酸(HNA、BP、HBAの総モル量に対して1.03倍モル)
次いで、窒素気流下、140℃で1時間撹拌後、撹拌を続けながら350℃まで5.5時間かけて昇温した。次に、30分かけて5Torr(即ち667Pa)まで減圧にし、酢酸等の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して加圧状態とし、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレット化した。得られたペレットを窒素気流下、280℃で8時間熱処理したものを液晶性ポリマー2とした。液晶性ポリマー2の融点は367℃、荷重たわみ温度は260℃であった。
・液晶性ポリマー3
撹拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、以下の原料モノマー、金属触媒、アシル化剤を投入した。
・(I)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸157g(5モル%)(HNA)
・(II)テレフタル酸490g(17.7モル%)(TA)
・(III) 4,4'−ジヒドロキシビフェニル382g(12.3モル%)(BP)
・(IV)4−ヒドロキシ安息香酸1381g(60モル%)(HBA)
・(V)4−アセトアミドフェノール126g(5モル%)(APAP)
・酢酸カリウム触媒(触媒量)
・無水酢酸(HNA、BP、HBAの総モル量に対して1.03倍モル)
次いで、窒素気流下、140℃で1時間撹拌後、撹拌を続けながら340℃まで5.5時間かけて昇温した。次に、30分かけて5Torr(即ち667Pa)まで減圧にし、酢酸等の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して加圧状態とし、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレット化した。得られたペレットを窒素気流下、280℃で8時間熱処理したものを液晶性ポリマー3とした。液晶性ポリマー3の融点は335℃、荷重たわみ温度は235℃であった。
・液晶性ポリマー4
撹拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、以下の原料モノマー、金属触媒、アシル化剤を投入した。
・(I)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸157g(45モル%)(HNA)
・(II)テレフタル酸77g(25モル%)(TA)
・(III) 4,4'−ジヒドロキシビフェニル86g(25モル%)(BP)
・(IV)4−ヒドロキシ安息香酸13g(5モル%)(HBA)
・酢酸カリウム触媒(触媒量)
・無水酢酸(HNA、BP、HBAの総モル量に対して1.1倍モル)
次いで、窒素気流下、140℃で1時間撹拌後、撹拌を続けながら360℃まで5.5時間かけて昇温した。次に、30分かけて5Torr(即ち667Pa)まで減圧にし、酢酸等の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して加圧状態とし、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレット化した。得られたペレットを窒素気流下、300℃で8時間熱処理したものを液晶性ポリマー4とした。液晶性ポリマー4の融点は335℃、荷重たわみ温度は257℃であった。
(B)板状充填剤
・マイカ;(株)山口雲母工業製AB-25S、平均粒径25μm
・タルク;松村産業(株)製クラウンタルクPP、平均粒径10μm
(C)繊維状充填剤
・ガラス繊維;日本電気硝子(株)製ECS03T-786H、繊維径10μm、長さ3mmのチョプドストランド
・ミルドファイバー;日東紡(株)製PF70E001(繊維径10μm、繊維長70μm)
【0052】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例で成形した平面状コネクターを示す図であり、(a) は平面図、(b) は右側面図図である。尚、図中の数値の単位はmmである。
【図2】実施例で成形した平面状コネクターのゲート位置を示す図であり、(a) は平面図、(b) は右側面図図である。尚、図中の数値の単位はmmである。
【図3】実施例で行ったコネクター平面度の測定における測定点を示す図である。尚、図中の数値の単位はmmである。
【図4】実施例で行ったメッシュ強度の測定における測定部位を示す図である。尚、図中の数値の単位はmmである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)p−ヒドロキシ安息香酸残基が55モル%以下であり、融点が330℃以上の液晶性ポリマー、(B)板状の無機充填剤及び(C)重量平均繊維長が250〜600μmの繊維状充填剤からなり、(B)成分が組成物全体に対し25〜35重量%、(C)成分が組成物全体に対し10〜25重量%、且つ(B)成分と(C)成分の合計が組成物全体に対し40〜50重量%である複合樹脂組成物から形成され、
外枠の内部に格子構造を有し、更に格子構造の内部に開口部を有する、
格子部のピッチ間隔が1.5mm以下、
外枠部と格子部の厚みの比率が0.8以下
の構造に特徴がある平面状コネクター。
【請求項2】
(A)液晶性ポリマーが、ISO75-1,2に準拠して測定した荷重たわみ温度が250℃以上のものである請求項1記載の平面状コネクター。
【請求項3】
(A)液晶性ポリマーが、必須の構成成分として下記一般式(I),(II),(III),(IV)で表される構成単位を含み、全構成単位に対して(I)の構成単位が40〜75モル%、(II)の構成単位が8.5 〜30モル%、(III) の構成単位が8.5 〜30モル%、(IV)の構成単位が0.1 〜8モル%である液晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の平面状コネクター。
【化1】

(ここで、Ar1 は2,6 −ナフタレン、Ar2 は1,2 −フェニレン、1,3 −フェニレン及び1,4 −フェニレンから選ばれる1種若しくは2種以上、Ar3 は1,3 −フェニレン、1,4 −フェニレン、あるいはパラ位でつながるフェニレン数2以上の化合物の残基の少なくとも1種、Ar4 は1,4 −フェニレンである。)
【請求項4】
(B)板状の無機充填剤が、タルク、マイカより選ばれる1種以上である請求項1〜3の何れか1項記載の平面状コネクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−3661(P2010−3661A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197988(P2008−197988)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】