説明

幹細胞分離材、幹細胞分離フィルター、及び該分離材または該分離フィルターを用いた幹細胞分離方法、幹細胞回収方法

【課題】骨髄液、末梢血、臍帯血、及び月経血等の体液から、幹細胞を効率的に分離可能な分離材密度を有する幹細胞分離材及び幹細胞分離フィルターを提供すること、該幹細胞分離材及び幹細胞分離フィルターを用いて幹細胞を分離・回収する方法、及び該方法により得られる幹細胞を提供する。
【解決手段】幹細胞分離材の密度をある特定値に設定することにより上記幹細胞との親和性が大きく異なり、特定の範囲内で当該幹細胞の分離・回収率が非常に高くなり、捕捉された幹細胞は細胞回収液にて簡便に回収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄液、末梢血、臍帯血、及び月経血等の体液から、幹細胞を捕捉・回収する幹細胞分離材、幹細胞分離フィルター、並びにその処理方法、該処理方法により得られた幹細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって、骨髄液、臍帯血中には、骨、軟骨、筋肉、脂肪等の様々な細胞に分化し得る性質を持った付着性の幹細胞が存在することが明らかになってきている(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。付着性の幹細胞は多種多様な細胞、臓器に分化し得る能力を有しているので、該細胞を効率良く分離・増幅させる方法は、再生医療発展の見地から極めて重要である。付着性の幹細胞は骨髄液中に成人で1万〜100万個に1つ程度の数という非常に存在頻度が少ないことが報告されており(非特許文献4)、付着性の幹細胞画分を分離・濃縮後に回収する方法が種々検討されている。例えば、Pittengerらは、密度勾配遠心分離法であるフィコールパック分画法を用いて比重1.073の分画に脂肪、軟骨、骨細胞への分化前駆細胞が存在することを見出している(非特許文献4)。関谷らもフィコールパック分画法で比重分離した細胞を用いて軟骨への分化を試みている(非特許文献5)。また、脇谷らは、デキストランを用いて赤血球以外の画分の細胞を取得し、この細胞での軟骨への分化を試みている(非特許文献6)。しかしながら、上記フィコールやデキストランを用いた分離法は、分離液と細胞を分けるために遠心分離機を使用して細胞を数回洗浄する操作が必要であり、操作性が煩雑、遠心操作による細胞のダメージ、開放系での操作によるコンタミネーションの危険が伴うことが問題視されている。閉鎖系での分離法として、分離材に目的の幹細胞を含む液を通液することによって、目的の幹細胞を捕捉・回収するデバイスによる分離法が開示されているが、回収ロスが多く、問題点も多い(特許文献2)、幹細胞分離には分離材の密度、繊維径等が影響することが明らかにされているが、カラムへの充填材の設計が不十分な場合など、具体的に顕著な分離効果を示す密度は見出せていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第01/83709号
【特許文献2】国際公開第07/046501号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Pliard A. et al. :Conversion of an Immortilized Mesodermal Progenitor Cell Towards Osteogenic, or Adipogenic Pathways. J. Cell Biol. 130(6):1461-72(1995)
【非特許文献2】Mackay A. M. et al. :Chondrogenic differentiation of cultured human mesenchymal Stem Cell from Marrow. Tissue Engineering 4(4):415-428(1998)
【非特許文献3】Angele P. et al. :Engineering of Osteochondoral Tissue with Bone Marrow Mesenchymal Progenitor Cells in a Derivatived Hyaluronan Geration Composite Sponge. Tissue Engineering 5(6):545-553(1999)
【非特許文献4】Pittenger. et al. :Multilineage Potential of Adult Human Mesenchymal Stem Cells. Science 284:143-147(1999)
【非特許文献5】Sekiya. Et al. :In vitro Cartilage Formation by human adult Stem Cells from Bone Marrow Stroma defines the sequence cellular and molecular events during chondrogenesis. Developmental Biology 7(99):4397-4402(2002)
【非特許文献6】Wakitani. et al. :Human autologous culture expanded Bone Marrow Mesenchymal Cell Transplantation for repair of Cartilage defects in Oseoarthritic Knees. OsteoArthritis Research Society International (2002)10,199-206
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、骨髄液、末梢血、臍帯血、及び月経血等の体液から、幹細胞を効率的に分離可能な分離材密度を有する幹細胞分離材及び幹細胞分離を提供すること、並びに、該幹細胞分離材及び幹細胞分離フィルターを用いて幹細胞をロスなく分離・回収する方法、及び該方法により得られる幹細胞を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、骨髄液、末梢血及び臍帯血等の体液中に存在する付着性の幹細胞と、圧縮することによって密度を変えた幹細胞分離材との相互作用について鋭意検討した。その結果、驚くべきことに、幹細胞分離材の密度により上記幹細胞との親和性が大きく異なり、特定の範囲内で当該幹細胞の捕捉率が非常に高くなることを見出した。また捕捉された幹細胞は細胞回収液にて簡便に回収されることを見出し、本発明に至った。
【0007】
よって、本発明は以下の通りである。
(1)密度K(g/m3)が2.1×105以上4.9×105以下であり、かつ、繊維径(μm)が3以上40以下であることを特徴とする幹細胞分離材、
(2)分離材が不織布であることを特徴とする(1)に記載の幹細胞分離材、
(3)ポリエステル、レーヨン、ポリオレフィン、ビニロン、ポリスチレン、アクリル、ナイロン及びポリウレタンから選ばれる少なくとも1種の合成高分子からなる(1)または(2)に記載の幹細胞分離材、
(4)ポリエステル及びポリプロピレン;レーヨン及びポリオレフィン;またはポリエステル、レーヨン及びビニロンの合成高分子からなる(1)または(2)に記載の幹細胞分離材、
(5)幹細胞が体液由来の付着性の幹細胞であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の幹細胞分離材、
(6)体液が、骨髄液、末梢血および臍帯血から選ばれる少なくとも1種である(1)〜(5)のいずれかに記載の幹細胞分離材、
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の幹細胞分離材を、液流入部と液流出部を有する容器に充填してなることを特徴とする幹細胞分離フィルター、
(8)液流入部あるいは、液流入部以外の液流入側に、幹細胞分離材内にとどまっている不要細胞および不要物を洗浄するための洗浄液流入部を備え、かつ、液流出部あるいは、液流出部以外の液流出部側に、幹細胞分離材に捕捉された細胞を回収するための細胞回収液流入部を供えている(7)に記載の幹細胞分離フィルター、
(9)幹細胞分離材に捕捉された細胞を含む細胞回収液を収納するための容器を、液流入部または洗浄液流入部、あるいは、液流入部および洗浄液流入部以外の液流入側に備えてなる(8)に記載の幹細胞分離フィルター、
(10)幹細胞分離材に捕捉された細胞を含む細胞回収液を収納するための容器が、細胞培養可能な容器であることを特徴とする(9)に記載の幹細胞分離フィルター、
(11)(1)〜(6)のいずれかに記載の幹細胞分離材、または(7)〜(10)のいずれかに記載の幹細胞分離フィルターを使用して、体液から幹細胞を分離、回収する方法、
(12)体液または生体組織の処理液を(7)〜(10)のいずれかに記載の幹細胞分離フィルターの液流入部より幹細胞分離フィルターに導入し、液流入側から洗浄液を流して洗浄し、次に液流出側から細胞回収液を流すことにより、幹細胞分離材に捕捉した幹細胞を回収することを特徴とする幹細胞回収方法、
(13)体液が、骨髄液、末梢血および臍帯血から選ばれる少なくとも1種である(12)に記載の幹細胞回収方法、
(14)体液が哺乳動物由来である(12)または(13)に記載の幹細胞回収方法、
(15)(12)〜(14)のいずれかに記載の幹細胞回収方法によって回収された幹細胞を、さらに増幅することを特徴とする、多分化能を有する細胞画分の生産方法、
(16)(12)〜(14)のいずれかに記載の幹細胞回収方法によって得られた幹細胞。
【発明の効果】
【0008】
本発明の幹細胞分離材及び幹細胞分離材を使用することにより、骨髄液、末梢血及び臍帯血等の体液中から多種多様な細胞、臓器に分化し得る能力を有している付着性の幹細胞を簡便に、しかも赤血球、白血球、血小板をほとんど除去した状態で、ロスなく分離・回収することが可能になる。また、幹細胞を効率的に分離可能であるため、一定数の細胞を確保するために必要な骨髄液量を低減することが可能となり、骨髄液を採取する患者の負担を大幅に軽減でき、作業面においても処理が1回でよく、飛躍的な時間短縮につながる。さらに、該幹細胞分離材及び幹細胞分離フィルターを用いた方法で得られる付着性の幹細胞は、再生医療や細胞医療に用いる治療用細胞として有用である。
【0009】
また、本発明の幹細胞分離材を容器に充填してなる幹細胞分離フィルターを使用した分離方法で回収した幹細胞は、増幅させずにそのまま、あるいは閉鎖系で増幅させることが可能となり、血管再生や骨再生等の再生医療や細胞医療に用いる治療用細胞を調製するためのフィルターとして提供することが可能となる。また、培養バッグを幹細胞分離フィルターと一体化することにより、目的細胞の採取から増幅まで、閉鎖系での調製が可能になり、安全性の高い治療用細胞を少ない骨髄から短時間で調製することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明における幹細胞分離材は、はじめに体液を通液することにより、赤血球、白血球、血小板等の不要細胞を通過させ、有用細胞である付着性の幹細胞を捕捉することが可能である。次に、体液を通過させた方向と同方向に洗浄液を通液することにより、幹細胞分離材中に留まっている赤血球や白血球、血小板を洗浄除去することが可能である。さらに、体液及び洗浄液を流した方向と逆方向から、目的細胞の回収液を流すことにより、付着性の幹細胞を簡便に、高収率で分離・回収することが可能である。
【0012】
本発明における体液とは、血液(末梢血、G−CSF動員末梢血を含む)、骨髄液、臍帯血、及び月経血等であり、付着性の幹細胞を含むものを指す。また、脂肪組織等の生体組織を酵素処理等により液状化したもの、及び該液状化物から得られた細胞を、生理食塩水や細胞培養用培地等のバッファーに再懸濁したものも含まれる。
【0013】
また、本発明における体液には、上記体液の希釈液;フィコール、パーコール、ヒドロキシエチルスターチ(HES)、バクティナーチューブ、リンフォプレップ等を使用し、密度勾配遠心分離法により、上記体液に前処理を施して調製された細胞懸濁液等も含まれる。
【0014】
本発明における付着性の幹細胞とは、培養皿に付着して増殖し、分化能を有することを特徴とする細胞をいう。具体的には、間葉系幹細胞、多能性成体幹細胞、骨髄ストローマ細胞等、多分化能を有する細胞等を指す。間葉系幹細胞とは、体液中から分離され、自己増殖を繰り返す能力を有し、下流の細胞系譜への分化が可能な細胞を指す。この間葉系幹細胞は、分化誘導因子により骨芽細胞や軟骨細胞、血管内皮細胞、心筋細胞等、あるいは、脂肪、歯周組織構成細胞であるセメント芽細胞、歯周靭帯繊維芽細胞等へ分化する細胞である。多能性幹細胞とは、分化誘導因子により神経細胞、肝細胞にも分化する可能性のある細胞をいうが、これらに限定されるものではない。骨髄ストローマ細胞とは、骨髄細胞中、未熟及び成熟血液細胞を除く全ての付着性細胞成分を指す。
【0015】
本発明における幹細胞分離材の材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエステル、塩化ビニル、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、レーヨン、ビニロン、ポリスチレン、アクリル(ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等)、ナイロン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド、ポリアミド、キュプラ、ケブラー、カーボン、フェノール、テトロン、パルプ、麻、セルロース、ケナフ、キチン、キトサン、ガラス、綿等から選ばれる少なくとも1種からなるものが好ましい。より好ましくは、ポリエステル、ポリスチレン、アクリル、レーヨン、ポリオレフィン、ビニロン、ナイロン、ポリウレタン等から選ばれる少なくとも1種からなる合成高分子が挙げられる。
【0016】
2種以上の合成高分子を組み合わせる場合は、その組み合わせに特に限定はないが、ポリエステル及びポリプロピレン;レーヨン及びポリオレフィン;またはポリエステル、レーヨン及びビニロンからなる組み合わせ等が好ましく挙げられる。
【0017】
2種以上の合成高分子を組み合わせて繊維とする場合の繊維の形態としては、1本の繊維が異成分同士の合成高分子よりなる繊維、あるいは異成分同士が剥離分割した分割繊維でもよい。また成分の異なる合成高分子単独よりなる繊維をそれぞれ複合化した形態でもよい。ここでいう複合化とは、特に限定は無く、2種以上の繊維が混在した状態より構成される形態、あるいは合成高分子単独よりなる形態をそれぞれ張り合わせたもの等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
当該幹細胞分離材の形態は、特に限定されず、連通孔構造の多孔質体、繊維の集合体、織物等が挙げられる。好ましくは繊維で構成されるものであり、より好ましくは不織布である。
【0019】
本発明の幹細胞分離材の密度は、赤血球、白血球、血小板等の除去効果、及び目的細胞の回収率から、2.1×105〜4.9×105g/m3であることが望ましい。幹細胞分離材の密度が2.1×105g/m3を下回る場合、目的細胞が分離材をそれ以上に設定した場合に比べて2倍以上通過してしまい、回収率が低下する。4.9×105g/m3を超える場合、夾雑物によって目詰りが生じ易くなり、回収率が低下してしまう虞がある。目的細胞の回収率からより好ましくは2.6×105〜4.5×105g/m3、さらに好ましくは3.3×105〜4.5×105g/m3である。密度は分離材の材質、繊維径、空隙率等により調整が可能であるが、同一の分離材を圧縮することでも調整することが出来る。
【0020】
幹細胞分離材の繊維径は、目的細胞の回収率から、3〜40μmであることが必要である。3μmより細いと、白血球との相互作用が高まり、赤血球、白血球、血小板の除去効率が低くなる。40μmより太いと、有効接触面積の低下やショートパスが起こりやすくなり、目的細胞の回収率の低下につながり易い。目的細胞と幹細胞分離材との相互作用及び回収率を上げるためには、好ましくは3〜35μm、より好ましくは5〜35μm、さらに好ましくは5〜30μmである。当該繊維径は、幹細胞分離材が繊維で構成される場合、例えば幹細胞分離材を走査型電子顕微鏡にて写真撮影し、任意の30ポイントの長さを測定し、平均することにより求めることが出来る。なお、幹細胞分離材が多孔質体等の場合、繊維径とは、多孔質体の断面部分において、樹脂部分(孔でない部分)の平均幅を意味し、上記と同様にして測定する。つまり、本発明において繊維径とは、上記のように測定した繊維径の平均値を意味し、当該平均値が上記範囲内(3〜40μm)であることが必要である。
【0021】
幹細胞分離材は赤血球、白血球が実質的に通過可能であることが好ましい。ここで、赤血球、白血球が実質的に通過可能とは、該幹細胞分離材に対する赤血球の通過率が80%以上、白血球の通過率が30%以上を意味する。幹細胞分離材の性能面から、通過率は、より好ましくは、赤血球が85%以上、白血球が40%以上である。
【0022】
幹細胞分離材の性能をより向上させるために、幹細胞分離材に親水化処理を行っても良い。親水化処理することにより、必要細胞以外の細胞の非特異的な捕捉の抑制、体液を偏り無く幹細胞分離材中に通過させ、性能の向上、必要細胞の回収効率の向上等を付与することが出来る。
【0023】
親水化処理方法としては、水溶性多価アルコール、または水酸基やカチオン基、アニオン基を有するポリマー、あるいはその共重合体(例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、あるいはその共重合体等)を吸着させる方法;水溶性高分子(ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等)を吸着させる方法;疎水性膜に親水性高分子を固定する方法(例えば、表面に親水性モノマーを化学的に結合させる方法等);幹細胞分離材に電子線照射する方法;含水状態で幹細胞分離材に放射線を照射することで親水性高分子を架橋不溶化する方法;幹細胞分離材を乾燥状態で熱処理することにより、親水性高分子を不溶化し固定する方法;疎水性膜の表面をスルホン化する方法;親水性高分子と、疎水性ポリマードープとの混合物から膜をつくる方法;アルカリ水溶液(NaOH、KOH等)処理により膜表面に親水基を付与する方法;疎水性多孔質膜をアルコールに浸漬した後、水溶性ポリマー水溶液で処理、乾燥後、熱処理や放射線等で不溶化処理する方法;界面活性作用を有する物質を吸着させる方法等が挙げられる。
【0024】
親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、多糖類(セルロース、キチン、キトサン等)、水溶性多価アルコール等が挙げられる。
【0025】
疎水性ポリマーとしては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、アクリル、ウレタン、ビニロン、ナイロン、ポリエステル等が挙げられる。
【0026】
界面活性作用を有する物質としては、非イオン性の界面活性剤、レシチン、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、エデト酸ナトリウム、セスキオレイン酸ソルビタン、D−ソルビトール、デヒドロコール酸、グリセリン、D−マンニトール、酒石酸、プロピレングリコール、マクロゴール、ラノリンアルコール、メチルセルロース等が挙げられる。非イオン性の界面活性剤としては、多価アルコール脂肪酸エステル系とポリオキシエチレン系とに大別される。多価アルコール脂肪酸エステル系の界面活性剤としては、ステアリン酸グリセリンエステル系、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタンアシルエステル等が挙げられる。ポリオキシエチレン系の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンアシルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアシルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられる。これらは各々単独で、または組み合わせて用いることが出来る。
【0027】
さらに目的細胞の幹細胞分離材への付着性を向上させるために、細胞付着性のタンパク質や、目的細胞上の発現されている特異的抗原に対する抗体を、幹細胞分離材上に固定化しても良い。細胞付着性のタンパク質としては、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン等が挙げられる。抗体としては、CD133、CD90、CD105、CD166、CD140a、CD271等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、固定化方法としては、例えば、一般的なタンパク質の固定化方法である、臭化シアン活性化法、酸アジド誘導体法、縮合試薬法、ジアゾ法、アルキル化法、架橋法等の方法を任意に用いることが出来る。
【0028】
上記幹細胞分離材の使用形態は、幹細胞分離材を容器に入れずにそのまま分離材として使用してもよいし、任意の大きさの幹細胞分離材を体液の入口及び出口を有する容器に入れて使用することが出来るが、実用性から後者の方が好ましい。幹細胞分離材は、適切な大きさに切断した平板状で体液を処理しても良いし、またロール状に巻いた形状で体液の処理を行っても良い。
【0029】
本発明における幹細胞分離フィルターとは、上記幹細胞分離材を、液流入部と液流出部を有する容器に充填してなるものである。このとき、幹細胞分離材は、圧縮せず容器に充填しても良いし、圧縮して容器に充填しても良い。幹細胞分離材は、前期の条件を満たせば、形状等の限定はない。
【0030】
幹細胞分離フィルターの好ましい具体例としては、不織布状の幹細胞分離材を、充填した状態での厚み0.1〜5cm程度で、下記に示す幹細胞分離フィルター容器に充填して得られたもの等が挙げられる。この場合、幹細胞分離材の厚み(充填した状態で)は、0.1cm〜5cmが好ましいが、細胞の回収率及び赤血球、白血球、血小板等の除去効率の点から、0.15〜4cmがより好ましく、さらに好ましくは0.2〜3cmである。幹細胞分離材の厚みが、前記厚みに満たない時は、幹細胞分離材を積層して条件を満たしても良い。
【0031】
また、幹細胞分離材をロール状に巻いて、幹細胞分離フィルター用容器内に充填しても良い。ロール状で使用する場合、該ロールの内側から外側に向けて体液を処理することにより、目的細胞の捕捉を行っても良いし、あるいはこの逆に、ロールの外側から内側に体液を流入させ、目的細胞の捕捉を行っても良い。
【0032】
幹細胞分離フィルターに用いる容器の形態、大きさ、材質には特に限定はない。容器の形態は、球、コンテナ、カセット、バッグ、チューブ、カラム等、任意の形態であって良い。好ましい具体例としては、例えば、容量約0.1〜400mL程度、直径0.1〜15cm程度の筒状容器;一辺の長さ0.1〜20cm程度の正方形または長方形で、厚みが0.1〜5cm程度の四角柱状容器等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
容器は、任意の構造材料を使用して作製することができる。構造材料としては、具体的には非反応性ポリマー、生体親和性金属、合金、ガラス等が挙げられる。非反応性ポリマーとしては、アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー等のアクリルニトリルポリマー;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ポリマー;ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリカードネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリドアクリルコポリマー、ポリカーボネートアクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン等が上げられる。容器の材料として有用な金属材料(生体親和性金属、合金)としては、ステンレス鋼、チタン、白金、タンタル、金、およびそれらの合金、並びに金メッキ合金鉄、白金メッキ合金鉄、コバルトクロミウム合金、窒化チタン被覆ステンレス鋼等が挙げられる。特に好ましくは、耐滅菌製を有する素材であるが、具体的には、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリイミド、ポリカードネート、ポリスルホン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。
【0034】
該幹細胞分離フィルターの使用方法の概略を次に記す。
【0035】
まず該幹細胞分離フィルターに液入口側から、体液または生体組織の処理液を通液することにより、赤血球、白血球、血小板等の不要細胞は、実質的に捕捉されずに液出口側より流出し、幹細胞分離材内に目的細胞を捕捉することが可能である。次に、洗浄液を同方向から通液することにより、幹細胞分離材内にたまっている赤血球、白血球、血小板等の不要細胞の大多数を洗浄除去することが可能である。さらに、液出口側から、すなわち体液および洗浄液を流した方向とは逆方向から、細胞回収液を流すことにより、上記目的細胞を高い効率で分離回収することが可能である。
【0036】
幹細胞分離フィルターは、体液の入口および出口を有する容器に幹細胞分離材が充填されてなるものであるが、さらには細胞洗浄液や細胞回収液の入口および出口を有する容器内に、さらには回収した細胞をそのまま培養するための培養用バック等を備えた容器内に、幹細胞分離材が充填されてなるものでも良い。
【0037】
具体的には、幹細胞分離フィルターは、体液を送液するための液流入部、および幹細胞の分離材を通過した体液を排出するための液流出部を有しており、さらに液流入部あるいは、液流入部以外の液流入側に独立して、幹細胞分離材内に留まっている不要細胞を洗浄するための洗浄液流入部を備え、かつ、液流出部あるいは、液流出部以外の液流出部側に独立して、幹細胞分離材に捕捉された細胞を回収するための細胞回収液流入部(体液及び洗浄液の流れとは逆方向から細胞回収液を流すため)を備えてなるものが好ましい。
【0038】
また、幹細胞分離フィルターは、幹細胞分離材に捕捉された細胞を含む細胞回収液を収納するためのバックを、液流入部または洗浄液流入部、あるいは液流入部及び洗浄液流入部以外の液流入部側に備えてなるものが好ましい。
【0039】
さらに、幹細胞分離材に捕捉された細胞を含む細胞回収液を収納するためのバックが、細胞培養可能なバックであることが好ましい。
【0040】
つまり、幹細胞分離フィルターは、回収された細胞を培養するための培養用バックを備えていても良い。培養用バックは、幹細胞分離材に捕捉された細胞を含む細胞回収液を閉鎖系で回収できるように、液流入部または洗浄液流入部に、あるいは液流入部側に独立して備えることができる。また、細胞懸濁液を回収した後は、バックを幹細胞分離フィルターから切り離して培養することができる。
【0041】
バック素材としては、酸素透過性が高く、細胞の付着性が高い素材が好ましい。酸素透過性が高い素材としては、ポリメチルペンテン、環状ポリオレフィン、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。また、細胞付着性が高い素材としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル等が上げられる。蒸気酸素透過性が高いバックに細胞付着性を付与すること等ができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、該バックは、一般的に使用されている血液バックのような形状をしていてもよいが、平板状のカートリッジ方式等でもよい。
【0042】
次に、本発明の幹細胞を分離、回収する方法は、上記幹細胞分離材または幹細胞分離フィルターを使用して、体液から幹細胞を分離、回収する方法である。なお、体液から幹細胞を上記幹細胞分離材または幹細胞分離フィルターに捕捉することにより、幹細胞を分離することができる。
【0043】
また、本発明の幹細胞回収方法は、体液の処理液を、上記幹細胞分離フィルターの液流入部より幹細胞分離フィルターに導入した後、液流入側から洗浄液を流して洗浄し、次に液流出側から細胞回収液を流すことにより、幹細胞分離材に捕捉した幹細胞を回収することを特徴とするものである。
【0044】
幹細胞回収方法について以下に説明する。
【0045】
1)体液送液工程;
該幹細胞分離フィルターに、液流入側から体液を通液する際には、体液を入れた容器から送液回路を通じて自然落下で送液しても、ポンプにより通液しても良い。また体液を入れたシリンジを直接、該フィルターに接続し、手でシリンジを押して注入してもよい。ポンプにより通液する場合は流速0.1〜100mL/min程度が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0046】
2)細胞洗浄工程;
該幹細胞分離フィルターに、液流入側から洗浄液を通液する際には、洗浄液は、回路を通じて自然落下で送液しても、ポンプにより通液しても良い。ポンプにより通液する場合の流速は、0.1〜100mL/min程度が挙げられる。洗浄量は、幹細胞分離フィルター容量により異なるが、該フィルター容積の約1〜100倍程度の体積で洗浄することが好ましい。
【0047】
細胞洗浄液としては、生理的食塩液、リンゲル液、細胞培養に使用する培地、燐酸緩衝液等の一般的な緩衝液等が挙げられるが、安全面から生理的食塩液が好ましい。
【0048】
3)細胞回収工程;
該幹細胞分離フィルターに、体液および洗浄液を流した方向とは逆方向(液流出側)から細胞回収液を入れ、幹細胞を回収する。
【0049】
細胞回収液を幹細胞分離フィルターに注入し、目的細胞を回収する時は、細胞回収液をシリンジ等に予め入れておき、シリンジのプランジャーを手等で勢いよく押し出すこと等により実現できる。回収液量および流速は、フィルター容量により異なるが、フィルター容積の1〜100倍量程度の細胞回収液を、流速0.5〜20mL/sec程度で注入することが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0050】
細胞回収液としては、等張液であれば特に限定はないが、生理的食塩液やリンゲル液等の注射用剤として使用実績のあるものや、緩衝液、細胞培養用の培地等が挙げられる。
【0051】
また、幹細胞分離フィルターに捕捉された幹細胞の回収率をあげるため、細胞回収液の粘張度を上げても良い。そのために上記細胞回収液に、アルブミン、フィブリノーゲン、グロブリン、デキストラン、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシエチルセルロース、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン等を添加することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0052】
バック内に回収した幹細胞を増殖させる場合は、細胞回収液に培養液(例えば、Dulbecco MEM(日水)、α−MEM(GIBCO BRL社製)、MEM(日水)、IMEM(日水)、RPMI−1640(日水)培地等)を使用し、フィルター付属の培養用バックに直接回収する方法等が挙げられる。この培養液には、必要に応じて血清を5〜20%程度添加しても良い。
【0053】
培養工程を経ずにそのまま、回収細胞を患部に注入する場合は、生理食塩液等の点滴等に使用実績のある等張液等、安全性が保障されている細胞回収液を使用することが好ましい。
【0054】
次に、バックに幹細胞を回収後、必要に応じて、必要量の培養液をバックに満たし、フィルターから取り外し、そのまま培養する。
【0055】
バック内に回収された幹細胞をバックのまま培養する際の条件としては、特に限定されないが、例えば、培地としてGIBCO BRL社製のα−MEM培地に15〜20%の牛胎児血清を添加したものを用い、37℃にてCO2インキュベーター内で7〜14日間、培養することが望ましい。
【0056】
細胞数を増やすために、この後さらに継代を行っても良い。この場合、幹細胞はキレート剤やディスパーゼ、コラゲナーゼ等の細胞剥離剤、好ましくはトリプシンを用いて、培養皿等から剥離、回収することができる。
【0057】
培地交換は、培地を吸い取り、新しい培地を等量加えてもよいが、培地を抜き取らずに、新しい培地を適宜加えていっても良い。特にバック培養の場合は、新しい培地を加えていくことにより、幹細胞の分離から増幅までの一連の工程を閉鎖系で実施することが出来、コンタミネーションの防止や作業効率の大幅な向上につながる。
【0058】
また、上記培養にあたっては、分化誘導剤を添加し、各種細胞に分化させることができる。分化誘導剤としては特に限定されないが、軟骨への分化誘導剤としてはデキサメタゾン、TGFβ、インシュリン、トランスフェリン、エタノールアミン、プロリン、アスコルビン酸、ピルビン酸塩、セレン等が挙げられ;骨への分化誘導剤としてはデキサメタゾン、β−グリセロリン酸、ビタミンC、アスコルビン酸塩等が挙げられ、;心筋への分化誘導剤としてはEGF、PDGF、5−アザシチジン等が挙げられ;神経への分化誘導剤としてはEGF,bFGF,bHLH等が挙げられ;血管への分化誘導剤としてはbFGF、VEGF等が挙げられる。
【0059】
次に、本発明の多分化能を有する細胞画分の生産方法は、上記幹細胞回収方法によって回収された幹細胞を、さらに増幅することを特徴とするものである。具体的には、下記(a)〜(c)工程を含有することを特徴とするものである;
(a)上記幹細胞分離フィルターを使用して体液を処理する、
(b)該幹細胞分離フィルターにおいて捕捉された細胞画分を回収する、
(c)該回収した幹細胞を増幅する。
【0060】
なお、増幅方法としては、特に限定されないが、例えば、細胞回収液に培養液(例えばDulbecco MEM(日水)、α−MEM(GIBCO BRL社製)、MEM(日水)、IMEM(日水)、RPMI−1640(日水)培地等)を使用し、フィルター付属の培養用バックに直接回収し、37℃、5%CO2インキュベーター内で増幅する方法等が挙げられる。この培養液には、必要に応じて血清を5〜20%程度添加しても良い。
【0061】
なお、上記各方法において、体液および生体組織は、哺乳動物由来のものが好ましい。つまり、哺乳動物対象から、上記体液および生体組織を取得することができる。また、哺乳動物としては、特に限定されないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ等が挙げられる。
【0062】
また、上記幹細胞回収方法により得られた幹細胞も、本発明の範囲である。当該幹細胞は、多分化能を有するものである。
【0063】
本発明においては、上記幹細胞分離材または幹細胞分離フィルターを用いて得られた幹細胞は、未分化の状態で細胞を増幅して提供することも、増幅させずに使用することも可能である。また、上記分化誘導剤等により分化誘導することにより、軟骨損傷患者に移植する細胞、骨疾患患者に移植する細胞、心筋疾患患者または血管疾患患者に移植する細胞、神経組織を損傷した患者に移植する細胞として使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
また、本発明においては、上記幹細胞分離材または幹細胞分離フィルターを用いて得られた幹細胞を、治療用細胞として使用しうる。
【0065】
さらに、当該治療用細胞を、さまざまな疾患に適用して、これらを治療することが出来る。具体的な治療対象としては、幹細胞疲労疾患、骨疾患、軟骨疾患、虚血性疾患、血管系疾患、神経病、やけど、慢性炎症、心疾患、免疫不全、クローン病等の疾患が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
(1)細胞ソース
体重約30kgの家畜ブタに筋肉注射にてケタラール、セラクタールを注入し、その後ネンブタールを静脈注射にて追加することにより麻酔を行った。10mLのシリンジに約20IU/mLになるように予めヘパリンを入れておき、腸骨より15Gの骨髄穿刺針を用いて骨髄液を採取した。次に採取した骨髄液プールに、ヘパリンを最終濃度で50IU/mLになるように添加して、十分に転倒混和を行った。
【0068】
(2)幹細胞分離フィルターの作製
出入口を供えた内径2.2cm、長さ0.9cmの円筒状のポリカーボネイト製の筒に、幹細胞分離材としてレーヨンとポリオレフィンからなる不織布(目付け=95(g/m2)、繊維径=15±9μm)を直径2.2cmの円形に打抜いて24枚を圧縮・積層し、上下をストッパーで挟み込んで幹細胞分離材を固定した幹細胞分離フィルターを作製した。このとき積層した不織布の重量は0.9gであったため、密度=2.6×105(g/m3)であった。
【0069】
(3)細胞分離性能評価
該幹細胞分離フィルター体積の約20倍量の生理食塩液にて不織布の洗浄を行った。次に、シリンジポンプにて骨髄液25mLを流速6mL/minで通液し、フィルター出口側細胞数の測定を自動血球計測装置(シスメックス K−4500)にて実施した。次に同方向から生理食塩液35mLを同流速にて流すことにより、赤血球や白血球、血小板の洗浄除去を行った。次にウシ胎児血清10%を含む細胞培養液(GIBCO α−MEM培地)100mLを、骨髄液を流した方向と逆方向から勢い良く流すことにより、目的とする細胞画分を回収し、回収溶液中の細胞数を上記自動血球計測装置にて求めた。細胞の通過率は、フィルター通過後の各種細胞数(洗浄工程にて細胞分離フィルターから流出した生理食塩液中の細胞も含む)を、フィルター通過前の各種細胞数で割ることにより求めた。また細胞の回収率は、回収溶液中の各種細胞数を、フィルター通過前の各種細胞数で割ることにより求めた。その結果、白血球通過率=76%、赤血球通過率=100%、血小板通過率=100%であった。また、白血球回収率=15%、赤血球回収率=1%、血小板回収率=6%であった。
【0070】
次に回収した細胞懸濁液の1/25量(骨髄液1mL処理相当分)にウシ胎児血清10%を含む細胞培養液(GIBCOα−MEM培地)を加えてポリスチレンシャーレ(直径10cm)に移し、37℃、5%CO2環境下で培養を行った。培養9日後にクリスタルバイオレット−メタノール液にてコロニーを染色し、出現したコロニー数を測定し、回収コロニー数とした。また、フィルター通過後の液の1/25量(骨髄液1mL処理相当分)に塩化アンモニウム水溶液を加えて赤血球を溶血し、洗浄してからウシ胎児血清10%を含む細胞培養液(GIBCOα−MEM培地)を加えてポリスチレンシャーレ(直径10cm)に移し、37℃、5%CO2環境下で培養を行った。培養9日後にクリスタルバイオレット−メタノール液にてコロニーを染色し、出現したコロニー数を測定し、通過コロニー数とした。その結果、回収コロニー数=253個、通過コロニー数=25個であった。
【0071】
(実施例2)
不織布の積層枚数を30枚(不織布重量=1.1g、密度=3.3×105g/m3)とした以外は、実施例1と同様の方法で、細胞通過率、回収率、回収コロニー数、通過コロニー数を求めた。その結果、白血球通過率=70%、赤血球通過率=100%、血小板通過率=69%、白血球回収率=18%、赤血球回収率=1%、血小板回収率=3%、回収コロニー数=277個、通過コロニー数=11個であった。
【0072】
(実施例3)
不織布の積層枚数を36枚(不織布重量=1.3g、密度=3.9×105g/m3)とした以外は、実施例1と同様の方法で、細胞通過率、回収率、回収コロニー数、通過コロニー数を求めた。その結果、白血球通過率=64%、赤血球通過率=100%、血小板通過率=43%、白血球回収率=24%、赤血球回収率=1%、血小板回収率=3%、回収コロニー数=301個、通過コロニー数=5個であった。
【0073】
(実施例4)
不織布の積層枚数を42枚(不織布重量=1.5g、密度=4.5×105g/m3)とした以外は、実施例1と同様の方法で、細胞通過率、回収率、回収コロニー数、通過コロニー数を求めた。その結果、白血球通過率=56%、赤血球通過率=100%、血小板通過率=33%、白血球回収率=25%、赤血球回収率=1%、血小板回収率=0%、回収コロニー数=312個、通過コロニー数=1個であった。
【0074】
<比較例1>
不織布の積層枚数を12枚(不織布重量=0.4g、密度=1.3×105g/m3)とした以外は、実施例1と同様の方法で、細胞通過率、回収率、回収コロニー数、通過コロニー数を求めた。その結果、白血球通過率=87%、赤血球通過率=100%、血小板通過率=100%、白血球回収率=6%、赤血球回収率=0%、血小板回収率=0%、回収コロニー数=176個、通過コロニー数=144個であった。
【0075】
<比較例2>
不織布の積層枚数を60枚(不織布重量=2.2g、密度=6.4×105g/m3)とし、フィルター洗浄用に生理食塩水を通液する際に、抵抗が強くスムーズな通液が出来なかったため、評価を中断した。
【0076】
<比較例3>
実施例1と同様に採取した骨髄液2mLをリン酸緩衝液PBS(−)2mLと混合した(2倍希釈)。次に15mL遠沈管にFicoll Paque−Plus(GEヘルスケア)を3mL添加し、該溶液の上層に先に調製した希釈骨髄液を重層した。1400rpm×30min遠心することにより、得られた単核球画分層を回収した。PBS(−)を約10mL添加し、1500rpm×10min遠心分離し、上清を除き、再度PBS(−)を約10mL添加して1500rpm×10min遠心分離した。再び上清を除き、ウシ胎児血清10%を含む細胞培養液(GIBCOα−MEM培地)を加えて上記自動血球計測装置にて各細胞回収率を求めた。また、得られた細胞懸濁液の半量(骨髄液1mL処理相当分)をポリスチレンシャーレ(直径10cm)に移し、実施例1と同様に回収コロニー数を求めた。その結果、白血球回収率=40%、赤血球回収率=0%、血小板回収率0=%、回収コロニー数=124個であった。
【0077】
なお、実施例1〜4、及び比較例1〜3の白血球、赤血球、及び血小板のフィルター通過率を表1に示した。
【0078】
【表1】

【0079】
また、実施例1〜4、及び比較例1〜3の白血球、赤血球、及び血小板のフィルター回収率を表2に示した。
【0080】
【表2】

【0081】
また、実施例1〜4、及び比較例1〜3の細胞回収液、及びフィルター通過液の幹細胞コロニー数を表3に示した。
【0082】
【表3】

【0083】
以上の結果から、本幹細胞分離材の充填密度によって、幹細胞を捕捉・回収する性能が大きく変わることが示された。具体的には、密度が小さくなれば、通過する幹細胞数が増加し、1.3×105g/m3では約半数が通過してしまう。一方、密度が大きくなれば幹細胞は捕捉されるが、回収工程において未回収の幹細胞が多くなる傾向が見られ、6.4×105g/m3では通液時に不織布の抵抗が大きくなるため様々な操作に支障をきたした。
【0084】
また、本幹細胞分離材を用いた幹細胞分離フィルターは、不要細胞である赤血球や白血球を効率的に除去することができ、さらに幹細胞回収法のスタンダードであるFicoll法に比べて優れた幹細胞回収率を有することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度K(g/m3)が2.1×105以上4.9×105以下であり、かつ、繊維径(μm)が3以上40以下であることを特徴とする幹細胞分離材
【請求項2】
分離材が不織布であることを特徴とする請求項1に記載の幹細胞分離材。
【請求項3】
ポリエステル、レーヨン、ポリオレフィン、ビニロン、ポリスチレン、アクリル、ナイロン及びポリウレタンから選ばれる少なくとも1種の合成高分子からなる請求項1または2に記載の幹細胞分離材。
【請求項4】
ポリエステル及びポリプロピレン;レーヨン及びポリオレフィン;またはポリエステル、レーヨン及びビニロンの合成高分子からなる請求項1または2に記載の幹細胞分離材。
【請求項5】
幹細胞が体液由来の付着性の幹細胞であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の幹細胞分離材。
【請求項6】
体液が、骨髄液、末梢血、臍帯血、及び月経血から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の幹細胞分離材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の幹細胞分離材を、液流入部と液流出部を有する容器に充填してなることを特徴とする幹細胞分離フィルター。
【請求項8】
液流入部あるいは、液流入部以外の液流入側に、幹細胞分離材内にとどまっている不要細胞および不要物を洗浄するための洗浄液流入部を備え、かつ、液流出部あるいは、液流出部以外の液流出部側に、幹細胞分離材に捕捉された細胞を回収するための細胞回収液流入部を供えている請求項7に記載の幹細胞分離フィルター。
【請求項9】
幹細胞分離材に捕捉された細胞を含む細胞回収液を収納するための容器を、液流入部または洗浄液流入部、あるいは、液流入部および洗浄液流入部以外の液流入側に備えてなる請求項8に記載の幹細胞分離フィルター。
【請求項10】
幹細胞分離材に捕捉された細胞を含む細胞回収液を収納するための容器が、細胞培養可能な容器であることを特徴とする請求項9に記載の幹細胞分離フィルター。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の幹細胞分離材、または請求項7〜10のいずれかに記載の幹細胞分離フィルターを使用して、体液から幹細胞を分離、回収する方法。
【請求項12】
体液または生体組織の処理液を、請求項7〜10のいずれかに記載の幹細胞分離フィルターの液流入部より幹細胞分離フィルターに導入し、液流入側から洗浄液を流して洗浄し、次に液流出側から細胞回収液を流すことにより、幹細胞分離材に捕捉した幹細胞を回収することを特徴とする幹細胞回収方法。
【請求項13】
体液が、骨髄液、末梢血、臍帯血、及び月経血から選ばれる少なくとも1種である請求項12記載の幹細胞回収方法。
【請求項14】
体液が哺乳動物由来である請求項12または13に記載の幹細胞回収方法。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれかに記載の幹細胞回収方法によって回収された幹細胞を、さらに増幅することを特徴とする、多分化能を有する細胞画分の生産方法。
【請求項16】
請求項12〜14のいずれかに記載の幹細胞回収方法によって得られた幹細胞。

【公開番号】特開2011−10581(P2011−10581A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156379(P2009−156379)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】