説明

幼児用靴

【課題】幼児が靴の左右を履き間違えないようにする靴であるとともに、未発達段階の幼児でも履き易い幼児用靴の技術提供を図る。
【解決手段】靴底部と、アッパー部とからなる幼児用靴であって、該アッパー部には、足入れ口から爪先方向に向けて切開された切開部と、該切開部を横架して足の甲を固定するための一以上の舌片部とを設け、該舌片部の裏面とこれに係合するアッパー部表面に、鉤状に起毛されたフック面又はループ状に起毛されパイル面を重ね合わせて留める一組の面ファスナーのいずれか一方の表面を其々被着し、該舌片部の固定端が、右側靴及び左側靴其々の外側に固設されている構成を採用した。また、靴の左右で係着関係を異にする面性状の面ファスナーを用いる構成や、舌片部の掴み側端部に指挿入孔を設ける構成とすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幼児用靴に関するものであり、詳しくは幼児用靴において左右の履き間違いを防止可能な幼児用靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
幼児は、その成長過程において、ある時期から親に靴を履かせてもらわなくても自分で履いて歩きだすようになる。しかし、この時期の幼児は未だ発育段階の途中にあり、左右の靴を逆にはいてしまうことが多い。係る理由として、幼児用の靴は、前ゴム運動靴(甲の部分にゴムをはめ込んだタイプのもの)のように、アッパー部(upper)に紐等の留め具のないスリップオン(slip-on)スタイルの靴が多く、左右の形状に差異が少ないため、幼児には区別がつかないということが考えられる。
【0003】
また、靴紐を縛ることまではできない時期の幼児用靴では、マジックテープ(登録商標)(以下、「面ファスナー」という)を靴の留め具に使用したものも多い。これは、鉤状面又はパイル状面の表面を重ね合わせて留めるものであるが、係る面ファスナータイプの靴は、全て内側から外側に向けて舌片を引っ張りながら張り着ける構造である。係る方向性が常に内側から外側に向け構成されている理由は、面ファスナーが歩行中に剥がれた場合等に、反対側靴との係着による転倒事故等を防止するためである。
【0004】
ここで、面ファスナーを靴の留め具に使用した靴を履く場合において、例えば、右側の靴を履く場合では、大人であれば立った状態から少ししゃがみ、右手で靴の外側から舌片を掴み、内側から外側に向けて引っ張りながら貼り着けることは容易である。しかし、立った姿勢のまま、足を足入口からアッパー内にきちんと入れて靴を履くこと自体が難しい幼児はこのような動作をすることはない。よく観察してみると、幼児は股関節が柔らかく、すぐに座り込んでしまい、胡座状態で足を目の前に位置させ、両手を駆使して履いていることがわかる。この場合、靴の内側が身体の正面に来るため、係る姿勢状態で舌片を張着するには明らかに舌片を自分の方へ引くようにした方が作業し易くなる。幼児が靴を履くところを観察すると、見分けのつきにくいスリップオンスタイルの靴よりも却って面ファスナータイプの靴の方が、逆に履く場合の多いことがわかった。
【0005】
このような左右の履き間違いによる問題は、幼児に重大な悪影響を及ぼす原因となる。なぜなら、足の基本骨格構造が構成される10歳頃までは、足骨格全体のバランスが崩れやすくデリケートな時期だからである。1〜2歳(足長12〜14cm)の歩行もまだまだ不安定なよちよち歩きの時期では、足は、骨格、筋肉ともに未発達で、足全体が厚い脂肪層で包まれており、「扁平足」の判断基準となる足の骨格アーチは未だ形成されておらず、3〜5歳(足長15cm〜17cm)の時期は、運動量の増加に伴い足の骨格が発達してくる大切な時期であり、足骨格の縦方向(足の長さ方向)のアーチ構造は、この時期に発達が始まり、横方向(足の幅方向)のアーチ構造は、6〜7歳(足長18cm〜19cm)頃から発達が始まるといわれている。したがって、左右を間違って長い時間歩いたりすると、足の骨格形成に問題が生じることになる。
【0006】
そこで、上記の問題点を解決しようと、従来より種々の技術が提案されている。例えば、靴や上履きの左右を一組として目印、模様、絵、キャラクター等を設けた靴の技術がある(特許文献1参照)。係る技術は適切に組み合わせると一つの模様等が表されるため、視覚的な意識から左右の履き間違いを防止する効果を得ている。しかし、描かれている絵に興味がない幼児や、組み合わせることで正しい状態になるということを認識できない未発達段階の幼児では効果が低く、また、履き易さに対しては何ら解決するものではない。
【0007】
さらに、装着ベルトを片麻痺患者に応じて左右自在の取付を可能とする「装着ベルト付きリハビリ靴並びに装着ベルト」の提案もある(特許文献2参照)。係る技術は左右どちらかの面ファスナーを選定して装着ベルトの引っ張り向きを絶えず麻痺等のない利き手側に向かすことができ、機能障害のもつ患者等にあって装着ベルトの締付け作業が容易になる効果を得ている。しかし、幼児が靴の左右を判断することを目的としたものではなく、シンプルで軽量であることが要求される幼児用の靴に採用するには、構成部材の増加によるコストと重量増加の問題が生じてしまう。
【0008】
またさらに、靴の一方の側面に電磁波等の検知情報発生手段を設け、他方の靴の側面に対応する検知手段を設け、検知された場合に所定の音を発生する発音手段を取り付けて、幼児に靴の左右の履き誤りを知らせることを特徴とする幼児用靴の技術も提案されている(特許文献3参照)。係る技術は適切に組み合わされないと音が発生するため、聴覚的な意識から左右の履き間違いを防止する効果を得ている。しかし、検知情報発生手段、検知手段、及び発音手段が必要になり、重量増とコストの問題が生じ、更に、防水性の確保やバッテリーの寿命の問題なども生じる。
【0009】
以上のように、上記いずれもの提案も、幼児が靴の左右を履き間違えてしまうという問題を有効に解決するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開平6−26513号公報
【特許文献2】特開2006−212134号公報
【特許文献3】特開2006−212134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、幼児が靴の左右を履き間違えないようにする靴であるとともに、未発達段階の幼児でも履き易い幼児用靴の技術提供を図る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記問題を解決するために、幼児の足の下に位置する靴底部と、該靴底部を除く幼児の足の甲を覆うアッパー部とからなる幼児用靴であって、該アッパー部には、足を挿入し易くするために足入れ口から爪先方向に向けて切開された切開部と、該切開部を横架して足の甲を固定するための一以上の舌片部とが設けられ、該舌片部の裏面とこれに係合するアッパー部表面に、鉤状に起毛されたフック面又はループ状に起毛されパイル面を重ね合わせて留める一組の面ファスナーのいずれか一方の表面が其々被着され、該舌片部の固定端が、右側靴及び左側靴其々の外側に固設されている構成の幼児用靴とした。
【0013】
また、本発明は、前記一組の面ファスナーが、右側靴と左側靴との其々において、鉤状及びループ状のサイズの相違により係着関係を異にする面性状の面ファスナーを用いている構成の幼児用靴とすることもできる。
【0014】
また、本発明は、前記舌片部の掴み側端部に指挿入孔が設けられている構成の幼児用靴とすることもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る幼児用靴によれば、幼児が左右の靴を履き間違えてしまうことを防止できるという優れた効果を奏し得る。
【0016】
前記一組の面ファスナーが、右側靴と左側靴との其々において、係着関係の構成を異にする面性状の面ファスナーを用いている構成を採用した場合には、面ファスナーが歩行中に剥がれた場合等でも、反対側靴との係着による転倒事故等を防止することが防止できるという優れた効果を奏し得る。
【0017】
前記舌片部の掴み側端部に指挿入孔が設けられている構成を採用した場合には、前記左右間違い防止効果を高めるとともに、舌片を引っ張り易くなるため、幼児でも適切な張着状態に履き心地を調整できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一の実施例に係る幼児用靴の全体構成を示す説明斜視図である。
【図2】第二の実施例に係る左右面ファスナーの係着関係説明図である。
【図3】第三の実施例に係る幼児用靴の全体構成を示す説明斜視図である。
【図4】大人と幼児の靴着用状態相違説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の発明者は、幼児が靴を自分で履くところを観察し、何故、幼児が面ファスナータイプの靴において左右を逆に履くケースが多いのかということに着目し、幼児の動作から舌片の取り付け位置を逆にすれば間違いが減少し、また、左右の区別がつく幼児にとっても履き易い靴になるという着想の下になされたものであり、舌片部50の固定端を右側靴及び左側靴其々の外側に固設したことを最大の特徴とする。以下、本発明実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は本発明に係る幼児用靴1の全体構成を示す説明斜視図である。
【0021】
靴底部10は、幼児の足の下に位置し、地面からの衝撃を緩衝し、幼児の足裏面を守る部材である。素材は、やわらかい柔軟なゴム等を用いればよく、特に限定されるものではないが、子どもは特に足の指で地面をつかむようにして歩くため、形状的には厚すぎないようにし、指を自由に動かせる余裕を持たせるようにやや幅広の形状にすることが望ましい。また、幼児はベタ足で歩くので、反りがないと蹴り出しにくく、つまづきやすくなるので、つま先が少し反りあがっている形状に形成する。
【0022】
アッパー部20は、該靴底部10を除く幼児の足の甲を覆い、靴の中で爪先からかかとにかけて足全体をしっかり支え、足が靴の中で動かないよう固定する部材である。素材については、幼児の足は多量の汗を出すため、湿気を吸収するものが望ましく、また、軽量で通気性も良く、屈曲性や耐久性に優れたものを使用する。さらに、舌片部50に固設された面ファスナー51のフック面53又はパイル面52と係合する部分に対応する位置に、フック面53又はパイル面52が縫製等により固設される。
【0023】
切開部40は、アッパー部20に足を挿入し易くするために設けられ、足入れ口30から爪先方向に向けて切開された部位である。なお、切開部40の内側には、必要に応じてタン(Tongue)を設ける。
【0024】
舌片部50は、該切開部40を横架して足の甲を固定するための一以上の帯状体であり、該舌片部50の固定端58は、右側靴及び左側靴其々の外側に縫製等により固設される。素材には、革、合成革、布、合成繊維、または天然繊維等を用い、形状は、切開部40を横架して固定するのに必要な幅及び長さと、面ファスナー51の係着面を確保できるサイズとする。
【0025】
また、該舌片部50の裏面には、鉤状55・57に起毛されたフック面53又はループ状54・56に起毛されたパイル面52を重ね合わせて留める一組の面ファスナー51の、いずれか一方の表面が縫製等により固設される。
【実施例2】
【0026】
図2は、本発明に係る第二の実施例において使用される面ファスナー51が、右側靴と左側靴との其々において、鉤状55・57及びループ状54・56のサイズの相違により係着関係を異にする面性状の面ファスナー51を用いていることを説明する係着関係説明図である。
【0027】
実施例2では、前記一組の面ファスナー51に、図に示すような、右側靴と左側靴との其々において鉤状55・57及びループ状54・56のサイズを相違させることにより、係着関係を異にする面性状の面ファスナー51を用いている。従って、仮に、面ファスナー51が歩行中に剥がれてしまった場合等でも、反対側の靴と係着することによる転倒事故等を防止することができる。具体的には、例えば、フック面53に起毛された係止部材の鉤状55とパイル面52に起毛された被係止部材のループ状56の単位面積当たりの数と大きさを図のように相違させ、一方の面ファスナー51を構成する鉤状55とループ状54とでは係着し、他方の面ファスナー51を構成する鉤状57とループ状56でも係着するが、鉤状55とループ状56とでは係着せず、また、鉤状57とループ状54も係着しない。
【実施例3】
【0028】
図3は、第三の実施例に係る幼児用靴1の全体構成を示す説明斜視図である。全体構成は、前記実施例1または実施例2と同様であるが、第三の実施例では前記舌片部50の掴み側端部に指挿入孔60が穿設されている。また、図に示すように、舌片部50を複数にすることで、足首付近、甲付近、及び爪先付近といった具合に、分割して固定できる構成にすることも有効である。なお、この場合は、複数の各舌片部50毎に指挿入孔60を穿設する。
【0029】
図4は、大人と幼児の靴着用状態の相違を説明する靴着用状態説明図であり、図4(a)は大人が面ファスナータイプの靴を履く姿勢を示しており、図4(b)は幼児が面ファスナータイプの靴を履く姿勢を示している。
【0030】
図4(a)に示すように、面ファスナータイプの靴を大人が履く場合では、立った状態から少ししゃがみ、片手で靴の外側から舌片を掴んで内側から外側に向けて引っ張りながら貼り着けることは容易である。しかし、立った姿勢のままでは、足入れ口30からアッパー部20内に足をきちんと入れて靴を履くこと自体が難しい幼児ではこのような動作をしない。幼児の場合は図4(b)に示すように、すぐに座り込んで胡座状態の姿勢を取る。股関節も柔らかいため、足を自分の目の前に位置させ、両手を駆使して履いている。このため、靴の内側が身体の正面に来るので、係る姿勢状態で舌片部50を張着するには明らかに舌片部50を自分の方へ引くようにした方が履き易い。本発明に係る幼児用靴1によれば、舌片部50を自分の方へ引くようにして張着するので幼児にも履き易く、係る動作により左右を間違え難くなる。
【符号の説明】
【0031】
1 幼児用靴
10 靴底部
20 アッパー部
30 足入れ口
40 切開部
41 タン
50 舌片部
51 面ファスナー
52 パイル面
53 フック面
54 ループ状
55 鉤状
56 ループ状
57 鉤状
58 固定端
60 指入口
70 大人
70 幼児




【特許請求の範囲】
【請求項1】
幼児の足の下に位置する靴底部と、該靴底部を除く幼児の足の甲を覆うアッパー部とからなる幼児用靴であって、
該アッパー部には、足を挿入し易くするために足入れ口から爪先方向に向けて切開された切開部と、
該切開部を横架して足の甲を固定するための一以上の舌片部とが設けられ、
該舌片部の裏面とこれに係合するアッパー部表面に、鉤状に起毛されたフック面又はループ状に起毛されたパイル面を重ね合わせて留める一組の面ファスナーのいずれか一方の表面が其々被着され、
該舌片部の固定端が、右側靴及び左側靴其々の外側に固設されていることを特徴とする幼児用靴。
【請求項2】
前記一組の面ファスナーが、右側靴と左側靴との其々において、鉤状及びループ状のサイズの相違により係着関係を異にする面性状の面ファスナーを用いていることを特徴とする請求項1に記載の幼児用靴。
【請求項3】
前記舌片部の掴み側端部に指挿入孔が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の幼児用靴。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−193975(P2011−193975A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62578(P2010−62578)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(510076199)株式会社RK (1)
【Fターム(参考)】