説明

広帯域アンテナエレメント

【課題】パソコン、あるいはPDA等の情報端末機器等の内に組込まれ、その際、情報端末機器の影響を受けることなく、安定した通信ができる広帯域アンテナエレメント、更には該エレメントを使用した広帯域アンテナを提供する。
【解決手段】放射電極部1を構成する細幅状放射電極本体2の一方の端部2aを短絡部4によりグランド板5と電気的に接続するし且つ、細幅状放射電極本体2の他方の端部2bを複数個の閉スリット3a〜3cを内包するスリット部3に接続するとともに、該細幅状放射電極本体2の端部2aに、インピーダンス補正手段としての突起部6を設ける。さらに、該スリット部3のうち、該グランド板5から最短距離にある箇所に給電点P1を設け、ここに同軸ケーブル7の内部導体を接続し、該給電点P1と対峙するグランド板5の端部5aのアースポイントP2には該同軸ケーブル7の外部導体を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パソコン、PDA(携帯型情報機器)、携帯電話、あるいはVICSなどの情報端末機器等に内蔵させる広帯域(UWB帯域)のアンテナエレメント、及び該エレメントを含む広帯域アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LANあるいはBluetooth(近距離無線データ通信システム)搭載のPDA等においては、アンテナの多周波化とともに小型化の要求が益々強まっている。これに対応するための方策として、細幅状放射電極本体の端部に複数項の閉スリットを内包するスリット部を接続してなる放射電極部をグランド板と電気的に非接続状態に構成した広帯域アンテナエレメント、及び該エレメントを含むアンテナが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
ところが、このアンテナでは、グランド板とエレメント間が電気的に非接続状態のため、パソコン等の情報端末機器等の内に組込んだ際、情報端末機器の金属筐体部の影響を受け通信が不安定になり易いことが判明した。更に、この現象は、アンテナを組込む情報端末機器間でバラツキがあり、したがって、アンテナの感度を個々に調整せざるをえず、その作業性は深刻な問題になる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−14265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、パソコン、あるいはPDA等の情報端末機器等の内に組込まれ、その際、情報端末機器の影響を受けることなく、安定した通信ができる広帯域アンテナエレメント、更には該エレメントを使用した広帯域アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上述の特許文献1のアンテナエレメントにおいて、細幅状放射電極の一方の端部、すなわちスリット部が接続されていない方の端部を短絡部によりグランド板と電気的に接続するとともに、該スリット部のうち、該グランド板と最短距離にある箇所に給電点を設けることによって、所望の広帯域アンテナエレメントを実現するに至った。
【0007】
更に、本発明の好ましい態様においては、該細幅状放射電極の一方の端部(該スリット部を有していない方の端部)近傍に、インピーダンス補正手段としての突起部を付設することにより、広帯域化が更に促進される。
【0008】
そして、上述のスリット部に設けた給電点に給電用同軸ケーブルの内部導体を、同時に、グランド板には該ケーブルの外部導体を接続することにより、広帯域化アンテナが得られる。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成を採る本発明のアンテナエレメントによれば、従来のものに比べて、帯域幅が大幅に拡大されるという格別顕著な効果が奏される。更に、アンテナエレメント自体の幅、高さとも従来のものと遜色がないので、小型化が容易で、パソコン等の情報端末機器内蔵用として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を、添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る広帯域アンテナエレメントの一態様を示す平面図である。
図2は、本発明に係る広帯域アンテナエレメントの好ましい態様を示す平面図である。
図3は、図2の広帯域アンテナエレメントを採用したアンテナの一例を示す斜視図である。
図4は、図3のアンテナの周波数特性(VSWR特性)を示す図(グラフ)である。
図5は、図2の広帯域アンテナエレメントを構成する各要素のサイズについて説明する平面図である。
図6は、本発明に係る広帯域アンテナエレメントのスリット部についての別の態様を示す平面図である。
図7は、本発明に係る広帯域アンテナエレメントの突起部についての別の態様を示す平面図である。
【0011】
図1において、(1)は放射電極部で、細幅状放射電極本体(2)とスリット部(3)とからなる。以下の説明において、この細幅状放射電極本体(2)は、単に、“放射電極本体(2)と略記する。さて、この放射電極本体(2)の一方の端部(2a)は、短絡部(4)を介してグランド板(5)に電気的に接続されている。又、他方の端部(2b)には、上述したスリット部(3)が接続されている。
【0012】
ここでは、スリット部(3)は、
斜線部分で示されるように、“目”の字状に形成された細幅状導体からなり、したがって、3個の閉スリット(3a)〜(3c)を内包している。これらスリット群は、放射電極本体(2)の長手方向と同じ方向に並列状態で設けられるのが好ましい。肝要なことは、図示したように、スリット部(3)の最下端部のうち、対峙するグランド(5)板の縁部(5a)から最短距離にある箇所に給電点(P1)を、そして、これに対応してグランド板(5)板の縁部(5a)にアースポイント(P2)を設けることである。
【0013】
以上の構成において、放射電極本体(2)とグランド板(5)とは短絡部(4)により接続されているので、パソコン等の情報端末機器等の内に組込んだ際にも、情報端末機器の金属筐体部の影響を受けることがなく、したがって、通信が基本的に安定化する。この状態で、スリット部(3)の下端中央部に設けた給電点(P1)に高周波電流が流される。そのとき、該電流はスリット部(3)の左右に分散するだけでなく、“目”の字状細幅導体の各種経路を辿って短絡部(4)へ流れ、これに伴って、基本波のみでなく、倍周波等の高調波を含めた高周波電磁界が発生して可及的に多くの共振点が生じる。したがって、スリット部(3)に内包される閉スリットの数も多い程、給電点(P1)から、より多くの高周波電流の経路が形成され好ましい。図1の例では、閉スリットの数が3個であるが、通常は2個〜5個程度にあればよい。この点に関して、給電点(P1)の位置は、高周波電流をバランス良く流れるように、スリット部(3)の下端中央部近傍に在るのが好ましい。
【0014】
図2には、本発明の好ましい態様が示されている。すなわち、図1に示した広帯域アンテナエレメントに、更に、インピーダンス補正手段としての突起部(6)を付設したものである。この突起部(6)は、斜線部分で示されており、放射電極本体(2)の端部(2a)近傍に設けられる。ここでは、その端部(2a)の上部側面に設けた例が示されている。このインピーダンス補正手段である突起部(6)は、リアクタンス成分を増大させ、帯域幅を広げるために寄与する。
【0015】
図3には、図2に示したアンテナエレメントに給電用同軸ケーブル(7)を接続してなるアンテナが示されている。ここで、該同軸ケーブル(7)の内部導体(7a)は給電点(P1)に、又、該給電点(P1)と対峙するグランド板の端部に該同軸ケーブルの外部導体が接続されその外部導体(7b)はアースポイント(P2)に接続されている。
【0016】
この図3のアンテナを、後揚の実施例に示す材質と寸法で作成し、その実験結果であるアンテナの周波数特性(VSWR特性)を示したのが図4である。この図4からも分かるように、本発明の広帯域アンテナエレメントを使用したアンテナにあっては、VSWR特性を良好に維持しながら、3GHz〜10GHzという広帯域な範囲に亘る広帯域化が実現されている。
【0017】
本発明のアンテナエレメントを構成する各要素のサイズについて、図5を参照しながら、若干触れておく。この図5は、図2のアンテナエレメントの各要素について、夫々のサイズを示すための符号を追記したものである。先ず、放射電極本体(2)については、その長さ(L)が20mm〜40mm、幅(W)が2mm〜20mmの範囲にあればよい。スリット部(3)については、その長さ(L1)が10mm〜20mm、幅(W1)が5mm〜15mmの範囲に、そして、夫々の閉スリット(3a)〜(3c)については、その長さ(L2)が5mm〜15mm、幅(W2)が0.1mm〜1mmの範囲にあればよい。他方、突起部(6)については、増大させるリアクタンス成分に応じて適宜なサイズを選択すればよいが、一般には、放射電極本体(2)の長さ(L)を基準として、長さ(L3)が20%〜50%、幅(W3)が20%〜60%の範囲にあればよい。
【0018】
更に、短絡部(4)については、その長さ(L4)が0.5mm〜10mm、幅(W4)が1.5mm〜10mmの範囲にあればよい。この短絡部(4)の形状は、放射電極本体(2)とグランド板(5)とを接続する機能を呈する限り、任意である。又、グランド板(5)については、安定したアンテナ動作を得るためには、その必要最低面積(mm2=L5×W5)はλ/4*λ/4(λは波長)以上が必要になる。したがって、より安定したアンテナ動作を望む場合には、スペースの許す限り、その面積を大きくすることが好ましい。
【0019】
以上に述べたアンテナエレメントの材質としては、洋白(白銅)、銅、鉄、黄銅等の導電性の金属が好ましく採用される。その作成にあたっては、前記金属の一枚板を放電加工により打ち抜いて、放射電極部(1)からグランド板(5)に亘る全要素の一体打ち抜き体としてもよい。あるいは、平板状絶縁性基板上に銅箔のような金属薄膜を貼り付けた状態で、該金属膜をエッチングして所望のアンテナ形状を得るのも有用である。
【0020】
このようなアンテナエレメントへの給電にあたっては、既に述べたように、給電用同軸ケーブル(7)の内部導体(7a)を給電点(P1)に、他方、該ケーブルの外部導体(7b)をアースポイント(P2)に接続すればよい。このようなにあたっては、ハンダ付あるいは超音波接続等を利用すればよい。給電用同軸ケーブル(7)としては、周知のフッ素樹脂被覆等の高周波同軸ケーブルが好ましく採用される。
【0021】
次に、本発明に係る広帯域アンテナエレメントの別の態様について、図6(スリット部の別態様)および図7(突起部の別態様)を参照しながら説明する。
【0022】
図6の態様は、放射電極本体(2)の一方の端部(2b)に、2段2列の閉スリット(3a)〜(3d)を内包する台形状スリット部(3)を設けたものである。この態様は、周波数特性に関しては、図1の場合とほぼ同等であり、放射電極本体(2)に直交する方向のスペースが少ない場合に有効である。すなわち、スリット(3a)〜(3d)を放射電極本体(2)に並行する方向に2列に配することでスペースを有効活用しているので、図1の態様に比べて更に小型化でき、スペース効率が高くなる。
【0023】
又、図7の態様では、インピーダンス補正のための円弧状(曲線状)突起部(6)を放射電極本体(2)の一方の端部(2a)から短絡板(4)とグランド板(5)に亘って設けたものである。この態様は、周波数特性に関しては、図1の場合とほぼ同等であるが、放射電極本体(2)とグランド板(5)間の空間を有効活用しているので、図1の態様に比べて更に小型化でき、スペース効率が高くなる。
【0024】
以上の図1〜図7で述べた態様は、放射電極部(1)からグランド板(5)に亘る全要素を同一平面上に配設した例である。しかしながら、このような平面状アンテナエレメントは、その設置空間に応じた形状に対応して、種々変形されて共されることは言うまでもない。
【実施例】
【0025】
以下に、図2の広帯域アンテナエレメントに、図3に示すように、給電用同軸ケーブル(7)を接続してなる、情報端末機器内蔵用アンテナの具体例を示す。
【0026】
先ず、長さ35mm、幅45mm、厚さ0.1mmの洋白からなる長方形の平板を放電加工機にて加工して、図2(及び図3)に示す形状のアンテナエレメントを得た。
【0027】
このとき、放射電極本体(2)の長さ(L)は20mmで幅(W)は3mm、スリット部(3)については、その長さ(L1)は15mmで幅(W1)は11mmとし、3箇所の閉スリット(3a)〜(3c)の夫々の長さ(L2)は10mmで幅(W2)は1mmとした。更に、インピーダンス補正手段としての突起部(6)については、長さ(L3)が7mmで幅(W3)が5mmとした。又、短絡部(4)の長さ(L4)は2mmで幅(W4)を4mm、そして、グランド板(5)の長さ(L5)は35mmとし、幅(W5)は33mmとした。
【0028】
更に、スリット部(3)の最下辺の中央部端面から1mm内側の位置に給電点(P1)を、そして、給電点(P1)に対向するグランド板(4)の縁部(5a)上端部から1mm内側の位置にアースポイント(P2)は設定した。このようにして、長さが35mm、幅が45mmという小型の広帯域アンテナエレメントが完成した。
【0029】
次で、上記の広帯域アンテナエレメントを情報端末機器に内蔵させた。その際、アンテナとして機能させるため、外径0.93mm、導体径0.24mmのフッ素樹脂(PFA)被覆の高周波同軸ケーブルを給電用同軸ケーブル(7)として用い、その内部導体(7a)および外部導体(7b)を、夫々に給電点(P1)及びアースポイント(P2)にハンダにより接続した。このようにして情報端末機器内蔵用アンテナを得た。
【0030】
最後に、このアンテナの周波数特性(VSWR)について試験したところ、図4に示す周波数特性が得られた。この図からも明らかなように、本実施例に示すアンテナにあっては、3GHz〜10GHzの広帯域に亘って共振しており、十分な帯域幅が確保されていることが分かる。
【0031】
以上は、本発明の一例に過ぎず、本発明の思想の範囲内であれば、種種の変更および応用が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の広帯域エレメント、及び該エレメントを含む広帯域アンテナは、パソコンをはじめとしてPDA等の各種情報端末機器の他に、情報家電製品あるいは自動車関連機器へも内蔵できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る広帯域アンテナエレメントの一態様を示す平面図。
【図2】本発明に係る広帯域アンテナエレメントの好ましい態様を示す平面図。
【図3】図2の広帯域アンテナエレメントを採用したアンテナの一例を示す斜視図。
【図4】図3の広帯域アンテナの周波数特性(VSWR特性)を示す図。
【図5】図2の広帯域アンテナエレメントを構成する各要素のサイズについて説明する平面図。
【図6】本発明に係る広帯域アンテナエレメントのスリット部についての別の態様を示す平面図である。
【図7】本発明に係る広帯域アンテナエレメントの突起部についての別の態様を示す平面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 放射電極部
2 細幅状放射電極本体
3 スリット部
4 短絡部
5 グランド板
6 インピーダンス補正手段としての突起部
7 給電用同軸ケーブル
P1 給電点
P2
アースポイント


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細幅状放射電極本体の一方の端部が短絡部によりグランド板と電気的に接続状態で供され且つ、以下のa〜bの要件を具備することを特徴とする広帯域アンテナエレメント。
a.該細幅状放射電極本体の他方の端部には、複数個の閉スリットを内包するスリット部が接続されていること;及び
b.該スリット部のうち、該グランド板から最短距離にある箇所に給電点が設けられていること。
【請求項2】
該細幅状放射電極本体の一方の端部近傍に、インピーダンス補正のための突起部が設けられている請求項1に記載の広帯域アンテナエレメント。
【請求項3】
該アンテナエレメントを構成する全要素が同一平面上に配されている請求項1又は2に記載の広帯域アンテナエレメント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の広帯域アンテナエレメントの給電点に給電用同軸ケーブルの内部導体が接続され他方、該給電点と対峙するグランド板の端部に該同軸ケーブルの外部導体が接続されていることを特徴とする広帯域アンテナ。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−235752(P2007−235752A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56814(P2006−56814)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
2.Bluetooth
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】