説明

広帯域アンテナ

【課題】 放射レベルが0となるヌル点が極力生じることのないアレーアンテナとする。
【解決手段】 直列給電型の3段コリニアアンテナ部10を上段に、直列給電型の3段コリニアアンテナ部20を下段に配列して6段コリニアアンテナ1を構成する。3段コリニアアンテナ部10のチルト角度と、3段コリニアアンテナ部20のチルト角度とは異なるようにされており、3段コリニアアンテナ部10および3段コリニアアンテナ部20は分配器30から並列に給電されている。3段コリニアアンテナ部10の放射パターンと、3段コリニアアンテナ部20の放射パターンとが合成されることにより、放射レベルが0となるヌル点が極力生じることのない放射パターンが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射特性を改善したアレーアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
基地局用アンテナとして複数のアンテナエレメントを直線状に多段配列させ、高利得かつ水平面内無指向特性で尖鋭なビームの放射指向特性が得られるアレーアンテナが知られている。このアレーアンテナには、複数のアンテナエレメントを直列に接続して給電する直列給電型と、電力分配して複数のアンテナエレメントに給電する並列給電型とに区分される。アレーアンテナの指向特性は、各アンテナエレメントへ供給される励振電力量(振幅値)と励振位相とに応じた指向特性となる。
直列給電型のアレーアンテナである従来の6段コリニアアンテナ100の構成を図12に示す。図12においては、第1段エレメント111ないし第6段エレメント116の構成を断面図で示している。
図12に示す従来の6段コリニアアンテナ100は、それぞれダイポールアンテナを構成する第1段エレメント111ないし第6段エレメント116が6段スタックされて構成されている。すなわち、6段コリニアアンテナ100において、第1段エレメント111の下には第2段エレメント112がスタックされ、第2段エレメント112の下には第3段エレメント113がスタックされ、第3段エレメント113の下には第4段エレメント114がスタックされ、第4段エレメント114の下には第5段エレメント115がスタックされ、第5段エレメント115の下には第6段エレメント116がスタックされている。ただし、第4段エレメント114は省略して示している。第1段エレメント111ないし第6段エレメント116におけるほぼ中央に設けられたスリーブ給電部が伝送線路とされる同軸ケーブル120により励振されており、同軸ケーブル120の下端にはコネクタ122が接続され、同軸ケーブル120は整合器121を介して第6段エレメント116内に導入されている。
【0003】
第1段エレメント111ないし第6段エレメント116はほぼ同様の構成とされ、円筒状の上段スリーブと下段スリーブとが向き合わされて構成されているダイポールアンテナにより構成されている。例えば、第1段エレメント111は下端にジョイントが嵌合された上段スリーブ111aと、上端にジョイントが嵌合された下段スリーブ111bとが向き合わされて構成されている。上段スリーブ111aと下段スリーブ111bとが間隔Fg10で向き合っている構成により励振スロットが構成されている。この励振スロットによりスリーブ給電部111cが構成され、励振スロットにおける同軸ケーブル120の外部導体は除去されて、内部導体からの放射により上段スリーブ111aと下段スリーブ111bとが励振されるようになっている。ただし、最上段の第1段エレメント111においては、同軸ケーブル120の芯線が上段スリーブ111aの下端に嵌合されたジョイントに電気的に接続されて給電されている。また、ダイポールアンテナを構成する上段スリーブ111aと下段スリーブ111bの電気長は、給電される高周波信号の波長をλとした際に約λ/4とされている。さらに、各段のエレメント111〜116を同相で励振させる場合は、スリーブ給電部間の同軸ケーブル120の長さL10の電気長は約1λ(あるいは、その整数倍)とされている。なお、同軸ケーブル120の物理長は、同軸ケーブル120の波長短縮率に応じた長さとされる。
【0004】
また、直列給電型の平面アレーアンテナとされた従来の5段アレーアンテナ200の構成を図13に示す。
図13に示す従来の5段アレーアンテナ200は、高周波特性の良好なプリント基板210に、それぞれ矩形状のパッチエレメントが5段スタックされてプリンとされて構成されている。5段アレーアンテナ200において、第5段エレメント215の上には第4段エレメント214がスタックされ、第4段エレメント214の上には第3段エレメント213がスタックされ、第3段エレメント213の上には第2段エレメント212がスタックされ、第2段エレメント212の上には第1段エレメント211がスタックされている。第1段エレメント211ないし第5段エレメント215のエレメント間は伝送線路とされるストリップ線路217で接続されており、各段のエレメントにおける下辺のほぼ中央がストリップ線路217により励振されている。第5段エレメント215から導出されているストリップ線路217の端部が5段アレーアンテナ200の給電点216とされている。なお、各段のエレメント211〜215の長さL20の電気長が約1λ(あるいは、その整数倍)とされている場合は、各段のエレメント211〜215が同相で励振されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−268289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図12に示した直列給電型の6段コリニアアンテナ100は垂直偏波仕様とされており、各段のエレメント111〜116を同相で励振させた場合における垂直面の指向特性を図14に示す。図14を参照すると、±約90°方向に先鋭な主ローブが得られており、この主ローブを基軸として左右ほぼ対称に第1ヌル点、第1サイドローブ、第2ヌル点、第2サイドローブ・・・の多数のヌル点とサイドローブが生じている放射パターンとなっている。このときの水平面の指向特性は、図示しないが無指向特性となる。
図14に示す指向特性は、6段の各エレメント111〜116が同相で励振されるように、6段のスリーブ給電部間の長さL10が電気長で約1λ(あるいは、その整数倍)とされている場合である。ここで、長さL10の電気長を変更することにより6段コリニアアンテナ100の主ローブをチルトすることができる。チルト角5°が得られるように長さL10の電気長を変更した場合の6段コリニアアンテナ100の垂直面の指向特性を図15に示す。図15を参照すると、約5°下方へチルト(±約95°方向)した先鋭な主ローブが得られており、この主ローブを基軸として左右ほぼ対称に第1ヌル点、第1サイドローブ、第2ヌル点、第2サイドローブ・・・の多数のヌル点とサイドローブが生じている放射パターンとなっていることがわかる。
図14に示す指向特性は、6段コリニアアンテナ100をチルト角5°に設計した場合のシミュレーション結果であるが、このように設計した6段コリニアアンテナ100の指向特性の実測データを図16に示す。図16を参照すると、±約94°方向へ約4°チルトした先鋭な主ビームが得られており、この主ローブを基軸として左右ほぼ対称に第1ヌル点、第1サイドローブ、第2ヌル点、第2サイドローブ・・・の多数のヌル点とサイドローブが生じている放射態様となっている。
【0007】
ところで、ヌル点における放射レベルはほぼ0となることから、ヌル方向に該当する照射地域は受信不能に陥ったり、或いは通信、画像受信等においてエラー率が上昇して正常な受信ができない恐れがある。図12に示す従来の直列給電型の6段コリニアアンテナ100においては、主ローブと各サイドローブ間に多数のヌル点が生じており、ヌル点によりレベル低減やレベル変動が誘発されるという問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、放射レベルが0となるヌル点が極力生じることのないアレーアンテナを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のアレーアンテナは、複数のアンテナエレメントに直列に給電する直列給電型とされ、第1のチルト角の指向特性とされている第1のアレーアンテナ部と、複数のアンテナエレメントに直列に給電する直列給電型とされ、前記第1のチルト角とは異なる第2のチルト角の指向特性とされており、前記第1のアレーアンテナ部と直線状に配列される第2のアレーアンテナ部と、前記第1のアレーアンテナ部と前記第2のアレーアンテナ部とに並列に給電する並列給電部とを備えることを最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアレーアンテナは、第1のアレーアンテナ部は第1のチルト角の指向特性とされ、第2のアレーアンテナ部は第2のチルト角の指向特性とされていることから、第1のアレーアンテナ部におけるヌル点の位置やサイドローブ形状と、第2のアレーアンテナ部におけるヌル点の位置やサイドローブ形状とが異なるようになる。そして、第1のアレーアンテナ部と第2のアレーアンテナ部とが並列に給電されて放射パターンが合成されることから、第1のアレーアンテナ部と第2のアレーアンテナ部とのヌル点が、相互の指向特性により補償されるようになって、0レベルとなるヌル点が極力生じることのないアレーアンテナとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のアレーアンテナの実施例とされる6段コリニアアンテナの構成を示す図である。
【図2】本発明のアレーアンテナの実施例とされる6段コリニアアンテナの単位エレメントの構成を示す斜視図である。
【図3】本発明のアレーアンテナの実施例とされる6段コリニアアンテナの第1段エレメントの詳細構成を示す断面図である。
【図4】本発明のアレーアンテナの実施例とされる6段コリニアアンテナの第2段エレメントの詳細構成を示す断面図である。
【図5】本発明のアレーアンテナの実施例とされる6段コリニアアンテナのスリーブ給電部間の長さを示す断面図である。
【図6】本発明のアレーアンテナの実施例とされる6段コリニアアンテナにおける3段コリニアアンテナの垂直面の放射指向特性を示す図である。
【図7】本発明のアレーアンテナの実施例とされる6段コリニアアンテナにおける3段コリニアアンテナの垂直面の他の放射指向特性を示す図である。
【図8】本発明のアレーアンテナの実施例とされる6段コリニアアンテナにおける3段コリニアアンテナの垂直面のさらに他の放射指向特性を示す図である。
【図9】本発明のアレーアンテナの実施例とされる6段コリニアアンテナにおける垂直面の放射指向特性を示す図である。
【図10】本発明のアレーアンテナの実施例とされる6段コリニアアンテナにおける垂直面の他の放射指向特性を示す図である。
【図11】本発明のアレーアンテナの実施例とされる6段コリニアアンテナにおける垂直面の放射指向特性の実測データを示す図である。
【図12】従来のアレーアンテナである6段コリニアアンテナの構成を示す図である。
【図13】従来のアレーアンテナである5段アレーアンテナの構成を示す図である。
【図14】従来のアレーアンテナである6段コリニアアンテナの垂直面内の指向特性を示す図である。
【図15】従来のアレーアンテナである6段コリニアアンテナの垂直面内の他の指向特性を示す図である。
【図16】従来のアレーアンテナである6段コリニアアンテナの垂直面内の指向特性の実測データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアレーアンテナの実施例である6段コリニアアンテナ1の構成を図1に示す。図1においては、第1段エレメント11ないし第3段エレメント13および第4段エレメント21ないし第6段エレメント23の構成を断面図で示している。
図1に示す本発明のアレーアンテナの実施例であるコリニアアンテナ1は、上段に配置された直列給電型の3段コリニアアンテナ部10と、この3段コリニアアンテナ部10とほぼ同軸に下段に配置された直列給電型の3段コリニアアンテナ部20とから構成されている。上段に配置された3段コリニアアンテナ部10は、それぞれダイポールアンテナを構成する第1段エレメント11、第2段エレメント12および第3段エレメント13がスタックされて構成されている。すなわち、第3段エレメント13の上には第2段エレメント12がスタックされ、第2段エレメント12の上には最上段の第1段エレメント11がスタックされている。第1段エレメント11ないし第3段エレメント13には、そのほぼ中央部に設けられたスリーブ給電部11e〜13eに伝送線路とされる同軸ケーブル14から給電されており、同軸ケーブル14の下端にはコネクタ15が設けられている。このコネクタ15には、一端が分配器30の第1端子に接続されている同軸ケーブルからなる給電線31の他端が接続されている。
【0013】
下段に配置された3段コリニアアンテナ部20は、それぞれダイポールアンテナを構成する第4段エレメント21、第5段エレメント22および第6段エレメント23がスタックされて構成されている。すなわち、第6段エレメント21の上には第5段エレメント22がスタックされ、第5段エレメント22の上には第4段エレメント21がスタックされている。第4段エレメント21ないし第6段エレメント23には、そのほぼ中央部に設けられているスリーブ給電部21e〜23eに伝送線路とされる同軸ケーブル24から給電されており、同軸ケーブル24の下端にはコネクタ25が設けられている。このコネクタ25には、一端が分配器30の第2端子に接続されている同軸ケーブルからなる給電線32の他端が接続されている。分配器30は、コネクタ30aを介して入力された高周波信号電力を2分配して、給電線31および給電線32を介して3段コリニアアンテナ部10および3段コリニアアンテナ部20に並列に給電している。このように分配器30は3段コリニアアンテナ部10および3段コリニアアンテナ部20への並列給電部であり、本発明の実施例にかかる6段コリニアアンテナ1は直列給電型の3段コリニアアンテナ部10と直列給電型の3段コリニアアンテナ部20とに分配器30から並列給電する構成とされている。なお、給電線31と給電線32との長さを異ならせると、3段コリニアアンテナ部10と3段コリニアアンテナ部20とに給電される高周波信号の位相を異ならせることができる。
【0014】
次に、3段コリニアアンテナ部10および3段コリニアアンテナ部20の各段のエレメントを構成している単位エレメント2の構成を斜視図で図2に示す。
単位エレメント2は図2に示すように、金属製とされた円筒状の上段スリーブ2aの下端面と円筒状の下段スリーブ2bの上端面とが向き合わされて配置されることによりダイポールアンテナが構成されている。図1に示す3段コリニアアンテナ部10および3段コリニアアンテナ部20の第1段エレメント11〜第3段エレメント13および第4段エレメント21〜第6段エレメント23は、図2に示す単位エレメント2により構成されている。すなわち、図1に示すように3段コリニアアンテナ部10の第1段エレメント11は上段スリーブ11aと下段スリーブ11bとが向き合わされて構成され、第2段エレメント12は上段スリーブ12aと下段スリーブ12bとが向き合わされて構成され、第3段エレメント13は上段スリーブ13aと下段スリーブ13bとが向き合わされて構成されている。また、3段コリニアアンテナ部20の第4段エレメント21は上段スリーブ21aと下段スリーブ21bとが向き合わされて構成され、第5段エレメント22は上段スリーブ22aと下段スリーブ22bとが向き合わされて構成され、第6段エレメント23は上段スリーブ23aと下段スリーブ23bとが向き合わされて構成されている。
【0015】
図1に示す本発明の実施例にかかるコリニアアンテナ1における3段コリニアアンテナ部10の第1段エレメント11と3段コリニアアンテナ部20の第4段エレメント21とは同じ構成とされており、代表として第1段エレメント11の詳細な構成を断面図で図3に示す。
図3に示す第1段エレメント11は、金属製とされた円筒状の上段スリーブ11aの下端面と、金属製とされた円筒状の下段スリーブ11bの上端面とが向き合わされて配置されてダイポールアンテナが構成されている。このダイポールアンテナに給電される高周波信号の波長をλとした際に、上段スリーブ11aおよび下段スリーブ11bの電気長は約λ/4とされている。上段スリーブ11aの下端部の内側に金属製の上段ジョイント11cが嵌挿されており、下段スリーブ11bの上端部の内側に金属製の下段ジョイント11dが嵌挿されている。下段スリーブ11b内には、隣接する下段の第2段エレメント12から導出された同軸ケーブル14が挿通されており、同軸ケーブル14が下段ジョイント11dのほぼ中央部に形成されている挿通孔内に挿通されて、同軸ケーブル14の外部導体14cが下段ジョイント11dに電気的に接続されている。
【0016】
また、下段スリーブ11bと上段スリーブ11aとの境界部において同軸ケーブル14の外部導体14cが除去され、中心導体14aを外部導体14cから絶縁して保持する絶縁体14bが露出されている。この絶縁体14bは、上記境界部を超えた部位において除去されて中心導体14aが露出されており、この中心導体14aが上段ジョイント11cのほぼ中央部に形成されている挿通孔内に挿通されて、挿通孔内において上段ジョイント11cに電気的に接続されている。そして、スリーブ間隔Fgをもって向かい合わされて配置されている上段ジョイント11cおよび下段ジョイント11dにより、励振スロットとされるスリーブ給電部11eが構成されている。このスリーブ給電部11eによりダイポールアンテナを構成している上段スリーブ11aおよび下段スリーブ11bとが同軸ケーブル14を伝達してきた高周波信号により励振されるようになる。
第4段エレメント21のダイポールアンテナを構成している上段スリーブ21aおよび下段スリーブ21bも同様にして、同軸ケーブル24を伝達してきた高周波信号により励振されるようになる。
【0017】
次に、図2に示す本発明にかかるコリニアアンテナ1における3段コリニアアンテナ部10の第2段エレメント12および第3段エレメント13と3段コリニアアンテナ部20の第5段エレメント22および第6段エレメント23とは同じ構成とされており、代表として第2段エレメント12の詳細な構成を断面図で図4に示す。
図4に示す第2段エレメント12は、金属製とされた円筒状の上段スリーブ12aの下端面と、金属製とされた円筒状の下段スリーブ12bの上端面とが向き合わされて配置されてダイポールアンテナが構成されている。このダイポールアンテナに給電される高周波信号の波長をλとした際に、上段スリーブ12aおよび下段スリーブ12bの電気長は約λ/4とされている。上段スリーブ12aの下端部の内側に金属製の上段ジョイント12cが嵌挿されており、下段スリーブ12bの上端部の内側に金属製の下段ジョイント12dが嵌挿されている。下段スリーブ12b内には、同軸ケーブル14が下から挿通されており、同軸ケーブル14が下段ジョイント12dのほぼ中央部に形成されている挿通孔内に挿通されて、その外部導体14cが下段ジョイント12dに電気的に接続されている。下段スリーブ12bから導出された同軸ケーブル14は上段スリーブ12a内に挿通されて、同軸ケーブル14が上段ジョイント12cのほぼ中央部に形成されている挿通孔内に挿通されて、その外部導体14cが上段ジョイント12cに電気的に接続されている。
【0018】
また、下段スリーブ12bと上段スリーブ12aとの境界部において同軸ケーブル14の外部導体14cが除去されて、絶縁体14bが露出されている。この絶縁体14bの内部に位置する中心導体14aと、向かい合わされて配置されている上段ジョイント12cおよび下段ジョイント12dにより励振スロットとされるスリーブ給電部12eが構成されている。このスリーブ給電部12eによりダイポールアンテナを構成している上段スリーブ12aおよび下段スリーブ12bとが同軸ケーブル14を伝達してきた高周波信号により励振されるようになる。
第3段エレメント13のダイポールアンテナを構成している上段スリーブ13aおよび下段スリーブ13bも同様にして、スリーブ給電部13eにおいて同軸ケーブル14を伝達してきた高周波信号により励振されるようになる。さらに、第5段エレメント22および第6段エレメント23のダイポールアンテナを構成している上段スリーブ22a,23aおよび下段スリーブ22b,23bも同様にして、スリーブ給電部22e,23eにおいて同軸ケーブル24を伝達してきた高周波信号により励振されるようになる。
【0019】
ところで、図5に示すように3段コリニアアンテナ部10における第2段エレメント12のスリーブ給電部12eと、隣接する第3段エレメント13のスリーブ給電部13eの間隔はdとされ、第1段エレメント11のスリーブ給電部11eと、隣接する第2段エレメント12のスリーブ給電部12eの間隔もdとされている。この間隔dは、隣接するスリーブ給電部間の同軸ケーブル14の物理長に対応している。3段コリニアアンテナ部10において、放射ビームをチルトさせない場合は、同軸ケーブル14から給電される第1段エレメント11ないし第3段エレメント13におけるそれぞれのスリーブ給電部において高周波信号によりそれぞれ同相で励振される。
ここで、直線状に各段のエレメントを配列させた3段コリニアアンテナ部10のようなアレーアンテナでは、各段のエレメントに励振される振幅と位相により、段数に応じた指向特性が形成される。同じ構造・性能のエレメントをN段等間隔で直線状に配列し、各段のエレメントに給電する電流の位相を考慮した複素電流をInとした時に、各段のエレメントの指向特性をDo(θ)とすると、アレーアンテナの指向特性は、下記(1)式で表される。
【数1】

ただし、(1)式においてf(θ)は隣接するエレメントとの間隔dと給電電流Inにより決定される配列係数であり、下記の(2)式で表される。
【数2】

式(2)において、kは波数(2π/λ)であり、δはアレーアンテナのアンテナビーム方向に関わる位相項である。
【0020】
ここで、3段コリニアアンテナ部10における第1段エレメント11ないし第3段エレメント13におけるそれぞれのスリーブ給電部において波長λの高周波信号によりそれぞれ同相で励振した場合の垂直面とされるE(電界)面の指向特性を図6に示す。図6に示す指向特性は、前記(1)(2)により計算された指向特性とされている。
図6を参照すると、±約90°方向に先鋭な主ローブが得られており、この主ローブを基軸として左右ほぼ対称に第1ヌル点、第1サイドローブ、第2ヌル点、第2サイドローブ、第3ヌル点が生じている放射パターンとなっている。
3段コリニアアンテナ部20においても、第4段エレメント21ないし第6段エレメント23におけるそれぞれのスリーブ給電部において波長λの高周波信号によりそれぞれ同相で励振した場合は、図6に示すE(電界)面の指向特性を得ることができる。
【0021】
また、3段コリニアアンテナ部10の放射ビームを下方へチルトさせる場合は、隣接する段のエレメントの励振位相に対して位相差を与えて励振させる。すなわち、隣接するスリーブ給電部とスリーブ給電部との間の間隔d(同軸ケーブル14の物理長)を変更させることにより、第1段エレメント11ないし第3段エレメント13の励振位相に位相差を生じさせる。この場合、給電される高周波信号の波長をλとした際に、隣接するスリーブ給電部とスリーブ給電部との間の電気長を約1λより若干短くするよう間隔dの長さを変更させることにより、3段コリニアアンテナ部10の放射ビームを下方へチルトさせることができる。また、隣接するスリーブ給電部とスリーブ給電部との間の電気長を約1λより若干長くするよう間隔dの長さを変更させることにより、3段コリニアアンテナ部10の放射ビームを上方へチルトさせることができる。なお、同軸ケーブル14の物理長は、同軸ケーブル14の電気長に波長短縮率を乗じた長さとされる。
【0022】
3段コリニアアンテナ部20においても、同様にして隣接するスリーブ給電部とスリーブ給電部との間の電気長を約1λより若干短くするよう間隔d’の長さを変更させることにより、3段コリニアアンテナ部20の放射ビームを下方へチルトさせることができる。また、隣接するスリーブ給電部とスリーブ給電部との間の電気長を約1λより若干長くするよう間隔d’の長さを変更させることにより、3段コリニアアンテナ部20の放射ビームを上方へチルトさせることができる。
【0023】
ここで、本発明の実施例にかかる6段コリニアアンテナ1の特徴的な構成について説明すると、上段に配置された3段コリニアアンテナ部10における第1段エレメント11ないし第3段エレメント13のスリーブ給電部間の間隔dと、下段に配置された3段コリニアアンテナ部20における第4段エレメント21ないし第6段エレメント23のスリーブ給電部間の間隔d’とは若干異ならせた構成とされている。これにより、3段コリニアアンテナ部10における第1段エレメント11ないし第3段エレメント13におけるエレメント間の励振位相の位相差と、3段コリニアアンテナ部20における第4段エレメント21ないし第6段エレメント23におけるエレメント間の励振位相の位相差とが異なるようになって、3段コリニアアンテナ部10と3段コリニアアンテナ部20の主ローブのチルト角度やサイドローブの放射パターンが相互に若干異なるようになる。すなわち、3段コリニアアンテナ部10の放射パターンにおけるヌルの位置や形状と、3段コリニアアンテナ部20の放射パターンにおけるヌルの位置や形状とが異なるようになる。そして、6段コリニアアンテナ1の放射パターンは、3段コリニアアンテナ部10の放射パターンと3段コリニアアンテナ部20の放射パターンとが合成された放射パターンとなる。これにより、3段コリニアアンテナ部10の放射パターンにおけるレベルが0に近いヌル点のレベルは、3段コリニアアンテナ部20の放射パターンにより補償され、3段コリニアアンテナ部20の放射パターンにおけるレベルが0に近いヌル点のレベルは、3段コリニアアンテナ部10の放射パターンにより補償されるようになる。従って、6段コリニアアンテナ1の放射パターンにおけるヌル点のレベルが改善されるようになり、ヌル点の数を減少させることができると共にヌル方向に該当する照射地域においても通信を可能とすることができるようになる。
【0024】
上記した本発明の実施例にかかる6段コリニアアンテナ1の特徴的な構成の具体的な一例を次に説明する。この例では、上段に配置した3段コリニアアンテナ部10の主ローブのチルト角度を−2°(アップチルト)になるよう設計すると共に、下段に配置した3段コリニアアンテナ部20の主ローブのチルト角度を5°(ダウンチルト)となる様に設計して、3段コリニアアンテナ部10と3段コリニアアンテナ部20との放射パターンを合成させるものとする。
上段の3段コリニアアンテナ部10および下段の3段コリニアアンテナにおける主ローブを所望のチルト角度にて形成する理論計算式は式(3)で表される。この場合、第1段エレメント11ないし第3段エレメント13あるいは第4段エレメント21ないし第6段エレメント23は半波長ダイポールとしている。
【数3】

ただし、式(3)において、θoはチルト角度である。
【0025】
上記(3)式を用いて上段の3段コリニアアンテナ部10の主ローブのチルト角度が−2°(アップチルト)になるよう設計した場合の指向特性D1(θ)は下記の(4)式で表され、下段の3段コリニアアンテナ部20の主ローブのチルト角度が5°(ダウンチルト)となる様に設計した場合の指向特性D2(θ)は下記の(5)式で表される。
【数4】

【数5】

ただし、(4)式および(5)式において、mは上段の3段コリニアアンテナ部10の段数、nは下段の3段コリニアアンテナ部20の段数、Imは上段の3段コリニアアンテナ部10の電流励振値、Inは下段の3段コリニアアンテナ部20の電流励振値、kは波数(2π/λ)、dは上段の3段コリニアアンテナ部10の隣接するエレメントとの間隔、d’は下段の3段コリニアアンテナ部20の隣接するエレメントとの間隔、δmは上段の3段コリニアアンテナ部10のアンテナビーム方向に関わる位相項、δnは下段の3段コリニアアンテナ部20のアンテナビーム方向に関わる位相項である。
【0026】
ここで、上段の3段コリニアアンテナ部10の主ローブのチルト角度が−2°(アップチルト)になるよう設計した場合の上記(4)式から計算された指向特性を図7に示す。図7を参照すると、±約88°方向に先鋭な主ローブが得られており、この主ローブを基軸として左右にほぼ対称にいくつかのヌル点とサイドローブが生じている放射パターンとなっているが、±90°の軸より上側に生じるサイドローブのレベルは下側に生じるサイドローブより低いレベルとなっている。
また、下段の3段コリニアアンテナ部20の主ローブのチルト角度が5°(ダウンチルト)となる様に設計した場合の上記(5)式から計算された指向特性を図8に示す。図8を参照すると、±約94°方向に先鋭な主ローブが得られており、この主ローブを基軸として左右ほぼ対称にいくつかのヌル点とサイドローブが生じている放射パターンとなっているが、±90°の軸より上側に大きなレベルの4つのサイドローブが生じており、下側にはやや小さなレベルのサイドローブが2つだけ生じている。
このように、チルト角を異ならせると主ローブの放射方向が異なることは当然であるが、ヌル点の位置やレベル、サイドローブの形状や数が異なるようになる。
【0027】
本発明の実施例にかかる6段コリニアアンテナ1の放射パターンは、3段コリニアアンテナ部10の放射パターンと3段コリニアアンテナ部20の放射パターンとが合成された放射パターンとなる。この合成された放射パターンの指向特性D(θ)は下記(6)式により表される。
【数6】

ただし、(6)式においてdcは上段の3段コリニアアンテナ部10と下段の3段コリニアアンテナ部20との間隔であり、δcは上段の3段コリニアアンテナ部10と下段の3段コリニアアンテナ部20との指向特性合成時のビーム方向に関わる位相項である。上記(6)式で計算された6段コリニアアンテナ1の合成された指向特性を図9に示す。図9を参照すると、ほぼ±約90°方向により先鋭な主ローブが得られており、この主ローブを基軸として左右ほぼ対称に少ない数のヌル点とサイドローブが生じている放射パターンとなっている。この場合、サイドローブの形状は大きく異なるようになって0°と180°方向にはヌル点が生じているが、±約60°方向および±約120°方向のヌル点のレベルが改善されている。このように、3段コリニアアンテナ部10の放射パターンにおけるヌル点のレベルは、3段コリニアアンテナ部20の放射パターンにより補償され、3段コリニアアンテナ部20の放射パターンにおけるヌル点のレベルは、3段コリニアアンテナ部10の放射パターンにより補償されるようになる。従って、6段コリニアアンテナ1の放射パターンにおけるヌル点のレベルが改善されるようになり、ヌル点の数を減少させることができると共にサイドローブの形状が異なるようになってヌル方向に該当する照射地域においても通信を可能とすることができるようになる。
【0028】
図9に示す指向特性は、上段の3段コリニアアンテナ部10と下段の3段コリニアアンテナ部20との間隔dcを約1λ(あるいはその整数倍)とした場合である。すなわち、図1に示す分配器30から上段の3段コリニアアンテナ部10に給電する給電線31の電気長と、下段の3段コリニアアンテナ部20に給電する給電線32との長さが同じ(あるいは電気長の差がλの整数倍)とされて、同相で給電した場合とされている。この場合、給電線31の電気長と給電線32の電気長を異ならせて3段コリニアアンテナ部10と下段の3段コリニアアンテナ部20との励振位相に位相差を与えることにより、本発明の実施例にかかる6段コリニアアンテナ1の指向特性をチルトすることができる。チルト角度の設計は上記(3)式において3段コリニアアンテナ部10と下段の3段コリニアアンテナ部20とを単位アンテナとみなすことにより計算することができる。
【0029】
チルト角度−2°に設計された上段の3段コリニアアンテナ部10と、チルト角度5°に設計された下段の3段コリニアアンテナ部20との励振位相にチルト角度5°となる位相差を与えて、上段の3段コリニアアンテナ部10と下段の3段コリニアアンテナ部20との放射パターンを合成した際の指向特性を図10に示す。この指向特性は上記式(6)により計算される。図10を参照すると、±約94°方向に先鋭な主ローブが得られており、この主ローブを基軸として左右ほぼ対称にサイドローブが生じておりヌル点はほぼ生じていない放射パターンとなっている。この場合、サイドローブの形状が大きく異なるようになって0°と180°方向にだけヌル点が生じており、ヌル点の数が低減されていると共にサイドローブの形状が異なるようになってヌル方向に該当する照射地域においても通信を可能とすることができるようになる。
【0030】
次に、チルト角度−2°に設計された上段の3段コリニアアンテナ部10と、チルト角度5°に設計された下段の3段コリニアアンテナ部20との励振位相にチルト角度2°となる位相差を与えて設計した本発明の実施例にかかる6段コリニアアンテナ1の指向特性の実測データを図11に示す。図11を参照すると、±約92°方向に先鋭な主ローブが得られており、この主ローブを基軸として左右ほぼ対称にサイドローブが生じておりヌル点はほぼ生じていない放射パターンとなっている。この場合、180°方向にヌル点が生じていると共に、±約60°方向にレベルの改善されたヌル点が生じているだけとされ、本発明の実施例にかかる6段コリニアアンテナ1の放射パターンにおけるヌル点のレベルを改善することができると共に、ヌル点の数を減少させることができ、ヌル方向に該当する照射地域においても通信を可能とすることができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上説明した本発明にかかるコリニアアンテナでは、上段と下段とにコリニアアンテナを配列した構成としたが、3つ以上のコリニアアンテナを直線状に配列して構成するようにしても良い。
また、以上説明した本発明にかかるコリニアアンテナにおいて、各段のエレメントに設けられている給電部間隔とされるスリーブ間隔Fgは、導体とされている上段ジョイントおよび下段ジョイントが平行性を維持しながら対峙されて構成されており、各ジョイントはエレメントを形成する上段スリーブあるいは下段スリーブに電気的導通が施されている。ジョイント同士が対峙する面は各々平滑とされており、スリーブ間隔Fgの間隔および対峙するジョイントの面積に依って、ジョイント間の容量が変化する。すなわち、スリーブ間隔Fgの寸法により各段のエレメントの給電点インピーダンスが変化するようになる。各段のエレメントの給電点インピーダンスが変化すると、励振される電流振幅が変化することにつながり、結果として各段のエレメントの励振振幅態様を電気的に制御できるようになる。
さらに、本発明の実施例にかかるコリニアアンテナにおいて、伝送線路とされる同軸ケーブルは、セミリジットケーブルやセミフレキシブルケーブル、フレキシブルケーブルなどの同軸ケーブルを用いることができる。さらにまた、本発明にかかるアレーアンテナはコリニアアンテナに限らず、図13に示す平面アンテナからなるアレーアンテナを多段に同軸に配列して形成するようにしても良い。
【符号の説明】
【0032】
1 6段コリニアアンテナ、2 単位エレメント、2a 上段スリーブ、2b 下段スリーブ、10 3段コリニアアンテナ部、11 第1段エレメント、11a 上段スリーブ、11b 下段スリーブ、11c 上段ジョイント、11d 下段ジョイント、11e スリーブ給電部、12 第2段エレメント、12a 上段スリーブ、12b 下段スリーブ、12c 上段ジョイント、12d 下段ジョイント、12e スリーブ給電部、13 第3段エレメント、13a 上段スリーブ、13b 下段スリーブ、13e スリーブ給電部、14 同軸ケーブル、14a 中心導体、14b 絶縁体、14c 外部導体、15 コネクタ、20 3段コリニアアンテナ部、21 第4段エレメント、21a 上段スリーブ、21b 下段スリーブ、21e スリーブ給電部、22 第5段エレメント、22a 上段スリーブ、22b 下段スリーブ、22e スリーブ給電部、23 第6段エレメント、23a 上段スリーブ、23b 下段スリーブ、23e スリーブ給電部、24 同軸ケーブル、25 コネクタ、30 分配器、30a コネクタ、31 給電線、32 給電線、100 6段コリニアアンテナ、111 第1段エレメント、111a 上段スリーブ、111b 下段スリーブ、111c スリーブ給電部、112 第2段エレメント、113 第3段エレメント、114 第4段エレメント、115 第5段エレメント、116 第6段エレメント、120 同軸ケーブル、121 整合器、122 コネクタ、200 5段アレーアンテナ、210 プリント基板、211 第1段エレメント、212 第2段エレメント、213 第3段エレメント、214 第4段エレメント、215 第5段エレメント、216 給電点、217 ストリップ線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナエレメントに直列に給電する直列給電型とされ、第1のチルト角の指向特性とされている第1のアレーアンテナ部と、
複数のアンテナエレメントに直列に給電する直列給電型とされ、前記第1のチルト角とは異なる第2のチルト角の指向特性とされており、前記第1のアレーアンテナ部と直線状に配列される第2のアレーアンテナ部と、
前記第1のアレーアンテナ部と前記第2のアレーアンテナ部とに並列に給電する並列給電部と、
を備えることを特徴とするアレーアンテナ。
【請求項2】
前記並列給電部は、前記第1のアレーアンテナ部の励振位相と前記第2のアレーアンテナ部の励振位相との間に位相差を与えることにより、チルトした指向特性が得られるようにしたことを特徴とする請求項1記載のアレーアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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