説明

床材の加工方法及び床材

【課題】床材表面の変色、耐久性低下を防止し、より簡易に床材表面の滑り防止を図ること。
【解決手段】床材の表面にレーザ光を照射することにより、前記床材の表面に滑り防止用の凹凸を形成する床材の加工方法において、前記床材がセメントモルタルと種石とが混在した床材であり、前記床材に対する前記レーザ光の照射位置の相対移動速度及び前記レーザ光のエネルギ密度が、前記床材の表面に露出した前記セメントモルタルは爆裂される一方、前記床材の表面に露出した前記種石は爆裂されないように設定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床材の加工方法及び床材に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の廊下や歩道等の床材として、美観を向上するために表面を平滑に研磨した床材が用いられている。このような床材としては、例えば、いわゆるテラゾ(JIS A5411のテラゾブロック、テラゾタイル)が挙げられる。テラゾはセメント及び砂に水を加え練り混ぜたセメントモルタルに、大理石又は花崗岩の砕石粒等を種石として混在させたものであり、ブロック又はタイル形状に打設し、硬化後に表面を研磨、艶出しして仕上げられる。
【0003】
一方、このような平面を平滑に研磨した床材は、特に雨天時に表面が濡れている状態では滑りやすくなり、歩行者が転倒する畏れがある。このため、床材の表面に滑り防止用の加工を施すことが提案されている。滑り防止用の加工方法としては、例えば、床材の表面に化学薬品を塗布することにより微細な孔を無数形成する方法(特許文献1)、床材の表面に滑り防止用のフィルムや塗料を設ける方法、床材の表面にレーザ光を照射し床材の表層を蒸発させ、多数の凹みを表面全体に形成させる方法(特許文献2)が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平07−324462号公報
【特許文献2】特表平11−505185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、化学薬品を塗布する方法では床材の表面が変色する場合があると共に、孔の深さとして0.007〜0.010mm程度しか得られないため、形成された孔が磨耗により、早期に消滅してしまい、耐久性がよくない。また、フィルムや塗料を設ける方法では、これらが床材の表面から剥離したり、磨耗し易く、やはり耐久性がよくない。
【0006】
レーザ光を照射する方法では、ビニルタイル、ゴムタイル、樹脂タイルのような、比較的低い温度で蒸発が生じる床材には適している。しかし、テラゾのようなセメント系複合無機質材料は、主なの構成鉱物がSi、Al、Caなどの酸化化合物で、それらの沸点は2200〜3800℃と極めて高く、その表層の蒸発に必要なエネルギーが膨大となる。このため、加工に時間がかかるという問題があると共に、床材表面が高温に曝されることにより熱劣化が生じて耐久性が低下する畏れがある。更にテラゾは物性が異なるセメントモルタルと種石とが混在しているため、床材表面に一様に均一な凹凸を得ようとするとレーザ光の照射条件の設定が困難となる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、床材表面の変色、耐久性低下を防止し、より簡易に床材表面の滑り防止を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、床材の表面にレーザ光を照射することにより、前記床材の表面に滑り防止用の凹凸を形成する床材の加工方法において、前記床材がセメントモルタルと種石とが混在した床材であり、前記床材に対する前記レーザ光の照射位置の相対移動速度及び前記レーザ光のエネルギ密度が、前記床材の表面に露出した前記セメントモルタルは爆裂される一方、前記床材の表面に露出した前記種石は爆裂されないように設定されていることを特徴とする床材の加工方法が提供される。
【0009】
本発明の加工方法によれば、レーザ光の照射により前記凹凸を形成するので、化学薬品を用いた場合のように床材の表面が変色することが防止される。また、前記相対移動速度及び前記エネルギ密度が、前記床材の表面に露出した前記セメントモルタルは爆裂される一方、前記床材の表面に露出した前記種石は爆裂されないよう設定されることにより、前記種石はそのまま残し、前記セメントモルタルの表層のみが剥離されて凹状になるため当該床材の表面に前記凹凸が形成される。
【0010】
前記セメントモルタルの表層は、レーザ光の照射に伴う含有水分等の急激な蒸発により爆裂することができる。前記種石は、その含有水分が前記セメントモルタルに比べて極めて小さいため、前記相対移動速度及び前記エネルギ密度の設定により爆裂されないようにすることができる。また、前記種石及び前記セメントモルタルの双方を蒸発させることにより表面に凹みを形成し滑り止め機能を付与する従来の方法に比べて投入エネルギは小さくて済む。このため、前記床材の表面が高温に曝されることにより熱劣化が生じて耐久性が低下することを防止できる。
【0011】
また、前記種石を爆裂しないので前記セメントモルタルの物性に応じて前記相対移動速度及び前記エネルギ密度を設定すればよく、セメントモルタルと種石とで照射条件を変える必要がないので、簡易な加工が実現できる。更に、前記種石が残存し、前記種石と前記セメントモルタルとの高低差により凹凸が形成されるので、前記床材の表面の摩擦係数が高まり、より高い防滑効果が得られる。
【0012】
また、本発明においては、前記レーザ光を前記床材の表面に照射する前に、当該床材の表面に水分を供給する工程を含む構成も採用できる。この構成によれば、前記セメントモルタルに水分を供給しておくことで、その爆裂の程度を簡易に調整することができる。
【0013】
また、本発明によれば、表面に滑り防止用の凹凸が形成された床材において、前記床材が、セメントモルタルと種石とが混在した床材であり、前記床材の表面に露出した前記セメントモルタルの少なくとも一部はレーザ光により爆裂されている一方、前記床材の表面に露出した前記種石は爆裂されていない床材が提供される。
【0014】
本発明の床材では、レーザ光の照射により前記凹凸が形成されるので、化学薬品を用いた場合のように床材の表面が変色することが防止される。また、前記セメントモルタルのみがレーザ光で爆裂されていることで、少ないエネルギで当該爆裂が行なわれているため、前記床材の表面が高温に曝されることにより熱劣化が生じて耐久性が低下することが防止される。また、前記種石が爆裂されていないので前記セメントモルタルの物性に応じて前記レーザ光の照射条件が設定でき、その加工にあたり簡易な加工が実現できる。更に、前記種石が残存し、前記種石と前記セメントモルタルとの高低差により凹凸が形成されるので、前記床材の表面の摩擦係数が高まり、より高い防滑効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
以上述べた通り、本発明によれば、床材表面の変色、耐久性低下を防止し、より簡易に床材表面の滑り防止を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1(a)は本実施形態の加工方法の対象となる床材10の平面図、図1(b)は図1(a)の線I−Iに沿う断面図である。床材10はセメントモルタル11と種石12とが混在した床材であり、JIS A5411に規定されるテラゾ(テラゾブロック、テラゾタイル)である。セメントモルタル11はセメント及び砂に水を加え、練り混ぜて構成され、種石12は大理石、花崗岩、御影石等の天然石である。
【0017】
床材10は、硬化前のセメントモルタル11に種石12を骨材状に混入して型に打設し、セメントモルタル11を養生して硬化させることにより製造される。床材10の表面は平滑に研磨される。床材10の表面には図1(a)に示すように複数の種石12が露出する。床材10の表面における種石12の部分の面積は、例えば、当該表面の全面積の50〜60%程度とされる。
【0018】
次に、本発明の1実施形態に係る加工方法について説明する。図2(a)は本発明の1実施形態に係る加工方法の概略説明図である。本実施形態では、レーザ光の照射器20により、床材10の表面にレーザ光を照射し、セメントモルタル11の表層を爆裂させ床材10の表面に滑り防止用の凹凸を形成する。図2(a)の例は、レーザ光を床材10の表面で走査する例を示している。つまり、照射器20を床材10のX方向に移動させた後、Y方向に移動し、−X方向に移動させることを繰り返すことにより、床材10の表面に対するレーザ光の照射位置を順次移動させ、当該表面全体にレーザ光を照射する例を示したものである。
【0019】
なお、このようにレーザ光の照射位置を床材10に対して相対的に移動させる場合は、照射器20ではなく、床材10を移動するようにしてもよいし、照射器20と床材10との双方を移動するようにしてもよい。
【0020】
床材10の表面にレーザ光を照射すると、床材10の表面が急加熱され、セメントモルタル11の表層に含まれている水分が蒸発し、主にその水蒸気圧の作用により床材のセメントモルタル11の表層が爆裂する。これが滑り防止用の凹凸となる。
【0021】
本実施形態では、照射器20のレーザ光の照射条件を、床材10の表面に露出したセメントモルタル11は爆裂される一方、床材10の表面に露出した種石12は爆裂されないように設定する。種石12の含有水分はセメントモルタル11の含有水分よりも非常に小さく、従って、レーザ光の照射条件をセメントモルタル11のみが爆裂するように設定することができ、この場合、種石12は爆裂せずに当初の状態のまま残ることになる。
【0022】
セメントモルタル11のみが爆裂するようにすると、セメントモルタル11の表層のみが剥離されて床材10の表面に種石12と、爆裂したセメントモルタル11の表層との高さの差により防滑用の凹凸を形成することができる。図2(b)は加工後の床材10の断面図であり、セメントモルタル11の表層のみが爆裂されており、種石12は爆裂されていない。セメントモルタル11及び種石12を蒸発させて凹みを形し滑り止め機能を付与する方法に比べてエネルギは小さくて済む。このため、床材10の表面が高温に曝されることにより熱劣化が生じて耐久性が低下することを防止できる。また、種石12を爆裂しないのでセメントモルタル11の物性に応じてレーザ光の照射条件が設定でき、より均一な凹凸を得るにあたりセメントモルタル11と種石12とで照射条件を変える必要がないので、簡易な加工が実現できる。また、化学薬品を用いた場合のように床材10の表面が変色することも防止される。
【0023】
セメントモルタル11のみを爆裂させるレーザ光の照射条件は、本実施形態のようにレーザ光の照射位置を順次移動させていく場合はレーザ光のエネルギ密度(床材10表面でのレーザ光の単位面積あたりのエネルギ)と照射位置の相対移動速度とから設定することになる。
【0024】
レーザ光のエネルギ密度と相対移動速度とは、レーザ光の種類(その波長)に応じて異なる。これは床材10に対するレーザ光の吸収率がレーザ光の波長により異なるからである。床材10に照射するレーザ光の種類としては、炭酸ガスレーザ光(波長:10.6μm)、Nd:YAGガスレーザ光(波長:1.06μm)、半導体レーザ光或いはファイバーレーザ光(波長:0.6〜1.5μm)が挙げられるが、炭酸ガスレーザ光は床材10に対する吸収率が各段に高いため、他の種類のレーザに比べて相対移動速度を早くでき、他のレーザ光に比べてセメントモルタル11をより効率的に爆裂させることができる。
【0025】
図3はレーザ光の種類に応じた、セメントモルタル11のみを爆裂するのに適切なレーザ光のエネルギー密度及び照射位置の相対移動速度を示す図である。図3において、S1は炭酸ガスレーザ光の場合の適切な照射条件の範囲を示し、S2はNd:YAGガスレーザ光、半導体レーザ光或いはファイバーレーザ光の場合の適切な照射条件の範囲を示している。同図から同じエネルギ密度であれば炭酸ガスレーザ光の方が相対移動速度を早くできることが分かる。
【0026】
なお、レーザ光を床材10の表面に照射する前に、床材10の表面に水分を供給しておくことが望ましい。予めセメントモルタル11の表層を吸水させておくとで、その含有水分を増量し、レーザ光照射時の爆裂が促進される。従って、水分の供給により、爆裂の程度を簡易に調整することができる。
【0027】
セメントモルタル11の爆裂深さは、レーザ光の照射条件や床材10の表面の含水率によっても異なるが、0.3mm乃至3mm程度の深さが得られる。セメントモルタル11の爆裂深さがこのように比較的深い一方で種石12が損傷せずに残っているので、防滑効果が長期間維持され、耐磨耗性も高い。
【0028】
また、図2(a)の例では、床材10の表面全体にレーザ光を照射したが、これに限られず、部分的にレーザ光を照射するようにしてもよい。図4(a)はレーザ光の照射部分を所定ピッチの複数の帯状にしたものである。図4(b)はレーザ光の照射部分を散点的にしたものである。各照射部分は方形をなしており、その長手方向の向きが異なるものが混在している。図4(c)はレーザ光の照射部分を縦横の帯状にしたものである。縦と横とで帯の幅も異なっている。図4(d)はレーザ光の照射部分を散点的にしたものである。各照射部分はドーナツ型をなしている。これらの例では、凹凸を付した部分が模様を形成するように見えることになる。
【実施例】
【0029】
<実施例1>
種石の種類や大きさの異なる6種類の市販品のテラゾ床材(A乃至F:30cm×30cm)について、本発明の加工方法を施す前後の、床材表面の動摩擦係数を測定した。レーザ光は炭酸ガスレーザ光とし、床材を複数回往復移動させることにより、床材表面全体にレーザ光を照射し、凹凸を形成した。照射条件は以下の通りである。
【0030】
レーザ光の出力:1000W
床材表面でのレーザ光の直径:2.1cm
レーザ光のエネルギ密度:289W/cm2
床材の移動速度:300cm/min
レーザ光の重ね代:0.3cm
なお、レーザ光の重ね代とは、隣接する照射部分の重なり幅である。
【0031】
加工の結果、床材A乃至Fの表面において、セメントモルタルは爆裂され、種石は爆裂されないことを確認した。また、セメントモルタルの爆裂深さは0.5〜1.6mmであった。加工の前後での動摩擦係数の計測は市販のテスターを用いて行い、いずれの場合も床材の表面を水で濡れた状態として行なった。図5(a)は動摩擦係数の計測結果を示す図である。加工前では動摩擦係数が0.04〜0.20であるのに対し、加工後では0.48〜0.63となっており、滑り止め効果が得られている。
【0032】
<実施例2>
実施例1の6種類の市販品のテラゾ床材を敷設した既設床に対して、可搬式のレーザ光照射器を用いて本発明の加工方法を実施し、床材表面の動摩擦係数を測定した。レーザ光は炭酸ガスレーザ光とし、床材表面に対してレーザ光を走査して凹凸を形成した。レーザ光は床材表面全体に照射するのではなく、図4(a)に示すようにレーザ光の照射部分を所定ピッチ(3mm)の複数の帯状にした。照射条件は以下の通りである。
【0033】
レーザ光の出力:100W
テラゾ板表面でのレーザ光の直径:0.5cm
レーザ光のエネルギ密度:509W/cm2
レーザ光の移動速度:500cm/min
加工の前後での動摩擦係数の計測は実施例1の場合と同様、市販のテスターを用いて行い、いずれの場合も床材の表面を水で濡れた状態として行なった。図5(b)は動摩擦係数の計測結果を示す図である。加工前では動摩擦係数が0.04〜0.20であるのに対し、加工後では0.40〜0.49となっており、滑り止め効果が得られている。このように既設床の床材に対しても本発明は適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】(a)は床材10の平面図、(b)は(b)は図1(a)の線I−Iに沿う断面図である。
【図2】(a)は本発明の1実施形態に係る加工方法の概略説明図、(b)は加工後の床材10の断面図である。
【図3】レーザ光の種類に応じた、セメントモルタル11のみを爆裂するのに適切なレーザ光のエネルギー密度及び照射位置の相対移動速度を示す図である。
【図4】(a)乃至(d)は部分的にレーザ光を照射する場合の例を示す図である。
【図5】(a)及び(b)は本発明の加工方法の施工前後での動摩擦係数の計測結果を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
10 床材
11 セメントモルタル
12 種石
20 レーザ光の照射器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床材の表面にレーザ光を照射することにより、前記床材の表面に滑り防止用の凹凸を形成する床材の加工方法において、
前記床材がセメントモルタルと種石とが混在した床材であり、
前記床材に対する前記レーザ光の照射位置の相対移動速度及び前記レーザ光のエネルギ密度が、前記床材の表面に露出した前記セメントモルタルは爆裂される一方、前記床材の表面に露出した前記種石は爆裂されないように設定されていることを特徴とする床材の加工方法。
【請求項2】
前記レーザ光を前記床材の表面に照射する前に、当該床材の表面に水分を供給する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の床材の加工方法。
【請求項3】
表面に滑り防止用の凹凸が形成された床材において、
前記床材が、セメントモルタルと種石とが混在した床材であり、
前記床材の表面に露出した前記セメントモルタルの少なくとも一部はレーザ光により爆裂されている一方、前記床材の表面に露出した前記種石は爆裂されていないことを特徴とする床材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−19647(P2008−19647A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193199(P2006−193199)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】