説明

床構造体の製造方法

【課題】リフォームや改修時などにおいて、下地材を破壊することもなく、残った接着剤を取り除く必要もなく、新しい床材を貼り付けることができる、従来の床構造体の接着工法よリも簡便で経済的な接着工法を提供する。
【解決手段】下地材に接着剤によって床材を貼り付ける床構造体の接着工法において、床材を貼り直す作業をする際に、床材の裏面クッションと、床材を固定する接着剤との界面で、床材を剥離(界面破壊)させた後、残存する接着剤層の上に、新たな接着剤を塗布し、新しい床材を貼り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地材に接着剤によって床材を貼り付ける床構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の床の構造としては、接着剤を用いて下地材と床材を接着したものが広く採用されている。床材としては、木質系床材、硬質塩ビ系床材、軟質塩ビ系床材等が使用されており、特に、防音性やクッション性の目的のために、裏面に発泡シートやゴムなどの裏面クッション材を有する床材が幅広く使用されている。接着剤としては、エポキシ樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、ウレタン樹脂系又はエマルジョン系などが使用される。下地材としては、コンクリート、モルタル、合板、パーティクルボートなどがあり、また、床暖房の場合には、暖房機器の表面である金属が接着面となりうる。
【0003】
建物の建築後所定の年数が経過して床材表面に傷がついたり、また引越しの際に床に傷がついた場合や傷がつかなくても部屋の雰囲気を変えたい場合等には、施工後リフォームの要求が生じる場合が多く、通常、床材を剥がして床材を貼り直す貼リ替えリフォームがなされる。
【0004】
また、床材を施工する際に発生する不具合を改修する方法として、床材施工後に一部を剥し、新しい床材を貼る作業がなされる。
【0005】
しかし、従来の床構造体の接着工法の場合、床材を張り替えようとすると、床材、特に、裏面クッション材が凝集破壊したり、接着剤が凝集破壊したり、場合によっては、下地材が破壊するため、張替えするためには、接着剤を取り去ったり、下地を補修したりする作業が必要となり、張替え作業を困難としてきた。たとえば、特許文献1に開示されているように、古いフローリング材の除去に際しては、古いフローリング材を床下地材から剥離し、床下地材に残存している接着剤をハツリ作業等によリ除去する必要がある。接着剤として、通常接着力が大きいものが使用されるが、このような接着剤であると、古いフローリング材を床下地材から剥離するのが困難で古いフローリング材を破壊せざるえない場合がある。また、床下地材に残存している接着剤を除去することも困難であって、床下地材を破損し床下地材の再施工が必要な場合がある。
【0006】
そのため、これまで、いくつかの改善検討がなされている。特許文献2〜4には、接着剤として、充填剤、特に中空構造の充填剤、を含有する接着剤を使用すると、古いフローリング材を床下地材から剥離することや床下地材に残存している接着剤を除去することが容易になることが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2〜4に開示されている接着剤を使用した床構造体のリフォームにおいても、接着剤が凝集破壊するため、床下地面からの古い接着剤の除去、床下地面の清浄化作業も必要になる。
【0008】
特許文献5〜7にはリフォーム等に際して、床材を剥離しやすいように、床材裏面(床下地材側)にクラフト紙や不織布などの層間剥離する(クラフト紙や不織布自体が二層剥離する)剥離材を貼付した床材が開示されている。しかし、床材に特別の加工をする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−88818号公報
【特許文献2】特開2004−307788号公報
【特許文献3】特開2009−24095号公報
【特許文献4】特許2009−24096号公報
【特許文献5】特開昭53−089229号公報
【特許文献6】特開平9−242312号公報
【特許文献7】実開昭53−032537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、従来の床構造体の接着工法よリ、簡便で経済的な接着工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、下地材と接着剤との接着力、接着剤の凝集力、接着剤と裏面クッション材との接着力、裏面クッション材の凝集力、裏面クッション材と表面ボード材との接着力を調整することにより、実用上問題のない床構造体性能を有しながら、張替え時に剥離する際、接着剤や裏面クッション材を凝集破壊することなく、接着剤と裏面クッションの界面で剥離させることが可能であることを見出した。
【0012】
さらに、下地に付着し残存した接着剤層上に、新たな接着剤で新たな床材を施工しても、実用上問題のない床構造体を製造できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は次の床構造体の接着工法に関する。
【0014】
(1)下地材に接着剤によって床材を貼り付ける床構造体の接着工法であって、床材を貼り直す作業をする際に、床材の裏面クッションと、床材を固定する接着剤との界面で破壊が起こることを特徴とする床構造体の接着工法、
(2)前記の床構造体の接着工法であって、床材を貼り直す作業をする際に、下地材上に残存する接着剤層の上に、新しい床材を設置することを特徴とする床構造体の接着工法、
(3)前記の床構造体の接着工法であって、直貼り床に使用することを特徴とする床構造体の接着工法、
(4)前記の床構造体の接着工法であって、床材が木床系床材であることを特徴とする床構造体の接着工法、
(5)前記の床構造体の接着工法であって、接着剤が反応性接着剤である床構造体の接着工法、
(6)前記の床構造体の接着工法であって、接着剤が変成シリコーン樹脂を含有する接着剤である床構造体の接着工法、
に関する。
【0015】
床材を貼り直す作業をする際に、下地材上に残存する接着剤層の上に、新しい床材を設置する際の接着剤は接着剤が変成シリコーン樹脂を含有する接着剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の床構造体の接着工法によれば、リフォーム時においても、床材剥離後、すでに塗工された接着剤層を除去せずに新しい床材を設置できるため、容易に、且つ、経済的に床材の張替えが可能である。また、床材として剥離層等を有する特別に加工された床材を使用する必要がない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、下地材に接着剤によって床材を貼り付ける床構造体の製造方法において、床材を貼り直す作業をする際に、床材の裏面クッションと、床材を固定する接着剤との界面で破壊させるというものである。下地と接着剤との接着力、接着剤の凝集力、接着剤と裏面クッション材との接着力、裏面クッション材の凝集力、裏面クッション材と表面ボード材との接着力を適切に調整することにより、実用上問題のない床構造体性能を有しながら、張替え時に剥離する際、接着剤や裏面クッション材を凝集破壊することなく、接着剤と裏面クッションの界面で剥離させることが可能である。
【0018】
本発明に使用する床材は、特に、制限はないが、木質系床材、硬質塩ビ系床材、軟質塩ビ系床材、オレフィン系床材、タイル、石材等があり、裏面に発泡シートやゴムなどの裏面クッション材を有しているものが好ましい。中でも、木質系床材は、戸建住宅やマンション等の床材と幅広く使用されており、リフォームの際に剥がす作業が必要であるため、本発明が有効である。
【0019】
本発明で使用する床材の下地材としては、一般の下地材が使用できるが、合板、パーティクルボード、ALCボード、石膏ボード、スレート板、コンクリート、モルタル、金属等が用いられる。また、暖房用エレメントや断熱ボード等も使用することができる。
【0020】
当該発明の接着工法は、残存接着剤の除去に作業手間がかかる直貼り床の場合に、工程時間等改善効果が大きく、特に有効である。
【0021】
本発明に使用される接着剤としては、特に限定はなく、例えば、合成樹脂系接着剤、合成ゴム系接着剤や反応性接着剤をあげることができる。中でも、作業性、接着特性、揮発性成分の少なさから、反応性接着剤が好ましい。反応性接着剤としては、変成シリコーン樹脂系接着剤、エポキシ変成シリコーン樹脂系接着剤、アクリル変成シリコーン樹脂系接着剤、シリル化ウレタン樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等をあげることができる。中でも、強度と剥離性のバランスの良さと揮発性成分の少なさから、変成シリコーン樹脂を含有する接着剤であるところの変成シリコーン樹脂系接着剤、エポキシ変成シリコーン樹脂系接着剤、アクリル変成シリコーン樹脂系接着剤が特に好ましい。
【0022】
変成シリコーン樹脂は、例えば、特公昭45−36319号、同46−12154号、特開昭50−156599号、同54−6096号、同55−13767号、同55−13468号、同57−164123号、特公平3−2450号、米国特許3632557号、米国特許4345053号、米国特許4366307号、米国特許4960844号、特開昭61−197631号、同61−215622号、同61−215623号、同61−218632号、特開平3−72527号に提案されているものが使用できる。
【0023】
変成シリコーン樹脂系接着剤とは、加水分解性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を含む接着剤を指す。
【0024】
加水分解性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格であるポリオキシアルキレン鎖は、通常の苛性アルカリを用いる重合法によって製造されたもの、亜鉛ヘキサシアノコバルテートなどの複合金属シアン化物錯体を触媒として用いる重合法によって製造されたものを用いることができる。
【0025】
加水分解性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格であるポリオキシアルキレン鎖は、1種類だけの繰り返し単位からなっていてもよく、他の繰り返し単位が含まれていてもよい。繰り返し単位としては、オキシエチレン、オキシプロピレン、オキシブチレン、オキシテトラメチレンなどに起因する繰り返し単位が例示される。特にオキシプロピレン単位を80重量%以上、好ましくは90重量%以上含有するポリオキシプロピレンを主成分とする重合体が、非晶質であることや比較的低粘度である点から好ましい。
【0026】
加水分解性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体の加水分解性ケイ素基とは、ケイ素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、縮合反応によりシロキサン結合を形成することにより架橋し得る基である。具体例としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基、ジイソプロポキシメチルシリル基、メトキシジメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基などがあげられる。活性が高く良好な硬化性が得られることから、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基がより好ましく、貯蔵安定性の点からジメトキシメチルシリル基が特に好ましい。
【0027】
エポキシ変成シリコーン樹脂系接着剤とは、加水分解性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体とエポキシ樹脂とを含む接着剤を指す。該接着剤は、使用前には、加水分解性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体とエポキシ樹脂とが(1)混合されて同一の容器に密封されている形態でもよいし、(2)別々の容器に密封されていて使用時に混合して用いる形態でもよい。
【0028】
アクリル変成シリコーン樹脂系接着剤とは、加水分解性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体と加水分解性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体とを含む接着剤を指す。なお、加水分解性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体とは、加水分解性ケイ素を有し、主鎖骨格が、アクリル酸アルキルエステル単量体単位、および/または、メタクリル酸アルキルエステル単量体単位からなる共重合体である。
【0029】
接着剤の形態としては、1液型でも2液型でも使用することができるが、取り扱いが容易である点で1液型が好ましい。
【0030】
本発明は、下地材に接着剤によって床材を貼り付ける床構造体の接着工法であって、床材を貼り直す作業をする際においては、下地材上に残存する接着剤層の上に、新しい床材を設置するものである。すなわち、本発明は、リフォームされる古い床構造体から古い床材を除去する際においては、古い床材は床材の裏面クッション材と、床材を固定する接着剤との界面において剥離するため、下地材上には床材を接着するために使用した接着剤層が残存する。本発明においては、残存した接着剤の表面は十分に平滑であり、また、下地は不陸調整がなされているのが通常であるので、残存している接着剤層の上に新たな床材を設置することが可能となる。
【0031】
古い床材を剥離した後に新たに設置する床材は、以前に設定されていたものと同じでもよいし、違っていてもよい。古い床材を剥離した後に、下地材上に残存する接着剤層の上に、新たに使用する接着剤は、接着特性から、反応性接着剤、特に、変成シリコーン樹脂を有する接着剤、たとえば、変成シリコーン樹脂系接着剤、エポキシ変成シリコーン樹脂系接着剤、アクリル変成シリコーン樹脂系接着剤が特に好ましい。
【実施例】
【0032】
以下に本発明を実施例に基づき説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
裏面にクッション材のついた木床系床材を、変成シリコーン樹脂系接着剤を用いて、下地材のスレート板上に接着した。23℃、50%RH(相対湿度)で一週間養生後、さらに、50℃、90%RH(相対湿度)の条件下で14日間放置したが、床材の目すきや突き上げは見られず、床鳴りも確認されなかった。その後、室温に戻してから、床材を剥離したところ、床材は工具を用いずに剥離でき、床材の裏面クッション材と接着剤の間で界面破壊となった。また、下地材のスレート板上に残存する接着剤表面は平滑であった。次に、下地材のスレート板上に残った接着剤上に、再度、変成シリコーン樹脂系接着剤を塗布して、裏面クッション材のついた新しい木床系床材を接着し、23℃、50%RH(相対湿度)で一週間養生後、さらに、50℃、90%RH(相対湿度)の条件下で14日間放置し、目すきや突き上げを確認したが、ともに、見られなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地材に接着剤によって床材を貼り付ける床構造体の接着工法であって、床材を貼り直す作業をする際に、床材の裏面クッションと、床材を固定する接着剤との界面で破壊が起こることを特徴とする床構造体の接着工法。
【請求項2】
請求項1記載の下地材に接着剤によって床材を貼り付ける床構造体の接着工法であって、床材を貼り直す作業をする際に、下地材上に残存する接着剤層の上に、新しい床材を設置することを特徴とする床構造体の接着工法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の床構造体の接着工法が、直貼り床に使用する工程であることを特徴とする床構造体の接着工法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の床材が木床系床材であることを特徴とする床構造体の接着工法。
【請求項5】
接着剤が反応性接着剤である請求項1〜4のいずれか1項に記載の床構造体の接着工法。
【請求項6】
接着剤が変成シリコーン樹脂を含有する接着剤である請求項1〜5のいずれか1項に記載の床構造体の接着工法。


【公開番号】特開2011−236620(P2011−236620A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108321(P2010−108321)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】