説明

床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシート及びそれを有する建築部材

【課題】高硬度で、密着性、耐擦傷性、耐候性及び低カール性に優れる床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートを提供する。
【解決手段】
基材と、該基材上から表面硬度が低い順に積層された三層以上のハードコート層とを備え、前記基材上に第一ハードコート層と、前記ハードコート層の最外層に第三ハードコート層と、前記第一ハードコート層と前記第三ハードコート層との間に第二ハードコート層とが少なくとも配置された床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートにおいて、特定の(メタ)アクリロイル基数を有する化合物(A)と、光重合開始剤(B)と、必要に応じて紫外線吸収剤(C)とを含む別々のコート剤を活性エネルギー線照射で硬化させて、各ハードコート層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック表面に高硬度及び低カール性を付与する床用活性エネルギー硬化型ハードコートフィルム又はシート及び該床用活性エネルギー硬化型ハードコートフィルム又はシートを有する建築部材に関するものである。更に詳しくは、ポリエステル、アクリル、ポリカーボネート等のプラスチック表面に塗布することで、優れた硬度、透明性、耐擦傷性、耐薬品性、耐候性及び低カール性を付与することが可能な床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、プラスチックは、建築業界、自動車業界、家電業界、電気電子業界を初めとして種々の産業界で大量に使用されている。このようにプラスチックが大量に使用される理由としては、その優れた加工性や透明性に加えて、軽量且つ安価であり、光学特性が優れること等が挙げられる。しかしながら、プラスチックは、ガラスなどに比べて柔らかく、表面に傷が付きやすいなどの欠点を有している。これらの欠点を改良するため、一般には、プラスチック表面にハードコート剤をコーティングする手法が行われている。このハードコート剤としては、通常、シリコーン系塗料、アクリル系塗料、メラミン系塗料などの熱硬化型のハードコート剤が用いられている。これらの中でも、特にシリコーン系ハードコート剤は、ハードネスが高く、品質が優れているため、多く用いられている。しかしながら、熱硬化型のハードコート剤は、硬化時間が長く、高価であるため、連続的に加工するフィルムに設けられるハードコート層として適しているとは言えない。
【0003】
近年、感光性のアクリル系ハードコート剤が開発され、利用されている(例えば、特開平9−48934号公報(特許文献1)参照)。感光性ハードコート剤は、紫外線などの放射線を照射することにより、直ちに硬化して硬い皮膜を形成するため、加工処理スピードが速く、またハードネス、耐擦傷性などに優れた性能を持ち、トータルコスト的に安価になるため、今やハードコート分野の主流になっている。特に、ポリエステルなどのプラスチックのフィルムの連続加工には適している。プラスチックのフィルムとしては、ポリエステルフィルム、アクリルフィルム、ポリカーボネートフィルム、塩化ビニルフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエーテルスルホンフィルムなどが挙げられるが、これらの中でも、ポリエステルフィルムが種々の優れた特性から最も広く使用されている。このポリエステルフィルムは、ガラスの飛散防止フィルムの他、自動車の遮光フィルム、ホワイトボード用表面フィルム、システムキッチン表面防汚フィルムとして広く使用されており、さらに電子材料的には、CRTフラットテレビ、タッチパネル、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機ELディスプレイなどの機能性フィルム、家電製品のボディやスイッチ、携帯電話やパソコンの筐体として広く用いられている。これらの用途には、いずれもその表面に傷が付かないようにするためにハードコート剤が塗工されている。
【0004】
また、上記プラスチックのフィルムの他にも、ハードコートされたポリカーボネートやアクリル等のプラスチックのシートが、基板として光ディスクや基材としてバックライト周辺の液晶関連部材に使用されている。
【0005】
近年におけるハードコート剤をコーティングした基材については、耐擦傷性等のハードコート層としての性能を向上させ、該基材をさらに強靭化するために、更にハードコート層の硬度を高めることが可能なハードコート剤が求められている。
【0006】
特開2002−36436号公報(特許文献2)には、透明基材フィルムの片面に第一のハードコート層と、該第一のハードコート層上にさらに第一のハードコート層よりもユニバーサル硬度が大きい第二のハードコート層とを有する、少なくとも二層のハードコート層からなるハードコートフィルムが記載されている。特開2002−36436号公報に記載のハードコートフィルムは、ディスプレイの表面、タッチパネル、ガラス等の保護フィルムに好適な旨記載されている。しかしながら、ハードコート層が三層からなり、床用のフィルム又はシートとして適用された例は、開示されていない。
【0007】
特開2006−58574号公報(特許文献3)には、プラスチック基材上に、硬化型エポキシアクリレートを含む第一のハードコート層と、該第一のハードコート層上に硬化型ウレタンアクリレートを含む第二のハードコート層とが積層され、第二のハードコート層のユニバーサル硬度が第一のハードコート層のユニバーサル硬度よりも大きいハードコートフィルムが記載されている。特開2006−58574号公報に記載のハードコートフィルムは、偏光板に付して使用され、さらに第二のハードコート層上に低屈折率層が積層される場合もあるが、ハードコート層が三層からなり、床用のフィルム又はシートとして適用された例は、開示されていない。
【0008】
ところで、建物等の床面には、通常、コンクリート等の床面に塩化ビニルシートやポリオレフィンタイル等の床材を貼り付ける手法が採られている。これら床面は、表面にワックスをコーティングすることにより外観上の見栄えを改善しているが、近年、光沢の改善や傷つき防止のため、ワックスの代替としてハードコートフィルムを建物の床面に貼着する手法等も提案されている(例えば、特開2007−85114号公報(特許文献4)参照)。
【0009】
【特許文献1】特開平9−48934号公報
【特許文献2】特開2002−36436号公報
【特許文献3】特開2006−58574号公報
【特許文献4】特開2007−85114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特開2007−85114号公報に記載の床用保護シートは、表面保護層として紫外線硬化型樹脂からなる層を備えているものの、硬度等のハードコート層としての性能に関し十分に検討がなされているものではなく、依然として改良の余地があることが分かった。
【0011】
なお、ハードコート層の硬度を上げる方法としては、コート剤に用いる原料の架橋密度を上げる方法、原料を構成する分子構造の骨格として硬い材料を選定する方法、厚膜塗工する方法等が挙げられるが、ハードコート層を配置させる基材がフィルム又はシートである場合に、コート剤に用いる原料の架橋密度を上げ過ぎたり、ハードコート層を厚膜化し過ぎたりすると、ハードコートフィルム又はシートに反り(カール)が発生し、この反りがクラック発生の原因となる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消し、優れた硬度、透明性、密着性、耐擦傷性、耐候性及び低カール性を有する床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートを提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートを有する建築部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、(メタ)アクリロイル基数が異なる化合物をそれぞれ含む別々のコート剤を用い、表面硬度が上層になるに従って高くなる三層以上のハードコート層を基材上に形成させることで、基材の表面上に高表面硬度及び低カール性を付与できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
即ち、本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートは、基材と、該基材上から表面硬度が低い順に積層された三層以上のハードコート層とを備える床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートにおいて、
前記基材上に第一ハードコート層と、前記ハードコート層の最外層に第三ハードコート層と、前記第一ハードコート層と前記第三ハードコート層との間に第二ハードコート層とが少なくとも配置され、
前記第一ハードコート層及び前記第三ハードコート層が、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)及び光重合開始剤(B)を含むコート剤を活性エネルギー線照射で硬化させてなり、前記第二ハードコート層が、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)、光重合開始剤(B)及び紫外線吸収剤(C)を含むコート剤を活性エネルギー線照射で硬化させてなり、
前記第一ハードコート層用コート剤は、(メタ)アクリロイル基数が1〜2である化合物(A)を含み、前記第二ハードコート層用コート剤は、(メタ)アクリロイル基数が2〜3である化合物(A)を含み、前記第三ハードコート層用コート剤は、(メタ)アクリロイル基数が3以上である化合物(A)を含むことを特徴とする。
【0015】
なお、フィルムとシートは、厚みによって区別されており、厚みが200μm未満をフィルムと称し、厚みが200μm以上をシートと称している。
【0016】
ここで、本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートは、基材上から表面硬度が低い順に積層された三層以上のハードコート層を備えていればよく、前記基材と前記第一ハードコート層との間に第一ハードコート層より表面硬度が低いハードコート層を一層以上有していてもよいし、前記第一ハードコート層と前記第二ハードコート層との間に第一ハードコート層より表面硬度が高く且つ第二ハードコート層より表面硬度が低いハードコート層を一層以上有していてもよいし、前記第二ハードコート層と前記第三ハードコート層との間に第二ハードコート層より表面硬度が高く且つ第三ハードコート層より表面硬度が低いハードコート層を一層以上有していてもよい。
【0017】
本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの好適例においては、基材と、該基材上に配置された第一ハードコート層、該第一ハードコート層上に配置され且つ第一ハードコート層より表面硬度が高い第二ハードコート層、及び該第二ハードコート層上に配置され且つ第二ハードコート層より表面硬度が高い第三ハードコート層からなる三層のハードコート層とを備える床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートである。
【0018】
本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの他の好適例においては、基材と、該基材上から表面硬度が低い順に積層された三層以上のハードコート層とを備える床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートにおいて、
前記基材上に第一ハードコート層が配置され、前記ハードコート層の最外層に第三ハードコート層が配置され、前記第一ハードコート層と前記第三ハードコート層との間に第二ハードコート層が配置され、前記基材と前記第一ハードコート層との間に第一ハードコート層より表面硬度が低いハードコート層を一層以上配置されてなる。
【0019】
本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの他の好適例においては、前記第一ハードコート層用コート剤に用いる(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)が、エポキシ(メタ)アクリレートである。
【0020】
本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの他の好適例においては、前記紫外線吸収剤(C)が、分子内に(メタ)アクリロイル基を一つ有する化合物(D)である。
【0021】
本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの他の好適例において、前記第三ハードコート層用コート剤は、さらに平均粒子径が1〜200nmのコロイダルシリカ(E)を含有する。
【0022】
本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの他の好適例においては、更に、前記基材の第一ハードコート層と反対側の面に配置された接着層又は易接着層を備える。
【0023】
本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの他の好適例においては、更に、前記基材の第一ハードコート層と反対側の面に配置された印刷層を備える。
【0024】
また、本発明の建築部材は、上記の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、(メタ)アクリロイル基数が異なる化合物をそれぞれ含む別々のコート剤を用いることにより、硬度について特定の関係を満たす三層以上のハードコート層が基材上に配置された、高硬度、透明性、密着性、耐擦傷性、耐候性及び低カール性に優れる床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートを提供することができる。また、かかる床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートを有する建築部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートを、図を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの一例の断面図であり、図2は、接着層又は易接着層が配置された本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの一例の断面図であり、図3は、印刷層が配置された本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの一例の断面図である。なお、図1〜3において同じ符号は同じ部材であることを示す。また、図示例の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートは、三層のハードコート層を備えるが、本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートにおいて、ハードコート層の枚数は三枚以上であればよく、これに限られるものではない。
【0027】
図1に示すハードコートフィルム又はシートは、基材1と、該基材1上に配置された第一ハードコート層2と、該第一ハードコート層2上に配置された第二ハードコート層3と、該第二ハードコート層3上に配置された第三ハードコート層4とを備える。また、図示例のハードコートフィルム又はシートにおいては、基材1の第一ハードコート層2と反対側の面と第三ハードコート層4上にそれぞれ配置された保護フィルム5を備えるが、本発明のハードコートフィルム又はシートにおいて、保護フィルム5を備えることは必須ではない。
【0028】
ここで、本発明のハードコートフィルム又はシートのハードコート層は、少なくとも三層からなり、基材に接するハードコート層から最外層のハードコート層に向かって表面硬度が高くなることを要する。図1に示すハードコートフィルム又はシートのハードコート層は、第二ハードコート層3が第一ハードコート層2より表面硬度が高く、第三ハードコート層4が第二ハードコート層3より表面硬度が高いことを要する。上記ハードコート層の表面硬度を、基材1上に配置された最内側のハードコート層(即ち、第一ハードコート層2)から順に高くすることで、厚膜化しても、単層品や二層品に比べ、カールを抑えることができる。また、本発明のハードコートフィルム又はシートのハードコート層は、少なくとも三層構造からなるが、基材と第一ハードコート層との間に第一ハードコート層の表面硬度より低い表面硬度を有するハードコート層を複数有していてもよく、三層以下有することが好ましい。従って、本発明のハードコートフィルム又はシートのハードコート層は、六層構造以下からなることが好ましく、三層構造からなることが特に好ましい。それにより、カールが抑制され厚膜化が可能となり、その結果、表面硬度を格段に向上させることができる。該ハードコート層が二層以下では、低カール性及び表面硬度が共に不十分である。一方、六層を超えると、膜厚が厚くなりすぎて加工性が低下したり、表面硬度も限界に達するおそれがある。更に、多層構成でのコスト的なデメリットも挙げられる。
【0029】
図2に示すハードコートフィルム又はシートは、基材1の第一ハードコート層2と反対側の面に配置された接着層又は易接着層6を備える。上記基材1の第一ハードコート層2と反対側の面に接着層又は易接着層6の内の接着層を配置する場合、ハードコートフィルム又はシートに接着性が付与され、建物等の床面に容易に貼着することができる。また、接着層又は易接着層6の内の易接着層を選択する場合、易接着層側の塗工や印刷などの加工が容易となる。なお、図2に示す通り、接着層又は易接着層6の基材1と反対側の面に、離型フィルム7を配置する。また、接着層又は易接着層6の基材1と反対側の面及び第三ハードコート層4上の面の少なくともいずれか一方の面に保護フィルム5を配置してもよい。
【0030】
図3に示すハードコートフィルム又はシートは、基材1の第一ハードコート層2と反対側の面に配置された印刷層8を備える。印刷層8を配置することにより、ハードコートフィルム又はシートに印字や模様等を施すことができる。なお、図示例のハードコートフィルム又はシートは、上記基材1の第一ハードコート層2と反対側の面に印刷層8を備えるが、本発明のハードコートフィルム又はシートにおいて、印刷層の配置場所はこれに限られるものではない。また、図示例のハードコートフィルム又はシートは、更に接着層又は易接着層と離型フィルムを備えてもよいし、図3に示す通り、保護フィルム5を備えることもできる。
【0031】
本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートにおいては、第一ハードコート層及び第三ハードコート層が、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)及び光重合開始剤(B)を含むコート剤を活性エネルギー線照射で硬化させてなり、第二ハードコート層が、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)、光重合開始剤(B)及び紫外線吸収剤(C)を含むコート剤を活性エネルギー線照射で硬化させてなる。なお、該コート剤には、本発明の目的を害しない限り、種々の添加剤を配合することができる。また、本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートが第一〜第三ハードコート層以外のハードコート層を備える場合、第一〜第三ハードコート層以外のハードコート層は、特に制限されないが、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)及び光重合開始剤(B)を含むコート剤を活性エネルギー線照射で硬化させてなるものが好ましい。
【0032】
上記コート剤に用いる(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)は、アクリロイル基(CH2=CHCO−)又はメタクリロイル基(CH2=C(CH3)CO−)を一つ以上有する化合物である。本発明において、第一ハードコート層用コート剤は、(メタ)アクリロイル基数が1〜2である化合物(A)を含み、前記第二ハードコート層用コート剤は、(メタ)アクリロイル基数が2〜3である化合物(A)を含み、前記第三ハードコート層用コート剤は、(メタ)アクリロイル基数が3以上である化合物(A)を含むことを要する。一般に、コート剤に用いる化合物(A)の(メタ)アクリロイル基数が増加するに従い、得られるハードコート層の硬度が上昇することになるが、各ハードコート層用コート剤に用いる化合物(A)の(メタ)アクリロイル基数が上記特定した範囲内にあれば、ハードコート層の性能として十分な硬度を保持しつつ、ハードコートフィルム又はシートでの反り(カール)の発生をも抑制することができる。なお、第三ハードコート層用コート剤に用いる化合物(A)の(メタ)アクリロイル基数は、3〜6であることが好ましい。
【0033】
上記コート剤に用いる(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)としては、例えば、(メタ)アクリロイル基を有するポリマー、オリゴマー及びモノマーを必要に応じて適宜選択することができる。具体的には、脂環式(メタ)アクリレート、芳香環を有する(メタ)アクリレート、複素環を有する(メタ)アクリレート、水酸基を有する(メタ)アクリレート、エーテル基を有する(メタ)アクリレート、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、これら(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
上記脂環式(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリシクロデシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0035】
上記芳香環を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェニルグリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
上記複素環を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0037】
上記水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
上記エーテル基を有する(メタ)アクリレートとしては、エチルカルビトール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
上記多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を複数有し、ウレタン結合(−NHCOO−)を一つ以上有する化合物である。また、上記多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートとポリイソシアネート類の反応物である。ここで、水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。一方、ポリイソシアネート類としては、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0040】
上記ウレタン(メタ)アクリレートは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を一つ有し、ウレタン結合(−NHCOO−)を一つ以上有する化合物である。また、上記ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリオール類と、ポリイソシアネート類と、水酸基を有する(メタ)アクリレートとの反応物である。ここで、ポリオール類としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。また、ポリイソシアネート類としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。更に、水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン付加物等が挙げられる。
【0041】
上記ウレタン(メタ)アクリレートの合成において、ポリイソシアネート類のイソシアネート基は、ポリオール類の水酸基1当量あたり1.1〜2.0当量が好ましく、反応温度は、70〜90℃が好ましい。
【0042】
上記エポキシ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸の反応物である。ここで、ポリエポキシ化合物は、ポリグリシジル化合物が好ましい。具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等が挙げられ、これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0043】
上記エポキシ(メタ)アクリレートの合成においては、ポリエポキシ化合物のエポキシ基1当量に対し、(メタ)アクリル酸を0.8〜1.5当量で反応させるのが好ましく、0.9〜1.1当量で反応させるのが特に好ましい。また、反応を促進させるため、例えば、ベンジルジメチルアミン、トリエチルアミン、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ジメチルピリジン、トリメチルホスフィン等の触媒を使用することが好ましく、該触媒の使用量は、反応混合物中0.1〜10質量%が好ましく、0.3〜5質量%が更に好ましい。更に、反応中の重合を防止するため、例えば、メトキノン、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、フェノチアジン等の重合禁止剤を使用することが好ましく、該重合禁止剤の使用量は、反応混合物中0.01〜1質量%が好ましく、0.05〜0.5質量%が更に好ましい。反応温度は60〜150℃であり、好ましくは80〜120℃である。
【0044】
また、本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートのコート剤には、化合物(A)として2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が含まれる。ここで、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、上記したものの他、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε−カプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート(例えば、日本化薬(株)製KAYARAD HX−220、HX−620等)、ビスフェノールAのエチレンオキシド(EO)付加物のジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
上記第一〜第三ハードコート層の形成に用いるコート剤において、上記(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)の含有率は、該コート剤の固形分中に占める量を質量百分率で表した場合、いずれも30〜99質量%が好ましく、40〜98質量%が更に好ましい。なお、本発明において「コート剤の固形分」とは、コート剤の成分において希釈剤(H)以外の成分を指す。また、上記第一ハードコート層用コート剤中の(メタ)アクリロイル基数が1〜2である化合物(A)の含有率は、該コート剤の固形分中に占める量を質量百分率で表した場合、50〜98質量%であることが好ましく、上記第二ハードコート層用コート剤中の(メタ)アクリロイル基数が2〜3である化合物(A)の含有率は、該コート剤の固形分中に占める量を質量百分率で表した場合、50〜98質量%であることが好ましく、上記第三ハードコート層用コート剤中の(メタ)アクリロイル基数が3以上である化合物(A)の含有率は、該コート剤の固形分中に占める量を質量百分率で表した場合、40〜98質量%であることが好ましい。
【0046】
上記コート剤に用いる光重合開始剤(B)は、活性エネルギー線を照射されることによって、上述した(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)等の化合物の重合を開始させる作用を有する。該光重合開始剤(B)としては、ベンゾイン類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキサイド類等が挙げられる。なお、これら光重合開始剤(B)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
上記ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。
【0048】
上記アセトフェノン類としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0049】
上記アントラキノン類としては、例えば、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノン等が挙げられる。
【0050】
上記チオキサントン類としては、例えば、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン等が挙げられる。
【0051】
上記ケタール類としては、例えば、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
【0052】
上記ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、4,4’−ビスメチルアミノベンゾフェノン等が挙げられる。
【0053】
上記ホスフィンオキサイド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0054】
また、上記光重合開始剤(B)は、市場より容易に入手可能であるが、具体的には、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製イルガキュア184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、イルガキュア907(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン)、BASF社製ルシリンTPO(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド)等が挙げられる。
【0055】
上記第一〜第三ハードコート層の形成に用いるコート剤において、上記光重合開始剤(B)の含有率は、該コート剤の固形分中に占める量を質量百分率で表した場合、いずれも0.1〜10質量%が好ましく、1〜7質量%が更に好ましい。
【0056】
また、上記光重合開始剤(B)には、硬化促進剤を併用することができる。併用し得る硬化促進剤としては、例えば、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、2−メチルアミノエチルベンゾエート、ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等のアミン類、2−メルカプトベンゾチアゾール等の水素供与体が挙げられる。上記コート剤における硬化促進剤の含有率は、該コート剤の固形分中に占める量を質量百分率で表した場合、0〜5質量%である。
【0057】
更に、上記コート剤には、耐候性向上剤(F)を用いてもよい。該耐候性向上剤(F)としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、金属酸化物系、オキザリニド系、サリシレート系、シアノアクリレート系、ホルムアミジン系等の紫外線吸収剤(C)、フェノール系、ホスファイト系、ヒンダードフェノール系等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系、ベンゾエート系等の光安定剤等が挙げられる。
【0058】
上記紫外線吸収剤(C)の具体例としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として、アデカスタブLA−51、LA−1413(ADEKA社製)、UVINUL D−49(BASF社製)が挙げられ、ベンゾトリアゾール系として、TINUVIN 320、326、328、900、1130(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、アデカスタブLA−36、LA−31、LA−32(ADEKA社製)、RUVA−93、PUVA−30M、PUVA−30S(大塚化学社製)が挙げられ、トリアジン系として、TINUVIN 1577、PS、P、PFL、234、213、571(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)が挙げられる。
【0059】
上記耐候性向上剤(F)の使用方法としては、いずれのハードコート層に添加してもよいが、硬度、密着性、耐擦傷性、低カール性と耐候性を兼ね備えるには、第二ハードコート層を形成するコート剤に紫外線吸収剤(C)を添加することを要する。かような紫外線吸収剤(C)としては、分子内に(メタ)アクリロイル基を一つ有する化合物(D)が好ましく、該化合物(D)の中でもベンゾトリアゾール系が好ましく、具体的には、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学社製RUVA−93)等が挙げられる。なお、第二ハードコート層の形成に用いるコート剤に紫外線吸収剤(C)を添加する理由としては、第一ハードコート層の形成に用いるコート剤に紫外線吸収剤(C)を用いる場合、硬化性の低下が著しく、塗工後の巻き取り時に、塗工面と裏面とが付着してしまう(ブロッキング)おそれがあるからである。また、第三ハードコート層の形成に用いるコート剤に紫外線吸収剤(C)を用いる場合、第三ハードコート層の硬度が低くなり過ぎ、結果としてハードコート層全体の硬度が低下するおそれがある。
【0060】
上記第一〜第三ハードコート層の形成に用いるコート剤において、上記耐候性向上剤(F)の含有率は、該コート剤の固形分中に占める量を質量百分率で表した場合、いずれも0〜20質量%が好ましく、1〜10質量%が更に好ましい。
【0061】
また更に、上記コート剤には、ハードコート層の硬度を高める観点から、コロイダルシリカ(E)、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、ダイヤ粒子等の微粒子(G)を用いることが好ましく、これらの中でも、コロイダルシリカ(E)が特に好ましい。
【0062】
上記コロイダルシリカ(E)は、平均粒子径が1〜200nmであることを要し、5〜100nmであることが好ましく、10〜50nmであることが更に好ましい。コロイダルシリカ(E)の平均粒子径が1nm未満では、粒径の保持、分散の安定化が難しく、粘度が急激に上昇する傾向があり、一方、200nmを超えると、透明性が低下し、外観が悪化する傾向にある。また、コロイダルシリカ(E)は、pH=2〜6であることが好ましい。なお、コロイダルシリカ(E)は、通常の方法により製造され、市販されているものを用いることができ、例えば、日産化学工業(株)製オルガノシリカゾル:MEK−ST等が入手可能である。なお、本発明において、平均粒子径は、BET法の平均粒子径として測定することができる。
【0063】
上記コロイダルシリカ(E)は、分散媒に分散させたコロイド溶液として用いてもよいし、微粉末のシリカとして用いてもよい。コロイダルシリカ(E)の分散媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ダイアセトンアルコールなどのアルコール類、エチレングリコールなどの多価アルコール類及びその誘導体、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミドなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸n−ブチルなどのエステル類、トルエン、キシレンなどの非極性溶媒、通常の有機溶剤類が挙げられる。なお、分散媒の使用量は、コロイダルシリカ100質量部に対し、通常100〜900質量部である。
【0064】
上記第一〜第三ハードコート層の形成に用いるコート剤において、上記微粒子(G)の含有率は、該コート剤の固形分中に占める量を質量百分率で表した場合、いずれも0〜80質量%が好ましく、20〜60質量%が更に好ましい。
【0065】
更にまた、上記コート剤には、該コート剤の粘度を低減させる観点から、希釈剤(H)を用いることができる。該希釈剤(H)としては、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−ヘプタラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類;ジオキサン、1,2−ジメトキシメタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類;フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類;トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、シクロヘキサン等の炭化水素類;トリクロロエタン、テトラクロロエタン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;石油エーテル、石油ナフサ等の石油系溶剤等の有機溶剤類;2H,3H−テトラフルオロプロパノール等のフッ素系アルコール類、パーフルオロブチルメチルエーテル、パーフルオロブチルエチルエーテル等のハイドロフルオロエーテル類;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール等のアルコール類;ケトンとアルコールの両方の性能を兼ね備えたダイアセトンアルコール等が挙げられる。これら希釈剤(H)は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
上記第一〜第三ハードコート層の形成に用いるコート剤において、上記希釈剤(H)の含有率は、該コート剤中、いずれも0〜90質量%が好ましく、30〜80質量%が更に好ましい。
【0067】
また、上記コート剤には、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、重合禁止剤、架橋剤などを添加することができ、それぞれの添加剤の目的とする機能を付与することも可能である。例えば、レベリング剤としてはフッ素系化合物、シリコーン系化合物、アクリル系化合物等が、重合禁止剤としては、メトキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノン等が、架橋剤としては、上述のポリイソシアネート類、メラミン化合物等が挙げられる。
【0068】
上記コート剤は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)に、光重合開始剤(B)と、必要に応じて適宜選択した添加剤を任意の順序で添加し、混合して調製できる。このようにして得られたコート剤は、経時的に安定である。
【0069】
本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートは、例えば、基材1の外表面に第一ハードコート層用コート剤を塗布した後、乾燥し、活性エネルギー線照射して第一ハードコート層2を形成し、次いで該第一ハードコート層2の外表面に第二ハードコート層用コート剤を塗布した後、乾燥し、活性エネルギー線照射して第二ハードコート層3を形成し、次いで該第二ハードコート層3の外表面に第三ハードコート層用コート剤を塗布した後、乾燥し、活性エネルギー線照射して第三ハードコート層4を形成することで作製できる。ここで、上記コート剤の塗布方法としては、例えば、バーコーター塗工、メイヤーバー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、マイクログラビア塗工、マイクロリバースグラビアコーター塗工、ダイコーター塗工、ディップ塗工、スピンコート塗工、スプレー塗工などが挙げられる。また、活性エネルギー線としては、放射線、ガンマ線、アルファ線、電子線、紫外線等が挙げられ、これらの中でも、紫外線が好ましい。紫外線照射により硬化させる場合、光源として、キセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプなどを有する紫外線照射装置が使用され、光量、光源の配置などが適宜調整される。例えば、高圧水銀灯を備える紫外線照射装置では、80〜120W/cm2のエネルギーを有するランプ1灯に対して搬送速度5〜60m/分で硬化させるのが好ましい。一方、電子線照射により硬化させる場合、100〜500eVのエネルギーを有する電子線加速装置を使用するのが好ましい。
【0070】
上記第一ハードコート層用コート剤には、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)として、エポキシ(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。エポキシ(メタ)アクリレートを用いて第一ハードコート層を形成した場合、該第一ハードコート層は、基材との密着性が良好で、他のハードコート層との密着性も良好である。また、かかる第一ハードコート層は、柔軟性を有しており、第二ハードコート層及び第三ハードコート層の歪みを緩和することができる。
【0071】
上記第二ハードコート層用コート剤には、紫外線吸収剤(C)を添加することを要する。紫外線吸収剤(C)を用いて第二ハードコート層を形成した場合、基材の黄変やハードコート層の劣化を防止することができ、耐候性を必要とする用途に適している。
【0072】
上記第三ハードコート層用コート剤には、硬度を高めるためにコロイダルシリカ(E)を添加することが好ましく、更に硬度を高めるには、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、ダイヤ粒子などを添加することも可能である。また、第三ハードコート層の外表面を艶消しする際に、粒径の大きな粒子を添加することで、マット調の艶消し感を出すこともできる。
【0073】
上記第一ハードコート層及び第二ハードコート層は、膜厚が5〜15μmが好ましく、上記第三ハードコート層は、膜厚が3〜10μmが好ましく、そして、ハードコート層の膜厚の合計は、10〜50μmが好ましく、15〜30μmがより好ましい。
【0074】
また、JIS K 5400に準拠した鉛筆引っかき試験において、第一ハードコート層の表面硬度はB〜2Hであることが好ましく、第二ハードコート層の表面硬度は、3H〜5Hであることが好ましく、第三ハードコート層の表面硬度は、6H以上であることが好ましく、7H〜9Hであることが更に好ましい。
【0075】
なお、上記基材としては、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリエーテルスルホン、シクロオレフィン系ポリマーなどのフィルム又はシートが挙げられる。また、基材には、図2に示すように接着層又は易接着層6を設けてもよいし、図3に示すように印刷層8を設けてもよく、更に、コロナ処理等の表面処理を施してもよいし、離型処理(離型フィルムの配設を含む)を施してもよい。また、図1から図3に示すように、本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの表面を保護するために、保護フィルム5を設けてもよい。
【0076】
また、本発明の建築部材は、上記の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートを有することを特徴とする。上記床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートを有する建築部材は、耐擦傷性、耐薬品性、耐候性、低カール性に優れる。従って、本発明の建築部材を、Pタイル、セラミックタイル、大理石、人工大理石、御影石、ガラス、樹脂シート等を有する飲食店舗、小売店舗、コンビニエンスストア、工場、官公庁、病院、学校、施設、駅、空港、一般住宅等に用いるのが好ましい。
【実施例】
【0077】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。また、以下において特に断りがない限り、組成表示のおける「部」は質量部を示す。
【0078】
(コート剤の調製)
表1に記載の各成分を攪拌混合し、塗液A〜Gを調製した。
【0079】
【表1】

【0080】
*1 ビスフェノールAタイプエポキシアクリレート,アクリロイル基数:1〜2,日本化薬(株)製KAYARAD R−381.
*2 1,6−ヘキサンジオールジアクリレート,アクリロイル基数:2,日本化薬(株)製KAYARAD HDDA.
*3 トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート,アクリロイル基数:3,東亞合成(株)製アロニックスM−315.
*4 ジペンタエリスリトールヘキサ/ペンタアクリレート,アクリロイル基数:5〜6,日本化薬(株)製KAYARAD DPHA.
*5 1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン,チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Irgacure 184.
*6 2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド,BASF社製ルシリンTPO.
*7 2−(2'−ヒドロキシ−5'−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール,メタクリロイル基:1,大塚化学製RUVA−93.
*8 シリカゾル,日産化学工業(株)製オルガノシリカゾルMEK−ST,メチルエチルケトン分散シリカゾル:SiO230質量%,平均粒子径10〜20nm.
*9 メチルエチルケトン.
*10 メチルイソブチルケトン.
*11 プロピレングリコールモノメチルエーテル.
【0081】
(実施例1)
塗液A(第一ハードコート層用コート剤)、塗液B(第二ハードコート層用コート剤)及び塗液D(第三ハードコート用コート剤)を用い、易接着処理済みPETフィルム(東洋紡(株)製コスモシャインA4300,厚み100μm)上に三層のハードコート層を形成し、ハードコートフィルムを得た。なお、それぞれの塗液を塗布した後の乾燥温度は、約80〜100℃であり、各塗液の硬化には、紫外線照射器(高圧水銀灯120W/cm、10m/分×1パス)を用いた。また、各ハードコート層の膜厚は、第一ハードコート層が約7μm、第二ハードコート層が7μm、第三ハードコート層が5μmであった。更に、各ハードコート層の表面硬度は、第一ハードコート層がH、第二ハードコート層が3H、第三ハードコート層が8Hであった。
【0082】
(実施例2)
第二ハードコート層用コート剤として塗液Bに代えて塗液Cを用いた以外は、実施例1と同様にして、ハードコートフィルムを得た。また、各ハードコート層の膜厚は、第一ハードコート層が約7μm、第二ハードコート層が7μm、第三ハードコート層が5μmであった。更に、各ハードコート層の表面硬度は、第一ハードコート層がH、第二ハードコート層が3H、第三ハードコート層が8Hであった。
【0083】
(比較例1)
第一ハードコート層用コート剤として塗液Aに代えて塗液F(紫外線吸収剤(C)を含むコート剤)を用い、第二ハードコート層用コート剤として塗液Bに代えて塗液E(紫外線吸収剤(C)を含まないコート剤)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ハードコートフィルムの作成を試みたが、第一ハードコート層形成の段階で硬化性が悪く、表面のベトツキ発生のため、次の工程に進めることが出来なかった。
【0084】
(比較例2)
第二ハードコート層用コート剤として塗液Bに代えて塗液Eを用い、第三ハードコート層用コート剤として塗液Dに代えて塗液G(紫外線吸収剤(C)を含むコート剤)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ハードコートフィルムを得た。また、各ハードコート層の膜厚は、第一ハードコート層が約7μm、第二ハードコート層が7μm、第三ハードコート層が5μmであった。更に、各ハードコート層の表面硬度は、第一ハードコート層がH、第二ハードコート層が3H、第三ハードコート層が5Hであった。
【0085】
実施例1〜2及び比較例1〜2のハードコートフィルムについて、表面硬度、密着性、耐擦傷性及び低カール性を下記の方法で測定・評価した。結果を表2に示す。
【0086】
(1)表面硬度測定(鉛筆硬度)
JIS K 5400に従い、鉛筆引っかき試験機を用いて、ハードコート層の鉛筆硬度を測定した。詳しくは、ポリエステルフィルム(PETフィルム)上に積層された第一〜第三のハードコート層について、一層硬化させる度にハードコート層の表面上に鉛筆を45度の角度で保ち、荷重1kgをかけて5mm程度引っかいた。5回の引っかきで、4回以上傷が付かなくなったときの鉛筆の硬度をハードコート層の表面硬度とした。なお、表中には、第三ハードコート層の表面硬度を示す。
【0087】
(2)密着性
後述の耐候性試験を行った後のハードコートフィルムについて、最外層に相当するハードコート層の表面にカッターでクロスに傷をつけ、その上からセロハンテープを貼り付け、90度の角度でセロハンテープを剥がし、下記の基準で評価した。
○:剥がれ無し
×:剥がれ有り
【0088】
(3)耐擦傷性
スチールウール#0000条に200g/cm2の荷重をかけて10往復させ、ハードコート層の傷の状況を目視で確認した。
○:傷無し
×:傷有り
【0089】
(4)低カール性
直径100mmφの棒にハードコートフィルムを巻きつけ、該ハードコートフィルムを数回スライドさせ、ハードコート層の表面におけるクラックの有無を確認した。
○:クラック無し
×:クラック有り
【0090】
【表2】

【0091】
表2の結果から明らかなように、実施例1〜2のハードコートフィルムは、硬度、密着性、耐擦傷性が良好であり、また、折り曲げによるクラックの発生が確認されなかったことから、低カール性及び高い硬度を有することが分かる。一方、比較例1では、第一ハードコート層に紫外線吸収剤を添加すると硬化性が急激に低下してしまい、第二層、第三層の形成ができなくなる結果となってしまった。また、第三ハードコート層に紫外線吸収剤を添加した比較例2のハードコートフィルムは、実施例に比べて、表面硬度が低く、耐擦傷性が不十分な結果となった。
【0092】
(比較例3)
塗液A(第一ハードコート層用コート剤)、塗液E(第二ハードコート層用コート剤)及び塗液D(第三ハードコート層用コート剤)を用い、易接着処理済みPETフィルム(東洋紡(株)製コスモシャインA4300,厚み100μm)上に三層のハードコート層を形成し、ハードコートフィルムを得た。また、各ハードコート層の膜厚は、第一ハードコート層が約7μm、第二ハードコート層が7μm、第三ハードコート層が5μmであった。更に、ハードコート層の表面硬度は、第一ハードコート層がH、第二ハードコート層の表面硬度が4H、第三ハードコート層が8Hであった。
【0093】
実施例1〜2及び比較例3のハードコートフィルムについて、表面硬度、密着性を上記の方法で測定・評価し、及び耐候性を下記の方法で測定した。結果を表3に示す。なお、表面硬度及び密着性については、耐候性試験前のハードコートフィルムに対して行った。
【0094】
(5)耐候性
岩崎電気(株)製EYE SUPER UV TESTER SUV−11を用い、照射時間を2時間、4時間、6時間として耐候性試験を実施した。なお、(株)島津製作所製分光硬度計UV−2200(光源C)を用い、試験前と試験後のハードコートフィルムの色差を測定した。色差の数値が大きい程、ハードコートフィルムは着色しており、耐候性が低いことを表す。
【0095】
【表3】

【0096】
表3の結果から、比較例3のハードコートフィルムの表面硬度を、紫外線吸収剤(C)を含むコート剤から第二ハードコート層を形成している実施例1〜2のハードコートフィルムと同程度にすると、耐候性が大幅に低下することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートは、第二ハードコート層に紫外線吸収剤を添加することにより、耐候性が大幅に向上しつつ、硬度、密着性、耐擦傷性、低カール性が良好である。従って、本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートは、非常に高い硬度を要求される床等のハードコートフィルム又はシートとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの一例の断面図である。
【図2】本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの他の例の断面図である。
【図3】本発明の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートの他の例の断面図である。
【符号の説明】
【0099】
1 基材
2 第一ハードコート層
3 第二ハードコート層
4 第三ハードコート層
5 保護フィルム
6 接着層又は易接着層
7 離型フィルム
8 印刷層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上から表面硬度が低い順に積層された三層以上のハードコート層とを備える床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートにおいて、
前記基材上に第一ハードコート層と、前記ハードコート層の最外層に第三ハードコート層と、前記第一ハードコート層と前記第三ハードコート層との間に第二ハードコート層とが少なくとも配置され、
前記第一ハードコート層及び前記第三ハードコート層が、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)及び光重合開始剤(B)を含むコート剤を活性エネルギー線照射で硬化させてなり、前記第二ハードコート層が、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)、光重合開始剤(B)及び紫外線吸収剤(C)を含むコート剤を活性エネルギー線照射で硬化させてなり、
前記第一ハードコート層用コート剤は、(メタ)アクリロイル基数が1〜2である化合物(A)を含み、前記第二ハードコート層用コート剤は、(メタ)アクリロイル基数が2〜3である化合物(A)を含み、前記第三ハードコート層用コート剤は、(メタ)アクリロイル基数が3以上である化合物(A)を含むことを特徴とする床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシート。
【請求項2】
前記第一ハードコート層用コート剤に用いる(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)が、エポキシ(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1に記載の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシート。
【請求項3】
前記紫外線吸収剤(C)が、分子内に(メタ)アクリロイル基を一つ有する化合物(D)であることを特徴とする請求項1に記載の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシート。
【請求項4】
前記第三ハードコート層用コート剤は、さらに平均粒子径が1〜200nmのコロイダルシリカ(E)を含有することを特徴とする請求項1に記載の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシート。
【請求項5】
更に、前記基材の第一ハードコート層と反対側の面に配置された接着層又は易接着層を備えることを特徴とする請求項1に記載の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシート。
【請求項6】
更に、前記基材の第一ハードコート層と反対側の面に配置された印刷層を備えることを特徴とする請求項1に記載の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の床用活性エネルギー線硬化型ハードコートフィルム又はシートを有する建築部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−185548(P2009−185548A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27895(P2008−27895)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(505360937)株式会社エスウェル (5)
【出願人】(505244394)日本ウェーブロック株式会社 (19)
【Fターム(参考)】