説明

床面用石板

【課題】 歩行者が多い駅構内や地下道等に敷設しても、高い滑り止め効果が維持されるとともに、汚れが付着しにくく付着しても除去しやすい床面用石板を提供する。
【解決手段】 石材を平板状に切削し、一方の表面に高温の火炎を吹き付ける等の処理により大きな凹凸を有する粗面とする。その後、粒度が46番(#46)以下の研磨砥粒が含有された研磨ブラシにより研磨を行い、大きな凹凸の鋭角を研磨して、なだらかな曲面を有した凹凸にする。さらに、粒度が180番(#180)〜500番(#500)の研磨砥粒が含有されているブラシにより研磨して、可視的な大きな凹凸つまりうねりを残すとともに、微細な凹凸を低減して表面粗さを小さくし、滑らかな表面に仕上げる。このように加工された石板は、大きな凹凸によって滑りにくく、表面粗さが小さくなっていることによって汚れが付着しにくい床面用石板とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係る発明は、駅の構内、地下道、マンション・ホテル・商業ビル等の建築物の床面に敷設される板状の石材に関する。
【背景技術】
【0002】
駅構内や公共の通路等において石板が敷設された床は、高級感があって美観に優れており、多く用いられる傾向にある。このような床に用いられる石板は、表面を平滑になるように研磨することにより石材特有の光沢が生じ、高級感を増大させることができる。しかし、平滑になるまで研磨すると摩擦抵抗が小さくなり滑りやすくなる。特に、人の往来が多い公共の通路等では、人が持ち歩く傘から落下する水滴等により石板の表面が濡れた状態になることも多く、一層滑りやすくなって危険が増す。また、ほこりや汚れが付着しても滑りやすくなる。
【0003】
このため、石板の表面を粗くしたり、石板の表面をバーナで焼いて粗面にするなどの滑り止め加工が施されている。
また、特許文献1には、石材特有の光沢を維持する工夫を施しながら滑り抵抗を高めることができる床板用石板が記載されている。
この床板用石板は、石材の表面を研磨仕上げして石材特有の光沢を生じさせるとともに石材の表面に複数の凹孔を形成し、この凹孔の内面に研磨仕上げにより生じる光沢と似た光沢を得ることができる塗料を塗布するものである。
【特許文献1】実開平6−20728
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、石材の表面を粗面として滑り止めを行うと、汚れが付着しやすくなる。また、石材表面に特有の光沢を喪失させることになり、高級感や美観が損なわれる。
一方、特許文献1に記載されている床板用石板では、石材の表面を研磨仕上げしたあとに複数の凹孔をその表面に形成する工程が必要となり、製造における工数が多くなるとともに、凹部に塗布した塗料のメンテナンスも必要となる。また、形成された凹部と研磨された表面との境がほぼ直角となっており、凹部に入り込んだ水、埃、汚れ等が排除されにくくなる。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、石材の表面を滑らかに仕上げて汚れが付着しにくくするとともに、滑りにくい床面用石板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような問題点を解決するために、請求項1に係る発明は、歩行用の床面又は階段に敷設される床面用石板であって、 平板状に形成された一方の表面は、高温の火炎を吹き付けたときの表面付近の温度膨張による破壊で凹凸が形成された後、 研磨砥粒が含有された研磨材であって、研磨砥粒が粗いものから細かいものの順に複数の研磨材を用いて研磨が行われ、 粒度が180番(#180)〜500番(#500)である研磨砥粒が含有されている研磨材によって研磨して仕上げられたものであることを特徴とする床面用石板を提供する。
【0007】
この床面用石板の表面には、例えば、バーナー等で1800度程度の高温の火炎が吹き付けられるので、表層を形成している構成鉱物が熱膨張の差により弾き飛ばされるように剥離される。これにより、鉱物が弾き飛ばされた箇所に大小の不揃いの凹部及び凸部が形成される。また、表面は粗くなっており、これらの凹凸は鋭利な角を有するものとなっている。その後、研磨砥粒が粗い研磨材により研磨されるので、凹凸の鋭利な角は砥粒のサイズに応じて研磨され鋭利な角がとれて曲面が形成される。さらに、粒度180番から粒度500番までの砥粒を含有した研磨材により研磨され最終仕上げがなされるので、微細な凹凸が研磨されてなめらかな研磨面が形成される。
このように、大きな凹凸が生じた表面を研磨材で研磨することにより、大きな凹凸曲面つまり「うねり」を残しながら微小な凹凸をなくし、表面粗さの小さい面に仕上げることができる。
したがって、床面用石板上に持ち込まれた水は、石板上で水膜となりにくい。これにより、滑り抵抗が大きく維持される。また、微小な凹凸のない滑らかな面は、大きな凹凸の凸部のみでなく凹部にも及び、研磨面の表面粗さが小さくなっているので石材特有の光沢をある程度維持できるとともに汚れの付着を抑制することができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、 歩行用の床面又は階段に敷設される床面用石板であって、 平板状に形成された一方の表面は、複数の鋼球又は砥粒を高圧で打ち付けることにより凹凸が形成された後、 研磨砥粒が含有された研磨材であって、研磨砥粒が粗いものから細かいものの順に複数の研磨材を用いて研磨が行われ、 粒度が180番(#180)〜500番(#500)である研磨砥粒が含有されている研磨材によって研磨して仕上げられたものであることを特徴とする床面用石板を提供する。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、歩行用の床面又は階段に敷設される床面用石板であって、
平板状に形成された一方の表面は、鋭利な突起を有した工具を用いた打撃により凹凸が形成された後、 研磨砥粒が含有された研磨材であって、研磨砥粒が粗いものから細かいものの順に複数の研磨材を用いて研磨が行われ、 粒度が180番(#180)〜500番(#500)である研磨砥粒が含有されている研磨材によって研磨して仕上げられたものであることを特徴とする床面用石板を提供する。
【0010】
この床面用石板の表面には、複数の鋼球等が高圧で打ち付けられることにより、又は鋭利な突起を有した工具を打ち付けることによって凹凸が形成される。その後、研磨砥粒により凸部の角が効率よく研磨されて大きな凹凸は曲面を形成するものとなり、さらに粒度が180番から粒度が500番までの砥粒を含有した研磨材により研磨して最終仕上げがなされているので、微細な凹凸は研磨されて表面粗さの小さいなめらかな研磨面となっている。
したがって、表面に水膜ができるのを防止するとともに汚れが付着しにくい石板を形成することができ、通行の安全の確保ができるとともに高級感及び美観を長期にわたって維持することができる。
【0011】
請求項4に係る発明は、歩行用の床面又は階段に敷設される床面用石板であって、 平板状に形成された一方の表面は、格子状の溝の切削により凹凸が形成された後、研磨砥粒が含有された研磨材であって、研磨砥粒が粗いものから細かいものの順に複数の研磨材を用いて研磨が行われ、 粒度が180番(#180)〜500番(#500)である研磨砥粒が含有されている研磨材によって研磨して仕上げられたものであることを特徴とする床面用石板を提供する。
【0012】
この床面用石板は、表面に格子状の溝が切削されているので、石板状に落下した水滴は速やかに溝内に流れ込み、凸状となった溝間には水膜ができにくい。また、この凸状部には、上記高温の火炎の放射、鋼球の打ち付け、又は鋭利な凸状部を有する工具による打撃で大きな凹凸を設けておくことができ、これによってさらに滑り難くなる。一方、この床面用石板の表面は、研磨砥粒を含有した研磨材により研磨されているので、上記溝状となった部分及び溝間の凸状部は表面から連続したなだらかな曲面により形成される。細かい砥粒を含有した研磨材でさらに研磨されるので、表面に存在する微細な凹凸が研磨され、表面粗さの小さいなめらかな面に仕上げられたものとなる。これにより、滑り防止と汚れの付着防止の双方に優れた床面用石板となっている。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の床面用石板において、 前記研磨材は、研磨砥粒が含有された合成樹脂からなるブラシ状の部材であるものとする。
【0014】
この床面用石板の表面は、研磨砥粒が含有された合成樹脂からなるブラシで研磨されるので、大きな凹凸のどの部分にもブラシの先が接触し、凹部の底部及び側部も研磨することができる。これにより、凸部だけでなく凹部の内表面に存在する微細な凹凸を研磨することができ、汚れが付着し難い表面が形成されている。
【0015】
請求項6に係る発明は、 歩行用の床面又は階段に敷設される床面用石板であって、 平板状に形成された一方の表面は、湿潤状態における滑り抵抗係数(JIS A5705による)が少なくとも0.4以上となるように、2mmから30mmの間隔でピークが現れる凹凸が形成され、かつ、粒度が400番の砥石による仕上げの研磨がなされた石板の汚れの付着の度合いよりも汚れの付着の度合いが、少なくとも同等若しくは低減されるように研磨されて、表面粗さが小さく仕上げられていることを特徴とする床面用石板を提供する。
【0016】
この床面用石板の表面は、2mmから30mmの間隔でピークが現れる凹凸によって、濡れた状態における滑り抵抗係数が大きく維持される。そして、上記凹凸を維持したまま表面粗さが小さくなるように研磨することによって、汚れの付着度合いが少なくなっている。したがって、滑りにくく、かつ、汚れが付着しにくい石板となっており、歩行の通行量が多い駅構内等の床面に敷設しても安全を確保することができるとともに、美観も維持することができる。
なお、2mmから30mmの間隔でピークが現れる凹凸とは、目視できる程度に大きな凹凸を意味するものであり、凹凸の全てがこの条件を満たすことを意味するものではなく、この範囲からはずれる間隔で現れるピークがあっても良い。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本願発明の床面用石板は簡易な加工で滑りにくく、汚れの付着しにくい表面に仕上げられているので、往来の多い駅構内や地下道等に水や汚れが持ち込まれても安全に通行できる床面用石材を提供することができる。また、汚れが付着しにくいので清掃を容易に行うことができ、高級感も維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本願に係る発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本願発明の一実施形態である床面用石板の外観を示す概略斜視図及び鉛直方向の断面における表面の形状線を示す拡大断面図である。
この床面用石板1は、縦40cm、横40cm、厚さ2cmの板状に切削された花崗岩からなり、駅の構内、地下鉄、商業ビル等における歩行者用の通路に敷設されるものである。そして、上面が床の基準面つまり駅構内や建物内で水平又は小さな排水勾配を有するように設定された面に沿った位置に配列され、固定されるものである。
【0019】
この石板に用いる石材の種類は、花崗岩だけでなく大理石や他の天然石を用いることも可能である。また、セラミックタイルや人造大理石等の人工石材を用いることもできる。石板のサイズは、上記に限定されるものではなく、敷設に適したサイズを採用することができ、例えば60cm、横60cm、厚さ3cmの石板等とすることもできる。
【0020】
この石板1は、図1(b)に示すように、表面1aに目視で明らかに確認できる程度の不規則な凹凸が形成されているが、その表面は滑らかに仕上げられており、微視的な凹凸が研磨によって低減された状態となっている。つまり、断面における表面の形状曲線を波形としたときに、可視的な大きな波長の成分は多く存在する一方、表面のざらついた感触を形成する波長の短い成分が低減された状態となっている。これは、いわゆる「うねり」と称される大きな凹凸を有するが、このうねりを形成する表面の粗さは低減されたものである。
【0021】
上記のような大きな凹凸つまりうねりは、例えば高温の火炎を吹き付けることによって形成されたものである。
花崗岩を所定の寸法、例えば縦40cm、横40cm、厚さ2cmにダイヤモンドソー等を用いて切断し、その表面に酸素とガスとを供給するジェットバーナーで約1800度の火炎を吹きつける。花崗岩は、石英、長石、黒雲母、角閃石等から構成されており、これら鉱物の熱膨張率の違いにより、表面を構成する鉱物がはじき飛ばされるように破壊・剥離される。これによって、不規則な凹部が表面に形成される。
【0022】
ダイヤモンドソーで切削された石板の表面に不規則な凹凸を形成する手段としては、上記のジェットバーナーによる手段の他に、複数の鋼球等を高圧空気で打ち付けるショットブラストによる方法、鋭利な突起を有した工具で石板の表面を打撃する方法等によることもできる。
【0023】
ショットブラストによる粗面処理は、径が2mm〜3mm程度のスチール球を高圧空気を利用して石板の表面全体に打ち付けるものである。この方法によると、表面付近の構成鉱物の硬さにより、あるいは、鋼球が打ち付けられた部分の鉱物が砕かれることにより不規則な凹凸が表面に形成される。この他、珪砂・炭化珪素・ガーネット・アルミナ等の砥粒を打ち付けるものであってもよい。
鋭利な突起を有した工具で石板の表面を打撃する粗面処理では、打撃を行う強さ、打撃の密度等によって滑りが生じにくい不規則な大きな凹凸を形成することができる。
【0024】
上記のように形成された凹凸は、鋭利な角を有するものであり、次のような研磨によって表面粗さの小さい滑らかな面とされる。
研磨は、炭化珪素の砥粒が練り混まれたナイロンフィラメントからなるディスク状の研磨ブラシを研磨材として用い、表面に沿った方向に回転させながら石板の表面をほぼ均一に研磨したものである。最初の研磨は、番数が46番以下の砥粒を含んだ研磨材を用いて行う。この研磨により上記火炎による処理によって形成された大きな凹凸の鋭角が削り取られ、断面形状は連続する曲線に近いものとなる。一方、この状態では石板の表面は微細な凹凸が残され、表面粗さが大きいものとなっているため、粒度が小さい砥粒を含む研磨材を用いて研磨を行う。そして、砥粒の番数を順次大きいものに変更して研磨を行い、砥粒の粒度が180番から500番までの範囲の研磨材によって最終的な仕上げを施したものである。
【0025】
最終的な研磨に用いる研磨材の粒度は、例えば粒度が400番の砥石による仕上げの研磨がなされた石板の汚れの付着の度合いを基準に定めることができる。つまり、砥粒の粒度の番数が大きい研磨材に順次代えて研磨を繰り返し、汚れの付着の度合いが粒度400番の砥石による仕上げが成された石板と少なくとも同等若しくは低減されるように研磨することができる研磨材を特定する。例えば、粒度320番の砥粒を含有したブラシでの研磨により上記のように汚れの付着し難い状態が得られた場合は、粒度320番の砥粒で最終的に仕上げの研磨を行うことができる。このような最終の仕上げに用いる研磨材は、大きな凹凸を設ける前記表面処理の方法及び岩質等によって異なり、あらかじめ実験等によって定めるのが望ましい。
【0026】
なお、本実施の形態では、研磨材として炭化珪素の砥粒が含有されたナイロンフィラメントからなるブラシを用いたが、酸化アルミナ、ジルコニヤアルミナ、窒化ホウ素、ダイヤモンド等の砥粒が含有された研磨材を用いてもよい。また、酸化アルミニウム、シリコンカーバイド、アルミニウムシリケイト等が含有されたデュポン株式会社製のタイネックスブラシ(登録商標)を用いることもできる。
ブラシの形状は限定されるものではないが、石板の面と平行に均一に回転するブラシであることが望ましい。石材の表面と接触する領域で一方向に回転するブラシ、例えば、ロール状等のブラシでは、研磨の方向が石板の表面に残り、均一な仕上げが難しくなる。
【0027】
粒度が46番以下の砥粒が含有されたブラシでの研磨時間は、粗面処理により形成された大きな凹凸の角が研磨され、なだらかな面つまりうねりとなるまで研磨されればよく、研磨される石の種類により適宜調整されるのが望ましい。本実施の形態では、花崗岩を用いているが、花崗岩においても産地等により構成鉱物の割合が異なるので、適宜調整するのがよい。
【0028】
上記のように仕上げられた床面用石板1は、その表面に可視的な凹凸つまりうねりを有しながら研磨面はきめ細かに仕上げられている。また、ブラシで研磨されているのでブラシの先端がうねりの底部にまで入り込み、石材の表面の全域で微小な凹凸が減少している。したがって、水や汚れが運び込まれやすい駅構内、地下道等の歩行用通路にこの石板1が敷設された場合、表面に形成された大きな凹凸により水膜が生じず、滑りにくくなる。つまり、湿潤状態での石板表面の滑り抵抗係数(JIS A5705)は0.5〜0.6、とすることができる。また、表面は凹凸の底部まで表面粗さが小さくなるように研磨されているので汚れが付きにくく、汚れが付着しても除去しやすくなっている。特に捨てられたガムが付着した場合であっても剥離することが容易となる。
なお、上記滑り抵抗係数とは、JIS A5705付属書に定める、「床材の滑り試験方法によって測定される滑り抵抗係数、C.S.R」をいうものである。
【0029】
次ぎに、第2の実施の形態を図2に基づいて説明する。
この床面用石板2は、図1に示すものとほぼ同じ外形寸法有するものであるが、図2に示すように、一方の表面には格子状の溝21が切削されて規則的な凹凸が設けられている。また、溝21と溝21との間の凸状となった領域22は、図1に示す石板と同様に高温の火炎の吹き付け、鋼球等の打ち付け又は鋭利な工具による打撃等によって凹凸が形成されている。このように溝間の凸状となった領域内でも凹凸を有するものとなっているが、石板の表面全体に研磨が施され、滑らかな表面で微小な凹凸が低減されている。つまり、溝間の領域22、溝21の底面及び溝21から溝間の凸状となった領域22との境界部分は、滑らかな曲面を有し、表面粗さが小さくなるように処理がされている。
【0030】
このように、この床面用石板2の表面には、格子状の溝21によって規則的な凸状の領域22が形成されるともに、溝間には不規則な凹凸が形成されており、石板上に落ちた雨水等は速やかに溝内に流れ込み、水膜ができにくい。したがって、濡れた状態でも滑り難くなる。また、上記のような凹凸を残した状態で研磨が施され、表面粗さが小さくなっているので汚れが付着しにくくなっている。
【0031】
このような表面形状を有した床面用石板2は、以下の要領により加工される。
縦40cm、横40cm、厚さ2cmにダイヤモンドソーでひき割りした石板の片面に鋭利な突起を有した工具を打ち付けて凹凸を形成する。その後、格子状に溝21が切削される。格子のサイズは任意でよいが、本実施の形態では、溝21の幅を4mm、溝間を12mm×12mmとしている。上記粗面処理及び溝21の切削が行われた石板の表面は、粒度46番の砥粒を含有したブラシで粗く研磨され、粗面処理により形成された凹凸はなだらかな曲面を有したうねりとなる。さらに、図1に示す床面用石板と同様に粒度の番数が大きい砥粒を含有したブラシで研磨を行い、粒度が180番から500番までの砥粒を含有したブラシにより最終仕上げを行う。
【0032】
次ぎに、本願発明に係る床面用石板の性能について行った実験を説明する。
性能評価を得るための実験として、湿潤状態における「滑り抵抗係数C.R.S」と「汚れ指数」とを測定した。
まず、「滑り抵抗係数C.R.S」を測定するために、次の6種類の試験用石片を準備した。
(1)粒度400番の砥石で研磨された花崗岩片
(2)ジェットバーナーで1800度の高温を吹き付けて不規則な凹凸を形成した花崗岩片(研磨は行っていない)
(3)ジェットバーナーで1800度の高温を吹きつけた後、研磨を行い、粒度46番から順に番数を上げていき、粒度500番が含有されたディスク状の研磨ブラシで最終仕上げをした花崗岩片
(4)鋼球を高圧空気で打ち付けた後、研磨を行い、粒度46番から順に番数をあげていき、粒度500番の砥粒が含有されたディスク状の研磨ブラシで最終仕上げをした花崗岩片
(5)鋭利な突起を有した工具で打撃した後、研磨を行い、粒度46番から順に番数をあげていき、粒度500番の砥粒が含有されたディスク状の研磨ブラシで最終仕上げをした花崗岩片
(6)格子状の溝を切削し、溝間を鋭利な突起を有した工具で打撃した後、研磨を行い、粒度46番から順に番数をあげていき、粒度500番の砥粒が含有されたディスク状の研磨ブラシで最終仕上げをした花崗岩片
【0033】
これら6種類の試験用石片のうち、(3)〜(6)の試験用石片が本願発明に係る床面用石板1、2であり、(1)及び(2)は比較例として採用した石板である。これらの試験用石片は、いずれも縦10cm、横20cm、厚さ1cmに切断されたものを用いた。また、すべり片は一般に紳士用の靴底に用いられるゴム片を用いた。
【0034】
「滑り抵抗係数C.R.S」を求めるための「すべり評価試験」は、JIS A 5705に準拠したものである。
具体的には、水道水とJIS Z 8901に規定する試験用ダスト第7種及び第1種を質量比で20:1:9に混合したものを400g/m2の割合で上記6種類の試験用石片に散布し、すべり試験機を用いて滑りの程度を試験した。なお、測定値は数値の小さい方が滑りやすく、大きい方が滑りにくいものとなっている。
なお、下足での通行の場合、例えば、靴、運動靴、サンダル等で歩行する場合の湿潤状態での滑り抵抗係数は、0.4〜0.9が許容範囲であり、最適範囲は0.47〜0.70とされている。
【0035】
この試験の結果、滑り抵抗係数C.R.Sは、表1に示す通りとなった。
【表1】

【0036】
この表から、(1)粒度400番の砥石で研磨された花崗岩片、つまり、粗面加工されずにダイヤモンドソーで切削された後、粒度400番の砥石で平坦に研磨された花崗岩片は、滑り抵抗値が0.376となっており、研磨面が平滑になりすぎて滑りやすいことが分かる。したがって、床面への使用は不向きとなる。(1)以外の試験用石片はいずれも最適範囲内の滑り抵抗係数となっており、通行の多い床面に敷設しても滑りにくく通行の安全を維持することができる。つまり、本願発明に係る床面用石板は、粒度の番数が大きい砥粒を含む研磨材を用いて研磨を行っているが、研磨を施さない石板とわずかしか変わらない滑り抵抗を示すものとなっている。
【0037】
次ぎに、汚れ指数の測定方法を説明する。なお、この汚れ評価法は、日本建築学会構造系論文報告集 第440号「セラミックタイルで舗装された屋外路面の汚れの評価方法に関する研究」に準拠するものである。
まず、滑り抵抗係数の実験で使用した(1)〜(6)と同様の加工を行った試験用石片を準備した。ただし、石片のサイズは滑り抵抗係数の実験で用いた石片よりも大きくし、40cm×40cmとしている。
【0038】
図3に示すように、この石片を(ア)〜(カ)の6つのブロックに分割し、1つの大きなブロック(カ)を除いた各ブロックに以下の汚れ促進材料を塗布した。
(ア)オレンジジュース
(イ)ブラックコーヒー
(ウ)タバコ葉エキス(水500mlにタバコ10本分の葉を24時間浸けたもの)
(エ)コーラ
(オ)人工汚垢(試験用ダスト(JIS Z 8901)30%、カーボンブラック20%、水50%を混ぜ合わせたもの)
(ア)〜(エ)については、試験片の該当ブロックに脱脂綿をテープで貼り、この脱脂綿に大さじ2杯の汚れ促進材料をそれぞれ含浸させた。その後、ラップで塗布面を包装し、24時間養生した後、白パッドで10回円を描くように水洗いした。
(オ)の人工汚垢については、試験片の(オ)ブロックに小さじ1杯の人工汚垢を塗布し、硬質ブラシで円を描きながら全体に擦り込んだ。塗布面にラップを施し、24時間養生した後、白パッドで50回円を描くように水洗いした。
(カ)については、上記したとおり、何も塗布せずに放置した。
【0039】
図4は、各汚染促進材料を塗布した試験用石片の汚染状態を測定する個所(測色位置)を示したものである。この図が示すように、各測色位置は、径が約2cmの円とした。(カ)の未汚染部はa〜eの5カ所、汚染部である(ア)はfとg、(イ)はhとi、(ウ)jとk、(エ)lとm、のそれぞれ2カ所、(オ)はn〜rの5カ所を測定し、各汚染部の測色値(CIE1976LAB法)に基づき以下のように汚れ指数を算出した。
【0040】
まず、汚染部(ア)〜(オ)の測色箇所a〜rの測色値の平均値と、未汚染部(カ)の測色箇所a〜eの測色値の平均値から、平均色差ΔE*abを次に示す(1)式から求める。
ΔE*ab=[(ΔL*2+(Δa*2+(Δb*2]1/2 (1)
【0041】
次ぎに、汚染部の測色箇所の汚れのばらつきを補正するため、(2)式により、L*、a*、b*の各々の最大値と最小値の差を求め、最大色差とする。
【0042】
Δ(ΔE*ab)=[(RL*2+(Ra*2+(Rb*2]1/2 (2)
(RL*)=L*max.−L*min.
(Ra*)=a*max.−a*min.
(Rb*)=b*max.−b*min.
【0043】
これにより、求められた平均色差と最大色差から以下の(3)式により汚れ指数を算出することができる。
【0044】
汚れ指数=1.018+0.1996・ΔE*ab+0.1618・Δ(ΔE*ab) (3)
なお、ここで求められた汚れ指数は、数値が低い程汚れの残留が少ないことを意味する。
【0045】
このようにして得られた汚れ指数は、表1の通りとなった。
(1)粒度400番の砥石で研磨された花崗岩片の汚れ指数である2.29を基準値100%として、(2)〜(6)を比較すると、(2)ジェットバーナーで1800度の高温を吹き付けられた花崗岩片の汚れ指数は、4.42(193%)となり、表面が粗面となっているので汚れが付着しやすく除去されにくいことがわかる。
本願発明に係る床面用石板である(3)〜(6)は、いずれも(1)の基準値とほぼ同等、若しくは基準値よりも低くなっており、(1)の花崗岩片よりも汚れが付着しにくいことがわかる。
なお、汚れ指数は、値が小さいほど汚れが付着しにくく美観及び高級感を維持することができる。
【0046】
滑りにくく汚れが付着しにくい床面用石板とするためには、最適範囲の滑り抵抗係数C.R.S、0.47〜0.70と汚れ指数の最適な範囲との双方を満足させる必要がある。
(1)粒度400番の砥石で研磨された花崗岩片は、汚れ指数が2.29であり汚れは付着しにくいが、滑り抵抗係数が0.376と小さいため床面用の石板としては不適切である。また、(2)ジェットバーナーで1800度の高温を吹き付けられた花崗岩片は、滑り抵抗係数が0.538と大きいので滑りにくいが、汚れ指数が4.42と大きいので汚れが付着しやすく、往来の激しい床面に敷設するのは不適当となる。
これに対し、本願発明に係る(3)〜(6)のいずれの石片も、滑り抵抗係数は最適範囲内である0.501〜0.559であり、かつ、よごれ指数も2.32以下となっているので滑り抵抗係数及び汚れ指数の双方が満足されている。
これにより、本願発明にかかる床面用石板は、滑りにくく、かつ汚れが付着しにくい床面用石板であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本願発明の一実施形態である床面用石板の外観を示す概略斜視図及び表面の平均面と垂直な断面における表面の形状線を示す拡大断面図である。
【図2】本願に係る発明の第2の実施の形態である床面用石板の平面図及び表面の平均面と垂直な断面における表面の形状線を示す拡大断面図である。
【図3】汚れ評価に使用した試験用石片に汚染促進材料を塗布した状態を示す図である。
【図4】図3に示す試験用石片の表面の色を測定する位置を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1、2:床面用石板, 21:溝, 22:溝間の領域,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行用の床面又は階段に敷設される床面用石板であって、
平板状に形成された一方の表面は、高温の火炎を吹き付けたときの表面付近の温度膨張による破壊で凹凸が形成された後、
研磨砥粒が含有された研磨材であって、研磨砥粒が粗いものから細かいものの順に複数の研磨材を用いて研磨が行われ、
粒度が180番(#180)〜500番(#500)である研磨砥粒が含有されている研磨材によって研磨して仕上げられたものであることを特徴とする床面用石板。
【請求項2】
歩行用の床面又は階段に敷設される床面用石板であって、
平板状に形成された一方の表面は、複数の鋼球又は砥粒を高圧で打ち付けることにより凹凸が形成された後、
研磨砥粒が含有された研磨材であって、研磨砥粒が粗いものから細かいものの順に複数の研磨材を用いて研磨が行われ、
粒度が180番(#180)〜500番(#500)である研磨砥粒が含有されている研磨材によって研磨して仕上げられたものであることを特徴とする床面用石板。
【請求項3】
歩行用の床面又は階段に敷設される床面用石板であって、
平板状に形成された一方の表面は、鋭利な突起を有した工具を用いた打撃により凹凸が形成された後、
研磨砥粒が含有された研磨材であって、研磨砥粒が粗いものから細かいものの順に複数の研磨材を用いて研磨が行われ、
粒度が180番(#180)〜500番(#500)である研磨砥粒が含有されている研磨材によって研磨して仕上げられたものであることを特徴とする床面用石板。
【請求項4】
歩行用の床面又は階段に敷設される床面用石板であって、
平板状に形成された一方の表面は、格子状の溝の切削により凹凸が形成された後、
研磨砥粒が含有された研磨材であって、研磨砥粒が粗いものから細かいものの順に複数の研磨材を用いて研磨が行われ、
粒度が180番(#180)〜500番(#500)である研磨砥粒が含有されている研磨材によって研磨して仕上げられたものであることを特徴とする床面用石板。
【請求項5】
前記研磨材は、研磨砥粒が含有された合成樹脂からなるブラシ状の部材であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の床面用石板。
【請求項6】
歩行用の床面又は階段に敷設される床面用石板であって、
平板状に形成された一方の表面は、湿潤状態における滑り抵抗係数(JIS A5705による)が少なくとも0.4以上となるように、2mmから30mmの間隔でピークが現れる凹凸が形成され、かつ、粒度が400番の砥石による仕上げの研磨がなされた石板の汚れの付着の度合いよりも汚れの付着の度合いが、少なくとも同等若しくは低減されるように研磨されて、表面粗さが小さく仕上げられていることを特徴とする床面用石板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−308815(P2008−308815A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154722(P2007−154722)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】