説明

座席のシート部、背もたれ部等に使用されるクッション構造体とその製造法

【課題】製造コストが安くて量産に適したクッション構造体Aを提供する。
【解決手段】クッション構造体Aにおいては、座席のシート部、背もたれ部等のフレームを構成する枠状部材10に張設されるネット20の端末を、前記枠状部材10の枠部11に巻き付けて同ネットの緊張により圧縮されたクッション材30を介して同枠状部材10の表面に付着させた溶融状態の熱可塑性樹脂の固化により同枠状部材の枠部に固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座席のシート部、背もたれ部等に使用されるクッション構造体とその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のクッション構造体については、下記の[特許文献1]〜[特許文献3]に関連技術が開示されている。
[特許文献1]においては、「方形枠状の弾性フレームに方形枠状の剛性フレームを埋設した複合フレームの各枠部上にネットの各端末を巻き込んだ状態で同複合フレームを構成する前記剛性フレームの各枠部に固定して前記複合フレームに前記ネットを張設したクッション構造体」が開示されている。
【0003】
[特許文献2]においては、上記の[特許文献1]に開示されたクッション構造体の製造方法が開示されている。この製造方法においては、「上記のネットとして四辺の各端末にプレート状の固定用部材を固着したネットを採用し、該ネットを平らに張設した状態にて同ネットの上に上記の複合フレームを載置して押圧し、同フレームからの押圧力により前記ネットを緊張させて同ネットの各端末を前記フレームの各枠部上に巻き込んで、同フレームを構成する剛性フレームの各枠部に前記各固定部材を固定することにより前記複合フレームに前記ネットを張設する手段」が採用されている。
【0004】
[特許文献3]においては、「枠状部材の形状に対応した凹部を形成した金型に前記枠状部材に張設される面積より大きく裁断したシートを緊張させてクランプし、一方前記枠状部材に溶融状態の熱可塑性樹脂により被膜を形成して、同被膜が形成された枠状部材を前記シートの上から前記金型の凹部に嵌め込んで同金型を冷却することにより、前記シートの端末が前記枠状部材の各枠部に巻き込まれた状態で同枠部に前記被膜の固化により固着されるようにした座席用シート部、背もたれ部等のシート張設方法」が開示されている。
【特許文献1】特許第3612461号公報
【特許文献2】特開2001−186963号公報
【特許文献3】特許第3200409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の[特許文献1]に記載のクッション構造体には、その複合フレームが弾性フレームに剛性フレームを埋設して構成されているため、製造コストが必然的に高くなって量産には適していない。また、[特許文献2]に記載の製造方法においては、シートの各端末に固定用部材を固着して同固定用部材を複合フレームを構成している弾性フレームを圧縮した状態で剛性フレームの各枠部に固定しているため、固定用部材の組付け工数が多くて量産には適していない。さらに、[特許文献3]に開示されたシート張設方法においては、枠状部材の各枠部に固着されたシートの各端末にて溶融樹脂が網目からはみ出して美観を損ねる欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するため、座席のシート部、背もたれ部等のフレームを構成する枠状部材に張設されたネットの端末を、前記枠状部材の枠部に巻き付けて同ネットの緊張により圧縮されたクッション材を介して同枠状部材の表面に付着させた溶融状態の熱可塑性樹脂の固化により同枠状部材の枠部に固着したことを特徴とする座席のシート部、背もたれ部等に使用されるクッション構造体を提供するものである。
【0007】
本発明は、上記のクッション構造体を製造するため、下記の工程を採用したことに特徴がある。
【0008】
(1)座席のシート部、背もたれ部等のフレームを構成する枠状部材の表面に熱可塑性樹脂を溶融状態にて付着させる樹脂付着工程;
(2)前記シート部、背もたれ部等のシート本体を形成するネットをその端末にてクランプして同ネットを平らに張設するクランプ工程、
(3)前記枠状部材の枠部に対応する形状に形成したクッション材を前記張設されたネットに載置して位置決めする位置決め工程、
(4)前記枠状部材をその表面に付着した熱可塑性樹脂が溶融している状態にて前記クッション材に載置して同枠状部材を上方から加圧する加圧工程、
(5)前記クッション材が前記枠状部材の加圧によって圧縮されて前記ネットの周縁部が同クッション材とその直下に配置した支持手段により挟圧保持された状態にて同ネットの端末を前記クッション材を介して前記枠状部材に巻き付けて同枠状部材に付着している熱可塑性樹脂が冷却により固化した後に前記枠状部材の加圧を解除する工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明のクッション構造体においては、上記の枠状部材に張設したネットの端末を、同ネットの緊張により前記枠状部材の枠部に圧縮されたクッション材を介して同枠状部材の表面に付着させた溶融状態の熱可塑性樹脂の冷却による固化によって同枠状部材の枠部に固着した。これにより、ネットの端末が枠状部材の裏面に固着されてその固着箇所にて樹脂がはみ出しても、座席のシート部又は背もたれ部として使用したときその下側に位置するため美観を損ねることが無い。また、枠状部材の枠部の上面と側面においては、溶融状態の樹脂がクッション材によって覆われるため、ネットの表面にはみ出すことが無く美麗に仕上げることができる。
【0010】
また、本発明によるクッション構造体の製造方法においては、枠状部材の枠部に対応する形状に形成したクッション材を平らに張設したネットに載置して位置決めし、同クッション材の上に前記枠状部材をその表面に付着した熱可塑性樹脂が溶融している状態にて載置して加圧することにより、ネットの周縁部が圧縮されたクッション材とその直下に配置した支持手段によって挟圧状態に保持される。これにより、ネットの端末がクッション材を介して枠状部材に巻きつけられて同枠状部材の裏面に樹脂の冷却による固化により的確に固着される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図面において、図1は、図2に示した枠状部材10と図3に示したネット20を使用して製造した本発明によるクッション構造体Aの見取り図である。このクッション構造体Aは、座席のシート部、背もたれ部等のフレームを構成する枠状部材10に張設したネット20の端末を、前記枠状部材10の枠部11に巻き付けて同ネットの緊張により圧縮されたクッション材30を介して前記枠状部材の表面に付着させた溶融状態の熱可塑性樹脂Rの固化により同枠状部材の枠部に固着して構成されている。 このクッション構造体に使用した枠状部材10は、図2に示したように、適用対象となる座席のシート部のフレームを構成するもので、鉄、アルミニウム等の金属製パイプからなるU字形状の枠部11と、同枠部の両端に結合した連結パイプ12により構成されている。ネット20は、ポリエステル繊維、PTT繊維、ポリエステル系エラストマー糸、ナイロン繊維等の超強力糸を網状に織成したネットであって、図3に示したように枠状部材10の輪郭に対応する形状に裁断されている。クッション材30はウレタンスポンジ、ゴムスポンジ(NR,CR,EPPM,シリコンなど)、ポリエチレンスポンジ、ポリオレフィンスポンジ等かなるクッション材であって、枠状部材10の枠部11に対応する形状に形成されている。
【0012】
以下に、上述した本発明によるクッション構造体の製造方法を詳細に説明する。 図4は、図1に示したクッション構造体の製造装置を示している。この製造装置は、車輪を組付けた移動可能な基台80上に水平に設置した基板81と、この基板81の上面に同基板の中央に設けた開口81aの周囲に沿って配置した複数のクランプ装置82と、前記開口81aの各辺に対応して基板81上に配置した4基のスライダー83と、これらスライダー83を前記開口に向けて摺動させる押込み用シリンダ84を備えている。基板81の開口81aは、上述した枠状部材10が上下動可能に配置されるように同枠状部材10に対応する形状に形成されている。
【0013】
各クランプ装置82は、図4と図6に示したように、基板81の上面に固定した支持ブラケット82aと、その下部にて支持ブラケット82aに上下方向に回動可能に軸架した揺動レバー82bと、この揺動レバー82bと一体に設けたクランパ82cと、揺動レバー82bと同軸に上下方向に回動可能に軸架した操作レバー82dとにより構成されている。クランパ82cは、各支持ブラケット82aの前方にて基板81の上面に固定した支承体82eに押圧されて後述するクランプ工程にて基板81の開口81を覆蓋して張設されたネット20の端末をクランプする。 この実施形態において、基板81の下面には各支承体82e に対応する位置にて固定板82fが締付けねじ82gにより締付け固定され、これらの固定板82fによってゴム製シート90の端末が基板81の開口81aの周囲に沿って固定されている。ゴム製シート90は、基板81の開口81aを覆蓋して配置され、後述する枠状部材10の加圧工程にてネット20を弾力的に支持する役目を果たす。 スライダー83は、各クランプ装置82の支持ブラケット82aを収容する長穴83aを有し、押し込み用シリンダ84の作動により基板81の上面にて同基板の開口81aに向けて摺動する。
【0014】
上記のように構成した製造装置によって本発明のクッション構造体を製造する方法をその各工程毎に説明すると以下のとおりである。
【0015】
(1)この実施形態において、上記の枠状部材10の表面に熱可塑性樹脂を溶融状態にて付着させるため、同枠状部材10を図7に示した高周波加熱装置40の加熱用コイル41によって加熱し、加熱した枠状部材10を図8に示した樹脂収容槽50内に搬入して同収容槽の内部に粉塵状態に浮遊させた熱可塑性樹脂の粉体SRを同枠状部材10の表面に付着させる。これにより、熱可塑性樹脂が枠状部材の表面に溶融状態にて付着する。なお、この樹脂付着工程において、枠状部材10として鉄製パイプを採用し、ネット20としてポリエステル繊維のネットを採用し、熱可塑性樹脂としてポリエチレン樹脂を用いた場合には、枠状部材10を約300度以上に加熱してポリエチレン樹脂を付着させ、同枠状部材を約260度以下にてクッション材30とネット20に付着させことにより、好ましい結果が得られた。この点に関して、ポリエチレン樹脂付着時の枠状部材の余熱温度は、接着時間と樹脂の厚みを考慮して設定するのが望ましい。
【0016】
(2)一方、図3に示したネット20が、図5と図6(a)に示したように、基板81の開口81aを覆蓋するように配置されてその端末が開口81aの周囲に設置した複数のクランプ装置82の支承体82eの上に載置され各操作レバー82dの操作によってクランパ82cによりクランプされる。 これにより、ネット20が基板81の開口81aを覆蓋した状態にて平らに張設される。
【0017】
(3)上記のクランプ工程によって平らに張設されたネット20の上に、図6(a)に示したように、枠状部材10の枠部11に対応する形状に形成したクッション材30が所定の位置に載置されて位置決めされる。
【0018】
(4)ついで、上記の樹脂付着工程にてその表面に熱可塑性樹脂が余熱により溶融している状態の枠状部材10が、図6(b)に示したように、ネット20上に位置決めされたクッション材30に載置され、同枠状部材10の内側に一体に形成したリブ11aが図4に示した加圧装置70に組付けた油圧シリンダ71の起動によって同加圧装置のラム72に設けた脚体73により上方から加圧される。この加圧工程にて、クッション材30が、図6(c)、6(d)に示したように、枠状部材10に加えられる加圧力により圧縮されてネット20の周縁部が同クッション材30とその直下に配置したゴム製シート90によって挟圧保持される。この状態にて、クッション材30には枠状部材10の下面に溶融状態の熱可塑性樹脂により接着され、ネット20がゴム製シート90の上面に緊張した状態で保持される。このようにネット20が緊張した状態に保持されたとき、基板81の開口81aの周囲に配置した各クランプ装置82の操作レバー82dの操作によってクランパ82cが開放され、各スライダー83が押し込み用シリンダ84の起動によって前方に押し込まれ、ネット20の端末が各スライダー83の前進作動によって枠状部材10の上面に巻き付けられて溶融状態の熱可塑性樹脂により接着される。(図6(d)参照)その後に、溶融状態の樹脂が枠状部材10の冷却により固化したことを確認して、各押し込み用シリンダ84を後退作動させることにより、各スライダー83が元の位置に引き戻される。かくして、枠状部材10の枠部11にネット20の端末がクッション部材30を介して強固に固着され、加圧装置70のラム72を上昇させることにより本発明によるクッション構造体を搬出することができる。
【0019】
上記事項によって理解されるとおり、この実施形態においては、枠状部材10の枠部11に対応する形状に形成したクッション材30を平らに張設したネット20に載置して位置決めし、同クッション材30の上に前記枠状部材10をその表面に付着した熱可塑性樹脂が溶融している状態にて載置して加圧することにより、ネット20の周縁部が圧縮されたクッション材30とその直下に配置したゴム製シート90からなる支持手段によって挟圧保持される。これにより、ネット20の端末がクッション材30を介して枠状部材10に巻き付けられて同枠状部材10の裏面に樹脂の固化により的確に固着される。
【0020】
よって、本発明によれば、[背景の技術]の項にて述べたクッション構造体に比して、従来の固定用部材を用いることなく、所望のクッション構造体を効率よく製造することができる。また、上述した製造工程においては、その加圧工程にてネット20の周縁部がクッション材30とその直下に配置したゴム製シート90からなる支持手段によって挟圧保持された状態にて同ネット20の端末が枠状部材10の上面に巻き付けられて溶融状態の熱可塑性樹脂により接着されるので、ネット20の接着箇所にて樹脂がはみ出しても、当該クッション構造体を座席のシート部、背もたれ部として使用したときその下側に位置するため製品の美観を損ねることが無い。
【0021】
なお、上記の実施形態においては、枠状部材10の加圧工程にてクッション材30を介して加圧されるネット20の周縁部を支持する手段として、ゴム製シート90を採用したが、図9に示したように、コイルスプリング91により弾力的に支持された支持体92を適宜な手段によって基台80に設けて、ネット20の周縁部を支持してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明によるクッション構造体の見取り図。
【図2】図1に示したクッション構造体に使用する枠状部材の平面図。
【図3】図1に示したクッション構造体に使用するネットの平面図。
【図4】本発明によるクッション構造体の製造装置を示す正面図。
【図5】図4に示した基板と同基板に設けたクランプ装置を示す平面図。
【図6】本発明によるクッション構造体製造工程を示す部分断面側面図。
【図7】図2に示した枠状部材の高周波加熱装置の概略図。
【図8】図2に示した枠状部材に熱可塑性樹脂を付着させる樹脂収容槽の概略図。
【図9】図4に示したネット支持手段の他の実施例を示す部分断面側面図。
【符号の説明】
【0023】
10・・・枠状部材、11・・・枠部、20・・・ネット、30・・・クッション材、R・・・熱可塑性樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席のシート部、背もたれ部等のフレームを構成する枠状部材に張設されるネットの端末を、前記枠状部材の枠部に巻き付けて同ネットの緊張により圧縮されたクッション材を介して同枠状部材の表面に付着させた溶融状態の熱可塑性樹脂の固化により同枠状部材の枠部に固着したことを特徴とするクッション構造体。
【請求項2】
前記枠状部材として、鉄、アルミニウム等の金属製パイプを採用したことを特徴とする請求項1に記載のクッション構造体。
【請求項3】
座席のシート部、背もたれ部等のフレームを構成する枠状部材の表面に熱可塑性樹脂を溶融状態にて付着させる樹脂付着工程と;
前記シート部、背もたれ部等のシート本体を形成するネットをその端末にてクランプして同ネットを平らに張設するクランプ工程と、
前記枠状部材の枠部に対応する形状に形成したクッション材を前記張設されたネットに載置して位置決めする位置決め工程と、
前記枠状部材をその表面に付着した熱可塑性樹脂が溶融している状態にて前記クッション材の上に載置して同枠状部材を上方から加圧する加圧工程と、
前記クッション材が前記枠状部材の加圧によって圧縮されて前記ネットの周縁部が同クッション材とその直下に配置した支持手段によって挟圧保持された状態にて同ネットの端末を前記クッション材を介して前記枠状部材に巻き付けて同枠状部材に付着している熱可塑性樹脂が冷却により固化した後に前記枠状部材の加圧を解除する工程とにより前記枠状部材に前記ネットを張設するようにしたクッション構造体の製造方法。
【請求項4】
前記枠状部材として、鉄、アルミニウム等の金属製パイプを採用したことを特徴とする請求項3に記載したクッション構造体の製造方法。
【請求項5】
前記枠状部材の加圧工程にて前記クッション材を介して加圧される前記ネットの周縁部を支持する支持手段として、前記クランプ工程にて前記ネットがその端末にてクランプして平らに張設された状態にて前記ネットの直下に位置して同ネットを支持するように配置したゴム製シートを採用したことを特徴とする請求項3に記載したクッション構造体の製造方法。
【請求項6】
前記枠状部材の加圧工程にて前記クッション材を介して加圧される前記ネットの周縁部を支持する支持手段として、前記クランプ工程にて前記ネットがその端末にてクランプして平らに張設された状態にて前記ネットの直下に位置して同ネットを弾力的に支持するように配置した支持手段を採用したことを特徴とする請求項3に記載したクッション構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate