説明

廃タイヤの軟化方法、廃タイヤ中の金属ワイヤの除去方法及びそれらに使用する装置

【課題】 従来の廃タイヤのリサイクルはその多くが焼却法であり、有効なリサイクルは極めて限られた手法で、しかも低効率でしか行えなかった。その理由は廃タイヤ中に埋設されている金属ワイヤにあり、この金属ワイヤを如何に容易に廃タイヤから除去できるかがリサイクルのポイントとなる。
【解決手段】 複数本の金属ワイヤを埋設した廃タイヤ17の少なくとも一部を水を満たした浸漬槽12に浸漬させながら、当該廃タイヤに電磁波照射部材18により電磁波照射を行い、前記廃タイヤを軟化させ、更に必要に応じて前記金属ワイヤの除去を行う。電磁波照射は廃タイヤの軟化に有効で、水中の廃タイヤに電磁波照射を行うことで廃タイヤからの発火の危険性を最小にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃タイヤの軟化方法及び装置に関し、より詳細には廃タイヤに電磁波を照射して軟化させる方法及び装置に関し、更に詳細には軟化した廃タイヤに埋設された複数本の金属ワイヤを除去して前記廃タイヤのリサイクルの第1段階として有用に機能する廃タイヤの軟化及び金属ワイヤ除去方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球上の有限な資源を有効利用するために、回収された廃棄物のリサイクルの重要性が認識され、かつ実行されている。自動車が廃車になる際に必然的に生じる廃タイヤは、その大部分が利用価値の高いゴムであり、積極的なリサイクルが望まれている。
通常の自動車用タイヤは図10に示す構造を有している。
つまり、タイヤ本体1は、走行面に接するトレッド部2とこのトレッド部2の両端部に、一体的にかつ図中で上向きに連結されたサポート部3を含んでいる。このサポート部3の先端には、タイヤ本体1をリムに固定するためのビード部4があり、このビード部4は高炭素鋼等から成る多数本のループ状の極細線コード(金属ワイヤ)5が埋設されている。この金属ワイヤ以外にもタイヤ中には多くのワイヤや繊維が埋設されている。
【0003】
このような構造を有する自動車用のタイヤは、本来の目的を果たした後、廃タイヤとしてリサイクルされる。
廃タイヤのマテリアルリサイクルで重要な工程として、タイヤの破砕工程と破砕後の選別工程があり、特に選別工程における選別の精度が問われ、従来から幅広く研究されている。タイヤは、前述した通り、ゴムと、スチール、ナイロン等の繊維や金属ワイヤ等がゴムを接着剤として一体となったものであり、自動車の性能の進歩に伴って構造が複雑になってきている。つまりタイヤが進化するほどそのリサイクルは困難になる。
【0004】
このような複雑な構造を有する廃タイヤのリサイクルの際にはタイヤ中の前述した金属ワイヤの選別除去が重要なポイントになる。金属ワイヤは強度が高くかつ柔軟性に富み、更に耐疲労性が高く、しかもゴムとの接着性の良いブラスメッキが施されているため、ゴムとの親和力が強く単なる機械的な操作では十分に選別除去できないことが多い。従来は前記金属ワイヤの選別除去のために、大規模な設備を使用して廃タイヤの破砕と磁気選別を繰り返し行っていたが、手間とコストに見合う結果が得られていなかった。従って従来の廃タイヤのリサイクルは、廃タイヤを加熱溶融して金属ワイヤを除去することが主流であるが、この加熱溶融はタイヤの焼却に近く、材料の十分な再利用には程遠いのが現状である。
【特許文献1】特開2000−317335号公報(請求項1、[0009]、[0023]、図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような現状に鑑み、廃タイヤリサイクルの第1段階として、廃タイヤ中から前述した多数本の金属ワイヤを選別除去する方法が提案されている(例えば特許文献1)。特許文献1では、固定刃と回転刃を使用して廃タイヤ全体を破砕する際に、固定刃と回転刃の先端間に多数本の金属ワイヤの径より僅かに大きな間隙を形成しておき、この間隙に前記多数本の金属ワイヤを捕捉して、この金属ワイヤを切断せずに廃タイヤ本体のゴムのみを破砕することを意図している。しかしこの方法では、従来の機械的破砕と同様に、強固に密着した金属ワイヤとタイヤ本体のゴムが十分に分離できるとは考えられない。
【0006】
本出願人らは、これらの欠点を解消するために、廃タイヤを大気中又は不活性ガス雰囲気中で軟化させ、廃タイヤ中の金属ワイヤ除去を容易に行う方法を提案した(特願2003−12278)。この方法は主として廃タイヤに電磁波を照射して廃タイヤの軟化を行うことを意図し、廃タイヤの軟化方法としては非常に優れた方法である。
しかしながら通常リサイクル対象の廃タイヤの数は莫大で一度に多くの廃タイヤの軟化処理を行うことが必要である。環状の廃タイヤを地上で運搬するためには転がすことが最も簡単であるが、廃タイヤが蛇行したり、停止させることが困難であるという問題点がある。
【0007】
更に廃タイヤに電磁波を照射すると条件に依っては発火したり異臭が生じたりすることがある。これを防止するためには電磁波照射を不活性ガス中で行えば良いが、大きな処理空間を不活性ガスで満たすことはコスト的にも設備的にも容易ではない。
従って本発明は、廃タイヤの取り扱いを容易に行うことができ、更に生活環境への悪影響を最小限に抑制した廃タイヤの軟化方法、廃タイヤ中の金属ワイヤの除去方法及びこれらの方法に使用可能な装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明方法は、複数本の金属ワイヤ(金属ワイヤ群)を埋設した廃タイヤの軟化方法において、前記廃タイヤの少なくとも一部を水に浸漬させながらタイヤ本体に電磁波を照射することを特徴とする廃タイヤの軟化方法であり、廃タイヤの軟化後に、複数本の金属ワイヤに対し力を加えてあるいは切断して前記軟化させた廃タイヤから離脱させても良い。
本発明装置は、水を収容した廃タイヤ浸漬槽、該廃タイヤ浸漬槽にその少なくとも一部が浸漬された廃タイヤ、該廃タイヤを保持する支持部材、及び該支持部材に保持された前記廃タイヤに電磁波照射する電磁波照射部材を含んで成ることを特徴とする廃タイヤの軟化装置、あるいは水を収容した固定タンク、該固定タンクの上方に保持された廃タイヤ、前記固定タンク及び廃タイヤ間を移動可能に設置された可動タンク、及び前記廃タイヤに電磁波を照射する電磁波照射部材を含んで成ることを特徴とする廃タイヤの軟化装置である。水を収容した通路内を、破砕した廃タイヤ片を搬送しながら、前記通路の外方から前記廃タイヤ片に電磁波を照射することを特徴とする廃タイヤの軟化方法も本発明に含まれる。
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
廃タイヤはその多くが硬質ゴム製であり、リサイクルを行う際にその高硬度が各種処理の障害になることが多い。そのために例えば金属ワイヤ除去の前段階等としての軟化が必要になる。
本発明では、軟化のために電磁波照射を採用し、この電磁波照射を前記前記廃タイヤの少なくとも一部を水に浸漬させながら行う。電磁波照射による加熱は狭い領域のみ、例えば前記金属ワイヤ及びその周囲のみを選択的に加熱できるため経済的である。
電磁波照射を行うと、廃タイヤを構成するゴム状物質のうちの照射部分が軟化するとともに、金属ワイヤとその周囲のゴム状物質を接合している接着剤も溶融して両者の密着力が低下する。
なお本発明における金属ワイヤとは廃タイヤに埋設された金属ワイヤ群を意味し、本発明は好ましくはタイヤ本体の内向き先端部に埋設された金属ワイヤの除去を対象とするが廃タイヤの他の部分に埋設された金属ワイヤの除去に使用しても良い。
【0010】
このように軟化は電磁波照射により行われるが、該電磁波照射による加熱温度は用途に応じて適宜設定する。例えばタイヤ本体から金属ワイヤを比較的容易に離脱させるためには、電磁波照射により少なくとも450〜500℃、好ましくは600〜700℃、より好ましくは約800℃まで加熱されることが望ましい。
電磁波には高周波(1MHz〜300MHz)やマイクロ波(300Hz〜300GHz)等が含まれるが、加熱により前述の温度まで達することができれば特に限定されない。
廃タイヤの電磁波照射に際しては、タイヤの燃焼に配慮する必要がある。つまり通常タイヤを構成するゴム状物質は可燃性であり、電磁波照射により、ある温度以上に加熱すると発火するおそれがある。一旦発火すると鎮火させることが困難で、多くの場合有毒ガスの発生を伴うため、電磁波照射時の廃タイヤからの発火は回避しなければならない。電磁波照射しても照射される熱量が比較的小さい場合には発火の可能性は低いが、大量の熱が発生するほど発火の危険性は高くなる。
【0011】
本発明ではこれを防ぐために、廃タイヤの少なくとも一部を水に浸漬させながら電磁波照射を行う。使用する水は特に限定されず、水道水、工業用水、地下水、雨水等が使用でき、汚染の程度が低ければ工場廃水も使用可能である。
通常の廃タイヤは比重が1未満で水に浮くため、廃タイヤ全体を水に浸漬させるためには、下向きに力を掛けることが必要であり、しかも廃タイヤの重心に対して力が掛からないと廃タイヤが安定しない。従って通常の操作では廃タイヤの一部を大気中に露出させた状態、換言すると廃タイヤが水に浮遊している状態で電磁波照射を行うようにしても良い。
【0012】
廃タイヤの一部が水上に位置する場合は、前記電磁波照射は水中に位置する廃タイヤに対して行うことが望ましいが、水上に位置する廃タイヤも含めた廃タイヤ全体に対して行っても良い。この場合には水上に位置する廃タイヤ部分から発火する可能性があるが、大部分が水中に浸漬しているためその可能性は低く、仮に発火しても発火の規模が小さくて済むことが多い。
このように廃タイヤの一部を水上に出したまま電磁波照射を行っても良いが、発火等をより確実に防止するには廃タイヤ全体を水中に浸漬させることが望ましいが、前述の通り廃タイヤの比重は1未満であるため、水に浮いた廃タイヤを上方から押し下げて全体を水中に浸漬させることは困難であることが多い。
これを防止するためには、例えば適宜の支持部材を使用して廃タイヤの位置を固定し、この支持部材を水を満たした水槽内に進入させることにより前記廃タイヤを水中に浸漬させたり、前記支持部材で固定した廃タイヤに、下方から水を満たした水槽を近づけかつ廃タイヤ全体がこの水槽内の水に浸漬されるようにすれば良い。
【0013】
これまで述べた廃タイヤの軟化に使用可能な本発明装置は、廃タイヤ、廃タイヤ浸漬槽(可動タンク)、支持(保持)部材、及び電磁波照射部材(加熱用電極)を含む。
廃タイヤは、水に浸漬させ発火の可能性を低減させるための廃タイヤ浸漬槽に浸漬される。廃タイヤの設置方向は、廃タイヤの少なくとも軟化させる箇所に電磁波照射が行われれば、垂直、水平及び傾斜の何れでも良い。廃タイヤ内の例えば上下1対の金属ワイヤ群に対し一度に電磁波照射を行う場合には、その電磁波照射の容易性からと垂直方向として、廃タイヤの側面から電磁波が照射されることが望ましいが、水平方向に設置し廃タイヤを反転させて2度の電磁波照射を行うようにしても良い。
【0014】
前記支持部材は、少なくとも電磁波照射の間、前記廃タイヤを保持する部材で廃タイヤを照射位置に固定することが望ましいが、多くの場合廃タイヤが浮遊状態にあるため、保持というよりも軽く支える程度でも十分なこともある。電磁波照射部材は、廃タイヤに好ましくは均一な電磁波照射を行うための部材である。垂直方向の設置の場合、例えば廃タイヤの外縁部とほぼ等しい環状の金属に通電用の外向き部材を接続した馬蹄形に類似する形状の1対の照射部材を廃タイヤの両側に設置し、両照射部材間に通電して前記廃タイヤに電磁波を照射する。
【0015】
この電磁波照射は、少なくとも軟化及び必要に応じて引き続く金属ワイヤの除去が行われる廃タイヤの対象箇所に電磁波が照射されるように行われ、例えば垂直方向に設置された廃タイヤ本体の内向き先端部に埋設された金属ワイヤの除去を目的とする場合には使用する馬蹄形の1対の照射部材を廃タイヤの外形より幾分小さくして前記金属ワイヤの周囲のゴム状物質や接着剤が十分軟化するように設計することが望ましい。
軟化後に行うことのある金属ワイヤ除去用の金属ワイヤ除去部材を前記本発明装置内に装着しても良いが、前記装置を複雑にするため、前記装置外に金属ワイヤ除去部材を設置することが望ましい。
【0016】
通常廃タイヤはトラック等に積載されてリサイクルポイントまで搬入されるが、一度に大量の廃タイヤの軟化あるいは電磁波照射を行うことが困難であるため、倉庫などに一時的に保管し、リサイクル処理の際に処理ポイントに搬送されることが多く、搬送時には廃タイヤが環状で地表を回転させながら走行させることが多い。しかしこの手法では倉庫が必要になるとともに、実際の廃タイヤの回転走行では制御が困難で処理ポイントへ導き難いという問題点がある。
しかしながら本発明では廃タイヤの少なくとも一部を水に浸漬させながら、例えば廃タイヤを水に浮かべながら電磁波照射を行うことができる。従って例えば廃タイヤの貯留用池を作製し、この貯留池に廃タイヤ運搬用トラックで搬送されてきた廃タイヤを落とし込んで浮かべておき、更に前記貯留池の要所に電磁波照射装置を設置し、リサイクルを行う廃タイヤを貯留池に浮かべながら前記電磁波照射装置まで誘導できる。前記貯留池の代わりに、トラックの搬入ポイントから電磁波照射装置まで、廃タイヤ搬送用の水路を形成しても良い。なお本発明で前記貯留池や水路は必須ではなく、廃タイヤを直接電磁波照射装置に導いても良い。
【0017】
本発明の他の態様では、このようにタイヤ本体、特に金属ワイヤの周囲のゴム状物質を電磁波照射により軟化させた後に、機械的な力を加えて前記金属ワイヤをタイヤ本体から離脱させる。該離脱は、金属ワイヤ周囲のゴム状物質が軟化して抜け易くなっているため、従来の機械的な離脱方法を使用して行うことができる。これにより金属ワイヤの選別除去の精度が格段に向上するとともに、コスト低下のメリットも生じる。なお軟化した廃タイヤから金属ワイヤのみを抜き出して除去するだけでなく、軟化した廃タイヤの金属ワイヤが含まれる箇所を切断除去しても良く、廃タイヤが軟化しているため、この操作は容易に行うことができる。
電磁波照射により一旦軟化した廃タイヤはそのまま放置しても軟化状態に維持されるため、軟化と金属ワイヤの除去を継続して行う必要はない。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明では、廃タイヤの軟化を少なくともその一部を水中に浸漬し電磁波照射により行うと、発火の可能性を最小に維持しながら、廃タイヤの必要箇所の軟化を容易に行うことができ、軟化後に必要に応じて行える軟化した廃タイヤからの金属ワイヤの除去も、廃タイヤが軟化していることから容易に行うことができる。
更に本発明では、廃タイヤの搬入ポイントから電磁波照射ポイントまで前記廃タイヤを水に浮遊させながら搬送でき、廃タイヤの取り扱いが簡便になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に本発明に係る廃タイヤの軟化装置の一実施形態例を添付図面に基づいて説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0020】
図1は本発明の係る廃タイヤの軟化装置の一例を示す縦断面図、図2は図1のA−A線矢示図である。
図1に示す通り、本実施形態例の廃タイヤの軟化装置11は、上向きに開口する箱型の廃タイヤ浸漬槽12を有している。この廃タイヤ浸漬槽12内には、該浸漬槽12上方に位置する制御盤13を搭載した連結板14に連結されかつスプリング15で把持状態を調節できる1対の支持部材16により把持された廃タイヤ17の上縁を除いた部分が浸漬している。前記支持部材16の先端は前記廃タイヤの外形に対応するように湾曲し把持を容易にしている。
前記連結板14の下面の前記支持部材16より内側には、前記廃タイヤ17のそれぞれの外側面に近接するよう設置された1対の馬蹄形の電磁波照射部材18のそれぞれの平行状態にある1対の基端部が接続されている。該電磁波照射部材18には前記制御盤13から前記連結板14を通して給電され、前記廃タイヤ17に電磁波が照射されるよう設計されている。
【0021】
図示の例では、電磁波照射部材18間への通電により廃タイヤ17に電磁波が照射されて照射部分が軟化する。更に廃タイヤ17の殆どが浸漬槽12内に浸漬しているため、電磁波照射により廃タイヤ17が発火しても殆どが水に接触しているため、発火が継続せず、有害ガスの発生等が実質的に防止される。
更に前記廃タイヤ浸漬槽を大型化し、多数の廃タイヤを浮かべておくと、軟化の完了した廃タイヤをスプリング15を緩めることにより支持部材16から取り外して浸漬槽内に浮かべ、次に軟化させる廃タイヤを支持部材16に把持させて、前述の電磁波照射を行い、更にこれらの操作を繰り返すことにより、多数の廃タイヤの軟化を容易に実施できる。
引き続き、軟化した廃タイヤ17から金属ワイヤを除去しても良く、その場合には、軟化した廃タイヤ17を浸漬槽12から取り出して適宜の方法で外力を加えて金属ワイヤを軟化した廃タイヤから除去することが望ましい(図4〜7参照)が、前記軟化装置11内に金属ワイヤ剥ぎ取り具や切断具を設置して当該軟化装置内で軟化と金属ワイヤ除去を行っても良い。
【0022】
図3A〜Cは本発明の係る他の装置を使用する一連の廃タイヤの軟化工程を示す概略断面図である。
図3Aに示すように、本例の軟化装置21は、地面等に設置された固定タンク22、この固定タンク22内に収容された上下方向移動が可能な可動タンク23、この可動タンク23の上方に設置された廃タイヤ保持装置24及びこの廃タイヤ保持装置24の上方に上下動可能に設置された加熱ステーションボックス25とから成っている。
【0023】
前記廃タイヤ保持装置24内には、廃タイヤ26が回転軸28により水平方向に固定され、この廃タイヤ26は反転モーター27を使用して回転軸28を回転させることにより反転できるようになっている。
前記加熱ステーションボックス25内には、下面側に加熱コイル29が設置された加熱ステーション(電極)30が加熱ステーションボックス25と一体的に昇降可能に設置され、このボックス25の天板中央の上向き筒状部31内には換気用ファン32が収容されている。
図3Aの状態では、前記可動タンク23には水が満たされて水位が上縁部と一致し、更に固定タンク22内の水の水位と一致している。又前記可動タンク23の底面のやや上方にはタイヤ位置決め器33が設置されている。
【0024】
この状態から可動タンク23を上昇させると、図3Bに示すように、廃タイヤ保持装置24により固定された廃タイヤ26全体が可動タンク23内に浸漬し、可動タンク23内の水がオーバーフローして固定タンク22内に流下する。そして前記タイヤ位置決め器33により廃タイヤ26を前記加熱ステーション30の真下に位置するように位置決めを行う。
更にこの状態から前記加熱ステーションボックス25を下降させ、加熱ステーション30を廃タイヤ26の上縁内部に位置させる。この状態では、加熱ステーションボックス25の下端が可動タンク23内まで降下して加熱ステーションボックス25内をシールしている。
【0025】
次いで前記換気用ファン32を回転させながら、加熱ステーション30に通電すると、廃タイヤ26の上縁内部に電磁波が照射されてこの部分が加熱されて軟化する(図3C)。この際に、廃タイヤ26全体が可動タンク23内の水に浸漬しているため、廃タイヤが発火することは殆どない。又廃タイヤの加熱により悪臭ガス34が発生することがあるが、悪臭ガス34の一部は水に溶解し残りの悪臭ガス34は換気用ファン32から外気へ放出される。
次いで加熱ステーションボックス25を上昇させ、かつ可動タンク23を下降させて図3Aの状態に戻した後、回転軸28を回転させて電磁波が照射されなかった側が上に向くように廃タイヤ26を回転させる。次いで図3B及びCの操作を繰り返して廃タイヤ26の上縁内部に電磁波を照射しこの部分を軟化する。
このように本例に従って水中で廃タイヤに電磁波を照射すると、大気中での照射と異なり、廃タイヤが発火することが殆どなくなり、更に悪臭の発生も大幅に減少する。
【0026】
次に図4から図7に基づいて軟化させた廃タイヤからの金属ワイヤの離脱方法を説明する。
先行する実施形態により両内縁部が軟化された廃タイヤ35を軟化装置から取り外し、例えばすのこ36上に移動させる。この廃タイヤ35の下側の内縁部を1対の固定具37ですのこ36上に固定し、更に下向きの2本の巻取り用金属棒(フォーク)38を有する金属ワイヤ離脱機39を軟化した廃タイヤ35内の複数本の金属ワイヤが一体化した上下1対の環状の金属ワイヤ群(図には現れない)の上方に位置させる(図4)。
次いで前記金属ワイヤ離脱機39を下降させ2本の巻取り用金属棒38が廃タイヤに突き刺さって上側の環状の金属ワイヤ群の両側に位置するようにする。前記上側の環状の金属ワイヤ群を、前記金属ワイヤ離脱機39とほぼ反対側で切断し、次いで前記金属ワイヤ離脱機39を回転させると、図5に示すように、金属ワイヤ群40が廃タイヤ35から抜き取られ、更に回転を継続すると、金属ワイヤ群40が完全に廃タイヤ35から除去されるとともに金属ワイヤ群40が個々の金属ワイヤ41に分離する(図6)。金属ワイヤ群除去後の廃タイヤ35(図7)は、若干の変形が生じていること、及び金属ワイヤ群除去の際の亀裂が生じていること以外は図4の廃タイヤと同じである。
このように電磁波照射により軟化させた廃タイヤ内の金属ワイヤ群は機械的に容易に離脱除去できる。
【0027】
図8及び図9は、廃タイヤの軟化装置の他の実施形態を示すものである。
この実施形態は、予めカッター等を使用して破砕した廃タイヤ片を通路内を通過させながら該廃タイヤ片に電磁波を照射して軟化させる態様である。
左端側が約45°の角度で斜め上方に傾斜し例えば塩化ビニル等の樹脂から成る搬送管51のほぼ中央上面が開口し、この開口部にはフランジ52が形成されている。このフランジ52には、下端に対となるフランジ53が形成されたホッパー54が、両フランジ52、53を締着することにより、連結されている。このホッパー付き搬送管51は計3個の脚55により地面に設置されている。
前記搬送管51の水平部分の内部には回転軸56が、搬送管51端部上方に設置されたモーター57により一方方向に回転可能に支持されている。この回転軸56にはその表面にスクリュー状の突起58が形成されている。
前記搬送管51の上向き傾斜管59の周囲にはコイル60が巻回され、該傾斜管59は上端を除いて水槽61内に浸漬されている。
【0028】
この装置を使用する廃タイヤの軟化は次のようにして実施できる。
まず破砕した廃タイヤ片をホッパー54中に投入する。通常の廃タイヤは比重が1よりやや小さく水に浮き易いが、破砕すると沈み易くなる。沈まない場合も軽く押えるだけで容易に沈み始め、更に廃タイヤ自体と異なり破砕して細片化しているため取り扱いが容易である。
ホッパー54に投入された廃タイヤ片は自動的に又は外力により搬送管51内の回転軸56に達し、その表面のスクリュー状の突起58により前記搬送管51内の図の左方向に搬送され、搬送管51の上向き傾斜管59の基端部に到達する。
前記廃タイヤ片は次いで、比重が1以上の場合は前記突起58による推進力により、比重が1未満の場合は前記推進力と自身の浮力により前記傾斜管59内を斜めに上昇する。
前記廃タイヤ片は上昇しながら、コイル60への通電により発生する電磁波を照射されて軟化し、軟化した廃タイヤ片は傾斜管59から系外へ取り出される。
本実施形態では、廃タイヤ片は完全に水に浸漬された状態で電磁波照射を受けるため、電磁波照射により発生することのある発火や悪臭が水で緩和されて直接大気中に発散されることがない。更に傾斜管59が水槽61の水で冷却されているため、発熱も抑制できる。
図示の例では、ホッパ−を使用し、搬送管の一部を傾斜させるよう構成したが、ホッパ−や傾斜部のない通常の円形や角形の管を使用しても良い。
【0029】
[実施例]
次に本発明に係る廃タイヤの軟化方法の実施例を記載するが、本実施例は本発明を限定するものではない。
【0030】
実施例1では、図1及び2に示す金属軟化装置と図4〜7の金属ワイヤ除去装置を使用して廃タイヤの軟化及びその中の金属ワイヤの除去を行った。
縦92cm、横87cm、深さ53cmの鉄製の廃タイヤ浸漬槽内に深さ30cmまで水道水を満たし、この廃タイヤ浸漬槽の上方に鉄製の連結板を設置し、この連結板には別に設けた制御盤から20〜24Vで給電できるようにした。
廃棄された車体からタイヤ(内径24cm、外径45cm、厚さ15cm)を取り出した。この廃タイヤの左右の内縁部にはそれぞれ直径約0.8mmの金属ワイヤが約20本束ねられていた。前記連結板の下面に先端が前記廃タイヤの外形に対応するように湾曲した1対の樹脂製の支持部材を設置し、両支持部材をスプリングで連結した。このスプリングを締め付けることにより前記廃タイヤを前記1対の支持部材で把持し、上端縁以外が浸漬槽内に浸漬するようにした。
【0031】
前記廃タイヤの両側面のそれぞれの近傍に、直径28cmで銅製の環状本体の両端部が平行になるよう成形した1対の馬蹄形の電磁波照射部材を近接させ、該電磁波照射部材の平行成形した上端部を前記連結板の下面に接続して前記制御盤からの給電されるようにした。
この状態で制御盤から約24Vを前記両電磁波照射部材間に供給して、約20〜30kHzの電磁波を前記金属ワイヤ群周辺の廃タイヤ表面に約1秒間照射した。
その後、支持部材を解除して廃タイヤを取り出したところ、廃タイヤ全体が軟化していた。
【0032】
次いで図4から7に示した金属ワイヤ離脱機を使用して廃タイヤの両側の金属ワイヤ群の巻取りを行った。金属ワイヤ群は個々の金属ワイヤに分かれ、完全に廃タイヤから離脱された。
【0033】
実施例2では、図3に示す金属軟化装置と図4〜7の金属ワイヤ除去装置を使用して廃タイヤの軟化及びその中の金属ワイヤの除去を行った。
縦120cm、横170cm、深さ63cmの固定タンク内に、縦92cm、横87cm、深さ53cmの可動タンクを設置し、可動タンクの水面と固定タンクの水面が一致するように水道水を満たした。
この可動タンクの上方に、実施例1と同形状の廃タイヤを反転自在に保持し、反転モーターにより回転軸を回転させることにより廃タイヤが反転できるようにした。
更にこの廃タイヤの上方には、加熱用電極を下部に設けた加熱ステーションを設置し、この加熱ステーションを上下動可能で天板の中央開口部に換気用ファンを有する加熱ステーションボックス内に収容した。
【0034】
この状態から可動タンクを上昇させてこの可動タンク内に廃タイヤ全体を浸漬させた。
次いで換気用ファンを回転させながら加熱ステーションボックスを下降させ、加熱用電極が廃タイヤに近接した際に前記加熱用電極に約24Vを印加して、約20〜30kHzの電磁波を金属ワイヤ群周辺の廃タイヤ表面に約1秒間照射して廃タイヤの上面側を軟化させた。
その後、換気ファンを停止し、加熱ステーションボックスを上昇させて元の位置に戻し、可動タンクも下降させて元の位置に戻した。
前記反転モーターを回転させて廃タイヤを反転させ、廃タイヤの他面側の軟化を行った。廃タイヤを取り出したところ、廃タイヤ全体が軟化していた。
【0035】
次いで実施例1と同様にして、廃タイヤの両側の金属ワイヤ群の巻取りを行った。金属ワイヤ群は個々の金属ワイヤに分かれ、完全に廃タイヤから離脱された。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の係る廃タイヤの軟化装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のA−A線矢示図である。
【図3】図3A〜Cは本発明の係る他の装置を使用する一連の廃タイヤの軟化工程を示す概略断面図である。
【図4】軟化させた廃タイヤから金属ワイヤを離脱する第1工程を説明するための斜視図である。
【図5】同じく第2工程を説明するための斜視図である。
【図6】同じく第3工程を説明するための斜視図である。
【図7】同じく第4工程を説明するための斜視図である。
【図8】本発明に係る廃タイヤの軟化装置の他の実施形態を示す縦断面図である。
【図9】図8の右側面図である
【図10】通常の自動車用タイヤを示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
11 廃タイヤの軟化装置
12 廃タイヤ浸漬槽
13 制御盤
14 連結板
15 支持部材
16 スプリング
17 廃タイヤ
18 電磁波照射部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の金属ワイヤを埋設した廃タイヤの軟化方法において、前記廃タイヤの少なくとも一部を水に浸漬させながらタイヤ本体に電磁波を照射することを特徴とする廃タイヤの軟化方法。
【請求項2】
廃タイヤ全体を水に浸漬させながらタイヤ本体に電磁波を照射するようにした請求項1記載の廃タイヤの軟化方法。
【請求項3】
廃タイヤの搬入ポイントから電磁波照射ポイントまで前記廃タイヤを水に浮遊させながら搬送するようにした請求項1記載の廃タイヤの軟化方法。
【請求項4】
複数本の金属ワイヤを埋設した廃タイヤの前記金属ワイヤの除去方法において、前記廃タイヤの少なくとも一部を水に浸漬させながら前記複数本の金属ワイヤの周囲のタイヤ本体に電磁波を照射して軟化させ、前記複数本の金属ワイヤを前記軟化させた廃タイヤから離脱させることを特徴とする廃タイヤ内の金属ワイヤ除去方法。
【請求項5】
複数本の金属ワイヤがタイヤ本体の内向き先端部に埋設されている請求項4に記載の金属ワイヤ除去方法。
【請求項6】
軟化させた廃タイヤの金属ワイヤ群の両側に1対の巻取り用フォークを挿入し、このフォークを回転させて前記金属ワイヤ群を該フォークに巻き取って除去するようにした請求項4又は5に記載の廃タイヤの金属ワイヤ除去方法。
【請求項7】
水を収容した廃タイヤ浸漬槽、該廃タイヤ浸漬槽にその少なくとも一部が浸漬された廃タイヤ、該廃タイヤを保持する支持部材、及び該支持部材に保持された前記廃タイヤに電磁波を照射する電磁波照射部材を含んで成ることを特徴とする廃タイヤの軟化装置。
【請求項8】
水を収容した固定タンク、該固定タンクの上方に保持された廃タイヤ、前記固定タンク及び廃タイヤ間を移動可能に設置された可動タンク、及び前記廃タイヤに電磁波を照射する電磁波照射部材を含んで成ることを特徴とする廃タイヤの軟化装置。
【請求項9】
水を収容した通路内を、破砕した廃タイヤ片を搬送しながら、前記通路の外方から前記廃タイヤ片に電磁波を照射することを特徴とする廃タイヤの軟化方法。
【請求項10】
廃タイヤ片供給口を有しかつ水を収容した搬送管、前記廃タイヤ片を前記搬送管内を搬送するための搬送管手段、及び前記搬送管の周囲の少なくとも一部に設置した電磁波照射具を含んで成ることを特徴とする廃タイヤの軟化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−27224(P2006−27224A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213144(P2004−213144)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(591119624)株式会社御池鐵工所 (86)
【出願人】(300001484)
【Fターム(参考)】