説明

廃棄物溶融炉用クロムフリー不定形耐火物

【課題】本発明の目的は、クロミア成分を実質的に含まず環境汚染の問題がなく、溶融炉の内張りとして、アルミナ−クロミア質不定形耐火物と同等またはそれ以上の耐用性を示す溶融炉用クロムフリー不定形耐火物を提供することにある。
【解決手段】本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物 MgO3〜28質量%、TiO21〜10質量%を含有してなり、Al23+MgO+TiO2の合計量が95質量%以上であり、主鉱物組成が
Al23−MgAl24−MgxAl2(1-x)Ti(x+1)5
または
MgAl24−MgxAl2(1-X)Ti(x+1)5
(式中、xは、0≦x<1の範囲内にある)
よりなるアルミナ−マグネシア−チタニア質粒子を3質量%以上使用し、且つアルミナ−マグネシア−チタニア質粒子とアルミナ粒子の合計量が80〜99質量%及び結合材1〜20質量%から構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的にクロミア(酸化クロム)成分を含まない廃棄物溶融炉用クロムフリー不定形耐火物及び該不定形耐火物を内張りに使用した廃棄物溶融炉に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物の減容化とダイオキシン発生抑制に優れた廃棄物処理炉として、廃棄物を直接溶融するガス化溶融炉あるいは廃棄物の焼却灰を溶融する灰溶融炉が出現している。これらの廃棄物溶融炉(以下、「溶融炉」という)内に生成する溶融炉スラグは、CaO/SiO2質量比が0.3〜1.5の低塩基度であり、廃棄物に由来するナトリウム等のアルカリ、塩素等の酸を含んでいる。溶融炉スラグは、低塩基度であることに加え、1300℃以上の高温操業のために溶融時の粘性が極めて低い。その結果、耐火物組織の脆弱化原因となるアルカリ、酸等のスラグ成分の耐火物組織に対する浸透が促進され、内張り耐火物の損耗が著しい。また、溶融炉に投入される廃棄物、あるいは焼却灰は炉内において低温物であり、その冷却作用によって内張り耐火物がスポーリング損傷する。
【0003】
溶融炉に使用される耐火物は、定形耐火物と不定形耐火物とに大別される。定形耐火物の施工は煉瓦積み作業を伴い、重労働でしかも高度な技術を要することから、近年は不定形耐火物による内張りが汎用されている。溶融炉の不定形耐火物として、従来使用されている材質は、アルミナ−クロム質に代表されるクロミア含有材質である。しかし、耐火物成分はアルミナの耐火性、容積安定性とクロミアの耐スラグ性とがあいまって優れた耐食性を示すが、耐火物成分の酸化クロムが人体に有害な六価クロムに変化し、溶融炉から排出されるスラグ及び使用後の内張り耐火物が環境汚染の原因となるなどの重大な問題がある。
【0004】
そこで、溶融炉用不定形耐火物として、実質的にクロミア原料を含まないクロムフリー材質が提案されている。例えば、特許文献1には、溶融ジルコニア粒子とアルミナ粒子とを主体とする耐火性粒子90〜99重量%(質量%)と、結合材1〜10重量%(質量%)を含む不定形耐火物であって、結合材中のアルミナセメントの含有量が30重量%(質量%)以上であり、且つ、耐火性粒子中の溶融ジルコニア粒子の含有量が5〜50重量%(質量%)、アルミナ粒子の含有量が50〜95重量%(質量%)であることを特徴とするアルミナ−ジルコニア質不定形耐火物が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、マグネシア6〜25重量%(質量%)、揮発シリカ0.1〜2重量%(質量%)、残部をアルミナ主体とした耐火骨材100重量部(質量部)に対し、アルミナセメント0.1〜5重量部(質量部)および分散剤を添加し、且つ前記アルミナのうち仮焼アルミナが耐火骨材全体に占める割合で5〜20重量%(質量%)とし、さらに前記マグネシアのうち粒径75μm以下のマグネシアが耐火骨材全体に占める割合で6〜20重量%(質量%)とした廃棄物溶融炉流し込み施工用不定形耐火物が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、粒度1.18〜3.35mmの粗粒を25〜55重量%(質量%)、粒度0.15〜1.18mmの中粒を15〜48重量%(質量%)及び粒度150μm未満の微粉を残部とするSiC骨材100重量部(質量部)に対して、アルミナ超微粉6.3〜25重量部(質量部)、シリカ超微粉1.3〜6.3重量部(質量部)、アルミナセメント3.5〜7.5重量部(質量部)及び分散剤0.13〜0.63重量部(質量部)を含有する組成物であって、該組成物に水7.0〜8.0重量%(質量%)を配合した時の混練物のフロー値が200〜260の範囲にあることを特徴とする緻密質流し込み耐火性組成物が開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、アルミナ質原料とチタニアを含む耐火性原料組成に結合剤及び分散剤を添加してなる不定形耐火物であって、流し込み施工後、乾燥した成形体の測定において、Al23が90質量%以上、チタニアをTiO2換算で0.1〜5質量%、その他成分が5質量%未満の化学成分を有する廃棄物溶融炉用クロムフリー不定形耐火物(請求項1);アルミナ質原料およびチタニアと、イットリアおよび/またはYAGとを含む耐火性原料組成に結合剤と分散剤を添加してなる不定形耐火物であって、流し込み施工後、乾燥した成形体の測定において、Al23が80質量%以上、チタニア成分をTiO2換算で0.1〜5質量%、Y23が15質量%以下、その他成分が5質量%未満の化学組成を有する廃棄物溶融炉用クロムフリー不定形耐火物(請求項2)が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献5には、耐火性粒子92〜98質量%と結合材2〜8質量%とを含む不定形耐火物であって、耐火性粒子中に、スピネル粒子を82〜94質量%、アルミナ粒子およびチタニア粒子を合量で6〜18質量%含むことを特徴とする不定形耐火物(ただし、上記においてスピネル粒子とは、MgAl24結晶を含み、かつMgO成分を5〜60質量%含み、かつMgO成分とAl23成分の合計量が95質量%以上である粒子をいう)が開示されている。
【0009】
また、特許文献6には、MgAl24−Mg2TiO4系固溶体とマグネシアを主成分とし、両者の比率が重量(質量)比にて、[MgAl24−Mg2TiO4]:マグネシア=5:95〜40:60であることを特徴とする不定形耐火物(請求項1);[MgAl24−Mg2TiO4]:マグネシア=5:95〜30:70であることを特徴とする請求項1記載の不定形耐火物(請求項2);バインダーを添加したことを特徴とする請求項1または2記載の不定形耐火物(請求項3);スピネル、クロム鉱、10重量%(質量%)以下のCaOを含有するドロマイト、アルミナ、ムライト、黒鉛などの炭素源、SiC、ジルコニア、ジルコン、チタニア、シリカおよびシリカフラワー、珪石、金属粉のうちの1種または2種以上を添加したことを特徴とする請求項1、2または3記載の不定形耐火物(請求項4)が開示されている。
【0010】
さらに、特許文献7には、耐火原料組成が、チタニア質原料0.5〜20質量%、アルミナ質原料3〜25質量%、残部をマグネシア質原料主体とし、且つ化学成分値でチタニア質原料からのTiO2が耐火原料組成全体に占める割合で0.5〜10質量%である、クロミアを実質的に含まない廃棄物溶融炉用不定形耐火物が開示されている。
【0011】
また、特許文献8には、MgAl24−Mg2TiO4系固溶体粒子が3〜70質量%、仮焼アルミナが0.5〜20質量%、残部がアルミナ粒子およびMgO成分が3〜33質量%であるスピネル粒子のうち少なくとも1つ以上からなり、かつ、アルミナセメントを含む結合材、分散剤を添加してなり、前記仮焼アルミナと前記結合材中のアルミナセメントの合計量が3〜25質量%であることを特徴とする廃棄物溶融炉用クロムフリー不定形耐火物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−281455号公報
【特許文献2】特開2001−153321号公報
【特許文献3】特開2000−203952号公報
【特許文献4】特開2004−352601号公報
【特許文献5】特開2002−145674号公報
【特許文献6】特開平11−147776号公報
【特許文献7】特開2005−213120号公報
【特許文献8】特開2008−94678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述の特許文献1〜8に開示されているような材質を溶融炉の内張り耐火物として使用しても十分な耐用性が得られない。例えば、特許文献1のアルミナ−ジルコニア質不定形耐火物においては、溶融炉スラグの塩基度が低いため、ジルコニア成分がスラグに溶出し、耐食性が劣るという問題点がある。
また、溶融炉における内張り耐火物の損傷形態は、主に溶損とスポーリングによる剥離であり、例えば特許文献2の廃棄物溶融炉流し込み施工用不定形耐火物のようなアルミナ−マグネシア質では、相当量のマグネシア原料を添加しているためにスピネル化反応による膨張が大きく、耐スポーリング性に劣るという問題点がある。
さらに、特許文献3の緻密質流し込み耐火性組成物のようなアルミナ−SiC質では、溶融炉の操業が酸化雰囲気であることで、SiC成分が酸化し、耐食性の低下が著しいという問題点がある。
また、特許文献4の廃棄物溶融用クロムフリー不定形耐火物のようなアルミナ−チタニア質では、高温操業時にチタニア成分の添加による焼結収縮が大きく、耐スポーリング性に劣るという問題点がある。
さらに、特許文献5の不定形耐火物のようなアルミナ−スピネル−チタニア質では、耐食性を向上させるためにチタニア粒子を相当量添加しているため焼結収縮が大きく耐スポーリング性に劣るという問題点がある。
また、特許文献6の不定形耐火物や特許文献7の廃棄物溶融炉用不定形耐火物のようなマグネシア−アルミナ−チタニア質では、熱膨張率の大きいマグネシア原料を多量に添加しているため、耐熱スポーリング性がかなり劣るという問題点がある。
さらに、特許文献8の廃棄物溶融炉用クロムフリー不定形耐火物のようなアルミナ−[MgO−Mg2TiO4]質では、チタニア成分の分散度を高めるために、[MgO−Mg2TiO4]質粒子を使用しているが、[MgO−Mg2TiO4]質粒子の添加量に比例してスラグ浸潤が大きくなるため、剥離損傷が生じて耐用としては不十分となる。
【0014】
従って、本発明の目的は、クロミア成分を実質的に含まないため環境汚染の問題がなく、溶融炉の内張りとして、アルミナ−クロミア質不定形耐火物と同等またはそれ以上の耐用性を示す溶融炉用クロムフリー不定形耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物 MgO3〜28質量%、TiO21〜10質量%を含有してなり、Al23+MgO+TiO2の合計量が95質量%以上であり、主鉱物組成が
Al23−MgAl24−MgxAl2(1-x)Ti(x+1)5
または
MgAl24−MgxAl2(1-X)Ti(x+1)5
(式中、xは、0≦x<1の範囲内にある)
よりなるアルミナ−マグネシア−チタニア質粒子を3質量%以上使用し、且つアルミナ−マグネシア−チタニア質粒子とアルミナ粒子の合計量が80〜99質量%及び結合材1〜20質量%から構成されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物は、アルミナ粒子の一部または全量を、スピネル質粒子に置換することができる。
【0017】
また、本発明は、前記溶融炉用クロムフリー不定形耐火物を流し込み施工またはプレキャストブロックにて内張りしたことを特徴とする廃棄物溶融炉を提供することにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物によれば、溶融炉の内張り材として使用した場合に、従来のクロミア含有不定形耐火物と同等またはそれ以上の耐用性を有し、しかも、クロムフリー材質であることから、環境汚染の問題もないという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
従来のクロムフリー材は、アルミナに相当量のジルコニア、マグネシアあるいはSiCを組み合わせたり、0.1mm以下のチタニアを少量添加したりしているが、本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物は、MgO3〜28質量%、TiO21〜10質量%を含有してなり、Al23+MgO+TiO2の合計量が95質量%以上であり、主鉱物組成が
Al23−MgAl24−MgxAl2(1-x)Ti(x+1)5
または
MgAl24−MgxAl2(1-X)Ti(x+1)5
(式中、xは、0≦x<1の範囲内にある)
よりなるアルミナ−マグネシア−チタニア質粒子を使用することを特徴としている。このアルミナ−マグネシア−チタニア質粒子を使用することにより、クロムフリー材質にも拘わらず、クロミア含有不定形耐火物と同等あるいはそれ以上の耐用性を発揮させることができる。以下にその理由を詳述する。
【0020】
本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物より構成される内張り耐火物にスラグが接触すると、アルミナ−マグネシア−チタニア質粒子中のTiO2成分は浸潤してきたスラグ中のCaOと反応して高融点のCaTiO3を生成し、スラグの更なる浸潤を抑制することが可能となる。そしてスラグ浸潤による変質層の厚さを薄く抑えることができ、また、スラグ浸潤部の融点の低下も小さくなるため、耐食性も高くなると考えられる。従って、耐食性を向上させるためには、浸潤したスラグのCaOとの反応性を高める必要があり、TiO2成分をいかに緻密且つ均一に分散させるかが非常に重要となる。TiO2成分の分散性は添加方法により大きく影響される。つまり、同じ添加量でも、0.1mm以下の高純度のチタニアを添加するよりも、低濃度のチタニア成分を含んだ粒子であるアルミナ−マグネシア−チタニア質粒子を使用する方が、マトリックスにおけるミクロ視野的なTiO2成分の分散度が格段に向上するために高耐食性が発揮される。
【0021】
さらに、アルミナ−マグネシア−チタニア質粒子中に含まれるMgxAl2(1-x)Ti(x+1)5(0≦x<1)は、Al2TiO5並びにAl2TiO5にMgO成分が固溶した鉱物であるが、アルミナに比べて熱膨張係数が非常に小さいという特徴を有するため、前記アルミナ−マグネシア−チタニア質粒子全体としては、MgAl24鉱物よりも低膨張性を示すため、耐スポーリング性を高める効果がある。溶融炉は温度変動が比較的大きいため、スポーリングによる剥離も損傷要因となるので、高耐用化において耐スポーリング性も重要な要素と考えられる。そのためには、Al23−MgAl24−MgxAl2(1-x)Ti(x+1)5またはMgAl24−MgxAl2(1-X)Ti(x+1)5において、xは、0≦x<1の範囲内にあることが好ましく、0≦x≦0.8の範囲内にあることがより好ましい。ここで、TiO2を含むMgxAl2(1-X)Ti(x+1)5は、熱膨張率は小さいが、高温で焼結収縮が大きいため、アルミナリッチスピネルまたはスピネルを固溶させることで、耐食性や耐スポーリング性を両立させることができる。
【0022】
なお、アルミナ−マグネシア−チタニア質粒子において、TiO2含量は1〜10質量%、好ましくは2〜9質量%の範囲内である。TiO2含量が1質量%未満では、スラグとの反応性が低下するため充分な耐食性が得られず、また、10質量%を超えると、高温加熱時に焼結収縮が大きくなるために好ましくない。
【0023】
また、アルミナ−マグネシア−チタニア質粒子において、MgO含量は3〜28質量%、好ましくは5〜25質量%の範囲内である。MgO含量が28質量%を超えると、熱膨張係数の大きい鉱物組成であるペリクレース(MgO)やクゥォンディライト(Mg2TiO4)が晶出し、耐スポーリング性が低下する原因となるために好ましくなく、また、3質量%未満では、耐食性が低下するために好ましくない。
【0024】
さらに、本発明に使用するアルミナ−マグネシア−チタニア質粒子は、Al23成分+MgO成分+TiO2成分の合計量が95質量%以上のものが好ましい。より好ましくは97質量%以上であり、不可避的な不純物や本発明の目的、効果を損なわない程度の他の成分を含んでいても良い。Al23成分+MgO成分+TiO2成分の合計量が95質量%未満では、不純物の影響により耐食性が低下するために好ましくない。なお、アルミナ−マグネシア−チタニア質粒子は焼成品であっても電融品であっても良く、これらを併用することもできる。
【0025】
本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物には、上記アルミナ−マグネシア−チタニア質粒子の配合量は3〜99質量%、好ましくは5〜90質量%、アルミナ粒子94質量%以下(0を含む)、好ましくは90質量%以下(0を含む)、アルミナ−マグネシア−チタニア質粒子とアルミナ粒子の合計量80〜99質量%、好ましくは85〜98質量%、及び結合材1〜20質量%、好ましくは2〜15質量%の範囲内でアルミナ−マグネシア−チタニア質粒子、アルミナ粒子及び結合材が配合される。ここで、アルミナ−マグネシア−チタニア質粒子の配合量が3質量%未満では、充分な耐食性が得られないために好ましくなく、また、99質量%を超えると、必要量の結合材を配合することができないために好ましくない。また、アルミナ粒子の配合量が94質量%を超えると、必要量のアルミナ−マグネシア−チタニア質粒子や結合材を配合することができないために好ましくない。更に、結合材の配合量が1質量%未満であると、充分な結合強度が得られないために好ましくなく、また、20質量%を超えると、耐食性が低下するために好ましくない。
【0026】
本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物に配合されるアルミナ粒子としては、一般的に販売されている焼結アルミナ、電融アルミナ、仮焼アルミナ等を使用することができ、これらを併用することもできる。アルミナ粒子の純度は95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上がより好ましい。アルミナ粒子中のAl23成分が95質量%未満では、不純物の影響により耐食性が低下するために好ましくない。なお、仮焼アルミナとしては、一般的に販売されている仮焼アルミナが使用でき、平均粒径が10μm以下のものが好ましく、溶融炉用クロムフリー不定形耐火物に高流動性を付与するためには平均粒径の異なる仮焼アルミナを2種以上併用することもできる。
【0027】
本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物に配合される結合材としては、アルミナセメント、水硬性アルミナ、リン酸塩、乳酸アルミニウム塩等の粉末状結合材を使用することができる。中でも、不定形耐火物から構成される成形体への強度付与効果の大きいアルミナセメントが好ましく、一般的に販売されているアルミナセメントが使用できる。種々のアルミナセメントが販売されているが、耐食性の低下を引き起こす原因となるため、Al23値が70質量%以上のアルミナセメントを使用することが好ましい。
【0028】
なお、本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物においては、前記アルミナ粒子の一部または全量をスピネル質粒子と置換することもできる。
【0029】
ここで、スピネル質粒子としては、一般的に販売されている焼結スピネル、電融スピネルを使用することができ、MgO含量が3〜33質量%、好ましくは5〜28質量%の範囲内のものを使用することができる。スピネル質粒子のMgO含量が33質量%を超えると、MgAl24結晶よりも熱膨張率が非常に大きいペリクレース結晶の割合が多くなり、耐スポーリング性が低下するために好ましくない。
【0030】
本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物において、原料成分の粒度構成は、1.0mm以上の粗粒が30〜70質量%、好ましくは40〜60質量%、0.1mm以下の微粉が25〜60質量%、好ましくは30〜55質量%、残部を0.1mm超1.0mm未満の中粒とする一般的な粒度範囲に属するものでよい。
【0031】
なお、本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物においては、得られる成形体を緻密化するために、分散剤を使用することができる。分散剤は解膠剤とも称され、不定形耐火物施工時に流動性を付与する効果も有する。分散剤の材質は従来から種々のものが提案されているが、本発明に使用できる分散剤の種類は特に限定されるものではなく、例えば、トリポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ウルトラポリリン酸塩、酸性ヘキサメタリン酸塩等の無機系分散剤や、ポリアクリル酸塩、スルホン酸塩、オキシカルボン酸塩等の有機系分散剤等が挙げられる。分散剤の配合量は、アルミナ−マグネシア−チタニア質粒子、アルミナ質粒子、アルミナ質粒子置換材質及び結合材の合計量に対して外掛けで0.03〜0.5質量%、好ましくは0.05〜0.3質量%の範囲内である。
【0032】
また、本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物には、施工時の作業性や可使時間等を調節するために硬化調整剤を使用する。硬化調整剤には、硬化促進剤と硬化遅延剤があり、本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物にいずれのものを使用することができ、例えばホウ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、消石灰、炭酸リチウム等が挙げられる。硬化調整剤の配合量は、アルミナ−マグネシア−チタニア質粒子、アルミナ質粒子、アルミナ質粒子置換材質及び結合材の合計量に対して外掛けで0.5質量%以下、好ましくは0.3質量%以下の範囲内である。
【0033】
本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物の溶融炉への施工は、上記成分から構成される配合物に対して外掛けで3〜8質量%程度の水を添加、混練し、型枠を用いて所定の位置に流し込むことにより行われる。ただし、液状結合材を使用する場合には、液分だけ水の添加量を減らす必要がある。施工の際には充填性を向上させるため、型枠にバイブレーターを取り付けるか、あるいは混練物中に棒状バイブレーターを挿入して振動を与えることができる。
【0034】
また、溶融炉に直接流し込み施工するだけでなく、本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物から予め任意の形状に成形したブロック、いわゆるプレキャストブロックを作製し、このブロックを用いて内張り施工することもできる。プレキャストブロックは乾燥後のものでも、乾燥後に任意の温度で焼成したものでも使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例により本発明の溶融炉用クロムフリー不定形耐火物をさらに説明する。
次のアルミナ−マグネシア−チタニア質粒子およびMgO−Mg2TiO4質粒子を調製した。
アルミナ−マグネシア−チタニア質(AMT)粒子A
Al23:81.6質量%、MgO:12.9質量%、TiO2:4.1質量%、その他:1.4質量%の組成を有し、鉱物組成がAl23、MgAl24、Mg0.3Al1.4Ti1.35およびコランダムよりなる焼結粒子
アルミナ−マグネシア−チタニア質(AMT)粒子B
Al23:72.5質量%、MgO:19.2質量%、TiO2:7.9質量%、その他:0.4質量%の組成を有し、鉱物組成がMgAl24、Al2TiO5、Mg0.5AlTi1.55およびMg0.8Al0.4Ti1.85よりなる電融粒子
MgO−Mg2TiO4質(MTA)粒子
Al23:21.1質量%、MgO:60.1質量%、TiO2:15.0質量%、その他:3.8質量%の組成を有し、鉱物組成がペリクレース、Mg2TiO4およびMgAl24よりなる焼結粒子
【0036】
上記原料を使用して表1に示す配合割合の原料配合物に所定量の水分を添加してミキサーにて混練後、各試験用の型枠に振動をかけながら流し込み成形し、24時間養生後に脱枠し、105℃で24時間乾燥することにより供試体を得た。
【0037】
【表1】

【0038】
表1中、耐食試験は、回転ドラム侵食試験により、上底50mm×下底80mm×厚さ60mm×高さ200mmの寸法を有する供試体を用いて行われた。侵食材として、ガス化溶融炉スラグ(化学分析値:SiO2=42.3質量%、Al23=16.2質量%、CaO=23.2質量%、Fe23=3.7質量%、MgO=3.2質量%、Na2O=3.5質量%、K2O=1.8質量%、P25=3.4質量%、CaO/SiO2=0.55)を用いた。1500℃で12時間侵食させた後の侵食量およびスラグ浸潤量(mm)を測定した。なお、侵食材は1時間毎に交換した。耐食性の評価は、比較品1のアルミナ質キャスタブルの侵食量を基準(溶損量100)として、他の供試体の侵食量の比率(溶損比)を求めて指数化したものである。ここで、溶損指数の小さい方が耐食性が良好であることを示す。
【0039】
耐スポーリング性の評価は、230mm×114mm×65mmの供試体を用い、長手方向に対する片面を電気炉にて1500℃で30分間加熱した後、強制空冷を30分間行い、この加熱−強制空冷のサイクルを10回繰り返した後、供試体の亀裂発生状況を評価したものである。ここで、○は良好、△はやや劣る、×は不良をそれぞれ示す。
【0040】
表1から判るように、本発明品は耐スポーリング性に優れ、比較品に示す従来品のクロミア含有品と同等またはそれ以上の耐食性に優れるものであり、溶融炉の内張り材に使用されているクロミア含有品を代替できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
上述のように、本発明のクロムフリー不定形耐火物は、溶融炉の内張り材として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgO3〜28質量%、TiO21〜10質量%を含有してなり、Al23+MgO+TiO2の合計量が95質量%以上であり、主鉱物組成が
Al23−MgAl24−MgxAl2(1-x)Ti(x+1)5
または
MgAl24−MgxAl2(1-X)Ti(x+1)5
(式中、xは、0≦x<1の範囲内にある)
よりなるアルミナ−マグネシア−チタニア質粒子を3質量%以上使用し、且つアルミナ−マグネシア−チタニア質粒子とアルミナ粒子の合計量80〜99質量%及び結合材1〜20質量%から構成されることを特徴とする廃棄物溶融炉用クロムフリー不定形耐火物。
【請求項2】
アルミナ粒子の一部または全量を、スピネル質粒子に置換する、請求項1記載の廃棄物溶融炉用クロムフリー不定形耐火物。
【請求項3】
請求項1または2記載の廃棄物溶融炉用クロムフリー不定形耐火物を流し込み施工またはプレキャストブロックにて内張りしたことを特徴とする廃棄物溶融炉。

【公開番号】特開2010−260770(P2010−260770A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113729(P2009−113729)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000001971)品川リフラクトリーズ株式会社 (112)
【Fターム(参考)】