説明

廃水処理装置

【課題】従来の課題を解決して高速エアレーション沈殿池の実用化を図る。
【解決手段】活性汚泥によって廃水を処理する反応槽と、上部が第1仕切り板によって前記反応槽と仕切られ、底部が前記反応槽の底部と連通する沈殿槽とに内部空間が区画された処理槽を備え、前記反応槽に注入された廃水と前記活性汚泥とが、その流れの一部は沈殿槽を経つつ、前記反応槽内を循環するよう上昇流及び下降流を形成する廃水処理装置において、前記反応槽には浮上担体が投入されており、前記浮上担体に向けて前記廃水が注入されるように廃水注入口を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的廃水処理技術の中で最も普及しているものの1つである活性汚泥法の中に、高速エアレーション沈殿池という技術がある。これは、微生物の凝集体である活性汚泥によって廃水中の有機物等の分解を進める円形の反応槽(曝気槽)の周囲に、他の活性汚泥法では反応槽と独立して設置される沈殿池を反応槽と一体のものとしてリング状に設置し、反応槽の中心部に、曝気装置などにより上昇流を、周辺部には下降流を起こして循環と曝気を行い、一方、沈殿池の下部側面はその下降流部分と連通するようにし、且つ沈殿池底面を反応槽側が低くなるよう大きく傾斜させて構成したものである。沈殿池があるので、反応槽の径は上部ほど小さくなっている。廃水は反応槽の底部に注入され、活性汚泥と共に上昇流部分から下降流部分を経て再び上昇流部分に戻るが、一部は沈殿池に入り、そこで活性汚泥は沈降して反応槽の下降流部分に戻り、上澄液はオーバーフローする。
なお、このような高速エアレーション沈殿池に関する基本的な技術については、例えば下記非特許文献1を参照されたい。
【0003】
上記の高速エアレーション沈殿池は、返送汚泥ポンプを不要とする長所があるが、敷地形状に合わせて槽形状を変えられるような融通性が無く、また、沈殿池に集泥機が無いためデッドスペースが形成されやすく汚泥が腐敗することがある等の短所もあって、我が国では最近ほとんど採用されていない。ただ、その機能を高めて再び活用しようという試みも為されてきた。例えば、下記特許文献1には、高速エアレーション沈殿池の曝気を間欠的にすることにより窒素、リンの生物学的な除去機能を付加させる技術が開示されている。また、下記特許文献2には、同じく窒素、リン除去を目的とするが、その効率向上のため、高炉水砕スラグ微粉や凝集剤を添加して、微生物の高濃度化と設備のコンパクト化を図る技術が開示されている。また、下記特許文献3には、このような流動型担体のほか、アミ状、ひも状などの非流動型(固定型)担体を併用して、沈殿池のコンパクト化を図る技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は、槽形状に融通性が無い、沈殿池にデッドスペースが形成されやすいという高速エアレーション沈殿池の問題を解決するものではない。特許文献2や3の技術では、確かに流動型担体を用いることで活性汚泥の沈降速度を高めて沈殿池での沈降分離を容易とするが、担体が小さい場合、活性汚泥に付着せずに担体がそのまま流出したとき水質悪化の原因となり、担体が大きい場合、反応槽と沈殿池の連通部分や反応槽内で担体が沈降する傾向があり、その防止のため強力な攪拌手段が必要となる。特許文献2の技術では、凝集剤を使用することで活性汚泥の沈降速度を高めるが、凝集剤の継続的添加が必要となり維持管理費が増大する。特許文献3の技術では、非流動型(固定型)担体を使用した場合、流動型担体と比べて廃水成分との接触効率が幾分悪くなるほか、担体に付着しない浮遊性の活性汚泥(浮遊性微生物)を無くすことができないため、浮遊性微生物が沈殿池に流入してデッドスペースが形成されやすくなる。そもそも、沈殿池におけるデッドスペースの形成を防止するためには(言い換えれば、浮遊性微生物が沈殿池に流入することを防止するためには)、担体に付着する付着性微生物が浮遊性微生物に対して有利になるような条件を作り、浮遊性微生物が自然淘汰される環境を生み出す必要があるが、特許文献2及び3にはそういう機構が無い。
【0005】
一方、微生物付着用担体の側から見ると、非常に多くの研究開発が蓄積されてきた。そのいくつかは前述のように高速エアレーション沈殿池にも適用されてきたが必ずしも成功していない。しかしながら、未だ高速エアレーション沈殿池に適用されていない担体として、水中で浮上する担体(浮上担体)がある(下記特許文献4参照)。この浮上担体は、液から担体を分離するのが簡単という特徴があり、標準的な活性汚泥法の反応槽に投入して使用されるアイディアが出されてきた。例えば、下記特許文献5及び6には、反応槽から沈殿池に至る経路の途中で、曝気や攪拌の及ばない部分を設けて浮上担体を浮上させ、液のみを沈殿池に導く技術が開示されている。
【0006】
このような浮上担体を高速エアレーション沈殿池の反応槽に投入すると、その沈殿池の問題が解決しそうに見えるが、実際は浮上担体に多量の微生物が付着すると重くなり、一部が流動型担体と同じような挙動を示し、反応槽と沈殿池の境界付近に沈殿してデッドスペースを形成してしまう。そうならないよう浮上担体の比重を極端に軽くすると、今度はその部分がほとんど流動しなくなって、生物反応速度が低下してしまう。結局、浮上担体も流動型担体も、それを使用する場合には反応槽から沈殿池への流路全面に担体ろ過構造(網、スクリーン、多孔板など)を設置せざるをえず(下記特許文献7参照)、その洗浄のため過剰な曝気が必要になったり、曝気の気泡が沈殿池に流入して汚泥浮上の原因になったりし、期待ほどの効果は得られなかった。
また、高速エアレーション沈殿池のもう1つの欠点、即ち、敷地形状に合わせて槽形状を変えられるような融通性が無いという点には、ほとんど改良の試みが為されなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Eckenfelder, W.W. & O’Connor, D.J.(岩井重久訳);廃水の生物学的処理;コロナ社(1971)
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平1−48834号公報
【特許文献2】特開平6−226292号公報
【特許文献3】特開平8−197078号公報
【特許文献4】特開昭63−77595号公報
【特許文献5】特開平8−224588号公報
【特許文献6】特許第3155457号公報
【特許文献7】特許第3963748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、高速エアレーション沈殿池の実用化にあたっては、解決すべき様々な課題があり、本来優れた発想に基づく技術であるにも関わらず衰退の一途をたどっているのが現状であった。
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、従来の課題を解決して高速エアレーション沈殿池の実用化を図ることを目的とする。具体的には、沈殿槽におけるデッドスペースの形成を抑制することを第1の目的とし、次いで、敷地形状に合わせて槽形状を変えられるような融通性が無いという課題を解決することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る廃水処理装置は、第1の解決手段として、活性汚泥によって廃水を処理する反応槽と、上部が第1仕切り板によって前記反応槽と仕切られ、底部が前記反応槽の底部と連通する沈殿槽とに内部空間が区画された処理槽を備え、前記反応槽に注入された廃水と前記活性汚泥とが、その流れの一部は沈殿槽を経つつ、前記反応槽内を循環するよう上昇流及び下降流を形成する廃水処理装置(いわゆる高速エアレーション沈殿池)において、前記反応槽には浮上担体が投入されており、前記浮上担体に向けて前記廃水が注入されるように廃水注入口を設けたことを特徴とする。
このように、反応槽に浮上担体を投入し、廃水を従来のように反応槽の下部から注入するのではなく、浮上担体に向けて注入することによって、浮上担体の近くで有機物など、微生物にとっての基質が高濃度になるという付着性微生物に有利な環境を作ることができる。つまり、浮上担体に付着した付着性微生物の方が浮遊性微生物(活性汚泥)より有利に基質を利用できる自然淘汰が働くので、沈殿槽に流入する活性汚泥が大幅に減少し、沈殿槽におけるデッドスペースの形成を抑制することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る廃水処理装置は、第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記第1仕切り板は、前記処理槽の片側が前記反応槽に、反対側が前記沈殿槽に区画されるように設置されており、前記反応槽において水面に達した前記上昇流が2方向に分離することで、前記第1仕切り板に沿う第1下降流と、前記第1仕切り板と対向する前記反応槽の内壁面に沿う第2下降流とが形成されるように前記上昇流を形成する上昇流形成手段を備え、前記廃水注入口は、前記第2下降流の形成部上の水面に浮遊している前記浮上担体の上方から前記廃水が注入されるように設置されていることを特徴とする。
このような構成とすることにより、反応槽に注入した廃水が沈殿槽に短絡することを防止することができる。また、このような構成とすることで、反応槽及び沈殿槽の平面形状を矩形にすることができ、処理槽の平面形状も矩形することができるため、従来型の高速エアレーション沈殿池における敷地形状に対する槽形状の融通性の無さの問題も解決することができる(従来型の処理槽は円形であった)。
【0012】
また、本発明に係る廃水処理装置は、第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記上昇流形成手段は、空気を前記廃水中に吹き出すことにより前記上昇流を形成する散気装置であり、前記反応槽において前記上昇流の形成部と前記第1下降流の形成部との間に、上端が水面より高く、下端が前記反応槽の底部に接しないように設置されていると共に、上部は前記浮上担体が前記沈殿槽側へ流入しないように濾過構造となっている第2仕切り板を備えていることを特徴とする。
浮上担体に微生物が付着すると重くなり、反応槽と沈殿槽との連通部分に溜まって流れを阻害するという懸念があるが、上記の構成とすることにより、浮上担体が沈殿槽側へ流入することを防止することができるため、上記懸念を解決することができる。また、散気装置から発生する気泡によって、第2仕切り板の濾過構造部分を洗浄することもできる。
【0013】
また、本発明に係る廃水処理装置は、第4の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記上昇流形成手段は、撹拌によって前記上昇流を形成する撹拌装置であり、前記第1仕切り板の反応槽側において、上端が水面より高く、下端が前記反応槽の底部に接するように設置されていると共に、前記浮上担体が前記沈殿槽側へ流入しないように濾過構造となっている担体濾過板と、前記担体濾過板を洗浄する濾過板洗浄手段と、を備えていることを特徴とする。
このような構成は、有機物と共に硝酸塩を含有する廃水の処理に適しており、有機物の分解は酸素ではなく硝酸イオンによって行われて脱窒を図ることができる。また、上昇流形成手段として散気装置ではなく撹拌装置を用いているため、濾過板洗浄手段を別に設けることにより、担体濾過板を洗浄することができる。
【0014】
また、本発明に係る廃水処理装置は、第5の解決手段として、上記第1〜第4のいずれか1つの解決手段において、前記反応槽の底部に沈降した前記浮上担体を洗浄する担体洗浄手段を備えることを特徴とする。
このような構成とすることにより、大量の微生物が付着して重くなり、反応槽の底部に沈降している浮上担体を洗浄して浮力を復活させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る廃水処理装置の構成を採用することにより、従来の課題(沈殿槽におけるデッドスペースの形成、敷地形状に合わせて槽形状を変えられるような融通性が無い)を解決して高速エアレーション沈殿池の実用化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態における高速エアレーション沈殿池1(廃水処理装置)の構成概略図である。
【図2】本発明の第2実施形態における高速エアレーション沈殿池2(廃水処理装置)の構成概略図である。
【図3】廃水注入口18の各設置例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下では、本発明に係る廃水処理装置として、高速エアレーション沈殿池を例示して説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態における高速エアレーション沈殿池1の構成概略図であり、図1(a)は高速エアレーション沈殿池1の側面図を示し、図1(b)は高速エアレーション沈殿池1の平面図を示している。なお、図1において、図中に示すようなXYZ直交座標系を設定し、X軸方向を高速エアレーション沈殿池1の幅方向、Y軸方向を奥行き方向、Z軸方向を高さ方向とする。また、XY平面は水平面と平行であると想定する。
【0018】
この図1に示すように、高速エアレーション沈殿池1は、活性汚泥によって廃水を処理する反応槽12と、上部が第1仕切り板13aによって反応槽12と仕切られ、底部が反応槽12の底部と連通する沈殿槽13とに内部空間が区画された処理槽11を備えている。この処理槽11の平面形状は矩形であり、上記の第1仕切り板13aは、処理槽11の片側が矩形の反応槽12に、反対側が矩形の沈殿槽13に区画されるように設置されている。
なお、以下では反応槽12と沈殿槽13との連通部分を連通部13bとする。
【0019】
沈殿槽13の上部には、活性汚泥の沈殿により分離される上澄水をオーバーフローするための越流堰13cが設けられており、それにより規定される水面は第1仕切り板13aの上端より下方に位置するようになっている。反応槽12の内部には、幅方向に対して反応槽12の中央付近に位置し、奥行き方向に対して一列に延在する状態で、底部から少し上方に散気装置14が設置されている。この散気装置14は、不図示の空気供給装置から連続的に供給される空気を、その設置位置から周囲に向けて吹き出すものである。つまり、この散気装置14による空気の吹き出しによって、反応槽12に注入された廃水中に上昇流が形成される。
【0020】
上記のように、散気装置14によって形成された上昇流は水面に達すると2方向(幅方向の沈殿槽13側と、その反対側)に分離し、第1仕切り板13aに沿う第1下降流と、第1仕切り板13aと対向する反応槽12の内壁面に沿う第2下降流とが形成される。以下では、上昇流の形成部を上昇流形成部12a、第1下降流の形成部を第1下降流形成部12b、第2下降流の形成部を第2下降流形成部12cとする。
【0021】
反応槽12の内部には、散気装置14と第1仕切り板13aとの間において、散気装置14寄りに第2仕切り板15が第1仕切り板13aに対して平行に設置されている。言い換えれば、この第2仕切り板15は、上昇流形成部12aと第1下降流形成部12bとの境界面に設置されている。また、この第2仕切り板15は、上端が水面より高く、下端が反応槽12の底部に接しないように設置されていると共に、上部に後述の浮上担体17が沈殿槽13側へ流入しないように、目開き4〜40mm程度の網状、スクリーン状または多孔板状の担体濾過構造15aが形成されている。
【0022】
反応槽12の底部は、奥行き方向には一様であるが、幅方向には高さが変化する。すなわち、沈殿槽13の底部から散気装置14の下方までの連通部13b付近は水平面(XY平面)に対して60°以上の角度を有する傾斜面となっており、沈殿槽13側が高くなっている。また、沈殿槽13の反対側も反応槽12の側壁側が高く、散気装置14側が低くなり、散気装置14付近は水平となっている。
【0023】
また、この反応槽12の底部付近には、反応槽12の底部に沈降した浮上担体17を洗浄する空気吹き出し管(担体洗浄手段)16が、奥行き方向に対して一列に延在する状態で1本設置されている。この空気吹き出し管16は、不図示の空気供給装置から間欠的に供給される空気を、その設置位置から側方または下方に向けて吹き出すことにより、反応槽12の底部に沈降した浮上担体17に付着した微生物を除去するものである。
【0024】
上記のような反応槽12内には、水中で浮上する浮上担体17が投入されている。浮上担体17としては、比重1以下のプラスチック粒子やサイコロ状のスポンジ等を用いることができるが、その大きさは第2仕切り板15に形成された担体濾過構造15aの目開きより大きいサイズとする必要がある。そして、上記の浮上担体17に向けて廃水が注入されるように、具体的には、第2下降流形成部12c上の水面に浮遊している浮上担体17の上方から廃水が注入されるように廃水注入口18が設置されている。本実施形態では、図1(b)に示すように、反応槽12における奥行き方向中央部の一箇所から廃水が注入されるように、廃水注入口18が設置されている。つまり、廃水注入口18には、廃水出口18aが1つだけ設けられている。
【0025】
以上が第1実施形態における高速エアレーション沈殿池1の構成に関する説明であり、以下では上記のように構成された高速エアレーション沈殿池1における廃水処理プロセスについて詳細に説明する。
反応槽12に浮上担体17を投入し、不図示の空気供給装置から散気装置14に空気を供給すると、散気装置14から発生する気泡が上昇流形成部12aを上昇して上昇流を引き起こす。この上昇流は、水面に達すると、第1下降流形成部12bと第2下降流形成部12cとの2方向に分かれ、下降流はやがて散気装置14の下方に戻って、再び上昇流形成部12aに入り旋回流となる。
【0026】
浮上担体17は、新品状態では水面に浮いているが、微生物が付着すると重くなり沈むことがある。これら浮上担体17は、第2下降流形成部12cでは下降流に乗り、次いで上昇流に乗って流動する一方、第1下降流形成部12bでは第2仕切り板15に形成された担体濾過構造15aで遮られ、沈殿槽13側への流入が阻止される。廃水注入口18から廃水が注入されると、水面に浮遊している浮上担体17の層において、散気装置14から供給される酸素の存在下、浮上担体17に付着した微生物や浮遊性微生物によって、廃水中の有機物が分解される。廃水中の有機物はさらに反応槽12内を流動する重くなった浮上担体17や浮遊性微生物によっても分解される。
【0027】
この有機物を分解された廃水の一部は、担体濾過構造15aによって浮上担体17を除かれたのち、第1下降流形成部12b、連通部13bを経由して沈殿槽13に流入する。そして、沈殿槽13において、廃水に含まれる浮遊性微生物(活性汚泥)のうち沈降するものは沈降して底部の傾斜を滑り落ち、第2下降流形成部12bの下降流に乗って反応槽12の中心部に戻る。つまり、反応槽12の廃水中に形成された上昇流及び下降流によって、活性汚泥が沈殿槽13を経て反応槽12内を循環することになる。一方、沈殿槽13の上部に溜まった上澄水は、処理水として越流堰13cから外部に流出する。また、浮上担体17に大量の微生物が付着して重くなり、反応槽12の底部に沈降するような場合は、空気吹き出し管16に間欠的に空気を供給し、空気吹き出し管16から空気を吹き出すことにより、沈降している浮上担体17を洗浄して浮力を復活させる。これにより、浮上担体17を連続的に反応槽12内で循環させることができる。
【0028】
以上の説明したように、本実施形態では、反応槽12に浮上担体17を投入し、その下方から曝気して適度な循環流を形成すると共に、廃水を従来のように反応槽12の下部から注入するのではなく、浮上担体17の層の上方から注入することによって、浮上担体17の近くで有機物など、微生物にとっての基質が高濃度になるという付着性微生物に有利な環境を作ることができる。つまり、浮上担体17に付着した付着性微生物の方が浮遊性微生物(活性汚泥)より有利に基質を利用できる自然淘汰が働くので、沈殿槽13に流入する活性汚泥が大幅に減少し、沈殿槽13におけるデッドスペースの形成を抑制することが可能となる。
【0029】
また、本実施形態の構成を採用することにより、反応槽12に注入した廃水が沈殿槽13に短絡することを防止することができる。また、このような構成とすることで、反応槽12及び沈殿槽13の平面形状を矩形にすることができ、処理槽11の平面形状も矩形することができるため、従来型の高速エアレーション沈殿池における敷地形状に対する槽形状の融通性の無さの問題も解決することができる(従来型の処理槽は円形であった)。
【0030】
また、浮上担体17に微生物が付着すると重くなり、反応槽12と沈殿槽13との連通部13bに溜まって流れを阻害するという懸念があるが、本実施形態の構成を採用することにより、浮上担体17が沈殿槽13側へ流入することを防止することができるため、上記懸念を解決することができる。また、散気装置14から発生する気泡によって、第2仕切り板15の担体濾過構造15aを洗浄することもできる。さらに、空気吹き出し管16を用いることにより、大量の微生物が付着して重くなり、反応槽12の底部に沈降している浮上担体17を洗浄して浮力を復活させることができる。
【0031】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態における高速エアレーション沈殿池2について説明する。図2は、第2実施形態における高速エアレーション沈殿池2の構成概略図であり、図2(a)は高速エアレーション沈殿池2の側面図を示し、図2(b)は高速エアレーション沈殿池2の平面図を示している。なお、図2において、図1と同様の構成要素には同一符号を付し、以下では第1実施形態と重複する部分についての説明を省略し、異なる部分にのみ着目して説明する。
【0032】
上記第1実施形態における高速エアレーション沈殿池1は、有機物を含有する廃水の処理を想定したものであったが、第2実施形態における高速エアレーション沈殿池2は、硝酸塩と有機物を含有する廃水の処理を想定し、硝酸イオンからの脱窒を図るものである。そこで、第2実施形態における高速エアレーション沈殿池2には、散気装置14の代わりに、ほぼ正方形の反応槽12の中心部に、上端と水面との間、及び下端と反応槽12の底部との間に隙間が形成されるように、高さ方向に延在するドラフトチューブ21を設置し、そのドラフトチューブ21の内部に撹拌装置22を設けた構成を採用している。この撹拌装置22による撹拌動作によって、ドラフトチューブ21の内部に上昇流が形成される(上昇流形成部12a)。
【0033】
また、第2仕切り板15の代わりに、第1仕切り板13aの反応槽12側において、上端が水面より高く、下端が反応槽12の底部に接する担体濾過板23を第1仕切り板13aと平行に設置する。この担体濾過板23は、第2仕切り板15の担体ろ過構造15aと同様に、浮上担体17が沈殿槽13側へ流入しないように濾過構造となっている。さらに、担体濾過板23の下方近傍には、担体濾過板23を洗浄する洗浄用空気吹き出し管(濾過板洗浄手段)24が、奥行き方向に対して一列に延在する状態で1本設置されている。この洗浄用空気吹き出し管24は、不図示の空気供給装置から間欠的に供給される空気を、その設置位置から上方に向けて吹き出すことにより、担体濾過板23を洗浄するものである。なお、反応槽12の底部は、連通部13b付近は第1実施形態と同様であるが、反応槽12の中心部が低くなるよう4つの側壁から傾斜面が形成されている点で異なっている。以上説明した以外は第1実施形態と同様の構造である。
【0034】
上記のように構成された高速エアレーション沈殿池2における廃水処理プロセスは、撹拌装置22による撹拌動作によって上昇流を形成する点、担体濾過板23によって沈殿槽13に浮上担体17が流入するのを防止する点、廃水中の有機物の分解は酸素でなく廃水に含まれている硝酸イオンによって行われる点が第1実施形態と異なっている。なお、第1実施形態では、散気装置14から発生する気泡によって、第2仕切り板15の担体ろ過構造15aを洗浄することができるが、第2実施形態では散気装置14を使用しないので、間欠的に洗浄用空気吹き出し管24から空気を送ることにより、担体濾過板23を洗浄することができる。
【0035】
〔実施例〕
本願発明者は、第1実施形態における高速エアレーション沈殿池1を模擬した反応槽(容量2.5リットル)、沈殿槽(容量0.5リットル)の実験装置を用いて、その効果を確認した。なお、この実験装置を2系列用意し、一方は活性汚泥法(従来型の高速エアレーション沈殿池模擬)として運転し、他方は浮上担体としてサイコロ状のスポンジを反応槽の25%の容積で投入し本発明として運転した。
表1は、2系列とも同じ量の活性汚泥を投入して馴養ののち、CODCr濃度1150mg/L、n−へキサン抽出物質濃度245mg/Lの同一の工場廃水を、ステップ的に流量を上げながら反応槽に注入した場合における10日目の各データを示している。この表1に示すように、従来手法と比較して、本発明の方が沈殿槽に流入する活性汚泥濃度(MLSS:Mixed Liquor Suspend Solids)が低く、沈殿槽におけるデッドスペースの形成を抑制可能であることが実証された。また、従来手法と比較して、本発明の方が沈殿槽からの流出水(つまり、処理水として流出する上澄水)のCODCr濃度とn−へキサン抽出物質濃度が低くなっており、処理性能も従来手法より優れていることが実証された。
【0036】
【表1】

【0037】
〔変形例〕
本発明は上記実施形態に限定されず、以下のような変形例が考えられる。
(1)上記第1及び第2実施形態では、浮遊している浮上担体17の上方から廃水が注入されるように廃水注入口18を設置した場合を例示したが、本発明の趣旨は、廃水が最初に浮上担体17と接触して付着性微生物に有利な環境を形成し、浮遊性微生物を自然淘汰することで沈殿槽13に流入する活性汚泥(浮遊性微生物)を少なくして、デッドスペースの形成を抑制することである。従って、上記趣旨を満足する、つまり廃水が最初に浮上担体17と接触することが可能であるならば、廃水注入口18の設置位置(奥行き方向や高さ(深さ)方向)を適宜変更しても良い。
【0038】
図3は、廃水注入口18の各設置例を示す平面図である。図3(a)は、反応槽12の奥行き方向に沿って複数の廃水出口18aを有するT字形状の廃水注入口18を設置した場合の平面図である。図3(b)は、1つの廃水出口18aを有する廃水注入口18を、反応槽12において奥行き方向の奥側に設置した場合の平面図である。この場合、越流堰13cを奥行き方向の手前側に設けることで、廃水の短絡防止効果を増すことができる。図3(c)は、1つの廃水出口18aを有する廃水注入口18を、反応槽12において奥行き方向の手前側に設置した場合の平面図である。この場合、越流堰13cを奥行き方向の奥側に設けることで、廃水の短絡防止効果を増すことができる。
【0039】
(2)上記第1及び第2実施形態では、反応槽12及び沈殿槽13の平面形状を矩形とする(つまり処理槽11の平面形状も矩形)場合を例示して説明したが、敷地形状に対する槽形状の融通性を考慮する必要がない場合には、従来のように処理槽11の平面形状を円形とし、同心円状に反応槽12が中心に、沈殿槽13がその周囲に形成されるように処理槽11内を区画しても良い。この場合の槽構造に合わせて、廃水注入口18の設置位置や、第1仕切り板13a、散気装置14、第2仕切り板15、空気吹き出し管16、担体濾過板23及び洗浄用空気吹き出し管24の形状、設置位置を適宜変更すれば良い。
【符号の説明】
【0040】
1、2…高速エアレーション沈澱池(廃水処理装置)、11…処理槽、12…反応槽、12a…上昇流形成部、12b…第1下降流形成部、12c…第2下降流形成部、13…沈殿槽、13a…第1仕切り板、13b…連通部、13c…越流堰、14…散気装置、15…第2仕切り板、15a…担体濾過構造、16…空気吹き出し管、17…浮上担体、18…廃水注入口、18a…廃水出口、21…ドラフトチューブ、22…撹拌装置、23…担体濾過板、24…洗浄用空気吹き出し管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥によって廃水を処理する反応槽と、上部が第1仕切り板によって前記反応槽と仕切られ、底部が前記反応槽の底部と連通する沈殿槽とに内部空間が区画された処理槽を備え、前記反応槽に注入された廃水と前記活性汚泥とが、その流れの一部は沈殿槽を経つつ、前記反応槽内を循環するよう上昇流及び下降流を形成する廃水処理装置において、
前記反応槽には浮上担体が投入されており、前記浮上担体に向けて前記廃水が注入されるように廃水注入口を設けたことを特徴とする廃水処理装置。
【請求項2】
前記第1仕切り板は、前記処理槽の片側が前記反応槽に、反対側が前記沈殿槽に区画されるように設置されており、
前記反応槽において水面に達した前記上昇流が2方向に分離することで、前記第1仕切り板に沿う第1下降流と、前記第1仕切り板と対向する前記反応槽の内壁面に沿う第2下降流とが形成されるように前記上昇流を形成する上昇流形成手段を備え、
前記廃水注入口は、前記第2下降流の形成部上の水面に浮遊している前記浮上担体の上方から前記廃水が注入されるように設置されていることを特徴とする請求項1記載の廃水処理装置。
【請求項3】
前記上昇流形成手段は、空気を前記廃水中に吹き出すことにより前記上昇流を形成する散気装置であり、
前記反応槽において前記上昇流の形成部と前記第1下降流の形成部との間に、上端が水面より高く、下端が前記反応槽の底部に接しないように設置されていると共に、上部は前記浮上担体が前記沈殿槽側へ流入しないように濾過構造となっている第2仕切り板を備えていることを特徴とする請求項2記載の廃水処理装置。
【請求項4】
前記上昇流形成手段は、撹拌によって前記上昇流を形成する撹拌装置であり、
前記第1仕切り板の反応槽側において、上端が水面より高く、下端が前記反応槽の底部に接するように設置されていると共に、前記浮上担体が前記沈殿槽側へ流入しないように濾過構造となっている担体濾過板と、
前記担体濾過板を洗浄する濾過板洗浄手段と、
を備えていることを特徴とする請求項2記載の廃水処理装置。
【請求項5】
前記反応槽の底部に沈降した前記浮上担体を洗浄する担体洗浄手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の廃水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−50818(P2011−50818A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200438(P2009−200438)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(591104815)株式会社アイ・エヌ・シー・エンジニアリング (8)
【Fターム(参考)】