説明

廃液の硝化処理方法

【課題】廃液の硝化処理を効率よく行うことができるようにする。
【解決手段】硝化槽1における被処理廃液2中に接触材12を浸漬させる。接触材12は、微生物の付着しにくい材料で形成された芯材13と、微生物の付着しやすい繊維にて構成されるとともに芯材13から放射状に突出する多数の嵩高の房状糸14とを有する。房状糸10に、バイオポリマーを出す菌を優先種として付着させるとともに、このバイオポリマーを出す菌に硝化菌を保持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃液の硝化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃液の処理方法の一種として、その廃液中に含まれる窒素分を処理するための、循環式の硝化脱窒処理方法が知られている。これは、嫌気性の脱窒槽と好気性の硝化槽とをこの順に設けるとともに、硝化槽から脱窒槽への汚泥返送路を設け、硝化槽におけるアンモニアの硝化反応と、脱窒槽における硝酸イオンの脱窒反応とを行わせることで、廃液中の窒素分を窒素ガスに変換させて大気中に放出させる技術である。
【0003】
しかしながら、一般に硝化反応はその反応速度が遅い。これは、硝化菌の繁殖速度が遅いためで、理論的には硝化反応の完了には2週間程度の時間が必要となる。特に、BODが存在すると、これが硝化反応にとっての阻害要因となっている。たとえば特許文献1には、活性汚泥法の場合に、BOD負荷が0.4kg/m・日以上になると急激に硝化反応が低下することが記載されている。特許文献2には、BOD負荷が大きすぎると硝化反応が十分におこなわれない旨が記載されている。特許文献3には、BOD負荷を下げると硝化が促進される旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−47387号公報([0005])
【特許文献2】特開2002−136990号公報([0016])
【特許文献3】特開平8−108190号公報([0024])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように従来の技術においては、実質的にBODを除去した後でないと硝化反応を行わせることができないため、低容積負荷とすることを余儀なくされ、また水理学的滞留時間が長くなるという課題があり、廃液中の窒素分の除去率に限界がある。
【0006】
そこで本発明は、このような課題を解決して、硝化反応を効率よく行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明は、硝化槽における被処理廃液中に、微生物の付着しにくい材料で形成された芯材と、微生物の付着しやすい繊維にて構成されるとともに前記芯材から放射状に突出する多数の嵩高の房状糸とを有した接触材を浸漬させて、前記房状糸に、バイオポリマーを出す菌を優先種として付着させるとともに、前記バイオポリマーを出す菌に硝化菌を保持させることを特徴とする。
【0008】
本発明の廃液の硝化処理方法によれば、被処理廃液にBODを添加することが好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接触材の房状糸に、バイオポリマーを出す菌を優先種として付着させるとともに、バイオポリマーを出す菌に硝化菌を保持させるため、この接触材に確実に硝化菌を保持させることができ、したがって、従来よりもBOD負荷が高い状態で硝化処理を行うことができて、硝化反応を効率よく行うことができる。
【0010】
本発明によれば、被処理廃液のBOD負荷が低い場合には、従来においては避けられていた、硝化槽にBODを添加するという手法を採用することで、効率よく硝化反応を行わせることができ、このため、被処理廃液のBOD負荷が低い場合には、BODの添加によって処理効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】廃液の硝化処理方法を実施するための装置の一例を示す図である。
【図2】図1の装置における房状糸の横断面を示す図である。
【図3】図2とは異なる運転条件における房状糸の横断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示す硝化槽1は、被処理廃液2を貯留可能であるが、その内部が、隔壁3によって、被処理廃液の上昇路4と降下路5とに区画されている。上昇路4と降下路5とは、硝化槽1の底部において互いに連通している。
【0013】
上昇路4の底部には、散気装置6が設けられており、この上昇路4の底部からその内部の処理廃液2中に曝気用のエア7を供給可能である。8は、槽外から散気装置6へのエア供給管である。
【0014】
降下路5には、揺動床10が設置されている。この揺動床10は、上下のフレーム11、11間に揺動式の接触材12が設けられた構成である。接触材12は、上下のフレーム11、11どうしの間にわたって配置された芯材13と、この芯材13から放射状に突出する嵩高の房状糸14とを有した構成とされている。芯材13は、微生物の付着しにくい材料で形成されている。房状糸14は、アクリル繊維などの微生物の付着しやすい繊維にて構成されるとともに、その多数本が、芯材13の長さ方向にわたって、この芯材13から水平方向に放射状に突出されている。そして、房状糸14は、芯材13の位置を基端として、降下路5における被処理廃液2の中で揺動可能とされている。
【0015】
上昇路4の上端には、隔壁3の上端部を利用して、上昇路4から降下路5への溢水路16が形成されている。17は、硝化槽1への被処理廃液の供給路、18は、硝化槽1からの処理水の排出路である。
本装置では、硝化槽1へBODを供給するための手段19が設けられている。
【0016】
このような装置を運転する際には、硝化槽1に被処理廃液2を供給したうえで、散気装置6から上昇路4にエア7を供給する。すると、このエア7が廃液2内を浮上することに伴って上昇路4に上昇流が発生し、またそれに伴って降下路5に降下流が発生する。すなわち、槽内に上下方向の高速の循環流が発生する。揺動床10を構成する接触材12の房状糸14は、この高速流の作用によって強く揺動する。
【0017】
このような装置において、被処理廃液2としてアンモニア性窒素(NH−N)を主体としたものを用いて運転を行ったところ、硝化槽1へアンモニア性窒素のみを供給して運転した場合は窒素分の除去率が低かったが、供給手段19によりBODを添加したところ、100%に近い除去率を達成することができた。
【0018】
その理由について説明する。
図2および図3は、図1の装置に設けられた接触材12における一つの房状糸14の横断面の状態を示すものである。なお、上述のように房状糸14は嵩高の糸条にて構成されているが、図2および図3においては、この房状糸14の横断面構造を模式的に簡略化して表現している。
【0019】
図2は、アンモニア性窒素を主体とする被処理廃液2のみを対象として処理を行ったときの状態を示す。図示のように、房状糸14の周囲に若干量の汚泥20が付着しただけであった。
【0020】
図3は、アンモニア性窒素を主体とする被処理廃液2を貯留した硝化槽1に、供給手段19からBODを供給して処理を行ったときの状態を示す。この場合は、高流速下でBODが房状糸14に付着し、これによってバイオポリマーを出す菌22が優先種となって房状糸14に付着し、ここに硝化菌23が保持された。すなわち、これらの菌22、23は、汚泥の形で房状糸14に付着した。換言すると、BOD負荷が高いほど、バイオポリマーにより硝化菌23のベッドが増加して、大量の硝化菌23が房状糸に保持され、それによって高い効率で硝化処理が行われた。
【0021】
硝化菌23は、上述のように繁殖速度が遅いが、菌22を介して房状糸14に固着される。すると、被処理廃液2が高流速で房状糸14に作用するという条件下で、被処理廃液2に含まれるアンモニア性窒素が、比較的低濃度であっても効率良く硝化菌23に捕捉される。すると、房状糸14の部分ではアンモニア性窒素が相対的に高濃度となり、図示のように硝化菌23が増加し、場合によっては房状糸14への付着物のほぼ全体が硝化菌23となって、アンモニア性窒素を高除去率で処理することが可能となる。
【0022】
なお、上述のように供給手段19からBODを供給することに代えて、被処理廃液2としてBOD負荷の高いものを用いても、同様の作用効果を得ることができる。すなわち、上述のように従来では、BOD負荷がたとえば0.4kg/m・日以上になると急激に硝化反応が低下することが知られているが、本発明によれば、BOD負荷が7kg/m・日程度になっても問題なく処理を行うことができる。また、BOD負荷が上述の0.4kg/m・日である場合よりも、1kg/m・日以上、たとえば3kg/m・日程度である方が、却って効率良く処理を行うことが可能である。換言すれば、本発明によれば、被処理廃液2のBOD負荷が低い場合は供給手段19から系内にBODを供給した方が効率よく処理を行うことができ、また被処理廃液2のBOD負荷が従来に比べて高い場合も、その方が良好に処理を行うことができる。
【0023】
上述のように菌22、23を含む汚泥が付着している房状糸14は高流速の被処理廃液2によって揺動されるが、その揺動によって、房状糸14に付着していた菌22、23すなわち汚泥は、房状糸14から剥離して浮遊汚泥となる。このとき、装置の運転条件が高負荷である場合には、それに伴って剥離汚泥の量が増加し、この剥離汚泥つまり浮遊汚泥の中に硝化菌が含まれることから、いっそうの能力向上を図ることができる。
【0024】
さらに、図3に示す状態になったときには、房状糸14に付着した菌22、23すなわち付着汚泥は、散気装置6からのエア7の作用によってその表面側が好気状態となるとともに、その内部は、エア7の作用が及ばす嫌気状態となる。このため、硝化槽1内のDOコントロールを行うことで、硝化槽1内で、硝化反応のみならず脱窒反応をも行わせることが可能である。
【0025】
一般に、廃液には、アンモニア性窒素(NH−N)のほかにCN−N、CN−N、T−Pなどが浮遊していることが通例である。これらも、高流速によって房状糸14に固定され、したがって、上記効果との累積効果が発揮されることになる。その結果、従来と比べて汚泥発生量が少なく、系外への引き抜き汚泥量を低減することができる。このため、硝化槽から脱窒槽へ汚泥返送を行うようにした活性汚泥処理法に本方法を適用する場合には、汚泥返送比を通常並の80〜100%程度としても、脱窒率、脱燐率を60〜70%程度の高効率とすることができる。
【0026】
活性汚泥処理法の一種として、上述のように、硝化槽から脱窒槽へ好気性の汚泥が返送される循環式の硝化脱窒処理方法が知られている。この循環式の硝化脱窒処理方法においては、硝化槽にて生成される好気性汚泥のフロックは、通常の処理方法で形成される70μm程度のサイズのフロックに比べて、固くかつ大きく、そのサイズは220μm程度に達する。このようにフロックのサイズが大きくなると、硝化槽においてこのフロックを含む被処理廃液の粘度上昇が少なくなり、その結果、曝気による酸素溶解効率の低下が少なく、きわめて効果的である。
【0027】
しかも、本発明においては、これに加えて、房状糸14を備えた接触材12が硝化槽1に設けられており、この房状糸14は接触頻度効果が高いという特長を有している。
【0028】
したがって、本発明によれば、硝化槽1の容積負荷を、公知の硝化槽に比べて10倍程度にも高めることが可能である。さらに、水理学的滞留時間を短縮させることができる。しかも本発明によれば、上述のように、BODの存在下、さらには高BOD負荷のもとで硝化反応を行わせることができ、これらの相乗効果から、水理学的滞留時間をきわめて短くすることができる。また、きわめて効率良く硝化反応を行わせることができるため、硝化槽1の容積や、その設置のための敷地面積を大幅に低減させることができる。
【実施例】
【0029】
[実施例1]
図1に示される装置を用いて実験した。硝化槽1は、容積約10リットル(高さ約800mm)のガラス容器にて構成した。接触材12は、図示の揺動床10の構成のものを用い、その長さは500mm、その容積は5リットルとした。散気装置6は、槽内に空気を8リットル/分の割合で供給するようにセットした。
【0030】
このような装置に、アンモニア性窒素のみからなる被処理廃液を供給し、硝化処理を行った。そうしたところ、被処理廃液は槽内を高速で循環させることが可能であったが、処理を開始した当初は、接触材への汚泥の付着量が乏しかった。そこで、系内に工程廃水を供給してBODを添加した。このときのBOD負荷は、1kg/m・日であった。
【0031】
すると、上記のように被処理廃液が高速で循環する状態を維持しながら、接触材12に大量の汚泥を付着させることができた。この汚泥は、図3に示すような、接触材12の房状糸14の周囲に付着したバイオポリマーを出す菌22と、この菌22の周囲に粘着した硝化菌23とを含むものであった。
【0032】
硝化槽1の内部の高速流によって房状糸14が揺動し、それによって房状糸14への付着汚泥が剥離した。その剥離汚泥は、その後に槽内に滞留したが、その滞留している汚泥を調べたところ、同様に硝化菌を含んでいた。すなわち、剥離汚泥による硝化反応の促進も確認することができた。
【0033】
[実施例2]
実施例1と同様の装置を用いて実験した。被処理廃液は、アンモニア性窒素を主体とする高濃度のものであり、これを工業用水で希釈して、所定のアンモニア性窒素濃度にして用いた。
【0034】
当初は被処理廃液のみを用いて処理していたところ、汚泥増加の効果が認められなかった。そこで、途中から、廃液のTODが所定濃度となるようにTOD廃水(TOD20000mg/リットル、BOD約10000mg/リットル)を適量添加した。すなわち、被処理廃液にBODを添加して処理を行った。
【0035】
そうしたところ、アンモニア性窒素の負荷を上昇させても、アンモニア性窒素の濃度730mg/リットル程度までは、問題なく硝化が進行した。これは、アンモニア性窒素を主体とする廃液すなわち無機廃液のみでは、硝化菌の着床が十分でなかったのに対し、BODを添加することで、BOD酸化細菌すなわちバイオポリマーを出す菌が房状糸の周囲で増殖し、この菌が生成するバイオポリマーが房状糸に硝化菌を接触させるためのバインダーとして働いたことで、その周囲に硝化菌を保持することが可能となったことによるものであった。
【符号の説明】
【0036】
1 硝化槽
2 被処理廃液
10 揺動床
12 接触材
13 芯材
14 房状糸
22 バイオポリマーを出す菌
23 硝化菌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝化槽における被処理廃液中に、微生物の付着しにくい材料で形成された芯材と、微生物の付着しやすい繊維にて構成されるとともに前記芯材から放射状に突出する多数の嵩高の房状糸とを有した接触材を浸漬させて、前記房状糸に、バイオポリマーを出す菌を優先種として付着させるとともに、前記バイオポリマーを出す菌に硝化菌を保持させることを特徴とする廃液の硝化処理方法。
【請求項2】
被処理廃液にBODを添加することを特徴とする請求項1記載の廃液の硝化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−5911(P2012−5911A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141124(P2010−141124)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(591215878)エヌ・イー・ティ株式会社 (10)
【Fターム(参考)】