説明

廃石膏ボード粉の固化方法

【課題】固化した廃石膏ボード粉から再生路盤材や骨材等を生成した場合に、これらの生成物から、廃石膏ボードに含有していたフッ素や砒素等の有害物質の溶出を長期に亘って土壌環境基準若しくはそれ以下に抑えることができることにより、解体系廃石膏ボードの有効利用に道を開くことができる廃石膏ボード粉の固化方法を提供する。
【解決手段】700℃〜1000℃で焼成され粉末度7000cm/g以上に調整した酸化マグネシウムを水と共に廃石膏ボード粉に添加・混練することにより該廃石膏ボード粉を固化するようにした。
【効果】固化した廃石膏ボード粉から生成した再生路盤材や骨材等の生成物から、廃石膏ボードに含有していたフッ素や砒素等の有害物質の溶出を長期に亘って土壌環境基準若しくはそれ以下に抑え、解体系廃石膏ボードの有効利用に道を開くことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃石膏ボードから紙等を除去して粉末状にした廃石膏ボード粉を固化することにより一定の性質を付与することができる廃石膏ボード粉の固化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃石膏ボードは、建築工事現場から発生する新築系廃石膏ボードと、建物解体工事現場から発生する解体系廃石膏ボードの2種類に概ね分けられる。新築系廃石膏ボードは、建物等の建築工程において、新しい石膏ボードを現場加工して余分となった端材若しくは余材が殆んどであり、汚れや不純物等が付着していないため、石膏ボード製造業者に引き取られて再加工され、石膏ボードを作る際の原料の一部となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、解体系廃石膏ボードは、建物解体等の解体工程において当該建物の壁や天井を構成していたものであり、この壁や天井等を人手や機械で剥がしたものである。この解体系廃石膏ボードは、石膏ボード単品の姿で使用されていることは稀で、殆んどが壁紙やクロス等と共に使用されているため、剥がした形状は一定でなく、前記の壁紙やクロス等の張り物、経年による汚れ、劣化、解体工事に伴う、更なる汚れ等も重なり、これらの多くは、前記のような石膏ボード製造業者で石膏ボードを作る原料として再加工することは難しい。
【0004】
また、前記解体系廃石膏ボードから紙等を除去して粉末状にした廃石膏ボード粉をロータリーキルン等の焼成炉を用いて150℃前後で焼成し、半水石膏を作り、そのまま地盤改良材として再利用する方法もあるが、廃石膏ボード粉に含有していたフッ素や砒素等の有害物質が焼成後においても残留しているため、上記半水石膏を地盤改良材として用いた場合には、この有害物質が土壌に溶出するおそれがあるので一般的には行なわれていない。
【0005】
また、上記廃石膏ボード粉にセメントを添加し、さらに水を加えて混練したものを固化させ、再生路盤材や再生骨材として利用する例も見られるが、このような再生路盤材や再生骨材においては、そのセメント成分に含まれる微量の六価クロムが土壌環境基準を超えて溶出するおそれがあるという問題や、路盤や土壌が高いアルカリ性を示すようになるという問題などの、セメントそのものを原因とする多くの問題を生じさせると共に、廃石膏ボード粉に含まれていたフッ素や砒素等の有害物質を長期に亘って溶出させないようにしておくことが困難であるという問題があった。
【0006】
また、再利用されない廃石膏ボードは、管理型最終処分場等に持ち込むことが義務付けられているが、遵守されずに不法投棄されることがあった。また、現状においては、このような義務を遵守しようとしても、管理型処分場までの輸送費の高騰化、及び管理型処分場の不足化などが障害になっているため、このような社会的な障害が廃石膏ボードの不法投棄を助長していた。
【0007】
上述したように、廃石膏ボードは、有害物質を含有しているおそれがあるために、再利用することが難しいという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、固化した廃石膏ボード粉から再生路盤材や骨材等を生成した場合に、これらの生成物から、廃石膏ボードに含有していたフッ素や砒素等の有害物質の溶出を長期に亘って土壌環境基準若しくはそれ以下に抑えることができることにより、解体系廃石膏ボードの有効利用に道を開くことができる廃石膏ボード粉の固化方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明による廃石膏ボード粉の固化方法は、
700℃〜1000℃で焼成され粉末度7000cm/g以上に調整した酸化マグネシウムを水と共に廃石膏ボード粉に添加・混練することにより該廃石膏ボード粉を固化することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明による廃石膏ボード粉の固化方法は、廃石膏ボード粉に、酸化マグネシウム及び水と共に、pH調整剤を添加・混練することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明による廃石膏ボード粉の固化方法は、廃石膏ボード粉に、酸化マグネシウム及び水と共に、強度増加剤としての炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、シリカ、パーライト、ゼオライト又は製鋼スラグを単独又は2種類以上を混合して、添加・混練することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明の廃石膏ボード粉の固化方法によれば、
700℃〜1000℃で焼成され粉末度7000cm/g以上に調整した酸化マグネシウムを水と共に廃石膏ボード粉に添加・混練することにより該廃石膏ボード粉を固化することにより、
固化した当該廃石膏ボード粉から再生路盤材や骨材等を生成した場合に、これらの生成物から、廃石膏ボードに含有していたフッ素や砒素等の有害物質の溶出を長期に亘って土壌環境基準若しくはそれ以下に抑えることができることにより、解体系廃石膏ボードの有効利用に道を開くことができる。
【0013】
また、本発明の廃石膏ボード粉の固化方法によれば、
固化した廃石膏ボード粉に、酸化マグネシウム及び水と共に、pH調整剤を添加・混練することにより、
固化した当該廃石膏ボード粉により生成した再生骨材等の生成物のpHを調整することができる。
【0014】
また、本発明の廃石膏ボード粉の固化方法によれば、
廃石膏ボード粉に、酸化マグネシウム及び水と共に、強度増加剤としての炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、シリカ、パーライト、ゼオライト又は製鋼スラグを単独又は2種類以上を混合して、添加・混練することにより、
固化した当該廃石膏ボード粉により生成した再生骨材等の生成物の強度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の廃石膏ボード粉の固化方法の実施の形態について説明する。
本発明の一実施の形態に係る廃石膏ボード粉の固化方法は、700℃〜1000℃で焼成され粉末度7000cm/g以上に調整した酸化マグネシウムを、廃石膏ボードから紙等を除去した後に破砕して粉末状にした廃石膏ボード粉に添加・混合し、さらに水を加えて混練乾燥固化させるようにする。
【0016】
このように生成された固形物のうち、粒状に固化したものは再生路盤材として用い、大塊に固化したものは破砕することで再生路盤材として用いる他、再生骨材として用いることもできる。また、上記廃石膏ボード粉に酸化マグネシウム及び水を添加する際に、併せて強度増加剤を添加すれば、舗道や法面等を補強するための補強用材料、建築ブロック等の二次製品等を容易に作ることができる。
【0017】
ところで、酸化マグネシウム(MgO)には、低温焼成品と高温焼成品があるが、本実施の形態に係る廃石膏ボード粉の固化方法に用いる酸化マグネシウムとしては、廃石膏ボード粉の良好な不溶化の効果(有害物質の溶出を抑制・防止する効果)を図るため、700℃〜1000℃で焼成された低温焼成品を用いることが好ましい。他方、高温焼成品の酸化マグネシウムを用いると、有害物質に対する不溶化の効果が低下することがある。
【0018】
また、有害物質に対する不溶化の効果を向上させるためには、酸化マグネシウムの粉末度は、7000cm/g以上のものが好ましいが、4000cm/g未満のものを用いると有害物質に対する不溶化の効果が低下することがある。
【0019】
酸化マグネシウムの添加量は、特に限定されるものではないが、一般的には廃石膏ボード粉に対して質量比で5%〜20%添加することが望ましい。特に、廃石膏ボード粉に、フッ素等の有害物質が、後述する表1から表3に示される程度の含有量よりも多く含まれていることが予測される場合などには、酸化マグネシウムの添加量は、例えば、廃石膏ボード粉に対して質量比で30%程度、或いはそれ以上の量を添加するようにしてもよい。
【0020】
酸化マグネシウムは水と共に、それ単独で用いることもできるが、以下に説明するように、pH調整剤や強度増加剤等の助剤を併用することができる。なお、pH調整剤や強度増加剤等は、必要に応じて、2種以上のものを併用してもよい。
【0021】
酸化マグネシウムで処理された廃石膏ボード粉のpHは、概ね9〜11程度であり、廃石膏ボード粉を土壌環境基準若しくはそれ以下に固化・不溶化を図るには十分であるが、さらに中性域で処理が求められることがある。
【0022】
このような場合には、助剤として、pH調整剤を用いると効果的である。pH調整剤には、例えば、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、リン酸、第一リン酸ナトリウム、重過リン酸カルシウム、過リン酸カルシウム等を用いることができる。これらのpH調整剤は、単独又は必要に応じて2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
酸化マグネシウムで処理された廃石膏ボード粉の一軸圧縮強さは、通常の添加量(廃石膏ボード粉に対して質量比5%〜20%)の範囲では、概ね1N/mm以上となり、長期間に亘って安定を保つのに十分であるが、処理後骨材として用いるためには、さらに高い強度を要求されることがある。
【0024】
このような場合には、助剤として、強度増加剤を用いると効果的である。強度増加剤には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、シリカ、パーライト、ゼオライト、製鋼スラグ等を用いることができ、これらの強度増加剤は、単独又は必要に応じて2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
pH調整剤や強度増加剤等の助剤を用いる場合には、酸化マグネシウムと助剤との質量比が(20:80)〜(95:5)の範囲内に納まるように使用することが好ましい。
【0026】
本実施の形態に係る廃石膏ボード粉の固化方法において、廃石膏ボード粉と酸化マグネシウムの混合は、混合機を用いて行なうことができ、さらに混練は水を添加して混練機で行なうことができる。酸化マグネシウムは、粉末状のまま廃石膏ボード粉に添加されても良いし、或いは、水を添加してスラリー状にしてから廃石膏ボード粉に添加されるようにしてもよい。
【0027】
また、助剤を用いる場合には、この助剤を酸化マグネシウムと混合してから、この混合物を粉末状のまま廃石膏ボード粉に添加するようにしても良いし、又は、この助剤と酸化マグネシウムの混合物に水を添加してスラリー状にしてから、これを廃石膏ボード粉に添加するようにしてもよい。或いは、助剤を酸化マグネシウムとは別個に、廃石膏ボード粉に直接添加するようにしても良い。
【0028】
次に、廃石膏ボード粉に対して、本実施の形態に係る廃石膏ボード粉の固化方法を適用したときの検証結果について説明する。
【0029】
下記の表1から表3は、廃石膏ボード粉の3つの試料それぞれに対して、本実施の形態に係る固化方法を適用したものについて、平成3年環境庁告示第46号付表に定める方法に基づく測定試験を行なったときの結果を示す表である。
【0030】
この測定試験は、廃石膏ボード粉の3つの試料それぞれに対して、本実施の形態に係る固化方法を適用する際の酸化マグネシウムの添加量を、廃石膏ボード粉の質量の10%と20%に設定した場合のそれぞれについて行なうようにした。
【0031】
ここで、廃石膏ボード粉の3つの試料それぞれに対して本実施の形態に係る固化方法を適用する際の条件として、低温焼成した7000cm/gの酸化マグネシウムと水を用いることとし、助剤は用いないこととした。また、廃石膏ボード粉の3つの試料それぞれと、これらに添加する酸化マグネシウムの質量比は、添加前に計量したものである。また、本実施の形態に係る固化方法の適用の際に、廃石膏ボード粉の3つの試料それぞれと、これらに添加する酸化マグネシウムと水との混練は、容器を用いて10分間行なうこととした。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
上記の表1から表3に示すように、本実施の形態に係る固化方法を適用する前の3つの廃石膏ボード粉の試料それぞれは、カドミウム、セレン、フッ素のそれぞれの含有量の数値が、平成3年環境庁告示第46号別表に定める環境基準値以上の数値となっている。
【0036】
これに対して、3つの廃石膏ボード粉の試料それぞれに対し本実施の形態に係る固化方法を適用したものは、その適用の際に酸化マグネシウムを10%又は20%添加した場合のいずれにおいても、カドミウム、セレン、フッ素のそれぞれが検出されないようになるか、又は環境基準値を超えないようになっている。
【0037】
以上、本実施の形態に係る廃石膏ボード粉の固化方法は、廃石膏ボードから生成される廃石膏ボード粉に限定して適用されるものである。
【0038】
このような本実施の形態に係る廃石膏ボード粉の固化方法によれば、廃石膏ボードを再生路盤材や骨材の原料として有効利用することができる。
【0039】
すなわち、従来においては、建築工事に伴って発生する廃石膏ボードのうち不純物等が混入しているものは、製造業者等が引き取って再生品の原料とすることが難しく、また、遠隔地の管理型処分場等への輸送費の高騰化、及び管理型処分場等の枯渇化に伴って廃棄処分することさえ難しくなっていたのに対して、本実施の形態に係る廃石膏ボード粉の固化方法によれば、廃石膏ボードを再生路盤材や骨材の原料として有効利用することができる。
【0040】
また、本実施の形態に係る廃石膏ボード粉の固化方法によれば、この固化方法により再生路盤材や骨材等を生成した場合に、これらの生成物からのフッ素や砒素等の有害物質の溶出を長期に亘って土壌環境基準若しくはそれ以下に抑えることができる。
【0041】
なお、上記した表1から表3に示す検証結果は、その検証用の試料1〜3に対して酸化マグネシウムを10%又は20%添加した場合について検証した結果であるが、酸化マグネシウムを添加する前の廃石膏ボード粉において、カドミウム、シアン、鉛、六価クロム、砒素、水銀、セレン、フッ素、ホウ素等のいずれかの有害物質が、上記表1から表3に示す程度よりも多く含まれている場合などには、これに応じて酸化マグネシウムの添加量を増やすようにしてもよい。例えば、廃石膏ボード粉に対して質量比で30%程度、或いはそれ以上の量の酸化マグネシウムを添加するようにしてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
700℃〜1000℃で焼成され粉末度7000cm/g以上に調整した酸化マグネシウムを水と共に廃石膏ボード粉に添加・混練することにより該廃石膏ボード粉を固化することを特徴とする廃石膏ボード粉の固化方法。
【請求項2】
廃石膏ボード粉に、酸化マグネシウム及び水と共に、pH調整剤を添加・混練することを特徴とする請求項1に記載の廃石膏ボード粉の固化方法。
【請求項3】
廃石膏ボード粉に、酸化マグネシウム及び水と共に、強度増加剤としての炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、シリカ、パーライト、ゼオライト又は製鋼スラグを単独又は2種類以上を混合して、添加・混練することを特徴とする請求項1又は2に記載の廃石膏ボード粉の固化方法。

【公開番号】特開2010−201320(P2010−201320A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48537(P2009−48537)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(593012158)岡野興産株式会社 (4)
【Fターム(参考)】