説明

廃自動車の処理方法

【課題】効率の良い熱分解処理を行え、且つ、熱分解残さ中の金属類の酸化を極力防止できる好ましい廃自動車の処理方法を提供する。
【解決手段】 プレス処理された廃自動車10を熱分解して熱分解ガスと熱分解残さと11に分離する際、プレス体の表面に凹凸加工、或いは、孔加工を多数施し、その後、炉内において熱分解ガスの一部を用いて部分燃焼させ、その燃焼熱にて炉1内のプレス体を熱分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃自動車の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、使用済みの自動車(廃自動車)は、先ず、プレス処理にて減容化され、次に廃棄処理のためにこの廃車プレス品の破砕処理が行われている。この破砕処理で生じるシュレッダーダスト(破砕屑)には、鉄、非金属等の不燃物とともに、プラスチックや布類等の可燃物が多く含まれており、その内、金属類はスクラップとして回収し、プラスチックや布類等の可燃物は産業廃棄物として、そのまま最終処分場に埋立処分されたり、或いは焼却処分されていた。
ところが、シュレッダーダストの埋立処分や焼却処分には多額の費用を要するため、使用済み自動車の廃棄処分には、相当のコスト負担を強いられてきた。 近年、自動車リサイクル法が施行されたことにより、廃自動車の廃棄処理において、シュレッダーダストを極力発生させない効率的な処理方法の実現が重要課題となっている。
【0003】
このような実情に鑑み、近年、従来の廃車プレス品を直接破砕する方法に代えて、廃車プレス品を従来公知の熱分解処理により熱分解した後に、その熱分解残さを破砕処理するようにした処理方法が提案されており、例えば、特許文献1には、車体をプレス処理した後、乾留により熱分解する技術が記載されている。
【特許文献1】特許第3785540号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の乾留とは、空気を遮断した状態で被処理物を熱分解することをいい、そのための乾留炉として、例えば、図3、図4が知られている。
図3は、外熱式乾留炉を示し、バーナの燃焼熱により乾留炉31を外側より加熱し、炉内の被処理物10(廃自動車10)を熱分解する構造であり、図4は、ボックス式乾留炉を示し、乾留炉31内に遮蔽ボックス33を設置すると共に、バーナの燃焼熱を炉内に導入してボックス33を外側より加熱し、ボックス33内の被処理物10を熱分解する構造である。尚、二次燃焼室32は、乾留炉内で発生した熱分解ガスを燃焼させるもので、その排ガスは、図示しない排ガス処理施設にて浄化される。
【0005】
ところで、上記乾留炉では、何れも、空気が遮断された状態で被処理物の熱分解が行われるため、熱分解で生じた熱分解残さに含まれる金属類(主として鉄類)の酸化が少なく、スクラップの回収率を向上できるというメリットはあるが、被処理物と加熱用の熱源が遮蔽され、被処理物が間接的に加熱される構造であるため、熱効率が悪く、且つ、炉の構造も複雑化するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題に鑑み成されたもので、効率の良い熱分解処理を行え、且つ、熱分解残さ中の金属類の酸化を極力防止できる好ましい廃自動車の処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ところで、本発明者らは、廃自動車の熱分解における鉄類の酸化現象ついて検討を重ねた結果、部分燃焼による熱分解においても、乾留による熱分解の場合とほぼ同程度に鉄類の酸化が防止できる得ることを見い出し、本発明を提案するに至った。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、プレス処理された廃自動車を熱分解して熱分解ガスと熱分解残さとに分離する際、前記プレス体の表面に凹凸加工、或いは、孔加工を施し、その後、炉内において前記熱分解ガスの一部を用いて部分燃焼させ、その燃焼熱にて炉内の前記プレス体を熱分解することを特徴としている。
ここで、部分燃焼とは、完全燃焼に必要な量より少ない酸素で可燃物(熱分解ガス、或いは、他の化石燃料)の一部を燃焼(不完全燃焼)させて、その燃焼熱で被処理物(ここではプレスされた廃自動車)を熱分解することを示し、部分燃焼炉とは、このような熱分解処理を行うための炉を示す。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の廃自動車の処理方法において、前記プレス体の熱分解中に、炉内に水を噴霧、或いは、水蒸気を注入することを特徴としている。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2の何れかに記載の廃自動車の処理方法において、前記プレス体の熱分解後に、前記熱分解残さを水冷却することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、プレス処理された廃自動車(プレス体)を部分燃焼の熱により熱分解するようにしたので、プレス体の主成分である鉄類を殆ど酸化させることはなく、よって、熱分解残さに含まれる鉄類(スクラップ)の回収率を向上できる。
【0012】
また、プレス体は圧縮処理により内部が高密度化されているため、熱分解時にプレス体の表面と中心部で温度差が生じ易くなっており、このため、熱分解時に高温となるプレス体の表面での鉄類の酸化が激しい。
そこで、請求項1の発明では、このプレス体にさらに凹凸加工や孔加工を施して比表面積の拡大を図っているため、プレス体の温度分布は均一化され、局部的な鉄類の酸化を防止することができると共に、凹凸加工や孔加工によりプレス体の内部にも空気が流通して部分燃焼による熱分解反応が生じ易くなっている。
【0013】
また、請求項2に記載の発明によれば、熱分解中に炉内に水を噴霧、或いは、水蒸気を注入するようにしたので、炉内温度は均一化され、これにより、プレス体の温度分布が均一化され、鉄類が局部的に激しく酸化されるのを防止することができる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明によれば、プレス体の熱分解後に熱分解残さを熱容量の大きい水によって冷却するようにしたので、鉄類が酸化し易い200〜300℃以上の高温雰囲気下に熱分解残さを長時間晒させることなく、短時間で200℃以下に急速冷却させることができ、これにより、鉄類の酸化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明に係る廃自動車の処理方法の実施形態を説明する。
【0016】
図1は、本発明が適用された廃自動車の処理装置を示し、当処理装置として、図1に示すように、廃自動車10を熱分解して熱分解ガスと熱分解残さ11に分離する部分燃焼炉1と、熱分解ガスを燃焼する二次燃焼炉2と、部分燃焼炉1と独立して設けられて部分燃焼炉1で生じた熱分解残さ11を冷却する水冷却室3を備えている。
【0017】
上記部分燃焼炉1は、炉内に空気を導入して可燃物(例えば、熱分解ガス)の一部を燃焼し、その燃焼熱を熱分解用の熱源とする熱分解炉であって、炉内に燃焼用空気を導入する空気導入口4を備えると共に、炉内で発生した熱分解ガスを燃焼するバーナ6を備えている。また、天井部には、炉内に水を噴霧、或いは、水蒸気を注入するための噴出口5が設けられている。
【0018】
二次燃焼炉2は、バーナを備え、部分燃焼炉1で発生した熱分解ガスを導入して燃焼させる。燃焼時の排ガスは図示しない排ガス処理施設にて浄化される。
【0019】
次に、上記構成の廃自動車の処理装置による廃自動車の処理を、図1、図2に基づいて説明する。図2は、廃自動車の処理の流れを示すフローチャートである。
【0020】
本実施形態では、先ず、使用済み自動車からエンジン、バッテリー、タイヤ、燃料タンク等が取り除かれた後、車体、シート、内装品等が塊状にプレス処理される(ステップS1)。
さらに、このプレス体の全面に凹凸加工が施され、或いは、表面に孔加工が施されて、塊状となったプレス体の比表面積の拡大が図られる(ステップS2)。
【0021】
次に、このようにして減容化された被処理物(廃自動車10)が部分燃焼炉1に供給され、炉内において廃自動車10の熱分解処理が行われる。
【0022】
部分燃焼炉1には、空気導入口4より燃焼用の空気が導入されると共に、バーナ6に熱分解ガスの一部が供給されて部分燃焼が行われる。廃自動車10の熱分解は、炉内温度600℃程にて行われ、有機物の熱分解で発生した水素、一酸化炭素、メタン等が含まれる熱分解ガスと、鉄、非金属(銅やアルミニウム)、ガラス、炭化物等が塊状となった熱分解残さ11とに分離される(ステップS3−イ)。
【0023】
また、廃自動車10の熱分解中は、炉内天井部の噴出口5より水が噴霧(或いは、水蒸気が注入)され、炉内温度の均一化が図られる(ステップS3−ロ)。
【0024】
次に、熱分解を終えた廃自動車10(すなわち、熱分解残さ11)は、部分燃焼炉1より水冷却室7に移送され、水冷却室7において水冷却され、600℃程の熱分解残さ11が70℃程に急速に冷却される(ステップS4)。冷却は、冷却水を熱分解残さ11に噴霧する散水冷却、或いは、水が貯留された水槽中に熱分解残さ11を浸す浸水冷却等が行われる。
尚、冷却された熱分解残さ11は、例えば、加熱手段等により即時乾燥させるようにすると、金属類の酸化防止の点で望ましい。
【0025】
次に、冷却された熱分解残さ11は、破砕機にて細断された後、鉄、非鉄金属、ガラス、炭化物などに選別され、鉄、非鉄金属類はスクラップとして回収される(ステップS5)。
【0026】
以上、本実施形態による廃自動車の処理方法によれば、プレス処理された廃自動車10を部分燃焼の熱により熱分解するので、廃自動車10の主成分である鉄類を殆ど酸化させることはなく、よって、上記したステップS5の選別処理において、熱分解残さ11に含まれる鉄類(スクラップ)の回収率を向上できる。
【0027】
また、廃自動車10は圧縮処理により内部が高密度化されているため、熱分解時に廃自動車10の表面と中心部で温度差が生じ易くなっており、熱分解時に高温となる表面部での鉄類の酸化が激しいが、本実施形態では、プレス体に凹凸加工や孔加工を施して比表面積の向上を図っているため、プレス体の温度分布は均一化され、局部的な鉄類の酸化を防止することができると共に、凹凸加工や孔加工によりプレス体の内部に空気が流通して部分燃焼による熱分解反応が生じ易くなっている。
【0028】
また、熱分解中に、炉内に水を噴霧、或いは、水蒸気を注入するので、炉内温度は均一化され、これにより、鉄類の酸化を防止することができる。
【0029】
また、廃自動車10の熱分解後に熱分解残さ11を熱容量の大きい水によって冷却するので、鉄類が酸化し易い200〜300℃以上の高温雰囲気下に熱分解残さを長時間晒させることなく、短時間で200℃以下(70℃程度)に急速冷却させることができ、これにより、プレス体の温度分布も均一化され、プレス体の表面や内部を問わず、鉄類が局部的に激しく酸化されることを防止することができる。
【0030】
以上、本実施形態では、廃自動車10を熱分解する熱分解炉として、部分燃焼炉1を用いたが、廃自動車10に含まれる鉄板の厚みが比較的厚い等、鉄類の酸化がスクラップの回収に自然程影響しないような場合には、部分燃焼炉に代えて酸化炉を用いることも可能である。尚、酸化炉とは、完全燃焼に必要な量以上のの酸素で可燃物を燃焼させる炉を示す。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明が適用された廃自動車の処理装置の構成を示す図。
【図2】図1の処理装置にて実施される廃自動車の処理の流れを示すフローチャート。
【図3】乾留炉の構造を示す図。
【図4】図3とは別の乾留炉の構造を示す図。
【符号の説明】
【0032】
1 炉(部分燃焼炉)
10 廃自動車(プレス体)
11 熱分解残さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス処理された廃自動車を熱分解して熱分解ガスと熱分解残さとに分離する際、前記プレス体の表面に凹凸加工、或いは、孔加工を施し、その後、炉内において前記熱分解ガスの一部を用いて部分燃焼させ、その燃焼熱にて炉内の前記プレス体を熱分解することを特徴とする廃自動車の処理方法。
【請求項2】
前記プレス体の熱分解中に、炉内に水を噴霧、或いは、水蒸気を注入することを特徴とする請求項1に記載の廃自動車の処理方法。
【請求項3】
前記プレス体の熱分解後に、前記熱分解残さを水冷却することを特徴とする請求項1または請求項2の何れかに記載の廃自動車の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−68219(P2008−68219A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250262(P2006−250262)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(390004879)三菱マテリアルテクノ株式会社 (201)
【Fターム(参考)】