説明

建物の制振機構に用いる制振ダンパー

【課題】建物の制振機構に用いられる制振ダンパーについて、継続使用が可能か否かを判断しやすくする。
【解決手段】制振ダンパーの対向させた第1、第2のベースプレート10,11の間に振動吸収部材(振動吸収フィン12、粘弾性部材など)と共にスケール部材13を取り付ける。スケール部材13は、振動吸収部材と同様に交互繰り返し荷重を受けて、その指標部20に振動吸収部材に設定した疲労度に対応する目視可能な変化が示されるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
建物の制振機構に利用し、地震などによる振動を吸収して建物の損傷を軽減する制振ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
建物の制振機構は、振動伝達部材と制振ダンパーを主な部材として構成され、具体的な利用の構造としては方杖タイプやブレースタイプあるいは一対の柱間を結合するタイプなどがある。そして、例えば、建物の壁を構成する左右の柱と制振ダンパーとを振動伝達部材で結合した、すなわち、制振機構を組み込んだ壁は、平常は剛性を維持するが、地震や風などによる大きな振動の力(地震では地面が移動することによる建物質量との慣性力)が作用すると振動伝達部材を介して制振ダンパーに伝えられ、制振ダンパーが変位することで振動のエネルギーが吸収される。その結果、建物の揺れが緩和され、建物の損傷が軽減される。
【0003】
制振ダンパーとしては種々のものが提案されているが、交互繰り返し荷重に対し履歴曲線を描いて変形する鋼板や粘弾性部材などの部材(履歴部材という)が、その変形する際のエネルギー吸収性能を利用したダンパーもその一つである。
【0004】
一方、制振ダンパーのうち、特に履歴部材を利用したものは外見的に異常はなくても繰り返しの揺れを経験した結果、素材的に本来のエネルギー吸収性能が劣化していることがある。そのため、例えば、大きな地震の後に損傷を受けた建物が修復可能と判断される場合において、制振ダンパーを継続して使用できるものか判断しかねることがある。
【0005】
また、交換が必要な場合にその場で施主を説得できる客観的な根拠を見付けにくい。
なお、住宅の安全度を標準で100として、150の安全度をもって新築した建物が地震で損傷し90程度の安全度となっているときに、制振ダンパーを交換することで120程度まで安全度を向上させることができるのであれば、旧い履歴ダンパーを新しいものと交換する価値がある。
【0006】
下記の特許文献は、制振ダンパーの例である。
特許文献1のダンパー体5(図6,7)は、柱材取り付け部材21とブレース取り付け部材22の間に複数のH形鋼52の両端を固定した構造である。
特許文献2の弾塑性ダンパ7(図9〜12)は、両側のベースプレート15の間に鋼板にスリットを形成した振動エネルギ吸収格子16の両端を固定した構造である。
特許文献3の鋼製ダンパー11は、T形ブラケット10と連結プレート12との間に複数の縦リブ11a(鋼製)の両端を固定した構造である。
特許文献4の耐震補強構造は、柱1と梁2の接合部に粘弾性体6を充填した粘弾性ダンパー3を取付けている。
特許文献5の制振用ダンパーは、粘弾性材料12と弾性材料14とを組み合わせて利用する構造を開示している。
特許文献6の制振構造は、柱1,1間に渡した梁2,2をさらに間柱ブラケット4,4で結合し、間柱ブラケット4,4間に粘弾性ダンパー6が取付けられている。
これらはいずれも第1のベースプレートと第2のベースプレートの間に、交互繰り返し荷重に対して履歴ループを描いて変位する履歴部材(H形鋼52、振動エネルギ吸収格子16及び縦リブ11a、粘弾性体6、粘弾性材料12など)の両端を固定した構造といえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】持開2006−207292号公報
【特許文献2】特許第2516576号公報
【特許文献3】特開2002−201817号公報
【特許文献4】持開2000−160683号公報
【特許文献5】特開平7−197969号公報
【特許文献6】特開平5−287933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
制振機構に利用された制振ダンパーが継続して使用が可能か否かを簡単に判断できるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
制振ダンパーの履歴部材の両端が固定される第1、第2のベースプレート間にスケール部材を取り付ける。スケール部材は、履歴部材と同様に交互繰り返し荷重を受けて履歴部材に設定した疲労度に対応する目で見ることが可能な変化(破断、クラック、変形、変色、塗料の剥離など)を示すものとする。
スケール部材として、両端を第1、第2のベースプレート間に固定される鋼板を利用することがある。この鋼板には、形態的に変形時の応力が集中する箇所を作っておき、そこに現れる変化を、そのときの履歴部材の設定した疲労度に対応させ、目視可能な変化を示す指標部とすることがある。
【発明の効果】
【0010】
スケール部材の変化を目視することで制振ダンパーが設定の疲労度に達する変位を受けたか否かを簡単に把握でき、制振ダンパーを継続して使用が可能かついて客観的な判断資料を得られる。また、継続して使用が不可能な場合に、交換について施主の納得を得やすい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】壁部分の正面図。
【図2】制振ダンパーの正面図。
【図3】制振ダンバーを分解して示す斜視図。
【図4】スケール部材の斜視図(他の例1)。
【図5】スケール部材の作動状態を示す正面図(他の例1)。
【図6】スケール部材の斜視図(他の例2)。
【図7】他の制振ダンパーを取付けた壁部分の正面図。
【図8】他の制振ダンパーに取付けたスケール部材の例を示し、(イ)は断面図、(ロ)は平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、木造軸組工法住宅における壁部分であって、基礎1の頂面に土台2がアンカーボルト3で固定され、これに左右の柱4,5が柱脚をほぞ嵌合させて直立させ、次いで、これらの柱頭をつないで梁6がほぞ嵌合させて組み付けられている。
左右の柱4,5間には制振機構7が組み込まれている。
制振機構7は制振ダンパー8とこれを左右の柱4,5に結合するための上下左右のブレース部材9a,9b、9c,9dとからなる。
【0013】
制振ダンパー8(図2,3)は、第1、第2のベースプレート10,11の間に複数の振動吸収フィン12(履歴部材)と一個のスケール部材13を平行に配置しそれぞれの両端を第1、第2のベースプレート10,11へ溶接により固定してある。
ベースプレート10は、この実施例において、比較的幅の広いプレート部14とその端縁を直角に折り曲げて形成した幅の狭い当接部15とを備えたプレス成形品である。
プレート部14にねじ孔16を一列に形成してある。なお、ねじ孔16は、プレート部14をブレース部材9へボルトなどで固定する際の都合を考えて横方向に長い長孔としてある。
第2ベースプレート11も同じ構成であり、第1ベースプレート10を上下逆にして使用することもできる。
【0014】
振動吸収フィン12は、この実施例では、コ字形をした鋼板のプレス成形品であり、両端を同じ側に屈曲して脚部17とし、その間を変形部18で連絡した形態である。鋼板としては厚さ6mmの降伏点が通常鋼板に比べて比較的に低い鋼板(例えば、225N/mm)を利用するのが好ましく、この実施例では厚さ6mm、幅35mm、長さ180mmの長方形板の両端40mmを同じ側に屈曲してコ字形にプレス成形してある。
振動吸収フィン12の大きさは、制振ダンパー8に期待する剛性と変形能力の大きさと使用するフィンの枚数による。
なお、振動に伴う交互繰り返し変位に応じて振動吸収フィン12の変形が主として変形部18の中央部を起点として対称的にかつ安定して生じるように変形部18の中央部から両側を徐々に少し幅狭に形成することがある。
【0015】
スケール部材13(図3)は、この実施例において、振動吸収フィン12をベースとしたもので、振動吸収フィン12と同様に両側の脚部17とこれらの間を連絡する変形部18を備えるが、変形部18には、両側から形成したスリット19によってその幅を半分程度に狭くした指標部20を形成してある。
【0016】
指標部20は、スケール部材13が変形する際に応力が集中する箇所となる。指標部20の距離は振動吸収フィン12の例えば60%程度となるようにしてある。すなわち、振動吸収フィン12の破断前にスケール部材13が破断する設計としてある。したがって、指標部20は、振動吸収フィン12の制振性能が60%程度に劣化していることを破断という目に見える変化で示すことになる。スケール部材13が破断によって示す振動吸収フィン12の疲労度は、変形部18におけるスリット19の深さを決めることで設定できる。指標部20の幅と振動吸収フィン12における疲労度との対応関係は実験によって定めることができる。このようにして、振動吸収フィン12に対するスケール部材13の幅を調節することで、あらかじめ疲労性能を確認し認定できる。
振動吸収フィン12とスケール部材13は両側の脚部17をベースプレート10,11の当接部15に溶接して固定してある。
【0017】
図1において、制振ダンパー8と柱4,5とがブレース部材9を用いてボルトなどにより固定され、制振機構7が柱4,5間にすべりのないように確実に固定される。
地震などによる強い振動が建物に加わると、壁部分の柱4,5は図1において左または右方向に傾斜する交互繰り返し荷重を受ける。この荷重は、ブレース部材9を介して制振ダンパー8に伝達される。制振ダンパー8では、第1、第2のベースプレート10,11が上下方向変位し、これが振動吸収フィン12とスケール部材13に伝達される。制振ダンパー8の各振動吸収フィン12は一定の面積を囲む履歴ループを描いて変位し、その際に履歴ループに応じた振動エネルギーの吸収(熱への変換)が生じる。このため、振動が建物に与える影響を緩和することができる。
【0018】
一方、スケール部材13は同様に変位するのであるが、破断はスケール部材13の指標部20において、振動吸収フィン12よりも早く生じる。このため、点検時に指標部20に破断があるときは、振動吸収フィン12の繰り返し耐力が60%以下になっていることを目で見て確実に把握することができる。
したがって、制振ダンパー8の継続使用が可能な限度を繰り返し耐力が60%の時期と設定しておけば、交換時期であることを直ちに判断できる。また、破断の状況を客観的な証拠として、施主に継続使用が不可であることを納得させやすい。
制振ダンパー8を交換するときは、第1、第2のベースプレート10,11とブレース部材9を固定しているねじ(ボルト)を外せばよい。
【0019】
図4〜6は、スケール部材13の他の例を示したものである。
図4のスケール部材13aは、振動吸収フィン12と同様に両端の脚部17a,17bとこれらをつなぐ変形部18を備え、変形部に指標部材21を取り付けて指標部20としている。指標部材21は、固定部22とバー状の感知部23及び感知部23の基部と固定部22とを連結した変位維持部材24とからなる。変位維持部材24は、鉛亜・鉛合金板のように容易に屈曲するがほとんどスプリングバックのない金属板である。
指標部材21は、図4のように、振動吸収フィン12の一つにビス止め、あるいは強固な接着によって利用する。指標部材21を取り付けた振動吸収フィン12はスケール部材13となる。
【0020】
スケール部材13aは次のように機能する。
振動を受けて制振ダンパー8の第1ベースプレート10が第2ベースプレート11に対し上方へ変位すると、これに伴い図5のように、スケール部材13aの一方の脚部17aが他方の脚部17bに対して上方へ変位し、変形部18が上方へ傾斜する。この傾斜は他方の脚部17bに近い固定部22の箇所では生じないので、感知部23の先端が上方へ移動するに伴い、変位維持部材24が屈曲する。この屈曲状態は素材の特性によって、変形部18が逆方向(下方)へ傾斜しても戻ることなく維持される。
【0021】
ここで、感知部23の傾斜角度から振動吸収フィン12が受けた最大荷重Pと、建築後の期間に発生した主な地震の回数と一回の地震における大きな振幅(例えば最大振幅とこれに対し80%程度の振幅)を示した振動波の数は実験や測定データから把握できる。そして、これらから、制振ダンパー8が建築後に前記最大荷重Pで繰り返し受けた変位による場合の疲労度を推定することができ、さらに、推定された疲労度から実際の疲労度は、例えば、60%であると判定することができる。
したがって、感知部23の傾斜によって、制振ダンパー8が継続して使用できるものかを目で見て判断することができる。
【0022】
図6のスケール部材13bは、振動吸収フィン12の変形部18に塗料を塗りつけて指標部20としたものであり、一液タイプのポリウレタン樹脂塗料など塗膜がある程度硬い(脆い)ものを利用する。振動吸収フィン12の変位が設定した限度を越えたときに塗膜に亀裂が入ったり剥離するようにしてある。
そして、前記の設定した限度の変位と振動吸収フィン12に対する荷重の大きさは把握できるから、前記と同様にして、目で見て亀裂があったり、剥離が見られる場合の疲労度を推定できる。結果として、スケール部材13bによっても制振ダンパー8を継続して使用できるかを、目で見て判断することができる。
【0023】
図7は履歴部材として粘弾性部材を用いた制振ダンパー8を用いた例である。
この制振ダンパー8(図8)は、平行に配置された第1ベースプレート10と第2ベースプレート11との間に粘弾性部材25を充填して接着してある。第1ベースプレート10を左の振動伝達部材26に、第2ベースプレート11を右の振動伝達部材27に固定し、さらに、振動伝達部材26、27の他側をそれぞれ左柱4、右柱5に固定して壁の制振機構7を構成している。
そして、制振ダンパー8の第ベース1プレート10と第2ベースプレート11とに亘ってスケール部材13cの両端が固定してある。
【0024】
スケール部材13cはこの場合、鋼の平板で指標部20となる中央部を薄くまたくびれた形状としてある。一端は第1ベースプレート10にもとから溶接により固定されており、制振機構7の取り付けが完了したのち他端をボルトナット28で第2ベースプレート11に固定する。
地震や強風による水平力で壁が振動すると、振動の変位が柱4,5、振動伝達部材26、27を通じて制振ダンパー8に伝達され、振動のエネルギーが吸収される。
このとき、第1ベースプレート10と第2ベースプレート11は上下に変位する。この変位に応じて、スケール部材13cは変形し、設定した限度を越えた変位は指標部20にねじれや亀裂として目に見える形で残る。
前記と同様に、スケール部材13の幅、長さを調節することで、粘弾性部材25の疲労性能をあらかじめ確認し認定することができる。これにより、継続使用が可能か否かを判断する目安となる。
【0025】
以上、実施例について説明した。
制振ダンパー8の履歴部材は、振動吸収フィン12の形態にと止まらず、格子形、バー形など種々の形態を取りうる。
スケール部材13は、振動吸収フィン12をベースにしたものでなく、同じ形態であるが寸法的に脆弱なものとしたり、素材的に脆弱なものとし、指標部20に破断や変形を生じさせるものでもよい。
スケール部材13とベースプレート10,11との固定は溶接ではなく、ねじによっても良い。
【符号の説明】
【0026】
1 基礎
2 土台
3 アンカーボルト
4 左柱
5 右柱
6 梁
7 制振機構
8 制振ダンパー
9a,9b,9c,9d ブレース部材
10 第1ベースプレート
11 第2ベースプレート
12 振動吸収フィン
13,13a,13b スケール部材
14 プレート部
15 当接部
16 ねじ孔
17a,17b 脚部
18 変形部
19 スリット
20 指標部
21 指標部材
22 固定部
23 感知部
24 変位維持部材
25 粘弾性部材
26 左の振動伝達部材
27 右の振動伝達部材
28 ボルトナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互繰り返し荷重に対し履歴曲線を描いて変形する履歴部材を第1、第2のベースプレート間に固定して振動吸収部材とした制振ダンパーであって、第1、第2のベースプレート間に履歴部材と同じ交互繰り返し荷重を受けて、履歴部材に設定した疲労度に対応する目視可能な変化を示すスケール部材を取り付けてあることを特徴とした、建物の制振機構に用いる制振ダンパー。
【請求項2】
スケール部材が両端を第1のベースプレート、第2のベースプレートに固定された鋼板であり、制振ダンパーの上下変位量に対応するスケールの上下変位量を疲労性能を有した鋼板の長さで調節したものであり、目視可能な変化を示す指標部としてあることを特徴とした請求項1に記載の建物の制振機構に用いる制振ダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−32777(P2011−32777A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181370(P2009−181370)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(503473954)株式会社住宅構造研究所 (20)
【Fターム(参考)】