説明

建物の架構構造

【課題】優れた耐震性能を確保しつつ、ペリメーター部分のレイアウトあるいは意匠、ファサード面の外観に対する要求を満たすことを可能にした建物の架構構造を提供する。
【解決手段】多層建物の架構構造を、剛なラーメン架構の剛架構部と、該剛架構部の外周部側に連設され、前記剛架構部の柱よりも小径の柱を用いて形成した柔なラーメン架構の柔架構部とで構成する。また、柔架構部は、剛架構部よりも隣り合う柱の間のスパンを小にして形成する。さらに、柔架構部は、隣り合う柱の間に架設される少なくとも一部の梁を柱にピン接合して形成する。さらに、剛架構部に制振装置を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばオフィスビルや学校、商業建築などの多層建物の架構構造に関し、特に剛なラーメン架構の外周部側に柔なラーメン架構を連設してなる建物の架構構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オフィスビルや学校、商業建築などの中・高層建物(多層建物)には、鉄骨造のラーメン架構を採用して構築したものが多くある。
【0003】
一方、特許文献1には、複数の階層にわたって延在するとともに、中間部に水平方向に向けてダンパーが介装された剛の連層壁(剛構造)と、この連層壁に連結した柔なラーメン架構(柔構造)とを備えた建物(柔剛混合構物)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−172953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ラーメン架構を採用して多層建物を構築した場合、ペリメーター部分(外周部)の柱が室内側のレイアウト上あるいは意匠上で問題になることがある。また、例えば市街地の目抜き通りに面したオフィスビルなどでは、ファサード面の柱を極力スレンダーに見せたいといった外観上の要求も多い。
【0006】
一方、特許文献1においては、中間部に水平方向に向けてダンパーを介装した連層壁からなる剛構造と、柔なラーメン架構からなる柔構造とを連結した柔剛混合構造にすることで、大規模な地震が発生した場合には、連層壁の変位に起因して、内蔵されたダンパーがせん断及び/又は曲げ降伏することにより剛構造で地震エネルギーを吸収し、柔構造のラーメン架構が弾性的な挙動をすることにより大地震に起因する変形に追従できるようにしている。
【0007】
しかしながら、特許文献1は、鉄骨造のラーメン架構を採用した従来の多層建物に対し、耐震安全性を向上させ、被災後に塑性変形したダンパー及びその取付部分のみを補修するだけで修復作業を容易にするためになされたものであり、柔構造のラーメン架構の構成について具体的な記載がなく、ペリメーター部分のレイアウトあるいは意匠、ファサード面の外観について何ら記載も示唆もされていない。このため、やはりペリメーター部分のレイアウト上あるいは意匠上、また、ファサード面の外観上の課題が残されてしまう。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、優れた耐震性能を確保しつつ、ペリメーター部分のレイアウトあるいは意匠、ファサード面の外観に対する要求を満たすことを可能にした建物の架構構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明の建物の架構構造は、多層建物の架構構造であって、剛なラーメン架構の剛架構部と、該剛架構部の外周部側に連設され、前記剛架構部の柱よりも小径の柱を用いて形成した柔なラーメン架構の柔架構部とで構成されていることを特徴とする。
【0011】
この発明においては、建物本体(建物一般部)となる剛架構部が剛なラーメン架構で構築されているため、この剛架構部で建物全体の剛性及び耐力を確保することができる。さらに、小径の柱を用いた柔なラーメン架構で柔架構部が構築されているため、地震時に柔架構部が弾性的に挙動することにより地震に起因する変形に追従させることができる。これにより、建物の架構構造に損傷が生じにくく、残留変形も生じにくくなる。
【0012】
また、剛架構部の柱よりも小径の柱を用いて柔架構部が形成されているため、この柔架構部が剛架構部の外周部側に連設されることで、ペリメーター部分(外周部)の柱が室内側のレイアウト上あるいは意匠上で問題になることを解消できる。また、例えば市街地の目抜き通りに面したオフィスビルなどでは、ファサード面の柱を極力スレンダーに見せたいといった外観上の要求にも応えることが可能になる。
【0013】
また、本発明の建物の架構構造において、前記柔架構部は、前記剛架構部よりも隣り合う柱の間のスパンを小にして形成されていることが望ましい。
【0014】
この発明においては、柔架構部の柱スパンを剛架構部よりも小さくすることにより、この柔架構部の各柱の負担軸力を小さくすることが可能になる。
【0015】
さらに、本発明の建物の架構構造において、前記柔架構部は、隣り合う柱の間に架設される少なくとも一部の梁を前記柱にピン接合して形成されていることがより望ましい。
【0016】
この発明においては、柔架構部の隣り合う柱の間に架設される少なくとも一部の梁をピン接合することによって、このピン接合する梁を小梁化することが可能になる。これにより、メカニズム時の柱ヒンジ形成を回避することができるとともに、柔架構部の負担せん断力の軽減を図ることが可能になる。
【0017】
また、本発明の建物の架構構造においては、前記剛架構部に制振装置が設けられていることがさらに望ましい。
【0018】
この発明においては、剛架構部に例えば座屈拘束ブレース型制振装置などの制振装置を設けることにより、さらなる耐震性能の向上を図ることが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の建物の架構構造によれば、建物本体となる剛架構部で建物全体の剛性及び耐力を確保することができ、地震時に柔架構部を弾性的に挙動させて変形に追従させることができる。これにより、建物の架構構造に損傷が生じにくく、残留変形も生じにくくなり、優れた耐震性能を確保することが可能になる。
【0020】
また、剛架構部の柱よりも小径の柱を用いて柔架構部が形成され、この柔架構部が剛架構部の外周部側に連設されていることで、ペリメーター部分の柱が室内側のレイアウト上あるいは意匠上で問題になることを解消でき、また、例えば市街地の目抜き通りに面したオフィスビルなどでは、ファサード面の柱を極力スレンダーに見せたいといった外観上の要求にも応えることが可能になる。これにより、軽快なファサードデザインを有する高層建物を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る建物の架構構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る建物の架構構造を示す平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る建物の架構構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1から図3を参照し、本発明の一実施形態に係る建物の架構構造について説明する。なお、本実施形態では、本発明に係る建物が例えば市街地の目抜き通りに面して構築されるオフィスビル(多層建物)であるものとして説明を行う。
【0023】
本実施形態の建物の架構構造Aは、図1から図3に示すように、建物本体(建物一般部)となる剛架構部A1と、剛架構部A1の外周部側に連設された柔架構部A2とで構成され、直接基礎などの基礎部1で支持するように構成されている。
【0024】
また、本実施形態の剛架構部A1は、柱2と梁3からなるラーメン架構であり、柱2をSRC造、梁3をS造とし、建物全体の剛性及び耐力を確保するように剛構造で構築されている。なお、剛架構部A1は、剛なラーメン架構で構成されていれば、柱2や梁3がRC造であってもよい。
【0025】
また、剛架構部A1には、座屈拘束ブレース型制振装置、粘弾性ダンパー、オイルダンパーなどの制振装置4が設けられている。これにより、剛架構部A1は、剛なラーメン架構により優れた耐震性能を有し、制振装置4を備えることでさらなる耐振性能の向上が図られている。
【0026】
一方、本実施形態の柔架構部A2は、柱5と梁6からなるラーメン架構であり、市街地の目抜き通りに面する建物のファサード面T1を形成するように、剛架構部A1の外周部側に連設されている。また、この柔架構部A2は、柱5に鋼管細柱(剛架構部A1のSRC造の柱2よりも小径の柱5)を用い、梁6をS造として形成されている。さらに、柔架構部A2は、ファサード面T1において、剛架構部A1よりも隣り合う柱5の間のスパンを小にして形成され、本実施形態では、この柱5のスパンが剛架構部A1の柱2のスパンの1/2とされている。
【0027】
そして、このように柔架構部A2に小径の鋼管細柱5を用いることによって、従来のように純S造あるいはCFT柱を用いた場合と比較し、架構構造A全体に要する鉄骨量が軽減され、コストパフォーマンスに優れた架構形式が実現する。また、柔架構部A2の隣り合う柱5のスパンを小さくすることにより、各柱5の負担軸力が小さくなる。言い換えれば、各柱5の負担軸力が小さくなるため、鋼管細柱5を採用することが可能になる。これにより、ファサード面T1を形成する柔架構部A2が柔架構(柔構造)となり、剛な剛架構部A1との剛性比によって地震時の負担せん断力も軽減される。
【0028】
さらに、本実施形態の柔架構部A2は、梁6が水平方向1台おきに、隣り合う柱5にピン接合して架設されている(隣り合う柱5の間に架設される少なくとも一部の梁6が柱5にピン接合されている)。これにより、ピン接合する梁6を小梁化することが可能になり、メカニズム時の柱ヒンジ形成が回避され、同時に負担せん断力の一層の軽減が図られている。
【0029】
したがって、本実施形態の建物の架構構造Aにおいては、建物本体(建物一般部)となる剛架構部A1が剛なラーメン架構で構築されているため、この剛架構部A1で建物全体の剛性及び耐力を確保することができる。さらに、小径の柱5を用いた柔なラーメン架構で柔架構部A2が構築されているため、地震時に柔架構部A2が弾性的に挙動することにより地震に起因する変形に追従させることができる。これにより、建物の架構構造Aに損傷が生じにくく、残留変形も生じにくくなり、例えば震度6強〜7におけるPML値(Probable Maximum Loss:予想最大損失)が10%以下となる優れた耐震性能を確保することが可能になる。
【0030】
また、剛架構部A1の柱2よりも小径の柱5を用いて柔架構部A2が形成されているため、この柔架構部A2が剛架構部A1の外周部側に連設されることで、ペリメーター部分(外周部)の柱5が室内側のレイアウト上あるいは意匠上で問題になることを解消できる。さらに、例えば市街地の目抜き通りに面したオフィスビルなどでは、ファサード面T1の柱5を極力スレンダーに見せたいといった外観上の要求にも応えることが可能になる。これにより、軽快なファサードデザインを有する高層建物を実現することが可能になる。
【0031】
また、柔架構部A2の柱スパンを剛架構部A1よりも小さくすることにより、柔架構部A2の柱5を小径にした場合であっても、この柔架構部A2の各柱5の負担軸力を小さくすることが可能になる。
【0032】
さらに、柔架構部A2の隣り合う柱5の間に架設される少なくとも一部の梁6をピン接合することによって、このピン接合する梁6を小梁化することが可能になる。これにより、メカニズム時の柱ヒンジ形成を回避することができるとともに、柔架構部A2の負担せん断力の軽減を図ることが可能になる。
【0033】
また、剛架構部A1に例えば座屈拘束ブレース型制振装置などの制振装置4を設けることにより、さらなる耐震性能の向上を図ることが可能になる。
【0034】
以上、本発明に係る建物の架構構造Aの一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、本発明に係る建物が市街地の目抜き通りに面して構築されるオフィスビル(多層建物)であるものとし、目抜き通りに面するファサード面T1を形成するように、剛架構部A1の外周部側に柔架構部A2が連設されているものとしたが、剛架構部A1の外周部側に柔架構部A2を連設して形成されていれば、必ずしもファサード面T1を形成するように柔架構部A2を設けることに限定しなくてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 基礎部
2 剛架構部の柱
3 剛架構部の梁
4 制振装置
5 柔架構部の柱
6 柔架構部の梁
A 建物の架構構造
A1 剛架構部
A2 柔架構部
T1 ファサード面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層建物の架構構造であって、
剛なラーメン架構の剛架構部と、該剛架構部の外周部側に連設され、前記剛架構部の柱よりも小径の柱を用いて形成した柔なラーメン架構の柔架構部とで構成されていることを特徴とする建物の架構構造。
【請求項2】
請求項1記載の建物の架構構造において、
前記柔架構部は、前記剛架構部よりも隣り合う柱の間のスパンを小にして形成されていることを特徴とする建物の架構構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の建物の架構構造において、
前記柔架構部は、隣り合う柱の間に架設される少なくとも一部の梁を前記柱にピン接合して形成されていることを特徴とする建物の架構構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の建物の架構構造において、
前記剛架構部に制振装置が設けられていることを特徴とする建物の架構構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−32635(P2011−32635A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176660(P2009−176660)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】