説明

建物及びその建築方法

【課題】隣棟間隔の小さい狭小敷地などの足場を設置できないような環境下においても外壁パネルを好適に施工することができる建物を提供する。
【解決手段】建物11の躯体を構成する下階天井梁13及び上階天井梁14の長手方向に延びるように、それぞれ案内レール25を設ける。一方、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16の上端部には、案内レール25に引っ掛けられるハンガー22を取り付ける。そして、それぞれのハンガー22を各天井梁13,14の案内レール25に引っ掛けることで、各外壁パネル15,16は各天井梁13,14に吊り下げられた状態となる。この吊り下げ状態においてハンガー22を案内レール25に沿ってスライドさせることにより、各外壁パネル15,16を所定の取り付け位置に移動させる。この取り付け位置において各外壁パネル15,16を屋内側からボルト等により固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物躯体の横架材に外壁パネルが固定されてなる建物、及びその建物を構築するのに好適な建築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸組構造の建物において外壁パネルを施工する場合、外壁パネルの施工より前に、建物周囲に足場を組んでおく。そして、外壁パネルをクレーンによって吊り下げ、上方から足場と建物の軒先との間に落とし込み、作業者は足場から所定の取り付け位置に外壁パネルを誘導して、屋外側より外壁パネルを釘等によって固定するのが一般的である。
【0003】
しかしながら、隣棟間隔の小さい狭小敷地などでは、建物の周囲に足場を設置する空間がない場合や、足場を設置できたとしても当該足場と軒先との間に外壁パネルが入り込む隙間を形成できない場合がある。このような状況では、足場やクレーンを用いた上記の一般的な外壁パネルの施工は不可能である。
【0004】
そこで、上記問題点を解決しようとするものとして、外壁パネルを軸組構造の屋内側から取り付けるようにした技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−238609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した屋内側から外壁パネルを取り付ける技術においては、屋内側から梁間に外壁パネルを差し込む構成であることから、建物の梁周辺部における水密性保持は結局のところ建物の外側に足場を組んで行う必要があるといえる。すなわち、足場を組むことのできない環境下を想定すると、上記技術は現実的な対策とはいえない。
【0006】
本発明は、隣棟間隔の小さい狭小敷地などの足場を設置できないような環境下においても外壁パネルを好適に施工することができる建物及びその建築方法を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するのに適した発明及び実施形態から導き出される発明について、作用効果を示しつつ、以下に説明する。
【0008】
発明1.建物躯体の横架材に外壁パネルが固定されてなる建物であって、
前記横架材に対して外壁パネルが吊り下げ支持されるとともに、該外壁パネルがその吊り下げ状態で前記横架材の長手方向へスライド可能となるように、前記横架材及び外壁パネルに設けられた案内手段と、
前記案内手段による前記横架材に対する外壁パネルのスライドを阻止して所定位置に固定する固定手段と、
を備えていることを特徴とする建物。
【0009】
発明1によれば、建物躯体の横架材に対して外壁パネルが吊り下げ支持され、外壁パネルの施工途中では案内手段によって横架材の長手方向へスライドさせることができる。このスライド移動により外壁パネルを横架材に対する所定位置に配置することができるため、隣棟間隔の小さい狭小敷地などの足場を設置できないような環境下においても外壁パネルを容易に施工することができる。また、外壁パネルは屋内側から嵌め込むタイプではないため、屋内側において止水処理をすることができるように工夫することが可能となる。また、外壁パネルは吊り下げされた状態となっているため、外壁パネルをスライドさせる作業も比較的容易になる。さらに、外壁パネルを所望位置までスライド移動させた状態で横架材に対して固定する際には、横架材を介して外壁パネルを固定するようにすれば、固定手段による固定作業を屋内側から行うこともできて隣棟間隔の小さい狭小敷地などの足場を設置できないような環境下においても容易に固定作業を行うことができる。
【0010】
発明2.前記案内手段は、
前記横架材に設けられ、該横架材の延びる方向に沿って延びる案内レールと、
前記外壁パネルの屋内側上端部に設けられ、前記案内レールに引っ掛けられるハンガーと、
を備えていることを特徴とする上記発明1に記載の建物。
【0011】
発明2によれば、既存の横架材に案内レールを取り付けるとともに、外壁パネルの屋内側上端部にハンガーを取り付ければよいため、既存の構成を生かして案内手段を容易に構築することができる。これにより、例えば、狭小空間での作業時には案内レール及びハンガーを取り付け、比較的余裕のある空間での作業時にはそれらを取り付けないものを使用することもできるようになる。また、ハンガーは外壁パネルの屋内側上端部に設けられているため、外壁パネルを安定した状態で案内レールに吊り下げることができる。
【0012】
発明3.前記案内レールは、
前記横架材に取り付けられる取り付け部と、
上方へ起立して上端において前記ハンガーが引っ掛けられる起立板部と、
を備えていることを特徴とする上記発明2に記載の建物。
【0013】
発明3によれば、案内レールが横架材への取り付け部に加え、直接的にハンガーの案内を行う部分として起立板部を有していることから、案内レールとハンガーとを簡単な構成で構築することができる。
【0014】
特に、案内レールをL字状に折り曲げて構成すれば、長尺板材を折り曲げるだけで取り付け部と起立板部とが形成されることになり、一層簡単な構成で案内レールを構築することができる。さらに、案内レールは外壁パネルの荷重を支えるものであるため、横架材の上面に設置されるものであることが好ましい。この場合、L字状に折り曲げて構成された案内レールであれば、取り付け部を横架材上に設置すればよく、これにより、案内レールが受ける荷重を横架材に直接作用させることができる。
【0015】
発明4.前記ハンガー及び前記起立板部には屋内外方向に貫通する貫通孔がそれぞれ形成され、屋内側から各貫通孔に挿入されるボルトによって、前記起立板部に前記ハンガーが固定されていることを特徴とする上記発明3に記載の建物。
【0016】
発明4によれば、起立板部にハンガーが引っ掛けられている関係を利用して、それらに貫通孔を形成するとともにボルトが各貫通孔を通すようにして屋内側から固定作業を行うことができる。したがって、外壁パネルの上端部の固定作業を屋内側にて簡単に行うことができる。
【0017】
発明5.前記ハンガーは、前記外壁パネルの幅方向に間隔をおいて複数備えられていることを特徴とする上記発明2乃至4のいずれかに記載の建物。
【0018】
発明5によれば、ハンガーを複数備えていることにより、案内レールに対して外壁パネルを安定した状態で吊り下げることができる。特に、外壁パネルの幅方向両端部にハンガーが備えられていれば、案内レールに対して外壁パネルを一層安定した状態で吊り下げることができる。
【0019】
発明6.建物躯体の横架材に外壁パネルが固定されてなる複数階の建物であって、
前記外壁パネルのうち下階外壁パネルの上面には止水シートが設けられ、該止水シートの屋内側端部は上方へ指向された立ち上がり面とされ、当該立ち上がり面には前記外壁パネルより上階の上階外壁パネルの屋内側下端部との間に弾性を有する屋内水密材が圧縮状態で介在されていることを特徴とする建物。
【0020】
発明6によれば、下階外壁パネルの上面に止水シートが設けられ、その屋内側端部が上方への立ち上がり面とされることで、下階外壁パネルと上階外壁パネルとにより形成される横目地から雨水等が浸入しようとしても止水シートに受け止められる。そして、立ち上がり面と上階外壁パネルの屋内側下端部との間に弾性を有する屋内水密材が圧縮状態で介在されていることから、前記止水シート上の水分が仮に上方に吹き上げられたとしても、屋内水密材によってそれ以上の屋内側への浸入が阻止される。これにより、横目地の止水を容易かつ確実に行うことができる。
【0021】
なお、屋内水密材が止水シートの立ち上がり面に予め固定されたものであれば、単に上階外壁パネルを屋内水密材が押圧された状態で固定すれば済むため、横目地の止水処理のための作業が一層簡単なものとなる。
【0022】
また、止水シートの立ち上がり面を維持するために、上記発明3に記載したような起立板部によって立ち上がり面をバックアップすることが好ましい。
【0023】
発明7.前記止水シートには屋内外方向に貫通して少なくとも下階外壁パネルが固定されるボルトが挿通される貫通孔が形成され、当該貫通孔は前記屋内水密材よりも上方に配設されていることを特徴とする上記発明6に記載の建物。
【0024】
発明7によれば、止水シートには、少なくとも下階外壁パネルを固定するためのボルトが貫通されることから、外壁パネルの固定作業に伴って止水シートの立ち上がり面が垂れ下がらないようにする処理も同時に行われることとなる。そして、止水シートに少なくとも下階外壁パネルが固定されるボルトが挿通される貫通孔を予め形成しておくことにより、ボルトによって強制的に止水シートを破ることがないため、ボルトによる下階外壁パネルの固定作業が容易になるばかりか破損による止水シートの機能低下を抑制することも可能となる。また、貫通孔が屋内水密材よりも上方に形成されているため、上記発明6で説明した横目地からの雨水の浸入に対する止水効果が低下することもない。
【0025】
発明8.前記上階外壁パネルの屋内側下端部と止水シートの立ち上がり面との間には、前記屋内水密材を下端として不定形シール材が充填されていることを特徴とする上記発明6又は7に記載の建物。
【0026】
発明8によれば、上階外壁パネルの屋内側下端部と止水シートの立ち上がり面との間隙の上方には屋内側から作業者が近づくことのできる環境とすることができる。したがって、屋内側から不定形シール材を充填して屋内水密材のバックアップシールとして機能させることができる。
【0027】
発明9.前記外壁パネルの少なくとも一方の側面には、上下方向に延びて弾性を有する側面水密材が取り付けられており、該側面水密材は横に並ぶ外壁パネルによって圧縮されていることを特徴とする上記発明6乃至8のいずれかに記載の建物。
【0028】
発明9によれば、側面水密材の存在により、外壁パネルを横並びさせるだけで、外壁パネル間に形成される縦目地の止水処理を自動的に行うことができる。したがって、屋外側からの縦目地の止水処理を省略することが可能となる。
【0029】
発明10.前記側面水密材の下端部は上端部よりも屋外側に配置されていることを特徴とする上記発明9に記載の建物。
【0030】
発明10によれば、上階外壁パネルと下階外壁パネルとが上下に並んでいる場合において、上階外壁パネルの側面水密材に至った水分が当該側面水密材に沿って流下していっても、最終的に側面水密材によって水切りされる位置が下階外壁パネルの側面水密材の上端部よりも屋外側となる。その結果、上階外壁パネルの側面水密材を伝って流下してくる水分が屋内側に浸入することを防止することができる。
【0031】
なお、以上説明した発明6乃至10は、上記発明1乃至5と適宜組み合わせることが可能であり、隣棟間隔の小さい狭小敷地などの足場を設置できないような環境下においても外壁パネルを容易に施工することができるばかりか、そのような環境下における止水処理をも容易に行うことができる利点等が生じ、隣棟間隔の小さい狭小敷地などにおける外壁回りの作業性の面で相乗効果を得ることができる。
【0032】
発明11.建物躯体の横架材に外壁パネルが固定されてなる建物の建築方法であって、
前記横架材の長手方向に沿って延びるように設けられた案内レールに対して外壁パネルの屋内側上端部に設けたハンガーを吊り下げる吊り下げ工程と、
その吊り下げ状態において前記案内レールに対してハンガーをスライドさせて所定の取り付け位置に配置させる配置工程と、
その取り付け位置において屋内側から案内レールにハンガーを固定する固定工程と、
を備えていることを特徴とする建物の建築方法。
【0033】
発明11によれば、横架材の長手方向に沿って延びるように設けられた案内レールに対して外壁パネルの屋内側上端部に設けたハンガーを吊り下げ、その吊り下げ状態において案内レールに対してハンガーをスライドさせて所定の取り付け位置に配置させ、その取り付け位置において屋内側から案内レールにハンガーを固定することにより、外壁パネルが横架材に取り付けることができる。したがって、隣棟間隔の小さい狭小敷地などの足場を設置できないような環境下においても外壁パネルを容易に施工することができる。特に、外壁パネルは吊り下げされた状態となっているため、外壁パネルをスライドさせる作業も比較的容易になる。さらに、外壁パネルを所望位置までスライド移動させた状態で横架材に対して固定する作業も屋内側から行うことができるため、上記のような隣棟間隔の小さい狭小敷地などの環境下においても容易に固定作業を行うことができる。
【0034】
発明12.前記ハンガーは外壁パネルの上端部に取り付けられたものであって、前記配置工程ではハンガーを介して外壁パネルが吊り下げられているのみであり、前記固定工程では、前記ハンガーの固定に加え、外壁パネルの下端部の固定も行うことを特徴とする上記発明11に記載の建物の建築方法。
【0035】
発明12によれば、ハンガーが外壁パネルの上端部に設けられているため、外壁パネルを安定した状態で案内レールに吊り下げることができる。したがって、外壁パネルを所望位置までスライド移動させる作業が一層容易になる。また、外壁パネルの上端部の固定とともに下端部の固定も行うことにより、外壁パネルは上下両端部で固定されることになって、安定した状態を維持することができる。なお、下階外壁パネルの下端部については梁に固定するのではなく基礎に固定するようにしてもよい。
【0036】
発明13.建物躯体の横架材に外壁パネルが固定されてなる複数階の建物の建築方法であって、
下階天井用の横架材の長手方向に沿って延びるように設けられた案内レールに対して下階外壁パネルに設けたハンガーを吊り下げる吊り下げ工程と、
その吊り下げ状態において前記案内レールに対してハンガーをスライドさせて下階外壁パネルを所定の取り付け位置に配置させる配置工程と、
上階天井用の横架材の長手方向に沿って延びるように設けられた案内レールに対して上
階外壁パネルに設けたハンガーを吊り下げる吊り下げ工程と、
その吊り下げ状態において前記案内レールに対してハンガーをスライドさせて上階外壁パネルを所定の取り付け位置に配置させる配置工程と、
前記各配置工程により前記取り付け位置に配置された上下両外壁パネルの各ハンガーを屋内側から案内レールに固定する固定工程と、
を備えていることを特徴とする建物の建築方法。
【0037】
発明13によれば、上記発明11において説明した効果を上階外壁パネル及び下階外壁パネルのいずれをも施工する場合において実現することができる。そして、特に上下両外壁パネルを固定する作業のうち、少なくとも上階外壁パネルの下端部及び下階外壁パネルの上端部の固定作業について一括して行うようにすることで、固定作業が容易になる。
【0038】
発明14.前記建物は梁勝ち構造を有するものであって、
前記下階外壁パネルの吊り下げ工程及び配置工程の前に行われ、建物躯体のうち下階天井梁までを構築する下階躯体形成工程と、
前記下階外壁パネルの吊り下げ工程及び配置工程の後に行われるとともに前記上階外壁パネルの吊り下げ工程の前に行われ、建物躯体のうち下階天井梁より上方に配置される躯体を構築する下階躯体形成工程と、
を備えていることを特徴とする上記発明13に記載の建物の建築方法。
【0039】
発明14によれば、梁勝ち構造の特性を生かし、建物躯体のうちまずは下階天井梁までを構築しておき、その段階で下階外壁パネルの吊り下げ及び配置工程を行うようにすれば、下階天井梁より上方の空間が開放された状態で当該各工程を行うことができるため、作業が一層容易なものとなったり、作業効率が高められたりする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下に、一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、図1は建物の一部を示す側面図、図2は梁に吊り下げられた外壁パネルを示す斜視図、図3は上下両外壁パネルと梁との関係を示す要部側面図、図4は建物の一部を示すとともに施工過程の一部を示す斜視図、図5は上下両外壁パネルの梁に対する施工順序を示す要部側面図である。
【0041】
図1及び図4に示すように、本実施形態の建物11は、基礎12の天端上に、横架材としての下階天井梁(上階床梁)13や上階天井梁14等の梁と、下階柱29や上階柱等の柱とを含む軽量鉄骨を組み立ててなる軸組構造(建物躯体)を有する。そして、基礎12上における軸組構造の外周に下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16がそれぞれ複数設置されるとともに、軸組構造の上部に屋根17が設置されることにより、建物11が構築されている。なお、図3に示すように、本実施形態の軸組構造は、上下階の各柱(下階柱29のみ図示)が分断した状態で個別に下階天井梁(上階床梁)13に連結されてなる梁勝ち構造となっている。
【0042】
下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16は、いずれも建物11の屋外側に露出する外壁板18とその背面側(屋内側)に固定されたフレーム19とから構成されている。外壁板18は、全体として矩形板状に形成された面材からなる外装材(サイディング)である。外壁板18は、建物11の外観を決定付けるものであって、意匠性を高めるべく表面に凹凸模様等が施され、かつ耐候性に優れた素材で形成されている。
【0043】
フレーム19は、例えばスチール等の高剛性金属製であり、外壁板18の周縁に沿って枠状に形成されている。具体的には、左右両端部(場合によってはさらにそれらの中間)において上下方向に延びる縦フレーム部19aと、各縦フレーム部19aの上端部に連結されるとともに左右方向(幅方向)に延びる上フレーム部19bと、各縦フレーム部19aの下端部に連結されるとともに左右方向(幅方向)に延びる下フレーム部19cとを含んで構成されている。そして、フレーム19は、その剛性の高さによって外壁パネル15,16自身の強度を高めるとともに、建物11の骨組の一部を構成する梁13,14等に連結されている。
【0044】
より詳細には、基礎12の天端にはL型の支持レール21がボルトによって固定されており、下階外壁パネル15のパネル下端部がその支持レール21にボルトによって連結されるとともにパネル上端部が下階天井梁13に連結されている。また、上階外壁パネル16は、パネル下端部が下階天井梁13に連結されるとともにパネル上端部が上階天井梁14に連結されている。
【0045】
以下に、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16の取り付け構造の詳細について説明する。なお、下階外壁パネル15と上階外壁パネル16は基本的に同一の構成をなし、また下階外壁パネル15及び下階天井梁13の関係と、上階外壁パネル16及び上階天井梁14の関係も基本的に同一である。したがって、以下においては、説明の便宜上、パネル上端部付近の構成については下階外壁パネル15を例に説明し、パネル下端部付近の構成については上階外壁パネル16を例に説明する。また、同一構成である部分については同一符号を付して説明を省略し、異なる構成については別途符号を付して説明する。
【0046】
図2及び図3に示すように、下階外壁パネル15の上端部背面側には、案内手段を構成する複数のハンガー22が所定間隔をおいて取り付けられている。本実施形態ではハンガー22は一対備えられ、下階外壁パネル15の幅方向両端位置にそれぞれ配設されている。ハンガー22は、下階外壁パネル15の板面と平行となる板面を有する金属製等の板材により構成されており、詳細には、ハンガー22は下階外壁パネル15のフレーム19のうち、幅方向両端の縦フレーム部19aにスペーサ23を介して溶接によって固定されている。ハンガー22は高さ方向の中途位置より下階外壁パネル15の上端から突出されている。ハンガー22の上端部分は、まず屋内側へ略水平に折り曲げられ、さらにその屋内側の端部において下方へ折り曲げられることにより、フック部24が形成されている。
【0047】
下階天井梁13上には、案内手段を構成する案内レール25が取り付けられている。案内レール25は、下階天井梁13に沿って延びる長尺状のレールである。案内レール25は、下階天井梁13に取り付けられる取り付け部としての水平板部25aと、その水平板部25aの屋外側端部が上方へ折り曲げられて形成された起立板部25bとを有している。そして、水平板部25aが下階天井梁13の屋外側端部より若干屋外側にはみだした状態に位置合わせされた状態において、案内レール25の水平板部25aが下階天井梁13にボルト27によって固定されている。
【0048】
そして、案内レール25の起立板部25bにハンガー22のフック部24が引っ掛けられている。これにより、下階外壁パネル15は、ハンガー22を介して案内レール25、ひいては下階天井梁13に吊り下げられた状態とされている。また、案内レール25の起立板部25bに沿ってハンガー22のフック部24がスライド可能となる関係を有しているため、下階外壁パネル15は、案内レール25に固定されていない状態においては、ハンガー22を介して案内レール25に沿ってスライドすることができる。
【0049】
下階外壁パネル15には、その上端面に止水シート31が設けられている。止水シート31は、下階外壁パネル15の幅と一致する長さを有するとともに、屋内側の端部からはみ出る程度の奥行きを有する大きさに形成されている。そして、止水シート31の屋内側へはみ出た部分は上方へ折り曲げられて起立板部25bの屋外側の面に当接されている。
【0050】
下階外壁パネル15の一方の側面(本実施形態では屋外側からみて右側の側面)には、上下方向に延びるゴム製の側面水密材32が取り付けられている。詳細には、側面水密材32は、下階外壁パネル15のフレーム19のうち縦フレーム部19aに接着されるものであり、また下端付近が徐々に屋外側へ指向されるように湾曲した状態で固定されている。また、止水シート31の立ち上がり部分における屋外側の面には、水平方向に延びるゴム製の屋内水密材33が接着等により取り付けられている。
【0051】
上階外壁パネル16の下フレーム部19cにおける屋内側の面には、固定手段を構成する下側ウェルドナット36が固定されている。下側ウェルドナット36は前記屋内水密材33よりも上方位置に配設されている。また、下側ウェルドナット36と対峙する位置には、案内レール25の起立板部25bに形成され屋内外方向へ貫通する第1貫通孔25cと、止水シート31に形成され屋内外方向へ貫通する第2貫通孔31aと、ハンガー22に形成され屋内外方向へ貫通する第3貫通孔22aとが備えられている(各貫通孔については図2参照)。
【0052】
そして、案内レール25の屋内側より、起立板部25b、ハンガー22及び止水シート31の各貫通孔25c,31a,22aを介して固定手段を構成するボルト37を下側ウェルドナット36に螺合させることにより、下階外壁パネル15の案内レール25に対するスライドが規制された状態となっている。また、このボルト37と下側ウェルドナット36とによる締結によって、上階外壁パネル16の下端部も固定されている。さらに、上記ボルト37により、止水シート31の屋内側部分が起立板部25bに沿った状態に維持され、さらには上階外壁パネル16も案内レール25に固定された状態となる。
【0053】
上階外壁パネル16の下部背面側において、フレーム19のうち縦フレーム部19aには、固定手段を構成する上側ウェルドナット38が固定されている。上側ウェルドナット38は縦フレーム部19aの内側領域に配設されている。上側ウェルドナット38と対峙する位置には、案内レール25の起立板部25bに形成され屋内外方向へ貫通する第4貫通孔25dと、ハンガー22に形成され屋内外方向へ貫通する第5貫通孔22bとが備えられている(各貫通孔については図2参照)。そして、ここでも、案内レール25の屋内側より、起立板部25b及びハンガー22の各貫通孔25d,22bを介して固定手段を構成するボルト39をウェルドナット38に螺合させている。したがって、上階外壁パネル16の下端部は案内レール25に対して強固に固定された状態となっている。下階外壁パネル15の上方位置において上階外壁パネル16が固定された状態では、屋内水密材33は止水シート31の立ち上がり面と上階外壁パネル16の下フレーム部19cとの間で圧縮状態に維持されている。
【0054】
上階外壁パネル16の下フレーム部19cと案内レール25の起立板部25b(詳細には止水シート31)との間は下部において屋内水密材33によって閉塞されており、上階外壁パネル16の下フレーム部19cと案内レール25の起立板部25b(詳細には止水シート31)との間は、上方に開放されたシールポケットとなっている。そして、このシールポケットには不定形シール材41が充填されている。この充填状態では、不定形シール材41内に下側ウェルドナット36が埋没されている。不定形シール材41は、止水シート31及び屋内水密材33によって構成される一次止水シールに対するバックアップシールとして機能している。
【0055】
なお、上階外壁パネル16の上部背面側にも同様にハンガー22が設けられているが、屋根7の構造との関係上、ハンガー22は若干下寄りに取り付けられている。また、屋根7との関係上、特に止水シート31や屋内水密材33は不要であるため、これらは取り付けられていない。その他は、下階外壁パネル15と同様の構成である。
【0056】
また、下階外壁パネル15の下部背面側にもウェルドナット36,38が設けられている。そして、基礎12の天端上に設けられた前記支持レール21を介して、図示しないボルトを屋内側から前記各ウェルドナット36,38に螺合することにより、下階外壁パネル15の下端部も固定されている。
【0057】
次に、上記のように構成される建物11における下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16の施工完了までの手順(建物11の建築方法)について、図4及び図5を中心に説明する。
【0058】
第1工程は、軸組構造(建物躯体)の構築工程であり、基礎12の施工後に行われるものである。
【0059】
第1工程では、基礎12の天端上に下階天井梁(上階床梁)13,上階天井梁14等の梁や下階柱29,上階柱等の柱を含む軽量鉄骨を、基礎12側から順に組み立てていき、軸組構造を構築する。この際、支持レール21及び案内レール25も、それぞれ基礎12、下階天井梁13及び上階天井梁14にボルトで止めておく。
【0060】
第2工程は、下階外壁パネル15の設置工程であり、第1工程の完了後に行われるものである。
【0061】
下階外壁パネル15を設置する場合には、図5(a)に示すように、まず、下階外壁パネル15におけるハンガー22のフック部24を下階天井梁13に固定された案内レール25の起立板部25bに引っ掛ける。この引っ掛けの作業は下階外壁パネル15をクレーンによって吊り下げた状態で、案内レール25にハンガー22が引っ掛けられるように作業者が下階外壁パネル15を誘導することにより行われる。これにより、下階外壁パネル15はハンガー22によって案内レール25に吊り下げられた状態となる。
【0062】
なお、この作業時において止水シート31が案内レール25とハンガー22との間に巻き込まれる等の障害のないよう、作業前(より好ましくは下階外壁パネル22の製造工場における製造時)に止水シート31の屋内側端部を上方へ立ち上げた状態として、この立ち上がり部分をハンガー22の屋外側の面に接着等によって固定しておくことが好ましい。また、このように止水シート31の立ち上がり部分をハンガー22に固定しておく際には、止水シート31の第2貫通孔31aとハンガー22の第3貫通孔22aとの位置合わせを予め行った状態とすることで、下側ウェルドナット36へのボルト37の螺合が行い易くなる。
【0063】
この状態から、ハンガー22のフック部24を起立板部25bに沿ってスライドさせるようにして、下階外壁パネル15を幅方向へ案内する。下階外壁パネル15のスライド移動は、例えば下階外壁パネル15にロープを連結して当該ロープを引っ張ることにより行われる。
【0064】
下階外壁パネル15が所定位置までスライド移動されると、下階外壁パネル15の下端部の固定作業に入る。具体的には、下階外壁パネル15の裏面下端部において、支持レール21を介して屋内側よりボルトによって固定する。なお、下階外壁パネル15の上端部、すなわちハンガー22側においてはこの段階では固定しない。
【0065】
この第2工程において下階外壁パネル15を、クレーン等を設置することのできる側から順次吊り下げ、スライド移動させる。具体的には、図4に示したように、図4の右手前側に十分な領域がある場合には、その奥側である下階外壁パネル15Aが最初に施工され、その後、下階外壁パネル15B、下階外壁パネル15C、下階外壁パネル15Dの順に施工される。
【0066】
このようにして、各下階外壁パネル15が上記の施工方法によって順次施工されると、隣り合う下階外壁パネル15の側面間に存在する側面水密材32が圧縮され、隣り合う下階外壁パネル15間の水密性が保持される。この側面水密材32が下階外壁パネル15間に形成される縦目地の1次止水シールとして機能する。これにより、下階外壁パネル15の屋外側から前記縦目地に止水シールを施工する作業が不要となる。なお、下階外壁パネル15の屋外側に作業者が入り込むスペースがある場合には前記縦目地に止水シールをさらに施工して、側面水密材32を省略したり、側面水密材32を2次止水シールとして機能させたりすることも可能である。
【0067】
第3工程は、上階外壁パネル16の設置工程及び下階外壁パネル15の上端取り付け工程であり、これらは第2工程の完了後に行われるものである。
【0068】
上階外壁パネル16の設置工程及び下階外壁パネル15の上端取り付け工程は、第2工程である下階外壁パネル15の設置完了後(但し、上端部は案内レール25にハンガー23が吊り下げられた状態となっているだけであり、固定されていない。)に行われる。上階外壁パネル16についても、上階天井梁14の案内レール25に上階外壁パネル16のハンガー22を吊り下げ、当該案内レール25に沿って上階外壁パネル16を予め定めた位置までスライド移動させる。
【0069】
上階外壁パネル16の下端部(詳細には上階外壁パネル16の下フレーム部19c)における屋内側の面には、下側ウェルドナット36が固定されている。そして、下側ウェルドナット36の屋内側端部はハンガー22(詳細には止水シート31の立ち上がり面)に当接され、結果として、下側ウェルドナット36はハンガー22と上階外壁パネル16との屋内外方向における間隔保持部材として機能する。この当接状態では、下側ウェルドナット36よりも下方位置において屋内水密材33が上階外壁パネル16と止水シート31とに挟み込まれ、屋内水密材33は圧縮された状態となる。これにより、ウェルドナット36の下方位置において屋内水密材33により上階外壁パネル16と止水シート31との間が水密に保持される。これにより、上階外壁パネル16と下階外壁パネル15との間に形成される横目地の止水効果が得られる。なお、上階外壁パネル16及び下階外壁パネル15の境界部における屋外側に作業者が入り込むスペースがある場合には前記横目地に止水シールをさらに施工して、屋内水密材33を省略したり、屋内水密材33を2次止水シールとして機能させたりすることも可能である。
【0070】
さて、上階外壁パネル16が所定位置までスライド移動されると、上階外壁パネル16の下端取り付け作業及び下階外壁パネル15の上端取り付け作業に入る。具体的には、図5(b)に示すように、下階外壁パネル15の裏面上端部においては、ボルト37を、屋内側より案内レール25の起立板部25b、ハンガー22及び止水シート31の各貫通孔25c,22a,31aを介して、上階外壁パネル16に固定されている下側ウェルドナット36に螺合させる。これにより、下階外壁パネル15が上下位置において固定される。また、この作業によって下階外壁パネル15の上端部の固定作業において、止水シート31の屋内側端部も立ち上がり形状に確実に維持される。さらに、この作業によって上階外壁パネル16の下端部も固定される。
【0071】
また、上階外壁パネル16の下端部においては、前記下階外壁パネル15の上端部を固定するためのウェルドナット36及びボルト37の締結位置よりも上方位置において、ボルト39を、屋内側より案内レール25の起立板部25b及びハンガー22の各貫通孔25d,22bを介して、上側ウェルドナット38に螺合させる。これにより、上階外壁パネル16の下端部が複数箇所で固定される。
【0072】
その後又はその前に、下階外壁パネル15と同様の施工方法により、上階外壁パネル16の上端部が上階天井梁14の案内レール25に固定される。なお、上階外壁パネル16の上端部においては下階外壁パネル15の上端部における固定の際と同様、各ハンガー22毎に一箇所ずつボルト止めするだけでよい。
【0073】
この第3工程において上階外壁パネル16を、クレーン等を設置することのできる側から順次吊り下げ、スライド移動させる。具体的には、図4に示したように、奥側である上階外壁パネル16Aが最初に施工され、その後、上階外壁パネル16B、上階外壁パネル16C、上階外壁パネル16Dの順に施工される。
【0074】
この第3工程において上階外壁パネル16を順次スライドさせると、隣り合う上階外壁パネル16の側面間に存在する側面水密材32が圧縮され、隣り合う下階外壁パネル15間の水密性が保持される。この側面水密材32が上階外壁パネル16間に形成される縦目地の1次止水シールとして機能する。これにより、上階外壁パネル16の屋外側から前記縦目地に止水シールを施工する作業が不要となる。なお、上階外壁パネル16の屋外側に作業者が入り込むスペースがある場合には前記縦目地に止水シールをさらに施工して、側面水密材32を省略したり、側面水密材32を2次止水シールとして機能させたりすることも可能である。
【0075】
第4工程は、シール材充填工程であり、第3工程の完了後に行われるものである。
【0076】
本工程は、図5(c)に示すように、不定形シール材41を、上階外壁パネル16の下フレーム部19cと案内レール25との間隙へ、屋内側かつ上方より充填する作業工程である。この充填作業は上階外壁パネル16の下フレーム部19cと案内レール25との間を、幅方向全域にわたって行う。充填された不定形シール材41は、屋内水密材33で堰き止められる。したがって、このように形成された不定形シール材41は屋内水密材33(一次シール)のバックアップシールとして機能し、横目地からの雨水の浸入を確実に阻止するものとなる。
【0077】
このような各工程を経て、隣棟間の隙間に足場や人が入り込むことなく、建物躯体に、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16が施工され、また各外壁パネル15,16間に形成される縦目地及び横目地のシールも屋内側から全て行われる。なお、詳細な説明は省略するが、屋根17を施工する工程については、第3工程の後、又はそれより前の少なくとも第1工程の終了後に適宜行えばよい。
【0078】
以上説明した建物11の構成及びその施工方法によれば、以下に示す有利な効果が得られる。
【0079】
建物躯体の一部である下階天井梁13及び上階天井梁14に対して下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16が吊り下げ支持され、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16の施工途中では案内レール25に沿って下階天井梁13及び上階天井梁14の長手方向へスライドさせることができる。このスライド移動により下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16を下階天井梁13及び上階天井梁14に対する所定位置に配置することができるため、隣棟間隔の小さい狭小敷地などの足場を設置できないような環境下においても下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16を容易に施工することができる。
【0080】
また、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16は、背景技術で述べたような屋内側から嵌め込むタイプではないため、屋内側において止水処理作業をすることができる。また、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16は吊り下げられた状態となっているため、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16をスライドさせる作業も比較的容易である。さらに、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16を下階天井梁13及び上階天井梁14に対して固定するためには、屋内側よりボルト37,39を挿入して各ウェルドナット36,38に螺合させるだけでよく、固定作業を屋内側で行うことができて隣棟間隔の小さい狭小敷地などの足場を設置できないような環境下においても容易に固定作業を行うことができる。
【0081】
下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16をスライド移動できるようにするためには、新規にハンガー22及び案内レール25を設ければよいため、既存の下階天井梁13、上階天井梁14、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16の構成をそのまま利用することができる。これにより、例えば、狭小空間での作業時にはハンガー22及び案内レール25を取り付け、比較的余裕のある空間での作業時にはそれらを取り付けないものを使用することもできるようになる。したがって、本実施形態のパネル取り付け構造を採用しても建物コストが高騰することを回避することが可能である。また、ハンガー22は下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16の屋内側上端部に設けられているため、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16を非常に安定した状態で案内レール25に吊り下げることができる。
【0082】
案内レール25は平板状の板材をL字状に折り曲げて構成されており、この折り曲げによって水平板部25aと起立板部25bとが形成されることになり、簡単な構成で安価に案内レール25を構築することができる。また、案内レール25は下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16の荷重を支えるものであるが、当該案内レール25が下階天井梁13及び上階天井梁14の上面に設置されるものであるため、案内レール25にかかる荷重を下階天井梁13及び上階天井梁14に効率良く伝達することができ、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16の支持強度を高めることができる。
【0083】
ハンガー22、起立板部25b及び止水シート31には、それぞれボルト37,39が挿通される貫通孔22a,22b,25c,25d,31aを予め形成しておいた。これにより、各ボルト37,39の各ウェルドナット36,38への螺合作業が容易になる。特に、止水シート31にもボルト37を挿通させているため、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16固定作業に伴って止水シート31の立ち上がり面が垂れ下がらないようにする処理も同時に行われることとなる。そして、止水シート31に第2貫通孔31aを予め形成しておくことにより、ボルト37によって強制的に止水シート31を破ることがないため、ボルト37による下階外壁パネル15の固定作業が容易になるばかりか破損による止水シート31の機能低下を抑制することも可能となる。
【0084】
下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16の上面に止水シート31が設けられ、その屋内側端部が上方への立ち上がり面とされることで、下階外壁パネル15と上階外壁パネル16とにより形成される横目地から雨水等が浸入しようとしても止水シート31に受け止められる。そして、止水シート31の立ち上がり面と上階外壁パネル16の屋内側下端部との間に弾性を有する屋内水密材33が圧縮状態で介在されていることから、止水シート31上の水分が仮に上方に吹き上げられたとしても、屋内水密材33によってそれ以上の屋内側への浸入が阻止される。これにより、横目地の止水を容易かつ確実に行うことができる。また、止水シート31の第2貫通孔31aが屋内水密材33よりも上方に形成されているため、横目地からの雨水の浸入に対する止水効果が低下することもない。
【0085】
上階外壁パネル16の下端部には下側ウェルドナット36が溶接等により固定されており、これが止水シート31の立ち上がり面に当接されることから、上階外壁パネル16の下端部が本来の姿勢以上に屋内側へ傾くことがない。そして、この当接位置では屋内水密材33が適度に圧縮された状態となる。さらに、この状態でボルト37により固定される。このように、下側ウェルドナット36は単なる固定手段としてではなく、固定前や固定後における上階外壁パネル16の屋内外方向への位置決め(傾き規制)手段として機能するという利点がある。
【0086】
不定形シール材41を、上階外壁パネル16の下フレーム部19cと案内レール25との間隙へ、屋内側かつ上方より充填するようにした。これにより、不定形シール材41の充填作業を屋内側にて行うことができるとともに、不定形シール材41が屋内水密材33(一次シール)のバックアップシールとして機能し、横目地からの雨水の浸入を確実に阻止することができる。
【0087】
下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16の側面には、上下方向に延びて弾性を有する側面水密材32が取り付けられており、側面水密材32は横に並ぶ下階外壁パネル15又は上階外壁パネル16によって圧縮されている。これにより、下階外壁パネル15又は上階外壁パネル16に横並びさせるだけで、側面水密材32によって縦目地の止水処理を自動的に行うことができる。
【0088】
また、側面水密材32の下端部は上端部よりも屋外側に配置されている。したがって、上階外壁パネル16の側面水密材32に至った水分が当該側面水密材32に沿って流下していっても、最終的に側面水密材32によって水切りされる位置が下階外壁パネル15の側面水密材32の上端部よりも屋外側となる。その結果、上階外壁パネル16の側面水密材32を伝って流下してくる水分が屋内側に浸入することを防止することができる。
【0089】
なお、以上説明した実施の形態に限らず、例えば以下に別例として示した形態で実施することもできる。
【0090】
・上記実施の形態では、建物躯体全体を構築した後に、下階外壁パネル15を順次設置し、その後、上階外壁パネル16を設置するようにしたが、これに代えて、次の施工順序としてもよい。すなわち、まず第1に建物躯体のうち下階部分のみを構築する。この段階で下階天井梁13までの建物躯体が構築される。第2に下階外壁パネル15を設置する。設置要領は上記実施形態と同様である。第3に建物躯体のうち上階部分を構築する。この段階で少なくとも上階天井梁14のところまでの建物躯体が構築される。この段階で全ての軸組構造が構築された状態としてもよいが、少なくとも上階天井梁14までが構築されていればよい。第4に上階外壁パネル16を設置する。このような施工順序とすることにより、下階外壁パネル15の設置の際に上方空間が開けた状態となっているため、施工作業効率が高まるという利点がある。
【0091】
・上記実施の形態では、梁勝ち構造としたが、柱勝ち構造であってもよい。但し、柱勝ち構造の場合には、上記別例で説明したような下階部分のみを先に構築しておき、下階外壁パネルを設置した後に上階部分を構築するという順序で施工することはできないため、上記実施の形態のとおり先に軸組構造(建物躯体)を完成させた後に各外壁パネル15,16の施工をするという順序となる。なお、上記実施の形態では、2階建ての建物11について例示したが、3階以上の複数階の建物に対しても、また1階部分のみしかない建物に対しても、適用することができる。
【0092】
・上記実施の形態では、案内手段として、下階天井梁13及び上階天井梁14に案内レール25を取り付ける一方、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16にハンガー22を取り付ける構成について例示したが、これ以外の案内手段であってもよい。例えば、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16にも幅方向に延びるレール状のハンガーを用いてもよい。また、この場合、案内レール25を長手方向にみて分断したものとして構成してもよい。
【0093】
・上記実施の形態では、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16の固定手段としてウェルドナット36,38及びボルト37,38を用いたが、例えばウェルドナット36,38及びボルト37,38の関係を逆に用いたり、連結ピンを差し込むようにする等の他の固定手段を用いたりしてもよい。但し、いずれも屋内側から固定作業が行えるようにすることが好ましい。
【0094】
・上記実施の形態では、下階外壁パネル15及び上階外壁パネル16によって形成される各縦目地及び横目地の止水のための構成として、止水シート31、水密材32,33、不定形シール材41を用いたが、それ以外の構成により止水処理を施してもよい。例えば、縦目地については、予め側面水密材32を取り付けておくのではなく、施工現場において別途、定形シール又は不定形シールを施工することも可能である。また、横目地については、屋内水密材33を予め止水シート31に固定しておくのではなく、施工現場において別途、定形シール又は不定形シールを施工することも可能である。さらに、縦目地と横目地とのクロス目地部分については、クロス目地役物を使用して止水処理を行うことも可能である。なお、いずれの止水処理についても、下階外壁パネル15又は上階外壁パネル16の設置作業により自動的に行われ、または屋内側から行うことのできる構成であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】一実施形態の建物の一部を示す側面図。
【図2】梁に吊り下げられた外壁パネルを示す斜視図。
【図3】上下両外壁パネルと梁との関係を示す要部側面図。
【図4】建物の一部を示すとともに施工過程の一部を示す斜視図。
【図5】上下両外壁パネルの梁に対する施工順序を示す要部側面図。
【符号の説明】
【0096】
11…建物、12…基礎、13…横架材としての下階天井梁(上階床梁)、14…横架材としての上階天井梁、15…下階外壁パネル、16…上階外壁パネル、17…屋根、18…外壁板、19…フレーム、19a…縦フレーム部、19b…上フレーム部、19c…下フレーム部、21…支持レール、22…案内手段を構成するハンガー、22a…第3貫通孔、22b…第5貫通孔、23…スペーサ、24…フック部、25…案内手段を構成する案内レール、25a…取り付け部としての水平板部、25b…起立板部、25c…第1貫通孔、25d…第4貫通孔、27…ボルト、29…下階柱、31…止水シート、31a…第2貫通孔、32…側面水密材、33…屋内水密材、36…固定手段を構成する下側ウェルドナット、37…固定手段を構成するボルト、38…固定手段を構成する上側ウェルドナット、39…固定手段を構成するボルト、41…不定形シール材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物躯体の横架材に外壁パネルが固定されてなる建物であって、
前記横架材に対して外壁パネルが吊り下げ支持されるとともに、該外壁パネルがその吊り下げ状態で前記横架材の長手方向へスライド可能となるように、前記横架材及び外壁パネルに設けられた案内手段と、
前記案内手段による前記横架材に対する外壁パネルのスライドを阻止して所定位置に固定する固定手段と、
を備えていることを特徴とする建物。
【請求項2】
前記案内手段は、
前記横架材に設けられ、該横架材の延びる方向に沿って延びる案内レールと、
前記外壁パネルの屋内側上端部に設けられ、前記案内レールに引っ掛けられるハンガーと、
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記案内レールは、
前記横架材に取り付けられる取り付け部と、
上方へ起立して上端において前記ハンガーが引っ掛けられる起立板部と、
を備えていることを特徴とする請求項2に記載の建物。
【請求項4】
前記ハンガー及び前記起立板部には屋内外方向に貫通する貫通孔がそれぞれ形成され、屋内側から各貫通孔に挿入されるボルトによって、前記起立板部に前記ハンガーが固定されていることを特徴とする請求項3に記載の建物。
【請求項5】
前記ハンガーは、前記外壁パネルの幅方向に間隔をおいて複数備えられていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の建物。
【請求項6】
建物躯体の横架材に外壁パネルが固定されてなる複数階の建物であって、
前記外壁パネルのうち下階外壁パネルの上面には止水シートが設けられ、該止水シートの屋内側端部は上方へ指向された立ち上がり面とされ、当該立ち上がり面には前記外壁パネルより上階の上階外壁パネルの屋内側下端部との間に弾性を有する屋内水密材が圧縮状態で介在されていることを特徴とする建物。
【請求項7】
前記止水シートには屋内外方向に貫通して少なくとも下階外壁パネルが固定されるボルトが挿通される貫通孔が形成され、当該貫通孔は前記屋内水密材よりも上方に配設されていることを特徴とする請求項6に記載の建物。
【請求項8】
前記上階外壁パネルの屋内側下端部と止水シートの立ち上がり面との間には、前記屋内水密材を下端として不定形シール材が充填されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の建物。
【請求項9】
前記外壁パネルの少なくとも一方の側面には、上下方向に延びて弾性を有する側面水密材が取り付けられており、該側面水密材は横に並ぶ外壁パネルによって圧縮されていることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の建物。
【請求項10】
前記側面水密材の下端部は上端部よりも屋外側に配置されていることを特徴とする請求項9に記載の建物。
【請求項11】
建物躯体の横架材に外壁パネルが固定されてなる建物の建築方法であって、
前記横架材の長手方向に沿って延びるように設けられた案内レールに対して外壁パネルの屋内側上端部に設けたハンガーを吊り下げる吊り下げ工程と、
その吊り下げ状態において前記案内レールに対してハンガーをスライドさせて所定の取り付け位置に配置させる配置工程と、
その取り付け位置において屋内側から案内レールにハンガーを固定する固定工程と、
を備えていることを特徴とする建物の建築方法。
【請求項12】
前記ハンガーは外壁パネルの上端部に取り付けられたものであって、前記配置工程ではハンガーを介して外壁パネルが吊り下げられているのみであり、前記固定工程では、前記ハンガーの固定に加え、外壁パネルの下端部の固定も行うことを特徴とする請求項11に記載の建物の建築方法。
【請求項13】
建物躯体の横架材に外壁パネルが固定されてなる複数階の建物の建築方法であって、
下階天井用の横架材の長手方向に沿って延びるように設けられた案内レールに対して下階外壁パネルに設けたハンガーを吊り下げる吊り下げ工程と、
その吊り下げ状態において前記案内レールに対してハンガーをスライドさせて下階外壁パネルを所定の取り付け位置に配置させる配置工程と、
上階天井用の横架材の長手方向に沿って延びるように設けられた案内レールに対して上
階外壁パネルに設けたハンガーを吊り下げる吊り下げ工程と、
その吊り下げ状態において前記案内レールに対してハンガーをスライドさせて上階外壁パネルを所定の取り付け位置に配置させる配置工程と、
前記各配置工程により前記取り付け位置に配置された上下両外壁パネルの各ハンガーを屋内側から案内レールに固定する固定工程と、
を備えていることを特徴とする建物の建築方法。
【請求項14】
前記建物は梁勝ち構造を有するものであって、
前記下階外壁パネルの吊り下げ工程及び配置工程の前に行われ、建物躯体のうち下階天井梁までを構築する下階躯体形成工程と、
前記下階外壁パネルの吊り下げ工程及び配置工程の後に行われるとともに前記上階外壁パネルの吊り下げ工程の前に行われ、建物躯体のうち下階天井梁より上方に配置される躯体を構築する下階躯体形成工程と、
を備えていることを特徴とする請求項13に記載の建物の建築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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