建物基礎の補強方法及び補強構造
【課題】 既設建物の布基礎につき、布基礎が建物全体を支えている状況のもとで、簡単に低コストで極めて堅固に補強し得る手段を提供する。
【解決手段】 既設の布基礎1の複数箇所で垂直壁部1aの片側側面にアンカー金具2aを介して側打ち用ガイド枠3を固設したのち、隣合う側打ち用ガイド枠3,3間に配筋し、配筋部の前に型枠5を配置し、配筋空間10内にコンクリートを打設することにより、布基礎1の垂直壁部11の片側に一体化した鉄筋コンクリート層6を形成し、各側打ち用ガイド枠3上に杭打ち用ジャッキ7を取り付け、側打ち用ガイド枠3内に配置させた杭材Pを杭打ち用ジャッキ7によって地中の所要深さまで打ち込んだのち、基礎側に取り付けた杭頭抑え具8を杭材の頂端に当接させる。
【解決手段】 既設の布基礎1の複数箇所で垂直壁部1aの片側側面にアンカー金具2aを介して側打ち用ガイド枠3を固設したのち、隣合う側打ち用ガイド枠3,3間に配筋し、配筋部の前に型枠5を配置し、配筋空間10内にコンクリートを打設することにより、布基礎1の垂直壁部11の片側に一体化した鉄筋コンクリート層6を形成し、各側打ち用ガイド枠3上に杭打ち用ジャッキ7を取り付け、側打ち用ガイド枠3内に配置させた杭材Pを杭打ち用ジャッキ7によって地中の所要深さまで打ち込んだのち、基礎側に取り付けた杭頭抑え具8を杭材の頂端に当接させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布基礎を有する既設建物の耐震性や耐久性を向上させるための基礎の補強方法及び補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国では兵庫県南部地震や中越地震を始めとして甚大な被害をもたらす大地震が頻発し、また近い将来に地震災害の発生が想定される地域も多くあるが、人的被害の大半が家屋の崩壊によるものであるため、建物の耐震性を向上させることが必要且つ急務になっている。この点、新築の建物では、建築基準法等の法律面からの強化と、建築業界における耐震技術の進歩により、高水準の耐震性を備えるものが増えつつある。
【0003】
一方、既設建物については、耐震補強そのものの施工率が低い上、その補強対象の殆どが柱や梁、壁等の上部構造であり、基礎の耐震補強まで行わない場合が多かった。これは、建物全体を支えている状況下で基礎を簡単に耐震補強する手段がなく、従来では基礎の造り替え等で工事が大掛かりになって非常に高コストに付くことによる。しかるに、築年の古い木造建物では、布基礎が無筋であったり、鉄筋入りでも鉄筋の腐食やひび割れ、コンクリートの劣化等で脆弱化が進行していることが多い上、長年の内に建物地盤に不等沈下が生じ、その歪みが布基礎にかかって僅かな外力でも破壊し易い状況に陥っている場合も少なくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述の情況に鑑み、建物基礎の補強方法及び補強構造として、既設建物の布基礎につき、該布基礎が建物全体を支えている状況のもとで、簡単に低コストで且つ極めて堅固に補強し得る手段を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る建物基礎の補強方法は、図面の参照符号を付して示せば、既設の布基礎1の複数箇所で垂直壁部1aの片側側面にアンカー金具(ホールインアンカー2a)を介して側打ち用ガイド枠3を固設したのち、隣合う側打ち用ガイド枠3,3間に配筋(鉄筋枠4)すると共に、この配筋部の前に型枠5を配置し、該型枠5と布基礎1の垂直壁部10と両側の側打ち用ガイド枠3,3とに囲われた配筋空間10内にコンクリートを打設することにより、布基礎1の垂直壁部11の片側に一体化した鉄筋コンクリート層6を形成する一方、前記の各側打ち用ガイド枠3上に杭打ち用ジャッキ7を取り付け、該側打ち用ガイド枠3内に配置させた杭材(パイプP)を前記杭打ち用ジャッキ(油圧ジャッキ7)によって地中の所要深さまで打ち込んだのち、基礎側に取り付けた杭頭抑え具8を杭材の頂端に当接させることを特徴としている。
【0006】
請求項2の発明は、上記請求項1の建物基礎の補強方法において、縦断面逆T字形をなす前記布基礎1の下端片側の側方張出部1bを複数箇所で切除し、その各切除位置上方の垂直壁部1aの片側側面に前記側打ち用ガイド枠3…を固設する構成としている。
【0007】
請求項3の発明は、上記請求項1又は2の建物基礎の補強方法において、前記側打ち用ガイド枠3が布基礎1の垂直壁部1aに接合する背板部3aと左右側板部3b,3bとで横断面略コ字形をなし、その左右側板部3b,3bの各前端に型枠取付用ボルト32…が植設され、この型枠取付用ボルト32を前記型枠5に設けた長孔51に通して外側からナット35で緊締することにより、該型枠5を側打ち用ガイド枠3に仮止め固定する構成としている。
【0008】
請求項4の発明は、上記請求項1〜3のいずれかの建物基礎の補強方法において、前記側打ち用ガイド枠3に左右両側へ張出する鉄筋棒31…が植設され、これら鉄筋棒31…を前記の鉄筋コンクリート層6中に埋入させる構成としている。
【0009】
請求項5の発明は、上記請求項4の建物基礎の補強方法において、前記側打ち用ガイド枠3の鉄筋棒31…に前記配筋の鉄筋を繋ぎ留める構成としている。
【0010】
請求項6の発明は、上記請求項1〜5のいずれかの建物基礎の補強方法において、前記側打ち用ガイド枠3の左右両側位置で上端ねじ部34aが突出するように、前記の打設するコンクリート中にアンカーボルト34,34を埋設し、その上端ねじ部34a,34aに前記杭打ち用ジャッキの受け枠9をねじ止めして杭打ちしたのち、該受け枠9を外した同上端ねじ部34a,34aに前記杭頭抑え具8をねじ止めする構成としている。
【0011】
請求項7の発明は、上記請求項1〜6のいずれかの建物基礎の補強方法において、杭材が一端側に雄ねじn1を有して他端側に雌ねじn2を有するパイプPからなり、その雄ねじn1と雌ねじn2との螺合によって複数本のパイプP…を継ぎ足しつつ所要深さまで杭打ちする構成としている。
【0012】
一方、本発明の請求項8に係る建物基礎の補強構造は、既設の布基礎1における垂直壁部1aの片側側面の複数箇所に、アンカー金具2…を介して側打ち用ガイド枠3…が固設され、隣合う側打ち用ガイド枠3,3間に、配筋とコンクリート打設による鉄筋コンクリート層6が前記垂直壁部1aに密接状態で形成されると共に、各側打ち用ガイド枠3の内側位置で地中に所定深さまで杭材(パイプP)が打ち込まれ、側打ち用ガイド枠3側に取り付けた杭頭抑え具8が該杭材の頂端に当接されてなるものとしている。
【0013】
請求項9の発明は、上記請求項8の建物基礎の補強構造において、前記杭頭抑え具8が、基礎側に固着される支持体8aと、この支持体8aに垂設したねじ軸81に螺合して昇降する昇降部材8bと、地中に打ち込まれた杭材の頂端に冠着するキャップ8cとからなり、昇降部材8bを下降させてキャップ8cに押圧することにより、該キャップ8cを杭材の頂端に圧接するように構成されている。
【0014】
請求項10の発明は、上記請求項8又は9の建物基礎の補強構造において、既設の布基礎1の垂直壁部1aと新設の鉄筋コンクリート層6とが、前記垂直壁部1aに植設されたアンカー金具(ホールインアンカー2b)を介して一体化されてなるものとしている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る建物基礎の補強方法によれば、既設建物における布基礎の垂直壁部の片側に鉄筋コンクリート層を一体的に設けることにより、当該布基礎自体の強度が大幅に増強されると共に、建物荷重を該布基礎の複数箇所において側方に打ち込んだ杭材を介して地中の支持層に支承させるから、地盤の不等沈下等による布基礎の歪みが解消され、該布基礎全体で均等に負荷を受ける形になり、耐震性及び耐久性が著しく向上する。しかも、この補強方法では、既存の布基礎が建物全体を支えている状況のもとで、該布基礎の複数箇所にアンカー金具を介して側打ち用ガイド枠を固設し、この布基礎を背面側の型枠に利用して前記鉄筋コンクリート層を形成し、また各側打ち用ガイド枠を利用して杭打ち用ジャッキにより杭打ちを行うと共に、打ち込んだ杭材に荷重を支承させるための杭頭抑え具を基礎側に取り付けるようにしているから、布基礎を部分的にでも造り替える場合に比較し、補強工事が極めて簡単になり、施工に要する手間及び時間が格段に軽減される上、施工コストも大幅に低減される。
【0016】
請求項2の発明によれば、上記の補強方法において、縦断面逆T字形をなす布基礎の側方張出部を複数箇所で切除し、その切除位置に側打ち用ガイド枠を設けることから、布基礎に近接した位置で杭打ちを行え、それだけ布基礎に加わる荷重を杭材に支承させ易くなると共に、側打ち用ガイド枠及び補強の鉄筋コンクリート層を布基礎の側方張出部の張出範囲に納め、もって建物基礎部の外観体裁を良くすることができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、上記の補強方法において、コンクリートの打設の際、側打ち用ガイド枠の左右側板部の型枠取付用ボルトを利用した型枠をねじ止めできるから、該型枠の仮止めと取外しの操作が容易になり、また仮止め時の型枠を長孔の範囲で位置調整可能となる。
【0018】
請求項4の発明によれば、上記の補強方法において、側打ち用ガイド枠の左右両側へ張出する鉄筋棒を補強の鉄筋コンクリート層中に埋入させることから、側打ち用ガイド枠が両側の鉄筋コンクリート層と強固に一体化し、もってより高い補強効果が得られる。
【0019】
請求項5の発明によれば、上記の補強方法において、側打ち用ガイド枠の左右両側へ張出する鉄筋棒に配筋の鉄筋を繋ぎ留めることから、配筋の位置決め及び固定の操作が非常に容易になり,配筋作業性が大幅に向上する。
【0020】
請求項6の発明によれば、上記の補強方法において、側打ち用ガイド枠の左右両側で前記鉄筋コンクリート層中にアンカーボルトを埋設し、その上方へ突出させた上端ねじ部を利用し、杭打ち用ジャッキの受け枠の着脱と、杭打ち後の杭頭抑え具の取り付けを行うから、該受け枠及び杭頭抑え具の取付部の構造が非常に簡素になると共に、特に杭頭抑え具がアンカーボルトを介して鉄筋コンクリート層に強固に保持されるため、杭材への荷重負荷部分に高い信頼性及び耐久性が得られる。
【0021】
請求項7の発明によれば、上記の補強方法において、パイプ製の杭材を端部同士の螺合によって継ぎ足しつつ杭打ちすることから、個々の杭材として短いものを使用できると共に、杭材の先端が開放した状態で地中に進入することにより、その内側への土の入り込みで排土量が少なくなり、それだけ小さい圧入力で杭打ちが可能になり、もって杭打ち用ジャッキとして推進ストロークが短くトルクの小さい小型のものを使用できる。
【0022】
請求項8の発明に係る建物基礎の補強構造では、既設の布基礎における垂直壁部の片側側面の複数箇所に、アンカー金具を介して側打ち用ガイド枠が固設され、隣合う側打ち用ガイド枠間に、配筋とコンクリート打設による鉄筋コンクリート層が前記垂直壁部に密接状態で形成され、各側打ち用ガイド枠の内側位置で地中に所定深さまで杭材が打ち込まれ、基礎側に取り付けた杭頭抑え具が該杭材の頂端に当接されていることから、布基礎自体の強度が大幅に増強されると共に、建物荷重を該布基礎の複数箇所で杭材を介して地中の支持層に支承され、地盤の不等沈下等による布基礎の歪みが解消され、該布基礎全体で均等に負荷を受ける形になって耐震性及び耐久性が著しく向上する上、既存の布基礎を造り変えることなく、該布基礎が建物全体を支えている状況のもとで、容易に低コストで補強工事を行える。
【0023】
請求項9の発明によれば、上記の補強構造において、杭頭抑え具の昇降部材を下降させてキャップに押圧させ、もって該キャップを杭材の頂端に圧接することにより、布基礎に加わる建物荷重の負荷を確実に杭材に担わせることができる。しかして、昇降部材は回転するだけで支持体のねじ軸との螺合深さが変化して昇降するから、その昇降操作を容易に行えると共に、杭材の頂端位置の違いにも支障なく対応できる。
【0024】
請求項10の発明によれば、上記の補強構造において、既設の布基礎の垂直壁部と新設の鉄筋コンクリート層とがアンカー金具を介して一体化されているから、基礎全体としての強度がより確実に増大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明に係る建物基礎の補強方法及び補強構造の一実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。図1〜図9は当該補強方法を初期から順に段階的に示している。
【0026】
図1(A)〜(C)は補強に取りかかった既設建物の基礎部分を示す。図中の1は無筋コンクリート製の布基礎であり、垂直壁部1aと下端両側の側方張出部1b,1bとから縦断面逆T字形をなし、底面が栗石S上に載った状態で下半部を地中Gに埋設している。そして、この布基礎1の垂直壁部1aの頂面上には角木からなる土台Dが配置すると共に、該土台Dの要所に柱Hが立設されている。なお、一般的な木造住宅では、布基礎1の高さは400〜1000mm程度、側方張出部1bは張出幅100〜300mm程度で上下幅80〜300程度である。
【0027】
この補強方法では、まず図1(A)〜(C)に示すように、布基礎1の屋外側の土砂を堀り起こし、露呈した片方の側方張出部1bを露呈させた上で、この側方張出部1bを該布基礎1の長手方向に沿う複数箇所(ここでは各柱Hからやや外れた位置)で切除し、各切除部Rにおいて垂直壁部1aの屋外側面が基礎下端まで続く形にする。なお、切除部Rの布基礎長手方向に沿う幅は、200〜600mm程度であり、狭過ぎては後述する杭材として充分な太さのものを使用できず、逆に広過ぎては後述する鉄筋コンクリート層の施工域の縮小で補強効果が不充分になる上に切除作業にも無駄な手間と時間を費やすことになる。
【0028】
次に、図2に示すように、垂直壁部1aの屋外側面に、アンカー金具として、各切除部Rの上方域では上下左右の4箇所にホールインアンカー2a…を、隣合う切除部R,R間の各上方域では上側2箇所と下側2箇所で互いに上下方向にはずれた4箇所にホールインアンカー2b…を、それぞれ打設する。そして、この垂直壁部1aの屋外側面における各切除部Rの上方域には、図3(A)(B)に示すように、上下左右のホールインアンカー2a…を利用して側打ち用ガイド枠3を固設する。
【0029】
この側打ち用ガイド枠3は、図10で詳細に示すように、背板部3aと左右側板部3b,3bとで横断面略コ字形をなす縦長の枠体を形成しており、背板部3aの四隅には各ホールインアンカー2aに対応した取付孔30を有すると共に、左右側板部3b,3bには上中下3箇所で左右両側へ張出する鉄筋棒31…が植設されている。また、左右側板部3b,3bには、各前端には上下方向全長にわたる長さの帯状片3cが、同各上端には矩形片3dがそれぞれ左右両側へ張出するように固着されており、各帯状片3cの上中下3箇所に前方へ突出する型枠取付用ボルト32が植設されると共に、各矩形片3dの中央部にボルト挿通孔33が穿設されている。そして、各矩形片3dには、それぞれ下端部34bを円弧状に曲げたアンカーボルト34が、ボルト挿通孔33に下側から挿入した上端ねじ部34aを上方へ突出した状態で固着される。
【0030】
なお、これらの側打ち用ガイド枠3を構成する各部材は、アンカーボルト34を含めていずれも鉄鋼等の金属製であり、溶接によって相互に固着されている。また、この側打ち用ガイド枠3の寸法と取付位置は、図3(A)(B)に示すように、背板部3a及び左右側板部3b,3bの上端が垂直壁部1aの頂端に略合致すると共に、同下端が側方張出部1bの上面高さに略合致するように設定されている。
【0031】
布基礎1に側打ち用ガイド枠3…を取り付けたのち、図4に示すように、隣合う側打ち用ガイド枠3,3間に鉄筋枠4を配置する。この鉄筋枠4は、平行する上中下の横筋4aと一定間隔置きに配列する縦筋4bとを溶接した格子枠状をなし、前記配置状態で各横筋4aが両側で側打ち用ガイド枠3の鉄筋棒31と重なるように設定されており、その重なった部分で図5(B)の如く針金41で繋ぎ留めると共に、布基礎1の垂直壁部1aに植設したホールインアンカー2b…に上下の横筋4aを溶接することにより、布基礎1の屋外側の側方張出部1b上で垂直壁部1aから離間した位置に直立状態に固定される。
【0032】
次に、図5(A)(B)に示すように、隣合う側打ち用ガイド枠3,3間に型枠5を仮止めすることにより、布基礎1の側方張出部1b上に、垂直壁部1aと該型枠5と両側の側打ち用ガイド枠3,3の側板部3b,3bとで囲まれた配筋空間10を構成し、この配筋空間10にコンクリートを打設する。ここで、型枠5は、横長矩形で背面側に周縁を含む縦横の補強リブ5aを有する硬質合成樹脂形成板からなり、両端部の上中下3箇所に横方向の長孔51を有しており、各長孔51に側打ち用ガイド枠3の型枠取付用ボルト32を挿通して、該ボルト32に外側からナット35を螺合緊締することにより、両側の側打ち用ガイド枠3,3に止着される。
【0033】
配筋空間10に打設したコンクリートが充分に硬化するまで5〜7日程度の養生後、型枠5…を取り外せば、図6に示すように、布基礎1の屋外側の側方張出部1b上に、垂直壁部1aと同高さの鉄筋コンクリート層6が形成されている。しかして、この鉄筋コンクリート層6と垂直壁部1aとは、相互に密着すると共に、垂直壁部1aに植設したホールインアンカー2b…を介して一体化している。なお、型枠5の取外し後の型枠取付用ボルト32…は、必要とあらばミッパー等によって切除される。
【0034】
かくして鉄筋コンクリート層6を形成したのち、図7に示すように、側打ち用ガイド枠3の上に後述する杭打ち用ジャッキ(油圧ジャッキ7…図8参照)の受け枠9を取り付ける。この受け枠9は、図11で詳細に示すように、背板部9aと左右側板部9b,9bとで構成する縦長のコ字形枠の上部に、上下2段の水平板9c,9d間の中央に縦板9dを介在させたジャッキ受け部90を備えると共に、左右側板部9b,9bの下端から互いに左右外側へ張出する矩形の取付片9e,9eを有し、各取付片9eの中央にボルト挿通孔91が穿設されている。そして、この受け枠9と側打ち用ガイド枠3とは、コ字形の横断形状が合致し、前者を後者の上に載せた際、前者の各矩形片3d上に後者の取付片9fが重なり、そのボルト挿通孔91にアンカーボルト34の上向き突出した上端ねじ部34aが挿通するように設定されており、この上端ねじ部34aに上方からナット36を螺合緊締することにより、図7の如く相互に連結される。
【0035】
次に、図8(A)(B)に示すように、側打ち用ガイド枠3の内側に杭材のパイプPを配置すると共に、このパイプPの上端と受け枠9のジャッキ受け部90との間に杭打ち用ジャッキとしての油圧ジャッキ7を配置し、布基礎1の切除部Rにおいて、該油圧ジャッキ7によってパイプPの杭打ちを行う。なお、図中の71は油圧ジャッキ7の押圧ロッド7aとパイプPの上端との間に介在させた当板である。
【0036】
ここで杭材のパイプPは、直径60〜200mm、肉厚4〜10mm程度、長さが布基礎1の高さと同程度か、該高さよりもやや短い鋼管からなるが、図8(C)に示すように、両端部には角ねじ形態の雄ねじn1と雌ねじn2がそれぞれ形成されており、これら雄ねじn1と雌ねじn2の螺合によって複数本を順次継ぎ足しながら、地中Gの支持層に達する深さまで打ち込まれる。
【0037】
このようにして各切除部Rでの杭打ちが終了すれば、油圧ジャッキ7及び受け枠9を取外し、図9(A)(B)に示すように、各側打ち用ガイド枠3に杭頭抑え具8を取り付ける。この杭頭抑え具8は、矩形の厚板80の下面に3本のねじ軸81を略正三角形頂点となる配置で垂設した支持体8aと、その各ねじ軸81に上端ナット部82で螺合した3本の筒状の昇降部材8bと、短円筒状の周壁83に円形上板部84を固着したキャップ8cとで構成されている。
【0038】
しかして、この杭頭抑え具8は、打ち込まれたパイプPの頂端にキャップ8cを冠着する一方、予め各ねじ軸81に昇降部材8bを深く螺合させた支持体8aの厚板80を側打ち用ガイド枠3上に載置し、該厚板80の左右に設けた各ボルト挿通孔(図示省略)にアンカーボルト34の上端ねじ部34aを挿通させ、この上端ねじ部34aに上方からナット37を螺合緊締することにより、支持体8aを基礎側に固着する。次いで、各昇降部材8bを回転操作して下降させ、その下端をキャップ8cに押圧させ、もって該キャップ8cの円形上板部84をパイプPの頂端に圧接させる。そして最後に、掘り起こしていた布基礎1の屋外側に土砂を埋め戻し、図9(A)〜(C)で示す補強完了状態とする。
【0039】
このような補強構造によれば、既設の布基礎1が脆弱な無筋のコンクリートであっても、その垂直壁部1aの屋外側に鉄筋コンクリート層6が一体的に設けられるため、当該布基礎1自体の強度が大幅に増強されると共に、建物荷重が該布基礎1の複数箇所において側方に打ち込んだ杭材のパイプP…を介して地中Gの支持層に支承されるから、地盤の不等沈下等による布基礎1の歪みが解消され、該布基礎1全体で均等に負荷を受ける形になり、耐震性及び耐久性が著しく向上する。
【0040】
しかして、補強の鉄筋コンクリート層6は杭打ち部分で途切れる形になるが、各杭打ち部分に介在する側打ち用ガイド枠3が左右両側へ張出する鉄筋棒31…を備え、これら鉄筋棒31…が両側の鉄筋コンクリート層6,6に埋入することから、屋外側の補強部分が鉄筋で連綿と繋がって強固に一体化したものとなり、より大きな補強効果が得られる。更に、この補強構造では、既設の布基礎1の垂直壁部1aと新設の鉄筋コンクリート層6とがホールインアンカー2b…を介して一体化されているから、基礎全体としての強度がより確実に増大する。
【0041】
また、上記の補強構造では、杭頭抑え具8の昇降部材8bを下降させてキャップ8cに押圧させ、もって該キャップ8cを杭材のパイプPの頂端に圧接するようにしているから、布基礎1に加わる建物荷重の負荷を確実に該パイプPに担わせることができる。しかして、昇降部材8bは回転させるだけで昇降するから、その昇降操作を容易に行えると共に、パイプPの頂端位置の違いにも支障なく対応できる上、経時的な地盤の変化等で一部のパイプPに対する圧接度合が変化したり、キャップ8cと昇降部材8bとの間に隙間を生じるようなことがあっても、昇降部材8bの昇降調整によって適切な圧接状態に容易に復帰させることができる。更に、側打ち用ガイド枠3の左右両側で鉄筋コンクリート層6中に埋設したアンカーボルト34の上端ねじ部34aを利用し、油圧ジャッキ7の受け枠9の着脱と、杭打ち後の杭頭抑え具8の取り付けを行うようにしているから、該受け枠9及び杭頭抑え具8の取付部の構造が非常に簡素になると共に、最終的な補強形態において杭頭抑え具8が該アンカーボルト34を介して鉄筋コンクリート層6に強固に保持され、もってパイプPへの荷重負荷部分に高い信頼性及び耐久性が得られる
【0042】
なお、本実施形態では、縦断面逆T字形をなす布基礎1の側方張出部1bを複数箇所で切除し、その切除位置に側打ち用ガイド枠3を設けているから、布基礎1に近接した位置で杭打ちを行え、それだけ布基礎1に加わる荷重を杭材のパイプPに支承させ易くなると共に、側打ち用ガイド枠3及び補強の鉄筋コンクリート層6が布基礎1の側方張出部1bの張出範囲に納まるから、建物基礎部の外観体裁も良好となる。
【0043】
一方、この補強方法では、既存の布基礎1が建物全体を支えている状況のもとで、該布基礎1の複数箇所にホールインアンカー2a…を介して側打ち用ガイド枠3を固設し、この布基礎1を背面側の型枠に利用して前記鉄筋コンクリート層6を形成し、また各側打ち用ガイド枠3を利用して油圧ジャッキ7により杭打ちを行うと共に、打ち込んだ杭材のパイプP…に荷重を支承させるための杭頭抑え具8を基礎側に取り付けるようにしているから、布基礎1を部分的にでも造り替える場合に比較し、補強工事が極めて簡単になり、施工に要する手間及び時間が格段に軽減される上、施工コストも大幅に低減され、工事に伴う建物への悪影響も殆ど回避できる。
【0044】
また、本実施形態においては、側打ち用ガイド枠3の左右両側へ張出する鉄筋棒31…に配筋の鉄筋枠4を繋ぎ留めることから、配筋の位置決め及び固定の操作が非常に容易になり、配筋作業性が大幅に向上する上、配筋空間10へのコンクリートの打設の際、側打ち用ガイド枠3の左右側板部3b,3bの型枠取付用ボルト32…を利用して型枠5をねじ止めできるから、該型枠5の仮止めと取外しの操作が容易になり、また仮止め時の型枠5を長孔51の範囲で位置調整できるという利点がある。更に、杭材のパイプPを継ぎ足しつつ杭打ちすることから、個々のパイプPとして短いものを使用できると共に、杭先端が開放した状態で地中に進入することにより、内側への土の入り込みで排土量が少なくなり、それだけ小さい圧入力で杭打ちが可能になり、もって杭打ち用ジャッキとして推進ストロークが短くトルクの小さい小型のものを使用でき、施工コストの低減に繋がる。
【0045】
なお、前記実施形態では杭材のパイプPを端部同士の螺合連結で継ぎ足すようにしているが、その継ぎ足しのために溶接やビス止め等の他のパイプ継手も採用可能である。例えば後者のビス止めでは、パイプPの端部同士の突き合わせ部分の内側又は外側に短筒材等の連結用部材を介在させ、この連結用部材と上下の両パイプPの端部とを貫通してビス止めする方法や、パイプPの端部同士の突き合わせ部分の内側に短筒材を介在させ、上下の両パイプPの端部に螺入したビスの先端を内側の短筒材に圧接させる方法を採用できる。しかして、螺合連結では、溶接やビス止めに比較して手間がかからず、作業能率がよいという利点がある。一方、溶接やビス止めでは、パイプ端部のねじ加工が不要であるから、該パイプとして安価なものを使用できるという利点がある。
【0046】
また、前記実施形態の補強完了状態では杭頭抑え具8のキャップ8cをパイプPの頂端に直接に冠着しているが、耐震対策として、パイプPの頂端にゴムの如き減振材(制振材)と金属板との積層体を配置し、この積層体を介して杭頭抑え具8のキャップ8cの如き抑え部分を当接する構成としてもよい。更に、前記実施形態の補強完了状態では側打ち用ガイド枠3の上部が図9(A)(B)の如く外側へ開放しているが、耐震対策の面からは、該側打ち用ガイド枠3の上部前面側を適当な板材で塞ぎ、その内側に砂等の充填材を詰めたりコンクリートを打設して、杭頭抑え具8によるパイプ頂端の抑え部分を埋め込むのがよい。
【0047】
更に、実施形態では布基礎1の垂直壁部1aへの側打ち用ガイド枠3の固着と新設の鉄筋コンクリート層6との一体化のためにホールインアンカー2a,2bを用いているが、本発明では同様目的で他の種々のアンカー金具を使用できる。また、杭打ち用ジャッキとしては、油圧以外の駆動機構を利用したものも使用可能である。その他、本発明においては、側打ち用ガイド枠3や受け枠9の構造、配筋の鉄筋材の形態、杭頭抑え具8の構造等、細部構成については実施形態以外に種々設計変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係る建物基礎の補強方法において既設の布基礎の側方張出部に切除部Rを設けた第1段階を示し、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は(A)のイ−イ線の断面矢視図である。
【図2】同補強方法において布基礎の垂直壁部にホールインアンカーを打設した第2段階を示す正面図である。
【図3】同補強方法において布基礎の垂直壁部に側打ち用ガイド枠を固設した第3段階を示し、(A)は正面図、(B)は(A)のロ−ロ線の断面矢視図である。
【図4】同補強方法において布基礎の屋外側に配筋を行った第4段階を示す正面図である。
【図5】同補強方法において布基礎の配筋部の前に型枠を仮止めした第5段階を示し、(A)は正面図、(B)は(A)のハ−ハ線の断面矢視図である。
【図6】同補強方法において布基礎の屋外側に鉄筋コンクリート層を形成した第6段階を示す縦断側面図である。
【図7】同補強方法において側打ち用ガイド枠上に油圧ジャッキの受け枠を取り付けた第7段階を示す正面図である。
【図8】同補強方法において油圧ジャッキによる杭打ちを行う第8段階を示し、(A)は正面図、(B)は縦断側面図、(C)は杭材のパイプの継ぎ足し部分の一部破断正面図である。
【図9】同補強方法における補強完了段階を示し、(A)はは正面図、(B)は(A)のニ−ニ線の断面矢視図、(C)は(A)のホ−ホ線の断面矢視図である。
【図10】同補強方法に用いる側打ち用ガイド枠の斜視図である。
【図11】同補強方法に用いる油圧ジャッキの受け枠の斜視図である。
【符号の説明】
【0049】
1 布基礎
1a 垂直壁部
1b 側方張出部
2a,2b ホールインアンカー(アンカー金具)
3 側打ち用ガイド枠
3a 背板部
3b 側板部
31 鉄筋棒
32 型枠取付用ボルト
34 アンカーボルト
34a 上端ねじ部
35,36 ナット
4 鉄筋枠(鉄筋)
5 型枠
51 長孔
6 鉄筋コンクリート層
7 油圧ジャッキ(杭打ち用ジャッキ)
8 杭頭抑え具
8a 支持体
8b 昇降部材
8c キャップ
81 ねじ軸
9 受け枠
G 地中
P パイプ(杭材)
R 切除部
n1 雄ねじ
n2 雌ねじ
【技術分野】
【0001】
本発明は、布基礎を有する既設建物の耐震性や耐久性を向上させるための基礎の補強方法及び補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国では兵庫県南部地震や中越地震を始めとして甚大な被害をもたらす大地震が頻発し、また近い将来に地震災害の発生が想定される地域も多くあるが、人的被害の大半が家屋の崩壊によるものであるため、建物の耐震性を向上させることが必要且つ急務になっている。この点、新築の建物では、建築基準法等の法律面からの強化と、建築業界における耐震技術の進歩により、高水準の耐震性を備えるものが増えつつある。
【0003】
一方、既設建物については、耐震補強そのものの施工率が低い上、その補強対象の殆どが柱や梁、壁等の上部構造であり、基礎の耐震補強まで行わない場合が多かった。これは、建物全体を支えている状況下で基礎を簡単に耐震補強する手段がなく、従来では基礎の造り替え等で工事が大掛かりになって非常に高コストに付くことによる。しかるに、築年の古い木造建物では、布基礎が無筋であったり、鉄筋入りでも鉄筋の腐食やひび割れ、コンクリートの劣化等で脆弱化が進行していることが多い上、長年の内に建物地盤に不等沈下が生じ、その歪みが布基礎にかかって僅かな外力でも破壊し易い状況に陥っている場合も少なくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述の情況に鑑み、建物基礎の補強方法及び補強構造として、既設建物の布基礎につき、該布基礎が建物全体を支えている状況のもとで、簡単に低コストで且つ極めて堅固に補強し得る手段を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る建物基礎の補強方法は、図面の参照符号を付して示せば、既設の布基礎1の複数箇所で垂直壁部1aの片側側面にアンカー金具(ホールインアンカー2a)を介して側打ち用ガイド枠3を固設したのち、隣合う側打ち用ガイド枠3,3間に配筋(鉄筋枠4)すると共に、この配筋部の前に型枠5を配置し、該型枠5と布基礎1の垂直壁部10と両側の側打ち用ガイド枠3,3とに囲われた配筋空間10内にコンクリートを打設することにより、布基礎1の垂直壁部11の片側に一体化した鉄筋コンクリート層6を形成する一方、前記の各側打ち用ガイド枠3上に杭打ち用ジャッキ7を取り付け、該側打ち用ガイド枠3内に配置させた杭材(パイプP)を前記杭打ち用ジャッキ(油圧ジャッキ7)によって地中の所要深さまで打ち込んだのち、基礎側に取り付けた杭頭抑え具8を杭材の頂端に当接させることを特徴としている。
【0006】
請求項2の発明は、上記請求項1の建物基礎の補強方法において、縦断面逆T字形をなす前記布基礎1の下端片側の側方張出部1bを複数箇所で切除し、その各切除位置上方の垂直壁部1aの片側側面に前記側打ち用ガイド枠3…を固設する構成としている。
【0007】
請求項3の発明は、上記請求項1又は2の建物基礎の補強方法において、前記側打ち用ガイド枠3が布基礎1の垂直壁部1aに接合する背板部3aと左右側板部3b,3bとで横断面略コ字形をなし、その左右側板部3b,3bの各前端に型枠取付用ボルト32…が植設され、この型枠取付用ボルト32を前記型枠5に設けた長孔51に通して外側からナット35で緊締することにより、該型枠5を側打ち用ガイド枠3に仮止め固定する構成としている。
【0008】
請求項4の発明は、上記請求項1〜3のいずれかの建物基礎の補強方法において、前記側打ち用ガイド枠3に左右両側へ張出する鉄筋棒31…が植設され、これら鉄筋棒31…を前記の鉄筋コンクリート層6中に埋入させる構成としている。
【0009】
請求項5の発明は、上記請求項4の建物基礎の補強方法において、前記側打ち用ガイド枠3の鉄筋棒31…に前記配筋の鉄筋を繋ぎ留める構成としている。
【0010】
請求項6の発明は、上記請求項1〜5のいずれかの建物基礎の補強方法において、前記側打ち用ガイド枠3の左右両側位置で上端ねじ部34aが突出するように、前記の打設するコンクリート中にアンカーボルト34,34を埋設し、その上端ねじ部34a,34aに前記杭打ち用ジャッキの受け枠9をねじ止めして杭打ちしたのち、該受け枠9を外した同上端ねじ部34a,34aに前記杭頭抑え具8をねじ止めする構成としている。
【0011】
請求項7の発明は、上記請求項1〜6のいずれかの建物基礎の補強方法において、杭材が一端側に雄ねじn1を有して他端側に雌ねじn2を有するパイプPからなり、その雄ねじn1と雌ねじn2との螺合によって複数本のパイプP…を継ぎ足しつつ所要深さまで杭打ちする構成としている。
【0012】
一方、本発明の請求項8に係る建物基礎の補強構造は、既設の布基礎1における垂直壁部1aの片側側面の複数箇所に、アンカー金具2…を介して側打ち用ガイド枠3…が固設され、隣合う側打ち用ガイド枠3,3間に、配筋とコンクリート打設による鉄筋コンクリート層6が前記垂直壁部1aに密接状態で形成されると共に、各側打ち用ガイド枠3の内側位置で地中に所定深さまで杭材(パイプP)が打ち込まれ、側打ち用ガイド枠3側に取り付けた杭頭抑え具8が該杭材の頂端に当接されてなるものとしている。
【0013】
請求項9の発明は、上記請求項8の建物基礎の補強構造において、前記杭頭抑え具8が、基礎側に固着される支持体8aと、この支持体8aに垂設したねじ軸81に螺合して昇降する昇降部材8bと、地中に打ち込まれた杭材の頂端に冠着するキャップ8cとからなり、昇降部材8bを下降させてキャップ8cに押圧することにより、該キャップ8cを杭材の頂端に圧接するように構成されている。
【0014】
請求項10の発明は、上記請求項8又は9の建物基礎の補強構造において、既設の布基礎1の垂直壁部1aと新設の鉄筋コンクリート層6とが、前記垂直壁部1aに植設されたアンカー金具(ホールインアンカー2b)を介して一体化されてなるものとしている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る建物基礎の補強方法によれば、既設建物における布基礎の垂直壁部の片側に鉄筋コンクリート層を一体的に設けることにより、当該布基礎自体の強度が大幅に増強されると共に、建物荷重を該布基礎の複数箇所において側方に打ち込んだ杭材を介して地中の支持層に支承させるから、地盤の不等沈下等による布基礎の歪みが解消され、該布基礎全体で均等に負荷を受ける形になり、耐震性及び耐久性が著しく向上する。しかも、この補強方法では、既存の布基礎が建物全体を支えている状況のもとで、該布基礎の複数箇所にアンカー金具を介して側打ち用ガイド枠を固設し、この布基礎を背面側の型枠に利用して前記鉄筋コンクリート層を形成し、また各側打ち用ガイド枠を利用して杭打ち用ジャッキにより杭打ちを行うと共に、打ち込んだ杭材に荷重を支承させるための杭頭抑え具を基礎側に取り付けるようにしているから、布基礎を部分的にでも造り替える場合に比較し、補強工事が極めて簡単になり、施工に要する手間及び時間が格段に軽減される上、施工コストも大幅に低減される。
【0016】
請求項2の発明によれば、上記の補強方法において、縦断面逆T字形をなす布基礎の側方張出部を複数箇所で切除し、その切除位置に側打ち用ガイド枠を設けることから、布基礎に近接した位置で杭打ちを行え、それだけ布基礎に加わる荷重を杭材に支承させ易くなると共に、側打ち用ガイド枠及び補強の鉄筋コンクリート層を布基礎の側方張出部の張出範囲に納め、もって建物基礎部の外観体裁を良くすることができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、上記の補強方法において、コンクリートの打設の際、側打ち用ガイド枠の左右側板部の型枠取付用ボルトを利用した型枠をねじ止めできるから、該型枠の仮止めと取外しの操作が容易になり、また仮止め時の型枠を長孔の範囲で位置調整可能となる。
【0018】
請求項4の発明によれば、上記の補強方法において、側打ち用ガイド枠の左右両側へ張出する鉄筋棒を補強の鉄筋コンクリート層中に埋入させることから、側打ち用ガイド枠が両側の鉄筋コンクリート層と強固に一体化し、もってより高い補強効果が得られる。
【0019】
請求項5の発明によれば、上記の補強方法において、側打ち用ガイド枠の左右両側へ張出する鉄筋棒に配筋の鉄筋を繋ぎ留めることから、配筋の位置決め及び固定の操作が非常に容易になり,配筋作業性が大幅に向上する。
【0020】
請求項6の発明によれば、上記の補強方法において、側打ち用ガイド枠の左右両側で前記鉄筋コンクリート層中にアンカーボルトを埋設し、その上方へ突出させた上端ねじ部を利用し、杭打ち用ジャッキの受け枠の着脱と、杭打ち後の杭頭抑え具の取り付けを行うから、該受け枠及び杭頭抑え具の取付部の構造が非常に簡素になると共に、特に杭頭抑え具がアンカーボルトを介して鉄筋コンクリート層に強固に保持されるため、杭材への荷重負荷部分に高い信頼性及び耐久性が得られる。
【0021】
請求項7の発明によれば、上記の補強方法において、パイプ製の杭材を端部同士の螺合によって継ぎ足しつつ杭打ちすることから、個々の杭材として短いものを使用できると共に、杭材の先端が開放した状態で地中に進入することにより、その内側への土の入り込みで排土量が少なくなり、それだけ小さい圧入力で杭打ちが可能になり、もって杭打ち用ジャッキとして推進ストロークが短くトルクの小さい小型のものを使用できる。
【0022】
請求項8の発明に係る建物基礎の補強構造では、既設の布基礎における垂直壁部の片側側面の複数箇所に、アンカー金具を介して側打ち用ガイド枠が固設され、隣合う側打ち用ガイド枠間に、配筋とコンクリート打設による鉄筋コンクリート層が前記垂直壁部に密接状態で形成され、各側打ち用ガイド枠の内側位置で地中に所定深さまで杭材が打ち込まれ、基礎側に取り付けた杭頭抑え具が該杭材の頂端に当接されていることから、布基礎自体の強度が大幅に増強されると共に、建物荷重を該布基礎の複数箇所で杭材を介して地中の支持層に支承され、地盤の不等沈下等による布基礎の歪みが解消され、該布基礎全体で均等に負荷を受ける形になって耐震性及び耐久性が著しく向上する上、既存の布基礎を造り変えることなく、該布基礎が建物全体を支えている状況のもとで、容易に低コストで補強工事を行える。
【0023】
請求項9の発明によれば、上記の補強構造において、杭頭抑え具の昇降部材を下降させてキャップに押圧させ、もって該キャップを杭材の頂端に圧接することにより、布基礎に加わる建物荷重の負荷を確実に杭材に担わせることができる。しかして、昇降部材は回転するだけで支持体のねじ軸との螺合深さが変化して昇降するから、その昇降操作を容易に行えると共に、杭材の頂端位置の違いにも支障なく対応できる。
【0024】
請求項10の発明によれば、上記の補強構造において、既設の布基礎の垂直壁部と新設の鉄筋コンクリート層とがアンカー金具を介して一体化されているから、基礎全体としての強度がより確実に増大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明に係る建物基礎の補強方法及び補強構造の一実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。図1〜図9は当該補強方法を初期から順に段階的に示している。
【0026】
図1(A)〜(C)は補強に取りかかった既設建物の基礎部分を示す。図中の1は無筋コンクリート製の布基礎であり、垂直壁部1aと下端両側の側方張出部1b,1bとから縦断面逆T字形をなし、底面が栗石S上に載った状態で下半部を地中Gに埋設している。そして、この布基礎1の垂直壁部1aの頂面上には角木からなる土台Dが配置すると共に、該土台Dの要所に柱Hが立設されている。なお、一般的な木造住宅では、布基礎1の高さは400〜1000mm程度、側方張出部1bは張出幅100〜300mm程度で上下幅80〜300程度である。
【0027】
この補強方法では、まず図1(A)〜(C)に示すように、布基礎1の屋外側の土砂を堀り起こし、露呈した片方の側方張出部1bを露呈させた上で、この側方張出部1bを該布基礎1の長手方向に沿う複数箇所(ここでは各柱Hからやや外れた位置)で切除し、各切除部Rにおいて垂直壁部1aの屋外側面が基礎下端まで続く形にする。なお、切除部Rの布基礎長手方向に沿う幅は、200〜600mm程度であり、狭過ぎては後述する杭材として充分な太さのものを使用できず、逆に広過ぎては後述する鉄筋コンクリート層の施工域の縮小で補強効果が不充分になる上に切除作業にも無駄な手間と時間を費やすことになる。
【0028】
次に、図2に示すように、垂直壁部1aの屋外側面に、アンカー金具として、各切除部Rの上方域では上下左右の4箇所にホールインアンカー2a…を、隣合う切除部R,R間の各上方域では上側2箇所と下側2箇所で互いに上下方向にはずれた4箇所にホールインアンカー2b…を、それぞれ打設する。そして、この垂直壁部1aの屋外側面における各切除部Rの上方域には、図3(A)(B)に示すように、上下左右のホールインアンカー2a…を利用して側打ち用ガイド枠3を固設する。
【0029】
この側打ち用ガイド枠3は、図10で詳細に示すように、背板部3aと左右側板部3b,3bとで横断面略コ字形をなす縦長の枠体を形成しており、背板部3aの四隅には各ホールインアンカー2aに対応した取付孔30を有すると共に、左右側板部3b,3bには上中下3箇所で左右両側へ張出する鉄筋棒31…が植設されている。また、左右側板部3b,3bには、各前端には上下方向全長にわたる長さの帯状片3cが、同各上端には矩形片3dがそれぞれ左右両側へ張出するように固着されており、各帯状片3cの上中下3箇所に前方へ突出する型枠取付用ボルト32が植設されると共に、各矩形片3dの中央部にボルト挿通孔33が穿設されている。そして、各矩形片3dには、それぞれ下端部34bを円弧状に曲げたアンカーボルト34が、ボルト挿通孔33に下側から挿入した上端ねじ部34aを上方へ突出した状態で固着される。
【0030】
なお、これらの側打ち用ガイド枠3を構成する各部材は、アンカーボルト34を含めていずれも鉄鋼等の金属製であり、溶接によって相互に固着されている。また、この側打ち用ガイド枠3の寸法と取付位置は、図3(A)(B)に示すように、背板部3a及び左右側板部3b,3bの上端が垂直壁部1aの頂端に略合致すると共に、同下端が側方張出部1bの上面高さに略合致するように設定されている。
【0031】
布基礎1に側打ち用ガイド枠3…を取り付けたのち、図4に示すように、隣合う側打ち用ガイド枠3,3間に鉄筋枠4を配置する。この鉄筋枠4は、平行する上中下の横筋4aと一定間隔置きに配列する縦筋4bとを溶接した格子枠状をなし、前記配置状態で各横筋4aが両側で側打ち用ガイド枠3の鉄筋棒31と重なるように設定されており、その重なった部分で図5(B)の如く針金41で繋ぎ留めると共に、布基礎1の垂直壁部1aに植設したホールインアンカー2b…に上下の横筋4aを溶接することにより、布基礎1の屋外側の側方張出部1b上で垂直壁部1aから離間した位置に直立状態に固定される。
【0032】
次に、図5(A)(B)に示すように、隣合う側打ち用ガイド枠3,3間に型枠5を仮止めすることにより、布基礎1の側方張出部1b上に、垂直壁部1aと該型枠5と両側の側打ち用ガイド枠3,3の側板部3b,3bとで囲まれた配筋空間10を構成し、この配筋空間10にコンクリートを打設する。ここで、型枠5は、横長矩形で背面側に周縁を含む縦横の補強リブ5aを有する硬質合成樹脂形成板からなり、両端部の上中下3箇所に横方向の長孔51を有しており、各長孔51に側打ち用ガイド枠3の型枠取付用ボルト32を挿通して、該ボルト32に外側からナット35を螺合緊締することにより、両側の側打ち用ガイド枠3,3に止着される。
【0033】
配筋空間10に打設したコンクリートが充分に硬化するまで5〜7日程度の養生後、型枠5…を取り外せば、図6に示すように、布基礎1の屋外側の側方張出部1b上に、垂直壁部1aと同高さの鉄筋コンクリート層6が形成されている。しかして、この鉄筋コンクリート層6と垂直壁部1aとは、相互に密着すると共に、垂直壁部1aに植設したホールインアンカー2b…を介して一体化している。なお、型枠5の取外し後の型枠取付用ボルト32…は、必要とあらばミッパー等によって切除される。
【0034】
かくして鉄筋コンクリート層6を形成したのち、図7に示すように、側打ち用ガイド枠3の上に後述する杭打ち用ジャッキ(油圧ジャッキ7…図8参照)の受け枠9を取り付ける。この受け枠9は、図11で詳細に示すように、背板部9aと左右側板部9b,9bとで構成する縦長のコ字形枠の上部に、上下2段の水平板9c,9d間の中央に縦板9dを介在させたジャッキ受け部90を備えると共に、左右側板部9b,9bの下端から互いに左右外側へ張出する矩形の取付片9e,9eを有し、各取付片9eの中央にボルト挿通孔91が穿設されている。そして、この受け枠9と側打ち用ガイド枠3とは、コ字形の横断形状が合致し、前者を後者の上に載せた際、前者の各矩形片3d上に後者の取付片9fが重なり、そのボルト挿通孔91にアンカーボルト34の上向き突出した上端ねじ部34aが挿通するように設定されており、この上端ねじ部34aに上方からナット36を螺合緊締することにより、図7の如く相互に連結される。
【0035】
次に、図8(A)(B)に示すように、側打ち用ガイド枠3の内側に杭材のパイプPを配置すると共に、このパイプPの上端と受け枠9のジャッキ受け部90との間に杭打ち用ジャッキとしての油圧ジャッキ7を配置し、布基礎1の切除部Rにおいて、該油圧ジャッキ7によってパイプPの杭打ちを行う。なお、図中の71は油圧ジャッキ7の押圧ロッド7aとパイプPの上端との間に介在させた当板である。
【0036】
ここで杭材のパイプPは、直径60〜200mm、肉厚4〜10mm程度、長さが布基礎1の高さと同程度か、該高さよりもやや短い鋼管からなるが、図8(C)に示すように、両端部には角ねじ形態の雄ねじn1と雌ねじn2がそれぞれ形成されており、これら雄ねじn1と雌ねじn2の螺合によって複数本を順次継ぎ足しながら、地中Gの支持層に達する深さまで打ち込まれる。
【0037】
このようにして各切除部Rでの杭打ちが終了すれば、油圧ジャッキ7及び受け枠9を取外し、図9(A)(B)に示すように、各側打ち用ガイド枠3に杭頭抑え具8を取り付ける。この杭頭抑え具8は、矩形の厚板80の下面に3本のねじ軸81を略正三角形頂点となる配置で垂設した支持体8aと、その各ねじ軸81に上端ナット部82で螺合した3本の筒状の昇降部材8bと、短円筒状の周壁83に円形上板部84を固着したキャップ8cとで構成されている。
【0038】
しかして、この杭頭抑え具8は、打ち込まれたパイプPの頂端にキャップ8cを冠着する一方、予め各ねじ軸81に昇降部材8bを深く螺合させた支持体8aの厚板80を側打ち用ガイド枠3上に載置し、該厚板80の左右に設けた各ボルト挿通孔(図示省略)にアンカーボルト34の上端ねじ部34aを挿通させ、この上端ねじ部34aに上方からナット37を螺合緊締することにより、支持体8aを基礎側に固着する。次いで、各昇降部材8bを回転操作して下降させ、その下端をキャップ8cに押圧させ、もって該キャップ8cの円形上板部84をパイプPの頂端に圧接させる。そして最後に、掘り起こしていた布基礎1の屋外側に土砂を埋め戻し、図9(A)〜(C)で示す補強完了状態とする。
【0039】
このような補強構造によれば、既設の布基礎1が脆弱な無筋のコンクリートであっても、その垂直壁部1aの屋外側に鉄筋コンクリート層6が一体的に設けられるため、当該布基礎1自体の強度が大幅に増強されると共に、建物荷重が該布基礎1の複数箇所において側方に打ち込んだ杭材のパイプP…を介して地中Gの支持層に支承されるから、地盤の不等沈下等による布基礎1の歪みが解消され、該布基礎1全体で均等に負荷を受ける形になり、耐震性及び耐久性が著しく向上する。
【0040】
しかして、補強の鉄筋コンクリート層6は杭打ち部分で途切れる形になるが、各杭打ち部分に介在する側打ち用ガイド枠3が左右両側へ張出する鉄筋棒31…を備え、これら鉄筋棒31…が両側の鉄筋コンクリート層6,6に埋入することから、屋外側の補強部分が鉄筋で連綿と繋がって強固に一体化したものとなり、より大きな補強効果が得られる。更に、この補強構造では、既設の布基礎1の垂直壁部1aと新設の鉄筋コンクリート層6とがホールインアンカー2b…を介して一体化されているから、基礎全体としての強度がより確実に増大する。
【0041】
また、上記の補強構造では、杭頭抑え具8の昇降部材8bを下降させてキャップ8cに押圧させ、もって該キャップ8cを杭材のパイプPの頂端に圧接するようにしているから、布基礎1に加わる建物荷重の負荷を確実に該パイプPに担わせることができる。しかして、昇降部材8bは回転させるだけで昇降するから、その昇降操作を容易に行えると共に、パイプPの頂端位置の違いにも支障なく対応できる上、経時的な地盤の変化等で一部のパイプPに対する圧接度合が変化したり、キャップ8cと昇降部材8bとの間に隙間を生じるようなことがあっても、昇降部材8bの昇降調整によって適切な圧接状態に容易に復帰させることができる。更に、側打ち用ガイド枠3の左右両側で鉄筋コンクリート層6中に埋設したアンカーボルト34の上端ねじ部34aを利用し、油圧ジャッキ7の受け枠9の着脱と、杭打ち後の杭頭抑え具8の取り付けを行うようにしているから、該受け枠9及び杭頭抑え具8の取付部の構造が非常に簡素になると共に、最終的な補強形態において杭頭抑え具8が該アンカーボルト34を介して鉄筋コンクリート層6に強固に保持され、もってパイプPへの荷重負荷部分に高い信頼性及び耐久性が得られる
【0042】
なお、本実施形態では、縦断面逆T字形をなす布基礎1の側方張出部1bを複数箇所で切除し、その切除位置に側打ち用ガイド枠3を設けているから、布基礎1に近接した位置で杭打ちを行え、それだけ布基礎1に加わる荷重を杭材のパイプPに支承させ易くなると共に、側打ち用ガイド枠3及び補強の鉄筋コンクリート層6が布基礎1の側方張出部1bの張出範囲に納まるから、建物基礎部の外観体裁も良好となる。
【0043】
一方、この補強方法では、既存の布基礎1が建物全体を支えている状況のもとで、該布基礎1の複数箇所にホールインアンカー2a…を介して側打ち用ガイド枠3を固設し、この布基礎1を背面側の型枠に利用して前記鉄筋コンクリート層6を形成し、また各側打ち用ガイド枠3を利用して油圧ジャッキ7により杭打ちを行うと共に、打ち込んだ杭材のパイプP…に荷重を支承させるための杭頭抑え具8を基礎側に取り付けるようにしているから、布基礎1を部分的にでも造り替える場合に比較し、補強工事が極めて簡単になり、施工に要する手間及び時間が格段に軽減される上、施工コストも大幅に低減され、工事に伴う建物への悪影響も殆ど回避できる。
【0044】
また、本実施形態においては、側打ち用ガイド枠3の左右両側へ張出する鉄筋棒31…に配筋の鉄筋枠4を繋ぎ留めることから、配筋の位置決め及び固定の操作が非常に容易になり、配筋作業性が大幅に向上する上、配筋空間10へのコンクリートの打設の際、側打ち用ガイド枠3の左右側板部3b,3bの型枠取付用ボルト32…を利用して型枠5をねじ止めできるから、該型枠5の仮止めと取外しの操作が容易になり、また仮止め時の型枠5を長孔51の範囲で位置調整できるという利点がある。更に、杭材のパイプPを継ぎ足しつつ杭打ちすることから、個々のパイプPとして短いものを使用できると共に、杭先端が開放した状態で地中に進入することにより、内側への土の入り込みで排土量が少なくなり、それだけ小さい圧入力で杭打ちが可能になり、もって杭打ち用ジャッキとして推進ストロークが短くトルクの小さい小型のものを使用でき、施工コストの低減に繋がる。
【0045】
なお、前記実施形態では杭材のパイプPを端部同士の螺合連結で継ぎ足すようにしているが、その継ぎ足しのために溶接やビス止め等の他のパイプ継手も採用可能である。例えば後者のビス止めでは、パイプPの端部同士の突き合わせ部分の内側又は外側に短筒材等の連結用部材を介在させ、この連結用部材と上下の両パイプPの端部とを貫通してビス止めする方法や、パイプPの端部同士の突き合わせ部分の内側に短筒材を介在させ、上下の両パイプPの端部に螺入したビスの先端を内側の短筒材に圧接させる方法を採用できる。しかして、螺合連結では、溶接やビス止めに比較して手間がかからず、作業能率がよいという利点がある。一方、溶接やビス止めでは、パイプ端部のねじ加工が不要であるから、該パイプとして安価なものを使用できるという利点がある。
【0046】
また、前記実施形態の補強完了状態では杭頭抑え具8のキャップ8cをパイプPの頂端に直接に冠着しているが、耐震対策として、パイプPの頂端にゴムの如き減振材(制振材)と金属板との積層体を配置し、この積層体を介して杭頭抑え具8のキャップ8cの如き抑え部分を当接する構成としてもよい。更に、前記実施形態の補強完了状態では側打ち用ガイド枠3の上部が図9(A)(B)の如く外側へ開放しているが、耐震対策の面からは、該側打ち用ガイド枠3の上部前面側を適当な板材で塞ぎ、その内側に砂等の充填材を詰めたりコンクリートを打設して、杭頭抑え具8によるパイプ頂端の抑え部分を埋め込むのがよい。
【0047】
更に、実施形態では布基礎1の垂直壁部1aへの側打ち用ガイド枠3の固着と新設の鉄筋コンクリート層6との一体化のためにホールインアンカー2a,2bを用いているが、本発明では同様目的で他の種々のアンカー金具を使用できる。また、杭打ち用ジャッキとしては、油圧以外の駆動機構を利用したものも使用可能である。その他、本発明においては、側打ち用ガイド枠3や受け枠9の構造、配筋の鉄筋材の形態、杭頭抑え具8の構造等、細部構成については実施形態以外に種々設計変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係る建物基礎の補強方法において既設の布基礎の側方張出部に切除部Rを設けた第1段階を示し、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は(A)のイ−イ線の断面矢視図である。
【図2】同補強方法において布基礎の垂直壁部にホールインアンカーを打設した第2段階を示す正面図である。
【図3】同補強方法において布基礎の垂直壁部に側打ち用ガイド枠を固設した第3段階を示し、(A)は正面図、(B)は(A)のロ−ロ線の断面矢視図である。
【図4】同補強方法において布基礎の屋外側に配筋を行った第4段階を示す正面図である。
【図5】同補強方法において布基礎の配筋部の前に型枠を仮止めした第5段階を示し、(A)は正面図、(B)は(A)のハ−ハ線の断面矢視図である。
【図6】同補強方法において布基礎の屋外側に鉄筋コンクリート層を形成した第6段階を示す縦断側面図である。
【図7】同補強方法において側打ち用ガイド枠上に油圧ジャッキの受け枠を取り付けた第7段階を示す正面図である。
【図8】同補強方法において油圧ジャッキによる杭打ちを行う第8段階を示し、(A)は正面図、(B)は縦断側面図、(C)は杭材のパイプの継ぎ足し部分の一部破断正面図である。
【図9】同補強方法における補強完了段階を示し、(A)はは正面図、(B)は(A)のニ−ニ線の断面矢視図、(C)は(A)のホ−ホ線の断面矢視図である。
【図10】同補強方法に用いる側打ち用ガイド枠の斜視図である。
【図11】同補強方法に用いる油圧ジャッキの受け枠の斜視図である。
【符号の説明】
【0049】
1 布基礎
1a 垂直壁部
1b 側方張出部
2a,2b ホールインアンカー(アンカー金具)
3 側打ち用ガイド枠
3a 背板部
3b 側板部
31 鉄筋棒
32 型枠取付用ボルト
34 アンカーボルト
34a 上端ねじ部
35,36 ナット
4 鉄筋枠(鉄筋)
5 型枠
51 長孔
6 鉄筋コンクリート層
7 油圧ジャッキ(杭打ち用ジャッキ)
8 杭頭抑え具
8a 支持体
8b 昇降部材
8c キャップ
81 ねじ軸
9 受け枠
G 地中
P パイプ(杭材)
R 切除部
n1 雄ねじ
n2 雌ねじ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の布基礎の複数箇所で垂直壁部の片側側面にアンカー金具を介して側打ち用ガイド枠を固設したのち、隣合う側打ち用ガイド枠間に配筋すると共に、この配筋部の前に型枠を配置し、該型枠と布基礎の垂直壁部と両側の側打ち用ガイド枠とに囲われた配筋空間内にコンクリートを打設することにより、布基礎の垂直壁部の片側に一体化した鉄筋コンクリート層を形成する一方、前記の各側打ち用ガイド枠上に杭打ち用ジャッキを取り付け、該側打ち用ガイド枠内に配置させた杭材を前記杭打ち用ジャッキによって地中の所要深さまで打ち込んだのち、基礎側に取り付けた杭頭抑え具を杭材の頂端に当接させることを特徴とする建物基礎の補強方法。
【請求項2】
縦断面逆T字形をなす前記布基礎の下端片側の側方張出部を複数箇所で切除し、その各切除位置上方の垂直壁部の片側側面に前記側打ち用ガイド枠を固設する請求項1記載の建物基礎の補強方法。
【請求項3】
前記側打ち用ガイド枠が布基礎の垂直壁部に接合する背板部と左右側板部とで横断面略コ字形をなし、その左右側板部の各前端に型枠取付用ボルトが植設され、この型枠取付用ボルトを前記型枠に設けた長孔に通して外側からナットで緊締することにより、該型枠を側打ち用ガイド枠に仮止め固定する請求項1又は2に記載の建物基礎の補強方法。
【請求項4】
前記側打ち用ガイド枠に左右両側へ張出する鉄筋棒が植設され、これら鉄筋棒を前記の鉄筋コンクリート層中に埋入させるようにしてなる請求項1〜3のいずれかに記載の建物基礎の補強方法。
【請求項5】
前記側打ち用ガイド枠の鉄筋棒に前記配筋の鉄筋を繋ぎ留める請求項4記載の建物基礎の補強方法。
【請求項6】
前記側打ち用ガイド枠の左右両側位置で上端ねじ部が突出するように、前記の打設するコンクリート中にアンカーボルトを埋設し、その上端ねじ部に前記杭打ち用ジャッキの受け枠をねじ止めして杭打ちしたのち、該受け枠を外した同上端ねじ部に前記杭頭抑え具をねじ止めする請求項1〜5のいずれかに記載の建物基礎の補強方法。
【請求項7】
杭材が一端側に雄ねじを有して他端側に雌ねじを有するパイプからなり、その雄ねじと雌ねじとの螺合によって複数本のパイプを継ぎ足しつつ所要深さまで杭打ちする請求項1〜6のいずれかに記載の建物基礎の補強方法。
【請求項8】
既設の布基礎における垂直壁部の片側側面の複数箇所に、アンカー金具を介して側打ち用ガイド枠が固設され、隣合う側打ち用ガイド枠間に、配筋とコンクリート打設による鉄筋コンクリート層が前記垂直壁部に密接状態で形成されると共に、各側打ち用ガイド枠の内側位置で地中に所定深さまで杭材が打ち込まれ、基礎側に取り付けた杭頭抑え具が該杭材の頂端に当接されてなる建物基礎の補強構造。
【請求項9】
前記杭頭抑え具が、基礎側に固着される支持体と、この支持体に垂設したねじ軸に螺合して昇降する昇降部材と、地中に打ち込まれた杭材の頂端に冠着するキャップとからなり、昇降部材を下降させてキャップに押圧することにより、該キャップを杭材の頂端に圧接するように構成されてなる請求項8記載の建物基礎の補強構造。
【請求項10】
既設の布基礎の垂直壁部と新設の鉄筋コンクリート層とが、前記垂直壁部に植設されたアンカー金具を介して一体化されてなる請求項8又は9に記載の建物基礎の補強構造。
【請求項1】
既設の布基礎の複数箇所で垂直壁部の片側側面にアンカー金具を介して側打ち用ガイド枠を固設したのち、隣合う側打ち用ガイド枠間に配筋すると共に、この配筋部の前に型枠を配置し、該型枠と布基礎の垂直壁部と両側の側打ち用ガイド枠とに囲われた配筋空間内にコンクリートを打設することにより、布基礎の垂直壁部の片側に一体化した鉄筋コンクリート層を形成する一方、前記の各側打ち用ガイド枠上に杭打ち用ジャッキを取り付け、該側打ち用ガイド枠内に配置させた杭材を前記杭打ち用ジャッキによって地中の所要深さまで打ち込んだのち、基礎側に取り付けた杭頭抑え具を杭材の頂端に当接させることを特徴とする建物基礎の補強方法。
【請求項2】
縦断面逆T字形をなす前記布基礎の下端片側の側方張出部を複数箇所で切除し、その各切除位置上方の垂直壁部の片側側面に前記側打ち用ガイド枠を固設する請求項1記載の建物基礎の補強方法。
【請求項3】
前記側打ち用ガイド枠が布基礎の垂直壁部に接合する背板部と左右側板部とで横断面略コ字形をなし、その左右側板部の各前端に型枠取付用ボルトが植設され、この型枠取付用ボルトを前記型枠に設けた長孔に通して外側からナットで緊締することにより、該型枠を側打ち用ガイド枠に仮止め固定する請求項1又は2に記載の建物基礎の補強方法。
【請求項4】
前記側打ち用ガイド枠に左右両側へ張出する鉄筋棒が植設され、これら鉄筋棒を前記の鉄筋コンクリート層中に埋入させるようにしてなる請求項1〜3のいずれかに記載の建物基礎の補強方法。
【請求項5】
前記側打ち用ガイド枠の鉄筋棒に前記配筋の鉄筋を繋ぎ留める請求項4記載の建物基礎の補強方法。
【請求項6】
前記側打ち用ガイド枠の左右両側位置で上端ねじ部が突出するように、前記の打設するコンクリート中にアンカーボルトを埋設し、その上端ねじ部に前記杭打ち用ジャッキの受け枠をねじ止めして杭打ちしたのち、該受け枠を外した同上端ねじ部に前記杭頭抑え具をねじ止めする請求項1〜5のいずれかに記載の建物基礎の補強方法。
【請求項7】
杭材が一端側に雄ねじを有して他端側に雌ねじを有するパイプからなり、その雄ねじと雌ねじとの螺合によって複数本のパイプを継ぎ足しつつ所要深さまで杭打ちする請求項1〜6のいずれかに記載の建物基礎の補強方法。
【請求項8】
既設の布基礎における垂直壁部の片側側面の複数箇所に、アンカー金具を介して側打ち用ガイド枠が固設され、隣合う側打ち用ガイド枠間に、配筋とコンクリート打設による鉄筋コンクリート層が前記垂直壁部に密接状態で形成されると共に、各側打ち用ガイド枠の内側位置で地中に所定深さまで杭材が打ち込まれ、基礎側に取り付けた杭頭抑え具が該杭材の頂端に当接されてなる建物基礎の補強構造。
【請求項9】
前記杭頭抑え具が、基礎側に固着される支持体と、この支持体に垂設したねじ軸に螺合して昇降する昇降部材と、地中に打ち込まれた杭材の頂端に冠着するキャップとからなり、昇降部材を下降させてキャップに押圧することにより、該キャップを杭材の頂端に圧接するように構成されてなる請求項8記載の建物基礎の補強構造。
【請求項10】
既設の布基礎の垂直壁部と新設の鉄筋コンクリート層とが、前記垂直壁部に植設されたアンカー金具を介して一体化されてなる請求項8又は9に記載の建物基礎の補強構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−274746(P2006−274746A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98864(P2005−98864)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(596091428)報国エンジニアリング株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(596091428)報国エンジニアリング株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
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