説明

建物外壁取付構造

【課題】建物に専用の制振機構を設置することなく制振を行うことのできる建物外壁取付構造を提供する。
【解決手段】住宅1の軸組みとして組まれた外側の床梁11の上に天井梁10が複数の支柱で支持され、床梁11と天井梁10とを接続する間柱12が支柱間に設けられ、間柱12と床梁11と天井梁10とによって形成される複数の開口部9を塞ぐように第1外壁パネル7が間柱12に支持された建物外壁取付構造において、第1外壁パネル7を間柱12に該間柱に対して相対回転可能に支持する支持手段24を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の躯体に外壁を取り付ける建物外壁取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中低層住宅等の建物において、例えば、建物の周囲を走行する自動車や、建物の周囲で行われる建設工事による微小振動や、住宅内での歩行による微小振動或いは風による微小振動等の振動を抑制する建物の制振構造又は制振装置が提案されている。
【0003】
例えば、建物の制振装置としては、建物の屋上や天井あるいは上階等の建物の上部にフレームが固定され、該フレームの天井部からワイヤー等の懸垂用吊具を介して重錘(重り)が吊り下げられている振り子型制振装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
尚、この振り子型制振装置においては、重錘は6面体の平板形状を有し且つフレーム内部において重錘の振動方向となる方向に所定の振幅で振動することができる大きさに形成されている。
【0005】
また、重錘の振動方向の端面には振動方向にそれぞれ延長されたシャフトが立設されている。しかも、該シャフトは、フレームの側部にそれぞれ形成された貫通長穴に挿通され且つ先端がフレームの側部からそれぞれ突出するようになっている。さらに、該シャフトのフレームの側部よりも外側の所定位置には第1バネ受け部材が設けられている。
【0006】
また、シャフトのフレームの側部と第1バネ受け部材との間にはプレートがシャフトに沿って重錘の振動方向に移動可能に設けられている。しかも、プレートの第1バネ受け部材側の面にはシャフトの外周に沿って嵌入されシャフトに沿って摺動可能な第2バネ受け部材が設けられている。そして、シャフトの端部に固定された第1バネ受け部材とプレートに固定された第2バネ受け部材との間で且つシャフトの外周部には、所定のバネ定数を有するコイルバネが自然長よりも所定の長さだけ収縮させた状態で嵌入されている。
【0007】
一方、プレートのフレーム側の面の所定の位置には受体が固定されており、該受体により転動自在に保持されたボールがフレームの側部の第1バネ受け部材側の面に固定された滑り板に転動自在に当接している。
【0008】
尚、コイルバネは、コイルバネの弾性力と、受体と滑り板とによるボールの挟持力を調整する調整手段を兼ねている。
【0009】
また、プレートの下方に対応する位置にはフレームの底板を構成する滑り板が配置されており、プレートの下部に固定された受体に転動自在に保持されたボールが滑り板に転動可能に当接している。
【特許文献1】特開平11−351316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の建物の振り子型制振装置では、重錘やフレーム、調整手段等からなる複雑な制振機構を建物とは別に設置しなけなければならいのでコスト高になるといった問題がある。
【0011】
この発明は、上述した問題点を解決し、建物に専用の制振機構を設置することなく建物の制振を行うことのできる建物外壁取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題点を解決するため請求項1の発明は、柱、梁、耐力壁等の建物の躯体に外壁が支持された建物外壁取付構造において、前記建物への振動入力時に前記外壁を前記躯体に対して相対回転又は変位させて、前記振動入力による前記建物の固有振動を制振可能に前記外壁を前記躯体に支持する支持手段を備えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2の発明は、前記支持手段は、前記建物の固有振動を制振可能に調整する弾性部材を備えることを特徴とする。
【0014】
また、請求項3の発明は、請求項2に記載の建物外壁取付構造において、前記建物の上階の外壁が前記支持手段を介して前記上階の躯体に支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、外壁を制振機構として利用することによって交通振動や中小規模の地震による揺れの抑制を行うことができる。しかも、外壁の取り付けを強度を考慮に入れず空間を仕切るだけのカーテンウォール構造的に行うことができるので、地震時の外壁の損傷を低減することができると共に、簡単な制振機構によってコストを削減することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、弾性部材の形状等を調整することで外壁の固有振動数を変更することができるので、様々な周波数の揺れに対して制振効果を発揮することができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、建物の上階を除く部分は外壁を強固に固定しているので地震等の振動に対して耐久性を有すると共に上階は回転可能な外壁により地震時の振動を吸収することができるので、振動耐久性及び振動吸収性という2つの効果によって建物はより大きな制振効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明にかかる建物外壁取付構造の実施例1を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の実施例1にかかる住宅の概略立面図である。
【0020】
図1に示すように、2階建ての住宅1には、地面から突出するように設けられた基礎2上に1階部3が設けられている。また、1階部3とその上の2階部4との間には隔壁5が設けられていると共に、2階部4の上には屋根6が設けられている。この隔壁5は、1階部3の天井(図示せず)と2階部4の床(図示せず)を有する。
【0021】
また、2階部4の屋根6と隔壁5との間には第1外壁パネル7(制振に利用する外壁パネル)及び第2外壁パネル8,8a(制振に利用しない外壁パネル)が複数設けられている。更に、第1,第2外壁パネル7,8,8aが設けられていない位置にはサッシ窓9aが設けられている。尚、サッシ窓9aは、住宅1の躯体、詳細には軸組み自身により形成される後述する開口部9に設けられている。
【0022】
また、住宅1の1階部3の外側部分に設けられる外壁には、2階部4に設けた第2外壁パネル8,8a(制振に利用しない外壁パネル)と同様の外壁パネル(図示せず)のみが使用される。
【0023】
図2に示すように、住宅1の2階部4のX方向に沿い且つ図面上の下方に位置する住宅1のコーナ部には、断面視L字状の第2外壁パネル8a,8aがそれぞれに設けられている。この第2外壁パネル8a,8a間には、第1外壁パネル7,サッシ窓9a,第1外壁パネル7,第2外壁パネル8,サッシ窓9a,第1外壁パネル7が配設されている。
【0024】
尚、上記以外の住宅1の外側部分にも第1外壁パネル7と、第2外壁パネル8(8a)と、サッシ窓9aとが住宅1のX方向、Y方向に沿って所定の位置にそれぞれ設けられている。
【0025】
図3(a)に示すように、図2の2階部4のX方向に沿い且つ図面上の下方に位置する住宅1の外側部分には、軸組みの一部である天井梁10と床梁11とが図示しない支柱により支持されている。しかも、天井梁10と床梁11の間で且つ支柱間には天井梁10及び床梁11の長手方向に垂直に且つ天井梁10と床梁11との間を連結するように間柱12が複数設けられている。尚、支柱はコーナの第2外壁パネル8aの内側に設けられている。
【0026】
また、天井梁10と床梁11及び間柱12の外側の面は、それぞれ面一になるように連結されると共に連結により、天井梁10と床梁11及び間柱12に囲まれた開口部9が形成されている。尚、図1,図2に示したサッシ窓9aは図3には図示せず省略されている。
【0027】
第1外壁パネル7は後述するようにボルトやリベット等を介して間柱12に回転可能に支持され、一方、第2外壁パネル8は後述するようにボルトや固定リベット等を介して間柱12に固定支持されている。
【0028】
また、第1外壁パネル7と第2外壁パネル8(8a)または第1外壁パネル7とサッシとの対向する側面の間は隙間Saを有している。
【0029】
そして、図3(b)に示すように、図3(a)においてS方向に見ると、隙間Saには、隙間Saが塞がれるように合成樹脂からなる略柱状のガスケット13が第1,第2外壁パネル7,8(8a)の対向する側面に沿って嵌入固定されている。従って、隙間Saから雨が吹き込んだり、隙間Saの存在によって建物自体の見栄えが悪くならないようになっている。
【0030】
尚、ガスケット13は、断面視矩形状の頭部14及び頭部14から突出する軸部15を有すると共に軸部15は軸部15から放射状に伸び且つ第1,第2外壁パネル7,8(8a)の対向する側面に当接する複数のフィン16を有する。
【0031】
従って、ガスケット13の頭部14の住宅1外側の端面を第1,第2外壁パネル7,8(8a)の住宅1内側の面に係止させ且つ間柱12に頭部14の住宅1内側端面を接着固定させることで、ガスケット13は第1,第2外壁パネル7,8(8a)間に嵌入固定されている。
【0032】
また、ガスケット13は、合成樹脂等からなり所定の弾性を有しているので、ガスケット13嵌入固定時でも第1外壁パネル7の回転運動を妨げることがない。
【0033】
さらに、図示は省略するが、開口部9に設けられたサッシ窓9aと第2外壁パネル8の間または第2外壁パネル8と隣接する第2外壁パネル8の間にも隙間が形成されおり、この隙間にも同様に合成樹脂等からなるガスケットが嵌入固定されている。
【0034】
図4に示すように、正面視矩形状の1枚の第1外壁パネル7は、上下縁部が天井梁10及び床梁11の一部と重なるようにボルト19を介して間柱12に支持されている。しかも、第1外壁パネル7は、両側縁部及び両側縁部間の中央の部分が間柱12,12,12と重なるように配置されている。
【0035】
また、図4,図5に示すように、第1外壁パネル7の重心位置Gから距離Lだけ離れた天井梁10側の上部位置Aには第1外壁パネル7を貫通する穴部17が設けられている。しかも、第1外壁パネル7の穴部17位置と同一位置に対応する間柱12の位置には間柱12を貫通し且つ第1外壁パネル7の穴部17と同一の径を有する穴部18が設けられている。
【0036】
また、ボルト19が、間柱12及び第1外壁パネル7の各穴部17、18を挿通するように第1外壁パネル7側から挿入されている。しかも、間柱12と第1外壁パネル7との間にはボルト19に螺着したナット20が配設されている。従って、間柱12と第1外壁パネル7との間はナット20の厚みにより一定の間隔を有している。
【0037】
そして、ボルト19の間柱12から突出した先端縁部にナット21を螺合することによって、第1外壁パネル7は間柱12に取り付けられている。尚、ボルト19は、頭部22とこの頭部22と一体に形成された軸部23を有している。また、ボルト19の軸部23には、頭部22側の支持軸部23aとこの支持軸部23aに連設された雄ねじ部23bとを有する。雄ねじ部23bは第1外壁パネル7の穴部17に対応する部分には形成されておらず、ねじ部のない支持軸部23aが第1外壁パネル17の穴部17に対応している。これにより、第1外壁パネル7は回転できるようになっている。尚、ボルト19及びナット20,21は第1外壁パネル7を間柱12に支持する支持手段24を構成している。
【0038】
ところで、間柱12を貫通する穴部18は第1外壁パネル7を間柱12に支持した場合の第1外壁パネル7の穴部17と同位置としたが、必ずしもこの構成に限定されるものではない。
【0039】
例えば、第1外壁パネル7が地震等の際に所望の固有振動数で回転するように調整するために、第1外壁パネル7の重心位置Gから間柱12の支持位置Aまでの距離Lを調整する調整構造を有する構造としても良い。
【0040】
この調整構造としては、図6に示すように、第1外壁パネル7の左右方向中央に複数の穴部17,17,17を上下に間隔をおいて設けると共に間柱12にも複数の穴部17,17,17に対応して複数の穴部18,18,18を上下に間隔をおいて設けて、これらの複数の穴部17,17,17及び18,18,18のうちボルト19を挿通するものを選択するようにしても良い。この構造により、ボルト19を挿通する穴部17,18を変更することによって距離Lが調整され、第1外壁パネル7の回転による固有振動数を所望のものにすることができる。
【0041】
一方、図7に示すように、正面視矩形状の第2外壁パネル8は、ボルト19aを介して3本の間柱12に固定支持される。
【0042】
以上の構成から、第1外壁パネル7をマス(重り)として利用し、地震時に住宅1が振動した場合でも、第1外壁パネル7が、住宅1の振動により第1外壁パネルの支持位置Aを中心として回転する(図4参照)。その際、回転は第1外壁パネルに作用する住宅1の振動に抗する慣性力によって生じている。
【0043】
従って、第1外壁パネル7の慣性力による回転により住宅1自体の振動は吸収され、住宅1を制振することができる。
【0044】
しかも、住宅1の1階部3の外壁にはすべて第2外壁パネル8を使用すると共に第2外壁パネル8は住宅1の1階部3の外側部分に強固に固定されているので、住宅1の水平剛性が確保され、住宅1は、住宅1への振動入力に対する1階部3の剛性と2階部4に設けられた第1外壁パネルによる動吸振性との双方を兼ね備えている。
【0045】
従って、住宅1のこの双方の性質により、住宅1はより大きな制振効果を発揮することができる。
【0046】
また、地震時等における第1外壁パネル7の固有振動数を住宅1の地震時等の1次固有振動数と同じになるように、あらかじめ第1外壁パネル7の配置、枚数、第1外壁パネル7の重心位置Gから支持位置Aまでの距離L等を調整することで最適な制振が実施される(図6参照)。
【0047】
以下、住宅1の最適な制振を実施するための第1外壁パネル7の重心位置Gから支持位置Aまでの距離Lの値を理論的解法により算出する。
【0048】
ただし、以下で求める第1外壁パネル7の重心位置Gから支持位置Aまでの距離Lの値は図2に示した住宅1のX方向において支持された第1外壁パネル7のみを考慮した場合に関するものであると共に外壁パネル間に嵌入されるガスケット13は考慮していない。
【0049】
まず、住宅1の振動有効重量を21.8[tf]とし、住宅1のX方向に利用する8枚の第1外壁パネル7を考慮して計算を行う(図2参照)。また、第1外壁パネル7の1枚あたりの重量を0.13[tf]とする。従って、8枚の第1外壁パネル7の総重量は1.04[tf]となる。
【0050】
次に、住宅1の固有振動数f1=5[Hz]とし、第1外壁パネル7の固有振動数をf2、住宅1の振動有効質量をM、第1外壁パネル7の重量をm、第1外壁パネル7の振動の減衰率をhとすると、住宅1の動吸振効果を最も発揮するこれらのパラメータ値は、以下の数1によって理論的に与えられることが知られている。
【0051】
【数1】

上記数1の各パラーメタに値を代入することにより、第1外壁パネル7の固有振動数f2=5.24[tf]、第1外壁パネル7の振動の減衰率h=13[%]と求められる。
【0052】
ここで、第1外壁パネル7の回転運動(振り子運動)による固有振動数を表す理論式は
【0053】
【数2】

で与えられる。ただし、gは重力加速度定数(980[cm/s])である。
【0054】
従って、第1外壁パネル7の重心位置Gから支持位置Aまでの距離Lは数2に第1外壁パネル7の固有振動数f2=5.24[tf]を代入することによってL=0.9[cm]と求められる。
【0055】
即ち、第1外壁パネル7の支持位置Aと第1外壁パネル7の重心位置Gとの距離Lを0.9cmとし且つ第1外壁パネル7の振動の減衰率hを13%とすることで、住宅1の最適な制振を実施することができる。
【0056】
以下、本発明にかかる建物外壁取付構造の実施例2を図面に基づいて説明する。
【実施例2】
【0057】
本発明の実施例2にかかる住宅1の構成は、第1外壁パネル7を間柱12に取り付ける構成を除いて上記実施例1にかかる住宅1の構成と同じである。従って、以下、実施例2にかかる構成の説明は、第1外壁パネル7の取り付けに関する所のみを実施例1における構成の符号を用いて説明していくことにする。
【0058】
図8に示すように、第1外壁パネル7の両側縁部は2本の間柱12,12に支持されている。また、2本の間柱12,12は、第1外壁パネル7の両側縁部と重なるように設けられている。
【0059】
さらに、第1外壁パネル7は、2本の間柱12の上下端縁部にそれぞれ設けられた合計4個の支持手段24aによって2本の間柱12にあらゆる方向に対して回転可能に支持されている。この支持手段24aは、円形の第1,第2金属板25,27と、この第1,第2金属板25,27間に接着等により固着された軸状のゴム26(弾性部材)を有する。
【0060】
そして、図9(a)、(b)に示すように、間柱12の第1外壁パネル7側側面には、円柱状の第1金属板25がビス止め固定されている。しかも、第2金属板27は第1外壁パネル7にビス止め固定されている。
【0061】
従って、4点で間柱12に支持手段24aを介して支持された第1外壁パネル7はゴム26の弾性によりあらゆる方向に回転可能となっている。
【0062】
また、ゴム26は、第1,第2金属板25,27の直径よりも小さい径を有する。しかも、第1,第2金属板25,27は、それぞれ同一の厚みを有し且つゴム26も所定の厚みを有する。
【0063】
尚、28は第1,第2金属板25,27に設けたビスを挿通するための4つのビス穴である。
【0064】
また、第1外壁パネル7を支持しているゴム26の厚み・径・数を変更することにより第1外壁パネル7の固有振動数は自由に変更される。
【0065】
以上の構成から、第1外壁パネル7をマス(重り)として利用し、地震時に住宅1が振動した場合でも、第1外壁パネル7が、住宅1の振動によりゴム26を介して任意の方向に回転する。その際、回転は第1外壁パネルに作用する住宅1の振動に抗する慣性力によって生じている。従って、第1外壁パネル7の慣性力による回転により住宅1自体の振動は吸収され、住宅1を制振することができる。
【0066】
また、地震時等における第1外壁パネル7の固有振動数を住宅1の地震時等の1次固有振動数と同じになるように、あらかじめゴム26の厚み・径・数を変更することで最適な制振が実施される。
【0067】
以下、住宅1の最適な制振を実施するためのゴム26の直径及び厚みの値を理論的解法により算出する。
【0068】
ただし、以下で求めるゴム26の直径及び厚みの値は図2に示した住宅1のX方向において支持された第1外壁パネル7のみを考慮した場合に関するものであると共に外壁パネル間に嵌入されるガスケット13は考慮していない。
【0069】
まず、住宅1の振動有効重量を21.8[tf]とし、住宅1のX方向に利用する8枚の第1外壁パネル7を考慮して計算する(図2参照)。また、第1外壁パネル7の1枚あたりの重量を0.13[tf]とする。従って、8枚の第1外壁パネル7の総重量は1.04[tf]となる。
【0070】
次に、住宅1の固有振動数f1=5[Hz]とし、第1外壁パネル7の固有振動数をf2、住宅1の振動有効質量をM、第1外壁パネル7の重量をm、第1外壁パネル7の振動の減衰率をhとすると、住宅1の動吸振効果を最も発揮するこれらのパラメータ値は、以下の数3によって理論的に与えられることが知られている。
【0071】
【数3】

上記数3の各パラーメタに値を代入することにより、第1外壁パネル7の固有振動数f2=5.24[tf]、第1外壁パネル7の振動の減衰率h=13[%]と求められる。
【0072】
従って、第1外壁パネル7の固有振動数が5.24[tf]で且つ第1外壁パネル7の振動の減衰率h=13%となるような弾性支持をすれば住宅1の動吸振効果を最も発揮することができる。
【0073】
ここで、第1外壁パネル7の振動運動による固有振動数を表す理論式は
【0074】
【数4】

で与えられる。ただし、gは重力加速度定数(980[cm/s])であり、kはゴム26の水平剛性、mは第1外壁パネル7の重量である。
【0075】
従って、数4に第1外壁パネル7の固有振動数f2=5.24[tf]を代入することによって、第1外壁パネル7の8枚あたりのゴム26の水平剛性は1.15[tf/cm]となる。
【0076】
以上より、第1外壁パネル7の1枚あたりのゴム26の水平剛性は0.144[tf/cm]を持つ必要があることになる。
【0077】
さらに、図8に示すように、1枚の第1外壁パネル7は4点で間柱12に弾性支持されているので、1個あたりのゴム26の水平剛性は0.036[tf/cm]となる。
【0078】
ここで、ゴム26の水平剛性とゴム26のせん断面積及びゴム厚の関係を表す理論式は
【0079】
【数5】

で与えられる。ここで、Khはゴム26の水平剛性[tf/cm]、Gはゴム26の硬度から求められるゴム26のせん断弾性係数[tf/cm]、Arはゴム26のせん断面積[cm]、tはゴム26の厚み[cm]である。
【0080】
ここで、第1外壁パネル7を支持するゴム26として硬度50のゴム26を用いた場合、数5に第1外壁パネル7の1枚あたりのゴム26の水平剛性の値0.144[tf/cm]を代入することにより、ゴム26の直径2[cm]と、厚み0.57[cm]が得られる。ただし、ゴム26のせん断弾性係数Gはゴム26の硬度から得られた値を代入した。
【0081】
また、第1外壁パネル7を支持するゴム26として硬度30のゴム26を支持部材として用いた場合には、ゴム26のせん断弾性係数Gは0.003[tf/cm]と求められるので、ゴム26の直径は2[cm]、厚みは0.27[cm]となる。
【0082】
以上より、制振を実施するためのゴム26として硬度50、直径2[cm]、厚み0.57[cm]または硬度30、直径2[cm]、厚み0.27[cm]を用いると共に第1外壁パネル7の振動の減衰率h=13%となるような高減衰ゴムを第1外壁パネル7の弾性支持に利用することで住宅1の最適な制振を実施することができる。
【0083】
以上説明したように本発明の実施の形態にかかる建物外壁取付構造は、柱、梁、耐力壁等の建物(住宅1)の躯体に外壁(第1外壁パネル7)が支持された建物外壁取付構造において、前記建物(住宅1)への振動入力時に前記外壁(第1外壁パネル7)を前記躯体に対して相対回転又は変位させて、前記振動入力による前記建物(住宅1)の固有振動を制振可能に前記外壁(第1外壁パネル7)を前記躯体に支持する支持手段を備えることを特徴とする。
【0084】
この構成によれば、外壁パネルを制振機構として利用することによって交通振動や中小規模の地震による揺れの抑制を行うことができる。しかも、外壁パネルの取り付けを強度を考慮に入れず空間を仕切るカーテンウォール構造的に行うことができるので、地震時の外壁の損傷を低減することができると共に、簡単な制振機構によってコストを削減することができる。
【0085】
また、本発明の実施の形態にかかる建物外壁取付構造は、前記支持手段24a及び後述する支持手段24bは、前記建物(住宅1)の固有振動を制振可能に調整する弾性部材(ゴム26)を備えている。
【0086】
この構成によれば、ゴム26の形状等を調整することで第1外壁パネル7の固有振動数を変更することができるので、様々な周波数の揺れに対して制振効果を発揮することができる。
【0087】
また、本発明の実施の形態にかかる建物外壁取付構造は、前記建物(住宅1)の上階の外壁(第1外壁パネル7)が前記支持手段24,24a及び後述する支持手段24bを介して前記上階の躯体に支持されていることを特徴とする。
【0088】
この構成によれば、住宅1の1階部3の外側に固定された第2外壁パネル8により建物の水平剛性が確保され、地震等の振動に対して耐久性を有すると共に2階部4は第1外壁パネルにより地震時の振動を吸収することができる。従って、振動耐久性及び動吸振性という2つの効果によって建物はより大きな制振効果を発揮することができる。
【0089】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0090】
例えば、本発明の実施例1及び実施例2では、第1外壁パネル7の回転可能な取付け構造を2階部4の天井梁10と床梁11との間の間柱12に適用したが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、第1外壁パネル7の取付け構造を1階部3の基礎2上に設けられる土台又は床梁と、1階部3と2階部4との間に設けられる胴差しとの間に配設される間柱に適用してもよい。
【0091】
また、本発明の実施例2の支持手段24aにおいては、第1外壁パネル7の重みによる垂れ下がりやゴム26のクリープ現象が生じることも考えられる。従って、これを防止するために、図10に示したような支持手段24bで第1外壁パネル7を間柱12に支持させるようにしても良い。この支持手段24bは、矩形状の第1,第2金属板25a,27aと、この第1,第2金属板25a,27a間に接着固定された矩形状のゴム26a(弾性部材)を有する。
【0092】
そして、図10(a)、(b)に示すように、第1金属板25aが間柱12にビス止め固定されている。尚、ゴム26aは、鉛直方向長さが水平方向の長さよりも長く形成されている。また、第2金属板27aは第1外壁パネル7にビス止め固定されている。
【0093】
この支持手段24bの構成によれば、ゴム26aの鉛直方向長さが大きくとられているのでゴム26aの鉛直方向の剛性は大きく、第1外壁パネル7の重みによる鉛直方向への垂れ下がりやゴム26のクリープ現象を防止することができる。
【0094】
また、第1外壁パネル7の重みによる垂れ下がりやゴム26のクリープ現象を防止する他の支持手段24bを以下に示す。
【0095】
図11(a),(b)に示すように、第1金属板25aの下端部には、垂直に突出する突出部29が一体に設けられている。
【0096】
しかも、第2金属板27aは、第1金属板25aの突出部29の先端縁部とが所定の間隔を保つようにゴム26aに接着固定されている。
【0097】
従って、第1外壁パネル7が鉛直方向に垂れ下がると、第2金属板27aの鉛直方向下端面が第1金属板25aの突出部29の先端縁部と接触し、突出部がストッパーの役割をして第1外壁パネル7の垂れ下がりを止める。
【0098】
また、第2金属板27aの下端面に対応する第1金属板25aの突出部29の先端縁部には、第2金属板27aの下端面に沿うように段差部29aが形成されている。しかも、段差部29aにはポリアミド樹脂等の低摩擦材30が塗布されており、第2金属板27aの下端面が、下端面に対応する第1金属板25の突出部29に接触しても摩耗しないようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の実施例1にかかる住宅の概略立面図である。
【図2】本発明の実施例1にかかる住宅の2階部の外壁パネル取り付け位置及び開口部位置を示す説明図である。
【図3】(a)は本発明の実施例1にかかる制振構造の構成を示す斜視図であり、(b)はガスケットの取り付け位置を(a)においてS方向に見た説明図である。
【図4】本発明の実施例1にかかる制振に利用する外壁パネルの取り付けを示す正面図である。
【図5】本発明の実施例1にかかる制振に利用する外壁パネルの取り付けを示す側面図である。
【図6】本発明の実施例1にかかる制振に利用する外壁パネルを調整可能に取り付けるための構成を示す分解斜視図である。
【図7】本発明の実施例1にかかる制振に利用しない外壁パネルの取り付けを示す正面図である。
【図8】本発明の実施例2にかかる制振に利用する外壁パネルの取り付けを示す正面図である。
【図9】(a)は本発明の実施例2にかかる制振に利用する外壁パネルの取り付けを示す側面図であり、(b)は本発明の実施例2にかかる支持手段の構成説明図である。
【図10】(a)は本発明の他の実施例にかかる支持手段の要部斜視説明図であり、(b)は本発明の他の実施例にかかる支持手段を(a)においてT方向に見た構成説明図である。
【図11】(a)は本発明の他の実施例にかかる支持手段の要部斜視説明図であり、(b)は本発明の他の実施例にかかる支持手段の要部側面図である。
【符号の説明】
【0100】
1 住宅(建物)
2 基礎
3 1階部
4 2階部
5 隔壁
6 屋根
7 第1外壁パネル
8,8a 第2外壁パネル
9 開口部
9a サッシ窓
10 天井梁
11 床梁
12 間柱
13 ガスケット
17,18 穴部
19 ボルト
20,21 ナット
24,24a,24b 支持手段
25 第1金属板
26 ゴム(弾性部材)
27 第2金属板
28 ビス穴
29 突出部
29a 段差部
30 低摩擦材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱、梁、耐力壁等の建物の躯体に外壁が支持された建物外壁取付構造において、
前記建物への振動入力時に前記外壁を前記躯体に対して相対回転又は変位させて、前記振動入力による前記建物の固有振動を制振可能に前記外壁を前記躯体に支持する支持手段を備えることを特徴とする建物外壁取付構造。
【請求項2】
前記支持手段は、前記建物の固有振動を制振可能に調整する弾性部材を備えることを特徴とする請求項1に記載の建物外壁取付構造。
【請求項3】
請求項2に記載の建物外壁取付構造において、
前記建物の上階の外壁が前記支持手段を介して前記上階の躯体に支持されていることを特徴とする建物外壁取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−322249(P2006−322249A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147533(P2005−147533)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】