説明

建築材料用の低VOCレベルの炭化水素系希釈剤

【課題】放出特性が小さく、かつ、建築材料の基本的特性、例えば、敷設前後の安定性、耐老朽化性、機械特性、敷設後の外観などを維持することのできる、低VOCの炭化水素系希釈剤、希釈剤組成物、それらの製造方法、および使用を提供する。
【解決手段】本発明の炭化水素系希釈剤は、ポリマーを希釈するための希釈剤であり、水素化脱ろうされた軽油留分の蒸留によって得られる沸点200℃超の炭化水素混合物で構成され、イソパラフィン類を50重量%超と、ナフテン類を40重量%以下とを含み、ASTM D97規格に準拠した流動点が−15℃未満であり、かつ、沸点が280〜450℃である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築材料用の低VOCレベル炭化水素系希釈剤、特に、樹脂系及びマスチック系の組成物および材料に用いられる低VOCレベルの炭化水素系希釈剤に関する。本発明は、さらに、この希釈剤を含む組成物および建築材料に関する。
【背景技術】
【0002】
建築材料(建材)として、例えば、床材、塗料、壁紙、窓用または衛生設備の接合部シール用のマスチック材などといった、様々な製品が使用されている。これらの製品は、一般的に一種類または二種類の活性成分で構成されており、希釈剤の添加によって目的の用途に応じた粘度に調節されている。希釈剤は、少なくとも1種の樹脂および/またはポリマーおよび/またはその他の高い粘度を有する半固形物質と混合され、即座にまたは経時的に蒸発および/または分解する傾向がある。そのため、環境にとって有害な物質の放出源、特に、ヒトや動物の健康にとって有毒な物質の放出源となることが多い。これらの放出は、VOC(VOC:揮発性有機化合物)放散と称される。このような放出は、日常生活に影響を及ぼし、家庭、オフィス、および政府建物の内部空間の主な汚染源、概して言えば、通気性が限られたあらゆる密閉空間(すなわち、直接的な空気循環が行われていない空間)の主な汚染源となる。これらの放出は、新築時に相当な量になるだけでなく、残留揮発分(その量は、時間に応じて変化し、さらには、コーティングまたは床材組成物、接着剤組成物、またはマスチックの経時的分解に関連する)による長期的影響も有する。このような建築材料の短所の深刻度は、使用量や、それを使用した建築物の通気性、およびその建築現場での通気性に依存する。
【0003】
建築材料からの放出物は、特に、それに配合された希釈剤の種類および放出特性に関係する。希釈剤は、建築材料の粘度を一時的に低下させるために配合されるものであり、国内外の様々なスキーム(製品からの放出物の許容限界量を定めたり、製品に認定表示を付したりする)に基づき、少なくとも三種類の化合物に分類される。このような国内外のスキームとして、例えば、ドイツのAgBBおよびBlauer Engel、フィンランドのM1、デンマークの「Danish Indoor Claimate label(DICL)」の認定表示、Emicode、Oeko−Tex、Greenguard、フランスのAFSSET(フランス環境労働衛生安全局)のプロトコルなどが挙げられる。世界保健機関によってISO 16000−6規格を反映するように定められた含VOC製品の特性分類を、以下の表1に示す分類の基礎とした:
【0004】
【表1】

【0005】
本発明では、放出特性が小さく、かつ、建築材料(例えば、床材、接着剤、マスチックなど)の基本的特性、例えば、敷設前後の安定性、耐老朽化性、機械特性、敷設後の外観などを維持することのできる、低VOCの炭化水素系希釈剤の提供を目的とする。
【0006】
床材用のPVCペーストに配合される炭化水素系希釈剤として、ホワイトスピリット、ケロシン、イソパラフィン、ガスオイル(軽油)などの様々な種類が知られている。そしてこれらの化合物により、製品の塗設に必要とされる特定のレオロジー特性を得ることができ、かつ、PVCペーストの粘度を減少させることができる。
しかしながら、上記のどの製品も、VOC、SemiVOC、VVOC揮発性物質の放出レベル抑制の規定条件を満足する特性を備えていない。
【0007】
PVCペーストまたはマスチックの粘度を減少させると同時に、その塗設に必要とされる特性を維持する技術として、特許文献1および特許文献2には、放出物がゼロで且つ最終製品に期待される一部の特性を維持することのできる、湿潤剤化合物および分散剤と、植物油または植物油由来の脂肪酸エステルとの混合物の使用が提案されている。特許文献3には、ガスをフィッシャートロプシュ法で変換したものを水素化分解/水素異性化することで得られるカット分を、シリコーン系ゴム用希釈剤として使用する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第02/086007号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/033899号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/009738号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明のさらなる目的は、建築材料(建材)、特に、床材やマスチック用のPVCに配合可能で、それら建築材料の取扱いおよび塗設を容易にするために当該建築材料の粘度を減少させると同時に、当該建築材料に必要とされる物理的特性を維持することができ、かつ、当該建築材料の長期使用を可能にする、再生可能資源ではなく化石燃料由来の希釈剤を提供することである。最後に、本発明にかかる希釈剤が配合された最終製品は、Afsset、AgBB、Blauer Engel、Emicode、Oeko−Tex、GreenguardなどのプロトコルのVOC抑制要件を満足する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上を踏まえて、本発明は、ポリマーを建築材料(建材)に希釈するためのVOC低放散性の炭化水素系希釈剤に関する。この希釈剤は、水素化脱ろうされた軽油留分の蒸留によって得られる沸点200℃超の炭化水素混合物から得られる。この希釈剤の流動点は−15℃未満である。この希釈剤は、沸点が280℃〜450℃で且つ硫黄分が10ppm未満の留分である。この希釈剤は、イソパラフィン類を50重量%超と、ナフテン類を40重量%以下とを含む。
【0011】
「VOC低放散性」とは、コーティング材やマスチックなどの建築材料に混合された際に、AgBB、Blauer Engel、Emicode、Oeko−Tex、Greenguard、AFSSETなどの評価スキームの要件を満足する希釈剤のことを指す。
【0012】
有利なことに、本発明にかかる希釈剤により、SemiVOC系、VOC系、またはVVOC系希釈剤を用いて製造された最終製品と同等の特性が得られると同時に、従来の製品よりも遥かに低い揮発性を実現することができる。
【0013】
好ましくは、本発明にかかる希釈剤は、ASTM D445規格に準拠した40℃での粘度が5mm/s超の水素化脱ろうされた炭化水素留分から選択され、特には、40℃での粘度が7mm/s超の水素化脱ろうされた炭化水素留分から選択される。
【0014】
好ましくは、前記選択された水素化脱ろう処理済の炭化水素留分は、常圧蒸留、真空蒸留、水素化処理、水素化分解、接触分解、およびビスブレーキング法のうちの少なくとも1つによって得られる軽油留分混合物の水素化脱ろうに由来するか、あるいは、バイオマス変換に由来し、任意で、それらよりも先に脱硫および/または芳香族化合物の除去のさらなる処理が施される。以降、本明細書において「水素化脱ろうされた希釈剤」とは、これらのような炭化水素系希釈剤を指すものとする。
【0015】
本発明の一部の用途において、前記留分は、280℃〜450℃の範囲内で50℃を超える広い蒸留温度範囲を有するものであってもよいし、あるいは、これよりも狭い蒸留温度範囲を有するものであってもよい。
【0016】
本発明の好ましい一実施形態において、前記希釈剤は、ASTM D97規格に準拠した流動点が−30℃未満の、水素化脱ろうされた炭化水素混合物の蒸留留分に由来する。これと並行して、これらの本発明にかかる炭化水素混合物の引火点は極めて高く、140℃超である。
希釈剤の流動点が極めて低いことは、当該希釈剤を、例えば、PVC樹脂やマスチック用ポリマーとの混合物中に維持するにあたって好適であり、ブリード現象を抑制、さらには、防止することができる。低温度域でブリードが発生しないことは、極めて望ましい。
【0017】
好ましくは、本発明にかかる希釈剤は、多量のイソパラフィン類と、少量のn−パラフィン類とを含む。好ましくは、希釈剤は、ナフテン類の含有量が常に10重量%を超えている。好ましくは、炭化水素混合物から得られる前記希釈剤は、高度に水素化脱ろう処理されているので、イソパラフィン類の含有量が65重量%超であり、n−パラフィン類の含有量が10重量%未満である。本発明にかかる希釈剤は、その組成中にナフテン類が含まれている点で、イソパラフィン類およびその他のパラフィン類のみで構成された、同様の用途に使用される他の製品と異なる。好ましくは、本発明にかかる水素化脱ろうされた希釈剤には、ナフテン類が少なくとも20重量%含まれている。典型的には、本発明にかかる希釈剤のナフテン分は、当該希釈剤の20〜35重量%であるのが好ましい。
【0018】
一般的には、本発明にかかる希釈剤は、主に炭素数が16を超える鎖長の炭化水素化合物に由来する。好ましくは、この希釈剤は、SemiVOCとして知られる炭素数16〜22の鎖長の炭化水素化合物の含有量が65重量%未満であり、非VOC(すなわち、不揮発性または低揮発性を有する)の、炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の含有量が30重量%超である。なので好ましい一実施形態において、本発明にかかる希釈剤は、炭素数16〜22の鎖長の炭化水素化合物の含有量が50重量%未満であり、炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の含有量が40重量%超である。好ましくは、このような炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物は、鎖長がC23〜C30の炭化水素化合物であり、これにより、ポリマーとの相溶性を維持することができる。ポリマーとの相溶性は、分子量が増加するにつれて低下する。
【0019】
好ましくは、本発明にかかる希釈剤は、硫黄分が10ppm未満、より好ましくは2ppm未満である。また、好ましくは、芳香族分が500ppm未満である。
【0020】
上記の希釈剤は他の化合物と混合されてもよいことから、本発明は、さらに、VOC低放散性の希釈剤組成物に関する。本発明の第二の主題であるこの組成物は、主成分である前述の水素化脱ろうされた炭化水素化合物に加えて、沸点が280〜450℃の、炭素数が16を超える炭素鎖を有する脂肪酸の酸およびエステル、水素化分解および/または水素化処理された軽油系の留分などの、従来の希釈剤で構成される炭化水素化合物を含む。言うまでもなく、当業者であれば、主成分であるVOC低放散性の水素化脱ろうされた希釈剤に合わせて、上記の従来の希釈剤のカット温度範囲(蒸留温度範囲)を調節することができる。好ましくは、このようにして調製されたVOC低放散性の希釈剤組成物用の混合物は、イソパラフィン類の含有量が50重量%超であり、n−パラフィン類の含有量が20重量%未満である。好ましくは、ナフテン類の含有量は、当該混合物の10〜30重量%である。
【0021】
好ましくは、希釈剤組成物は、イソパラフィン類の含有量が60重量%超であり、かつ、n−パラフィン類の含有量が10重量%未満であり、残りはナフテン類が実質的に占める。
【0022】
本発明のこの実施形態において、希釈剤組成物は、水素化脱ろうされた希釈剤の含有量が40重量%超、好ましくは60重量%超である。
【0023】
好ましくは、組成物において、本発明にかかる希釈剤単独では、炭素数16〜22の鎖長の炭化水素化合物の含有量が65重量%未満であり、炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の含有量が30重量%超である。
【0024】
本発明の第三の主題は、本発明にかかる水素化脱ろうされた希釈剤単独での、あるいは、少なくとも1種の従来の樹脂用希釈剤との組合せの、建築材料を製造するための使用である。
【0025】
本発明にかかる希釈剤は、樹脂に対して単独で配合された場合も、あるいは、従来の希釈剤との組合せで配合された場合でも、その樹脂処方物の物理的特性を変化させることはなく、詳細には、最終製品の熱安定性、光学特性、機械特性、および70℃での揮発性を変化させることがない。さらに、それらを配合した最終製品からのVOC放散は、AgBB、Blauer Engel、Emicode、Oeko−Tex、Greenguard、またはAfssetの要件を満足することができる。
【0026】
本明細書において「樹脂」とは、床材、スレッド(糸)や布帛に用いるコーティング材、壁紙、可撓性のフィルム、タール塗り防水材、マスチックなどに使用されるPVCペースト(またはプラスチゾル)に配合されるPVC樹脂のことを指す。このようなペーストは、単重合されたポリ塩化ビニル(PVC)や、PVCとコモノマー(例えば、塩化ビニルと重合可能であり生成される樹脂の組成の一部となる、ラクトン類やその他のオレフィン類など)との重合によって得られる。
【0027】
また、「マスチック」とは、ポリマーまたは樹脂と、当業者にとって周知のその他の化合物(例えば、可塑剤、充填材、粘度調節用の希釈剤など)との組合せを基剤とする組成物を指す。
【0028】
本発明の第四の主題は、水素化脱ろうされた希釈剤単独での使用、あるいは、従来の希釈剤との組合せの使用であって、マスチック、シリコーン系接着剤(例えば、シリコーン系マスチックRTV−1(1成分室温加硫)など)、または変性シリコーンポリマー(SMP:シラン変性ポリマー;例えば、ST−PE(シラン末端ポリエーテル)系、MSポリマー(MS=変性シラン)系、ST−PU(シラン末端ポリウレタン)系など)を希釈するための使用である。これらのポリマーには、当業者にとって周知である任意の化合物、例えば、可塑剤、鉱物性の充填材、各種添加剤、接着促進剤、触媒などが混合されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明にかかる希釈剤D1,D2を用いて調製した最終製品と、従来技術T1,T2,T3を用いて調製した最終製品との、それぞれ24時間保管した後でのレオロジー挙動を調べたグラフであり、EN 3219規格に準拠して、24時間保管された後のコンパクト処方物に対し、回転式粘度計を用いて各せん断速度での粘度を測定する。
【図2】本発明にかかる希釈剤D1,D2を用いて調製した最終製品と、従来技術T1,T2,T3を用いて調製した最終製品との、それぞれ層厚0.9mmの層状に塗布したものについて、Mathis社製のオーブンに70℃で2分間かけた後に重量損失(重量%)で表される揮発性を、各時間ごと(1時間後、4時間後、および24時間後)に測定したグラフである。
【図3】本発明にかかる炭化水素系希釈剤(溶剤)と、従来技術の炭化水素系希釈剤との、ISO 10563規格に準拠した70℃で7日後に測定される体積損失を調べたグラフであり、同グラフ中には、PR NF EN 15651−3(2008年)、およびPR NF EN 15651−1(2007年)の規格草案に述べられた規定上限量も示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以上を踏まえて、本発明は、以下の事項を特徴とする:
【0031】
本発明は、ポリマーを希釈するための炭化水素系希釈剤に関するものであり、この希釈剤は、水素化脱ろうされた軽油留分の蒸留によって得られる沸点200℃超の炭化水素混合物で構成され、イソパラフィン類を50重量%超と、ナフテン類を40重量%以下とを含み、ASTM D97規格に準拠した流動点が−15℃未満である。
【0032】
好ましくは、前記希釈剤は、沸点が280〜450℃である。
【0033】
好ましくは、前記希釈剤は、ASTM D97規格に準拠した流動点が−30℃未満である。
【0034】
好ましくは、前記希釈剤は、ASTM D445規格に準拠した40℃での粘度が5mm/s超であり、特に好ましくは7mm/s超である。
【0035】
好ましくは、前記希釈剤は、水素化脱ろうされた炭化水素化合物に由来するものであり、特に好ましくは、常圧蒸留、真空蒸留、水素化処理、水素化分解、接触分解、およびビスブレーキング法のうちの少なくとも1つによって得られる軽油留分混合物の水素化脱ろうに由来するか、あるいは、バイオマス変換に由来し、任意で、それらよりも先に脱硫および/または芳香族化合物の除去のさらなる処理が施されている。
【0036】
好ましくは、前記希釈剤の組成には、ナフテン類が10重量%超含まれている。
【0037】
好ましくは、前記希釈剤は、ASTM D97規格に準拠した流動点が−30℃未満であり、かつ、引火点が140℃超の、水素化脱ろうされた炭化水素混合物の蒸留留分に由来する。
【0038】
好ましくは、前記希釈剤は、ナフテン類の含有量が20〜35重量%であり、イソパラフィン類の含有量が60重量%超である。
【0039】
好ましくは、前記希釈剤は、イソパラフィン類の含有量が65重量%超であり、n−パラフィン類の含有量が10重量%未満である。
【0040】
好ましくは、前記希釈剤は、炭素数16〜22の鎖長の炭化水素化合物の含有量が65重量%未満であり、炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の含有量が30重量%超であり、より好ましくは、前記炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の鎖長がC23〜C30である。
【0041】
好ましくは、前記希釈剤は、炭素数16〜22の鎖長の炭化水素化合物の含有量が50重量%未満であり、炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の含有量が40重量%超であり、より好ましくは、前記炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の鎖長がC23〜C30である。
【0042】
好ましくは、前記希釈剤には、n−パラフィン類が含まれていない。
【0043】
好ましくは、前記希釈剤は、硫黄分が10ppm未満、特に好ましくは2ppm未満である。
【0044】
好ましくは、前記希釈剤は、紫外分光法によって測定される芳香族分が500ppm未満である。
【0045】
本発明は、さらに、前述の希釈剤と、いわゆる「従来の」少なくとも1種の希釈剤、例えば、炭素数が16を超える炭素鎖を有する脂肪酸の酸およびエステル、ならびに水素化分解および/または水素化処理された軽油系の、沸点200〜450℃、特には、280〜450℃、あるいは、200〜300℃の留分を含む群に属する、少なくとも1種の希釈剤との組合せを含む希釈剤組成物に関する。
【0046】
好ましくは、前記組成物は、イソパラフィン類の含有量が50重量%超であり、かつ、n−パラフィン類の含有量が20重量%未満であり、より好ましくは、イソパラフィン類の含有量が60重量%超であり、かつ、n−パラフィン類の含有量が10重量%未満である。
【0047】
好ましくは、前記組成物は、水素化脱ろうされた希釈剤の含有量が40重量%超、より好ましくは60重量%超である。
【0048】
本発明は、さらに、前述の希釈剤によって希釈された、ポリマーまたは樹脂の組成物、好ましくは、建築材料用のポリマーまたは樹脂の組成物、特には、建築材料、接着剤、床材、壁紙、またはマスチック用の樹脂の組成物、特には、シリコーン系または変性シリコーンポリマー系のマスチックまたは接着剤の組成物に関する。
【0049】
本発明は、さらに、前述の水素化脱ろうされた希釈剤単独での使用、あるいは、炭素数が16を超える炭素鎖を有する脂肪酸の酸およびエステル、ならびに水素化分解および/または水素化処理された軽油系の、沸点200〜450℃、特には、280〜450℃の留分を含む群に属する、いわゆる「従来の」少なくとも1種の希釈剤との組合せの使用であって、建築材料、接着剤、床材、壁紙、またはマスチック用の樹脂を希釈するための使用、特には、シリコーン系または変性シリコーンポリマー系のマスチックまたは接着剤を希釈するための使用に関する。
【実施例】
【0050】
以下の実施例を参照しながら本発明の利点を説明する。なお、以下の実施例は本発明の例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0051】
(実施例1)
この実施例では、様々な種類の希釈剤を説明する。従来技術の希釈剤には符号Tiを付し、本発明にかかる希釈剤には符号Diを付す。さらに、これらをPVCペーストに配合した際の使用を比較する。
【0052】
従来技術の希釈剤として、ホワイトスピリット(T1)、ケロシン(T2)、ドデシルベンゼン(T3)、および水素化分解されたカット温度300℃以上の軽油留分(T4)を用意する。本発明にかかる希釈剤として、水素化脱ろうされたカット温度280〜340℃の蒸留留分に由来する二種類の製品D1,D2を用意する:D1はカット温度290〜380℃の留分に相当し、D2はカット温度340℃超の蒸留留分に相当する。第三の希釈剤D3は、希釈剤D1を70重量%とT4を30重量%との混合物に相当する。
【0053】
以下の表1に、試験対象の全ての希釈剤の特性を示す。
【0054】
【表2】

【0055】
これらの様々な種類の希釈剤を、床材用のコンパクトPVCペーストの簡単な処方物に配合し、本発明にかかる希釈剤D1,D2の配合度と従来技術の希釈剤T1,T2,T3の配合度とを比較する試験を実行した。PVC樹脂としてLACOVYL PB1704(Arkema社製)を100重量部、可塑剤としてDINP(フタル酸ジイソノニル)系の可塑剤を40phr(phr=PVC樹脂100重量部に対する重量部)を使用し、希釈剤を0phr、2phr、4phr、6phr含有するサンプルをそれぞれ調製する。
【0056】
いわゆる「コンパクト」処方物の、2時間後および24時間後のEN 3219規格に準拠して測定される粘度(単位はポアズ)の変化を、1〜1000s−1のせん断速度の関数として測定する;以下の表2に結果を示す。
【0057】
【表3】

【0058】
配合度を適宜調節(較正)することにより、本発明にかかる希釈剤は、従来技術の希釈剤に比べて、最終製品に期待される粘度特性を維持することができる。
【0059】
さらに、図1から分かるように、本発明にかかる希釈剤D1,D2を用いて調製した最終製品と、従来技術T1,T2,T3を用いて調製した最終製品との、24時間の保管時間後における同一のせん断速度でのレオロジー挙動は同等である。
【0060】
LACOVYL PB1156(Arkema社製)のPVC樹脂およびDINP50phrが配合された発泡体用のPVCペーストの第二の処方物を、上記の例と同一の希釈剤を用いて、かつ上記の例と同じように様々な希釈度で調製し、それらのレオロジー挙動をブルックフィールド粘度測定(EN 2555規格の測定法)によって調べた。以下の表3に粘度測定値を示す。
【0061】
【表4】

【0062】
これらの全結果を参照することにより、本発明にかかる希釈剤を従来技術の希釈剤と同じ粘度測定値プロファイルにするための大体の配合度を、外挿・算出することができた。
【0063】
以下の表4に、T2およびT3の配合度とD1およびD2の配合度の比較を示す。
【0064】
【表5】

【0065】
つまり、希釈剤T2が6phr配合されたPVCペーストと同じ粘度測定値プロファイルを、本発明にかかる希釈剤D1またはD2が配合されたPVCペーストで得るには、当該希釈剤D1またはD2の配合量を約8phrとする必要がある。すなわち、本発明にかかる希釈剤D1またはD2が配合されたペーストにおいて、希釈剤T3が4phr配合されたペーストと同じ粘度を得るには、その希釈剤D1またはD2の配合量を約5phrとする必要がある。
【0066】
(実施例2)
この実施例では、本発明にかかる希釈剤が配合されたPVCペーストの処方物の性能と、従来技術の希釈剤が配合されたPVCペーストの処方物の性能とを比較する。これらの処方物は、ARKEMA社製のPVC樹脂含有床材と同様の処方内容とする。以下の表5に具体的な処方内容を示す。
【0067】
【表6】

【0068】
上記の処方物について、脱気性能、ペーストの熱安定性、光学特性、機械特性、ペーストの70℃での揮発性、およびペーストからのVOC放散を測定した。
【0069】
[脱気性能]
上述の様々な種類の希釈剤を用いて調製されるPVCペーストの各サンプルを、定温(23℃)および定湿(50%)で、減圧下最大700mmHgまでの条件下に置く。その最大発泡体積と、それが得られるまでの時間を測定する。それぞれの希釈剤のサンプルの試験につき、市場の製品に相当する参照希釈剤のサンプルも体系的に並列試験することにより、結果のばらつきを評価することができる。以下の表6に、得られる全結果を示す。
【0070】
【表7】

【0071】
上記の表から分かるように、最大発泡体積を得るまでの時間は、どの種類の希釈剤を使用してもほぼ同一である。最も粘度が高い製品D1,D2の発泡体積は、他の種類のものよりも大きいが、この発泡体積は、当業者にとって周知である特殊な脱泡剤または消泡剤を添加することで低下させることができる。
【0072】
[熱安定性]
各種PVCペーストを層厚0.9mmの層状に塗布したものを、200℃のオーブン(例えば、Mathis社製のオーブン)に入れる。PVCの劣化を調べるために、黄変度(yellow index)の変化を、時間の関数として監視する。以下の表7に結果を示す。
【0073】
【表8】

【0074】
上記の結果からは、試験対象の希釈剤間で大きな差は見受けられない。
【0075】
[光学特性]
各種ペーストを層厚0.9mmの層状に塗布したものを、Mathis社製のオーブンに200℃で2分間かけた後、各層の光学特性を、ASTM D1003規格に基づく方法に準拠してヘイズメーター系の機器で測定することで光透過率T、ヘイズ(曇り度)H、および透明度Cを決定し、さらに、ASTM D523規格に基づく方法に準拠して光沢度M(グロスチェッカー測定値において100までに相当する数値)を測定する。以下の表8に全ての測定結果を示す。
【0076】
【表9】

【0077】
上記の結果からは、試験対象の希釈剤間で大きな差は見受けられない。
【0078】
[機械特性]
各種PVCペーストを層厚0.9mmの層状に塗布したものを、Mathis社製のオーブンに200℃で2分間かけた後、各層の機械特性を、ISO R527規格に準拠して測定する。以下の表9に結果を示す。
【0079】
【表10】

【0080】
上記の結果からは、試験対象の希釈剤間で大きな差は見受けられない。
【0081】
[70℃での揮発性]
各種PVCペーストを層厚0.9mmの層状に塗布したものを、Mathis社製のオーブンに70℃で2分間加熱した後、重量損失(重量%)で表される揮発性を、時間の関数(1時間後、4時間後、および24時間後)として測定する。以下の表10に結果を示す。
【0082】
【表11】

【0083】
図2のグラフに、上記の結果を示す。同図から、従来の希釈剤T1,T2,T3を使用した際に比べて、本発明にかかる希釈剤D1,D2,D3を使用した際に、最大揮発性化合物が顕著に減少することが分かる。
【0084】
[VOC放散]
希釈剤T2,D1,D2,D3が配合された各種PVCペーストにそれぞれ対応する、同様の組成を有する床材の四種類のサンプルを、次に述べる動作条件下でのコーティングライン機で調製した:200℃の温度で2分間、層厚0.9mm、そして、試験対象の四種類の希釈剤はいずれも同一の配合量(3phr)とする。これらのサンプルを、ISO 16000−9規格に準拠して以下の条件下で試験した:
【0085】
【表12】

【0086】
放出されるVOCを、チャンバ出口において、TENAX社製のカートリッジへの吸着によって収集し、保持された化学物質を化学的脱離法によって取り出した後、極低温トラップで濃縮させてから、ガスクロマトグラフィー用の毛管カラムに注入する。このようにして、VOCはガスクロマトグラフィーによって毛管カラムで分離される。ISO 16000−6規格に準拠して、クロマトグラフィーカラムの出口に接続された質量分析計により、有機化合物を検出、同定、および定量化した。
【0087】
以下の表12に、得られた結果を示す。この結果を、2008年3月1日付のAgBBプロトコルおよび2006年10月付のAfssetに述べられたVOC抑制スキームのための上限量と比較した。
【0088】
【表13】

【0089】
本発明にかかる希釈剤D1,D2,D3が配合されたサンプルは、AgBBプロトコルおよびAfssetプロトコルの両方の要件を満足する一方、従来技術の希釈剤T2が配合されたサンプルは、28日後の未同定物質がAgBBスキームの要件に合致せず、さらに、総VOCの測定値が、AgBBおよびAfssetの両方の上限量に極めて近い数値となる。
【0090】
以上のように、この実施例から、本発明にかかる希釈剤が、PVCペーストの調製に使用可能であるだけでなく、従来の製品と同等の物理的特性を備えた床材を、その短所であるVOC高放散性を改善しながら調製可能であることが分かる。
【0091】
(実施例3)
この実施例では、本発明にかかる希釈剤の、シリコーン系マスチック、特には、シリコーン系マスチックRTV−1(1成分室温加硫)における使用について記載する。
【0092】
以下の表に、この種のマスチックの典型的な組成を示す:
【0093】
【表14】

【0094】
上記の組成において、ポリマー/可塑剤の比は1.5/1であり、炭化水素系溶剤(HC%)+シリコーン系油(適量)の合計は34.1重量%である。
【0095】
以下の表13において、炭化水素系溶剤(HC)の量は、最大でポリマーとの相溶限界量までとする。マスチックの体積損失を、ISO 10563規格に準拠して(70℃で7日後に)測定する。この体積損失は、処方物に含まれる可塑剤および成分のうちの最軽量分画(詳細には、VOCも含まれる)の蒸発に関連している。混合物に含まれるVOCの量が多いほど、前述の体積損失も大きくなる。
【0096】
【表15】

【0097】
上記の表のHydrosealという名前の参照ガスオイルは、現在上市されている商品である。
【0098】
図3に、PR NF EN 15651−3(2008年):衛生設備の接合部用のシール、およびPR NF EN 15651−1(2007年):建物(facade)用のシールの規格草案に準拠して測定される、製品の蒸発に起因する体積損失および製品の違いを示す。
【0099】
製品D2は、相溶性の限界(この例では15〜20%)までの範囲において、現在上市されている製品よりも蒸発による体積損失が少ないことから、極めて好適な結果を示している。すなわち、製品D2は、最大で15重量%のシリコーン系油と置き換わることができるだけでなく、PR NF EN 15651−1(2007年):建物(facade)用のシールの規格に述べられた、体積損失の上限10%の要件を満足することができる。他方、標準的な希釈剤では、これよりも少ない量のシリコーン系油と置き換わることしかできない:例えば、Hydroseal G250HおよびHydroseal G3Hでは約5%、Hydroseal G400Hでは約10%である。このように従来よりも多い量のシリコーン系油と置き換えられることは、処方コストの削減につながる。
【0100】
(実施例4)
この実施例では、本発明にかかる希釈剤の、シリコーン系接着剤における使用、特には、シラン変性ポリマー技術を利用した、寄木張り床用の接着剤の塗布における使用を記載する。詳細には、この実施例は、ST−PU(シラン末端ポリウレタン)に関する。
【0101】
以下の表14において、二種類の処方物を比較する:一方は、可塑剤としてDPHP(フタル酸ジ−2−プロピルヘプチル)系の可塑剤のみを用いたものであり、他方は、そのDPHPの一部が本発明にかかる希釈剤D2によって置き換えられた可塑剤が配合されている。
【0102】
【表16】

【0103】
これらの処方物を、GEV(ゲマインシャフト・エミッションコントリールテ・フェリーゲヴェルクシュトッフェ;「床材製品およびその敷設時の放出物抑制のための協会」)提案のEMICODE文書に述べられたVOC放散量の試験によって評価した。
【0104】
以下の表15から、希釈剤D2を配合した処方物は、フタル酸型の可塑剤が主に配合された処方物よりも総VOC放散を減少させることができ、EMICODE EC1の表示を得られることが分かる。
【0105】
【表17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを希釈するための炭化水素系希釈剤であって、
水素化脱ろうされた軽油留分の蒸留によって得られる沸点200℃超の炭化水素混合物で構成され、
イソパラフィン類を50重量%超と、
ナフテン類を40重量%以下と、を含み、
ASTM D97規格に準拠した流動点が−15℃未満であり、かつ、沸点が280〜450℃である、炭化水素系希釈剤。
【請求項2】
請求項1において、ASTM D445規格に準拠した40℃での粘度が5mm/s超、好ましくは7mm/s超であることを特徴とする、炭化水素系希釈剤。
【請求項3】
請求項1または2において、常圧蒸留、真空蒸留、水素化処理、水素化分解、接触分解、およびビスブレーキング法のうちの少なくとも1つによって得られる軽油留分混合物の水素化脱ろうに由来するか、あるいは、バイオマス変換に由来し、任意で、それらよりも先に脱硫および/または芳香族化合物の除去処理が施されていることを特徴とする、炭化水素系希釈剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、ナフテン類の含有量が10重量%を超えていることを特徴とする、炭化水素系希釈剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、ASTM D97規格に準拠した流動点が−30℃未満であり、かつ、引火点が140℃超の、水素化脱ろうされた炭化水素混合物の蒸留留分に由来することを特徴とする、炭化水素系希釈剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項において、ナフテン類の含有量が20〜35重量%であり、イソパラフィン類の含有量が60重量%超であることを特徴とする、炭化水素系希釈剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項において、イソパラフィン類の含有量が65重量%超であり、n−パラフィン類の含有量が10重量%未満であることを特徴とする、炭化水素系希釈剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、炭素数16〜22の鎖長の炭化水素化合物の含有量が65重量%未満であり、炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の含有量が30重量%超であり、好ましくは、前記炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の鎖長がC22〜C30であることを特徴とする、炭化水素系希釈剤。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、炭素数16〜22の鎖長の炭化水素化合物の含有量が50重量%未満であり、炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の含有量が40重量%超であり、好ましくは、前記炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の鎖長がC22〜C30であることを特徴とする、炭化水素系希釈剤。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項において、n−パラフィン類が含まれていないことを特徴とする、炭化水素系希釈剤。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項において、硫黄分が10ppm未満、好ましくは2ppm未満であることを特徴とする、炭化水素系希釈剤。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項において、紫外分光法によって測定される芳香族分が500ppm未満であることを特徴とする、炭化水素系希釈剤。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の炭化水素系希釈剤と、
炭素数が16を超える炭素鎖を有する脂肪酸の酸およびエステル、ならびに水素化分解および/または水素化処理された軽油系の、沸点200〜450℃、特には、280〜450℃の留分からなる群から選択される、少なくとも1種の希釈剤と、
の組合せを含む、希釈剤組成物。
【請求項14】
請求項13において、イソパラフィン類の含有量が50重量%超であり、かつ、n−パラフィン類の含有量が20重量%未満であり、好ましくは、イソパラフィン類の含有量が60重量%超であり、かつ、n−パラフィン類の含有量が10重量%未満であることを特徴とする、希釈剤組成物。
【請求項15】
請求項13または14において、水素化脱ろうされた希釈剤の含有量が40重量%超、好ましくは60重量%超であることを特徴とする、希釈剤組成物。
【請求項16】
請求項1から12のいずれか一項に記載の炭化水素系希釈剤によって希釈された、ポリマーまたは樹脂の組成物、好ましくは、建築材料用のポリマーまたは樹脂の組成物、特には、建築材料、接着剤、床材、壁紙、またはマスチック用の樹脂の組成物、特には、シリコーン系または変性シリコーンポリマー系のマスチックまたは接着剤用の樹脂の組成物。
【請求項17】
請求項1から12のいずれか一項に記載の水素化脱ろうされた炭化水素系希釈剤単独での使用、あるいは、炭素数が16を超える炭素鎖を有する脂肪酸の酸およびエステル、ならびに水素化分解および/または水素化処理された軽油系の、沸点200〜450℃、特には、280〜450℃の留分を含む群から選択される、少なくとも1種の希釈剤との組合せの使用であって、建築材料、接着剤、床材、壁紙、またはマスチック用の樹脂を希釈するための使用、特には、シリコーン系または変性シリコーンポリマー系のマスチックまたは接着剤を希釈するための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−520369(P2012−520369A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553497(P2011−553497)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050425
【国際公開番号】WO2010/103244
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(505036674)トータル・ラフィナージュ・マーケティング (39)
【Fターム(参考)】