説明

建築用結晶化ガラス物品及びその製造方法

【課題】意匠面に、新規な模様を有する建築用の結晶化ガラス物品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】建築用結晶化ガラス物品10は、表面から内部に向かって針状の結晶が析出した複数の結晶化ガラス小領域が、互いに融着しており、意匠面10aに、凹凸模様10b(10c)を有し、かつセラミックス粉末が露出して艶消し面になっている。また、本発明の製造方法は、軟化点より高温で熱処理すると、軟化変形しながら表面から内部に向かって針状の結晶が析出する結晶性ガラス小体の多数個に、セラミックス粉末を混合し、該混合物を耐火容器内に集積し、熱処理して軟化点よりも高い温度に保持することにより、結晶性ガラス小体を相互に融着一体化させつつ、表面から内部に針状の結晶を析出させて建築用結晶化ガラス物品10を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外装材や内装材及び装飾材に用いることができる建築用結晶化ガラス物品と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、結晶化ガラスからなる大理石様の建材は、表面が光沢を有するフラットな建材が主流であり、凹凸模様のあるものは、殆どなかった。また、表面に凹凸模様を形成した結晶化ガラス建材は、機械加工などの2次的な加工を施した高価なものであり、加熱、焼成だけで結晶化ガラス建材に凹凸模様をつけたものはごく少数であった。
【0003】
例えば、特許文献1には、結晶性ガラス粒と非晶質ガラスの混合による天然石模様の装飾ガラスの開示がある。また、特許文献2には、板引き時に使用する成形ロールに凹凸をつけて製品に凹凸模様を形成した結晶性ガラスの開示がある。さらに、特許文献3には、集積法による結晶化ガラスの表面の凸部を研磨する製造方法の開示がある。また、特許文献4には、耐火性の棚板の凹凸を利用し、接触面に凹凸模様を形成した結晶化ガラスの開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−226224号公報
【特許文献2】特開2009−149468号公報
【特許文献3】特開平10−152334号公報
【特許文献4】特開平7−109132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の装飾ガラスでは、凹凸模様に関する開示がない。また、特許文献2の成形ロールに凹凸をつけ、製品に転写する方法では、単調な同じパターンの繰り返し模様となる。さらに、特許文献3の表面凸部を研磨する製造方法には、凹凸模様にする具体的な方法が記載されていない。また、特許文献4の棚板の凹凸を利用した裏面凹凸模様では、細かい凹凸模様を形成することができない。このように、従来の結晶化ガラス物品の模様においては、模様としての深みがない。
【0006】
本発明は、意匠面に、新規な凹凸模様を有して装飾建材に好適な結晶化ガラス物品を提供すること、及び多数個の結晶性ガラス小体を加熱、焼成により、意匠面に、結晶性ガラス小体の粒径に起因する新規な凹凸模様を形成する建築用結晶化ガラス物品の製造方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決するためになされた本発明に係る建築用結晶化ガラス物品は、表面から内部に向かって針状の結晶が析出した複数の結晶化ガラス小領域が互いに融着している結晶化ガラス物品であって、意匠面に、凹凸模様を有し、かつ該意匠面が、表面に露出したセラミックス粉末により艶消し面になっていることを特徴とする。
【0008】
本発明の建築用結晶化ガラス物品は、意匠面に、凹凸模様を有し、かつその意匠面が、従来の結晶化ガラス物品のような平滑な光沢面ではなく、凹凸模様を含む表面にセラミックス粉末が露出して艶消し面になっている新規な外観を有するものである。また、本発明では、セラミックス粉末は、単に意匠面に付着させたものとは異なり、結晶化ガラスの表面に露出しているものであって、意匠面の凹凸模様を研磨除去すると、その直下の結晶化ガラス小領域間の界面に、セラミックス粉末が存在するものである。
【0009】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品は、意匠面に、十分な量のセラミックス粉末が存在して露出してなることが、表面が艶消し面になっている凹凸模様を形成する上で好ましい。しかし、意匠面に露出するセラミックス粉末は、結晶化ガラス物品全体に存在する必要はない。つまり、意匠面の凹凸模様が形成されている層内に存在していればよい。また、意匠面に露出するセラミックス粉末としては、結晶化ガラスに完全に溶けてしまわずに、結晶化ガラス表面に滞留するものであれば使用可能である。
【0010】
この意匠面の凹凸模様を形成する結晶化ガラスとしては、針状結晶を析出し、建材としての強度及び耐候性を有するものであればよい。具体的には、物品本体の内部と同じ組成の結晶化ガラスや、内部の結晶化ガラスとはあまり膨張係数の間に差が生じない範囲(例えば10×10−7/K未満の差)で異なる組成を有する結晶化ガラス等である。
【0011】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品は、意匠面に形成された前記凹凸模様が、下部が相互に融着している多数個の粒状突起により形成される粒状凸模様であることを特徴とする。
【0012】
意匠面に形成されている粒状凸模様としては、例えば、多数個の粒状をした凸部の下部が相互に融着した突起により構成されている凸模様である。この粒状凸模様の表面にもセラミックス粉末が露出して艶消し面になっている。この粒状凸模様の融着部からの平均高さが1mm未満であると、新規な粒状凸模様として認識し難いものとなる。一方、3mmを超えると、下部の融着面積が小さくなり粒状凸模様の部分が欠損しやすくなる。本発明の結晶化ガラス物品の意匠面の粒状凸模様は融着部からの平均高さが1〜3mmであることが好ましい。
【0013】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品は、意匠面に形成された前記凹凸模様が、独立凹状模様であることを特徴とする。
【0014】
意匠面に形成されている独立凹状模様としては、例えば、凹部が不規則に形成されており、かつ表面にセラミックス粉末が露出して艶消し面になっている独立した凹状の模様となっているものである。この独立凹状模様の平均深さが0.5mm未満であると、模様として認識し難いものとなる。一方、平均深さが2mmを超える場合には、粒状凸模様が残っており、凹部として成立し難くなる。独立凹状模様の平均深さが1mm以上であることが、模様として認識され易くなるので好ましい。
【0015】
また、建築用結晶化ガラス物品において、表面から内部に向かって針状の結晶が析出した複数の結晶化ガラス小領域が互いに融着している結晶化ガラス物品であるとは、β−ウォラストナイトやディオプサイド等の針状の結晶が、小領域間の界面に位置する結晶化ガラス小領域の表面から内部に向けて析出しているものであり、このような多数の結晶化ガラス小領域が相互に融着しているものである(例えば図4参照)。また、建材として要求される強度を有する点、及び研磨等の加工表面が大理石様の外観を呈する点で、β−ウォラストナイトを析出する結晶化ガラスが好適である。
【0016】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品は、前記セラミックス粉末がタルク粉末又はアルミナ粉末であり、前記結晶化ガラスが、質量百分率表示でSiO 59〜63%、Al 6〜7%、CaO 14〜18%、ZnO 5〜7%、BaO 4〜5%、KO 2〜3%、NaO 3〜4% B 0.3〜1.0%、Sb 0.2〜0.5%の組成を含有してなることを特徴とする。
【0017】
本発明の建築用結晶化ガラス物品は、意匠面に露出するセラミックス粉末としては、新規な艶消し凹凸模様を形成するうえで、タルク(3MgO・3SiO・HO)粉末、又はアルミナ(Al)粉末が好ましい。セラミックス粉末の種類については、表面分析その他の既知の分析方法により特定することができる。
【0018】
また、上記結晶化ガラス物品の組成を特定した理由を以下に説明する。
【0019】
SiOが63%より多いと、ガラスの溶融温度が高くなるとともに、粘度が増大して熱処理時の流動性が悪くなる傾向になる。一方、59%より少ないと成型時の失透性が強くなる傾向になる。SiOの含有量は59〜63%であることが好ましい。
【0020】
Alが7%より多いと、ガラスの溶解性が悪くなるとともに異種結晶(例えば、アノーサイト)が析出し熱処理時の流動性が悪くなる傾向になる。一方、Alが6%より少ないと失透性が強くなり化学的耐久性も低下する傾向になる。Alの含有量は6〜7%であることが好ましい。
【0021】
CaOが18%よりも多いと、失透性が強くなり成形が困難となる傾向になり、又β−ウォラストナイト結晶の析出量が多くなり過ぎて所望の表面平滑性が得難くなる。一方、CaOが14%より少ないとβ−ウォラストナイトの析出量が少なくなり過ぎて機械的強度が低下する傾向になる。CaOの含有量は14〜18%であることが好ましい。
【0022】
ZnOは、結晶化時のガラスの流動性を促進するために添加する成分である。結晶化ガラスのZnOが7%より多いとβ−ウォラストナイト結晶が析出し難くなる傾向になる。ZnOの含有量は5〜7%であることが好ましい。
【0023】
BaOもZnOと同様のガラスの流動性を促進する効果を示す成分である。結晶化ガラスのBaOが4%より少ないと、流動性が悪くなり、表面平滑性が得られない傾向になる。一方、BaOが5%より多いと、β−ウォラストナイト結晶の析出量が少なくなる傾向になる。BaOの含有量は4〜5%であることが好ましい。
【0024】
Oが3%より多いと、化学的耐久性が低下する傾向になる。KOの含有量は2〜3%であることが好ましい。
【0025】
NaOが4%よりも多いと、科学的耐久性が悪くなり、かつ膨張係数が高くなる傾向になり、好ましくない。3%より少ないとガラスの粘性が増大して溶解性や流動性が悪くなる傾向になる。NaOの含有量は、3〜4%であることが好ましい。
【0026】
が0.3%より少ないと、ガラスの流動性が悪くなり、表面平滑性が得られない傾向になる。一方、Bが1.0%より多いと異種結晶が析出し、所望の特性が得られなくなる傾向になる。Bの含有量は0.3〜1.0%であることが好ましい。
【0027】
Sbは、清澄剤であり、その含有量が0.2%未満であると、ガラスの溶解性が低下し、ガラスの品位が悪化する傾向になる。Sbの含有量は0.2〜0.5%であることが好ましい。
【0028】
本発明に係る建築用結晶化ガラス物品の製造方法は、軟化点より高い温度で熱処理すると、軟化変形しながら表面から内部に向かって針状の結晶が析出する結晶性ガラス小体の多数個に、セラミックス粉末を混合する混合工程と、該混合物を耐火容器内に集積する集積工程と、該集積物を加熱して軟化点よりも高い温度に保持することにより、結晶性ガラス小体を相互に融着一体化させつつ、表面から内部に向かって針状の結晶を析出させる熱処理工程とを有し、意匠面に、結晶性ガラス小体の粒径に起因する凹凸模様を形成するとともに、該意匠面に前記セラミックス粉末を露出させて艶消し面にすることを特徴とする。
【0029】
意匠面に、結晶性ガラス小体の粒径に起因する凹凸模様を形成する際には、例えば、混合工程として、表層に位置する結晶性ガラス小体に対してセラミックス粉末を混合しておく。この結晶性ガラス小体を熱処理して軟化させ、互いに融着させる時に、結晶性ガラス小体表面に付着したセラミックス粉末が結晶性ガラス小体相互の融着を阻害し、結晶性ガラス小体の粒径に起因する形状を有する凹凸模様を形成するものである。この際、結晶性ガラス小体に付着させたセラミックス粉末が表面に露出して凹凸模様を形成した意匠面艶消し面とするものである。
【0030】
凹凸模様としては、融着部からの高さが約1〜3mmの結晶化ガラスからなり下部が相互に融着している粒状の凸模様と、前記粒状凸模様が形成された結晶化ガラス物品を更なる加熱処理により、複数の粒状凸模様が繋がって、粒状の凸模様の間の凹部が孤立状態となり、埋まっていく途中で固化させることで表面にセラミックス粉末が露出して艶消し面になっている独立した凹状の模様深さが約0.5〜2mmの多数個の独立凹状模様の何れかが形成される。
【0031】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品の製造方法は、前記セラミックス粉末がタルク粉末又はアルミナ粉末であり、結晶性ガラス小体に対するタルク粉末又はアルミナ粉末等のセラミックス粉末の混合割合を1質量%〜3質量%の範囲内で適宜変更することにより、前記凹凸模様の高低差を調節することを特徴とするものである。具体的には、粒状凸模様の平均高さを1mmから3mmの範囲で、又は独立凹状模様の平均深さを0.5mmから2mmの範囲で調節することが好ましい。
【0032】
本発明では、意匠面に、結晶性ガラス小体の粒径に起因する凹凸模様を形成するうえで、結晶性ガラス小体に混合するセラミックス粉末として、ガラスの離型剤としての機能を有し、結晶性ガラス小体の流動性を阻害して融着を妨げる作用を発揮するタルクの粉末、又はアルミナの粉末の何れかを使用することが好ましい。また、意匠面を適度な表面粗さの艶消し面にするうえで、粒径が10μm以下のタルク粉末、又はアルミナ粉末を混合することが更に好ましい。さらに、結晶性ガラス小体に適度な流動性を許容して平滑な凹凸模様を形成するうえで、タルク粉末を使用することが好ましい。
【0033】
また、結晶性ガラス小体に対するセラミックス粉末の混合割合が1質量%未満であると、意匠面の結晶性ガラス小体同士が融着し過ぎて凹凸模様の形成が不十分となる。一方、3質量%を超えると、意匠面の結晶性ガラス小体同士が十分に融着されず、意匠面に模様の欠損が生じやすくなる。セラミックス粉末の混合割合としては、1〜3質量%の範囲が好適である。
【0034】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品の製造方法は、前記結晶性ガラス小体の粒径を10mm〜20mmの範囲内で適宜選択することにより、前記意匠面の凹凸模様の高低差を調節することを特徴とする。
【0035】
高低差の大きい凹凸模様を形成する場合、結晶性ガラス小体の大きさが10mm未満であると、意匠面の粒状凸模様の間の凹部の深さが浅くなり、数m離れた位置からは模様としてはっきりせず不明確となる。一方、結晶性ガラス小体の大きさが20mmを超えると、粒状凸模様の間に形成される凹部の深さが深くなりすぎて、付着した汚れの除去が困難になり、清掃性に劣る。この結晶性ガラス小体の粒径は、篩で分級することにより10mm〜20mmの範囲内で選択することが好ましい。
【0036】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品の製造方法は、熱処理工程以前の工程において、金属酸化物の着色剤を使用することを特徴とするものであり、金属酸化物の着色剤を付着された前記結晶性ガラス小体を使用することが発色を安定させるうえで好ましい。また、色調の調節や、カラーバリエーションを増やす上で、2種類以上の着色された結晶性ガラス小体を使用することが好ましい。
【0037】
また、本発明では、着色剤としては、遷移金属酸化物のCo、NiO、Fe、MnO、SnO、ZrOの何れかを含む無機顔料よりなることが、ガラスの流動性を阻害しない点で好ましい。この着色剤が、Coの場合、青色を呈し、NiOの場合、黄土色を呈し、Feの場合、赤褐色を呈し、MoOの場合、乳白色を呈し、SnOの場合、ピンク色を呈し、ZrOの場合、白色を呈するものになる。また、これらの着色剤を組み合わせることで、様々な色を呈する結晶化ガラス物品を得ることができる。さらに、他の酸化物着色剤と組み合わせて用いると、多くの彩色が可能となる。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る建築用結晶化ガラス物品は、意匠面に、凹凸模様を有し、かつ該意匠面が、セラミックス粉末が露出して艶消し面になっているので、表面に新規な装飾模様が形成された意匠面を有する建築用装飾材を提供することができる。
【0039】
本発明に係る建築用結晶化ガラス物品の製造方法は、上記の混合工程と、集積工程と、熱処理工程とを有し、意匠面に、結晶性ガラス小体の粒径に起因する凹凸模様を形成するとともに、該意匠面に前記セラミックス粉末を露出させて艶消し面にするので、本発明の結晶化ガラス物品を効率よく安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の建築用結晶化ガラス物品の斜視写真。
【図2】本発明の建築用結晶化ガラス物品の平面写真。
【図3】タルク粉末を使用した建築用結晶化ガラス物品の側面写真であって、(A)は1%、(B)は2%、(C)は3%混合品。
【図4】本発明の建築用結晶化ガラス物品の意匠面を研磨して拡大した粒界の模式図。
【図5】アルミナ粉末を使用した建築用結晶化ガラス物品の側面写真であって、(A)は1%、(B)は2%、(C)は3%混合品。
【図6】本発明の他の実施例に係る建築用結晶化ガラス物品の部分破断説明図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0042】
まず、質量百分率表示で、SiO 61.5%、Al 6.5%、CaO 16%、ZnO 5.5%、BaO 4%、KO 2%、NaO 3.5% B 0.5%、Sb 0.5%の組成を含有してなる平均粒径が約15mmの結晶性ガラス小体Aに、粒径が10μm以下のタルク(3MgO・3SiO・HO)の微粉末を、質量比で1%、2%、3%の各混合割合で混合した3種類のガラス小体材料を準備する。
【0043】
次いで、50mm×85mm×深さ10mmの耐火物容器に、離型剤としてセラミックペーパーを内面に敷く。準備した3個の各耐火物容器に、混合された3種類の各結晶性ガラスを約100g容器一杯に入れて充填する。ローラーキルンなどの焼成炉に、結晶性ガラス小体が充填された耐火物容器を投入し、結晶性ガラス小体Aが十分流動する最高温度1070℃〜1090℃、約1時間保持した後、徐々に温度を下げて冷却する。
【0044】
図1上方側、図2右列、図3に示すように、でき上がった建築用結晶化ガラス物品10は、タルクの含有量がそれぞれ1%、2%、3%と増えるにつれて、結晶性ガラス小体の融着が阻害され、タルクの微粉末が露出して艶消しの意匠面10aには、平均深さが1.2mmの多数個の独立凹状模様10c(タルク:1%)、から粒状凸模様10bの融着部から突出している平均高さが約1.5mm、約2.6mmへと徐々に模様の粒の形状が素材の結晶性ガラス小体の形状に近い独立性が強い模様になっている。図4に、この結晶化ガラス物品10の意匠面10aを研磨して粒状凸模様10bの凸部を除去した直下の表面を拡大した模式図で示す。結晶化ガラス小領域Gには、界面Hから内部に向かって主結晶として針状結晶のβ−ウォラストナイトKが析出している。結晶化ガラス物品10は、多数個の結晶化ガラス小領域Gが互いに融着した集合体よりなるものである。この結晶化ガラス小領域G間の界面Hには、タルクの微粉末を含有している。
【実施例2】
【0045】
また、上記と同組成の結晶性ガラス小体Aに、粒径が10μm以下のアルミナ(Al)の微粉末を、質量比で1%、2%、3%の各混合割合で混合した3種類のガラス小体材料を準備する。
【0046】
次いで、50mm×85mm×深さ10mmの耐火物容器に離型剤としてセラミックペーパーを内面に敷く。準備した3個の各耐火物容器に、混合された3種類の各結晶性ガラスを約100g容器一杯に入れて充填する。焼成炉(ローラーキルンなど)に結晶性ガラス小体が充填された耐火物容器を投入し、結晶性ガラス小体Aが十分流動する最高温度1070℃〜1090℃、約1時間保持した後、徐々に温度を下げて冷却する。
【0047】
また、図1下方側、図2左列、図5に示すように、アルミナの含有量がそれぞれ1%、2%、3%と増えるにつれて、結晶性ガラス小体の融着が極度に阻害され、粒状凸模様20bの融着部から突出している平均高さが約1.3mm、約2.1mm、約2.8mmへと徐々に模様の独立の程度が強くなる。意匠面20aには、アルミナの微粉末が露出しており、タルク混合品と比較するとザラザラ感が強く、艶消し度合いの強い粒状凸模様20bを形成することができた。特に、アルミナの含有量が3%のものは、上部が結晶性ガラス小体の形状のまま下部のみ溶着しているような外観である。この結晶化ガラス物品20の意匠面20aを研磨した結晶化ガラス小領域間の界面には、アルミナの微粉末を含有している。
【実施例3】
【0048】
実施例3として、図6に示す意匠面を有する上層U部分のみにタルク微粉末を1%混合した結晶性ガラス小体を使用する例を説明する。
【0049】
まず、耐火物の平板(棚板:1120mm×1400mm×t22mm)に離型剤としてアルミナを水に分散させたスラリーを耐火物表面に塗布する。次いで、あらかじめアルミナが塗布された耐火物の角材(30mm×30mm×1200mmと、30mm×30mm×900mm)を棚板の上にセットし、型枠を形成する。また、結晶性ガラス小体Aに、紺色を発色するCoの着色剤を0.01質量%付着させ、この結晶性ガラス小体Aに、粒径が10μm以下のタルク微粉末を質量比で1%混合しておく。
【0050】
製品の強度を確保するために、セットされた耐火物の型枠に、着色剤及びタルクを含まない結晶性ガラス小体Aのみを、最終製品厚みの約2/3(約10mm分)換算の質量を秤量し、型枠内に敷き詰めて充填(下層Lの形成材料)する。
【0051】
次に、タルクを1%混合したCo付着結晶性ガラス小体Aを、最終製品厚みの約1/3(約5mm換算)の質量を秤量し、型枠内の結晶性ガラス小体A上に敷き詰め、充填(上層Uの形成材料)する。次いで、焼成炉、例えば、ローラーキルンに、耐火物型枠ごと投入し、軟化点の低い結晶性ガラス小体Bが十分流動する最高温度1070℃〜1090℃、約1時間保持した後、徐々に温度を下げて冷却する。
【0052】
でき上がりの結晶化ガラス物品30は、図6に示すように、意匠面及び結晶化ガラス小領域間の界面にタルクの微粉末を含有した上層Uと、結晶化ガラス小領域間の界面に全くセラミックス粉末を含有していない下層Lが融着して一体化しており、従来の結晶化ガラス物品とほぼ同等の強度を有し、かつ、紺色の上層Uの意匠面に、図2右列上のタルク1%品の写真に示すような、平均深さが0.8mmの多数個の独立凹状模様が形成された新規な意匠面を有している。
【0053】
上記結晶化ガラス物品の粒状凸模様10b、20bの平均高さ寸法は、マイクロメータヘッド付きのスライドテーブルを備えた工具顕微鏡で、任意の粒状凸模様の頂部から下部の融着している部位までの高さを10点以上測定し、平均値とした。また、独立凹状模様10cの深さ寸法は、先端が尖った形状のデプスゲージにて10点以上測定し、平均値とした。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、研削等の冷間加工を行うことなく、意匠面に、結晶性ガラス小体の粒径に起因する凹凸模様を形成した結晶化ガラス物品が得られる。
【符号の説明】
【0055】
10、20、30 建築用結晶化ガラス物品
10a、20a 意匠面
10b、20b 粒状凸模様
10c 独立凹状模様
G 結晶化ガラス小領域
H 結晶化ガラス小領域間の界面
K β−ウォラストナイト(針状結晶)
L 下層
U 上層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から内部に向かって針状の結晶が析出した複数の結晶化ガラス小領域が互いに融着している結晶化ガラス物品であって、
意匠面に、凹凸模様を有し、かつ該意匠面が、表面に露出したセラミックス粉末により艶消し面になっていることを特徴とする建築用結晶化ガラス物品。
【請求項2】
意匠面に形成された前記凹凸模様が、下部が相互に融着している多数個の粒状突起により形成される粒状凸模様であることを特徴とする請求項1に記載の建築用結晶化ガラス物品。
【請求項3】
意匠面に形成された前記凹凸模様が、独立凹状模様であることを特徴とする請求項1に記載の建築用結晶化ガラス物品。
【請求項4】
前記セラミックス粉末がタルク粉末又はアルミナ粉末であり、前記結晶化ガラスが、質量百分率表示でSiO 59〜63%、Al 6〜7%、CaO 14〜18%、ZnO 5〜7%、BaO 4〜5%、KO 2〜3%、NaO 3〜4% B 0.3〜1.0%、Sb 0.2〜0.5%の組成を含有してなることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の建築用結晶化ガラス物品。
【請求項5】
軟化点より高い温度で熱処理すると、軟化変形しながら表面から内部に向かって針状の結晶が析出する結晶性ガラス小体の多数個に、セラミックス粉末を混合する混合工程と、該混合物を耐火容器内に集積する集積工程と、該集積物を加熱して軟化点よりも高い温度に保持することにより、結晶性ガラス小体を相互に融着一体化させつつ、表面から内部に向かって針状の結晶を析出させる熱処理工程とを有し、意匠面に、結晶性ガラス小体の粒径に起因する凹凸模様を形成するとともに、該意匠面に前記セラミックス粉末を露出させて艶消し面にすることを特徴とする建築用結晶化ガラス建材の製造方法。
【請求項6】
前記セラミック粉末がタルク粉末又はアルミナ粉末であり、結晶性ガラス小体に対するセラミックス粉末の混合割合を、1質量%〜3質量%の範囲内で変えることにより、前記凹凸模様の高低差を調節することを特徴とする請求項5に記載の建築用結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項7】
前記結晶性ガラス小体の粒径を10mm〜20mmの範囲内で選択することにより、意匠面の前記凹凸模様の高低差を調節することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の建築用結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項8】
熱処理工程以前の工程において、金属酸化物の着色剤を使用することを特徴とする請求項5から請求項7の何れかに記載の建築用結晶化ガラス物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−136893(P2011−136893A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50(P2010−50)
【出願日】平成22年1月4日(2010.1.4)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】