説明

建築用装飾ガラス物品及びその製造方法

【課題】材料のガラス小体の形状を利用して意匠面に凹凸形状の模様を形成した透光性の装飾性に富む建築用装飾ガラス物品とその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の建築用装飾ガラス物品10は、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなる複数の透光性ガラス小体が互いに部分的に融着した透光不透視のガラス焼結体よりなり、意匠面10aに、透光性ガラス小体の形状に起因する0.2mm以上の高低差を有する表面起伏により凹凸模様が形成されている。また、本発明の製造方法は、耐火容器内に、粒径が0.3〜10mmの透光性ガラス小体を集積し、ガラスの粘度範囲が10〜107.6Pa・sの温度で熱処理することで建築用装飾ガラス物品10を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の間仕切りや間接照明用等に適する透光性を有して装飾性にも富む建築用装飾ガラス物品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築用ガラス物品には、化学的耐久性、機械的強度等の特性に優れており、また石材、人工石材の人研、陶板、タイル、着色ガラス等とは異なる新しい独特の外観を呈するデザインを追及する各種の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ソーダライムシリケートガラスの軟化点(720℃〜730℃)より、やや高いだけの低い焼結温度で、ガラス粒を焼結させて、強度が高く、装飾性に優れた装飾ガラスに関する開示がある。このような装飾ガラスを得ることを目的として、粒径が2mm〜10mmの範囲にあるガラスカレットを30〜85重量%以下と、粒径が0.8mm以下の範囲にあるガラス粉を15〜70重量%以下との混合物を、740℃以上、780℃以下の温度範囲で焼結させる装飾ガラスの製造方法に関する開示がある。
【0004】
また、特許文献2には、ガラス粒を原料とする装飾用ガラス焼結板であって、表面は前記ガラス粒の凹凸を保持し、裏面は透明部分と前記ガラス粒同士が融着した半透明部分が混在する装飾用ガラス焼結板の開示がある。この特許文献2には、棚板に粒径が0.5μm〜50μmの不透明化離型材を加圧することなく乾式散布し、この不透明化離型材が散布された棚板に、粒径1.6mm〜14mmの範囲が主となるよう粒度調整されたガラス粒を充填し、この充填したガラス粒を、軟化点を大きく上回らない最高焼成温度となるように温度調整した状態で焼成して装飾用ガラス焼結板を製造する方法の記載がある。
【0005】
また、特許文献3には、ガラスが、B−SiO系、Al−SiO系あるいはB−Al−SiO系ガラスよりなり、熱衝撃に強く、耐薬品性に優れ、熱処理工程における冷却時の熱衝撃や、激しい気温の変化による熱衝撃でも破損する事が無く、耐候性に優れている建材用ガラス物品の開示がある。さらに、特許文献2には、0.5〜50mmの大きさの薄片状、小片状または粒状のガラスを耐火性容器内に充填し、熱処理する建材用ガラス物品の製造方法の開示がある。
【0006】
さらに、特許文献4には、アルカリ金属酸化物の含有量が5質量%以下のガラスからなる多数のガラス粒を耐火性容器内に充填し、熱処理することによって各ガラス粒を融着一体化した建築用ガラス物品の開示がある。この建築用ガラス物品は、長期間にわたって建築物の外装材として使用しても、表面にアルカリ成分が析出することがなく、曇りが発生しないため、窓材、パーティション、化粧板等として好適であるとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−68763号公報
【特許文献2】特開2006−264999号公報
【特許文献3】特開2001−180953号公報
【特許文献4】特開2004−137141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の装飾ガラスは、ソーダライムシリケートガラスからなるので、屋外使用において空気中の炭酸ガス及び水分とガラス中のアルカリ成分が反応して装飾ガラスの表面が白色化する問題と、平均線膨張係数が85〜90×10−7/Kであるため熱割れを生じる問題がある。また、特許文献2に記載の建築用ガラス物品は、ガラス板やビンガラス及び蛍光灯ガラスなどのソーダ石灰系ガラスからなるので、特許文献1と同様に、屋外使用において空気中の炭酸ガス及び水分とガラス中のアルカリ成分が反応して装飾ガラスの表面が白色化する問題と、平均線膨張係数が85〜95×10−7/Kであるため熱割れを生じる問題がある。
【0009】
また、特許文献3、4に記載の建材用ガラス物品は、ガラス小体を完全に軟化流動させているので凹凸模様を形成できないものである。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、ガラス小体の形状を利用して意匠面に凹凸形状の模様を有する透光性の建築用装飾ガラス物品とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の建築用装飾ガラス物品は、複数の透光性ガラス小体が互いに部分的に融着したガラス焼結体よりなる建築用装飾ガラス物品であって、前記透光性ガラス小体が、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなり、前記ガラス焼結体が透光不透視であり、かつ意匠面に、前記透光性ガラス小体の形状に起因する0.2mm以上の高低差を有する表面起伏により凹凸模様が形成されてなることを特徴とする。
【0012】
建築用装飾ガラス物品のガラス焼結体に、JIS R−3502の規定に基づく測定によるアルカリ溶出量が0.3mgを超えるガラスよりなる透光性ガラス小体を使用すると、空気中の炭酸ガス及び水分とガラス表面から出てくるアルカリ成分とが反応してガラス表面に白色化現象が生じ、煌めき具合が悪くなる。さらに、アルカリ金属酸化物成分の含有量が0.1質量%以下の無アルカリガラスからなる透光性ガラス小体を使用することがより好ましい。
【0013】
また、本発明の建築用装飾ガラス物品において意匠面に形成される透光性ガラス小体の形状に起因する凹凸模様は、ガラス焼結体を構成する透光性ガラス小体が完全に流動を起こす前に、互いに接触している部分が融着され、その状態で硬化されることにより形成されるものである。ガラスの軟化点以上の温度で、且つ流動点未満の温度で熱処理されることにより、当初の透光性ガラス小体の鋭角部や突起部の先端が、引っ掻きや欠け等を起こすことない安全な若干の丸みをおびた火造りの鏡面になり、透光性ガラス小体の概略形状が維持されて0.2mm以上の高低差を有する表面起伏により凹凸模様が形成されているものである。この凹凸模様の高低差が全て0.2mm未満であると、透光性ガラスの凸部が小さくなるので、呈する光輝の度合いが小さく、意匠面として地味なものとなる。一方、凹凸模様の高低差が大きすぎると、人や物に引っかかって欠け不良を生じる虞がある。そのため、凹凸模様の高低差は10mm以下であることが、欠け不良を防止する上で好ましい。
【0014】
本発明の建築用装飾ガラス物品において透光性ガラス小体を構成するアルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスとしては、B−SiO系、Al−SiO系あるいはB−Al−SiO系ガラスよりなることが好ましい。即ち、B−SiO系、Al−SiO系あるいはB−Al−SiO系ガラスは、熱衝撃に強く、耐薬品性に優れているため、熱処理工程における冷却時の熱衝撃や、激しい気温の変化による熱衝撃でも破損する事が無く、またアルカリ溶出に伴うガラスの白色化も生じず、耐候性に優れているからである。
【0015】
また、建築用装飾ガラス物品において、ガラス焼結体の平均線膨張係数が80×10−7/Kを超えると、温度差でガラス物品が膨張・収縮することにより、破損が生じる虞がある。本発明の建築用装飾ガラス物品では、ガラス焼結体の平均線膨張係数が80×10−7/K以下であることが好ましい。
【0016】
また、建築用装飾ガラス物品のガラス焼結体を構成する複数の透光性ガラス小体間の平均線膨張係数の差が15×10−7/Kを超えると、温度変化によりガラス焼結体が破損する虞がある。本発明の建築用装飾ガラス物品では、ガラス焼結体を構成する複数の透光性ガラス小体間の平均線膨張係数の差が15×10−7/K以下であることが好ましい。
【0017】
また、建築用装飾ガラス物品の意匠面に凹凸模様を形成する透光性ガラス小体が軟化変形した粒体部の粒径が0.3mm未満であると、0.2mm以上の高低差を有する凹凸模様を形成することが困難になる。一方、粒体部の粒径が10mmを超えると凹凸模様の高低差が高くなりすぎて、欠け不良の原因となる。本発明の建築用装飾ガラス物品では、凹凸模様を構成する粒体部の粒径が0.3〜10mmであることが好ましい。
【0018】
また建築用装飾ガラス物品は、意匠面の面積が0.0025〜3mであると、面積が大きすぎず、正方形に換算すると□50mm〜□1.73mの寸法となり、取り扱いが容易な寸法になるので、建築現場での施工に適している。
【0019】
本発明の建築用装飾ガラス物品は、ガラス焼結体に着色剤を含有していると、多彩な色調表現が可能となり好ましい。本発明の建築用装飾ガラス物品は、着色剤がZrSiOやCo、MoO、Er、CeO、NiO、TiO、FeO、Feの群のうち1以上を含むものであると、容易にガラスに溶解する着色剤により、着色されているので、ガラスの流動性を阻害しない点で好ましい。また、ZrSiOなどのピグメントでも1質量%までならば着色剤として使用することができる。この着色剤がZrSiOの場合、乳白色を呈し、Coの場合、青色を呈し、MoOの場合、乳白色を呈し、Erの場合、桃色を呈し、CeOの場合、桃色を呈し、NiOの場合、黄土色を呈し、TiOの場合、黄色を呈し、FeOの場合、黒色を呈し、Feの場合、赤褐色を呈するものになる。また、これらのイオン系着色剤を組み合わせることで、様々な色を呈する焼結ガラス小体を得ることができる。さらに、他の酸化物着色剤と組み合わせて用いると、多くの彩色が可能となる。
【0020】
本発明の建築用装飾ガラス物品では、ガラス焼結体に発光材を含有していると、暗所及び夜間の意匠性の点で好ましい。本発明で使用する発光材としては、例えば、1000℃を超える焼成温度でも発光性を失わなければ使用可能であり、ZnSにCu、Al3+をドープした蛍光材等が適している。
【0021】
本発明の建築用装飾ガラス物品は、発光材が、蓄光材を含むものであると、夜間、暗所でも光源を使用することなく、従来にない奥行き感を備えた発光模様の外観を有する意匠性に優れた新規な建築用装飾ガラス物品を提供することが可能となる。本発明で使用する蓄光材としては、SrAlにEu2+、Dy3+をドープした蓄光材等が適している。
【0022】
本発明の建築用装飾ガラス物品は、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなる複数の透光性ガラス小体が互いに部分的に融着してなる透光不透視のガラス焼結体であって、意匠面側に、前記透光性ガラス小体の形状に起因する0.2mm以上の高低差を有する表面起伏により凹凸模様が形成されているガラス焼結体と、該ガラス焼結体の少なくとも一面に、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなり、透光性ガラス小体との平均線膨張係数の差が15×10−7/K以下で、且つ、可視光平均透過率が肉厚7mmで15%以上である透光性ガラス層が熔着されてなることを特徴とする。
【0023】
ガラス焼結体の少なくとも一面に、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなり、透光性ガラス小体との平均線膨張係数の差が15×10−7/K以下で、且つ、可視光平均透過率が肉厚7mmで15%以上である透光性ガラス層が熔着されてなるとは、JIS R−3502に基づくアルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなる透光性ガラス小体を軟化点以上の温度で熱処理して得られるガラス焼結体であって、建築用装飾ガラス物品の意匠面側に、透光性ガラス小体の形状に起因する0.2mm以上の高低差を有する表面起伏により凹凸模様が形成されてなるガラス焼結体と、その少なくとも一面に、同様なアルカリ溶出量及び線膨張係数を有する透明なガラス層が熔着されてなるものであることを意味している。この透光性ガラス層の可視光平均透過率が肉厚7mmで15%未満であると、建築用装飾ガラス物品の透光性が乏しくなり、透過照明を利用した演出をしても地味なものとなる。透光性ガラス層の可視光平均透過率は、肉厚7mmで15%以上であることが重要であり、さらに50%以上であることが好ましく、透過照明を最大限に利用する場合には70%以上であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の建築用装飾ガラス物品としては、ガラス焼結体の両面に、透光性ガラス層が熔着されているものであってもよく、さらに、透光性ガラス層の両面に、ガラス焼結体が熔着されており、その一方が、建築用装飾ガラス物品の意匠面側に0.2mm以上の高低差を有する凹凸模様が形成されているものでもよい。
【0025】
また、本発明の建築用装飾ガラス物品は、透光性ガラス層が、ガラス板または100〜1012個/kgの気泡を含有する緻密焼結層であることを特徴とする。
【0026】
本発明において、透光性ガラス層が、ガラス板であるとは、透光性ガラス層がガラス焼結体と近似した線膨張係数を有する同様なガラスからなる透明なガラス板であることを意味している。また、透光性ガラス層が、100〜1012個/kgの気泡を含有する緻密焼結層であるとは、緻密焼結層を構成するガラス中に、強度を大きく低下させることのない程度に、そのガラス1kg当たりに10〜1012個の0.01mm以上の直径を有する独立した微細な気泡を含有していることを意味している。この緻密焼結層のガラスが、気泡の数が1kgあたり100個よりも少ないものであると、上記の光散乱作用が十分に得られ難くなる。一方、緻密焼結層のガラスが1kgあたり1012個よりも多いものであると、肉厚7mmで可視光線の平均透過率が15%よりも低くなりやすくなるとともに、機械的強度が損なわれやすくなる。
【0027】
本発明では、ガラス中に封じ込められた多数の微細な気泡の光散乱作用により、上記本発明の肉厚を7mmとしたときの可視光の波長380〜780nmの範囲における平均透過率が15%〜85%であるガラスよりなる緻密焼結層を実現するものである。この緻密焼結層を形成する場合、耐火容器内に、透光性ガラス小体を集積し、透光性ガラス小体の集積体をガラスが十分に流動するガラスの粘度範囲が10Pa・s以下となる温度で熱処理することで、1kg当たりに10〜1012個の0.01mm以上の直径を有する独立した微細な気泡を含有するガラス小体の焼結体からなる緻密焼結層を形成する。
【0028】
本発明の建築用装飾ガラス物品の製造方法は、耐火容器内に、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなり、粒径が0.3〜10mmである複数の透光性ガラス小体を収容して集積体を形成する集積工程と、前記集積体をガラスの粘度範囲が10〜107.6Pa・sとなる温度で熱処理することで透光不透視のガラス焼結体を形成し、かつ意匠面に前記透光性ガラス小体の形状に起因する凹凸模様を形成する熱処理工程と、を有することを特徴とする。
【0029】
耐火容器内に収容する透光性ガラス小体の粒径が0.3mm未満であると、0.2mm以上の凹凸模様を形成することが困難である。一方、透光性ガラス小体の粒径が10mmを超えると、凹凸模様中の突出部が欠けやすくなる。建築用装飾ガラス物品を熱処理する前の透光性ガラス小体の粒径が0.3〜10mmであると、建築用装飾ガラス物品の意匠面に凹凸形状を表現しつつ、粒径の違いによる肉厚のバラつきを軽減できる。
【0030】
透光性ガラス小体の集積体を、ガラスの粘度が10Pa・s未満となる高い温度で熱処理すると、透光性ガラス小体が過剰に流動してしまい、ガラス小体の形状に起因する高低差が0.2mm以上の凹凸模様を形成することが困難になる。一方、ガラスの粘度が107.6Pa・sを超える低い温度で熱処理すると、透光性ガラス小体の鋭利な部分や突出形状に適度な丸みを帯びさせることができず、欠けが生じやすいものとなり、また透光性ガラス小体間の熔着が不十分となり、実用上の強度が不足することになる。
【0031】
また、本発明の建築用装飾ガラス物品の製造方法は、集積工程が、耐火容器内に、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなり、透光性ガラス小体との平均線膨張係数の差が15×10−7/K以下で、且つ、波長380〜780nmの範囲における平均透過率が肉厚7mmで15%以上である透光性ガラス板または100〜1012個/kgの気泡を含有する緻密焼結体よりなる透光性ガラス体を収容するものであることを特徴とする。
【0032】
集積工程が、耐火容器内に、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなり、透光性ガラス小体との平均線膨張係数の差が15×10−7/K以下で、且つ、波長380〜780nmの範囲における平均透過率が肉厚7mmで15%以上である透光性ガラス板または100〜1012個/kgの気泡を含有する緻密焼結体よりなる透光性ガラス体を収容するものであるとは、耐火容器内に、JIS R−3502に基づくアルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなり、熱処理後に透光性ガラス層となる上記の透光性ガラス板または緻密焼結体よりなる透光性ガラス体を収容し、その上にアルカリ溶出量が0.3mg下のガラスよりなり、粒径が0.3〜10mmである透光性ガラス小体を集積して集積体を形成し、次の熱処理工程で加熱することで、透光性ガラス層の少なくとも一面に、意匠面側に上記の凹凸模様を有する透光不透視のガラス焼結体が熔着された構造の建築用装飾ガラス物品を得るものである。
【0033】
また、集積工程が、耐火容器内の透光性ガラス小体よりなる集積体の上に、さらに上記の透光性ガラス板または緻密焼結体よりなる透光性ガラス体を収容するものであると、ガラス焼結体の両面に、透光性ガラス層が熔着されている建築用装飾ガラス物品を製造することができる。
【0034】
また、集積工程が、耐火容器内に、アルカリ溶出量が0.3mg下のガラスよりなり、粒径が0.3〜10mmである透光性ガラス小体を収容して集積体を形成し、その上に上記の透光性ガラス板または緻密焼結体よりなる透光性ガラス体を収容し、さらに、その上に透光性ガラス小体を収容して集積体を形成するものであると、透光性ガラス層の両面に、透光不透視のガラス焼結体が熔着されており、意匠面に0.2mm以上の高低差を有する凹凸模様が形成されてなる建築用装飾ガラス物品を製造することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の建築用装飾ガラス物品は、複数の透光性ガラス小体が互いに部分的に融着したガラス焼結体よりなる建築用装飾ガラス物品であって、前記透光性ガラス小体が、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなり、前記ガラス焼結体が透光不透視であり、かつ意匠面に、前記透光性ガラス小体の形状に起因する0.2mm以上の高低差を有する表面起伏により凹凸模様が形成されてなるので、耐候性に優れたガラス材質からなり光輝を呈する凹凸模様に、長期間にわたって美観を維持することが可能な装飾性に富む建築用装飾ガラス物品を実現することができる。
【0036】
また、本発明の建築用装飾ガラス物品は透光性を有しているが不透視性であるため、プライバシーの確保が可能であり、空間の間仕切りとして使用することに適している。さらに、本発明の建築用装飾ガラス物品は透光不透視性を有しているため、本ガラス物品を介して照明のランプの外観形状を隠すことができ、その光線は凹凸模様により拡散して透過光が煌めくので照明演出に適している。
【0037】
本発明の建築用装飾ガラス物品は、ガラス焼結体の平均線膨張係数が80×10−7/K以下であり、ガラス焼結体を構成する複数の透光性ガラス小体間の平均線膨張係数の差が15×10−7/K以下であるので、温度上昇による熱割れを生じることがない。
【0038】
本発明の建築用装飾ガラス物品は、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなる複数の透光性ガラス小体が互いに部分的に融着してなる透光不透視のガラス焼結体であって、かつ意匠面側に、前記透光性ガラス小体の形状に起因する0.2mm以上の高低差を有する表面起伏により凹凸模様が形成されているガラス焼結体と、該ガラス焼結体の少なくとも一面に、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなり、透光性ガラス小体との平均線膨張係数の差が15×10−7/K以下で、且つ、可視光平均透過率が肉厚7mmで15%以上である透光性ガラス層が熔着されてなるので、装飾性を備え、さらに透光性ガラス層により強度が向上し、防汚性、清掃性及び施工性に優れた建築用装飾ガラス物品を実現することができる。
【0039】
本発明の建築用装飾ガラス物品の製造方法は、耐火容器内に、アルカリ溶出量が0.3mg下のガラスよりなり、粒径が0.3〜10mmである透光性ガラス小体を収容して集積体を形成する集積工程と、前記集積体をガラスの粘度範囲が10〜107.6Pa・sとなる温度で熱処理することで透光不透視のガラス焼結体を形成し、かつ意匠面に前記透光性ガラス小体の形状に起因する凹凸模様を形成する熱処理工程と、を有するので、上記本発明の建築用装飾ガラス物品を効率よく製造することが可能となる。
【0040】
また、本発明の建築用装飾ガラス物品の製造方法は、集積工程が、耐火容器内に、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなり、透光性ガラス小体との平均線膨張係数の差が15×10−7/K以下で、且つ、波長380〜780nmの範囲における平均透過率が肉厚7mmで15%以上である透光性ガラス板または100〜1012個/kgの気泡を含有する緻密焼結体よりなる透光性ガラス体を収容するものであると、意匠面側に、前記透光性ガラス小体の形状に起因する0.2mm以上の高低差を有する表面起伏により凹凸模様が形成されているガラス焼結体と、該ガラス焼結体の少なくとも一面に、透光性ガラス小体との平均線膨張係数の差が15×10−7/K以下で、且つ、可視光平均透過率が肉厚7mmで15%以上である透光性ガラス層が熔着されてなる上記本発明の建築用装飾ガラス物品を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の建築用装飾ガラス物品の写真であって、(A)は平面の写真、(B)は側面の写真、(C)は(B)の要部拡大写真。
【図2】本発明の他の建築用装飾ガラス物品の写真であって、(A)はNiOを0.1質量%添加したものの平面の写真。(B)はCoOを0.01重量%添加したものの平面の写真。
【図3】本発明の他の建築用装飾ガラス物品の写真であって、(A)は明るい場所での平面の写真(B)は暗所で発光している写真。
【図4】本発明の他の建築用装飾ガラス物品の写真であって、(A)は平面の写真、(B)は断面の写真、(C)は(B)の概念図。
【図5】本発明の他の建築用装飾ガラス物品の写真であって、(A)は照明を透過させた建築用装飾ガラス物品の写真、(B)は照明を透過させた透明ガラス板の写真。
【図6】従来の建築用ガラス物品の写真。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の建築用装飾ガラス物品及びその製造方法について、以下に実施例をあげて説明する。
【実施例1】
【0043】
図1(A)〜(C)に示すように、本実施例1の建築用装飾ガラス物品10は、厚みが7〜10mmで、100mm×100mmの正方形をした板状の物品であり、意匠面10aに形成されているガラス焼結体10bの若干丸みを帯びた表面起伏による凹凸模様10cの高低差は0.2mm以上で最大3mmであり、ガラス焼結体を構成する透光性ガラス小体が軟化変形した粒体部の粒径が2〜7mmである。このガラス焼結体のガラスは、JIS R−3502に基づくアルカリ溶出量が0.01mgであるAl−SiO系の無アルカリガラスである。ガラス焼結体の平均線膨張係数が42×10−7/Kであり、ガラス焼結体を構成する透光性ガラス小体間の平均線膨張係数の差は3×10−7/Kである。
【0044】
本発明の建築用装飾ガラス物品10の製造方法は、耐火容器内にアルミナペーパーを敷き、100mm角の器状に形成する。この中に粒径が2〜7mmの透光性ガラス小体を210g投入する。これを加熱炉内で、ガラスの粘度範囲が10〜107.6Pa・sとなるガラスの軟化点950℃より30K高い最高温度980℃、1時間保持し、透光性ガラス小体を互いに熔着一体化させる。
【実施例2】
【0045】
図2(A)の本実施例2の建築用装飾ガラス物品20は、100mm×100mmの正方形をした厚みが7〜10mmの板状のガラス焼結体であり、意匠面20aに透光性ガラス小体の形状に起因する表面起伏による若干丸みを帯びた凹凸模様が形成されており、その高低差は0.2mm以上で最大3mmである。建築用装飾ガラス物品20は、粒径が2〜7mmの透光性ガラス小体に、着色剤としてCoOを0.01質量%混合して熔着一体化したものであって、全体に青色を呈している。また、図2(B)の建築用装飾ガラス物品30は、100mm×100mmの正方形をした厚みが7〜10mmの板状のガラス焼結体であり、意匠面30aの凹凸模様の高低差は0.2mm以上で最大3mmである。建築用装飾ガラス物品30は、粒径が2〜7mmの透光性ガラス小体に、着色剤としてNiOを0.1質量%混合して熔着一体化したものであって、全体に緑色を呈している。これら建築用装飾ガラス物品20、30は、実施例1と同じガラスからなる透光性ガラス小体を使用したものである。
【実施例3】
【0046】
図3(A)に示すように、本実施例3の建築用装飾ガラス物品40は、100mm×100mmの正方形をした厚みが7〜10mmの板状のガラス焼結体であり、意匠面40aの凹凸模様の高低差は0.2mm以上で最大3mmである。この建築用装飾ガラス物品40は、粒径が2〜7mmの透光性ガラス小体に、発光剤として蓄光剤の青色発色品を2.5%質量混合して熔着一体化したもので、全体に無色に見える。また、この建築用装飾ガラス物品40は、ガラス焼結体の粒体部がガラス小体の概略粒形を保持しているので光輝を呈し、かつ暗所では、図3(B)に示すように、仄かな青色に発光するものである。建築用装飾ガラス物品40は、実施例1と同じガラスからなる透光性ガラス小体を使用したものである。
【実施例4】
【0047】
図4(A)〜(C)に示すように、本実施例4の建築用装飾ガラス物品50は、透光性ガラス小体との平均線膨張係数の差が5×10−7/Kで、且つ、波長380〜780nmの範囲における平均透過率が肉厚7mmで80%であるガラスからなり、透光性ガラス小体が軟化変形した粒体部の粒径が2〜7mmで、縦100mm×横100mmの正方形をした厚さ7〜9mmの板状のガラス焼結体50aの両面に、JIS R−3502に基づくアルカリ溶出量が0.01mgであるAl−SiO系の無アルカリガラスよりなる厚さ0.7mmの透光性ガラス層50b、50cを熔着させたものである。建築用装飾ガラス物品50の意匠面50dの凹凸模様の高低差が0.2mm以上で最大2mmであり、凹凸模様は他の実施例のものに比べてなだらかな起伏形状になっている。この建築用装飾ガラス物品50は、実施例1と同じガラスからなる透光性ガラス小体、及びガラス板を使用したものである。
【0048】
また、本発明の建築用装飾ガラス物品50は透光性を有しているが、不透視性であるため、図5(A)に示すように、プライバシーの確保が可能であり、空間の間仕切りとして使用することに好適であり、建築用装飾ガラス物品50を介して照明の形状を隠すことができ、その光線は拡散して透過するので照明演出に適している。これに対して、図5(B)に示す透明ガラス板Pでは、照明ランプSの形状がはっきりと認識できるため、装飾性に劣るものとなる。
【0049】
この建築用装飾ガラス物品50の製造方法は、耐火容器内にアルミナペーパーを敷き、100mm角の器状に形成する。その底面に、可視光平均透過率が肉厚7mmで約70%である厚さ0.7mmのガラス板を置き、その上に粒径が2〜7mmの透光性ガラス小体を210g投入し、その上に同様の厚さ0.7mmのガラス板を載せる。これを加熱炉内で、ガラスの粘度範囲が10〜107.6Pa・sとなる最高温度980℃、1時間保持し、透光性ガラス小体を互いに熔着一体化させることで、ガラス焼結体50aを構成する透光性ガラス小体が概略の粒形を保持して光輝を呈しつつ、両面に厚さ0.7mmのガラス板及びガラス板を熔着させて、図4に示す透光性ガラス層50b、50cを形成し、意匠面50dの緩やかな形状の凹凸模様を形成する。
【0050】
建築用装飾ガラス物品を構成するガラスのアルカリ溶出量は、JIS R 3502に基づく試験方法により、粉末法で、純水中に溶出するアルカリ成分量を測定した。建築用装飾ガラス物品の凹凸模様の高低差は、マイクロメータヘッド付きのスライドテーブルを備えた工具顕微鏡で測定した。また、可視光平均透過率の測定は、JIS Z 8701に基づく試験方法により、光学研磨した試料を作製し、株式会社島津製作所製分光光度計UV2500PCを使用して、波長380〜780nmの範囲における平均透過率を測定した。線膨張係数は、30〜380℃における平均線熱膨張係数を示すものであり、ディラトメーターを用いて測定した。流動温度は10Pa・sの粘度を示す温度で、軟化点は107.6dPa・sの粘度を示す温度であり、ASTMC 338−93に基づく試験方法により、それぞれ平行平板粘度計、及びファイバー引っ張り法を用いて求めた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ガラス焼結体を採用した建築用装飾ガラス物品以外にも、陶器、セラミックスその他の透明材からなる焼結体を用いた建築用装飾物品にも適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
10、20、30、40、50 建築用装飾ガラス物品
10a、20a、30a、40a、50d 意匠面
10b、50a ガラス焼結体
10c 凹凸模様
50b、50c 透光性ガラス層
P 透明ガラス板
S 照明ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の透光性ガラス小体が互いに部分的に融着したガラス焼結体よりなる建築用装飾ガラス物品であって、
前記透光性ガラス小体が、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなり、前記ガラス焼結体が透光不透視であり、かつ意匠面に、前記透光性ガラス小体の形状に起因する0.2mm以上の高低差を有する表面起伏により凹凸模様が形成されてなることを特徴とする建築用装飾ガラス物品。
【請求項2】
透光性ガラス小体が、B−SiO系、Al−SiO系あるいはB−Al−SiO系ガラスよりなることを特徴とする請求項1に記載のガラス物品。
【請求項3】
ガラス焼結体の平均線膨張係数が80×10−7/K以下であり、且つ透光性ガラス小体間の平均線膨張係数の差が15×10−7/K以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の建築用装飾ガラス物品。
【請求項4】
凹凸模様を構成する透光性ガラス小体が軟化変形した粒体部の粒径が0.3〜10mmであることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の建築用装飾ガラス物品。
【請求項5】
意匠面の面積が0.0025〜3mであることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の建築用装飾ガラス物品。
【請求項6】
ガラス焼結体に着色剤を含有していることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の建築用装飾ガラス物品。
【請求項7】
着色剤がZrSiOやCo、MoO、Er、CeO、NiO、TiO、FeO、Feの群のうち1以上を含むものであることを特徴とする請求項6に記載の建築用装飾ガラス物品。
【請求項8】
ガラス焼結体に発光材を含有していることを特徴とする請求項1から請求項7の何れかに記載の建築用装飾ガラス物品。
【請求項9】
発光材が、蓄光材を含むものであることを特徴とする請求項8に記載の建築用装飾ガラス物品。
【請求項10】
アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなる複数の透光性ガラス小体が互いに部分的に融着してなる透光不透視のガラス焼結体であって、かつ意匠面側に、前記透光性ガラス小体の形状に起因する0.2mm以上の高低差を有する表面起伏により凹凸模様が形成されているガラス焼結体と、該ガラス焼結体の少なくとも一面に、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなり、透光性ガラス小体との平均線膨張係数の差が15×10−7/K以下で、且つ、可視光平均透過率が肉厚7mmで15%以上である透光性ガラス層が熔着されてなることを特徴とする建築用装飾ガラス物品。
【請求項11】
ガラス基層が、ガラス板または100〜1012個/kgの気泡を含有する緻密焼結層であることを特徴とする請求項10に記載の建築用装飾ガラス物品。
【請求項12】
耐火容器内に、アルカリ溶出量が0.3mg下のガラスよりなり、粒径が0.3〜10mmである複数の透光性ガラス小体を収容して集積体を形成する集積工程と、前記集積体をガラスの粘度範囲が10〜107.6Pa・sとなる温度で熱処理することで透光不透視のガラス焼結体を形成し、かつ意匠面に前記透光性ガラス小体の形状に起因する凹凸模様を形成する熱処理工程と、を有することを特徴とする建築用装飾ガラス物品の製造方法。
【請求項13】
集積工程が、耐火容器内に、アルカリ溶出量が0.3mg以下のガラスよりなり、透光性ガラス小体との平均線膨張係数の差が15×10−7/K以下で、且つ、波長380〜780nmの範囲における平均透過率が肉厚7mmで15%以上である透光性ガラス板または100〜1012個/kgの気泡を含有する緻密焼結体よりなる透光性ガラス体を収容するものであることを特徴とする請求項12に記載の建築用装飾ガラス物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−202498(P2010−202498A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10174(P2010−10174)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】