説明

建設機械における冷却システム

【課題】冷却ファンで複数の熱交換器を冷却するシステムにおいて、個々の熱交換器に要求される除去熱量が変化した場合に、アンバランスな状態になってしまうことを回避して、システム全体の冷却性能の向上を図る。
【解決手段】左右の後方熱交換器2、3の前方側に配される前方熱交換器4を、被冷却流体の流れの上流側が左右何れか一方の後方熱交換器の前方に位置し、下流側が他方の後方熱交換器の前方に位置するように設けると共に、該前方熱交換器4の被冷却流体の流れの方向を切換える方向切換弁7を設けて、左右の後方熱交換器2、3の被冷却流体の温度に基づいて方向切換弁7により前方熱交換器4の被冷却流体の流れの方向を切換えることで、左右の後方熱交換器2、3のうち除去熱量の増加を要求する方に低温の冷却風が供給されるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジエータやオイルクーラー、ターボチャージャ用クーラー等の複数の熱交換器が設けられた建設機械における冷却システムの技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベルやホイ−ルロ−ダ等の建設機械には、ラジエータ、オイルクーラー、ターボチャージャ用のクーラー、或いは燃料クーラー、エアコン用のコンデンサ等の各種の熱交換器が設けられるが、これらの熱交換器を冷却する場合に、複数の熱交換器を纏めて配すると共に、これら複数の熱交換器を一つの冷却ファン(例えば、エンジンに直結される冷却ファン、或いは油圧モータや電動モータにより駆動される冷却ファン)から供給される冷却風によって冷却するようにしたシステムが汎用的に採用されている。このように一つの冷却ファンで複数の熱交換器を冷却するシステムの場合、これら複数の熱交換器は、従来、冷却風の流れに対して前後に重なり合うように配されたり、或いは冷却風の流れに対して左右に並列する状態で配されたりしている(例えば、特許文献1参照)と共に、個々の熱交換器の容量と配置によって、システム全体の冷却バランスが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−185384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記複数の熱交換器を纏めて配して一つの冷却ファンで冷却するシステムでは、冷却ファンから供給される冷却風を個々の熱交換器に対応させて個別に調整することができないと共に、冷却風の流れに対して後方側(下流側)の熱交換器に供給される冷却風の温度は、前方(上流側)の熱交換器の放熱量に影響されることになる。このため、建設機械の稼動場所の外気温や作業内容、或いはEGR(排気ガス再循環)の制御等によって個々の熱交換器に要求される除去熱量が変化した場合に、一つの熱交換器の冷却能力には余裕があるのに他の熱交換器はオーバーヒートしてしまうようなアンバランスな状態になる惧れがあり、システム全体として冷却ファンの有する冷却能力を充分に活用できないことがあるうえ、オーバーヒートを回避するためにシステム全体が大型化してしまうという問題があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、冷却ファンにより冷却風が供給される熱交換器として、冷却風の流れに対して左右に並列状に配される左右の後方熱交換器と、これら左右の後方熱交換器に対して冷却風の流れの前方側に配される前方熱交換器とが設けられた建設機械において、前記前方熱交換器を、被冷却流体の流れの上流側が前記左右何れか一方の後方熱交換器の前方に位置し、下流側が他方の後方熱交換器の前方に位置するように設けると共に、左右の後方熱交換器に対する前方熱交換器の被冷却流体の流れの方向を切換える切換え手段と、左右の後方熱交換器の被冷却流体の温度をそれぞれ検出する温度検出手段と、これら温度検出手段により検出される左右の後方熱交換器の被冷却流体の温度に基づいて、前方熱交換器の被冷却流体の流れの方向を切換えるべく前記切換え手段を制御する制御手段とを設けたことを特徴とする建設機械における冷却システムである。
請求項2の発明は、切換え手段は、前方熱交換器に被冷却流体を流入、流出する流路に配される方向切換弁であることを特徴とする請求項1に記載の建設機械における冷却システムである。
請求項3の発明は、前方熱交換器は、被冷却流体を流入、流出する配管に、自在回転式管継手を介して縦軸周りに回転自在に接続されると共に、切換え手段は、前方熱交換器を回転せしめることで後方熱交換器に対する前方熱交換器の被冷却流体の流れの方向を切換えることを特徴とする請求項1に記載の建設機械における冷却システムである。
請求項4の発明は、冷却ファンにより冷却風が供給される熱交換器として、冷却風の流れに対して左右に並列状に配される左右の後方熱交換器と、これら左右の後方熱交換器に対して冷却風の流れの前方側に配される前方熱交換器とが設けられた建設機械において、前記前方熱交換器を、左右何れか一方の後方熱交換器の前方の位置と他方の後方熱交換器の前方の位置とに切換え自在に設けると共に、該前方熱交換器の位置を切換える位置切換え手段と、前記左右の後方熱交換器の被冷却流体の温度をそれぞれ検出する温度検出手段と、これら温度検出手段により検出される左右の後方熱交換器の被冷却流体の温度に基づいて、前方熱交換器の位置を切換えるべく前記位置切換え手段を制御する制御手段とを設けたことを特徴とする建設機械における冷却システムである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、左右の後方熱交換器のうち、前方熱交換器の被冷却流体の流れの下流側の後方に位置する後方熱交換器は、上流側の後方に位置する後方熱交換器よりも低温の冷却風が供給されると共に、左右の後方熱交換器の被冷却流体の温度に基づいて前方熱交換器の被冷却流体の流れを切換えることで、左右の後方熱交換器のうち除去熱量の増加を要求する方の後方熱交換器に低温の冷却風を供給できることになる。而して、建設機械の稼動場所の外気温や作業内容、或いはEGRの制御等によって、左右の後方熱交換器に要求される除去熱量が変化しても、除去熱量の増加を要求する方の後方熱交換器に低温の冷却風を供給することができて、左右の後方熱交換器のうち一方の熱交換器の冷却能力には余裕があるのに他方の熱交換器はオーバーヒートしてしまうようなアンバランスな状態を回避することができ、システム全体として冷却ファンの有する冷却能力を充分に活用できることになって、冷却性能の向上に貢献できる。
請求項2の発明とすることにより、前方熱交換器の被冷却流体の流れの方向を容易に切換えることができる。
請求項3の発明とすることにより、前方熱交換器の被冷却流体の流れの方向を容易に切換えることができる。
請求項4の発明とすることにより、左右の後方熱交換器のうち何れか一方の後方熱交換器の前方に前方熱交換器が位置することになり、而して、該一方の後方熱交換器には、前方熱交換器を通過して温度上昇した冷却風が供給される一方、他方の熱交換器には、前方熱交換器を通過しない低温の冷却風が供給されると共に、左右の後方熱交換器の被冷却流体の温度に基づいて前方熱交換器の位置を切換えることで、左右の後方熱交換器のうち除去熱量の増加を要求する方の後方熱交換器に低温の冷却風を供給できることになる。而して、建設機械の稼動場所の外気温や作業内容、或いはEGRの制御等によって、左右の後方熱交換器に要求される除去熱量が変化しても、除去熱量の増加を要求する方の後方熱交換器に低温の冷却風を供給することができて、左右の後方熱交換器のうち一方の熱交換器の冷却能力には余裕があるのに他方の熱交換器はオーバーヒートしてしまうようなアンバランスな状態を回避することができ、システム全体として冷却ファンの有する冷却能力を充分に活用できることになって、冷却性能の向上に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第一の実施の形態における熱交換器の配設状態を示す平面図である。
【図2】(A)、(B)は第一の実施の形態における前方熱交換器の被冷却流体の流れの切換えを示す図である。
【図3】第一の実施の形態の冷却システムを示す図である。
【図4】第一の実施の形態におけるコントローラの制御を示すフローチャート図である。
【図5】(A)、(B)は第二の実施の形態における前方熱交換器の被冷却流体の流れの切換えを示す図である。
【図6】(A)、(B)は第三の実施の形態における前方熱交換器の被冷却流体の流れの切換えを示す図である。
【図7】(A)、(B)は第四の実施の形態における前方熱交換器の位置切換えを示す図である。
【図8】(A)は二位置切換弁を用いた場合の冷却システムの一部を示す図、(B)は二位置切換弁の構造の一例を示す図、(C)は(B)のX矢視図、(D)は(B)のY矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
まず、第一の実施の形態を図1〜図4に示すが、これら図面において、1は油圧ショベル等の建設機械に設けられるクーリングパッケージであって、該クーリングパッケージ1には複数の熱交換器が纏めて配設されているが、本実施の形態では、左右の後方熱交換器2、3と前方熱交換器4とが配設されている。
【0009】
一方、5は前記左右の後方熱交換器2、3及び前方熱交換器4に冷却風を供給する冷却ファンであって、該冷却ファン5は、エンジン6のクランクシャフトの一端側に連結されてエンジン駆動により回転するものであるが、該冷却ファン5の回転により流入する冷却風の流れに対して、前記左右の後方熱交換器2、3は左右に並列する状態で配設されており、さらにこれら左右の後方熱交換器2、3の前方側(冷却風の流れの上流側)に、前方熱交換器4が配設されている。尚、本実施の形態では、左右の後方熱交換器2、3として、ラジエータとオイルクーラーとが配されており、また、前方熱交換器としては、例えば、エアコン用のコンデンサやターボチャージャ用のアフタークーラー、燃料クーラー等、前記ラジエータ、オイルクーラー以外の熱交換器が配されている。
【0010】
ここで、前方熱交換器4は、前述したように、冷却風の流れに対して左右の後方熱交換器2、3の前方側(上流側)に配されているが、該前方熱交換器4は、図2(A)、(B)に示す如く、被冷却流体が流入或いは流出するタンク4a、4bが前方熱交換器4の左側端部及び右側端部に設けられると共に、左側タンク4aは左側後方熱交換器2の前方に位置し、また、右側タンク4bは右側後方熱交換器3の前方に位置するように設けられている。さらに、これら左右のタンク4a、4b同士を連通するチューブ(図示せず)が左右方向を向くように設けられており、これによって、被冷却流体が左右方向に流れるように、つまり、被冷却流体の上流側が前記左右の後方交換器2、3のうち何れか一方の後方熱交換器の前方に位置し、下流側が他方の後方熱交換器の前方に位置するように構成されている。そして、該前方熱交換器4の被冷却流体の流れる方向は、後述する方向切換弁(本発明の切換え手段に相当する)7によって切換えることができるようになっている。
【0011】
前記方向切換弁7は、後述するコントローラ(本発明の制御手段に相当する)9からの制御信号に基づいて切換わる電磁式の三位置切換弁であって、前方熱交換器4に被冷却流体を流入、流出する流路8に配されている。そして、この方向切換弁7は、図3に示す如く、第一位置Aに位置している状態では被冷却流体を前方熱交換器4に流さないが、第二位置Bに位置している状態では、被冷却流体を前方熱交換器4の右側タンク4bに流入させる弁路7aと、被冷却流体を左側タンク4aから流出させる弁路7bとを開き、また、第三位置Cに位置している状態では、被冷却流体を前方熱交換器4の左側タンク4aに流入させる弁路7cと、被冷却流体を右側タンク4bから流出させる弁路7dとを開くように構成されている。
【0012】
そして、前記方向切換弁7が第一位置Aに位置している状態では、前方熱交換器4に被冷却流体が流入しないため、該前方熱交換器4は放熱せず、而して、前方熱交換器4を通過した冷却風は殆ど温度上昇することなく左右の後方熱交換器2、3に供給されるようになっている。一方、前記方向切換弁7が第二位置Bに位置している状態では、前方熱交換器4の被冷却流体は右側タンク4bから流入して左側タンク4aから流出するため、被冷却流体は該前方熱交換器4を右側から左側に流れることになる(図2(A)参照)が、該被冷却流体は流れの下流側になるほど冷却されていくため、前方熱交換器4を通過した冷却風は、下流側である左側の方が上流側である右側よりも温度が低いことになり、これにより、前方熱交換器4の後方において左側に配される左側後方熱交換器2には、右側に配される右側後方熱交換器3よりも低温の冷却風が供給されるようになっている。これに対し、方向切換弁7が第三位置Cに位置している状態では、前方熱交換器4の被冷却流体は左側タンク4aから流入して右側タンク4bから流出するため、被冷却流体は左側から右側に流れることになる(図2(B)参照)が、該被冷却流体は流れの下流側になるほど冷却されていくため、前方熱交換器4を通過した冷却風は、下流側である右側の方が上流側である左側よりも温度が低いことになり、これにより、前方熱交換器4の後方において右側に配される右側後方熱交換器3は、左側に配される左側後方熱交換器2よりも低温の冷却風が供給されるようになっている。
【0013】
一方、前記コントローラ9は、マイクロコンピュータ等を用いて構成されるものであって、左側後方熱交換器2、右側後方熱交換器3、前方熱交換器4の被冷却流体の流入側の温度をそれぞれ検出する左側後方熱交換器用、右側後方熱交換器用、前方熱交換器用の各温度センサ10、11、12からの検出信号を入力し、これら検出信号に基づいて、前記方向切換弁7を切換えるべく制御信号を出力する。尚、前記左側後方熱交換器用温度センサ10、右側後方熱交換器用温度センサ11は、本発明の温度検出手段に相当する。
【0014】
次いで、前記コントローラ9による方向切換弁7の制御について、図4に示すフローチャート図に基づいて説明する。まず、システムスタートすると、コントローラ9は、前方熱交換器用温度センサ12により検出される前方熱交換器4の被冷却流体の検出温度T4を読み込む(ステップS1)。そして、該検出温度T4が予め設定される冷却最低温度T4L未満であるか否か(T4<T4L?)を判断する(ステップS2)。
【0015】
ここで、前記冷却最低温度T4Lは、前方熱交換器4の被冷却流体を冷却する必要がある最低の温度として予め設定される温度であって、前方熱交換器4の被冷却流体の検出温度T4が冷却最低温度T4L未満の場合には、被冷却流体を冷却する必要がないと判断される。
【0016】
前記ステップS2の判断で「YES」、つまり、前方熱交換器4の被冷却流体の検出温度T4が冷却最低温度T4L未満(T4<T4L)の場合には、コントローラ9は、前記方向切換弁7に対して第一位置Aに位置するように制御信号を出力する(ステップS3)。これにより、前方熱交換器4には被冷却流体が流れないようになっている。尚、ステップS3の処理後は、前記ステップS1に戻る。
【0017】
一方、前記ステップS2の判断で「NO」、つまり、前方熱交換器4の被冷却流体の検出温度T4が冷却最低温度T4L以上(T4≧T4L)の場合には、コントローラ9は、左側後方熱交換器用温度センサ10により検出される左側後方熱交換器2の被冷却流体の検出温度T2と、右側後方熱交換器用温度センサ11により検出される右側後方熱交換器3の被冷却流体の検出温度T3とを読み込み、さらに、予め設定される流体最大温度T2U、T3Uと検出温度T2、T3との温度差ΔT2、ΔT3(ΔT2=T2U−T2、ΔT3=T3U−T3)を演算する(ステップS4)。
【0018】
ここで、前記流体最大温度T2U、T3Uは、冷却前の左側後方熱交換器2、右側後方熱交換器3の被冷却流体の温度として許容される最大の温度であって、該流体最大温度T2U、T3Uと検出温度T2、T3との温度差ΔT2、ΔT3が小さいほど、つまり、検出温度T2、T3が流体最大温度T2U、T3Uに近くなるほど、左側後方熱交換器2、右側後方熱交換器3に要求される除去熱量は増加する。
【0019】
続けて、コントローラ9は、左側後方熱交換器2の流体最大温度T2Uと検出温度T2との温度差ΔT2が、右側後方熱交換器3の流体最大温度T3Uと検出温度T3との温度差ΔT3よりも小さいか否か(ΔT2<ΔT3?)を判断する(ステップS5)。
【0020】
前記ステップS5の判断で「YES」、つまり、左側後方熱交換器2の方が温度差が小さい場合(ΔT2<ΔT3)には、コントローラ9は、左側後方熱交換器2の方が除去熱量の増加を要求していると判断して、前記方向切換弁7に対して第二位置Bに位置するように制御信号を出力する(ステップS6)。これにより、前述したように、前方熱交換器4の被冷却流体は右側から左側に流れ、而して、前方熱交換器4の後方において左側に配される左側後方熱交換器2は、右側に配される右側後方熱交換器3よりも低温の冷却風が供給されるようになっている。尚、ステップS6の処理後は、前記ステップS1に戻る。
【0021】
一方、前記ステップS5の判断で「NO」、つまり、右側後方熱交換器3の方が温度差が小さい場合(ΔT2≧ΔT3)には、コントローラ9は、右側後方熱交換器3の方が除去熱量の増加を要求していると判断して、前記方向切換弁7に対して第三位置Cに位置するように制御信号を出力する(ステップS7)。これにより、前述したように、前方熱交換器4の被冷却流体が左側から右側に流れ、而して、前方熱交換器4の後方において右側に配される右側後方熱交換器3は、左側に配される左側後方熱交換器2よりも低温の冷却風が供給されるようになっている。尚、ステップS7の処理後は、前記ステップS1に戻る。
【0022】
即ち、コントローラ9は、前方熱交換器4の被冷却流体の検出温度T4が冷却最低温度T4L未満(T4<T4L)の場合には、前方熱交換器4に被冷却流体を流さないように方向切換弁7を制御する。一方、前方熱交換器4の被冷却流体の検出温度T4が冷却最低温度T4L以上(T4≧T4L)の場合には、左右の後方熱交換器2、3の検出温度T2、T3に基づいて、左右の後方熱交換器2、3のうち何れの後方熱交換器の方が除去熱量の増加を要求しているかを判断し、そして、除去熱量の増加を要求している方の後方熱交換器(左側後方熱交換器2或いは右側後方熱交換器3)に低温の冷却風が供給されるように、前方熱交換器4の被冷却流体の流れの方向を切換えるべく方向制御弁7を制御するようになっている。
【0023】
叙述の如く構成された第一の実施の形態において、クーリングパッケージ1には、冷却ファン5により冷却風が供給される熱交換器として、冷却風の流れに対して左右に並列状に配される左右の後方熱交換器2、3と、これら左右の後方熱交換器2、3に対して冷却風の流れの前方側に配される前方熱交換器4とが纏めて設けられているが、該前方熱交換器4は、被冷却流体の流れの上流側が左右の後方熱交換器2、3のうち何れか一方の後方熱交換器の前方に位置し、下流側が他方の後方熱交換器の前方に位置するように設けられている。これにより、左右の後方熱交換器2、3のうち、前方熱交換器4の被冷却流体の流れの下流側の後方に位置する他方の後方熱交換器は、被冷却流体の流れの上流側の後方に位置する一方の後方熱交換器よりも低温の冷却風が供給されることになる。そして、左右の後方熱交換器2、3に対する前方熱交換器4の被冷却流体の流れの方向は、前方熱交換器4に被冷却流体を流入、流出する流路8に配設された方向切換弁7によって切換えることができると共に、該方向切換弁7を制御するコントローラ9は、左右の後方熱交換器用温度センサ10、11により検出される左右の後方熱交換器2、3の被冷却流体の検出温度T2、T3に基づいて、左右の後方熱交換器2、3のうち除去熱量の増加を要求する方の後方熱交換器(右側後方熱交換器2或いは左側後方熱交換器3)に低温の冷却風が供給されるように、前方熱交換器4の被冷却流体の流れの方向を切換えるべく方向切換弁7に制御信号を出力することになる。
【0024】
この結果、一つの冷却ファン5から供給される冷却風で複数の熱交換器2、3、4を冷却するシステムであっても、冷却風の流れに対して左右の後方熱交換器2、3の前方側に配される前方熱交換器4の被冷却流体の流れの方向を切換えることで、左右の後方熱交換器2、3のうち除去熱量の増加を要求する方の後方熱交換器2或いは3に低温の冷却風が供給されるように調整できることになる。而して、建設機械の稼動場所の外気温や作業内容、或いはEGR(排気ガス再循環)の制御等によって、左右の後方熱交換器2、3に要求される除去熱量が変化しても、除去熱量の増加を要求する方の後方熱交換器2或いは3に低温の冷却風を供給できることになって、左右の後方熱交換器2、3のうち一方の熱交換器の冷却能力には余裕があるのに他方の熱交換器はオーバーヒートしてしまうようなアンバランスな状態を回避することができ、システム全体として冷却ファン5の有する冷却能力を充分に活用できると共に、システム全体としての冷却性能も向上することになり、よって、システム全体の小型化にも寄与できる。
【0025】
さらに、本実施の形態では、前方熱交換器4の被冷却流体の検出温度T4が予め設定される冷却最低温度T4L未満(T4<T4L)の場合には、方向切換弁7は、前方熱交換器4に被冷却流体を流さないように制御されることになり、而して、前方熱交換器4の過冷却を防止することができると共に、その分、左右の後方熱交換器2、3の冷却効率を向上させることができる。
【0026】
次いで、本発明の第二〜第四の実施の形態を、図5〜図7に基づいて説明するが、該第二〜第四の実施の形態において、前記第一の実施の形態と同様(共通)のものは同一の符号を附すと共に、図面および説明を省略する。
まず、図5に示す第二の実施の形態において、20は前方熱交換器であって、該前方熱交換器20は、第一の実施の形態の前方熱交換器4と同様に、被冷却流体の流れの上流側が左右何れか一方の後方熱交換器2或いは3の前方に位置し、下流側が他方の後方熱交換器3或いは2の前方位置に位置するように設けられているが、この場合、第二の実施の形態の前方熱交換器20は、被冷却流体が流入或いは流出する左右のタンク20a、20bが前方熱交換器20の上部の左半部、右半部に形成されていると共に、前方熱交換器20の下部には中間タンク20cが形成されている。さらに、左右のタンク20a、20bと中間タンク20cとを連通するチューブ(図示せず)は上下方向を向くように設けられていて、左右何れか一方のタンク20a或いは20bから流入した被冷却流体は下方に流れて中間タンク20cに至り、該中間タンク20cから他方のタンク20b或いは20aに向かって上方に流れ、そして該他方のタンク20b或いは20aから流出するように構成されている。そして、この第二の実施の形態においても、第一の実施の形態と同様に、前方熱交換器20に被冷却流体を流入、流出する流路に配された方向切換弁7によって、左右の後方熱交換器2、3に対する前方熱交換器20の被冷却流体の流れの方向を切換えることができるように構成されており、而して、この第二の実施の形態においても、前述した第一の実施の形態と同様の作用効果を奏することになる。
【0027】
次に、図6に示す第三の実施の形態において、21は前方熱交換器であって、該前方熱交換器21は、第一の実施の形態の前方熱交換器4と同様に、被冷却流体の流れの上流側が左右何れか一方の後方熱交換器2或いは3の前方に位置し、下流側が他方の後方熱交換器3或いは2の前方位置に位置するように設けられているが、この場合、第三の実施の形態の前方熱交換器21は、該前方熱交換器21に被冷却流体を流入、流出する配管22a、22bに対して、上下のスイベルジョイント(本発明の自在回転式管継手に相当する)23a、23bを介して縦軸周りに回転自在に接続されていると共に、該縦軸周りに前方熱交換器21を180度回転させることによって、 左右の後方熱交換器2、3に対する前方熱交換器21の被冷却流体の流れの方向を切換えることができるようになっている。さらに、24は前方熱交換器21を回転させるための駆動モータ(本発明の切換え手段に相当する)であって、該駆動モータ24は、コントローラ9からの制御信号に基づいて、前方熱交換器21の被冷却流体の流れの方向を切り換えるべく前方熱交換器21を回転させるように構成されていると共に、コントローラ9は、左右の後方熱交換器2、3の被冷却流体の検出温度T2、T3に基づいて、左右の後方熱交換器2、3のうち除去熱量の増加を要求する方の後方熱交換器に低温の冷却風が供給されるように、前方熱交換器21の被冷却流体の流れの方向を切換えるべく駆動モータ24を制御するように構成されており、而して、この第三の実施の形態においても、前述した第一の実施の形態と同様の効果を奏することになる。
【0028】
さらに、本発明の第四の実施の形態を図7に示すが、該図7において、25は前方熱交換器であって、該前方熱交換器25は、被冷却流体が流入、流出する配管26a、26bに対して、上下のスイベルジョイント27a、27bを介して縦軸周りに回転自在に接続されていると共に、該縦軸周りに前方熱交換器25を180度回転させることによって、左側後方熱交換器2の前方に位置する左側位置と右側後方熱交換器3の前方に位置する右側位置とに切換え自在に構成されている。さらに、28は前方熱交換器25を回転させるための駆動モータ(本発明の位置切換え手段に相当する)であって、該駆動モータ28は、コントローラ9からの制御信号に基づいて、前方熱交換器25を左側位置或いは右側位置に切り換えるべく前方熱交換器25を回転せしめるように構成されていると共に、コントローラ9は、左右の後方熱交換器2、3の被冷却流体の検出温度T2、T3に基づいて、左右の後方熱交換器2、3のうち除去熱量の増加を要求する方の後方熱交換器に低温の冷却風が供給されるように、前方熱交換器21の位置を左側位置、或いは右側位置に切換えるべく駆動モータ24を制御するように構成されている。
【0029】
そして、この第四の実施の形態のものでは、前方熱交換器25を左側位置或いは右側位置に切換えることによって、左右の後方熱交換器2、3のうち何れか一方の後方熱交換器2或いは3の前方の位置に前方熱交換器4が位置することになり、而して、該一方の後方熱交換器2或いは3には、前方熱交換器25を通過して温度上昇した冷却風が供給される一方、他方の熱交換器3或いは2には、前方熱交換器25を通過しない低温の冷却風が供給されることになり、よって、この第四の実施の形態のものにおいても、前述した第一の実施の形態と同様の効果を奏することになる。
【0030】
尚、本発明は、上記第一〜第四の実施の形態に限定されないことは勿論であって、例えば、第一の実施の形態では、前方熱交換器4の被冷却流体の流れの方向を切換える方向切換弁7として三位置切換弁が用いられているが、前方熱交換器に常時被冷却流体を流す必要がある場合には、前方熱交換器に被冷却流体を流さないための切換え位置は不要であり、この様な場合には、図8(A)に示す如く、被冷却流体を右方向に流す第一位置Aと左方向に流す第二位置Bとに切換え自在な二位置切換弁29を用れば良い。尚、図8(A)において、4は前方熱交換器である。また、前記二位置切換弁29の構造の一例を図8(B)〜(D)に示すが、該図8(B)〜(D)において、29a〜29dは、前方熱交換器4に被冷却流体を流入、流出するべく開閉する弁である。
【0031】
また、第四の実施の形態では、前方熱交換器の位置を、左右何れか一方の後方熱交換器の前方の位置から他方の後方熱交換器の前方の位置に切換えるにあたり、スイベルジョイントを介して前方熱交換器を回転自在に設けているが、これに限定されることなく、例えば、前方熱交換器を左右方向にスライド移動自在に設けても、左右何れか一方の後方熱交換器の前方の位置から他方の後方熱交換器の前方の位置に切換え自在に構成することもできる。
【0032】
さらに、前記第一〜第四の実施の形態には、冷却ファンにより冷却風が供給される熱交換器として、左右二つの後方熱交換器と一つの前方熱交換器とが設けられている場合を示したが、三つ以上の後方熱交換器が設けられている場合、或いは、二つ以上の前方熱交換器が上下に設けられている場合、或いは、冷却風の流れに対して前方熱交換器の更に前方に熱交換器が設けられている場合等であっても、本発明を実施できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、ラジエータやオイルクーラー、ターボチャージャ用クーラー等の複数の熱交換器を纏めて配し、これら複数の熱交換器を冷却ファンから供給される冷却風で冷却するように構成した冷却システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
2 左側後方熱交換器
3 右側後方熱交換器
4 前方熱交換器
5 冷却ファン
7 方向切換弁
9 コントローラ
10 左側後方熱交換器用温度センサ
11 右側後方熱交換器用温度センサ
20 前方熱交換器
21 前方熱交換器
23a、23b スイベルジョイント
24 駆動モータ
27a、27b スイベルジョイント
28 駆動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却ファンにより冷却風が供給される熱交換器として、冷却風の流れに対して左右に並列状に配される左右の後方熱交換器と、これら左右の後方熱交換器に対して冷却風の流れの前方側に配される前方熱交換器とが設けられた建設機械において、前記前方熱交換器を、被冷却流体の流れの上流側が前記左右何れか一方の後方熱交換器の前方に位置し、下流側が他方の後方熱交換器の前方に位置するように設けると共に、左右の後方熱交換器に対する前方熱交換器の被冷却流体の流れの方向を切換える切換え手段と、左右の後方熱交換器の被冷却流体の温度をそれぞれ検出する温度検出手段と、これら温度検出手段により検出される左右の後方熱交換器の被冷却流体の温度に基づいて、前方熱交換器の被冷却流体の流れの方向を切換えるべく前記切換え手段を制御する制御手段とを設けたことを特徴とする建設機械における冷却システム。
【請求項2】
切換え手段は、前方熱交換器に被冷却流体を流入、流出する流路に配される方向切換弁であることを特徴とする請求項1に記載の建設機械における冷却システム。
【請求項3】
前方熱交換器は、被冷却流体を流入、流出する配管に、自在回転式管継手を介して縦軸周りに回転自在に接続されると共に、切換え手段は、前方熱交換器を回転せしめることで後方熱交換器に対する前方熱交換器の被冷却流体の流れの方向を切換えることを特徴とする請求項1に記載の建設機械における冷却システム。
【請求項4】
冷却ファンにより冷却風が供給される熱交換器として、冷却風の流れに対して左右に並列状に配される左右の後方熱交換器と、これら左右の後方熱交換器に対して冷却風の流れの前方側に配される前方熱交換器とが設けられた建設機械において、前記前方熱交換器を、左右何れか一方の後方熱交換器の前方の位置と他方の後方熱交換器の前方の位置とに切換え自在に設けると共に、該前方熱交換器の位置を切換える位置切換え手段と、前記左右の後方熱交換器の被冷却流体の温度をそれぞれ検出する温度検出手段と、これら温度検出手段により検出される左右の後方熱交換器の被冷却流体の温度に基づいて、前方熱交換器の位置を切換えるべく前記位置切換え手段を制御する制御手段とを設けたことを特徴とする建設機械における冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−174679(P2010−174679A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16375(P2009−16375)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】