説明

建設機械の駆動装置

【課題】高さ方向及び直径方向ともにコンパクトでありながら、傾斜地での作業時を含めて確実かつ十分なエアブリーザ機能を得る。
【解決手段】電動モータ1の下方に潤滑油入りの減速機2を取付けて構成される旋回駆動装置において、モータハウジング3の側壁にエアブリーザ通路23とエアブリーザ筒24を設けるとともに下面側に仕切り壁17を設ける。この仕切り壁17におけるモータ軸5に貫通される部分に軸封装置19を設け、この軸封装置19の微小な隙間を、潤滑油の流入を制限しつつ空気の出入りを許容する空気通路としてエアブリーザを構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はショベル等の建設機械において、駆動源としての電動モータの回転力を減速機で減速して上部旋回体等の被駆動部に伝達する駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルの旋回駆動装置を例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ショベルは、クローラ式の下部走行体上に上部旋回体が地面に対し鉛直な軸のまわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体に作業アタッチメントが取付けられて構成される。
【0004】
ここで、ハイブリッドショベルや電動ショベルの場合、上部旋回体を旋回させる旋回駆動装置は、駆動源としての電動モータ(以下、単にモータという場合がある)と、このモータの回転力を減速して被駆動部である上部旋回体に伝達する減速機とによって構成される。
【0005】
モータと減速機は、互いの中心軸(モータ軸と減速出力軸)が一致する状態で装置軸方向に並んで設けられ、モータが上となる縦置き姿勢でアッパーフレームに取付けられる。
【0006】
減速機は、ケーシングで囲まれた減速機室内にたとえばサン、プラネタリ、リング各ギヤを備えた一〜複数段の遊星歯車機構から成る減速機構が設けられて成り、この減速機の出力が、減速出力軸に設けられたピニオン、及び下部走行体のロワフレームに設けられた旋回ギヤを介して上部旋回体に伝えられる。
【0007】
減速機室には潤滑油が注入され、減速機構の潤滑作用が行われるが、運転中の油温の上昇による潤滑油の体積膨張によって油面が上昇し、この油面の上昇に伴って吹きこぼれが生じるおそれがある。また、減速機室の内圧が上昇してモータ軸のシールを傷めるおそれもある。
【0008】
そこで、特許文献1,2に示されているように、モータと減速機の連結部分に空気室と、この空気室を外部に連通させて大気圧相当に保持するエアブリーザとを設け、これらによって潤滑油の吹きこぼれ、及び内圧上昇によるシールの損傷を防止する(以下、この機能をエアブリーザ機能という)技術が公知である。
【0009】
一方、特許文献3には、風力発電設備のナセル旋回駆動装置において、モータと減速機との間にクラッチ・ブレーキを設け、このクラッチ・ブレーキの外周に空気室とエアブリーザを配置した構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−232270号公報
【特許文献2】特開2002−357260号公報
【特許文献3】特開2004−232500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1,2に記載された、エアブリーザ機能専用の空気室を設ける公知技術では、基本的に、モータと減速機との間に空気室を追加することによって装置全長(全高)寸法が大きくなるため、機械への搭載性が悪くなる。
【0012】
とくに、旋回駆動源としての電動モータは、油圧モータと比較してトルクが小さい分、大形となっているため、ショベルのように装置の占有スペースが高さ方向及び水平方向を問わず制限される機械には設置困難となる。
【0013】
従って、実機では空気室の高さ寸法が制限されるため、エアブリーザ機能が十分に果たされないおそれがある。
【0014】
なお、特許文献1に記載された公知技術では、この点をカバーするために、空気室を、減速機外部に設置したブァッファタンクに通路で接続し、このブァッファタンクを第2空気室兼エアブリーザとして兼用する構成がとられている。
【0015】
ところが、ブァッファタンクは、運転中に潤滑油面がすり鉢状になるように、潤滑油が流入することを前提として減速機の外側に設置されているため、傾斜地での作業時に、機械の傾斜によって潤滑油が同タンク内に流入し、直射日光等によって油温が上昇すると、内部エアが膨張し潤滑油が吹き出すおそれがある。
【0016】
つまり、エアブリーザ機能が十分に果たされないという問題はこの公知技術では解決できない。
【0017】
また、ブァッファタンクを外部に設置することで装置直径寸法が大きくなるため、機械への搭載性の点でも不利となる。
【0018】
一方、特許文献3に記載された、クラッチ・ブレーキの外周に空気室を形成する公知技術によると、十分なエアブリーザ機能が得られるエアボリュームを確保しようとすると、装置の高さ及び直径両方向の寸法が大きくなる。
【0019】
つまり、寸法制限の殆どない風力発電設備用としては実用可能であるが、寸法制限の厳しいショベル等の建設機械においては搭載困難となる。
【0020】
そこで本発明は、高さ方向及び直径方向ともにコンパクトでありながら、傾斜地での作業時を含めて確実かつ十分なエアブリーザ機能を得ることができる建設機械の駆動装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、駆動源としての電動モータの下方に、この電動モータの回転力を減速して被駆動部に伝達する減速機を、互いのモータ軸と減速出力軸の中心が一致する状態で装置軸方向に並んで設け、上記減速機は、ケーシングで囲まれた減速機室内に減速機構を収容するとともに潤滑油を注入した建設機械の駆動装置において、上記電動モータのモータハウジング内と上記減速機室とを、減速機室からモータハウジング内への潤滑油の流入を制限しつつ両室間の空気の出入りを許容する状態で連通させ、かつ、上記モータハウジングに、同ハウジング内を大気に連通させるエアブリーザを設けたものである。
【0022】
このように、電動モータのモータハウジング内は油の無い乾燥した空間である点に着目し、このモータハウジング内をエアブリーザの空気室として兼用する構成としたから、基本的にエアブリーザ専用の空気室を追加する必要がない。
【0023】
また、前記のように電動モータは油圧モータと比較して大きく、モータハウジング内は、元々、エアブリーザ機能を果たすのに十分なボリュームを備えているため、空気室として兼用させるに当たって高さ方向にも直径方向にもことさら拡張する必要がない。
【0024】
従って、装置全体として高さ方向及び直径方向にコンパクトでありながら、十分なエアブリーザ機能を確保することができる。このため、ショベル等のスペース制約の厳しい建設機械に対する搭載性が良くなる。
【0025】
本発明において、上記モータハウジングの下面側に、モータハウジング内と上記減速機室とを仕切る仕切り壁を設け、この仕切り壁に、上記モータ軸に貫通される部分をシールする軸封装置と、減速機室からモータハウジング内への潤滑油の流入を制限しつつ両室間の空気の出入りを許容する空気通路とを設けるのが望ましい(請求項2)。
【0026】
この構成によれば、モータと減速機を隣接して設ける駆動装置、すなわち、減速機室とモータハウジング内とが近接する駆動装置において、仕切り壁と軸封装置とにより、減速機室からモータハウジング内への潤滑油の流入を確実に制限することができる。
【0027】
また、請求項1または2の発明において、上記モータハウジング内の底面を、上記モータ軸の周囲を含む内周部が外周部よりも低くなる凹状に形成し、上記内周部に上記空気通路を設けるのが望ましい(請求項3)。
【0028】
この構成によれば、もし減速機室からモータハウジング内に潤滑油が侵入した場合でも、その潤滑油が空気通路を通じて減速機室に戻り易くなる。
【0029】
一方、本発明において、上記電動モータと減速機との間に、ブレーキハウジングで囲まれたブレーキ室内にブレーキ機構を収容して成る乾式のブレーキを、上記ブレーキ室内が上記モータハウジング内と連通する状態で設け、かつ、上記ブレーキハウジングの下面側に、上記ブレーキ室と上記減速機室とを仕切る仕切り壁を設け、この仕切り壁に、上記モータ軸に貫通される部分をシールする軸封装置と、減速機室からブレーキ室内への潤滑油の流入を制限しつつ両室間の空気の出入りを許容する空気通路とを設けるのが望ましい(請求項4,5)。
【0030】
この構成によると、モータと減速機との間に乾式のブレーキを設けるブレーキ付き駆動装置において、モータに隣接するブレーキのブレーキ室をも空気室として兼用できるため、モータハウジング内と合わせた空気室全体のボリュームを拡張し、エアブリーザ機能を一層充実させることができる。
【0031】
また、
(1) モータハウジング内と減速機室との間にブレーキ室があること、
(2) しかも、減速機室からブレーキ室への潤滑油の侵入を仕切り壁と軸封装置とによって抑制できること
により、減速機室内の潤滑油がモータハウジング内にまで侵入するおそれが低くなるため、急な傾斜地での作業時を含めてエアブリーザ機能を確保する点の効果が高くなる。
【0032】
この場合、上記モータハウジング内と上記ブレーキ室とを仕切る仕切り壁を設け、この仕切り壁に、上記モータ軸に貫通される部分をシールする軸封装置と、上記ブレーキ室からモータハウジング内への潤滑油の流入を制限しつつ両者間の空気の出入りを許容する空気通路とを設けるのが望ましい(請求項5)。
【0033】
こうすれば、減速機室とブレーキ室の間、及びブレーキ室とモータハウジング内の間の二重のシール効果によってモータハウジング内への潤滑油の侵入をより確実に抑制することができる。
【0034】
また、請求項4または5の発明において、上記ブレーキ室の底面を、上記モータ軸の周囲を含む内周部が外周部よりも低くなる凹状に形成し、上記内周部に上記空気通路を設けるのが望ましい(請求項6)。
【0035】
こうすれば、請求項3の発明と同様に、もし減速機室からブレーキ室に潤滑油が侵入した場合でも、その潤滑油が空気通路を通じて減速機室に戻り易くなる。
【0036】
また、請求項2,4,5のいずれかの発明において、上記軸封装置として、上記モータ軸との間に上記空気通路としての微小な隙間が形成される非接触型の密封装置を設けるのが望ましい(請求項7)。
【0037】
この構成によると、運転中、潤滑油面が最も低くなるとともに傾斜状態でも油没するおそれの低いモータ軸貫通部分に空気通路があるため、傾斜地での作業時を含めて減速機室からモータハウジング内、または減速機室からブレーキ室内への潤滑油の流入を制限する点、及び空気通路を確保する点の効果が高くなり、一層確実なエアブリーザ機能を得ることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によると、高さ方向及び直径方向ともにコンパクトで搭載性にすぐれながら、傾斜地での作業時を含めて確実かつ十分なエアブリーザ機能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態に係る旋回駆動装置の断面図である。
【図2】図1の一部を拡大した図である。
【図3】図2の一部をさらに拡大した図である。
【図4】機械が傾斜した状態での潤滑油の状況を示す図2相当図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る旋回駆動装置の図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
実施形態は、ショベルの旋回駆動装置を適用対象としている。
【0041】
但し、本発明はショベル以外の建設機械を含めて、旋回駆動装置と同様にモータと潤滑油入りの減速機を、互いのモータ軸と減速出力軸の中心が一致する縦置き状態で装置軸方向に並んで設けられる他の駆動装置にも以下同様に適用することができる。
【0042】
第1実施形態(図1〜図4参照)
旋回駆動装置は、基本的には、図1に示すように駆動源としての電動モータ1と、このモータ1の回転力を減速して被駆動部である上部旋回体に伝達する減速機2とが装置軸方向に並設されて構成される。
【0043】
モータ1はモータハウジング3、減速機2は筒状のケーシング4をそれぞれ備え、モータ1を上にして、互いのモータ軸5と減速出力軸6の中心が装置軸方向(上下方向)に一致する縦置き状態で、モータハウジング3の下端に設けられたフランジ3aとケーシング4とが複数本の連結ボルト7で連結される。
【0044】
減速機2の下端には、減速出力軸6を回転自在に支持する軸受(符号省略)を内部に備えたシャフト支持部8が設けられ、このシャフト支持部8の下部外周に設けられた取付フランジ9が上部旋回体のアッパーフレーム10に取付ボルト11…によって取付けられる。
【0045】
減速機2は、ケーシング4で囲まれた減速機室12内に、同軸上に並設された一〜複数段の遊星歯車機構(図例では二段、以下、この場合で説明する)13,14が収容されるとともに、ほぼ全長範囲に亘り潤滑油Oが注入されて構成される。
【0046】
この潤滑油Oの油面は、停止時には水平となり(図1,2中のO1)、運転中は遠心力により外周側がせり上がるすり鉢状となる(同、O2)。
【0047】
両遊星歯車機構13,14は、それぞれサンギヤS1,S2と、キャリアC1,C2を介してこのサンギヤS1,S2の周りに設けられた複数のプラネタリギヤP1,P2と、ケーシング4の内周に設けられたリングギヤRとから成り、周知のようにプラネタリギヤP1,P2が自転しながら公転運動を行うことによってモータ回転を減速し、その出力が、減速出力軸6の下端に設けられたピニオン15及びこれと噛み合う旋回歯車(リングギヤ。図示省略)を介して被駆動部であるアッパーフレーム10(上部旋回体)に伝達される。
【0048】
モータハウジング3内には、モータ要素としてハウジング内周に固定されたステータ(固定子)16a、及びモータ軸5に取付けられたロータ(回転子)16bが設けられ、ロータ16bの回転力がモータ軸5に加えられる。
【0049】
また、モータハウジング3の底部(モータハウジング3と減速機ケーシング4の間)にリング状の水平な仕切り壁17が設けられ、この仕切り壁17に、モータ軸5の中間部を支持するグリス潤滑式の軸受18と、この軸受18よりも下方においてモータ軸周りをシールする軸封装置19と、この軸封装置19と軸受18との間の空間をモータハウジング3内に連通させる連通穴20とが設けられている。
【0050】
軸封装置19は、図2,3に詳しく示すようにリング状のシールプレート21の内周に複数の油溝21a…(図3のみに符号を付す)を設けた「油溝シール構造」であって、モータ軸5の外周面との間に微小な隙間22が形成される非接触型の密封装置として構成され、隙間22が、減速機室12からモータハウジング3内への潤滑油Oの流入を制限しつつ両者間の空気の出入りを許容する空気通路となる(以下、隙間22を空気通路という)。
【0051】
なお、モータ軸5の外周面にも油溝を設けた油溝シール構造としてもよいし、油溝を設けないでモータ軸5との間に隙間のみを形成した「すきまシール構造」としてもよい。
【0052】
あるいは、ラビリンス通路をラジアル方向に形成した「ラジアルラビリンスシール構造」や、ラビリンス通路を斜めに形成した「調心形ラビリンスシール構造」をとってもよい。
【0053】
こうして、仕切り壁17とシールプレート21とによってモータハウジング3の底壁が形成され、この底壁によってモータハウジング3内と減速機室12とが仕切られるとともに、この両者が空気通路22及び連通穴20を介して連通した状態となる。
【0054】
ここで、シールプレート21は、仕切り壁17との間に段差が形成される状態で仕切り壁下面側に取付けられている。
【0055】
これにより、モータハウジング底面が、モータ軸周囲を含む内周部が外周部よりも低くなった凹状に形成されている。
【0056】
一方、モータハウジング3の側壁部分にトンネル状のエアブリーザ通路23が水平に設けられるとともに、同ハウジング外部に、同通路23を外部に連通させるエアブリーザ筒24が上向き煙突状に設けられている。
【0057】
これら空気通路22、連通穴20、エアブリーザ通路23、エアブリーザ筒24により、減速機室12内をモータハウジング3内空間を介して大気に連通させ、モータハウジング3内を空気室としてエアブリーザ機能を果たすエアブリーザが構成されている。
【0058】
図2,3中、破線矢印はこのエアブリーザによって減速機室12からモータハウジング3内を通って外部に抜ける空気の流れを示す。
【0059】
この旋回駆動装置によると、電動モータ1のモータハウジング3内は油の無い乾燥した空間である点に着目し、このモータハウジング3内の空間をエアブリーザの空気室として兼用する構成としたから、基本的にエアブリーザ専用の空気室を追加する必要がない。
【0060】
また、電動モータ1は、油圧モータと比較してトルクが小さい分、大形とされ、モータハウジング3内は、元々、エアブリーザ機能を果たすのに十分なボリュームを備えているため、空気室として兼用させるに当たって高さ方向にも直径方向にもことさら拡張する必要がない。
【0061】
さらに、モータハウジング3内を減速機室12に対して仕切り壁17と軸封装置19とによって仕切り、減速機室12からの潤滑油Oの流入を制限できるため、モータハウジング3内の空間全体を空気室として機能させることができる。
【0062】
このため、モータハウジング3内空間を装置高さ方向にも直径方向にもことさら拡張する必要がない。
【0063】
従って、装置全体として高さ方向及び直径方向にコンパクトでありながら、十分なエアブリーザ機能を確保することができる。このため、ショベル等のスペース制約の厳しい建設機械に対する搭載性が良くなる。
【0064】
また、前記のように運転中は潤滑油面がすり鉢状となるため、モータ軸貫通部分からの潤滑油Oの流入のリスクが低い上に、このモータ軸貫通部分に軸封装置19を設けてモータハウジング3内を減速機室12と区画しているため、運転中、モータハウジング3内が潤滑油Oで浸されるおそれがない。
【0065】
さらに、モータ軸貫通部分に空気通路22を設けたことにより、図4に示すように傾斜地で機械が傾いた状態での作業時にも空気通路22及びモータハウジング3内が潤滑油Oで浸されるおそれがない。
【0066】
このため、傾斜地での作業時を含めて常にエアブリーザ機能を確保し、潤滑油の吹き出しを確実に防止することができる。
【0067】
加えて、モータハウジング3内の底面を、内周部が外周部よりも低くなる凹状に形成しているため、もし空気通路22を通って軸封装置19上の空間に潤滑油Oが入った場合でも、その潤滑油Oが空気通路22を通じて減速機室12に戻り易くなる。
【0068】
第2実施形態(図5参照)
第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0069】
第2実施形態においては、モータ1と減速機2との間に、モータ軸5にブレーキ力を加える乾式のブレーキ25が設けられたブレーキ付き旋回駆動装置を適用対象としている。
【0070】
第2実施形態において、
(I) モータハウジング3の底部(ブレーキ25との境界部分)に仕切り壁17が設けられ、この仕切り壁17に、グリス潤滑式の軸受18と、空気通路付きの油溝シール構造を有する軸封装置19と、連通穴20とが設けられる点、
(II) 仕切り壁17とシールプレート21とによってモータハウジング3の底壁が形成され、この底壁の上面(モータハウジング底面)が、モータ軸周囲を含む内周部が外周部よりも低くなった凹状に形成されている点、
(III) モータハウジング3の側壁部分に、エアブリーザ通路23とエアブリーザ筒24が設けられる点
は第1実施形態と同じである。
【0071】
ブレーキ25は、ブレーキハウジング26で囲まれたブレーキ室27内にブレーキ機構が収容されて成る。
【0072】
ブレーキ機構は、モータ軸5にスプライン結合されたブレーキディスク28と、バネ29によりブレーキディスク28に押し付けられてブレーキ力を発揮させるブレーキパッド30とを備え、外部からの油圧供給時にブレーキパッド30がブレーキディスク28から離れてブレーキ解放するネガティブブレーキとして構成されている。
【0073】
ブレーキハウジング26は、減速機室12とブレーキ室27とを仕切るリング状の仕切り壁31を有し、この仕切り壁31の中央部にモータ軸5の周囲を密封する軸封装置32が設けられている。
【0074】
なお、モータハウジング3側の仕切り壁17及び軸封装置19と、ブレーキハウジング26側の仕切り壁31及び軸封装置32とを区別するために、以下、前者を上部仕切り壁及び上部軸封装置、後者を下部仕切り壁及び下部軸封装置という場合がある。
【0075】
下部軸封装置32は、上部軸封装置19と同様に、リング状のシールプレート33の内周に複数の油溝(符号省略)を設けた「油溝シール構造」であって、モータ軸5の外周面との間に空気通路としての微小な隙間34が形成される非接触型の密封装置として構成され、隙間34が、減速機室12からブレーキ室27への潤滑油Oの流入を制限しつつ両室間の空気の出入りを許容する空気通路となる(以下、隙間34を空気通路という)。
【0076】
なお、この下部軸封装置32についても、上部軸封装置19と同様に、モータ軸5の外周面にも油溝を設けた油溝シール構造や、「すきまシール構造」、「ラジアルラビリンスシール構造」または「調心形ラビリンスシール構造」をとってもよい。
【0077】
こうして、下部仕切り壁31とシールプレート33とによってブレーキ室27の底壁が形成され、減速機室12とブレーキ室27とが空気通路34のみによって連通した状態となる。
【0078】
ここで、シールプレート33は、上部軸封装置19のシールプレート21同様、仕切り壁31との間に段差が形成される状態で仕切り壁下面側に取付けられ、これによりブレーキ室底面が、モータ軸周囲を含む内周部が外周部よりも低くなった凹状に形成されている。
【0079】
また、ブレーキディスク28に、上下方向に貫通する一〜複数の通気穴35が設けられている。
【0080】
こうして、下部軸封装置32の空気通路34、ブレーキ室27、通気穴35、上部軸封装置19の空気通路22、連通穴20、モータハウジング3内、エアブリーザ通路23、エアブリーザ筒24により、減速機室12を大気に連通させてエアブリーザ機能を果たすエアブリーザが構成されている。
【0081】
図5中、破線矢印はこのエアブリーザによって減速機室12からブレーキ室27及びモータハウジング3内を通って外部に抜ける空気の流れを示す。
【0082】
この第2実施形態によると、ブレーキ付き旋回駆動装置において、モータハウジング3内をエアブリーザ用の空気室とする第1実施形態の効果に加えて、モータ1に隣接するブレーキ25のブレーキ室27をもエアブリーザ用の空気室として兼用できるため、空気室全体のボリュームを拡張し、エアブリーザ機能を一層充実させることができる。
【0083】
また、
(1) モータハウジング3内と減速機室12との間にブレーキ室27があること、
(2) モータハウジング3内とブレーキ室27、及びブレーキ室27と減速機室12をそれぞれ上部及び下部両仕切り壁17,31及び軸封装置19,32によって仕切り、空気の出入りを許容しながら潤滑油Oの流入を制限する構成、すなわち、モータハウジング3内と減速機室12とを二重にシールする構成をとっているため、もし減速機室12からブレーキ室27に潤滑油Oが侵入した場合でも、その潤滑油がモータハウジング3内にまで及ぶ可能性が低く、傾斜地での作業時を含めてエアブリーザ機能を確保することができる。
【0084】
この場合、ブレーキ室27の底面を凹状に形成しているため、ブレーキ室27に潤滑油Oが侵入したとしてもその潤滑油が下部軸封装置32の空気通路34を通じて減速機室12に戻り易くなる。
【0085】
さらに、モータハウジング3内の底面をも凹状に形成しているため、万が一、モータハウジング3内にまで潤滑油が侵入した場合でも、これを上部軸封装置19の空気通路22を通じて下方(ブレーキ室27、さらに減速機室12)に排出し易くなる。
【符号の説明】
【0086】
1 電動モータ
2 減速機
3 モータハウジング
5 モータ軸
7 モータと減速機とを連結する連結ボルト
10 被駆動部としてのアッパーフレーム
12 減速機室
13 両遊星歯車機構
O 潤滑油
17 モータハウジング内と減速機室とを仕切る仕切り壁
19 仕切り壁に設けられた軸封装置
20 仕切り壁の連通穴
21 軸封装置を構成するシールプレート
21a 同、油溝
22 軸封装置の隙間である空気通路
23 エアブリーザを構成するエアブリーザ通路
24 同、エアブリーザ筒
25 乾式のブレーキ
26 ブレーキハウジング
27 ブレーキ室
28 ブレーキディスク
29 バネ
30 ブレーキパッド
31 ブレーキ室と減速機室とを仕切る仕切り壁
32 仕切り壁に設けられた軸封装置
33 軸封装置を構成するシールプレート
34 軸封装置の隙間である空気通路
35 通気穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源としての電動モータの下方に、この電動モータの回転力を減速して被駆動部に伝達する減速機を、互いのモータ軸と減速出力軸の中心が一致する状態で装置軸方向に並んで設け、上記減速機は、ケーシングで囲まれた減速機室内に減速機構を収容するとともに潤滑油を注入した建設機械の駆動装置において、上記電動モータのモータハウジング内と上記減速機室とを、減速機室からモータハウジング内への潤滑油の流入を制限しつつ両室間の空気の出入りを許容する状態で連通させ、かつ、上記モータハウジングに、同ハウジング内を大気に連通させるエアブリーザを設けたことを特徴とする建設機械の駆動装置。
【請求項2】
上記モータハウジングの下面側に、モータハウジング内と上記減速機室とを仕切る仕切り壁を設け、この仕切り壁に、上記モータ軸に貫通される部分をシールする軸封装置と、減速機室からモータハウジング内への潤滑油の流入を制限しつつ両室間の空気の出入りを許容する空気通路とを設けたことを特徴とする請求項1記載の建設機械の駆動装置。
【請求項3】
上記モータハウジング内の底面を、上記モータ軸の周囲を含む内周部が外周部よりも低くなる凹状に形成し、上記内周部に上記空気通路を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の建設機械の駆動装置。
【請求項4】
上記電動モータと減速機との間に、ブレーキハウジングで囲まれたブレーキ室内にブレーキ機構を収容して成る乾式のブレーキを、上記ブレーキ室内が上記モータハウジング内と連通する状態で設け、かつ、上記ブレーキハウジングの下面側に、上記ブレーキ室と上記減速機室とを仕切る仕切り壁を設け、この仕切り壁に、上記モータ軸に貫通される部分をシールする軸封装置と、減速機室からブレーキ室内への潤滑油の流入を制限しつつ両室間の空気の出入りを許容する空気通路とを設けたことを特徴とする請求項1記載の建設機械の駆動装置。
【請求項5】
上記モータハウジング内と上記ブレーキ室とを仕切る仕切り壁を設け、この仕切り壁に、上記モータ軸に貫通される部分をシールする軸封装置と、上記ブレーキ室からモータハウジング内への潤滑油の流入を制限しつつ両者間の空気の出入りを許容する空気通路とを設けたことを特徴とする請求項4記載の建設機械の駆動装置。
【請求項6】
上記ブレーキ室の底面を、上記モータ軸の周囲を含む内周部が外周部よりも低くなる凹状に形成し、上記内周部に上記空気通路を設けたことを特徴とする請求項4または5記載の建設機械の駆動装置。
【請求項7】
上記軸封装置として、上記モータ軸との間に上記空気通路としての微小な隙間が形成される非接触型の密封装置を設けたことを特徴とする請求項2,4,5のいずれか1項に記載の建設機械の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−122553(P2012−122553A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274466(P2010−274466)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】