説明

建設機械

【課題】ブームと運転室の間の多重反射による音圧上昇を抑制することにより運転室内における騒音を抑制する。
【解決手段】下部走行体10と、下部走行体10の上方側に取り付けられた上部旋回体20と、を備える。上部旋回体20は、下部走行体10に取り付けられた旋回フレームと、旋回フレームに起伏可能に取り付けられた箱型のブーム50と、旋回フレームに取り付けられるとともにブーム50と隣り合うように配置された運転室30と、を備える。ブーム50のうち運転室30と向かい合うブーム側対向部55、および、運転室30のうちブーム50と向かい合う運転室側対向部35、の少なくともいずれかに吸音部40、60が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、箱型のブームと運転室とを備えた建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の建設機械が記載されている。この建設機械は、下部走行体と、下部走行体の上方側に取り付けられた上部旋回体とを備える。上部旋回体は、旋回フレームと、旋回フレームにそれぞれ取り付けられたブームと運転室とを備える。通常、上部旋回体の左右方向(横方向)中央にブームが配置され、ブームの左右いずれかに隣りあうように運転室が配置される。
【0003】
この建設機械では、運転室の後方側に配置されたエンジン室内に、エンジン、油圧ポンプ、及びファンなどの動力機構が配置されている。この動力機構から運転室へ音波が伝搬するが、動力機構と運転室との距離が近いため、運転室内の騒音が非常に大きく、運転者に不快感を与えてしまうという問題があった。
【0004】
特許文献2には上記問題の解決を図った建設機械が記載されている。この建設機械では、動力機構と運転室との間の空間に吸音材が配置される。これにより、動力機構から運転室へ直接伝搬する騒音が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−136992
【特許文献2】特開2007−217150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の建設機械では、運転室とブームとの間での音波の多重反射による騒音が下記のように問題となる。
【0007】
動力機構で生じた騒音は運転室とブームとの間に伝搬する(図3の矢印N1を参照)。通常、ブームは鋼板で構成され、運転室も薄鋼板やガラスで構成される。よって、運転室とブームとの間に伝搬した音波(矢印N1を参照)は、運転室とブームとの間で多重反射する(図3及び図4の矢印N2を参照)。この多重反射により音圧が増幅される。その結果、運転室内へ透過する音が増加し、運転室内の騒音が増大してしまう。
【0008】
特に、音圧の大きい運転室下部をブームで覆う場合、上記の多重反射による問題が下記のようにより一層顕著になる。
【0009】
特許文献2に記載のような建設機械では通常、エンジン室と運転室とを連通する開口部(配管等を通すための開口部)が、エンジン室及び運転室の下方側に形成されている。この開口部を介してエンジン室内から運転室の下部近傍へ音波が伝搬する。このため、運転室の下部近傍は音圧が特に大きい。さらに、運転室の下部近傍には隙間(旋回フレームと運転室との間の隙間)が形成されている。この隙間を介して上部旋回体の内側から外側へ音波が伝搬する。ここで、ブームを下方に位置させた(倒伏させた)場合、運転室下部近傍をブームで覆うことになる。この場合、上記隙間から放出された音波はブームで反射される。よって、上記の多重反射による問題がより一層顕著になる。
【0010】
また、特許文献1や2に記載の建設機械とは構造が異なる建設機械でも、ブームと運転室の間の音波の多重反射が生じ、運転室内の騒音が増大する問題が生じる場合がある。
【0011】
そこで、ブームと運転室との間の多重反射による音圧上昇を抑制することにより運転室内における騒音を抑制できる建設機械を提供することを本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明に係る建設機械は、下部走行体と、前記下部走行体の上方側に取り付けられた上部旋回体と、を備えている。前記上部旋回体は、前記下部走行体に取り付けられた旋回フレームと、前記旋回フレームに起伏可能に取り付けられた箱型のブームと、前記旋回フレームに取り付けられるとともに前記ブームと隣り合うように配置された運転室と、を備えている。前記ブームのうち前記運転室と向かい合うブーム側対向部、および、前記運転室のうち前記ブームと向かい合う運転室側対向部、の少なくともいずれかに吸音部が設けられている。
【0013】
この建設機械では、ブーム側対向部および運転室側対向部のうち少なくともいずれかに吸音部が設けられている。よって、ブーム側対向部と運転室側対向部との間の音波の多重反射が吸音部により抑制される。したがって、音波の多重反射による音圧上昇を抑制できる。その結果、運転室内における騒音を抑制できる。
【0014】
第2の発明に係る建設機械では、前記ブーム側対向部に設けられた前記吸音部は、前記ブームに取り付けられた支持部材と、前記支持部材に取り付けられた第1多孔板と、を備えている。前記第1多孔板は、前記ブームとの間に空気層が形成されるように前記ブームに対向して配置されている。
【0015】
この建設機械では、吸音部は第1多孔板を備えている。第1多孔板の素材として対環境性の強い素材を選定した場合は、多孔質系吸音材のみで吸音部が構成された場合に比べ、吸音部の経年劣化を抑制できる。
【0016】
また、第1多孔板は、ブームとの間に空気層が形成されるようにブームに対向して配置されている。この第1多孔板の孔径、開孔率、及び空気層の厚さを調整することで、吸音部で吸音する音波の周波数帯域を調整できる。ここで、建設機械の動力機構(エンジン、油圧ポンプ、及びファンなど)による騒音は約500Hz以下の低・中周波帯域にピークがある。多孔質系吸音材でこの騒音を抑制することは困難である。一方で本発明では、上記の調整を行うことで、この低・中周波帯域の騒音を抑制できる。
【0017】
第3の発明に係る建設機械では、前記運転室側対向部に設けられた前記吸音部は、前記運転室に形成された凹部と、前記凹部を覆うように前記運転室に取り付けられた第2多孔板と、を備えている。前記第2多孔板は、前記運転室との間に空気層が形成されるように前記運転室に対向して配置されている。
【0018】
この建設機械では、吸音部は第2多孔板を備えている。第2多孔板は、運転室との間に空気層が形成されるように運転室に対向して配置されている。この構成により、上記の第1多孔板を備えた吸音部と同様の効果を奏する。
【0019】
また、吸音部は、凹部を覆うように運転室に取り付けられた第2多孔板を備えている。よって、運転室からブーム側に突出することのない吸音体を構成できる。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明に述べたように、本発明に係る建設機械では、ブーム側対向部および運転室側対向部の少なくともいずれかに吸音部が設けられている。特にこの構成により、ブームと運転室との間の多重反射による音圧上昇を抑制でき、その結果、運転室内における騒音を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】建設機械を横方向に見た全体図である。
【図2】図1に示す建設機械の運転室を横方向に見た図(a)、および、ブームを横方向に見た図(b)である。
【図3】図1に示す建設機械の平面図である。
【図4】図1に示す建設機械のF4矢視断面図(模式図)である。
【図5】第2実施形態に係る吸音部周辺を前方側から見た断面図(模式図)であり、図4の拡大図に相当する。
【図6】第2実施形態の吸音部に係る、垂直入射吸音率の周波数特性を示すグラフである。
【図7】第2実施形態の建設機械に係る、運転室内右耳元騒音レベルの周波数特性を示すグラフである。
【図8】第3実施形態の図5相当図である。
【図9】第3実施形態の図6相当図である。
【図10】第3実施形態の図7相当図である。
【図11】第4実施形態の図5相当図である。
【図12】第4実施形態の図6相当図である。
【図13】第4実施形態の図7相当図である。
【図14】第5実施形態の図5相当図である。
【図15】第6実施形態の図5相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
図1〜図4を参照して第1実施形態に係る建設機械1の構成を説明する。
【0023】
建設機械1は、図1及び3に示すように、運転室30とブーム50とが隣り合う移動式クレーン(ホイールクレーン)である。建設機械1は、下部走行体10と、下部走行体10の上方側に取り付けられた上部旋回体20とを備える。また、上部旋回体20は運転室30とブーム50とを備える。図2(a)に示すように、運転室30の運転室側対向部35には吸音部40が設けられ、図2(b)に示すように、ブーム50のブーム側対向部55には吸音部60が設けられる。
【0024】
下部走行体10は、図1に示すように、ホイール走行式であり、建設機械1の走行に供する部分である。
【0025】
上部旋回体20は、旋回ベアリング15を介して下部走行体10の上方側に取り付けられる部分であり、下部走行体10に対して旋回可能である。上部旋回体20は、旋回ベアリング15に取り付けられた旋回フレーム21を備える。また、上部旋回体20は、旋回フレーム21にそれぞれ取り付けられるエンジン室25、運転室30、及びブーム50を備える。
【0026】
エンジン室25は、図1及び3に示すように、動力機構26が内部に配置される部分である。動力機構26は、エンジン26e、エンジン26eにより駆動される油圧ポンプ26p、および、エンジン26e及び油圧ポンプ26pを冷却するファン26fなどで構成される。動力機構26から、低・中周波帯域(約500Hz以下)にピークを持つ音波が発生する。エンジン室25内の動力機構26の前方側には吸音材27が配置される。吸音材27により、動力機構26から運転室30へ直接伝搬される騒音が抑制される。
【0027】
運転室30は、旋回フレーム21に取り付けられ、キャブとも呼ばれる箱型の部分である。運転室30は、ブーム50と隣り合うように配置されるとともに、エンジン室25の前方側に配置される。図3に示す運転室30の外壁30oは薄鋼板で構成され、窓30wはガラスで構成される。すなわち運転室30は音波を反射する素材で構成される。また、図2(a)に示すように、運転室30の運転室側対向部35には吸音部40が設けられる。なお、図2(a)は図3に示すF2a矢視図である。
【0028】
なお、図3に示すように、運転室30に対するブーム50側を「X1側」などといい、ブーム50に対する運転室30側を「X2側」などという。すなわち、上部旋回体20の後方側から前方側へ向かって見たときに、ブーム50の右側に運転室30が配置される場合は、「X1側」とは左側を意味し、「X2側」とは右側を意味する。
【0029】
運転室側対向部35は、図1、3及び4に示すように、運転室30のうちブーム50と向かい合う部分である。すなわち、ブーム50と隣り合う面31(運転室30のX1側の面)のうち、ブーム50を横方向に投影した部分(図1においてハッチングを付した範囲の部分)である。
【0030】
吸音部40は、図2(a)に示すように、運転室30とブーム50との間での音波の多重反射(図3及び図4に示す矢印N2を参照)を抑制する部分である。吸音部40は、運転室側対向部35の全面に設けられる(後述するように一部に設けても良い)(煩雑を避けるため図2(a)では運転室側対向部35よりも小さい範囲の吸音部40を図示している)。これにより、運転室側対向部35の一部に吸音部40を設ける場合に比べ、音波の多重反射をより抑制できる。さらに、運転室側対向部35からはみ出るように吸音部40を面31に設けても良い。吸音部40は、具体的には、運転室側対向部35に取り付けられる(貼り付けられる)多孔質吸音材である。多孔質吸音材は、グラスウール(ガラス繊維)などの繊維系吸音材、または、ウレタン系の吸音材などである。
【0031】
ブーム50は、図1及び図3に示すように、旋回フレーム21に起伏可能に取り付けられた箱型の多段伸縮ブームである。図3に示すように、ブーム50は、上部旋回体20の横方向略中央に配置される。ブーム50の基端部50fは、旋回フレーム21に取り付けられ、基端部50fを中心にブーム50が起伏する。ブーム50は、鋼板すなわち音波を反射する素材で構成される。また、図2(b)に示すように、ブーム50のブーム側対向部55には吸音部60が設けられる。なお、図2(b)は図3に示すF2b矢視図である。
【0032】
ブーム側対向部55は、図1、3及び4に示すように、ブーム50のうち運転室30と向かい合う部分である。すなわち、運転室30と隣り合う面51(ブーム50のX2側の面)のうち、運転室30を横方向に投影した部分(図1においてハッチングを付した範囲の部分)である。
【0033】
吸音部60は、図2(b)に示すように、運転室30とブーム50との間での音波の多重反射(図3及び図4に示す矢印N2を参照)を抑制する部分である。吸音部60は、ブーム側対向部55の全面に設けられる(後述するように一部に設けても良い)。なお、吸音部40と同様に、ブーム側対向部55からはみ出るように面51に吸音部60を貼り付けても良い。また、吸音部40と同様に、吸音部60は多孔質吸音材である。
【0034】
(第1実施形態に係る建設機械の特徴)
この建設機械1では、図2〜図4に示すように、ブーム側対向部55および運転室側対向部35(これらのうち一方でも良い)に吸音部40、60が設けられている。よって、ブーム側対向部55と運転室側対向部35との間の音波の多重反射(図3及び図4に示す矢印N2参照)が吸音部40、60により抑制される。したがって、音波の多重反射による音圧上昇を抑制できる。その結果、運転室30内における騒音を抑制できる。
【0035】
(第2実施形態)
図5に、第2実施形態に係る吸音部260周辺の断面図(模式図)を示す。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0036】
吸音部260は、ブーム側対向部55のほぼ上半分に設ける(図2(b)において二点鎖線で示す)。この構成では、ブーム50の断面下半分がU字状などの曲線状の場合(図示なし)でも、吸音部260をブーム50に取り付け易い。また、吸音部260はウレタン系吸音材であり、厚さ(横方向の幅)は45mmである。なお、本実施形態では、運転室側対向部35には吸音部40(図4参照)を設けない。
【0037】
図6に、吸音部260(図5参照)の垂直入射吸音率の周波数特性を示す。図6に示すグラフの縦軸は、吸音部260の垂直入射吸音率を示す。同横軸は、1/3オクターブバンド中心周波数[Hz]を示す。このグラフより、吸音部260は、800Hz以上の周波数で垂直入射吸音率が特に大きいことが分かる。
【0038】
図7に、吸音部260(図5参照)を備えるとともに定置で有負荷時の建設機械1(図1参照)について、運転室30(同図参照)内の右耳元騒音レベルの周波数特性を示す。図7に示すグラフの縦軸は、A特性周波数重み付け音圧レベル[dB(A)]を示す。同横軸は、1/3オクターブバンド中心周波数[Hz]を示す。従来技術(吸音部を備えない建設機械)での周波数特性を黒色円印で示す。本発明での周波数特性を白色四角形印で示す。このグラフより、従来技術と比べて本発明では800Hz以上の周波数で音圧レベルが低減していることが分かる。また、オーバーオール(図7中では「O.A.」と記載)で約2dB低減、すなわち音のエネルギーで約33%低減していることが分かる。
【0039】
(第3実施形態)
図8に、第3実施形態に係る吸音部360周辺の断面図(図5相当図)を示す。以下、第2実施形態との相違点を説明する。
【0040】
吸音部360は、第1多孔板362と空気層363とを組み合わせることで吸音効果を奏する多孔吸音材である。吸音部360は、ブーム50に取り付けられる支持部材361と、支持部材361に取り付けられる第1多孔板362とを備える。
【0041】
支持部材361は、横方向一端(X1側の端)がブーム50の面51に取り付けられるとともに、他端(X2側の端)に第1多孔板362が取り付けられるスペーサである。支持部材361は、第1多孔板362と支持部材361と面51とで囲まれた空間に空気層363が形成されるように(閉構造が形成されるように)配置される。具体的には例えば、支持部材361は、第1多孔板362の上下方向およびブーム50軸方向の両端部を支持する。支持部材361は、ブーム50と別体である。別体であるため、既存のブーム50(吸音部360を設けることを前提としていないブーム50)にも吸音部360を取り付ける(貼り付ける)ことができる。支持部材361の高さ(横方向長さ)を調整することで空気層363の厚さT3を調整できる。支持部材361は金属製、木製、または樹脂製である。
【0042】
第1多孔板362は、多数の貫通孔362hが形成された板である(図8では多数の貫通孔362hのうち1つにのみ符号を付している)。第1多孔板362は、ブーム50の面51との間に空気層363が形成されるように、ブーム50(面51)に対向して配置される。また、第1多孔板362は金属製である。このため、建設機械1に適用可能な剛性を持った吸音部360を実現できる。さらに、第1多孔板362をアルミニウム製とした場合、吸音部360を軽量に構成できる。
【0043】
吸音部360では、第1多孔板362の種類(貫通孔362hの開孔率および孔径)、および、空気層363の厚さT3(すなわち支持部材361の高さ)を調整することで吸音する音波の周波数を調整できる。例えば、第1多孔板362の孔径は約0.1〜約5mm、開孔率は約0.1〜約3%の範囲内で調整することが好ましい。また例えば、空気層363の厚さT3を大きくすれば吸音できる音波の周波数が低くなる。上述したように動力機構26による騒音のピーク周波数は約500Hz以下である。この騒音を吸収するには例えば、貫通孔362hの直径(孔径)を0.5mm、空気層363の厚さT3を30〜70mmに設定する。
【0044】
図9に、吸音部360(図8参照)の垂直入射吸音率の周波数特性(図6相当図)を示す。ここでは図8に示す空気層363の厚さT3を70mmとしている。図9に示すグラフより、第2実施形態の吸音部260(ウレタン系吸音材。図5参照)に比べ、動力機構26(図1参照)による騒音のピーク周波数となる400Hz〜800Hzバンドで吸音率が高いことが分かる。
【0045】
図10に、吸音部360(図8参照)を備えるとともに定置で有負荷時の建設機械1(図1参照)の運転室30(同図参照)内の右耳元騒音レベルの周波数特性(図7相当図)を示す。吸音部360を備える建設機械1での周波数特性を白色三角形印で示す。図10に示すグラフより、従来技術と比べて本発明では400Hz〜800Hzの周波数で騒音レベルが約4dB程度低減していることが分かる。また、オーバーオールでも約2.5dB低減、すなわち音のエネルギーで約44%低減できることが分かる。このように、図8に示す第1多孔板362を備えた吸音部360は、図5に示すウレタン系吸音材で構成される吸音部260に比べて、より一層騒音を低減することができる。
【0046】
(第3実施形態に係る建設機械の特徴)
建設機械1では、図8に示すように、吸音部360は第1多孔板362を備えている。ここで、ブーム50は外気および風雨に晒される場所に配置されるため、ブーム50に設けられる吸音部360も同様の環境下に設置されることになる。よって、多孔質系吸音材(繊維系吸音材やウレタン系吸音材など。例えば図5に示す吸音部260)で吸音部360が構成される場合は、吸音部360の経年劣化が問題となる場合がある。一方、第1多孔板362を備えた吸音部では、第1多孔板362の素材として対環境性の強い素材を選定しうる。この場合は、多孔質系吸音材のみで吸音部360が構成された場合に比べ、吸音部360の経年劣化を抑制できる。
【0047】
また、第1多孔板362は、ブーム50との間に空気層363が形成されるようにブーム50に対向して配置されている。この第1多孔板362の孔径、開孔率、及び、空気層363の厚さT3を調整することで、吸音部360で吸音する音波の周波数帯域を調整できる。ここで、動力機構26による騒音は約500Hz以下の低・中周波帯域にピークがあるところ、多孔質吸音材でこの騒音を抑制することは困難である。一方で本発明では、上記の調整を行うことで、この低・中周波帯域の騒音を抑制できる。
【0048】
(第3実施形態の変形例)
支持部材361は、ブーム50の面51に固定されたリブとしても良い。この場合、ブーム50の剛性が向上する。
【0049】
また、第1多孔板362は、貫通孔362hを備えない板としても良い。すなわち、吸音部360を、空気層363と板とを組み合わせた板振動型吸音材としても良い。なお、この場合は、貫通孔362hの孔径や開孔率を調整することはできないが、空気層363の厚さT3は調整することができ、これにより吸音する周波数帯域を調整できる。
【0050】
また、空気層363の少なくとも一部に多孔質系吸音材(例えば図5に示す吸音部260)を配置しても良い。
【0051】
(第4実施形態)
図11に、第4実施形態に係る吸音部460周辺の断面図(図5相当図)を示す。以下、第3実施形態との相違点を説明する。
【0052】
吸音部460は、図8に示す第1多孔板362及び空気層363を、図11に示すように2層構造にしたものである。これにより、1層構造(図8参照)の場合に比べ、広い周波数帯域で音波を吸音できる。
【0053】
さらに詳しくは、吸音部460は、ブーム50に取り付けられた支持部材461と、支持部材461に取り付けられた第1多孔板462と、第1多孔板462に取り付けられた支持部材466と、支持部材466に取り付けられた第1多孔板467とを備える。2枚の第1多孔板462及び467は、ブーム50との間に2層の空気層(ブーム50と第1多孔板462との間の空気層463、及び、第1多孔板462と467との間の空気層468)が形成されるようにブーム50の面51に対向してそれぞれ配置されている。
【0054】
また、空気層463の厚さT4aは30mm、空気層468の厚さT4bは40mmである。なお、空気層全体の厚さ(T4a+T4b=70mm)は、第3実施形態の空気層363(図8参照)の厚さT3と等しい。
【0055】
図12に、吸音部460(図11参照)の垂直入射吸音率の周波数特性(図6相当図)を示す。このグラフより、1層構造の場合(図8及び図9参照)に比べ、吸音率の高い周波数の範囲(約400Hz〜約1250Hz)が広がっていることが分かる。
【0056】
図13に、吸音部460(図11参照)を備えるとともに定置で有負荷時の建設機械1(図1参照)の運転室30(同図参照)内の右耳元騒音レベルの周波数特性(図7相当図)を示す。吸音部460(図11参照)を備える建設機械1(図1参照)での周波数特性を白色円印で示す。図13に示すグラフより、従来技術と比べて本発明では400Hz〜1250Hzの周波数で騒音レベルが約4dB低減していることが分かる。また、オーバーオールで3dB低減、すなわち音のエネルギーは半減していることがわかる。このように、2層構造の吸音部460(図11参照)は、1層構造の吸音部360(図8参照)に比べよりいっそう騒音を低減することができる。
【0057】
なお、吸音部460(図11参照)を3以上の層構造に変形しても良い。この場合、より広い周波数帯域で音波を吸音できる。
【0058】
(第5実施形態)
図14に、第5実施形態に係る吸音部560周辺の断面図(図5相当図)を示す。ここで、ブーム50は箱型伸縮ブームであり、複数のブームが入れ子状に配置された構造(図1参照)である。ブーム50は、図1及び図14に示すように、これら複数のブームのうち最も外側に配置される外側ブーム50oと、外側ブーム50oの内側に隣接して配置される内側ブーム50iとを備える。なお、内側ブーム50iのさらに内側にもブームが配置されるが、煩雑を避けるため図14では省略している。以下、第3実施形態との相違点を説明する(なお、本実施形態は上記「第1の発明」に対応する形態である)。
【0059】
吸音部560は、図14に示すように、多数の貫通孔562hを設けた外側ブーム50oと、外側ブーム50oと内側ブーム50iとの間に形成された空気層563とを組み合わせることで吸音効果を奏する多孔吸音材である。すなわち、第3実施形態の吸音部360(図8参照)と対比すると、外側ブーム50oのX2側の側板は第1多孔板362(図8参照)に対応し、空気層563は空気層363(図8参照)に対応する。
【0060】
さらに詳しくは、外側ブーム50oのX2側の側板のうちブーム側対向部55には、横方向に貫通する多数の貫通孔562hが形成される。また、空気層563は、外側ブーム50oと内側ブーム50iとの隙間のうちX2側の部分の厚さT5を有する空間である。この構成により、従来のブーム50に対して新たな部品の追加をすることなく、吸音部560を形成できる。
【0061】
外側ブーム50oの底板52には、水抜き穴552hが複数形成される。貫通孔562hからブーム50の内部へ侵入した水を水抜き穴552hにより排出できる。
【0062】
(第6実施形態)
図15に、第6実施形態に係る吸音部640周辺の断面図(図5相当図)を示す。以下、第3実施形態との相違点を説明する。
【0063】
吸音部640は、運転室側対向部35に設けられる。吸音部640は、内側に空気層643が形成される凹部641と、第2多孔板642とを組み合わせることで吸音効果を奏する多孔吸音材である。すなわち、第3実施形態の吸音部360(図8参照)と対比すると、空気層643は空気層363(図8参照)に対応し、第2多孔板642は第1多孔板362(図8参照)に対応する。
【0064】
凹部641は、第2多孔板642と運転室30との間に空気層643を形成するために、運転室30の面31に形成された部分である。凹部641は、運転室30の内側向き(X2向き)へ凹んでおり、内側に空気層643が形成される。
【0065】
第2多孔板642は、凹部641を覆うように運転室30に取り付けられ、多数の貫通孔642hを備える板である。第2多孔板642は、運転室30との間(凹部641の内側)に厚さT6の空気層643が形成されるように運転室30の面31(凹部641のX2側の面)に対向して配置される。
【0066】
この第2多孔板642は、運転室30の面31に対して、ブーム50側(X1側)に突出しないように配置する。言い換えれば、空気層643の厚さT6を、凹部641の深さ(横方向の深さ)と同程度またはそれ以下とする。さらに、空気層643の厚さT6と第2多孔板642の厚さとの和を凹部641の深さ以下としても良い。この場合、第2多孔板642は、運転室30の面31に対してX1側に全く突出しない。
【0067】
(第6実施形態に係る建設機械の特徴)
この建設機械1では、吸音部640は第2多孔板642を備えている。第2多孔板642は、運転室30(運転室30の面31の凹部641のX2側の面)との間に空気層643が形成されるように運転室30に対向して配置されている。この構成により、第1多孔板362(図8参照)を備えた吸音部360(図8参照)と同様の特徴を備える。
【0068】
また、吸音部640は、凹部641を覆うように運転室30に取り付けられた第2多孔板642を備えている。よって、運転室30の面31からX1側に突出することのない吸音部640を形成できる。
【0069】
(その他の変形例)
第1〜第6実施形態に係るそれぞれの吸音部は、様々に組み合わせて用いることができる。例えば、ブーム側対向部55および運転室側対向部35のうち一方にのみ吸音部を設けた第2〜第6実施形態(図5、8、11、14、及び15参照)を、第1実施形態(図4参照)のようにブーム50及び運転室30の両方に吸音部を設けた構成に変形しても良い。この場合、より吸音効果を得られる。また例えば、ブーム側対向部55の上半分にのみ吸音部を設けた第2〜第4実施形態(図5、8、及び11参照)を、第1実施形態(図4参照)のようにブーム側対向部55の全面に設けた構成に変形しても良い。この場合も、より吸音効果を得られる。また例えば、第3及び第4実施形態(図8及び図11参照)に係る多孔吸音材を、運転室側対向部35に取り付けても良い。この場合、凹部641を備える吸音部640(図15参照)よりも容易に吸音部を構成できる。
【0070】
前記実施形態では建設機械1をホイルクレーンとして説明した。しかしながら、運転室30の横(隣)に箱型のブーム50が走行時または作業時に配置される作業機械であれば、どのような作業機械でも本発明を適用できる。
【0071】
前記実施形態では上部旋回体20のエンジン室25内に動力機構26を配置したが、建設機械1のいずれの位置に動力機構26が配置されていても本発明を適用できる。例えば、下部走行体10に動力機構26が取り付けられていても良い。
【符号の説明】
【0072】
1 建設機械
10 下部走行体
20 上部旋回体
21 旋回フレーム
30 運転室
35 運転室側対向部
40、60、260、360、460、560、640 吸音部
50 ブーム
55 ブーム側対向部
361、461、466 支持部材
362、462、467 第1多孔板
363、463、468、563、643 空気層
641 凹部
642 第2多孔板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体の上方側に取り付けられた上部旋回体とを備え、
前記上部旋回体は、
前記下部走行体に取り付けられた旋回フレームと、
前記旋回フレームに起伏可能に取り付けられた箱型のブームと、
前記旋回フレームに取り付けられるとともに前記ブームと隣り合うように配置された運転室とを備え、
前記ブームのうち前記運転室と向かい合うブーム側対向部、および、前記運転室のうち前記ブームと向かい合う運転室側対向部、の少なくともいずれかに吸音部が設けられている建設機械。
【請求項2】
前記ブーム側対向部に設けられた前記吸音部は、
前記ブームに取り付けられた支持部材と、
前記支持部材に取り付けられた第1多孔板とを備え、
前記第1多孔板は、前記ブームとの間に空気層が形成されるように前記ブームに対向して配置されている、請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記運転室側対向部に設けられた前記吸音部は、
前記運転室に形成された凹部と、
前記凹部を覆うように前記運転室に取り付けられた第2多孔板とを備え、
前記第2多孔板は、前記運転室との間に空気層が形成されるように前記運転室に対向して配置されている、請求項1または2に記載の建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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