説明

建造物の防護装置

【課題】大きな衝撃力をより安価に防護すること。
【解決手段】建造物1を衝撃力から防護するための装置において、円筒状を成し、軸方向に沿った全長に亘る部位に横断面を開放する切欠溝21を有した支持部材20と、板状を成し、衝撃力が加えられた場合に塑性変形するパネル部材10とを具備し、建造物1の壁を構成する壁構造体1a,1bに支持部材20を介してパネル部材10を保持させることにより、壁構造体1a,1bとの間に間隙を確保した状態で壁構造体1a,1bの表面をパネル部材10によって覆い、かつ衝撃力が加えられた場合に支持部材20の変形を伴ってパネル部材10を変形させるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爆発の際に発生する爆風圧等、衝撃力から建造物を防護するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の従来技術としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。この従来装置では、防護すべき建造物に対してその周囲に遮蔽構造体を設けるとともに、遮蔽構造体に衝撃力吸収機構を設けるようにしたものである。遮蔽構造体は、例えば鉄筋コンクリートによって構成された壁構造体である。衝撃力吸収機構は、例えば遮蔽構造体の表面に取り付けたオイルダンパと、オイルダンパの先端に取り付けたパネル部材とを備えて構成されている。
【0003】
上記のように構成された防護装置では、例えば建造物の近傍で爆発が発生すると、パネル部材が変位し、オイルダンパが動作することによって爆風圧による衝撃力が吸収されることになり、建造物に直接衝撃力が加えられる事態を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−282266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
衝撃吸収機構としては、オイルダンパのみならず、U字状やZ字状の鋼材ダンパを適用した簡易型のものも開示されている。しかしながら、従来技術は、オイルダンパや鋼材ダンパが衝撃力を吸収するものである。このため、大きな衝撃力を対象とする場合には、オイルダンパや鋼材ダンパが数多く必要となり、適用する場合にコストの点で必ずしも好ましいとはいえない。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みて、大きな衝撃力をより安価、かつ簡易に防護することのできる建造物の防護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、建造物を衝撃力から防護するための装置において、筒状を成し、軸方向に沿った全長に亘る部位に横断面を開放する切欠溝を有した支持部材と、板状を成し、衝撃力が加えられた場合に塑性変形するパネル部材とを具備し、建造物の壁を構成する壁構造体に支持部材を介してパネル部材を保持させることにより、該壁構造体との間に間隙を確保した状態で壁構造体の表面をパネル部材によって覆い、かつ衝撃力が加えられた場合に支持部材の塑性座屈による変形を伴ってパネル部材を変形させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、上述した建造物の防護装置において、支持部材は、円筒状を成すものであり、切欠溝を挟んで互いに対向する部位にそれぞれパネル部材の端縁部を保持することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上述した建造物の防護装置において、パネル部材は、薄肉鋼材によって平板状に構成したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、爆風圧等による衝撃力が、支持部材が塑性座屈により変形することに加えてパネル部材が塑性変形することによって吸収されることになる。従って、建造物を大きな衝撃力から防護する場合にも、支持部材を数多く設ける必要が無く、比較的安価に、かつ簡易に構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施の形態である防護装置を適用した建造物の要部を概念的に示した断面図である。
【図2】図2は、図1に示した防護装置の要部を拡大して示す断面側面図である。
【図3】図3は、図1に示した防護装置の要部正面図である。
【図4】図4は、図1に示した防護装置の要部斜視図である。
【図5】図5は、図1に示した防護装置に爆風圧が作用した後の例を示す断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る建造物の防護装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
図1〜図4は、本発明の実施の形態である防護装置を適用した建造物を示したものである。ここで例示する防護装置は、建造物の閉塞空間で発生した爆発に対してその衝撃力から建造物1を防護するためのもので、複数のパネル部材10を備えている。
【0014】
パネル部材10は、それぞれ薄肉の鋼材によって矩形の平板状に構成したものである。個々のパネル部材10は、建造物1の側壁を構成する壁構造体1aの内表面全域及び天井を構成する壁構造体1bの内表面全域を覆う態様で支持部材20を介して壁構造体1a,1bに保持させてある。支持部材20は、薄肉の鋼材によって円筒状に構成したもので、切欠溝21を有している。切欠溝21は、支持部材20の軸方向に沿って形成した狭幅の開口であり、支持部材20の全長に亘る部位に設けることにより支持部材20の横断面を開放するように機能している。
【0015】
上述の構成を有する支持部材20は、互いに間隔を確保した状態でビスにより相互に平行に延在する態様で各壁構造体1a,1bの内表面に複数取り付けてある。それぞれの支持部材20は、切欠溝21が建造物1の内方に向く状態で配設してある。こうして壁構造体1a,1bに配設した支持部材20に対しては、切欠溝21を挟んで互いに対向する部位にそれぞれビスによってパネル部材10の端縁部が保持させてある。
【0016】
すなわち、パネル部材10は、互いに隣接して配置された支持部材20の間に端縁部を介して取り付けることにより、壁構造体1a,1bの内表面との間に間隙を確保した状態で配設してある。パネル部材10と壁構造体1a,1bの内表面との間に確保する間隙は、パネル部材10を十分に塑性変形させることのできる大きさに設定してある。隣接するパネル部材10の相互間には、それぞれコーキング材30を充填して目地が構成してある。
【0017】
上記のように構成した防護装置では、建造物1の内部で爆発が発生すると、爆風圧による衝撃力がパネル部材10の表面に作用し、図5に示すように、支持部材20の変形を伴ってパネル部材10が塑性変形することになる。より詳細に説明すると、パネル部材10に爆風圧による衝撃力が作用すると、パネル部材10が建造物の外方に向けて凸となるように押圧されるため、個々の切欠溝21を拡開させるような支持部材20の変形を伴うと同時に塑性座屈も伴ってパネル部材10が外方に向けて凸となるように塑性変形することになる。つまり、爆風圧による衝撃力は、支持部材20の変形のみならず、パネル部材10の変形によっても吸収されることになる。従って、建造物1を大きな衝撃力から防護する場合にも、支持部材20を数多く設ける必要が無くなり、比較的安価に構成することが可能である。
【0018】
尚、上述した実施の形態では、建造物1の側壁及び天井壁を構成する壁構造体1a,1bにパネル部材10を設けるようにしているが、床面を構成する壁構造体にパネル部材10を設けるようにしても良い。
【0019】
また、上述した実施の形態では、鋼材によって矩形の平板状に構成したものをパネル部材10として適用しているが、必ずしもこれに限定されない。例えば、鋼線をメッシュ状に組み上げてパネル状に構成したものをパネル部材として適用することも可能である。
【0020】
さらに、上述した実施の形態では、支持部材20と壁構造体1a,1bとの間、並びに支持部材20とパネル部材10との間をそれぞれビスによって取り付けるようにしているが、溶接等、その他の方法によって支持部材20と壁構造体1a,1bとの間や支持部材20とパネル部材10との間を取り付けるようにしても構わない。
【0021】
またさらに、上述した実施の形態では、パネル部材10を壁構造体1a,1bの内表面に設けているが、外表面に設ければ建造物1の外部で発生した爆発による衝撃力からも防護することができるようになる。
【符号の説明】
【0022】
1 建造物
1a,1b 壁構造体
10 パネル部材
20 支持部材
21 切欠溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物を衝撃力から防護するための装置において、
筒状を成し、軸方向に沿った全長に亘る部位に横断面を開放する切欠溝を有した支持部材と、板状を成し、衝撃力が加えられた場合に塑性変形するパネル部材とを具備し、
建造物の壁を構成する壁構造体に支持部材を介してパネル部材を保持させることにより、該壁構造体との間に間隙を確保した状態で壁構造体の表面をパネル部材によって覆い、かつ衝撃力が加えられた場合に支持部材の変形を伴ってパネル部材を変形させることを特徴とする建造物の防護装置。
【請求項2】
支持部材は、円筒状を成すものであり、切欠溝を挟んで互いに対向する部位にそれぞれパネル部材の端縁部を保持することを特徴とする請求項1に記載の建造物の防護装置。
【請求項3】
パネル部材は、薄肉鋼材によって平板状に構成したものであることを特徴とする請求項1に記載の建造物の防護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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