弁付き人工血管形成用基材、これを用いた弁付き人工血管の生産方法及び弁付き人工血管
【課題】生体組織から構成される膨大部及び弁を備えた弁付き人工血管を形成することのできる基材、これを用いた弁付き人工血管の生産方法及び弁付き人工血管を提供する。
【解決手段】血管3の上流側管状部4を形成する第1柱状体5と、血管3の下流側管状部6を形成する第2柱状体7と、血管壁が半径外方向に膨出する膨大部8及び弁葉9を形成する複数の膨出体10と、膨出体10を第1柱状体5および/または第2柱状体7に係止する係止手段11とを備え、係止手段11は、第1柱状体5及び第2柱状体7の一方又は両方の軸方向端面に形成され軸方向に凹んだ凹部15a、15bと、膨出体本体17から半径方向内側に張り出し、凹部に係止する係止部18とを備え、膨出体10は、その本体17の外周面が膨大部形成面20となり、膨出体本体17と第1柱状体5及び/又は第2柱状体7との間に設けられた隙間が弁葉形成部22弁付き人工血管形成用基材1である。
【解決手段】血管3の上流側管状部4を形成する第1柱状体5と、血管3の下流側管状部6を形成する第2柱状体7と、血管壁が半径外方向に膨出する膨大部8及び弁葉9を形成する複数の膨出体10と、膨出体10を第1柱状体5および/または第2柱状体7に係止する係止手段11とを備え、係止手段11は、第1柱状体5及び第2柱状体7の一方又は両方の軸方向端面に形成され軸方向に凹んだ凹部15a、15bと、膨出体本体17から半径方向内側に張り出し、凹部に係止する係止部18とを備え、膨出体10は、その本体17の外周面が膨大部形成面20となり、膨出体本体17と第1柱状体5及び/又は第2柱状体7との間に設けられた隙間が弁葉形成部22弁付き人工血管形成用基材1である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠損組織の代替となる弁付き人工血管を形成するための基材、それを用いた弁付き人工血管の生産方法及び弁付き人工血管に関する。
【背景技術】
【0002】
病気や事故で失われた細胞、組織、器官を、人工素材や細胞により再び蘇らせる再生医療の研究が数多くなされている。通常、身体には自己防衛機能があり、体内の浅い位置にトゲ等の異物が侵入した場合には体外へ押し出そうとするが、体内の深い位置に異物が侵入した場合にはその周りに繊維芽細胞が集まってきて、主に繊維芽細胞とコラーゲンからなる結合組織体のカプセルを形成し異物を覆うことにより、体内において隔離することが知られている。このような後者の自己防衛反応を利用して、生体内において生細胞を用いた管状の生体由来組織を形成する方法が複数報告されている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1(特開2007−312821)には、棒状構造体の表面に螺旋状溝を形成し、この棒状構造体を生体内に埋入することにより、棒状構造体の表面に膜状の結合組織体を形成し、結合組織体の機械的強度を増加させる点が開示されている。
【0004】
特許文献2(特開2008−237896)には、棒状構造部材の外周に沿って外郭部材を螺旋形に形成し、これを生体に埋入して、棒状構造部材の外縁に結合組織体を形成する点が開示されている。結合組織体が外郭部材と棒状構造部材の表面との間に侵入し、結合組織体の内面形状が棒状構造部材の表面と同様の平滑面に形成される。結合組織体が、外郭部材を包埋する厚さに形成される。
【0005】
特許文献3(特開2010−094476)には、棒状構造部材の表面に外郭部材を形成し、これを結合組織形成用基材とする点が開示されている。この基材を生体内に埋入することにより、基材表面に膜状の組織体を形成する。その際、外郭部材の材料として、生体適合性に優れるが組織体やその構成成分に侵襲されにくい材料を使用することにより、外郭部材は組織体と癒着し結合組織体の機械的強度が増加されるとともに外郭部材の内面に組織体やその構成成分が露出しない人工血管が得られる。
【0006】
また、上記特許文献1〜3の人工血管よりも構造が複雑化した、例えば大動脈の大動脈洞(バルサルバ洞)のように、血管壁が半径外方向に膨出した膨大部と、その血流方向上流側の内部において半径方向内側に突出して血流方向に開閉する複数の弁葉と、を有する血管の生産も求められている。膨大部は、弁が開く際には血液の逃げ道となり、閉じた時には血液の溜まり場として機能し、弁の開閉を行いやすくすると共に血液の逆流を防ぐ働きをしている。
【0007】
このような膨大部及び弁を備えた弁付き人工血管の作成について、特許文献4に開示されている。特許文献4は、生体適合性ブロックコポリマーを含む人工心臓弁及び血管構造のためのスキャフォールドに関するものである。すなわち、複数のモデルパーツからなるバルブモデル上に、エレクトロスピニグ法によりファイバーを堆積させてメッシュ構造を構築する。そこからモデルパーツを離型することにより、バルブモデルのスキャフォールドが完成する。このスキャフォールドは、ポリマー繊維によって形成されたメッシュ様の構造を有する。スキャフォールド上で細胞(内皮細胞や筋線維芽細胞)を培養すると、メッシュ構造が足場となり、その内部で細胞が成長する。このようにして、弁付き人工血管を形成することができる。
【0008】
また、非特許文献1には、スキャフォールドを用いた弁付き人工血管の作成について開示されている。スキャフォールド(高分子のスポンジ材の型)を作り、そこで細胞培養することにより、弁付き人工血管を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−312821号公報
【特許文献2】特開2008−237896号公報
【特許文献3】特開2010−094476号公報
【特許文献4】特表2009−539439号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Antia Mol,PhDら著、「Autologous Human Tissue−Engineered Heart Valves」、2006年7月4日発行、Circulation、I−152〜158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献4記載及び非特許文献1の弁付き人工血管は、人工的なスキャフォールド(異物)を足場としてその内部に細胞が一体化したものであるため、体内へ移植した後、スキャフォールドが分解されるまでの間、拒絶反応や炎症反応が起こるおそれがある。また、特許文献4及び非特許文献1記載の弁付き人工血管は、人工物を内包しているため、移植後に体の成長に伴って大きくならず、特に小児患者の場合には永久的に使用することが困難であり、再度移植の必要性がある。
【0012】
さらにまた、特許文献4によると、第2モデルパーツの遊離端部分における3つの端面と、これに相補的な第1モデルパーツの遊離端領域における端面との間で弁葉が形成されることになるが、図34に示すように、形成されたスキャフォールド31は各弁葉が連続しているため、後で3枚の弁葉に切断する工程が必要となり手間がかかる(特許文献4の段落0045参照)。
【0013】
本発明は、上記に鑑み、生体組織から構成される膨大部及び弁を備えた弁付き人工血管を形成することのできる基材、これを用いた弁付き人工血管の生産方法及び弁付き人工血管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかる人工血管形成用基材は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体を形成し、組織体を剥離して弁付き人工血管を形成するための基材であって、血管の上流側管状部を形成する第1柱状体と、血管の下流側管状部を形成する第2柱状体と、上流側管状部と下流側管状部の間にあって血管壁が半径外方向に膨出する膨大部、及びその内部において半径方向内側に突出して血流方向に開閉可能な弁葉を形成するための複数の膨出体と、膨出体を第1柱状体および/または第2柱状体に着脱自在に係止する係止手段とを備え、係止手段は、第1柱状体及び第2柱状体の一方又は両方の軸方向端面に形成され軸方向に凹んだ凹部と、膨出体の本体から半径方向内側に張り出して凹部に係止することにより、膨出体が第1柱状体及び第2柱状体に対して半径方向、周方向及び軸方向に位置ずれするのを規制する係止部とを備え、膨出体は、その本体の外周面が膨大部形成面となり、膨出体本体と第1柱状体及び/又は第2柱状体との間に設けられた隙間が弁葉形成部となることを特徴とするものである。第1柱状体及び第2柱状体はその外周面が血管の形成面となるため、その大部分を円柱状とするのが好ましい。
【0015】
このような弁付き人工血管形成用基材を、生体組織材料の存在する環境下に所定期間おいた後(設置工程)、環境下から組織体で被覆された弁付き人工血管形成用基材を取り出し(取り出し工程)、組織体から弁付き人工血管形成用基材を取り出す(分離工程)ことにより、生体組織から構成される膨大部及び弁を有する弁付き人工血管を形成することができる。また、分離工程において、基材の周りに形成された組織体から弁付き人工血管形成用基材を取り出す際には、基材を分解して取り出すことができるので、組織体を傷つけずに簡単に抜き出すことができる。このように形成された弁付き人工血管は、大動脈洞(バルサルバ洞)、肺動脈洞、頚動脈洞、上錐体動脈洞、横静脈洞、下垂体静脈洞等の膨大部及び弁を有する血管に適用可能である。
【0016】
膨出体の係止部は、膨出体本体よりも半径内側方向に飛び出すようにして張り出しているので、係止部が第1柱状体及び/又は第2柱上体の凹部に係止されることにより、膨出体本体が第1柱状体及び第2柱上体の表面から飛び出した状態となる。この膨出体本体の外周面が膨大部形成面となり、膨出体本体と第1柱状体及び/又は第2柱状体との間に設けられた隙間(弁葉形成部)で弁葉を形成することができる。弁葉形成部で1つの完成した弁葉を形成することができるので、切断作業を行わずとも弁葉を完成することができる。
【0017】
係止手段の凹部は、第1柱状体又は第2柱状体のいずれか一方に設けてもよいが、第1柱状体及び第2柱状体の両方に設けて両凹部を重ね合わせ、その重ね合わせた凹部内に膨出体の係止部を収納するようにしてもよい。
【0018】
また、係止手段は係止部を凹部に収納しながら、第1柱状体及び第2柱状体で軸方向上下から挟みこんで係止するようにするのが好ましい。組織体から弁付き人工血管形成用基材を取り出す分離工程において、第1柱状体及び第2柱状体を膨出体から上下に分解して、組織体の内腔より取り出した後、複数の膨出体を内腔から取り出すようにすれば、全ての基材を軸方向に抜き出すことができるので、周囲に形成されている組織体を傷つけずに行うことができる。
【0019】
第1柱状体、第2柱状体及び膨出体を一体的に固定する固定手段を備えるのが好ましい。一体化された第1柱状体、第2柱状体及び膨出体のユニットを、生体組織材料の存在する環境下に安定しておくことができる。
【0020】
固定手段は様々な態様をとることができる。1つの態様として、固定手段は、第1柱状体及び第2柱状体の中心を軸方向に貫通するように形成された貫通孔と、貫通孔を挿通して膨出体の係止部、第1柱状体及び第2柱状体を一体的に固定する貫通軸と、を備える構成とすることができる。貫通軸は、棒状体、ネジ、磁石など貫通孔に挿通可能な構造であればいずれの形態をとってよい。例えば、固定手段は、貫通軸の外周に刻設された雄ネジと、該雄ネジに螺合するよう第1柱状体及び/又は第2柱状体の貫通孔の周面に形成された雌ネジとを備えるように構成すればよい。雄ネジを貫通孔の雌ネジにねじ込めば、膨出体の係止部、第1柱状体及び第2柱状体を一体的に固定することができる。
【0021】
また、2つ目の態様として、固定手段は、第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に形成された雄ネジと、該雄ネジに螺合するよう第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に形成された雌ネジとを備える構成とすることができる。一方の柱状体の雄ネジを他方の柱状体の雌ネジに螺合することにより、両柱状体及び膨出体を一体的に固定することができる。
【0022】
さらに3つ目の態様として、固定手段は、第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に配置された磁性体と、第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に配置され磁性体に吸着する被磁性体とを備える構成とすることができる。一方の柱状体の磁性体に他方の柱状体の被磁性体を吸着させることにより、両柱状体及び膨出体を一体的に固定することができる。
【0023】
4つ目の態様として、固定手段は、第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に配置された係合爪と、該係合爪に係脱自在に係合するよう第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に形成された係合穴とを備える構成とすることができる。一方の柱状体の係合爪を他方の柱状体の係合穴に係合することにより、両柱状体及び膨出体を一体的に固定することができる。
【0024】
弁葉形成部の半径方向の厚みは、0.3〜1.0mmとするのが好ましい。生体における弁葉の厚みは約0.2mmであるが、弁付き人工血管の弁葉を生体と同じ0.2mmとすると、体内へ移植した後、安定するまでの間血流によって弁葉が薄くなって破けてしまい、弁としての機能を損なってしまうおそれがある。そこで、弁葉形成部の厚み、すなわち弁葉の厚みを0.3〜1.0mm、より好ましくは0.3〜0.8mmとすれば、移植後に弁葉が薄くなっても最終的に約0.2mmで落ち着くので、弁の働きを持続させることができる。
【0025】
膨出体本体は、膨出体本体の半径方向外側面と弁葉形成部とを連通して、組織体を弁葉形成部側に侵入しやすくする侵入孔を有するのが好ましい。組織体が弁葉形成部に侵入しやすくなるため、分厚い弁葉の形成を早めることができる。なお、侵入孔の数は1つでもよいし、よりたくさん組織体を侵入させるために複数設けるようにしてもよい。
【0026】
1又は複数の膨出体本体の外面に接続される第3の柱状体を備え、第3の柱状体の外周面が膨大部から分岐する血管の形成面とすることができる。例えば、心臓の血管の場合は、第3の柱状体の周りに形成される血管を冠動脈とすることができる。また、第3の柱状体は、膨出体本体の外面に着脱自在とされるのが好ましい。
【0027】
第1柱状体及び第2柱状体の素材は限定されるものではなくアクリル樹脂などの素材を用いてもよいが、第1柱状体及び/又は第2柱状体の少なくとも表面がシリコーン樹脂等の弾性体であるのが好ましい。弾性体の表面には生体組織による膜が厚く形成されるため、安定した生体組織を形成することができる。
【0028】
基材の表面粗さ(Ra)が、50μm以下とするのが好ましい。表面粗さ(Ra)を50μm以下とすることにより、基材の周囲に形成される組織体の厚みをより厚く形成することができる。表面粗さ(Ra)が0.1μmと、鏡面に近い基材であっても、その周囲に厚みの大きい組織体を形成することができる。なお、平均粗さ(Ra)とは、「算術平均粗さ」のことであり、JIS B 0601−1994「表面粗さ−定義」に規定されている「算術平均粗さ(Ra)」を示す。
【0029】
なお、この基材の表面粗さについては、弁及び膨大部を有する血管に限定されるものではなく、弁又は膨大部を有しない血管を含む管状組織、膜状組織等の結合組織を形成するための基材にも適用することができる。すなわち、本発明は、基材の表面粗さ(Ra)が50μm以下である生体由来組織形成用基材も提供することができる。形成された生体由来組織は、管状組織、膜状組織及び弁状組織を含む結合組織となる。管状組織としては、血管、リンパ管、気管、胆管、腸管、尿道管、尿管、卵管等が挙げられる。膜状組織としては、心膜、硬膜、角膜、皮膚、心膜等が挙げられ、表層を覆うあるいは膜状で機能する平面状の組織である。弁状組織としては、心臓弁、静脈弁等が挙げられる。
【0030】
また、本発明において、「生体組織材料」とは、所望の生体由来組織を形成するうえで必要な物質のことであり、例えば、線維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞、幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の動物細胞、各種たんぱく質類(コラーゲン、エラスチン)、ヒアルロン酸等の糖類、その他、細胞成長因子、サイトカイン等の生体内に存在する各種の生理活性物質が挙げられる。
【0031】
また、本発明において、「生体組織材料」には、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物に由来するもの、又はこれと同等の人工材料が含まれる。また、移植対象者に対して、自家移植、同種移植、異種移植のいずれでもよいが、拒絶反応を避ける観点からなるべく自家移植か同種移植が好ましい。また、異種移植の場合には、拒絶反応を避けるため公知の脱細胞化処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。
【0032】
また、「生体組織材料の存在する環境下」とは、動物(ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物)の生体内(例えば、四肢部、腰部、背部又は腹部などの皮下、もしくは腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において、生体組織材料を含有する人工環境内を表す。また、動物へ埋入の方法をとる場合には低侵襲な方法で行うことと、動物愛護の精神を尊重し、十分な麻酔下で最小限の切開術で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明の弁付き人工血管形成用基材によれば、基材の周りに形成された組織体から弁付き人工血管形成用基材を取り出す際に、基材を分解して取り出すことができるので、組織体を傷つけずに簡単に抜き出すことができる。そして、生体組織から構成される膨大部及び弁を有する弁付き人工血管を形成することができる。
【0034】
また、膨出体本体と第1柱状体及び/又は第2柱状体との間に設けられた隙間(弁葉形成部)で、1つの完成した弁葉を形成することができ、切断作業が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図2のB−B断面図である。
【図4】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の膨出体の正面図である。
【図5】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の膨出体の背面図である。
【図6】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の膨出体の平面図である。
【図7】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の膨出体の底面図である。
【図8】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の膨出体の左側面図である。
【図9】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の膨出体のC−C断面図である。
【図10】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の組み立て工程を示す図である。
【図11】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材が組織体で被覆された状態の縦断面図である。
【図12】本発明にかかる弁付き人工血管の主要部を示す端面図であって、(a)は弁が開いた状態、(b)は弁が閉じた状態を示す。
【図13】図11のD−D断面図である。
【図14】本発明にかかる弁付き人工血管の一部切断斜視図である。
【図15】図14のE−E断面図である。
【図16】取り出し工程において、生体内から取り出された、組織体で被覆された弁付き人工血管形成用基材を示す写真である。
【図17】図16の組織体で被覆された弁付き人工血管形成用基材の第2柱状体端面を露出させた状態を示す写真である。
【図18】図17の組織体で被覆された弁付き人工血管形成用基材の貫通軸を抜き出す状態を示す写真である。
【図19】第1柱状体及び第2柱状体を抜き出した後、血管を縦に切り開いた状態を示す写真である。
【図20】図19の一部拡大斜視図である。
【図21】縦に切り開いた弁付き人工血管の弁葉を血流の下流側からみた状態を示す写真である。
【図22】縦に切り開いた弁付き人工血管の弁葉を血流の上流側からみた状態を示す写真である。
【図23】弁葉及び膨出部の断面を示す写真である。
【図24】弁葉の動きを下流側からみた状態を示す写真であって、(a)は弁が開いた状態、(b)は弁が半分開いた状態、(c)は弁が閉じた状態を示す。
【図25】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図26】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図27】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図28】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図29】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図30】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図31】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の分解斜視図である。
【図32】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図33】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の斜視図である。
【図34】従来のスキャフォールドを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の弁付き人工血管形成用基材1は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体2を形成し、組織体2を剥離して弁付き人工血管3を形成するための基材である。なお、図15において、2点鎖線は弁葉が閉じた状態を示す仮想線である。また、図19〜図23は血管3の内部構造を見やすくするために切り開いたものであり、実際の生産工程において切り開き作業を行う必要はない。また、血流方向を矢印Bで示す。
【0037】
弁付き人工血管形成用基材1は、図1、図2及び図10に示すように、血管3の血流方向上流側部分である上流側管状部4を形成する第1柱状体5と、血管3の血流方向下流側部分である下流側管状部6を形成する第2柱状体7と、上流側管状部4と下流側管状部6の間にあって血管壁が半径外方向に膨出する膨大部8、及びその内部において半径方向内側に突出して血流方向に開閉可能な弁葉9を形成するための複数の膨出体10と、膨出体10を第1柱状体5および第2柱状体7に着脱自在に係止する係止手段11と、第1柱状体5、第2柱状体7及び膨出体10を一体的に固定する固定手段12を備える。
【0038】
弁付き人工血管形成用基材1の材料は、生体に埋入した際に大きく変形することが無い強度(硬度)を有しており、化学的安定性があり、滅菌などの負荷に耐性があり、生体を刺激する溶出物が無いまたは少ない樹脂が好ましく、例えばシリコーン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられるがこれに限定されるものではない。なお、弾性の高いシリコーン樹脂等の弾性体を用いると、その表面に形成される組織体2の厚みが厚くなる傾向がある。したがって、弁付き人工血管形成用基材1の全て、または、少なくとも組織体2と接触する第1柱状体5、第2柱状体7及び膨出体10の表面をシリコーン樹脂等の弾性体から構成するのが好ましい。
【0039】
また、弁付き人工血管形成用基材1の表面粗さ(Ra)は、0.1〜50μmとされる。基材1の表面粗さ(Ra)が90μmのとき、その基材1表面に形成される組織体2の厚みは40.9±10.5μm、基材1の表面粗さ(Ra)が50μmのとき、その基材1表面に形成される組織体2の厚みは124.4±17.4μm、基材1の表面粗さ(Ra)が20μmのとき、その基材1表面に形成される組織体2の厚みは157.4±39.5μmとなった。したがって、弁付き人工血管形成用基材1の表面粗さ(Ra)を50μm以下とすれば、その基材1表面に形成される組織体2の厚みが十分に厚いものとなり好ましい。組織体2の厚みが厚ければ、形成される血管3の自立性が高まり、生体内の血管との吻合操作が行いやすい。本実施形態においては、基材1の表面粗さ(Ra)を20μmとした。
【0040】
第1柱状体5は、シリコーン樹脂製、第2柱状体7は、アクリル樹脂製の円柱状に形成され、それぞれ外径20mm、全長約30mmとされる。また、第1柱状体5及び第2柱状体7の各中心部分には、直径10mm程度の貫通孔13が形成される。第1柱状体5及び第2柱状体7は、半径外方向に突出する部材がなく、その外周面が人工血管3の管状部の内腔面を形成する。第1柱状体5及び第2柱状体7の表面には軸方向に延びる浅い細溝14が複数形成されている。細溝14により組織体2を引き抜くときに空気が入るため、抜きやすくなる。なお、第1柱状体5及び第2柱状体7の外径により血管3の太さが決定されるため、目的の太さによってその直径を変更可能である。
【0041】
第1柱状体5及び第2柱状体7は、それぞれの合わせ面側の端面に、軸方向に凹んだ凹部15a、15bが複数形成される。凹部15a、15bは、弁葉9の数に合わせて本実施形態においては3つずつ形成され、第1柱状体5及び第2柱状体7の間で対応する位置に形成される。また、凹部15a、15bは、半径内方向側が幅広に形成された係止溝16を有する。
【0042】
膨出体10は、アクリル樹脂製であり、図4〜図9に示すように、膨出体本体17と、膨出体本体17から半径方向内側に張り出した係止部18とから構成される。膨出体10は、弁葉9の数に合わせて本実施形態においては3つ設けられる。係止部18は、膨出体本体17よりも半径内側方向に飛び出すようにして張り出しており、これが第1柱状体5の凹部15aと第2柱状体7の凹部15bとを重ね合わせた部分に係止されることにより、膨出体本体17が第1柱状体5及び第2柱状体7の表面から飛び出した状態となる。
【0043】
係止部18は、図10に示すように、第1柱状体5の凹部15aと第2柱状体7の凹部15bとを重ね合わせた部分の形状と相補的な形状に形成される。したがって、膨出体10が第1柱状体5及び第2柱状体7に対して周方向及び軸方向に位置ずれするのを規制する。また、係止部18は、その半径内側の先端がフランジ状に拡大した幅広部19を備えており、この幅広部19が凹部15a、15bの係止溝16に嵌まることにより、膨出体10が第1柱状体5及び第2柱状体7に対して半径方向に位置ずれするのを規制する。
【0044】
膨出体本体17は、図3に示すように、第1柱状体5及び第2柱状体7の側方へ膨出するような湾曲面を有しており、この湾曲した外周面が膨大部8の内腔面を形作る膨大部形成面20となる。膨出体本体17は、図4及び図5に示すように、その上流側縁がU字状に湾曲して形成される。3つの膨出体本体17は、図3に示すように、周方向にわたって連続するように設けられる。また、膨出体本体17は、係止部18の下縁(上流側縁)よりも上側(血流方向下流側)の部位17aは、第1柱状体5及び第2柱状体7と密着可能とされる。この構造によって、第1柱状体5と第2柱状体7との間の隙間を覆い隠すことができ、隙間への組織体2の余分な侵入を防止できる。なお、図33に示すように、膨出体本体17で第1柱状体5と第2柱状体との境界を周方向にわたって覆うようにしてもよい。この構造によると、第1柱状体5及び第2柱状体7の隙間を全て覆い隠すことができる。
【0045】
また、図2、図5、図9及び図11に示すように、膨出体本体17の上側の部位17aは第1柱状体5及び第2柱状体7と密着しているが、その下部(上流側)が薄肉となるように段落ちしており、この段落ち部分21と第1柱状体5との間に設けられた隙間が弁葉形成部22となる。図12(a)、(b)に示すように、この弁葉形成部22に形成された組織体2は半径外内方向へ往復動することにより、弁葉9として機能することができる。
【0046】
また、図5に示すように、段落ち部分21の下流側縁21aは、弁葉9の下流側縁(先端形状)を形作る。その段落ち部分21の下流側縁21aは弁葉下流側へ向かって尖った形状に形成されているため、弁葉9の先端も尖った角形状となる。弁葉形成部22の半径方向の厚みは、0.3〜1.0mm、より好ましくは0.3〜0.8mmとするのが好ましい。
【0047】
弁葉9は、膨出体本体17の下縁(上流側縁)と第1柱状体5との隙間22から侵入する組織体2によって形成されるが、厚みのある弁葉9をより短期間に形成するために、図25に示すように、膨出体本体17に半径方向に貫通した侵入孔23を形成してもよい。侵入孔23によって、膨出体本体17の半径方向外側面と弁葉形成部22とを連通させることができるので、組織体2を弁葉形成部22側に侵入させやすくなる。侵入孔23の数は単数でもよいが、複数形成した方が組織体2を弁葉形成部22へ侵入させやすいので好ましい。なお、侵入孔23を設けた場合は、基材1の表面に形成された組織体2から膨出体10を抜き出す際には、侵入孔23の少なくとも片側で組織体2を切断する必要がある。また、侵入孔23の口径は0.5〜1.0mmとすることが望ましい。0.5mmよりも小さいと細胞の侵入が困難となり、1.0mmよりも大きいと組織体2を切断するのが困難になるためである。
【0048】
また、弁葉形成部22(すなわち、膨出体本体17の内面と、これに対応する第1柱状体5の表面の形状)は円弧状に形成される。弁葉9を半径外内方向へ往復動させやすい。
【0049】
係止手段11は、上記第1柱状体5及び第2柱状体7の軸方向端面に形成され軸方向に凹んだ凹部15a、15bと、上記膨出体10の係止部18とから構成され、図10に示すように、係止部18を第1柱状体5の凹部15aと第2柱状体7の凹部15bとを重ね合わせた部分に収納しながら、第1柱状体5及び第2柱状体7で軸方向上下から挟みこんで係止することにより、膨出体10を第1柱状体5および第2柱状体7に着脱自在に係止する。なお、係止手段11の構成は、膨出体10が第1柱状体5及び第2柱状体7に対して半径方向、周方向及び軸方向のいずれの方向にも位置ずれするのを規制する構造であれば、上記形態に限定されるものではない。
【0050】
固定手段12は、第1柱状体5及び第2柱状体7の中心を軸方向に貫通するように形成された上記の貫通孔13と、貫通孔13を挿通して膨出体10の係止部18、第1柱状体5及び第2柱状体7を一体的に固定する貫通軸24とを備える。
【0051】
貫通軸24は、アクリル樹脂製であり、図2及び図10に示すように、第1柱状体5及び第2柱状体7の貫通孔13と相補的に形成された円柱状の軸部25と、軸部25が立設される円板状の軸台26と、貫通軸24の固定をロックするロック部27と、から構成される。軸台26の外径は、第1柱状体5及び第2柱状体7の外径と同一とされ、軸台26の外周面が弁付き人工血管3の内腔面の一部を形成する。ロック部27は、軸部25の先端側に形成されたロック孔28と、該ロック孔28に貫通可能な挿入体29とから構成され、軸部25を貫通孔13に通した後、その先端のロック孔28に挿入体29を挿入することにより、挿入体29と軸台26とで第1柱状体5、第2柱状体7及び膨出体10とを挟み込んで固定することができる。このように、固定手段12にて、第1柱状体5、第2柱状体7及び膨出体10を完全に固定することにより、それぞれの合わせ面や、貫通孔13内に組織体2が形成されないですむ。
【0052】
次に、上記のような弁付き人工血管形成用基材1を用いて弁付き人工血管3を生産する方法について説明する。生産方法は、生体組織材料の存在する環境下におく「設置工程」と、環境下から組織体2で被覆された弁付き人工血管形成用基材1を取り出す「取り出し工程」と、組織体2から弁付き人工血管形成用基材1を取り出す「分離工程」とからなる。
【0053】
<設置工程>
まず、弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料の存在する環境下へ置く。生体組織材料の存在する環境下とは、動物の生体内(例えば、皮下や腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において生体組織材料が浮遊する溶液中等の人工環境内が挙げられる。生体組織材料としては、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ヒツジなどの他の哺乳類動物由来のものや、鳥類、魚類、その他の動物由来のもの、又は人工材料を用いることもできる。
【0054】
弁付き人工血管形成用基材1を動物に埋入する場合には、十分な麻酔下で最小限の切開術で行い、埋入後は傷口を縫合する。弁付き人工血管形成用基材1の埋入部位としては例えば、結合組織形成用基材1を受け入れる容積を有する腹腔内、あるいは四肢部、賢部又は背部、腹部などの皮下が好ましい。また、埋入には低侵襲な方法で行うことと動物愛護の精神を尊重し、十分な麻酔下で最小限の切開術で行うことが好ましい。
【0055】
また、弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料の存在する環境下へ置く場合には、種々の培養条件を整えてクリーンな環境下で公知の方法に従って細胞培養を行えばよい。
【0056】
<取り出し工程>
所定時間の設置工程に置いた後、弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料の存在する環境下から取り出す取り出し工程を行う。生体組織材料の存在する環境下から取り出された弁付き人工血管形成用基材1は、全体を生体組織による膜に覆われている(図16)組織体2は、繊維芽細胞とコラーゲンなどの細胞外マトリックスで構成され、組織体2は弁付き人工血管形成用基材1の外周表面に癒着しているが、基材1の内側には侵入していない。
【0057】
<分離工程>
そして、分離工程において、一端側の生体組織を取り除き(図17)、ロック孔28から挿入体29を引き抜いてロック部27によるロック状態を解除する。そして、他端側の生体組織を取り除いた後、軸台26をもって軸部25を第1柱状体5及び第2柱状体7の貫通軸24から抜き出す(図18)。第1柱状体5及び第2柱状体7を膨出体10から軸方向上下に分解して、それぞれを組織体2の内腔の上下端から抜き出す。
【0058】
次に、3つの膨出体10を抜き出す。図19及び図20の血管3を縦に切り開いた状態を示す写真に示すように、膨出体10は、弁葉形成部22と膨大部8との間のポケットに収納されている状態となっている。この膨出体10を下流側へ抜き出すことにより、生体組織から構成される弁付き人工血管3を生産することができる。剥離された組織体2の内面は、基材1の表面に接しているので平滑になる。
【0059】
弁付き人工血管3は、図13〜図15に示すように、膨出体10の外周面の膨大部形成面20によって、半径外方向に向かってこぶ状に膨出した膨大部8が形成される。そして、図21〜図23に示すように、膨大部8の内部において上流側部分に、ポケット状の構造が形成されることにより、そのポケット片が弁葉9となる。3枚の弁葉9が膨らんでその下流側(開放側)の端部が互いに近づいた状態が弁の閉じた状態であり(図15の仮想線部分、図24(c))、3枚の弁葉9がしぼんでその下流側の端部が互いに離れていき(図24(b))、膨大部8の壁面に近づいた状態が弁の全開した状態(図15の実線部分、図24(a))となる。
【0060】
また、弁葉9の厚みが0.3〜1.0mmである。生体における弁葉9の厚みは約0.2mmであるので、通常であれば弁葉形成部22の厚みは生体と同じ0.2mmとすればよいのであるが、厚み0.2mmの弁葉9を有する弁付き人工血管3を体内へ移植すると、安定するまでの間血流によって0.2mmよりも薄くなって破けてしまい、弁としての機能を損なってしまう。そこで、弁葉形成部22の厚みを0.3〜1.0mmとすることにより、移植後に弁葉9が薄くなっても最終的に約0.2mmで落ち着くので、弁の働きを持続させることができる。
【0061】
また、第1柱状体5がシリコーン樹脂製であるので、その周りに形成される組織体2、特に弁葉9が厚く形成される。また、基材1の表面粗さ(Ra)が50μm以下とされているので、基材1表面に形成される組織体2が厚く形成される。したがって、組織体2は自立して管形状を維持することができることから、人工血管3として生体と縫合する時に吻合部位が開口した状態で、吻合操作を行いやすい。
【0062】
以上の説明のとおり、人工血管形成用基材1と組織体2との分離は、第1柱状体5及び第2柱状体7を膨出体10から上下に分解して、組織体2の内腔より取り出した後、複数の膨出体10を内腔から取り出すことにより、簡単に行うことができる。分解して取り出すことができるので、組織体2を傷つけないですむ。また、形成された弁付き人工血管3は、弁葉形成部22で1つの完成した弁葉9を形成することができるので、切断作業を行わずとも弁葉9を完成することができる。
【0063】
生産された人工血管形成用基材1を異種移植する場合には、移植後の拒絶反応を防ぐため、脱細胞処理、脱水処理、固定処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。脱細胞処理としては、超音波処理や界面活性剤処理、コラゲナーゼなどの酵素処理によって細胞外マトリックスを溶出させて洗浄する等の方法があり、脱水処理の方法としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶媒で洗浄する方法があり、固定処理する方法としては、グルタアルデヒドやホルムアルデヒドなどのアルデヒド化合物で処理する方法がある。
【0064】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正及び変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、第1柱状体5及び第2柱状体7の各中心部分に貫通孔13を形成したが、図26に示すように、第1柱状体5及び第2柱状体7の中心よりずれた位置に貫通孔13を形成してもよい。また、第1柱状体5(又は第2柱状体7)から突出部5aを突出させ、第2柱状体7(又は第1柱状体5)に陥没部7aを設けてもよい。突出部5aを陥没部7aに挿入して嵌合させることにより、第1柱状体5及び第2柱状体7の軸と直交する方向へのずれを防止することができる。
【0065】
また、図26に示すように、固定手段12の貫通軸24は、軸部25と、軸部25の両端を固定するロック部とから構成してもよい。ロック部は、軸部25の両端に形成された雄ネジと、ナット27aとから構成される。第1柱状体5及び第2柱状体7の貫通孔13に軸部25を挿通した後に、軸部25の両端からナット27aで締め上げることにより、2つの案ット27aの間で第1柱状体5、膨出体10及び第2柱状体7を一体的に固定することができる。
【0066】
また、図27に示すように、固定手段12は、貫通軸24の軸部25の外周に刻設された雄ネジと、第1柱状体5及び/又は第2柱状体7の貫通孔13の周面に形成された雌ネジとから構成してもよい。この構成によれば、上記ロック部27が不要となり、部品点数を減らすことができる。すなわち、第2柱状体7の貫通孔13の周面の一部又は全部に雌ネジを設け、雌ネジの形成されていない第1柱状体5側から貫通孔13に軸部25を挿入して、第2柱状体7の貫通孔13においてネジ止めを行えば、軸台26と第2柱状体7とで第1柱状体5及び膨出体10を挟み込んで固定することができる。なお、第2柱状体7ではなく第1柱状体5に雌ネジを設ける構成としてもよいし、第1柱状体5及び第2柱状体7の両方に雌ネジを設ける構成としてもよい。
【0067】
また、図28に示すように、固定手段12は、第2柱状体7に形成された雄ネジと、該雄ネジに螺合するよう第1柱状体5に形成された雌ネジとを備える構成とすることができる。第2柱状体7の雄ネジを第1柱状体5の雌ネジに螺合することにより、第1柱状体5、第2柱状体7及び膨出体10を一体的に固定することができる。なお、雄ネジを第1柱状体5に設け、雌ネジを第2柱状体7に設ける構成としてもよい。
【0068】
また、固定手段12は、第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に配置された磁性体と、第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に配置され磁性体に吸着する被磁性体とを備える構成とすることができる。例えば、図29に示すように、第1柱状体5(又は第2柱状体7)に磁性体12aを設け、第2柱状体7(又は第1柱状体5)に被磁性体12b設けることにより、磁性体12aと被磁性体12bとが吸着し、第1柱状体5、第2柱状体7及び膨出体10を一体的に固定することができる。このとき、磁性体12a及び被磁性体12bをそれぞれ第1柱状体5及び第2柱状体7の端面に設けてもよいが、磁性体12aを第1柱状体5(又は第2柱状体7)から突出する突部5bの先端に設け、被磁性体12bを第2柱状体7(又は第1柱状体5)に形成した嵌合凹部7bの底に設ける構成とすれば、第1柱状体5の突部5bを第2柱状体7の嵌合凹部7bに挿入することにより、その固定をより強固なものとすることができる。
【0069】
さらにまた、図30に示すように、固定手段12は、第1柱状体5(又は第2柱状体7)に配置された先端が折曲した係合爪5cと、第2柱状体7(第1柱状体5)に形成された係合穴7cとを備える構成とすることができる。係合穴7は止め構造7dを有しており、第1柱状体5の係合爪5cを第2柱状体7の係合穴7cに挿入した後、第1柱状体5を軸周りにXからY方向に90度回転させることにより、係合爪5cの先端の折曲部分が係合穴7cの止め構造7dにひっかかる。このような構造により第1柱状体5を第2柱状体7に係脱自在に係合することができる。なお、係合穴を第1柱状体5に設け、係合爪を第2柱状体7に設ける構成としてもよい。
【0070】
また、図30に示すように、第1柱状体5及び第2柱状体7の内部に設けられた薬剤収容用の空洞部32と、空洞部32の開口を開閉自在とする蓋33と、空洞部32から半径外方向に延び各柱状体5、7の外面へ開口する浸出路34とを設ける構成としてもよい。空洞部32の開口から薬剤を入れた後、蓋33を閉めた状態で弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料が存在する環境下へ置くと、空洞部32内の薬剤を浸出路34を通して基材1の外部へ浸み出させることができる。浸出路34の口径は0.5mm以下とすることが望ましい。0.5mm以下とすると、浸出路34へ細胞が侵入しにくい。
【0071】
薬剤の種類としては、組織体2の形成を促進させるもの、たとえば、内皮細胞増殖促進剤(血管新生因子HFG、VEGF、bFGFなど)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0072】
なお、上記の空洞部32及び浸出路34を備えた構造は、弁及び膨大部を有する血管に限定されるものではなく、弁又は膨大部を有しない血管を含む管状組織、膜状組織等の結合組織を形成するための基材にも適用することができる。すなわち、本発明は、基材を構成する構造体の内部に設けられた薬剤収容用の空洞部と、空洞部の開口を開閉自在とする蓋と、空洞部から構造体の外方へ延び、構造体の外面へ開口する浸出路とを設けた基材も提供することができる。形成された生体由来組織は、管状組織、膜状組織及び弁状組織を含む結合組織となる。管状組織としては、血管、リンパ管、気管、胆管、腸管、尿道管、尿管、卵管等が挙げられる。膜状組織としては、心膜、硬膜、角膜、皮膚、心膜等が挙げられ、表層を覆うあるいは膜状で機能する平面状の組織である。弁状組織としては、心臓弁、静脈弁等が挙げられる。
【0073】
また、上記実施形態では、凹部15a、15bを第1柱状体5と第2柱状体7に設けたが、いずれか一方に設けてもよい。また、図31に示すように、係止手段11を第1柱状体5側にずらすことにより、弁葉形成部22を第1柱状体5及び第2柱状体7と、膨出体本体17との間に形成してもよい。
【0074】
また、図32に示すように、1又は複数の膨出体本体17の外面に接続される第3の柱状体30を設けてもよい。第3の柱状体30は、膨出体本体17の外面に着脱可能に設けられるのがよい。例えば膨出体本体17に形成した孔に雌ネジを切り、第3の柱状体30の先端に雄ネジを形成することにより、ネジ止めによって着脱可能に設ければよい。第3の柱状体30を膨出体本体17の外面に設けることにより、第3の柱状体30の外周面が膨大部8から分岐する血管内腔の形成面となる
【0075】
また、基材1の表面に凹凸や外郭部材を設けて、生体由来組織の機械的強度をさらに向上させてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 弁付き人工血管形成用基材
2 組織体
3 弁付き人工血管
4 上流側管状部
5 第1柱状体
6 下流側管状部
7 第2柱状体
8 膨大部
9 弁葉
10 膨出体
11 係止手段
12 固定手段
13 貫通孔
15a、15b 凹部
17 膨出体本体
18 係止部
20 膨大部形成面
22 弁葉形成部
23 侵入孔
24 貫通軸
30 第3の柱状体
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠損組織の代替となる弁付き人工血管を形成するための基材、それを用いた弁付き人工血管の生産方法及び弁付き人工血管に関する。
【背景技術】
【0002】
病気や事故で失われた細胞、組織、器官を、人工素材や細胞により再び蘇らせる再生医療の研究が数多くなされている。通常、身体には自己防衛機能があり、体内の浅い位置にトゲ等の異物が侵入した場合には体外へ押し出そうとするが、体内の深い位置に異物が侵入した場合にはその周りに繊維芽細胞が集まってきて、主に繊維芽細胞とコラーゲンからなる結合組織体のカプセルを形成し異物を覆うことにより、体内において隔離することが知られている。このような後者の自己防衛反応を利用して、生体内において生細胞を用いた管状の生体由来組織を形成する方法が複数報告されている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1(特開2007−312821)には、棒状構造体の表面に螺旋状溝を形成し、この棒状構造体を生体内に埋入することにより、棒状構造体の表面に膜状の結合組織体を形成し、結合組織体の機械的強度を増加させる点が開示されている。
【0004】
特許文献2(特開2008−237896)には、棒状構造部材の外周に沿って外郭部材を螺旋形に形成し、これを生体に埋入して、棒状構造部材の外縁に結合組織体を形成する点が開示されている。結合組織体が外郭部材と棒状構造部材の表面との間に侵入し、結合組織体の内面形状が棒状構造部材の表面と同様の平滑面に形成される。結合組織体が、外郭部材を包埋する厚さに形成される。
【0005】
特許文献3(特開2010−094476)には、棒状構造部材の表面に外郭部材を形成し、これを結合組織形成用基材とする点が開示されている。この基材を生体内に埋入することにより、基材表面に膜状の組織体を形成する。その際、外郭部材の材料として、生体適合性に優れるが組織体やその構成成分に侵襲されにくい材料を使用することにより、外郭部材は組織体と癒着し結合組織体の機械的強度が増加されるとともに外郭部材の内面に組織体やその構成成分が露出しない人工血管が得られる。
【0006】
また、上記特許文献1〜3の人工血管よりも構造が複雑化した、例えば大動脈の大動脈洞(バルサルバ洞)のように、血管壁が半径外方向に膨出した膨大部と、その血流方向上流側の内部において半径方向内側に突出して血流方向に開閉する複数の弁葉と、を有する血管の生産も求められている。膨大部は、弁が開く際には血液の逃げ道となり、閉じた時には血液の溜まり場として機能し、弁の開閉を行いやすくすると共に血液の逆流を防ぐ働きをしている。
【0007】
このような膨大部及び弁を備えた弁付き人工血管の作成について、特許文献4に開示されている。特許文献4は、生体適合性ブロックコポリマーを含む人工心臓弁及び血管構造のためのスキャフォールドに関するものである。すなわち、複数のモデルパーツからなるバルブモデル上に、エレクトロスピニグ法によりファイバーを堆積させてメッシュ構造を構築する。そこからモデルパーツを離型することにより、バルブモデルのスキャフォールドが完成する。このスキャフォールドは、ポリマー繊維によって形成されたメッシュ様の構造を有する。スキャフォールド上で細胞(内皮細胞や筋線維芽細胞)を培養すると、メッシュ構造が足場となり、その内部で細胞が成長する。このようにして、弁付き人工血管を形成することができる。
【0008】
また、非特許文献1には、スキャフォールドを用いた弁付き人工血管の作成について開示されている。スキャフォールド(高分子のスポンジ材の型)を作り、そこで細胞培養することにより、弁付き人工血管を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−312821号公報
【特許文献2】特開2008−237896号公報
【特許文献3】特開2010−094476号公報
【特許文献4】特表2009−539439号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Antia Mol,PhDら著、「Autologous Human Tissue−Engineered Heart Valves」、2006年7月4日発行、Circulation、I−152〜158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献4記載及び非特許文献1の弁付き人工血管は、人工的なスキャフォールド(異物)を足場としてその内部に細胞が一体化したものであるため、体内へ移植した後、スキャフォールドが分解されるまでの間、拒絶反応や炎症反応が起こるおそれがある。また、特許文献4及び非特許文献1記載の弁付き人工血管は、人工物を内包しているため、移植後に体の成長に伴って大きくならず、特に小児患者の場合には永久的に使用することが困難であり、再度移植の必要性がある。
【0012】
さらにまた、特許文献4によると、第2モデルパーツの遊離端部分における3つの端面と、これに相補的な第1モデルパーツの遊離端領域における端面との間で弁葉が形成されることになるが、図34に示すように、形成されたスキャフォールド31は各弁葉が連続しているため、後で3枚の弁葉に切断する工程が必要となり手間がかかる(特許文献4の段落0045参照)。
【0013】
本発明は、上記に鑑み、生体組織から構成される膨大部及び弁を備えた弁付き人工血管を形成することのできる基材、これを用いた弁付き人工血管の生産方法及び弁付き人工血管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかる人工血管形成用基材は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体を形成し、組織体を剥離して弁付き人工血管を形成するための基材であって、血管の上流側管状部を形成する第1柱状体と、血管の下流側管状部を形成する第2柱状体と、上流側管状部と下流側管状部の間にあって血管壁が半径外方向に膨出する膨大部、及びその内部において半径方向内側に突出して血流方向に開閉可能な弁葉を形成するための複数の膨出体と、膨出体を第1柱状体および/または第2柱状体に着脱自在に係止する係止手段とを備え、係止手段は、第1柱状体及び第2柱状体の一方又は両方の軸方向端面に形成され軸方向に凹んだ凹部と、膨出体の本体から半径方向内側に張り出して凹部に係止することにより、膨出体が第1柱状体及び第2柱状体に対して半径方向、周方向及び軸方向に位置ずれするのを規制する係止部とを備え、膨出体は、その本体の外周面が膨大部形成面となり、膨出体本体と第1柱状体及び/又は第2柱状体との間に設けられた隙間が弁葉形成部となることを特徴とするものである。第1柱状体及び第2柱状体はその外周面が血管の形成面となるため、その大部分を円柱状とするのが好ましい。
【0015】
このような弁付き人工血管形成用基材を、生体組織材料の存在する環境下に所定期間おいた後(設置工程)、環境下から組織体で被覆された弁付き人工血管形成用基材を取り出し(取り出し工程)、組織体から弁付き人工血管形成用基材を取り出す(分離工程)ことにより、生体組織から構成される膨大部及び弁を有する弁付き人工血管を形成することができる。また、分離工程において、基材の周りに形成された組織体から弁付き人工血管形成用基材を取り出す際には、基材を分解して取り出すことができるので、組織体を傷つけずに簡単に抜き出すことができる。このように形成された弁付き人工血管は、大動脈洞(バルサルバ洞)、肺動脈洞、頚動脈洞、上錐体動脈洞、横静脈洞、下垂体静脈洞等の膨大部及び弁を有する血管に適用可能である。
【0016】
膨出体の係止部は、膨出体本体よりも半径内側方向に飛び出すようにして張り出しているので、係止部が第1柱状体及び/又は第2柱上体の凹部に係止されることにより、膨出体本体が第1柱状体及び第2柱上体の表面から飛び出した状態となる。この膨出体本体の外周面が膨大部形成面となり、膨出体本体と第1柱状体及び/又は第2柱状体との間に設けられた隙間(弁葉形成部)で弁葉を形成することができる。弁葉形成部で1つの完成した弁葉を形成することができるので、切断作業を行わずとも弁葉を完成することができる。
【0017】
係止手段の凹部は、第1柱状体又は第2柱状体のいずれか一方に設けてもよいが、第1柱状体及び第2柱状体の両方に設けて両凹部を重ね合わせ、その重ね合わせた凹部内に膨出体の係止部を収納するようにしてもよい。
【0018】
また、係止手段は係止部を凹部に収納しながら、第1柱状体及び第2柱状体で軸方向上下から挟みこんで係止するようにするのが好ましい。組織体から弁付き人工血管形成用基材を取り出す分離工程において、第1柱状体及び第2柱状体を膨出体から上下に分解して、組織体の内腔より取り出した後、複数の膨出体を内腔から取り出すようにすれば、全ての基材を軸方向に抜き出すことができるので、周囲に形成されている組織体を傷つけずに行うことができる。
【0019】
第1柱状体、第2柱状体及び膨出体を一体的に固定する固定手段を備えるのが好ましい。一体化された第1柱状体、第2柱状体及び膨出体のユニットを、生体組織材料の存在する環境下に安定しておくことができる。
【0020】
固定手段は様々な態様をとることができる。1つの態様として、固定手段は、第1柱状体及び第2柱状体の中心を軸方向に貫通するように形成された貫通孔と、貫通孔を挿通して膨出体の係止部、第1柱状体及び第2柱状体を一体的に固定する貫通軸と、を備える構成とすることができる。貫通軸は、棒状体、ネジ、磁石など貫通孔に挿通可能な構造であればいずれの形態をとってよい。例えば、固定手段は、貫通軸の外周に刻設された雄ネジと、該雄ネジに螺合するよう第1柱状体及び/又は第2柱状体の貫通孔の周面に形成された雌ネジとを備えるように構成すればよい。雄ネジを貫通孔の雌ネジにねじ込めば、膨出体の係止部、第1柱状体及び第2柱状体を一体的に固定することができる。
【0021】
また、2つ目の態様として、固定手段は、第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に形成された雄ネジと、該雄ネジに螺合するよう第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に形成された雌ネジとを備える構成とすることができる。一方の柱状体の雄ネジを他方の柱状体の雌ネジに螺合することにより、両柱状体及び膨出体を一体的に固定することができる。
【0022】
さらに3つ目の態様として、固定手段は、第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に配置された磁性体と、第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に配置され磁性体に吸着する被磁性体とを備える構成とすることができる。一方の柱状体の磁性体に他方の柱状体の被磁性体を吸着させることにより、両柱状体及び膨出体を一体的に固定することができる。
【0023】
4つ目の態様として、固定手段は、第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に配置された係合爪と、該係合爪に係脱自在に係合するよう第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に形成された係合穴とを備える構成とすることができる。一方の柱状体の係合爪を他方の柱状体の係合穴に係合することにより、両柱状体及び膨出体を一体的に固定することができる。
【0024】
弁葉形成部の半径方向の厚みは、0.3〜1.0mmとするのが好ましい。生体における弁葉の厚みは約0.2mmであるが、弁付き人工血管の弁葉を生体と同じ0.2mmとすると、体内へ移植した後、安定するまでの間血流によって弁葉が薄くなって破けてしまい、弁としての機能を損なってしまうおそれがある。そこで、弁葉形成部の厚み、すなわち弁葉の厚みを0.3〜1.0mm、より好ましくは0.3〜0.8mmとすれば、移植後に弁葉が薄くなっても最終的に約0.2mmで落ち着くので、弁の働きを持続させることができる。
【0025】
膨出体本体は、膨出体本体の半径方向外側面と弁葉形成部とを連通して、組織体を弁葉形成部側に侵入しやすくする侵入孔を有するのが好ましい。組織体が弁葉形成部に侵入しやすくなるため、分厚い弁葉の形成を早めることができる。なお、侵入孔の数は1つでもよいし、よりたくさん組織体を侵入させるために複数設けるようにしてもよい。
【0026】
1又は複数の膨出体本体の外面に接続される第3の柱状体を備え、第3の柱状体の外周面が膨大部から分岐する血管の形成面とすることができる。例えば、心臓の血管の場合は、第3の柱状体の周りに形成される血管を冠動脈とすることができる。また、第3の柱状体は、膨出体本体の外面に着脱自在とされるのが好ましい。
【0027】
第1柱状体及び第2柱状体の素材は限定されるものではなくアクリル樹脂などの素材を用いてもよいが、第1柱状体及び/又は第2柱状体の少なくとも表面がシリコーン樹脂等の弾性体であるのが好ましい。弾性体の表面には生体組織による膜が厚く形成されるため、安定した生体組織を形成することができる。
【0028】
基材の表面粗さ(Ra)が、50μm以下とするのが好ましい。表面粗さ(Ra)を50μm以下とすることにより、基材の周囲に形成される組織体の厚みをより厚く形成することができる。表面粗さ(Ra)が0.1μmと、鏡面に近い基材であっても、その周囲に厚みの大きい組織体を形成することができる。なお、平均粗さ(Ra)とは、「算術平均粗さ」のことであり、JIS B 0601−1994「表面粗さ−定義」に規定されている「算術平均粗さ(Ra)」を示す。
【0029】
なお、この基材の表面粗さについては、弁及び膨大部を有する血管に限定されるものではなく、弁又は膨大部を有しない血管を含む管状組織、膜状組織等の結合組織を形成するための基材にも適用することができる。すなわち、本発明は、基材の表面粗さ(Ra)が50μm以下である生体由来組織形成用基材も提供することができる。形成された生体由来組織は、管状組織、膜状組織及び弁状組織を含む結合組織となる。管状組織としては、血管、リンパ管、気管、胆管、腸管、尿道管、尿管、卵管等が挙げられる。膜状組織としては、心膜、硬膜、角膜、皮膚、心膜等が挙げられ、表層を覆うあるいは膜状で機能する平面状の組織である。弁状組織としては、心臓弁、静脈弁等が挙げられる。
【0030】
また、本発明において、「生体組織材料」とは、所望の生体由来組織を形成するうえで必要な物質のことであり、例えば、線維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞、幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の動物細胞、各種たんぱく質類(コラーゲン、エラスチン)、ヒアルロン酸等の糖類、その他、細胞成長因子、サイトカイン等の生体内に存在する各種の生理活性物質が挙げられる。
【0031】
また、本発明において、「生体組織材料」には、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物に由来するもの、又はこれと同等の人工材料が含まれる。また、移植対象者に対して、自家移植、同種移植、異種移植のいずれでもよいが、拒絶反応を避ける観点からなるべく自家移植か同種移植が好ましい。また、異種移植の場合には、拒絶反応を避けるため公知の脱細胞化処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。
【0032】
また、「生体組織材料の存在する環境下」とは、動物(ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物)の生体内(例えば、四肢部、腰部、背部又は腹部などの皮下、もしくは腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において、生体組織材料を含有する人工環境内を表す。また、動物へ埋入の方法をとる場合には低侵襲な方法で行うことと、動物愛護の精神を尊重し、十分な麻酔下で最小限の切開術で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明の弁付き人工血管形成用基材によれば、基材の周りに形成された組織体から弁付き人工血管形成用基材を取り出す際に、基材を分解して取り出すことができるので、組織体を傷つけずに簡単に抜き出すことができる。そして、生体組織から構成される膨大部及び弁を有する弁付き人工血管を形成することができる。
【0034】
また、膨出体本体と第1柱状体及び/又は第2柱状体との間に設けられた隙間(弁葉形成部)で、1つの完成した弁葉を形成することができ、切断作業が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図2のB−B断面図である。
【図4】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の膨出体の正面図である。
【図5】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の膨出体の背面図である。
【図6】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の膨出体の平面図である。
【図7】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の膨出体の底面図である。
【図8】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の膨出体の左側面図である。
【図9】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の膨出体のC−C断面図である。
【図10】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材の組み立て工程を示す図である。
【図11】本発明にかかる弁付き人工血管形成用基材が組織体で被覆された状態の縦断面図である。
【図12】本発明にかかる弁付き人工血管の主要部を示す端面図であって、(a)は弁が開いた状態、(b)は弁が閉じた状態を示す。
【図13】図11のD−D断面図である。
【図14】本発明にかかる弁付き人工血管の一部切断斜視図である。
【図15】図14のE−E断面図である。
【図16】取り出し工程において、生体内から取り出された、組織体で被覆された弁付き人工血管形成用基材を示す写真である。
【図17】図16の組織体で被覆された弁付き人工血管形成用基材の第2柱状体端面を露出させた状態を示す写真である。
【図18】図17の組織体で被覆された弁付き人工血管形成用基材の貫通軸を抜き出す状態を示す写真である。
【図19】第1柱状体及び第2柱状体を抜き出した後、血管を縦に切り開いた状態を示す写真である。
【図20】図19の一部拡大斜視図である。
【図21】縦に切り開いた弁付き人工血管の弁葉を血流の下流側からみた状態を示す写真である。
【図22】縦に切り開いた弁付き人工血管の弁葉を血流の上流側からみた状態を示す写真である。
【図23】弁葉及び膨出部の断面を示す写真である。
【図24】弁葉の動きを下流側からみた状態を示す写真であって、(a)は弁が開いた状態、(b)は弁が半分開いた状態、(c)は弁が閉じた状態を示す。
【図25】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図26】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図27】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図28】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図29】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図30】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図31】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の分解斜視図である。
【図32】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の縦断面図である。
【図33】本発明の他の実施形態にかかる弁付き人工血管形成用基材の斜視図である。
【図34】従来のスキャフォールドを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の弁付き人工血管形成用基材1は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体2を形成し、組織体2を剥離して弁付き人工血管3を形成するための基材である。なお、図15において、2点鎖線は弁葉が閉じた状態を示す仮想線である。また、図19〜図23は血管3の内部構造を見やすくするために切り開いたものであり、実際の生産工程において切り開き作業を行う必要はない。また、血流方向を矢印Bで示す。
【0037】
弁付き人工血管形成用基材1は、図1、図2及び図10に示すように、血管3の血流方向上流側部分である上流側管状部4を形成する第1柱状体5と、血管3の血流方向下流側部分である下流側管状部6を形成する第2柱状体7と、上流側管状部4と下流側管状部6の間にあって血管壁が半径外方向に膨出する膨大部8、及びその内部において半径方向内側に突出して血流方向に開閉可能な弁葉9を形成するための複数の膨出体10と、膨出体10を第1柱状体5および第2柱状体7に着脱自在に係止する係止手段11と、第1柱状体5、第2柱状体7及び膨出体10を一体的に固定する固定手段12を備える。
【0038】
弁付き人工血管形成用基材1の材料は、生体に埋入した際に大きく変形することが無い強度(硬度)を有しており、化学的安定性があり、滅菌などの負荷に耐性があり、生体を刺激する溶出物が無いまたは少ない樹脂が好ましく、例えばシリコーン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられるがこれに限定されるものではない。なお、弾性の高いシリコーン樹脂等の弾性体を用いると、その表面に形成される組織体2の厚みが厚くなる傾向がある。したがって、弁付き人工血管形成用基材1の全て、または、少なくとも組織体2と接触する第1柱状体5、第2柱状体7及び膨出体10の表面をシリコーン樹脂等の弾性体から構成するのが好ましい。
【0039】
また、弁付き人工血管形成用基材1の表面粗さ(Ra)は、0.1〜50μmとされる。基材1の表面粗さ(Ra)が90μmのとき、その基材1表面に形成される組織体2の厚みは40.9±10.5μm、基材1の表面粗さ(Ra)が50μmのとき、その基材1表面に形成される組織体2の厚みは124.4±17.4μm、基材1の表面粗さ(Ra)が20μmのとき、その基材1表面に形成される組織体2の厚みは157.4±39.5μmとなった。したがって、弁付き人工血管形成用基材1の表面粗さ(Ra)を50μm以下とすれば、その基材1表面に形成される組織体2の厚みが十分に厚いものとなり好ましい。組織体2の厚みが厚ければ、形成される血管3の自立性が高まり、生体内の血管との吻合操作が行いやすい。本実施形態においては、基材1の表面粗さ(Ra)を20μmとした。
【0040】
第1柱状体5は、シリコーン樹脂製、第2柱状体7は、アクリル樹脂製の円柱状に形成され、それぞれ外径20mm、全長約30mmとされる。また、第1柱状体5及び第2柱状体7の各中心部分には、直径10mm程度の貫通孔13が形成される。第1柱状体5及び第2柱状体7は、半径外方向に突出する部材がなく、その外周面が人工血管3の管状部の内腔面を形成する。第1柱状体5及び第2柱状体7の表面には軸方向に延びる浅い細溝14が複数形成されている。細溝14により組織体2を引き抜くときに空気が入るため、抜きやすくなる。なお、第1柱状体5及び第2柱状体7の外径により血管3の太さが決定されるため、目的の太さによってその直径を変更可能である。
【0041】
第1柱状体5及び第2柱状体7は、それぞれの合わせ面側の端面に、軸方向に凹んだ凹部15a、15bが複数形成される。凹部15a、15bは、弁葉9の数に合わせて本実施形態においては3つずつ形成され、第1柱状体5及び第2柱状体7の間で対応する位置に形成される。また、凹部15a、15bは、半径内方向側が幅広に形成された係止溝16を有する。
【0042】
膨出体10は、アクリル樹脂製であり、図4〜図9に示すように、膨出体本体17と、膨出体本体17から半径方向内側に張り出した係止部18とから構成される。膨出体10は、弁葉9の数に合わせて本実施形態においては3つ設けられる。係止部18は、膨出体本体17よりも半径内側方向に飛び出すようにして張り出しており、これが第1柱状体5の凹部15aと第2柱状体7の凹部15bとを重ね合わせた部分に係止されることにより、膨出体本体17が第1柱状体5及び第2柱状体7の表面から飛び出した状態となる。
【0043】
係止部18は、図10に示すように、第1柱状体5の凹部15aと第2柱状体7の凹部15bとを重ね合わせた部分の形状と相補的な形状に形成される。したがって、膨出体10が第1柱状体5及び第2柱状体7に対して周方向及び軸方向に位置ずれするのを規制する。また、係止部18は、その半径内側の先端がフランジ状に拡大した幅広部19を備えており、この幅広部19が凹部15a、15bの係止溝16に嵌まることにより、膨出体10が第1柱状体5及び第2柱状体7に対して半径方向に位置ずれするのを規制する。
【0044】
膨出体本体17は、図3に示すように、第1柱状体5及び第2柱状体7の側方へ膨出するような湾曲面を有しており、この湾曲した外周面が膨大部8の内腔面を形作る膨大部形成面20となる。膨出体本体17は、図4及び図5に示すように、その上流側縁がU字状に湾曲して形成される。3つの膨出体本体17は、図3に示すように、周方向にわたって連続するように設けられる。また、膨出体本体17は、係止部18の下縁(上流側縁)よりも上側(血流方向下流側)の部位17aは、第1柱状体5及び第2柱状体7と密着可能とされる。この構造によって、第1柱状体5と第2柱状体7との間の隙間を覆い隠すことができ、隙間への組織体2の余分な侵入を防止できる。なお、図33に示すように、膨出体本体17で第1柱状体5と第2柱状体との境界を周方向にわたって覆うようにしてもよい。この構造によると、第1柱状体5及び第2柱状体7の隙間を全て覆い隠すことができる。
【0045】
また、図2、図5、図9及び図11に示すように、膨出体本体17の上側の部位17aは第1柱状体5及び第2柱状体7と密着しているが、その下部(上流側)が薄肉となるように段落ちしており、この段落ち部分21と第1柱状体5との間に設けられた隙間が弁葉形成部22となる。図12(a)、(b)に示すように、この弁葉形成部22に形成された組織体2は半径外内方向へ往復動することにより、弁葉9として機能することができる。
【0046】
また、図5に示すように、段落ち部分21の下流側縁21aは、弁葉9の下流側縁(先端形状)を形作る。その段落ち部分21の下流側縁21aは弁葉下流側へ向かって尖った形状に形成されているため、弁葉9の先端も尖った角形状となる。弁葉形成部22の半径方向の厚みは、0.3〜1.0mm、より好ましくは0.3〜0.8mmとするのが好ましい。
【0047】
弁葉9は、膨出体本体17の下縁(上流側縁)と第1柱状体5との隙間22から侵入する組織体2によって形成されるが、厚みのある弁葉9をより短期間に形成するために、図25に示すように、膨出体本体17に半径方向に貫通した侵入孔23を形成してもよい。侵入孔23によって、膨出体本体17の半径方向外側面と弁葉形成部22とを連通させることができるので、組織体2を弁葉形成部22側に侵入させやすくなる。侵入孔23の数は単数でもよいが、複数形成した方が組織体2を弁葉形成部22へ侵入させやすいので好ましい。なお、侵入孔23を設けた場合は、基材1の表面に形成された組織体2から膨出体10を抜き出す際には、侵入孔23の少なくとも片側で組織体2を切断する必要がある。また、侵入孔23の口径は0.5〜1.0mmとすることが望ましい。0.5mmよりも小さいと細胞の侵入が困難となり、1.0mmよりも大きいと組織体2を切断するのが困難になるためである。
【0048】
また、弁葉形成部22(すなわち、膨出体本体17の内面と、これに対応する第1柱状体5の表面の形状)は円弧状に形成される。弁葉9を半径外内方向へ往復動させやすい。
【0049】
係止手段11は、上記第1柱状体5及び第2柱状体7の軸方向端面に形成され軸方向に凹んだ凹部15a、15bと、上記膨出体10の係止部18とから構成され、図10に示すように、係止部18を第1柱状体5の凹部15aと第2柱状体7の凹部15bとを重ね合わせた部分に収納しながら、第1柱状体5及び第2柱状体7で軸方向上下から挟みこんで係止することにより、膨出体10を第1柱状体5および第2柱状体7に着脱自在に係止する。なお、係止手段11の構成は、膨出体10が第1柱状体5及び第2柱状体7に対して半径方向、周方向及び軸方向のいずれの方向にも位置ずれするのを規制する構造であれば、上記形態に限定されるものではない。
【0050】
固定手段12は、第1柱状体5及び第2柱状体7の中心を軸方向に貫通するように形成された上記の貫通孔13と、貫通孔13を挿通して膨出体10の係止部18、第1柱状体5及び第2柱状体7を一体的に固定する貫通軸24とを備える。
【0051】
貫通軸24は、アクリル樹脂製であり、図2及び図10に示すように、第1柱状体5及び第2柱状体7の貫通孔13と相補的に形成された円柱状の軸部25と、軸部25が立設される円板状の軸台26と、貫通軸24の固定をロックするロック部27と、から構成される。軸台26の外径は、第1柱状体5及び第2柱状体7の外径と同一とされ、軸台26の外周面が弁付き人工血管3の内腔面の一部を形成する。ロック部27は、軸部25の先端側に形成されたロック孔28と、該ロック孔28に貫通可能な挿入体29とから構成され、軸部25を貫通孔13に通した後、その先端のロック孔28に挿入体29を挿入することにより、挿入体29と軸台26とで第1柱状体5、第2柱状体7及び膨出体10とを挟み込んで固定することができる。このように、固定手段12にて、第1柱状体5、第2柱状体7及び膨出体10を完全に固定することにより、それぞれの合わせ面や、貫通孔13内に組織体2が形成されないですむ。
【0052】
次に、上記のような弁付き人工血管形成用基材1を用いて弁付き人工血管3を生産する方法について説明する。生産方法は、生体組織材料の存在する環境下におく「設置工程」と、環境下から組織体2で被覆された弁付き人工血管形成用基材1を取り出す「取り出し工程」と、組織体2から弁付き人工血管形成用基材1を取り出す「分離工程」とからなる。
【0053】
<設置工程>
まず、弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料の存在する環境下へ置く。生体組織材料の存在する環境下とは、動物の生体内(例えば、皮下や腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において生体組織材料が浮遊する溶液中等の人工環境内が挙げられる。生体組織材料としては、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ヒツジなどの他の哺乳類動物由来のものや、鳥類、魚類、その他の動物由来のもの、又は人工材料を用いることもできる。
【0054】
弁付き人工血管形成用基材1を動物に埋入する場合には、十分な麻酔下で最小限の切開術で行い、埋入後は傷口を縫合する。弁付き人工血管形成用基材1の埋入部位としては例えば、結合組織形成用基材1を受け入れる容積を有する腹腔内、あるいは四肢部、賢部又は背部、腹部などの皮下が好ましい。また、埋入には低侵襲な方法で行うことと動物愛護の精神を尊重し、十分な麻酔下で最小限の切開術で行うことが好ましい。
【0055】
また、弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料の存在する環境下へ置く場合には、種々の培養条件を整えてクリーンな環境下で公知の方法に従って細胞培養を行えばよい。
【0056】
<取り出し工程>
所定時間の設置工程に置いた後、弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料の存在する環境下から取り出す取り出し工程を行う。生体組織材料の存在する環境下から取り出された弁付き人工血管形成用基材1は、全体を生体組織による膜に覆われている(図16)組織体2は、繊維芽細胞とコラーゲンなどの細胞外マトリックスで構成され、組織体2は弁付き人工血管形成用基材1の外周表面に癒着しているが、基材1の内側には侵入していない。
【0057】
<分離工程>
そして、分離工程において、一端側の生体組織を取り除き(図17)、ロック孔28から挿入体29を引き抜いてロック部27によるロック状態を解除する。そして、他端側の生体組織を取り除いた後、軸台26をもって軸部25を第1柱状体5及び第2柱状体7の貫通軸24から抜き出す(図18)。第1柱状体5及び第2柱状体7を膨出体10から軸方向上下に分解して、それぞれを組織体2の内腔の上下端から抜き出す。
【0058】
次に、3つの膨出体10を抜き出す。図19及び図20の血管3を縦に切り開いた状態を示す写真に示すように、膨出体10は、弁葉形成部22と膨大部8との間のポケットに収納されている状態となっている。この膨出体10を下流側へ抜き出すことにより、生体組織から構成される弁付き人工血管3を生産することができる。剥離された組織体2の内面は、基材1の表面に接しているので平滑になる。
【0059】
弁付き人工血管3は、図13〜図15に示すように、膨出体10の外周面の膨大部形成面20によって、半径外方向に向かってこぶ状に膨出した膨大部8が形成される。そして、図21〜図23に示すように、膨大部8の内部において上流側部分に、ポケット状の構造が形成されることにより、そのポケット片が弁葉9となる。3枚の弁葉9が膨らんでその下流側(開放側)の端部が互いに近づいた状態が弁の閉じた状態であり(図15の仮想線部分、図24(c))、3枚の弁葉9がしぼんでその下流側の端部が互いに離れていき(図24(b))、膨大部8の壁面に近づいた状態が弁の全開した状態(図15の実線部分、図24(a))となる。
【0060】
また、弁葉9の厚みが0.3〜1.0mmである。生体における弁葉9の厚みは約0.2mmであるので、通常であれば弁葉形成部22の厚みは生体と同じ0.2mmとすればよいのであるが、厚み0.2mmの弁葉9を有する弁付き人工血管3を体内へ移植すると、安定するまでの間血流によって0.2mmよりも薄くなって破けてしまい、弁としての機能を損なってしまう。そこで、弁葉形成部22の厚みを0.3〜1.0mmとすることにより、移植後に弁葉9が薄くなっても最終的に約0.2mmで落ち着くので、弁の働きを持続させることができる。
【0061】
また、第1柱状体5がシリコーン樹脂製であるので、その周りに形成される組織体2、特に弁葉9が厚く形成される。また、基材1の表面粗さ(Ra)が50μm以下とされているので、基材1表面に形成される組織体2が厚く形成される。したがって、組織体2は自立して管形状を維持することができることから、人工血管3として生体と縫合する時に吻合部位が開口した状態で、吻合操作を行いやすい。
【0062】
以上の説明のとおり、人工血管形成用基材1と組織体2との分離は、第1柱状体5及び第2柱状体7を膨出体10から上下に分解して、組織体2の内腔より取り出した後、複数の膨出体10を内腔から取り出すことにより、簡単に行うことができる。分解して取り出すことができるので、組織体2を傷つけないですむ。また、形成された弁付き人工血管3は、弁葉形成部22で1つの完成した弁葉9を形成することができるので、切断作業を行わずとも弁葉9を完成することができる。
【0063】
生産された人工血管形成用基材1を異種移植する場合には、移植後の拒絶反応を防ぐため、脱細胞処理、脱水処理、固定処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。脱細胞処理としては、超音波処理や界面活性剤処理、コラゲナーゼなどの酵素処理によって細胞外マトリックスを溶出させて洗浄する等の方法があり、脱水処理の方法としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶媒で洗浄する方法があり、固定処理する方法としては、グルタアルデヒドやホルムアルデヒドなどのアルデヒド化合物で処理する方法がある。
【0064】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正及び変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、第1柱状体5及び第2柱状体7の各中心部分に貫通孔13を形成したが、図26に示すように、第1柱状体5及び第2柱状体7の中心よりずれた位置に貫通孔13を形成してもよい。また、第1柱状体5(又は第2柱状体7)から突出部5aを突出させ、第2柱状体7(又は第1柱状体5)に陥没部7aを設けてもよい。突出部5aを陥没部7aに挿入して嵌合させることにより、第1柱状体5及び第2柱状体7の軸と直交する方向へのずれを防止することができる。
【0065】
また、図26に示すように、固定手段12の貫通軸24は、軸部25と、軸部25の両端を固定するロック部とから構成してもよい。ロック部は、軸部25の両端に形成された雄ネジと、ナット27aとから構成される。第1柱状体5及び第2柱状体7の貫通孔13に軸部25を挿通した後に、軸部25の両端からナット27aで締め上げることにより、2つの案ット27aの間で第1柱状体5、膨出体10及び第2柱状体7を一体的に固定することができる。
【0066】
また、図27に示すように、固定手段12は、貫通軸24の軸部25の外周に刻設された雄ネジと、第1柱状体5及び/又は第2柱状体7の貫通孔13の周面に形成された雌ネジとから構成してもよい。この構成によれば、上記ロック部27が不要となり、部品点数を減らすことができる。すなわち、第2柱状体7の貫通孔13の周面の一部又は全部に雌ネジを設け、雌ネジの形成されていない第1柱状体5側から貫通孔13に軸部25を挿入して、第2柱状体7の貫通孔13においてネジ止めを行えば、軸台26と第2柱状体7とで第1柱状体5及び膨出体10を挟み込んで固定することができる。なお、第2柱状体7ではなく第1柱状体5に雌ネジを設ける構成としてもよいし、第1柱状体5及び第2柱状体7の両方に雌ネジを設ける構成としてもよい。
【0067】
また、図28に示すように、固定手段12は、第2柱状体7に形成された雄ネジと、該雄ネジに螺合するよう第1柱状体5に形成された雌ネジとを備える構成とすることができる。第2柱状体7の雄ネジを第1柱状体5の雌ネジに螺合することにより、第1柱状体5、第2柱状体7及び膨出体10を一体的に固定することができる。なお、雄ネジを第1柱状体5に設け、雌ネジを第2柱状体7に設ける構成としてもよい。
【0068】
また、固定手段12は、第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に配置された磁性体と、第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に配置され磁性体に吸着する被磁性体とを備える構成とすることができる。例えば、図29に示すように、第1柱状体5(又は第2柱状体7)に磁性体12aを設け、第2柱状体7(又は第1柱状体5)に被磁性体12b設けることにより、磁性体12aと被磁性体12bとが吸着し、第1柱状体5、第2柱状体7及び膨出体10を一体的に固定することができる。このとき、磁性体12a及び被磁性体12bをそれぞれ第1柱状体5及び第2柱状体7の端面に設けてもよいが、磁性体12aを第1柱状体5(又は第2柱状体7)から突出する突部5bの先端に設け、被磁性体12bを第2柱状体7(又は第1柱状体5)に形成した嵌合凹部7bの底に設ける構成とすれば、第1柱状体5の突部5bを第2柱状体7の嵌合凹部7bに挿入することにより、その固定をより強固なものとすることができる。
【0069】
さらにまた、図30に示すように、固定手段12は、第1柱状体5(又は第2柱状体7)に配置された先端が折曲した係合爪5cと、第2柱状体7(第1柱状体5)に形成された係合穴7cとを備える構成とすることができる。係合穴7は止め構造7dを有しており、第1柱状体5の係合爪5cを第2柱状体7の係合穴7cに挿入した後、第1柱状体5を軸周りにXからY方向に90度回転させることにより、係合爪5cの先端の折曲部分が係合穴7cの止め構造7dにひっかかる。このような構造により第1柱状体5を第2柱状体7に係脱自在に係合することができる。なお、係合穴を第1柱状体5に設け、係合爪を第2柱状体7に設ける構成としてもよい。
【0070】
また、図30に示すように、第1柱状体5及び第2柱状体7の内部に設けられた薬剤収容用の空洞部32と、空洞部32の開口を開閉自在とする蓋33と、空洞部32から半径外方向に延び各柱状体5、7の外面へ開口する浸出路34とを設ける構成としてもよい。空洞部32の開口から薬剤を入れた後、蓋33を閉めた状態で弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料が存在する環境下へ置くと、空洞部32内の薬剤を浸出路34を通して基材1の外部へ浸み出させることができる。浸出路34の口径は0.5mm以下とすることが望ましい。0.5mm以下とすると、浸出路34へ細胞が侵入しにくい。
【0071】
薬剤の種類としては、組織体2の形成を促進させるもの、たとえば、内皮細胞増殖促進剤(血管新生因子HFG、VEGF、bFGFなど)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0072】
なお、上記の空洞部32及び浸出路34を備えた構造は、弁及び膨大部を有する血管に限定されるものではなく、弁又は膨大部を有しない血管を含む管状組織、膜状組織等の結合組織を形成するための基材にも適用することができる。すなわち、本発明は、基材を構成する構造体の内部に設けられた薬剤収容用の空洞部と、空洞部の開口を開閉自在とする蓋と、空洞部から構造体の外方へ延び、構造体の外面へ開口する浸出路とを設けた基材も提供することができる。形成された生体由来組織は、管状組織、膜状組織及び弁状組織を含む結合組織となる。管状組織としては、血管、リンパ管、気管、胆管、腸管、尿道管、尿管、卵管等が挙げられる。膜状組織としては、心膜、硬膜、角膜、皮膚、心膜等が挙げられ、表層を覆うあるいは膜状で機能する平面状の組織である。弁状組織としては、心臓弁、静脈弁等が挙げられる。
【0073】
また、上記実施形態では、凹部15a、15bを第1柱状体5と第2柱状体7に設けたが、いずれか一方に設けてもよい。また、図31に示すように、係止手段11を第1柱状体5側にずらすことにより、弁葉形成部22を第1柱状体5及び第2柱状体7と、膨出体本体17との間に形成してもよい。
【0074】
また、図32に示すように、1又は複数の膨出体本体17の外面に接続される第3の柱状体30を設けてもよい。第3の柱状体30は、膨出体本体17の外面に着脱可能に設けられるのがよい。例えば膨出体本体17に形成した孔に雌ネジを切り、第3の柱状体30の先端に雄ネジを形成することにより、ネジ止めによって着脱可能に設ければよい。第3の柱状体30を膨出体本体17の外面に設けることにより、第3の柱状体30の外周面が膨大部8から分岐する血管内腔の形成面となる
【0075】
また、基材1の表面に凹凸や外郭部材を設けて、生体由来組織の機械的強度をさらに向上させてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 弁付き人工血管形成用基材
2 組織体
3 弁付き人工血管
4 上流側管状部
5 第1柱状体
6 下流側管状部
7 第2柱状体
8 膨大部
9 弁葉
10 膨出体
11 係止手段
12 固定手段
13 貫通孔
15a、15b 凹部
17 膨出体本体
18 係止部
20 膨大部形成面
22 弁葉形成部
23 侵入孔
24 貫通軸
30 第3の柱状体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体を形成し、該組織体を剥離して弁付き人工血管を形成するための基材であって、
血管の上流側管状部を形成する第1柱状体と、血管の下流側管状部を形成する第2柱状体と、上流側管状部と下流側管状部の間にあって血管壁が半径外方向に膨出する膨大部、及びその内部において半径方向内側に突出して血流方向に開閉可能な弁葉を形成するための複数の膨出体と、前記膨出体を第1柱状体および/または第2柱状体に着脱自在に係止する係止手段とを備え、
前記係止手段は、前記第1柱状体及び第2柱状体の一方又は両方の軸方向端面に形成され軸方向に凹んだ凹部と、前記膨出体の本体から半径方向内側に張り出し前記凹部に係止することにより、前記膨出体が前記第1柱状体及び前記第2柱状体に対して半径方向、周方向及び軸方向に位置ずれするのを規制する係止部とを備え、
前記膨出体は、その本体の外周面が膨大部形成面となり、前記膨出体本体と第1柱状体及び/又は第2柱状体との間に設けられた隙間が弁葉形成部となることを特徴とする弁付き人工血管形成用基材。
【請求項2】
前記第1柱状体及び第2柱状体は円柱状であることを特徴とする請求項1に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項3】
前記係止手段は、前記係止部を前記凹部に収納しながら、前記第1柱状体及び第2柱状体で軸方向上下から挟みこんで係止することを特徴とする請求項1又は2に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項4】
前記第1柱状体、前記第2柱状体及び前記膨出体を一体的に固定する固定手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項5】
前記固定手段は、前記第1柱状体及び前記第2柱状体の中心を軸方向に貫通するように形成された貫通孔と、該貫通孔を挿通して前記膨出体の係止部、前記第1柱状体及び前記第2柱状体を一体的に固定する貫通軸と、を備えることを特徴とする請求項4に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項6】
前記固定手段は、前記貫通軸の外周に刻設された雄ネジと、該雄ネジに螺合するよう前記第1柱状体及び/又は第2柱状体の前記貫通孔の周面に形成された雌ネジとを備えることを特徴とする請求項5に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項7】
前記固定手段は、前記第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に形成された雄ネジと、該雄ネジに螺合するよう前記第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に形成された雌ネジとを備えることを特徴とする請求項4に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項8】
前記固定手段は、前記第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に配置された磁性体と、前記第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に配置され前記磁性体に吸着する被磁性体とを備えることを特徴とする請求項4に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項9】
前記固定手段は、前記第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に配置された係合爪と、該係合爪に係脱自在に係合するよう前記第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に形成された係合穴とを備えることを特徴とする請求項4に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項10】
前記弁葉形成部の半径方向の厚みが、0.3〜1.0mmとされたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項11】
前記膨出体本体は、膨出体本体の半径方向外側面と前記弁葉形成部とを連通して、組織体を弁葉形成部側に侵入しやすくする侵入孔を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項12】
1又は複数の前記膨出体本体の外面に接続される第3の柱状体を備え、前記第3の柱状体の外周面が前記膨大部から分岐する血管の形成面となることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項13】
前記第1柱状体及び/又は前記第2柱状体の少なくとも表面がシリコーン樹脂等の弾性体であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項14】
基材の表面粗さ(Ra)が、50μm以下であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材を、生体組織材料の存在する環境下におく設置工程と、前記環境下から組織体で被覆された前記弁付き人工血管形成用基材を取り出す取り出し工程と、前記組織体から前記弁付き人工血管形成用基材を取り出す分離工程とからなり、
前記分離工程は、前記第1柱状体及び第2柱状体を前記膨出体から上下に分解して、前記組織体の内腔より取り出した後、複数の前記膨出体を前記内腔から取り出すことを特徴とする弁付き人工血管の生産方法。
【請求項16】
血管の管状部と、血管壁が半径外方向に膨出する膨大部と、該膨大部の内部において半径方向内側に突出して血流方向に開閉可能な弁葉とを備え、前記弁葉の厚みが0.3〜1.0mmであることを特徴とする弁付き人工血管。
【請求項1】
生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体を形成し、該組織体を剥離して弁付き人工血管を形成するための基材であって、
血管の上流側管状部を形成する第1柱状体と、血管の下流側管状部を形成する第2柱状体と、上流側管状部と下流側管状部の間にあって血管壁が半径外方向に膨出する膨大部、及びその内部において半径方向内側に突出して血流方向に開閉可能な弁葉を形成するための複数の膨出体と、前記膨出体を第1柱状体および/または第2柱状体に着脱自在に係止する係止手段とを備え、
前記係止手段は、前記第1柱状体及び第2柱状体の一方又は両方の軸方向端面に形成され軸方向に凹んだ凹部と、前記膨出体の本体から半径方向内側に張り出し前記凹部に係止することにより、前記膨出体が前記第1柱状体及び前記第2柱状体に対して半径方向、周方向及び軸方向に位置ずれするのを規制する係止部とを備え、
前記膨出体は、その本体の外周面が膨大部形成面となり、前記膨出体本体と第1柱状体及び/又は第2柱状体との間に設けられた隙間が弁葉形成部となることを特徴とする弁付き人工血管形成用基材。
【請求項2】
前記第1柱状体及び第2柱状体は円柱状であることを特徴とする請求項1に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項3】
前記係止手段は、前記係止部を前記凹部に収納しながら、前記第1柱状体及び第2柱状体で軸方向上下から挟みこんで係止することを特徴とする請求項1又は2に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項4】
前記第1柱状体、前記第2柱状体及び前記膨出体を一体的に固定する固定手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項5】
前記固定手段は、前記第1柱状体及び前記第2柱状体の中心を軸方向に貫通するように形成された貫通孔と、該貫通孔を挿通して前記膨出体の係止部、前記第1柱状体及び前記第2柱状体を一体的に固定する貫通軸と、を備えることを特徴とする請求項4に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項6】
前記固定手段は、前記貫通軸の外周に刻設された雄ネジと、該雄ネジに螺合するよう前記第1柱状体及び/又は第2柱状体の前記貫通孔の周面に形成された雌ネジとを備えることを特徴とする請求項5に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項7】
前記固定手段は、前記第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に形成された雄ネジと、該雄ネジに螺合するよう前記第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に形成された雌ネジとを備えることを特徴とする請求項4に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項8】
前記固定手段は、前記第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に配置された磁性体と、前記第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に配置され前記磁性体に吸着する被磁性体とを備えることを特徴とする請求項4に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項9】
前記固定手段は、前記第1柱状体及び第2柱状体のうちの一方に配置された係合爪と、該係合爪に係脱自在に係合するよう前記第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に形成された係合穴とを備えることを特徴とする請求項4に記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項10】
前記弁葉形成部の半径方向の厚みが、0.3〜1.0mmとされたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項11】
前記膨出体本体は、膨出体本体の半径方向外側面と前記弁葉形成部とを連通して、組織体を弁葉形成部側に侵入しやすくする侵入孔を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項12】
1又は複数の前記膨出体本体の外面に接続される第3の柱状体を備え、前記第3の柱状体の外周面が前記膨大部から分岐する血管の形成面となることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項13】
前記第1柱状体及び/又は前記第2柱状体の少なくとも表面がシリコーン樹脂等の弾性体であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項14】
基材の表面粗さ(Ra)が、50μm以下であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の弁付き人工血管形成用基材を、生体組織材料の存在する環境下におく設置工程と、前記環境下から組織体で被覆された前記弁付き人工血管形成用基材を取り出す取り出し工程と、前記組織体から前記弁付き人工血管形成用基材を取り出す分離工程とからなり、
前記分離工程は、前記第1柱状体及び第2柱状体を前記膨出体から上下に分解して、前記組織体の内腔より取り出した後、複数の前記膨出体を前記内腔から取り出すことを特徴とする弁付き人工血管の生産方法。
【請求項16】
血管の管状部と、血管壁が半径外方向に膨出する膨大部と、該膨大部の内部において半径方向内側に突出して血流方向に開閉可能な弁葉とを備え、前記弁葉の厚みが0.3〜1.0mmであることを特徴とする弁付き人工血管。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図7】
【図8】
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【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2012−105860(P2012−105860A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257821(P2010−257821)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(390010744)新幹工業株式会社 (15)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(390010744)新幹工業株式会社 (15)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【Fターム(参考)】
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